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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1274259
審判番号 不服2012-8121  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-07 
確定日 2013-05-15 
事件の表示 特願2005- 6904「半導体装置及びその作製方法並びに重水素処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 7月27日出願公開,特開2006-196713〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成17年1月13日の出願であって,平成22年12月28日付けで拒絶理由が通知され,平成23年3月14日に手続補正がされ,同年9月22日付けで最後の拒絶理由が通知され,同年11月22日に手続補正がされ,平成24年2月24日付けで,平成23年11月22日にされた手続補正が却下されるとともに,同日付けで拒絶査定がされ,これに対して,同年5月7日に審判請求がされるとともに,手続補正がされたものである。
その後,平成24年7月24日付けで審尋がされ,これに対して回答はなかったものである。

第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成24年5月7日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1. 本件補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲を補正するものであり,特許請求の範囲は補正の前後で以下のとおりである。

〈補正前〉
「【請求項1】
半導体基板上にゲート絶縁膜を形成する工程を含む半導体装置の作製法において,半導体基板上にゲート絶縁膜を形成した後に,前記半導体基板の近傍に熱触媒体を配置し,重水素を含むガスを前記熱触媒体の近傍を通過させるようにして,加熱された熱触媒体表面での熱触媒作用により活性化した重水素を生成させ,当該活性化した重水素を前記半導体基板に供給することを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項2】
半導体基板上にゲート絶縁膜を形成する工程を含む半導体装置の作製法において,半導体基板上にゲート絶縁膜を形成する工程及びアルミニウムを含む材料によりゲート電極膜を形成する工程の後に,前記半導体基板の近傍に熱触媒体を配置し,重水素を含むガスを前記熱触媒体の近傍を通過させるようにして,加熱された熱触媒体表面での熱触媒作用により活性化した重水素を生成させ,当該活性化した重水素を前記半導体基板に供給することを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の半導体装置の作製法において,ゲート絶縁膜と半導体基板の界面近傍での重水素元素濃度が1x10^(19)cm^(-3)以上であることを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載の半導体装置の作製法において,半導体基板は,シリコンカーバイド領域を含む半導体基板であることを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項5】
請求項1?4のいずれかに記載の半導体装置の作製法において,化学気相法によりシリコン酸化膜から選択した1の膜又は2以上の複合膜からなるゲート絶縁膜を形成することを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載の半導体装置の作製方法において,熱触媒体は,タングステン,モリブデン,タンタル,チタン,バナジウムから選択した1の金属又はこれらを主成分とする合金であることを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項7】
請求項1?6のいずれかに記載の半導体装置の作製方法において,半導体基板の温度を600°C以下に維持して行うことを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項8】
請求項7に記載の半導体装置の作製方法において,熱触媒体を1000°Cから1800°Cの予め決められた温度に加熱し,熱触媒体表面での熱触媒作用により重水素を含むガスから活性化した重水素を生成させることを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項9】
請求項8に記載の半導体装置の作製方法において,重水素を含むガス圧力が1Pa?100Paであることを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項10】
請求項9に記載の半導体装置の作製方法において,高温に加熱された熱触媒体表面での熱触媒作用により重水素を含むガスから生成された活性化した重水素を1分間?3時間の予め決められた時間供給することを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項11】
請求項10に記載の半導体装置の作製方法において,ゲート絶縁膜を有する半導体基板と熱触媒体との間が10mm?120mmの予め決められた距離に配置されていることを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項12】
請求項1?11のいずれかに記載の半導体装置の作製方法において,ゲート酸化膜を形成する工程と,熱触媒体により活性化した重水素を半導体基板に供給して重水素処理する工程との間に,酸素雰囲気中で熱処理する工程あるいは不活性ガス雰囲気中で熱処理する工程を含むことを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項13】
請求項12に記載の半導体装置の作製方法において,酸素雰囲気中あるいは不活性ガス雰囲気中で熱処理する工程と,熱触媒体により活性化した重水素を半導体基板に供給して重水素処理する工程との間に,H_(2)O(水)を含んだ水蒸気雰囲気中で熱処理する工程を含むことを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項14】
請求項12に記載の半導体装置の作製方法において,酸素雰囲気中あるいは不活性ガス雰囲気中で熱処理する工程と,熱触媒体により活性化した重水素を半導体基板に供給して重水素処理する工程との間に,NO,N_(2)O,あるいはNO_(2)を含んだ雰囲気中で熱処理する工程を含むことを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項15】
請求項1?14のいずれかに記載の半導体装置の作製方法において,半導体基板表面の洗浄工程を含むことを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項16】
請求項15に記載の半導体装置の作製方法において,半導体基板表面の洗浄工程に酸化処理を含むことを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項17】
請求項15又は16に記載の半導体装置の作製方法において,半導体基板表面の洗浄工程に紫外光の照射を伴うオゾン暴露処理を含むことを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項18】
請求項1?17のいずれかに記載の半導体装置の作製方法に含まれる工程に加えて,さらに,層間絶縁膜を形成する工程と,配線層を形成する工程と,配線層を保護する絶縁膜を形成する工程を含み,活性化した重水素をこれらの膜又は層の界面に適用することを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項19】
請求項1?18のいずれかに記載の半導体装置の作製方法を用いて作製された,半導体基板とゲート絶縁膜,層間絶縁膜,配線層,保護絶縁膜等の半導体装置に形成される膜又は層の界面近傍での重水素元素濃度が1x10^(19)cm^(-3)以上であることを特徴とする金属-絶縁膜-半導体(MIS)構造を有する半導体装置。
【請求項20】
請求項19において,半導体基板は,シリコンカーバイド領域を含む半導体基板であることを特徴とする半導体装置。
【請求項21】
請求項19又は20に記載の半導体装置において,ゲート絶縁膜が,シリコン酸化膜から選択した1の膜又は2以上の複合膜であることを特徴とする半導体装置。
【請求項22】
ゲート絶縁膜を有する半導体基板を所定位置に配置することができるチャンバーと,所定の位置に配置された半導体基板を予め決められた温度に調整することができる加熱手段と,所定位置に配置された半導体基板の表面近傍に設けられた熱触媒体と,熱触媒体を所定温度に加熱する加熱手段と,チャンバー内を減圧状態にできる真空排気系と,重水素を含むガスをチャンバー内に導入するガス導入系と,チャンバー内の重水素を含むガスの圧力調整機構を備え,重水素を含むガスを熱触媒体の表面付近を通過させ,加熱された熱触媒体表面での熱触媒作用により生成された活性化した重水素を半導体基板の表面に供給することを特徴とする重水素処理装置。
【請求項23】
請求項22に記載の重水素処理装置において,半導体基板は,シリコンカーバイド領域を含む半導体基板であるであることを特徴とする重水素処理装置。
【請求項24】
請求項22又は23に記載の重水素処理装置において,熱触媒体は,タングステン,モリブデン,タンタル,チタン,バナジウムから選択した1の金属又はこれらを主成分とする合金であることを特徴とする重水素処理装置。
【請求項25】
請求項22?24のいずれかに記載の重水素処理装置において,半導体基板の温度を600°C以下に維持する装置を備えていることを特徴とする重水素処理装置。
【請求項26】
請求項22?25のいずれかに記載の重水素処理装置において,熱触媒体を1000°Cから1800°Cの予め決められた温度に加熱する装置を備え,重水素を含むガスを熱触媒体表面での熱触媒作用により活性化した重水素を生成することを特徴とする重水素処理装置。
【請求項27】
請求項22?26のいずれかに記載の重水素処理装置において,重水素を含むガス圧力を1Pa?100Paに調製する圧力調整機構を備えていることを特徴とする重水素処理装置。
【請求項28】
請求項22?27のいずれかに記載の重水素処理装置において,高温に加熱された熱触媒体表面での熱触媒作用により重水素を含むガスから生成された活性化した重水素を1分間?3時間の予め決められた時間供給する装置を備えていることを特徴とする重水素処理装置。
【請求項29】
請求項22?28のいずれかに記載の重水素処理装置において,ゲート絶縁膜を有する半導体基板と熱触媒体との間が10mm?120mmの予め決められた距離に配置されていることを特徴とする重水素処理装置。」

〈補正後〉
「【請求項1】
シリコンカーバイド領域を含む半導体基板上にゲート絶縁膜を形成する工程を含む半導体装置の作製法であって,半導体基板上にゲート絶縁膜を形成した後に,半導体基板の温度を600°C以下(但し,600°Cを除く)に維持すると共に,前記半導体基板の近傍に熱触媒体を配置し,重水素を含むガスを前記熱触媒体の近傍を通過させるようにして,加熱された熱触媒体表面での熱触媒作用により活性化した重水素を生成させ,当該活性化した重水素を前記半導体基板に供給することを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項2】
シリコンカーバイド領域を含む半導体基板上にゲート絶縁膜を形成する工程を含む半導体装置の作製法であって,半導体基板上にゲート絶縁膜を形成する工程及びアルミニウムを含む材料によりゲート電極膜を形成する工程の後に,半導体基板の温度を600°C以下(但し,600°Cを除く)に維持すると共に,前記半導体基板の近傍に熱触媒体を配置し,重水素を含むガスを前記熱触媒体の近傍を通過させるようにして,加熱された熱触媒体表面での熱触媒作用により活性化した重水素を生成させ,当該活性化した重水素を前記半導体基板に供給することを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の半導体装置の作製法であって,ゲート絶縁膜と半導体基板の界面近傍での重水素元素濃度が1×10^(19)cm^(-3)以上であることを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載の半導体装置の作製方法であって,熱触媒体は,タングステン,モリブデン,タンタル,チタン,バナジウムから選択した1の金属又はこれらを主成分とする合金であることを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項5】
請求項4に記載の半導体装置の作製方法であって,熱触媒体を1000°Cから1800°Cの予め決められた温度に加熱し,熱触媒体表面での熱触媒作用により重水素を含むガスから活性化した重水素を生成させることを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載の半導体装置の作製方法であって,半導体基板表面の洗浄工程を含むことを特徴とする半導体装置の作製方法。
【請求項7】
請求項1?6のいずれかに記載の半導体装置の作製方法に含まれる工程に加えて,さらに,層間絶縁膜を形成する工程と,配線層を形成する工程と,配線層を保護する絶縁膜を形成する工程を含み,活性化した重水素をこれらの膜又は層の界面に適用することを特徴とする半導体装置の作製方法。」

2.補正事項の整理
本件補正を整理すると以下のとおりとなる。
〈補正事項1〉
補正前の請求項1?3を削除するとともに,補正前の請求項4について,補正前の請求項1及び請求項2を引用していた部分をそれぞれ独立形式で書き直し,さらに,補正前の請求項1及び2における「前記半導体基板の近傍に熱触媒体を配置し,重水素を含むガスを前記熱触媒体の近傍を通過させるようにして,加熱された熱触媒体表面での熱触媒作用により活性化した重水素を生成させ,当該活性化した重水素を前記半導体基板に供給する」を,補正後の請求項1及び請求項2の「半導体基板の温度を600°C以下(但し,600°Cを除く)に維持すると共に,前記半導体基板の近傍に熱触媒体を配置し,重水素を含むガスを前記熱触媒体の近傍を通過させるようにして,加熱された熱触媒体表面での熱触媒作用により活性化した重水素を生成させ,当該活性化した重水素を前記半導体基板に供給する」として,補正後の請求項1及び請求項2とすること。

〈補正事項2〉
補正前の請求項4が補正前の請求項3を引用していた部分について,補正前の請求項3の「請求項1又は2に記載の半導体装置の作製法において,」を補正後の請求項3の「請求項1又は2に記載の半導体装置の作製法であって,」として補正後の請求項1又は請求項2を引用する補正後の請求項3とすること。

〈補正事項3〉
補正前の請求項5,7,9?14,16,17,19?29を削除するとともに,補正前の請求項6,8,15,18について,請求項番号を繰上げ,また,各請求項において引用する請求項番号を整合させて補正後の請求項4?7とし,さらに補正前の請求項6,8,15については,補正前の「半導体装置の作製法において,」を補正後の請求項4?6の「半導体装置の作製法であって,」とすること。


3.補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無についての検討

〈補正事項1について〉
補正事項1のうち,補正前の請求項1?3を削除するとともに,補正前の請求項4について,補正前の請求項1及び請求項2を引用していた部分をそれぞれ独立形式で書き直して補正後の請求項1及び請求項2とすることは,特許法第17条の2第4項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものである。
また,補正事項1のうち,補正前の請求項1及び2における発明特定事項である「前記半導体基板の近傍に熱触媒体を配置し,重水素を含むガスを前記熱触媒体の近傍を通過させるようにして,加熱された熱触媒体表面での熱触媒作用により活性化した重水素を生成させ,当該活性化した重水素を前記半導体基板に供給する」を,補正後の請求項1及び請求項2の「半導体基板の温度を600°C以下(但し,600°Cを除く)に維持すると共に,前記半導体基板の近傍に熱触媒体を配置し,重水素を含むガスを前記熱触媒体の近傍を通過させるようにして,加熱された熱触媒体表面での熱触媒作用により活性化した重水素を生成させ,当該活性化した重水素を前記半導体基板に供給する」とすることは,「当該活性化した重水素を前記半導体基板に供給する」際の温度条件を技術的に限定するものであるから,特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

〈補正事項2について〉
補正事項2において,補正前の請求項4のうち補正前の請求項3を引用していた部分を,補正後の請求項1及び請求項2を引用する補正後の請求項3とすることは,〈補正事項1〉において補正前の請求項1?3を削除するに際して,補正前の請求項4のうち補正前の請求項3を引用していた部分を個別の請求項としたものであるから,特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものである。
また,補正事項2のうち,補正前の請求項3の「請求項1又は2に記載の半導体装置の作製法において,」を補正後の請求項3の「請求項1又は2に記載の半導体装置の作製法であって,」とすることは,特許法第17条の2第4項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

〈補正事項3について〉
補正事項3のうち,補正前の請求項5,7,9?14,16,17,19?29を削除するとともに,補正前の請求項6,8,15,18について,請求項番号を繰上げ,また,各請求項において引用する請求項番号を整合させて補正後の請求項4?7とすることは,特許法第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものである。
また,補正事項3のうち,補正前の請求項6,8,15について,補正前の「半導体装置の作製法において,」を,補正後の請求項4?6の「半導体装置の作製法であって,」とすることは,特許法第17条の2第4項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

そして,上記〈補正事項1〉?〈補正事項3〉に係る事項は,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載されているから,上記各補正事項は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

上記のとおり,本件補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むから,以下,本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項に規定する独立特許要件を満たすか)どうかを,補正後の請求項1に係る発明について検討する。

4.独立特許要件についての検討
(1)本願補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明は,本件補正により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載から見て,その請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(再掲。以下「本願補正発明」という。)
「【請求項1】
シリコンカーバイド領域を含む半導体基板上にゲート絶縁膜を形成する工程を含む半導体装置の作製法であって,半導体基板上にゲート絶縁膜を形成した後に,半導体基板の温度を600°C以下(但し,600°Cを除く)に維持すると共に,前記半導体基板の近傍に熱触媒体を配置し,重水素を含むガスを前記熱触媒体の近傍を通過させるようにして,加熱された熱触媒体表面での熱触媒作用により活性化した重水素を生成させ,当該活性化した重水素を前記半導体基板に供給することを特徴とする半導体装置の作製方法。」

(2)刊行物に記載された発明
ア 引用例1: 特開2004-319771号公報
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2004-319771号公報(以下「引用例1」という。)には,図1?5とともに,以下の記載がある。(下線は当審において付加。以下同様。)

(ア)発明の属する技術分野
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,半導体の製造方法および界面安定化処理装置に関し,特に,半導体集積回路,液晶ディスプレイに用いられるトランジスタのゲート絶縁膜の界面安定化処理に関する。」

(イ)従来の技術
「【0002】
【従来の技術】
半導体素子の高集積化が進むに伴い,高速・低消費電力化の要求がますます高まっている。
半導体素子を高速化するためには,ゲート絶縁膜の薄膜化・チャネル長の縮小が必須である。ところが,ゲート絶縁膜が薄膜化すると,ゲート絶縁膜に印加される電界が高くなり,また,チャネル長を縮小するとチャネルでの電界が高くなり,デバイスの信頼性の確保が重要な課題となっている。
この信頼性の劣化は,電気的なストレス下において,ゲート絶縁膜中や,ゲート絶縁膜とゲート電極との界面,およびゲート絶縁膜と基板との界面に生成される欠陥に電荷が捕獲されることによって引き起こされると考えられている。そこで,従来は,これら欠陥に水素を結合させることにより欠陥を不活性化していた。
【0003】
具体的な不活性化方法としては,トランジスタ作製工程の最終段階で行う400℃?500℃程度の水素アニールが知られている。
これはデバイス作製の際に,ゲート絶縁膜や前記界面などに生成される欠陥を水素ガスでアニールすることにより,シリコンの未結合手(界面欠陥)を終端し,不活性化させることを目的とした安定化処理である。
【0004】
しかし,近年のデバイスの微細化により電気的ストレスが高くなった結果,水素結合が電気的なストレス印加で切れてしまい,デバイスの動作不良(信頼性不良)を引き起こし,このような従来の方法では信頼性を十分に確保できないことがわかってきている。
そこで,最近では,デバイスの信頼性をより高めるために,水素の同位体である重水素をゲート絶縁膜とシリコン半導体基板の界面などに導入して,シリコン原子の未結合箇所(Dangling Bond)に重水素を結合させることにより,界面を安定化させる方法が採用されていて,例えば非特許文献1には,シリコンLSIに重水素熱処理を施すことにより,LSIの長寿命化を達成可能であることが報告されている。
そして,さらに最近になって,このように水素ガスのかわりに重水素ガスを用いることで,ホットエレクトロンストレス下における界面の特性を10?100倍向上できることがわかってきた。」

(ウ)発明が解決しようとする課題
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら,従来の水素ガスを用いた安定化処理では,400?460℃に加熱した基板に,窒素などで数%に希釈した水素を,一分間に3リットル程度の流量で数時間流すことによりゲート絶縁膜へ水素を導入していたが,同じ操作を重水素を用いて行うと,重水素ガスは,その価格が水素に比べて高価(1000?2000倍)であるためコスト的に問題があった。
その上,水素や重水素は窒素よりも比重が軽いため,このように水素や重水素を窒素で希釈して使用すると,温度分布がある処理室内では水素または重水素の分布は均一にならず,その結果,実効的に使われるガス量が少なくなるという問題があり,さらに,最近の300mmといった大口径の基板に対しては均一性が得られにくかった。
すなわち,このように重水素を用いた安定化処理は,高価なガスを使用する上に効率が低く,コスト的にも半導体装置の特性的にも,満足するものが得られず,その適用範囲に限界があった。
【0007】
本発明は,前記事情に鑑みてなされたものであり,極薄膜ゲート絶縁膜を有する最先端の半導体装置を製造する場合でも,従来の方法よりも半導体装置の電気的特性を向上させられるとともに,安定化処理の処理時間の短縮,ガスの利用効率の向上,さらには,処理温度の低温化など,高効率な安定化処理方法を達成しうる半導体装置の製造方法および界面安定化処理装置を提供することを課題とする。」

(エ)課題を解決するための手段
「【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは,鋭意検討した結果,安定化処理に際して,水素ラジカルまたは重水素ラジカルを含有するガスを使用することによって,前記課題を解決できることを見出し,本発明を完成するに至った。
本発明の半導体装置の製造方法は,シリコン半導体基板を備えた基体にゲート絶縁膜とゲート電極とが形成されたシリコン半導体装置に対して,水素ラジカルおよび/または重水素ラジカルを含有するガスを接触させることにより,ゲート絶縁膜と基体の界面と,ゲート絶縁膜とゲート電極の界面の少なくとも一方における原子配列あるいは原子結合状態を安定化する安定化処理工程を有することを特徴とする。
前記基体の温度を20℃?200℃の範囲として,前記安定化処理工程を行うことが好ましい。
また,触媒を使用した接触分解反応により,水素および/または重水素を含有するガスから前記水素ラジカルおよび/または重水素ラジカルを生成させ,前記安定化処理工程を減圧下で行うことが好ましい。
本発明の半導体の界面安定化処理装置は,シリコン半導体基板を備えた基体にゲート絶縁膜とゲート電極とが形成されたシリコン半導体装置に対して,水素ラジカルおよび/または重水素ラジカルを含有するガスを接触させるための半導体装置の界面安定化処理装置であって,シリコン半導体装置を保持するホルダーを備えた処理室と,該処理室内に水素ラジカルおよび/または重水素ラジカルを発生させるラジカル発生手段と,前記処理室内を減圧するための減圧手段とを具備することを特徴とする。
前記ラジカル発生手段は,水素および/または重水素を供給するガス供給手段と,接触分解反応により,供給された水素および/または重水素から水素ラジカルおよび/または重水素ラジカルを発生させる触媒と,該触媒を加熱するための触媒加熱手段とを具備することが好ましい。
前記ホルダーは,該ホルダーを加熱するホルダー加熱手段を具備することが好ましい。」

(オ)発明の実施の形態1
「【0009】
【発明の実施の形態】
以下,本発明を詳細に説明する。
図1および図2は,それぞれ,本発明において安定化処理工程が施されるシリコン半導体装置10の一例であって,基体であるシリコン半導体基板11上に,ゲート絶縁膜12が形成され,その上にゲート電極13が形成されたものである。図中,符号14はソース領域となる拡散層,符号15はドレイン領域となる拡散層,符号16はサイドウォールである。
ここで,図1のゲート絶縁膜12はSiO_(2)膜から形成され,図2のゲート絶縁膜12はSiO_(2)膜12aとSi_(3)N_(4)膜12bの積層体から形成されている。ゲート絶縁膜12としては,これら酸化膜や,酸化膜と窒化膜の積層体などの他,窒化膜の単層(例えば,8nm以下のSi_(3)N_(4)膜)や,最近評価が進んでいる高融点金属の酸化膜(例えば,Al_(2)O_(3),ZrO_(2),HfO_(2)など)や希土類系元素の酸化膜(La_(2)O_(3),Y_(2)O_(3)など)なども適用できる。
【0010】
本発明においては,このようなシリコン半導体装置10に,水素ラジカル,重水素ラジカルの少なくとも一方を含有するガスを接触させることにより,ゲート絶縁膜12とシリコン半導体基板11との界面,ゲート絶縁膜12とゲート電極13との界面の,少なくとも一方における原子配列あるいは原子結合状態を安定化する安定化処理工程を行う。このような安定化処理工程により,シリコン半導体装置10の電気的特性を効率的に向上させることができる。
【0011】
安定化処理工程には,例えば図3に示すような,界面安定化処理装置20を好ましく使用することができる。
この界面安定化処理装置20は,シリコン半導体装置10を保持するホルダー21を備えた処理室22と,この処理室22内に水素ラジカルおよび/または重水素ラジカルを発生させるラジカル発生手段23と,処理室22内を減圧するための排気装置などの減圧手段26とを備えている。なお,図3中符号27は,処理されるシリコン半導体装置10を搬送するための前室(図示略)との接続部である。
【0012】
この例の界面安定化処理装置20におけるホルダー21は,安定化処理対象であるシリコン半導体装置10を1枚のみ保持するものであるが,ホルダー21の形態には特に制限はなく,複数を同時に保持して安定化処理できるものであってもよい。また,シリコン半導体装置10を保持する向きも,この例のようにシリコン半導体基板が水平方向となる向きに限らず,鉛直方向となる向きなどであってもよい。
また,この例のホルダー21には,ヒータなどのホルダー加熱手段21aが内蔵されていて,ホルダー21を加熱できるようになっている。
【0013】
この例のラジカル発生手段23は,水素および/または重水素を処理室22内に供給するガス供給手段24と,接触分解反応により,供給された水素および/または重水素から水素ラジカルおよび/または重水素ラジカルを発生させる触媒25と,触媒25を加熱するための図示略の触媒加熱手段とを具備して構成されていて,ホルダー21に保持されたシリコン半導体装置10と対向する位置に設けられている。
ガス供給手段24は,水素および/または重水素と,窒素,アルゴン,クリプトン,キセノンなどの不活性ガスとが所定の比率で混合された混合ガスを供給するガス供給源24aと,ガス供給源24aからのガスを処理室22内に導入し触媒25に向けて噴射するための図示略の多数のガス導入穴が周壁に形成された管状のシャワーノズル24bとを備え,このようなシャワーノズル24bを使用することによって,ガス供給源24aからの混合ガスに含まれる水素および/または重水素を,効果的に触媒25に接触させられるようになっている。なお,管状のシャワーノズル24bの代わりに,多数のガス導入穴が片面に形成された中空板状のシャワープレートが備えられていても良い。
【0014】
触媒25としては,接触分解反応により,水素および/または重水素から水素ラジカルおよび/または重水素ラジカルを発生させられるものであれば制限はないが,例えば,タングステン,タンタル,白金,モリブデンなどの金属触媒を例示でき,これらを1種単独で,または2種以上を同時に使用できる。
触媒25の形態としては特に制限はないが,ホルダー21に保持されたシリコン半導体装置10の全面に,発生した水素ラジカルおよび/または重水素ラジカルが効果的に接触するような形態であることが好ましい。例えば,シリコン半導体装置10とシャワーノズル24bとの間に,触媒25である多数本のタングステン線をシリコン半導体基板と略平行となるように配置し,シャワーノズル24bからの水素および/または重水素が触媒25に接触して水素ラジカルおよび/または重水素ラジカルとなり,それが均一にシリコン半導体装置10に拡散するような配置が好ましい。また,この際,効果的に水素ラジカルおよび/または重水素ラジカルがシリコン半導体装置10に均一に照射されるように,シリコン半導体基板に対向する複数のタングステン線の配置領域が単数または複数のシリコン半導体基板の配置領域より面積が広いことが望ましい。
【0015】
また,この例において触媒25を加熱する触媒加熱手段は,触媒25に直接電流を流すことにより触媒25を加熱するものである。処理室22には図示略の電流導入端子が設けられ,触媒25が例えばタングステン線である場合には,この端子とタングステン線とを接続することにより,処理室22内に触媒25を保持でき,かつ,触媒25を加熱することができる。」

(キ)発明の実施の形態2
「【0016】
次に,この界面安定化処理装置20を使用して,ホルダー21に保持されたシリコン半導体装置10に対して水素ラジカルおよび/または重水素ラジカルを含有するガスを接触させ,ゲート絶縁膜12とシリコン半導体基板との界面,ゲート絶縁膜12とゲート電極13との界面の,少なくとも一方における原子配列あるいは原子結合状態を安定化する安定化処理工程について具体的に説明する。
まず,安定化処理対象であるシリコン半導体装置10を処理室22内に搬入し,ホルダー21に配置する。ついで,ガス供給源24aからの水素および/または重水素を含む混合ガスを,シャワーノズル24bのガス導入穴から発生させるとともに,減圧手段26を作動させて,処理室22内を数mTorr?数100Torr程度まで減圧する。
また,触媒加熱手段により,触媒25を所定の温度に加熱する。例えば触媒25がタングステンである場合には,1000?2000℃に加熱することが好ましい。
【0017】
一方,ホルダー加熱手段21aを作動させて,ホルダー21を適宜加熱することにより,ホルダー21に保持されたシリコン半導体装置10を加熱する。例えば,シリコン半導体装置10を20?200℃とする場合には,ホルダー21を同程度の温度まで加熱する。
【0018】
すると,シャワーノズル24bから発生した混合ガスが,加熱された触媒25に接触して接触分解反応し,高密度活性ラジカル(>10^(12)?10^(15)atom/cm^(3))である水素ラジカルおよび/または重水素ラジカルを発生する。そして,この水素ラジカルおよび/または重水素ラジカルは,ホルダー21に保持されたシリコン半導体装置10に接触して,ゲート絶縁膜12中や,ゲート絶縁膜12とシリコン半導体基板との界面,あるいは,ゲート絶縁膜12とゲート電極13との界面に導入される。導入された水素ラジカルおよび/または重水素ラジカルは,これら界面に蓄積され,これらの界面の原子が水素原子および/または重水素原子と直接結合し,その原子配列あるいは原子結合状態が安定化される。
このような安定化処理は,例えば1?5分程度行うことが好ましい。
また,この例では,ガス供給手段24は,水素および/または重水素と,窒素,アルゴン,クリプトン,キセノンなどの不活性ガスとが所定の比率で混合された混合ガスを供給するガス供給源24aを備えているが,水素および/または重水素は不活性ガスで必ずしも希釈される必要はなく,ガス供給源24aは,水素単独,重水素単独,あるいは水素と重水素との混合ガスを供給するものであってもよい。
【0019】
・・・(中略)・・・
【0020】
なお,以上の例においては,界面安定化処理装置20として,ホルダー21を加熱するホルダー加熱手段21aを備えたものを例示したが,ホルダー加熱手段21aは必ずしも必要ではない。すなわち,従来の安定化処理では,一般に,450℃近傍の高温炉によって,水素ガスおよび/または重水素ガスの分子の熱エネルギーを高め,気相中のこれら分子の運動を活発化することにより,シリコン半導体基体中での拡散を速めて,欠陥部への結合速度を高めていたが,以上説明したような安定化処理工程では,水素ラジカルおよび/または重水素ラジカルを使用しており,これら活性化された分子(または原子)はすでに十分なエネルギーを持っているため,従来の水素ガスおよび/または重水素ガスをそのまま使用する方法のように,高温に加熱する必要はない。よって,ホルダー加熱手段21aを設けず,20℃程度の室温でも十分に安定化処理することができる。しかしながら,処理速度や処理効率の向上の点からは,ホルダー加熱手段21aを設け,シリコン半導体装置10を加熱することが好ましい。安定化処理の速度,効率の点と,加熱によるエネルギーコストの点とを両方考慮した場合には,シリコン半導体装置10の温度を100℃?200℃の範囲として,安定化処理工程を行うことが好ましい。
【0021】
以上説明したような半導体装置の製造方法にあっては,シリコン半導体基板11を備えた基体にゲート絶縁膜12とゲート電極13とが形成されたシリコン半導体装置10に対して,水素ラジカルおよび/または重水素ラジカルを含有するガスを接触させることにより,ゲート絶縁膜12と基体の界面と,ゲート絶縁膜12とゲート電極13の界面の少なくとも一方における原子配列あるいは原子結合状態を安定化する安定化処理工程を有することを特徴とするので,極薄膜ゲート絶縁膜を有する最先端のシリコン半導体装置を製造する場合でも,従来よりもその電気的特性を向上させられるとともに,安定化処理の処理時間の短縮,ガスの利用効率の向上,さらには,処理温度の低温化など,高効率な安定化処理を行うことができる。また,対象となる半導体装置としては,シリコン半導体基板11を備えた基体にゲート絶縁膜12とゲート電極13とを有するシリコン半導体装置10であれば,具体的な構成に限定はない。」

(ク)実施例
「【0022】
【実施例】
以下,実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
図3の界面安定化処理装置20を使用し,水素ラジカルを発生させて,図1に示すシリコン半導体装置(ゲート絶縁膜(SiO2)の厚さ=8nm)10に対して安定化処理を行った。
以下に安定化処理の条件を示す。
・供給ガス:100%水素ガス,20ml/min
・触媒:タングステンワイヤ
・触媒温度:1200℃
・処理温度(シリコン半導体基板(基体)の温度):450℃
・処理時間:5分,30分,60分,90分,120分
・処理室内圧力:7.6Torr
【0023】
このようにして水素ラジカルにより安定化処理されたシリコン半導体装置10の,安定化処理時間に対する相対耐用寿命(log τ)[a.u.]をプロットしたものを図4のグラフに示す。なお,耐用寿命τは,ドレイン電流が低下するまでの時間を測定することにより評価した。具体的には,ソース・ドレイン間に一定電圧(ここでは2.0V)を印加した状態で流れる電流(ドレイン電流)が一定割合(ここでは3%)変化するまでの時間を測定し,その時間を耐用寿命τと定義して相対比較した。
【0024】
[実施例2]
水素ガスのかわりに重水素ガスを供給ガスとして重水素ラジカルを発生させた以外は実施例1と同様にして安定化処理を行った。
このようにして重水素ラジカルにより安定化処理されたシリコン半導体装置10の,安定化処理時間に対する相対耐用寿命(log τ)[a.u.]をプロットしたものを図4のグラフに示す。
【0025】
[比較例1]
実施例1で使用したものと同じシリコン半導体装置10を,ラジカル発生手段を備えていない処理室内に配置して450℃に保持し,この処理室内に窒素で希釈された2mol%水素ガスを3L/minの流量で所定時間(5分,30分,60分,90分,120分)流通させ,水素処理を行った。
また,このようにして水素で安定化処理されたシリコン半導体装置10の,安定化処理時間に対する相対耐用寿命(log τ)[a.u.]をプロットしたものを図4のグラフに示す。
【0026】
[比較例2]
2mol%水素ガスの代わりに2mol%重水素ガスを使用した以外は比較例1と同様の方法で,重水素処理を行った。
また,このようにして水素で安定化処理されたシリコン半導体装置10の,安定化処理時間に対する相対耐用寿命(log τ)[a.u.]をプロットしたものを図4のグラフに示す。
【0027】
図4のグラフから,水素ラジカルや重水素ラジカルを使用すると,水素や重水素を使用した場合に比べて,非常に短時間で同等の耐用寿命が得られること,また,水素や水素ラジカルを使用した場合に得られる耐用寿命に比べ,重水素や重水素ラジカルを使用した場合には,その10倍程度の耐用寿命が得られることがわかる。さらに,水素ラジカルや重水素ラジカルを使用すると,より短時間で高い効果が得られるが,それは,必要となるガス量が少量で済むことをも示すものである。
すなわち,実施例の方法によれば,処理時間の短縮と,デバイス特性の向上と,ガス利用効率の向上が達成できることが明らかとなった。
【0028】
[実施例3,4]
処理温度(シリコン半導体基板(基体)の温度)を200℃(実施例3),100℃(実施例4)とした以外は実施例2と同様にして安定化処理を行った。
このようにして重水素ラジカルにより安定化処理されたシリコン半導体装置10の,相対安定化処理時間(log T)[a.u.]に対する相対耐用寿命をプロットしたものを図5のグラフに示す。また,実施例2で安定化処理されたもの,比較例2で安定化処理されたものについても,図5のグラフにプロットした。なお,Tは安定化処理時間である。
【0029】
図5のグラフから,重水素を使用した450℃での処理で得られる耐用寿命が,重水素ラジカルを使用することにより100℃の温度でも得られることが解る。また,重水素ラジカルを使用すると,重水素を使用した場合に比べて,非常に短時間で同等の耐用寿命が得られるが,その際,処理温度が高いほど,さらに短時間で同等の耐用寿命が得られることがわかる。すなわち,重水素ラジカルを使用すると,処理温度の低温化が達成できることが明らかとなった。」

(ケ)発明の効果
「【0030】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の半導体装置の製造方法によれば,極薄膜ゲート絶縁膜を有する半導体装置を製造する場合でも,従来の方法よりも半導体装置の電気的特性を向上させられるとともに,安定化処理の処理時間の短縮,ガスの利用効率の向上,さらには,処理温度の低温化など,高効率な安定化処理方法を達成できる。また。本発明の界面安定化処理装置によれば,このような効率的な処理を行うことができる。」


・ここで,上記段落【0004】及び段落【0027】には,水素ラジカルや重水素ラジカルを使用すると,水素や重水素を使用した場合に比べて,非常に短時間で同等の耐用寿命が得られて,必要となるガス量が少量で済み,また,水素や水素ラジカルよりも,重水素や重水素ラジカルを用いた方が,デバイスの耐用寿命(すなわちデバイスの信頼性)を向上できることが記載されている。
また,上記段落【0021】及び【0029】には,重水素を用いた場合と重水素ラジカルを用いた場合とを比較すると,重水素ラジカルを使用した場合は,処理温度をより低温化できることが記載されている。
したがって,上記各記載から,重水素ラジカルを用いて安定化処理することにより,処理時間の短縮,デバイスの信頼性の向上,ガス利用効率の向上,および処理温度の低温化を達成できることが明らかである。

・上記段落【0001】?【0003】,【0009】及び【0021】の記載から,ゲート絶縁膜の界面安定化処理に先立って,基体であるシリコン半導体基板11上に,ゲート絶縁膜12が形成され,その上にゲート電極13が形成されていることがわかる。

以上を総合し,重水素ラジカルを使用したゲート絶縁膜の界面安定化処理に注目すると,引用例1には,以下の発明が記載されているものと認められる。(以下「引用発明」という。)

「半導体装置の製造方法であって,
シリコン半導体基板11を備えた基体にゲート絶縁膜12とゲート電極13とが形成されたシリコン半導体装置10を,処理室22内に搬入し,ホルダー21に配置し,ホルダー21を適宜加熱することにより,ホルダー21に保持されたシリコン半導体装置10を加熱し,
シャワーノズル24bから発生した重水素を含む混合ガスが,加熱された触媒25に接触して接触分解反応し,高密度活性ラジカルである重水素ラジカルを発生し,
ここで,触媒25は,前記重水素ラジカルが均一にシリコン半導体装置10に拡散するように配置されており,
前記重水素ラジカルがシリコン半導体装置10に接触して,ゲート絶縁膜12中や,ゲート絶縁膜12とシリコン半導体基板との界面,あるいは,ゲート絶縁膜12とゲート電極13との界面に導入・蓄積され,これらの界面の原子が水素原子および/または重水素原子と直接結合し,その原子配列あるいは原子結合状態が安定化される処理工程
を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。」

イ 引用例2: 特開2000-252461号公報
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である,特開2000-252461号公報(以下「引用例2」という。)には,図1及び図2とともに,以下の記載がある。(下線は当審において付加。以下同様)

(ア)産業上の利用分野
「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は,半導体として炭化珪素を用いた,金属-酸化膜-半導体(MOS)構造,或はMOS電界効果型トランジスタを搭載した半導体装置,半導体集積回路等において,界面準位密度の低い良好なゲート絶縁膜と炭化珪素界面を形成するようにした半導体装置の製造方法に関するものである。」

(イ)従来の技術
「【0002】
【従来の技術】ワイドギャップ半導体である,炭化珪素基板(SiC基板)上に形成されたゲート絶縁膜/炭化珪素界面に発生する界面準位密度は,シリコン基板を熱的に酸化して形成された,ゲート酸化膜/シリコン界面に発生する界面準位密度より1桁以上高く,低チャネル移動度の原因の一つとなっている。
【0003】また,通常シリコン基板を用いて作製されたMOSキャパシタでは,400℃で水素アニールをして,ダングリングボンドを終端することによりゲート酸化膜/シリコン界面に発生する界面準位密度を低減して良好な界面を形成するようにしているが,炭化珪素基板を用いて作製されたMOSキャパシタでは,400℃でアニールをしてもゲート絶縁膜/炭化珪素界面に発生する界面準位密度を低減するような際立った効果がない。」

(ウ)発明が解決しようとする課題
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】そこで,この発明においては炭化珪素基板を用いて作製されたMOSキャパシタ界面においける,シリコン或は炭素の未結合手を終端して,界面準位密度の低い良好な界面を形成することを目的とする。
【0005】以上の課題を解決するため,本願発明者らは鋭意研究の結果,炭化珪素基板を用いて作製されたMOSキャパシタを,高温下の水素を含んだ雰囲気でアニールすることにより,界面準位密度のMOSキャパシタが得られることを見出したのである。」

(エ)課題を解決するための手段
「【0006】
【課題を解決するための手段】この発明は,上記知見に基づいて少なくとも最上層に炭化珪素を有する半導体基板上に,ゲート絶縁膜として酸化膜及び/或は窒化膜の1層又は2層以上を形成した後,600?1600℃の範囲で水素を含んだ雰囲気でアニールする半導体装置の製造方法を提案するものである。」

(オ)作用
「【0013】
【作用】即ち,炭化珪素(SiC)基板上に酸化膜或は窒化膜からなるゲート絶縁膜を形成した後,600℃?1600℃の水素を含んだ雰囲気でアニールすることにより,絶縁膜/炭化珪素界面に存在するシリコン或は炭素のダングリングボンドが終端され,界面準位密度を低減して良好な界面を形成することができる。」

以上を総合すると,引用例2には,通常シリコン基板を用いた半導体装置の製造方法においては,400℃で水素アニールをして,ダングリングボンドを終端することによりゲート酸化膜/シリコン界面に発生する界面準位密度を低減して良好な界面を形成することができ,また,炭化珪素(SiC)基板を用いた半導体装置の製造方法においては,600℃?1600℃の水素を含んだ雰囲気でアニールすることにより,絶縁膜/炭化珪素界面に存在するシリコン或は炭素のダングリングボンドが終端され,界面準位密度を低減して良好な界面を形成できることが記載されているものと認められる。

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを比較する。

ア 引用発明の「半導体装置の製造方法」は,「シリコン半導体基板11を備えた基体にゲート絶縁膜12とゲート電極13とが形成されたシリコン半導体装置10」について,「重水素ラジカルがシリコン半導体装置10に接触して,ゲート絶縁膜12中や,ゲート絶縁膜12とシリコン半導体基板との界面,あるいは,ゲート絶縁膜12とゲート電極13との界面に導入・蓄積され,これらの界面の原子が重水素原子と直接結合し,その原子配列あるいは原子結合状態が安定化される処理工程を有」するものであり,当然に「ゲート絶縁膜12」を形成する工程を含むものといえるから,本願補正発明の「シリコンカーバイド領域を含む半導体基板上にゲート絶縁膜を形成する工程を含む半導体装置の作製法であ」ることとは,「半導体基板上にゲート絶縁膜を形成する工程を含む半導体装置の作製法であ」る点で共通する。

イ 引用発明の「シリコン半導体基板11を備えた基体にゲート絶縁膜12とゲート電極13とが形成されたシリコン半導体装置10を,処理室22内に搬入し,ホルダー21に配置し,ホルダー21を適宜加熱することにより,ホルダー21に保持されたシリコン半導体装置10を加熱」することは,「ゲート絶縁膜12とゲート電極13とが形成された」後になされることは明らかであるから,本願補正発明の「半導体基板上にゲート絶縁膜を形成した後に,半導体基板の温度を600°C以下(但し,600°Cを除く)に維持する」こととは,「半導体基板上にゲート絶縁膜を形成した後に,半導体基板の温度を加熱温度に維持する」点で共通する。

ウ 引用発明の「加熱された触媒25」及び「重水素ラジカル」は,それぞれ本願補正発明の「熱触媒体」及び「活性化した重水素」に相当し,また,引用発明における「加熱された触媒25」は,「重水素を含む混合ガスが,加熱された触媒25に接触して接触分解反応し,高密度活性ラジカルである重水素ラジカルを発生」するものであって,さらに「触媒25は,前記重水素ラジカルが均一にシリコン半導体装置10に拡散するように配置されて」いることから,本願補正発明の「熱触媒体」であって「前記半導体基板の近傍に熱触媒体を配置」したものに相当する。

エ 上記ア?ウから,引用発明の「シリコン半導体基板11を備えた基体にゲート絶縁膜12とゲート電極13とが形成されたシリコン半導体装置10を,処理室22内に搬入し,ホルダー21に配置し,ホルダー21を適宜加熱することにより,ホルダー21に保持されたシリコン半導体装置10を加熱し, シャワーノズル24bから発生した重水素を含む混合ガスが,加熱された触媒25に接触して接触分解反応し,高密度活性ラジカルである重水素ラジカルを発生し, ここで,触媒25は,前記重水素ラジカルが均一にシリコン半導体装置10に拡散するような配置されており, 前記重水素ラジカルがシリコン半導体装置10に接触して,ゲート絶縁膜12中や,ゲート絶縁膜12とシリコン半導体基板との界面,あるいは,ゲート絶縁膜12とゲート電極13との界面に導入・蓄積され」ることと,本願補正発明の「半導体基板上にゲート絶縁膜を形成した後に,半導体基板の温度を600°C以下(但し,600°Cを除く)に維持すると共に,前記半導体基板の近傍に熱触媒体を配置し,重水素を含むガスを前記熱触媒体の近傍を通過させるようにして,加熱された熱触媒体表面での熱触媒作用により活性化した重水素を生成させ,当該活性化した重水素を前記半導体基板に供給すること」とは,「半導体基板上にゲート絶縁膜を形成した後に,半導体基板の温度加熱温度に維持すると共に,前記半導体基板の近傍に熱触媒体を配置し,重水素を含むガスを前記熱触媒体の近傍を通過させるようにして,加熱された熱触媒体表面での熱触媒作用により活性化した重水素を生成させ,当該活性化した重水素を前記半導体基板に供給すること」である点で共通する。

オ 引用発明の「半導体装置の製造方法」は,本願補正発明の「半導体装置の作製方法」に相当する。

カ したがって,引用発明と本願補正発明とは,
「半導体基板上にゲート絶縁膜を形成する工程を含む半導体装置の作製法であって,半導体基板上にゲート絶縁膜を形成した後に,半導体基板の温度を加熱温度に維持すると共に,前記半導体基板の近傍に熱触媒体を配置し,重水素を含むガスを前記熱触媒体の近傍を通過させるようにして,加熱された熱触媒体表面での熱触媒作用により活性化した重水素を生成させ,当該活性化した重水素を前記半導体基板に供給することを特徴とする半導体装置の作製方法。」
である点で一致する。

キ 一方両者は,以下の各点で相違する。
《相違点1》
本願補正発明においては,「半導体基板」が「シリコンカーバイド領域を含む半導体基板」であるのに対して,引用発明においては「シリコン半導体基板11」である点。

《相違点2》
本願補正発明においては,「半導体基板の温度を600°C以下(但し,600°Cを除く)に維持」するが,引用発明においては,半導体基板の加熱温度は特定されていない点。

(4)判断
上記各相違点について検討する。
《相違点1について》
前記第2 4.(2)イで述べたとおり,引用例2には,シリコン基板を用いた場合は,400℃で水素アニールをして,ダングリングボンドを終端することによりゲート酸化膜/シリコン界面に発生する界面準位密度を低減して良好な界面を形成することができ,また,炭化珪素(SiC)基板を用いた場合は,600℃?1600℃の水素を含んだ雰囲気でアニールすることにより,絶縁膜/炭化珪素界面に存在するシリコン或は炭素のダングリングボンドが終端され,界面準位密度を低減して良好な界面を形成できることが記載されている。すなわち,通常のシリコン基板を用いた半導体装置においても,炭化珪素(SiC)すなわちシリコンカーバイド基板を用いた半導体装置においても,水素アニールをして,ダングリングボンドを終端することにより絶縁膜/半導体基板界面に発生する界面準位密度を低減して良好な界面を形成できることが示されている。
一方,一般に半導体装置において,その信頼性の向上が求められることは従来より不断の課題といえるものであり,炭化ケイ素基板を用いた半導体装置においても,シリコン基板を用いた半導体装置と同様に,デバイスの信頼性の向上が求められることは明らかである。また,炭化ケイ素基板を用いた半導体装置の製造方法において,処理温度の低温化が求められることは,例えば以下の周知例に示されているように,従来より周知の課題である。

周知例:特開平10-112460号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である,特開平10-112460号公報には,図1とともに,以下の記載がある。

「【0013】
【発明の実施の形態】上記課題解決のため本発明の炭化ケイ素半導体装置の製造方法は,熱酸化後の不活性ガス雰囲気中でのアニール時間,この不活性ガス雰囲気中でのアニール後の低温熱処理,或いは熱酸化後の冷却時の雰囲気等を吟味することによって,MOS型半導体装置の重要な特性である界面凖位密度を低減するものである。
【0014】以下図面を参照しながら,本発明の実施の形態を説明する。
[実施例1]1×10^(16)cm^(-3)のキャリア濃度のAlドープ,面方位(0001)シリコン面のp型SiCを用いた。炉の昇温時には,ドライ酸素を流しているが,これは,ウェット雰囲気でも不活性雰囲気でも構わない。95℃の熱水中に酸素をバブルさせたウェット酸素で1100℃,5時間,ウェット酸化をおこない,厚さ35nmの酸化膜を成長させた。雰囲気ガスを乾燥窒素に変え,0?10時間のアニールをおこない,乾燥窒素中で冷却した。
【0015】得られた試料の界面凖位密度を図1に示す。横軸に酸化後のアニール時間を,縦軸に得られた界面凖位密度を示したものである。窒素ガス雰囲気中でのアニールによって界面準位密度が上昇することがわかった。熱酸化工程での不活性雰囲気中でのアニールは,時間0が最良であることがわかる。
【0016】しかしながら,熱酸化工程後には様々な熱処理工程がありうる。例えば,ゲートポリシリコンを熱酸化膜の上に堆積した場合,ポリシリコンへの不純物ドーピング,金属とのオーミックを形成するための合金化熱処理などが考えられる。これらの熱処理は通常1000℃前後で行われる。よって,今回得られた実験結果から酸化工程中および酸化工程後の熱処理工程において,不活性ガス雰囲気中でのアニールを行う場合,その時間の総和は2時間以内とすることが望ましい。
[実施例2]実施例1の試料を,改めて水素を10%含む窒素雰囲気中で400℃で1時間アニールした。得られた試料の界面凖位密度を図1に示す。横軸は,アニール時間,縦軸は界面凖位密度である。
【0017】この結果から,明らかに界面凖位密度が全体的に減少している様子がわかる。例えば,2時間アニールした試料の界面凖位密度は,3.3×10^(12)cm^(-2)・eV^(-1)から,2.5×10^(12)cm^(-2)eV^(-1)と約25%の減少が見られる。この事実は,何らかの問題で酸化後の界面凖位密度が悪かった場合に,ゲート電極を形成したあとでも界面凖位密度を改善する方法を与えている。
【0018】今回の実験では,400℃において実施したが,これは必ずしも重要な条件ではない。すなわち,温度が低ければ,アニール時間を長く設定すればよく,また,温度が高ければアニール時間を短くすれば良い。実用的な温度としては,下は300℃,上は金属が融解しない程度の温度,例えば,Alを使用するのであれば,500℃程度が望ましい。アニール時間としては,30分間?2時間程度の範囲から選択して行うことが望ましい。」

・上記記載から,炭化ケイ素基板を用いた半導体装置の製造方法において,ゲート電極を形成したあとでも界面凖位密度を改善できるように,金属が融解しない程度の温度,例えば,Alを使用するのであれば,500℃程度以下の比較的低温でアニール処理を行うという要求があることがわかる。


そうすると,炭化ケイ素基板を用いた半導体装置について,デバイスの信頼性が向上したものを,従来より処理温度を低温化して製造できるように,引用発明において,「シリコン半導体基板11」に代えて炭化ケイ素基板(すなわちシリコンカーバイド基板)として,相違点1に係る「シリコンカーバイド領域を含む半導体基板」を備えるようにすることは,当業者が適宜になし得たことである。
よって,相違点1は当業者が適宜になし得た範囲に含まれる程度のものである。

《相違点2について》
引用例1の段落【0020】において,「従来の安定化処理では,一般に,450℃近傍の高温炉によって,水素ガスおよび/または重水素ガスの分子の熱エネルギーを高め,気相中のこれら分子の運動を活発化することにより,シリコン半導体基体中での拡散を速めて,欠陥部への結合速度を高めていたが,以上説明したような安定化処理工程では,水素ラジカルおよび/または重水素ラジカルを使用しており,これら活性化された分子(または原子)はすでに十分なエネルギーを持っているため,従来の水素ガスおよび/または重水素ガスをそのまま使用する方法のように,高温に加熱する必要はない。よって,ホルダー加熱手段21aを設けず,20℃程度の室温でも十分に安定化処理することができる。しかしながら,処理速度や処理効率の向上の点からは,ホルダー加熱手段21aを設け,シリコン半導体装置10を加熱することが好ましい。」と記載されているように,従来の,水素ガスおよび/または重水素ガスをそのまま使用する方法では,ともに同等の450℃近傍の高温で処理していたところ,水素ラジカルおよび/または重水素ラジカルを使用する方法では,これより大幅に低い温度で処理できるものである。
また,引用例2には,従来,炭化珪素(SiC)基板を用いた場合は,600℃?1600℃の水素を含んだ雰囲気でアニールすることにより,絶縁膜/炭化珪素界面に存在するシリコン或は炭素のダングリングボンドが終端され,界面準位密度を低減して良好な界面を形成できることが記載されている。
そして,《相違点1について》において述べたとおり,引用発明において,「シリコン半導体基板11」を炭化ケイ素基板(すなわちシリコンカーバイド基板)とすることは,当業者が適宜になし得たことであるところ,この際,仮に重水素をそのまま使用する方法では,引用例2に記載された水素をそのまま使用する場合の温度と同じく,少なくとも600℃の温度での処理が必要といえるが,引用発明に係る重水素ラジカルを使用する方法では,これより大幅に低い温度,すなわち600℃を大幅に下回る温度で処理できることは,当業者に明らかである。それゆえ,引用発明において,「シリコン半導体基板11」を炭化ケイ素基板(すなわちシリコンカーバイド基板)とするに際して,半導体基板の温度を600℃を下回る温度として,相違点2に係る「半導体基板の温度を600°C以下(但し,600°Cを除く)に維持」する構成を備えることは当業者が当然になし得たことである。
よって,相違点2は,当業者が適宜になし得た範囲に含まれる程度のものである。

(5)小括
以上のとおり,本願補正発明は,周知技術を勘案して,引用発明及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
よって,本願補正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5.むすび
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成24年5月7日にされた手続補正は,上記のとおり却下され,また,平成23年11月22日にされた手続補正は,平成24年2月24日付けで却下されているので,本願の請求項1に係る発明は,平成23年3月14日にされた手続補正により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載から見て,その請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(以下「本願発明」という。)

「【請求項1】
半導体基板上にゲート絶縁膜を形成する工程を含む半導体装置の作製法において,半導体基板上にゲート絶縁膜を形成した後に,前記半導体基板の近傍に熱触媒体を配置し,重水素を含むガスを前記熱触媒体の近傍を通過させるようにして,加熱された熱触媒体表面での熱触媒作用により活性化した重水素を生成させ,当該活性化した重水素を前記半導体基板に供給することを特徴とする半導体装置の作製方法。」

2.引用発明
引用発明は,前記第2の4.「(2)刊行物に記載された発明」に記載したとおりのものである。

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを比較する。

ア 引用発明の「半導体装置の製造方法」は,「シリコン半導体基板11を備えた基体にゲート絶縁膜12とゲート電極13とが形成されたシリコン半導体装置10」について,「重水素ラジカルがシリコン半導体装置10に接触して,ゲート絶縁膜12中や,ゲート絶縁膜12とシリコン半導体基板との界面,あるいは,ゲート絶縁膜12とゲート電極13との界面に導入・蓄積され,これらの界面の原子が重水素原子と直接結合し,その原子配列あるいは原子結合状態が安定化される処理工程を有」し,当然に「ゲート絶縁膜12」を形成する工程を含むものといえるから,本願発明の「半導体基板上にゲート絶縁膜を形成する工程を含む半導体装置の作製法」に相当する。

イ 引用発明の「加熱された触媒25」及び「重水素ラジカル」は,それぞれ本願補正発明の「熱触媒体」及び「活性化した重水素」に相当し,また,引用発明において「加熱された触媒25」は,「重水素を含む混合ガスが,加熱された触媒25に接触して接触分解反応し,高密度活性ラジカルである重水素ラジカルを発生」するものであって,さらに「触媒25は,前記重水素ラジカルが均一にシリコン半導体装置10に拡散するように配置されて」いることから,本願発明の「熱触媒体」であって「前記半導体基板の近傍に熱触媒体を配置」したものに相当する。

ウ また,引用発明の「シリコン半導体基板11を備えた基体にゲート絶縁膜12とゲート電極13とが形成されたシリコン半導体装置10を,処理室22内に搬入し,ホルダー21に配置し,ホルダー21を適宜加熱することにより,ホルダー21に保持されたシリコン半導体装置10を加熱し, シャワーノズル24bから発生した重水素を含む混合ガスが,加熱された触媒25に接触して接触分解反応し,高密度活性ラジカルである重水素ラジカルを発生し, ここで,触媒25は,前記重水素ラジカルが均一にシリコン半導体装置10に拡散するように配置されて」いることは,「ゲート絶縁膜12とゲート電極13とが形成された」後になされることは明らかであるから,本願発明の「半導体基板上にゲート絶縁膜を形成した後に,前記半導体基板の近傍に熱触媒体を配置し」たことに相当する。

エ 上記ア?ウから,引用発明の「シリコン半導体基板11を備えた基体にゲート絶縁膜12とゲート電極13とが形成されたシリコン半導体装置10を,処理室22内に搬入し,ホルダー21に配置し,ホルダー21を適宜加熱することにより,ホルダー21に保持されたシリコン半導体装置10を加熱し, シャワーノズル24bから発生した重水素を含む混合ガスが,加熱された触媒25に接触して接触分解反応し,高密度活性ラジカルである重水素ラジカルを発生し, ここで,触媒25は,前記重水素ラジカルが均一にシリコン半導体装置10に拡散するような配置されており, 前記重水素ラジカルがシリコン半導体装置10に接触して,ゲート絶縁膜12中や,ゲート絶縁膜12とシリコン半導体基板との界面,あるいは,ゲート絶縁膜12とゲート電極13との界面に導入・蓄積され」ることは,本願発明の「半導体基板上にゲート絶縁膜を形成した後に,前記半導体基板の近傍に熱触媒体を配置し,重水素を含むガスを前記熱触媒体の近傍を通過させるようにして,加熱された熱触媒体表面での熱触媒作用により活性化した重水素を生成させ,当該活性化した重水素を前記半導体基板に供給すること」に相当する。

オ 引用発明の「半導体装置の製造方法」は,本願補正発明の「半導体装置の作製方法」に相当する。

カ したがって,引用発明と本願発明とは,
「半導体基板上にゲート絶縁膜を形成する工程を含む半導体装置の作製法において,半導体基板上にゲート絶縁膜を形成した後に,前記半導体基板の近傍に熱触媒体を配置し,重水素を含むガスを前記熱触媒体の近傍を通過させるようにして,加熱された熱触媒体表面での熱触媒作用により活性化した重水素を生成させ,当該活性化した重水素を前記半導体基板に供給することを特徴とする半導体装置の作製方法。」
である点で一致し,相違するところがない。

よって,本願発明は,引用発明と同一であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおりであるから,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-04 
結審通知日 2013-03-12 
審決日 2013-03-26 
出願番号 特願2005-6904(P2005-6904)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 113- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川村 裕二  
特許庁審判長 北島 健次
特許庁審判官 近藤 幸浩
早川 朋一
発明の名称 半導体装置及びその作製方法並びに重水素処理装置  
代理人 小越 勇  

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