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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09D
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C09D
管理番号 1274359
審判番号 不服2010-22835  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-08 
確定日 2013-05-13 
事件の表示 特願2004-565257「小粒子銅ピリチオン」拒絶査定不服審判事件〔平成16年7月22日国際公開、WO2004/060062、平成18年4月6日国内公表、特表2006-511665〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は平成15年12月9日(パリ条約による優先権主張 2002年12月20日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成18年10月30日に手続補正書が提出され、平成22年1月7日付けで拒絶理由が通知され、同年5月11日に意見書、手続補正書及び誤訳訂正書が提出され、同年6月3日付けで拒絶すべき旨の査定がされ、これに対し、同年10月8日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書及び上申書が提出され、平成23年1月7日付けで前置審査の結果が報告され、当審において平成24年2月6日付けで審尋され、同年5月18日に回答書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?19に係る発明は、平成22年10月8日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?19にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項13に係る発明(以下、「本願発明13」という。)は以下のとおりである。
「ペイント基材、及び0.25?7μmの範囲内の粒径、及び0.5?2μmのメジアン粒径を有する銅ピリチオン固体粒子を含む、汚染防止ペイント。」

3.原査定の拒絶理由の概要
原査定は、「この出願については、平成22年1月7日付け拒絶理由通知書に記載した理由3、4によって、拒絶をすべき」というものであるところ、当該拒絶理由通知書に記載された理由3とは、概略、「本願発明は、その出願前に頒布された刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない」というものである。

そして、上記拒絶理由通知書には、理由3に関し、以下の事項が記載されている。(なお、本願発明13は上記拒絶理由通知時の特許請求の範囲(平成18年10月30日付け手続補正書参照)の請求項18に該当する。)
「・理由3;請求項1?7、15?20、22、23;引用文献等1
……
・備考
【請求項1?3、15?20、22、23】
引用文献1の実施例1?3、5、比較例1等には平均粒子径が0.6?2μmの銅ピリチオンが記載されている。当該銅ピリチオンのメジアン径も同程度であり、粒径の範囲も本願請求項の規定を満たすと推認される(……)。また、引用文献1の[0001]段落等には当該銅ピリチオンを船底塗料の防汚剤として用いることが記載されている。
……
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2001-048884号公報
……」

4.当審の判断
(1)引用文献及びその記載事項
刊行物1:特開2001-48884号公報

ア.「純度が97%以上で、粒子径が1?5μmであるビス(1-ヒドロキシ-2(1H)-ピリジンチオナト-O,S)銅(II)(以下銅ピリチオンという)。」(特許請求の範囲の請求項1)

イ.「【発明の属する技術分野】本発明は、船底塗料の防汚剤として、塗料やプラスチックなどの抗菌剤や防黴剤として有用な高純度銅ピリチオンおよびそれを高収率で得ることができる銅ピリチオンの工業的製造方法に関する。」(段落0001)

ウ.「【発明が解決しようとする課題】本発明は、船底塗料に用いる際に塗料がゲル化を起こすことがない高純度で最適な粒子径である銅ピリチオンおよびそれを高収率で且つ工業的に有利に製造する方法を提供することにある。」(段落0003)

エ.「【実施例】……
実施例1
APY水溶液の調製:(1-ヒドロキシ-2(1H)-ピリジンチオナト-O,S)ナトリウム(I)298g(2.0モル)を水で溶解し2.5リットルの水溶液(以下、A液という。)を調製した。
無機銅(II)塩水溶液の調製:硫酸銅(II)5水塩250g(1.0モル)を水で溶解し2.5リットルの水溶液(以下B液という)を調製した。
反応段階:容器に水5リットルを入れ80℃に加熱し、撹拌下に反応系内のpH値を1.8、温度を80℃に保ちつつ、A液およびB液を4時間かけて同時に供給しながら混合反応させ、目的とするスラリーを得た。
処理段階:得られたスラリーに硫酸銅(II)5水塩を10g(0.04モル)加え、95℃で7時間処理を行った後、一晩放冷し吸引濾過した。続いて50℃の温水5リットルで吸引水洗後、通風乾燥器中90℃で16時間乾燥した。乾燥ブロックはブロック内部と表面との差のない均一な状態であった。ついで乾燥物をハンマーミルを用いて粉砕して銅ピリチオン微粉末を得た。得られた銅ピリチオン微粉末は緑色で、収量は316gであり、理論値と比較した収率は101%であった。また、化学分析により銅含有量を測定し、理論値と比較した純度は99%以上であり、遠心式自動粒度分布測定装置(堀場製作所「CAPA-500」)で、粒度分布を測定した結果、平均粒子径は2.0μmであった。
実施例2
反応段階でpH値2.9を保持した以外は実施例1と同様にして目的物を得た。乾燥ブロックはブロック内部と表面との差のない均一な状態であった。収率:101%,純度:99%,平均粒子径:1.6μm。
実施例3
反応段階でA液、B液を1時間かけて同時に供給した以外は実施例1と同様にして目的物を得た。乾燥ブロックはブロック内部と表面との差のない均一な状態出会った。
収率:100%,純度:>99%,平均粒子径:1.4μm。
……
実施例5
処理段階で塩化銅(II)2水塩として1.7g(0.01モル)を加えた以外は実施例1と同様に処理した。乾燥ブロックはブロック内部と表面との差のない均一な状態であった。
収率:100%,純度:>99%,平均粒子径:1.5μm。」(段落0008?0010)

(2)刊行物1に記載された発明
上記刊行物1には、「粒子径1?5μmである銅ピリチオン」(摘示ア)が記載され、また、「船底塗料の防汚剤として……有用な高純度ピリチオン」(摘示イ)であること、及び「船底塗料に用いる際に塗料がゲル化を起こすことがない高純度で最適な粒子径である銅ピリチオン」(摘示ウ)であることが記載されていることから、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されているものといえる。
「粒子径1?5μmである銅ピリチオンを防汚剤として含む、船底塗料」

(3)対比
本願発明13と刊行物発明とを対比する。
刊行物発明は、「防汚剤」を含む「船底塗料」であるが、本願明細書の段落0004?0008の記載からみて、本願発明13の「汚染防止ペイント」に相当する。そして、刊行物発明の「船底塗料」は「塗料」すなわち「ペイント」であるから、本願発明13と同様に「ペイント基材」を含むことは自明である。
また、刊行物発明の「粒子径1?5μmである銅ピリチオン」は、本願発明13の「0.25?7μmの範囲内の粒径……を有する銅ピリチオン固体粒子」に相当する。
そうすると、両者は、「ペイント基材、及び0.25?7μmの範囲内の粒径を有する銅ピリチオン固体粒子を含む、汚染防止ペイント」の点で一致し、次の点において、一応相違するものといえる。

相違点:
本願発明13では、「銅ピリチオン固体粒子」について、さらに「0.5?2μmのメジアン粒径を有する」と特定しているのに対し、刊行物発明では銅ピリチオンの「メジアン粒径」について特に規定されていない点。

(4)相違点についての判断
本願明細書には、「0.25?7μmの範囲内の粒径、及び0.5?2μmのメジアン粒径を有する銅ピリチオン固体粒子」を製造する方法として、次の記載がある。
「塵を生じない小さな粒径の銅ピリチオン組成物は、上述のようにして製造された銅ピリチオンと、水性又は有機分散剤とを一緒にし、場合により塵発生防止剤を配合することにより製造される。銅ピリチオン成分の粒径の減少は、銅ピリチオン分散物を製造する前、それと同時に、又はその後で行うことができる。例として、小さな粒径の銅ピリチオンは、銅ピリチオンの製造沈澱中に、又は乾燥粉末を希望の粒径へ粉砕することにより分散物を製造する前に、又は、銅ピリチオン粒子の粒径を小さくするため、ミルのような粉砕力を発生する装置を用いて分散物を製造する間に形成することができる。更に別のやり方として、銅ピリチオン粒子の粒径は、分散工程を行なった後、その分散物を粉砕力にかけることにより、例えば、それを粒径減少ミルに通して処理することにより、減少することができる。適当な粒径減少ミルには、ジェットミル、空気分類(Air classifying)ミル(ACM)、ネッチュ(Netzsch)ミル、ボールミル、又はそのようなミルの組合せが含まれる。更に別のやり方として、超音波処理装置のような超音波により粉砕力を生ずる装置を用いて粉砕力を与えることができる。」(段落0031)

「本発明の特に有利な分散物として、塵発生防止剤は、一種類以上の表面活性剤及び/又は一種類以上の重合体樹脂及び/又は一種類以上の結合剤であり、塵を発生しない小さな粒子の銅ピリチオン分散物は、一般に次のようにして製造される。
選択された重合体樹脂及び/又は表面活性剤を先ず混合容器へ入れ、選択された溶媒中にペイント及び被覆の分野でよく知られている高速分散機の型の混合機を用いて低い速度(一般に約500?800rpm)で混合することにより溶解する。次に銅ピリチオン粉末を添加し、混合速度を1,000?3,000rpmへ増大する。均一な分散物又はペーストが生ずるまで、一般に約1分?約30分混合を継続する。次にこの分散物をネッチュ・ツェーター・ミル(Netzsch Zeta Mill)のような粉砕ミルに入れ、10分?8時間、或いは希望の小さな粒径が達成されるまで混合する。
小さな粒子の銅ピリチオン分散物を製造するための別の方法は、先ずジェットミル、又は希望の小さな粒子を最初に達成することができる空気分類ミルを用いて小さな粒径へ粉末を乾燥粉砕することであろう。次にこの小さな粒子の粉末を、選択された溶媒と共に混合容器中の選択された重合体樹脂及び/又は表面活性剤へ添加し、ペイント及び被覆の分野でよく知られている高速分散機型の混合機を用いて混合する。混合速度は、1,000?5,000rpmである。混合は、均一な分散物又はペーストが生ずるまで、一般に約5分?約50分間継続する。」(段落0040?0042)

「例1-キシレン中に入れた小さな粒径の銅ピリチオン分散物の製造
例1の分散物から300gの粒径試料をとり、その試料を、キシレン溶媒を添加することにより42.8%銅ピリチオンの濃度まで希釈した。次にその希釈した試料をミニ・ツェーター・ネッチュ(Mini Zeta Netzsch)ミルに通して150分間2000rpmで処理した。得られた銅ピリチオン分散物を、ホリバ・レーザー光散乱粒径分析器で分析し、下のデーターを得た。
【表2】

」(段落0052?0053)(なお、「例1の分散物」は「比較例Aの分散物」の誤記と認める。)

「例2
A部-水中に入れた小粒子銅ピリチオン分散物の製造
3gの「ダルバン(DARVAN)」分散剤〔R.T.バンデルビルト社(R.T. Vanderbilt Company,Inc.)からのナフタレンスルホン酸/ホルムアルデヒド共重合体のナトリウム塩〕を、75gの水中に分散した。ダルバンの溶解に続き、77gの銅ピリチオン粉末を、高速分散機(1000?2500rpm)を用いて連続的に混合しながら、ゆっくり添加した。均質な混合物が達成されるまで、撹拌を低剪断で低速度(1000rpm)で継続し、適当な混合物を与えた。次にその分散物(合計155g)を、ミニ・ツェーター・ネッチュ・ミルで90分間2000rpmで粉砕した。得られた銅ピリチオン分散物を、ホリバ・レーザー光散乱粒径分析器で分析し、下のデーターを得た。
【表3】

B部-海洋汚染防止(AF)ペイント中の小粒子銅ピリチオン分散物の評価 下の成分を含む4種類のAFペイントを製造した。
……
上記4つのペイントは、高速分散機で2000rpmで30分間低剪断混合で製造した。
各ペイント中の銅ピリチオンの粒径を下の表に記載する。
【表5】

」(段落0055?0060)(なお、【表5】の表題は平成22年5月11日付け手続補正書により補正されたものであるが、表の内容にあっておらず、誤記と認められる。)

これらの記載からみて、本願発明13で使用する銅ピリチオン固体粒子を「0.25?7μmの範囲内の粒径、及び0.5?2μmのメジアン粒径」とする方法は、特別な手法を採用するものではなく、市販の銅ピリチオン粉末をさらに粉砕すれば足りるものと解される。そして、粉砕後の銅ピリチオン固体粒子の粒径とメジアン粒径は以下に示すとおりほぼ同じになるものと認められる。
例1(表2) 例2A(表3) 例2B(表5)
メジアン粒径 0.98μ 1.84μ 0.98μ
平均粒径 1.06μ 2.11μ 1.06μ

そして、刊行物1には、平均粒子径が2.0μm(実施例1)、1.6μm(実施例2)、1.4μm(実施例3)及び1.5μm(実施例5)の銅ピリチオンが記載されており(摘示エ)、これらはいずれも乾燥銅ピリチオンを粉砕して得たものであるから(摘示エ)、メジアン粒径もほぼ同じであると認められる。
そうすると、上記相違点は実質的に相違点ではない。

(5)請求人の主張について
請求人は審判請求書の請求の理由において、次の主張をしている。
「引用文献1は、銅ピリチオンを合成する方法に関するものです。この引用文献には、本発明で要求されている粒径やメジアン粒径を有するいかなる銅ピリチオン粒子も開示されていません。
具体的には、引用文献1は、該引用文献に開示されている方法に従って合成される銅ピリチオンは1?5ミクロンの直径又は平均粒子径を有するものです。実施例に示されている通り(例えば、段落番号0008をご参照下さい。)、粒径を決定するために、引用文献1では、堀場製作所「CAPA-500」を使用しています。当業者に知られている通り、この装置は、遠心力を与え、液体を通り抜ける粒子の走行速度を、ストークス法(Stork’s Law)に従ってその大きさと関連付けることによって、粒径を測定します。その粒子が球形でなければ、その試験方法は、粒径を正確には決定することができません。何故ならば、実際の形状は非球形となる可能性を補償するものではないからです。例えば、もし粒子が針状であれば、その方法によって測定される直径は、粒径の短径になるかもしれないので、誤った直径を導くことになってしまいます。そして、引用文献1には、本発明で要求されるメジアン粒径範囲に関する記載や示唆がありません。逆に、本願では、粒子を球形と仮定するレーザー光散乱によって粒径を測定しているので、非球形を考慮しています。もし、堀場製作所「CAPA-500」の代わりに、レーザー光散乱下で測定されれば、引用文献1に開示された粒子は、引用文献1に報告されたものとは異なる粒径を有するでしょうし、本発明で要求されている粒径及び/又はメジアン粒径範囲を粒子とは異なるものになるはずです。」

しかしながら、本願請求項13には、粒径の測定方法について特定しておらず、明細書の発明の詳細な説明においても、本願発明13の粒径及びメジアン粒径が特定の粒径測定方法によるものであることを定義しているわけでもない。そうすると、請求項に係る発明を特定の測定法によるもののみに限定した解釈とすることは妥当ではない。
そして、粒径を測定する方法が異なっているとしても、そのことだけで粒子形状が異なるとすることは妥当ではない。刊行物1の実施例においても、製造された銅ピリチオン粉体をさらに粉砕しており、本願明細書に記載された製造方法と相違するものではないから、刊行物発明における銅ピリチオンは「非球形」であって、本願発明とは異なるとする根拠もない。
したがって、上記請求人の主張は採用できない。

(6)小括
本願発明13と刊行物1に記載された発明とは相違点が存在しないことから、本願発明13は刊行物1に記載された発明である。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明13は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-13 
結審通知日 2012-12-14 
審決日 2012-12-26 
出願番号 特願2004-565257(P2004-565257)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09D)
P 1 8・ 113- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 牟田 博一  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 小出 直也
星野 紹英
発明の名称 小粒子銅ピリチオン  
代理人 浅野 裕一郎  
代理人 浅村 肇  
代理人 安藤 克則  
代理人 浅村 皓  

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