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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A23L
管理番号 1274412
審判番号 無効2011-800111  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-06-29 
確定日 2013-02-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第4693913号発明「即席乾燥麺およびその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4693913号の請求項1ないし7に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯の概要

本件特許第4693913号についての手続の経緯の概要は以下のとおりである。

平成21年 3月 6日:出願
平成23年 3月 4日:特許権の設定登録
平成23年 6月29日:審判請求書、甲第1号証ないし甲第4号証提出
平成23年 9月27日:審判答弁書、乙第1号証ないし乙第8号証提出
平成23年11月 7日:口頭審理事項通知
平成23年12月 5日:口頭審理陳述要領書(請求人)、
甲第5号証ないし甲第6号証提出
平成23年12月 5日:口頭審理陳述要領書(被請求人)、
乙第9ないし12号証提出
平成23年12月 5日:上申書(乙第5号証の訂正)提出(被請求人)
平成23年12月15日:上申書(1)(答弁書の訂正)、
上申書(2)(口頭審理陳述要領書の訂正)
提出(被請求人)
平成23年12月19日:口頭審理

第2 請求人の主張の概要

請求人は、本件の請求項1ないし7に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、審判請求書とともに甲第1号証ないし甲第4号証を提出し、さらに、口頭審理陳述要領書とともに甲第5号証ないし甲第6号証を提出し、本件請求項1ないし7に係る発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものであると主張している。
請求人が提出した証拠方法は以下のとおりである。

甲第1号証:特開昭59-63152号公報
甲第2号証:特開2002-253152号公報
甲第3号証:特開2000-93106号公報
甲第4号証:「JIS,ASTM,Tylerのふるいの対照表」
(「単位の辞典」改訂4版、平成6年5月25日発行、
298?301頁)
甲第5号証:広辞苑第六版、2008年1月11日発行、1007頁
甲第6号証:日清食品ホールディングス株式会社 食品開発部
山屋多津男による「実験成績証明書」、2011年12月1日

第3 被請求人の主張の概要

被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判の費用は請求人の負担とするとの審決を求め、答弁書とともに乙第1号証ないし乙第8号証を提出し、口頭審理陳述要領書とともに乙第9ないし12号証及び上申書、さらに上申書(1)、上申書(2)を提出し、請求人の主張する理由及び証拠によっては本件発明の特許を無効とすることはできないと主張している。
被請求人の提出した証拠方法は以下のとおりである。

乙第1号証:(社)日本即席食品工業協会監修、「新・即席めん入門」、
株式会社日本食糧新聞社、平成10年3月30日新版発行、
56、69、71頁
乙第2号証:平成23年1月20日付け「特許メモ」
乙第3号証:特開昭55-64773号公報
乙第4号証:サンヨー食品株式会社 マーケティング本部・開発部
永山嘉昭による「実験成績証明書(1)」、
2011年9月26日
乙第5号証:サンヨー食品株式会社 マーケティング本部・開発部
永山嘉昭による「実験成績証明書(2)」、
2011年9月26日
乙第6号証:「小麦粉専門店 パウド」ネットカタログ
(URL:http://www.paudo.com/
contents/seibun/index.php
より入手)
乙第7号証:「小麦粉専門店 パウド 用途別」ネットカタログ
(URL:http://www.paudo.com/
products/list.php?category
_id=6&PHPSESSID=2418e61154
b4d16eec2f451bd3efd2gdより入手)
乙第8号証:「理研ビタミン 食品用乳化剤」ネットカタログ
(URL:http://www.rikenvitam
in.jp/business/material/so
zai/emulsifier.htmlより入手)
乙第9号証:(社)日本即席食品工業協会監修、
「日本が生んだ世界食 インスタントラーメンのすべて」、
株式会社日本食糧新聞社、平成16年12月20日初版発行、
62?68、72頁
乙第10号証:「商品実務知識 即席めん」、
日本食糧新聞社、昭和44年5月31日発行、20?27頁
乙第11号証:サンヨー食品株式会社 マーケティング本部・開発部
永山嘉昭による「製造工程の比較資料」
乙第12号証:サンヨー食品株式会社 マーケティング本部・開発部
永山嘉昭による「実験成績証明書(3)」、
2011年12月1日

第4 本件発明

本件の請求項1ないし7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明7」という。)は、以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
主原料に対し固形状の油脂および/又は乳化剤を含有する麺原料により作成したドウを、押し出し成形機を用いて、減圧下において圧力を加え小塊又は板状となした後に製麺された麺線をα化し、次いで当該麺線を熱風により乾燥させることを特徴とする即席乾燥麺の製造方法。
【請求項2】
固形状の油脂又は/および乳化剤が、粒子径0.1mm以上の粉末粒状の油脂または乳化剤である請求項1に記載の即席乾燥麺の製造方法。
【請求項3】
前記粉末粒状の油脂または乳化剤がスプレークーリング法又はドラムドライ法により製造されたものである請求項2に記載の即席乾燥麺の製造方法。
【請求項4】
前記固形状の油脂または乳化剤の融点が50℃?70℃である請求項1?3のいずれか一項に記載の即席乾燥麺の製造方法。
【請求項5】
前記固形状の油脂または乳化剤の添加量が、主原料に対して、0.5?10%である請求項1?4のいずれか一項に記載の即席乾燥麺の製造方法。
【請求項6】
前記α化の手段として、蒸気を用いる蒸し機を使用することを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載の即席乾燥麺の製造方法。
【請求項7】
前記即席麺を乾燥させる際の熱風が、温度60℃?100℃の範囲の熱風を単独もしくは組み合わせたものである請求項1?6のいずれか一項に記載の即席乾燥麺の製造方法。」

第5 証拠の記載事項

1 甲第1号証の記載事項
(1a)「(1)乾めん、即席めん等のめん類を製造するにあたり、原料粉に、常温で固型状をなしている食品用乳化剤および/または常温で固型状をなしている食品用油脂類を添加し、混合することを特徴とする早もどりめん類の製造方法。
(2)固型状食品用乳化剤の添加量が0.2?3%である特許請求の範囲第1項に記載の方法。
(3)固型状食品用油脂の添加量が0.2?15%である特許請求の範囲第1項に記載の方法。
(4)固型状食品用油脂および固型状食品用乳化剤からなる混合物の添加量が0.2?15%である特許請求の範囲第1項に記載の方法。」(特許請求の範囲)

(1b)「本発明は乾めん、即席めん、マカロニ、茹めん、皮類等のめん類の製造に際して常温で固型状をなしている食品用乳化剤および/または常温で固型状をなしている油脂類を添加、混合する製造法に係り、その目的とするところは、めんの食味を低下することなく、喫食時のめんのほぐれをよくし、復元性を極めて早く改善することにある。」(1頁左下欄下から3行?同頁右下欄4行)

(1c)「めんの食味は従来から“あし”とか“こし”と表現されているようにその太さ、弾力性・・滑らかさ、もちもち性などの物理的な感触の占める割合が大きく、これは主にめんのつくり方とめんの太さ、または、厚みによるところが大である。」(1頁右下欄5?9行)

(1d)「このような視点からめんの復元時間を改善する工夫はいろいろなされてきた。例えば、原料小麦粉にでん粉を添加し、めん形成の蛋白質含量を減少すると同時にでん粉質の糊化を高度に行なうことが知られているが、蒸煮時に、加えたでん粉が過度に膨潤糊化し、めん線同志が付着して糊化が均一にならず、又、生産作業性も低下し同時に喫食時のほぐれが悪く、復元性にバラツキが生じる欠点があつた。又、膨化剤等を加えその気泡により多孔質化して復元性を改善する試みもあるが、気泡がめん組織を破壊するため滑らかで弾力性のある食味のめんをつくることが出来ない。更に、製めん時に圧延ローラーを少なく、または弱くしてめんに気泡を含ませる試みもあるがめんの弾力性、復元後の湯のびの点で不充分である。その他めん線に筋をつける方法も工夫されているが復元性に長時間かかるものに対してはそれなりの効果があるが細いめん線には利用しにくい。そして即席めん類のようにお湯を注いで3?5分と復元性も極に達したものに、更にもつと早く喫食できるめんへの利用は従来の技術だけでは困難であつた。
本発明はこのような欠点を解消し消費者のニーズに適したものを研究、開発中に製めん原料に常温で固型状をなしている乳化剤および/または常温で固型状をなしている油脂を添加、混合して常法により製めんし、蒸煮後、熱風乾燥又は油揚乾燥して得られた即席めんのめん線に無数の微小孔が生じ、同時にめん線同志の付着が極めて少なく、喫食時にお湯を注ぐとほぐれが早く、復元時間が従来の1/2?1/3に短縮され、その食味も従来のものに比べ弾力性、滑らかさに富み、スープとの調和した商品価値の高いものが得られることを発見した。即ち、本発明は上記知見にもとづくものであり、製めん原料に常温で固型状をなしている食品用乳化剤および/または常温で固型状をなしている油脂類を添加、混合して製めんし、その後の工程で無数の微小孔を有し、かつ、ほぐれのよいめんの製造方法であり、従来の食味を改善するとともに復元性の極めて早いめんを消費者に提供しようとするものである。」(2頁左上欄9行?同頁左下欄8行)

(1e)「本発明を詳述すると小麦粉又は小麦粉を主体としこれに穀粉、又はでん粉を混合した原料粉に公知のめん質改良剤、食品添加物、調味料、水等と同時に、常温で固型状をなす食品用乳化剤0.2?3%、または、常温で固型状をなす食品用油脂0.2?15%もしくはその混合物0.2?15%を、添加、混合し、充分練りあげて常法により製めんする。」(2頁左下欄9?16行)

(1f)「本発明の方法を実施する上で使用できる常温で固型状の食品用乳化剤は例えば、脂肪酸モノグリセライド、シヨ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等である。
本発明の方法を実施する上で使用できる常温で固型状の食品用油脂は例えば、極度硬化牛脂または水添固型牛脂のような動物性油脂および極度硬化パーム油、水添固型大豆油または水添固型綿実油のような植物性油脂である。
本発明で使用する食品用乳化剤および油脂は熱溶融性であり、粉末または粒状であることが好ましい。融点は40℃以上、好ましくは50℃以上であり、粒径は10メツシユ、好ましくは20メツシユであることが好ましい。融点を40℃以上としたのは製めん時の摩擦熱で溶融しないことが必要なためである。また、粒径が10メツシユより大きくなると短いめん線の場合、切れるおそれがある。
乳化剤の添加量が0.2%未満だとほぐれの効果が少なく、また3%より高いと乳化剤の油臭が残り食味をそこなう。また、油脂の場合、0.2%未満だと乳化剤と同様であるが、15%より高いとめん線のつながりが悪くなるので好ましくない。」(2頁左下欄17行?同頁右下欄19行)

(1g)「得られた製めん生地を切刃等でめん線とし、0.5?2kg/cm^(2)の圧力の蒸気で1?4分間蒸煮する。この蒸煮工程は復元性の基本であるでん粉質の糊化及び使用した固型状をなしている乳化剤および/または油脂の熱溶融化を行ない、更にでん粉質と乳化剤および/または油脂の結着を促進する。蒸煮後のめん線は必要なら調味した後、個々に切断し、熱風乾燥もしくは油揚乾燥を行なう。」(2頁右下欄最下行?3頁左上欄7行)

(1h)「常温で固型状をなす食品用乳化剤および/または油脂は製めん工程でめんの表面及び内部に無数に点在するが、続く蒸煮工程に於てその部分が蒸気温度により溶融、液化し、めんの表面及び内部に無数の微小孔を生じ乾燥工程後もこれが残り多孔質のめんとなる。このようにして得ためんにお湯を注ぐと、多孔質のため復元性は極めて早い。即ち、めんの復元性は前記のようにめんの太さ(厚み)に関係するが、それはめんの表面から中心までの距離に関係するものであつて微小孔が無数にあいているということはそれだけ中心までの距離が事実上短いという構造によるものである。本発明によるめんの多孔質は従来からある膨化処理によるものではなく、又、混合工程を少なくしグルテン形成をおさえた形の多孔質ではなく、充分練り上げてあるため、めんの組織がしつかり形成されたものであり、めん本来の弾力性を主とする食味を保つたものである。
更に、乳化剤の場合はでん粉と作用し、糊化状態を改善しその界面活性により復元時のお湯の浸透性を均一に早くし、従つて、スープとの調和も改善する。そして、乳化剤および/または油脂の作用によりでん粉の糊化によるめん線同志の付着性を減少させるためにめん線のほぐれは極めて良い。
以上のように本発明は、めん類を製造するにあたり常温で固型状をなしている食品用乳化剤および/または常温で固型状をなしている油脂を添加、混合することにより無数の微小孔を有する多孔質めんをつくると同時に、その作用により、めん線同志の付着をなくし、又、お湯の浸透性をよくすることにより、喫食時に、お湯を注ぐと、ほぐれ易く、復元性が極めて早い、しかも、スープのりがよく、食味の向上しためんを得ることが出来るものでますます簡便化に志向する食生活において、その利用価値は極めて高いと確信している次第である。」(3頁左上欄17行?同頁左下欄13行)

(1i)「実施例 1.
小麦粉1kgに固型状脂肪酸モノグリセライド20gを添加均一混合した後、水350ml、食塩20g、かんすい2gの混合液を加え、充分練り上げたのち、常法で製めんし、ロールで0.8m/mに圧延し、#18切刃でめん線とした後、0.8kg/cm^(2)の蒸気で2分間蒸煮し、次いで150℃のラードで2分間油揚乾燥しめん製品を得た。
実施例 2.
小麦粉1kgに固型状脂肪酸モノグリセライド20gを添加し、均一に混合した後、水350ml、食塩15g、かんすい4gの混合液を加え、充分練り上げた後、常法で製めんしロールで1.0m/mに圧延し、#18切刃でめん線とした後、0.8kg/cm^(2)の蒸気で2分間蒸煮し、型枠に入れ80℃の熱風で40分間乾燥し、めん製品を得た。
(略)
比較例 A
小麦粉1kgに液状レシチン20gを添加し、均一に混合した後水350ml、食塩20g、かんすい2gの混合液を加え、充分練り上げる。それ以後実施例1と同様な操作によりめん製品を得た。
比較例 B
小麦粉1kgに水350ml、食塩15g、かんすい4gの混合液を加え、充分練り上げる。それ以後は実施例2と同様な操作により、めん製品を得た。」(3頁左下欄下から2行?4頁左下欄2行)

(1j)「以上の実施例及び比較例により得ためん製品の評価は下記の通りである。

実施例
および めんのほ スープと めんの
比較例
番 号 ぐれ具合 復元性 の調和性 食 味 総合評価
1 5 5 5 5 5
2 5 5 5 5 5
・・・
A 4 3 3 4 3
B 2 3 3 4 3
・・・
(注)
5・・・非常によい; 4・・・ややよい; 3・・・普通;
2・・・やや悪い; 1・・・非常に悪い」(4頁左下欄下から2行?同頁右下欄最下行)

2 甲第2号証の記載事項
(2a)「【請求項1】麺生地を脱気して小塊又は板状体とする第1の工程と、前記小塊又は板状体を麺線に製麺し蒸煮する第2の工程と、前記麺線を麺塊に裁断する第3の工程と、前記麺塊に風向きの異なる熱風を時間差を与えて供給し前記麺塊の表面を予備乾燥をする第4の工程と、前記麺塊を高温熱風による本乾燥により微発泡状態にする第5の工程とを備えたことを特徴とする即席麺の製造方法。」(特許請求の範囲)

(2b)「【0002】
【従来の技術】従来から即席麺の乾燥方法としては、油揚げ乾燥方法と非油揚げ乾燥方法とに大別され、非油揚げ乾燥方法としては熱風乾燥方法が一般的に知られている。一般的に即席麺は、主原料として小麦粉、各種澱粉を用い、中華麺においてはかんすい、和風麺においてはかんすいに代えて重合リン酸塩等を使用する。必要に応じて、食塩、粉末卵、増粘多糖類、油脂類、レシチン、その他を添加して混捏後に、常法により製麺し、蒸煮後に所定の乾燥方法により油揚げ麺及び非油揚げ麺であるノンフライ麺が得られる。」

(2c)「【0007】特許第3009998号においては、真空ミキサを使用することにより、減圧条件下で生地を調整する工程を経て、更には親水性乳化剤溶液を付着させ、低温熱風乾燥を行う方法が開示されている。この方法において得られる乾燥麺は、喫食時のほぐれ性は改善されているものの、低温熱風乾燥方法の特長である緻密な構造であるために復元性は悪く、硬いゴム状の食感があり、生麺のような粘弾性は得られない。」

(2d)「【0020】常法により作製した生地を脱気する工程は、真空ミキサによって混練しながら生地中の空気を除去する方法や、高圧縮ロールを用いて脱気する方法を用いてもよいが、より効果的な方法としては、作製した生地を減圧下又は常圧下において押圧力を加えて脱気することにより、生地の密度を高くして、小塊又は板状体とすることが好ましい。
【0021】原料として小麦粉、そば粉、澱粉等を用い、必要により食塩、かんすい、増粘多糖類等の副原料を添加し、混捏する工程で生地を脱気するか、又は混捏した生地をエクストルーダ又は押し出し成形機において、減圧下又は常圧下において押圧力を加えてチップ状に押し出して小塊を形成するか、或いは板状体に押し出したものをロールで圧延し麺帯とし、切刃により麺線に切り出して連続的に蒸した後に、1食分ずつ裁断して乾燥用型枠内に充填する。」

(2e)「【0026】最後に本乾燥として、熱風温度110?145℃(好ましくは115?135℃)、風速10?25m毎秒(好ましくは15?20m毎秒)に調整された隔壁を有する複数の本乾燥室を、所要時間2?4分間で通過させ、麺中の水分を7?14%にしながら麺線外側部及び中心部を微発泡状態とする。麺線中心部は予備乾燥による硬化が及んでいないため、微発泡ではあるが外側部分よりもやや発泡の程度は高く、気泡も外側部分よりも多めに存在する。」

(2f)「【0041】数値例1:真空ミキサにより混捏した生地を作成し、脱気した生地を複合製麺後に、切刃:20丸、麺厚:1.40mmで切り出し、連続的に蒸煮した後に、重量115gに裁断した蒸し麺を乾燥用型枠に充填する。その後に、温度100℃、風速4m毎秒に調整してある上下2段の予備乾燥段階を3分30秒間実施し水分を24%に調整した後に、温度120℃、風速20m毎秒に調整してある本乾燥段階の2分間を経て、最終水分8%の即席中華麺を得た。
【0042】数値例2:常法により混捏した生地を作成し、生地をエクストルーダを用いて押圧力を加えて脱気し、直径5?50mmのダイスを通して円筒状の生地を押し出し、それを長さ5?50mmのチップ状にカットし、その小塊を複合製麺後に、切刃:20丸、麺厚:1.40mmで切り出し、連続的に蒸煮した後に、重量115gに裁断した蒸し麺を乾燥用型枠に充填する。その後に、温度100℃、風速4m毎秒に調整してある上下2段の予備乾燥段階を3分30秒間実施し水分を24%に調整した後に、温度120℃、風速10m毎秒に調整した乾燥機で2分間本乾燥させ最終水分8%の即席中華麺を得た。
【0043】数値例3:常法により混捏した生地を作成し、生地についてエクストルーダ中を真空度300?760mmHgにおいて押圧力を加えて脱気しながら、直径5?50mmのダイスを通して円筒状の生地を押し出し、それを長さ5?50mmのチップ状にカットし、その小塊を複合製麺した後に、切刃:12角、麺厚:120mmで切り出し連続的に蒸煮した後に、重量110gに裁断した蒸し麺を乾燥用型枠に充填する。その後に、温度100℃、風速4m毎秒に調整してある上下2段の予備乾燥段階を4分30秒間実施し水分を24%に調整した後に、温度120℃、風速10m毎秒に調整した乾燥機で2分間本乾燥させ最終水分9%の即席和風麺を得た。」

(2g)「【0044】
【発明の効果】以上説明したように本発明による即席麺の製造方法は、先ず生地を脱気することにより麺線の発泡を抑制し、蒸煮後の麺線を少なくとも2段階の予備乾燥を行うことにより麺線の表面部分のみ硬化させ、高温熱風による本乾燥で麺線の発泡を制御して微発泡状態の乾燥麺となすことによって、喫食時に生麺のような粘弾性のある食感の即席麺を得ることができる。」

3 甲第3号証の記載事項
(3a)「【請求項1】融点45?75℃の粉末状の油脂を穀類粉または及び澱粉に対して0.2?10重量%配合することを特徴とする麺類の製造方法。
【請求項2】粉末状の油脂の融点が50?65℃である請求項1記載の麺類の製造方法。
【請求項3】麺類がノンフライ麺である請求項1?2記載の麺類の製造方法。」(特許請求の範囲)

(3b)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、麺類の製造方法に関し、詳しくは粉末状の高融点油脂を配合することにより、特にノンフライ麺において湯戻り性やスープや調味液とのなじみ性等の麺質を向上させる麺類の製造方法に関する。」

(3c)「【0011】この粉末状の高融点油脂を添加することによって、復元性やスープなじみ性が良好になる理由は、詳細には不明だが、添加された粉末状の高融点油脂がその乾燥工程中にごく一部しか溶解せずにノンフライ麺生地中に空隙を作り、ノンフライ麺生地中および表面に微細な穴を開け、その空隙に湯が浸透する事により、復元性が向上し、スープとのなじみ性も良好になると推測している。さらには、生じる空隙が微細であるために麺の艶が損なわれず、本来油脂のもつ離型効果も働いてほぐれ性も向上すると考えられる。」

(3d)「【0012】本発明で用いられる油脂は食用油脂であれば特に限定されるものではなく、パーム油、菜種油、大豆油、ひまわり油、コーン油、綿実油、サフラワー油、米ぬか油、やし油、パーム核油の硬化油およびエステル交換油等が例示できる。
【0013】本発明に用いる油脂の形状は粉末である必要がある。粉末状とは、リンペン状、球状、棒状等のものを指し、いわゆる粉体であればよい。液状またはペースト状の油脂を添加すると、麺ほぐれ性は改良できるが、復元性、スープなじみ性までは改良できない。粉末油脂の作成方法は特に限定されることはないが、溶解した油脂を冷却塔(チラー)の中へ噴霧して粉末化するスプレークーリング方式や溶解した油脂を冷却されたドラム上へ流し固化せしめてかきとるドラムフレーク方式等が挙げられる。
【0014】粉末状の油脂の粒子径は平均粒子径が0.1mm以上であれば特に限定されないが、使用する小麦粉や澱粉等の穀粉とうまく混合できることが好ましく、JIS規格篩大きさにおいて10#オールパス品くらいの大きさが好ましい。平均粒子径が0.1mm未満のもの、例えば、糖類、蛋白質、乳化剤を用いて油脂を乳化したものを噴霧乾燥などして得られる油脂組成物も「粉末油脂」と呼ばれているが、このものは多数の微細な油脂粒子と糖類、蛋白質などからなる集合体が粉末粒子を形成し、見かけ状の粒子径が大きくとも、油脂の実質的粒径は非常に小さな(10ミクロン程度)ものとなっている、そのため、上記空隙は明瞭には形成されず本発明の効果を奏さない。
【0015】本発明に用いる粉末状の高融点油脂の添加量は、小麦粉などの穀類粉または及び澱粉に対して0.2?10重量%であることが必要であり、好ましくは0.5?3重量%である。0.2%未満であると得られたノンフライ麺のほぐれ性が劣ってしまい、10%を超えると得られたノンフライ麺が粉っぽくなってしまい商品としての味に問題を生ずる。
【0016】また、これらの粉末状の高融点油脂の融点は45?75℃であることが必要であり好ましくは50?65℃である。粉末状の高融点油脂の融点が45℃未満であると、乾燥中に溶解してしまうために、ノンフライ麺表面に油脂が浮き出て、酸化劣化して変敗臭を生じ易くなってしまう。さらに融点が低く液状またはペースト状となると、すでに述べたごとく、復元性、なじみ性の改良は困難となる。麺生地に油脂が溶け込んで一体となるため生地中への微細な空隙の生成が困難となるためであろう。また75℃を超えると得られたノンフライ麺の復元性が逆に下がってしまうため好ましくない。」

4 甲第4号証の記載事項
表-1 JIS,ASTM,Tylerのふるいの対照表中、Tylerに関して以下の記載がある。
呼び(メッシュ) ふるいの目の開き(mm)
65 0.208
60 0.246
48 0.295
・・・
24 0.701
20 0.833
16 0.991
・・・
12 1.397
10 1.651
9 1.981

5 甲第5号証の記載事項
「こし【腰】・・・5(審決注:○に数字の5)(「腰の力」の意)弾力・粘りなど。「-の強い餅」・・・」(1007頁、3段9?21行)

6 甲第6号証の記載事項
本願明細書記載の試験例2<ほぐれ効果の測定>を追試する実験を行った結果が示されている。
実験は、本願明細書の段落[0052]?[0085]、[0090]の記載を参考にし、詳細が不明な部分は、可能な限り本願明細書記載の方法に準じて行い、少なくとも、「真空麺帯機使用×粉末油脂添加」の条件が最もほぐれが良いとはいえない結果であったことが示されている。

7 乙第1号証の記載事項
(7a)「3)食用油脂
油揚げ即席めんにおける油揚げ用油脂は、主としてパーム油、調製ラード、純製ラードまたはこれらの混合油が使用されている。パーム油は主としてマレーシアで産出されるパームの果肉に含まれる油を圧搾、精製(脱ガム、脱酸、脱色、脱臭)したもので、この精製パーム油は融点が三五?三六℃であるので、常温では、油揚げめんから油がにじみでてベタつくということもなく、それ自身の保存安定性も高い。」(56頁上段1?10行)

(7b)「7 乾燥
1(審決注:○に数字の1) 油熱乾燥
即席めん類の生産量のうち八割以上(JAS受検品では九割以上)は油揚げめんである。全工程のうちこの油熱乾燥は、工程管理上および品質管理上極めて重要な部分であり、即席めんの即席たるゆえんはこの工程が開発されたことにある。
型詰めされためん線は、通常水分を三〇?五〇%含有するが、温度一四〇?一六〇℃の熱油の中を一?二分間通過させることにより、短時間で水分二?五%、油脂含量一五?二〇%に脱水乾燥される(JAS規格では、水分一〇%以下に規定)。そして同時にでん粉のα化状態が固定される。その際、めん線中の水分が存在した部分が微空洞化して多孔質になり、熱湯により数分間で復元するようになる。また、併せて即席めん独特の風味も付与される。これが、即席めんの保存がきき、おいしく簡便に食することのできる重要なポイントである。」(69頁上段11?下段11行)

(7c)「2(審決注:○に数字の2) 熱風乾燥
油熱乾燥に比べて復元性はやや劣るが、油熱乾燥にはない風味、食感が得られる方法として熱風乾燥方式がある。これは一般的には七〇?九〇℃の熱風により三〇?四五分かけて、リテイナーに型詰めされためん線の水分を八?一二%程度に乾燥し、保存性をあげる方法である。乾燥程度は、水分含量によって規定され、非油揚げめんの場合は、JASにより一四・五%以下とされている。
この熱風乾燥には、油脂を使用しないので酸化(酸敗)による麺の劣化がないというメリットがあるが、他方で、乾燥時間が長く作業性や生産性が悪い。乾燥条件を一定に保つことが難しく製品の安定性が悪くなる、というデメリットもある。」(71頁下段2?15行)

8 乙第2号証の記載事項
本件特許の「特許メモ」が記載されている。

9 乙第3号証の記載事項
(9a)「特許請求の範囲
(1)小麦粉を主原料とし、これに水または食塩水およびかんすい等を加えて混練するに際し、デンプン類と融点30℃以上の油脂類とエチルアルコールとをあわせ加えて混練することを特徴とする即席洋風麺の製造方法。」(特許請求の範囲、請求項1)

(9b)「デンプン類の添加方法は、あらかじめ計量後の小麦粉に、デンプン類を加えながら攪拌し、よくまぜる。
通常、ミキサー中にあらかじめ小麦粉を入れ、ミキサーの羽根を回転させながら、デンプン類を少しずつ加え、添加後約5分位撹拌を続ける。
次に融点30℃以上の油脂類としてパーム油、ラード、牛脂あるいは綿実硬化油などの硬化油類、あるいはそれらの混合物、ないしはシヨートニング、マーガリン、バターなど一般に食品に用いられるものであればいずれでもよい。
油脂類の添加量は、小麦粉に対し0.4?10%、好ましくは1?5%である。
油脂類の添加量が低すぎると、スパゲツテイ様の外観が出にくく、多過ぎると麺帯や麺線が切れ易くなるとともに食感が悪くなる。
油脂類の添加方法としては、小麦粉とデンプン類がよくまざつた中に、あらかじめ30℃以上、150℃以下に温めて溶かしておいたものを少しずつ撹拌をしながら添加する等の方法をとることができる。」(3頁左下欄16行?同頁右下欄16行)

(9c)「油脂類とエチルアルコールの添加方法は、各々を別々に加えてもよいが、油脂類とエチルアルコールとを合わせて使用してもさしつかえない。
油脂類は、前述のように、30℃以上に加温し、液状になつたら加温を止める。油脂類は液状になつておれば、温度は低い方がよい。油脂類の添加量は、エチルアルコールが作業性に対して多少は改善方向に作用するため、やや多目にしてもあまり影響はないが、過多の場合には作業性が劣る。」(4頁左下欄5?15行)

10 乙第4号証の記載事項
水蒸気膨化による多孔質化と、粉末粒状油脂の溶解による多孔質化の条件の違い、それらによって麺線に付与される空隙や空洞のサイズ、形状の違いが示されている。

11 乙第5号証の記載事項
麺線の原料であるドウを、乾燥即席麺の分野において通常使用される混ねつ手段である通常ミキサーを使用して得たもの、それを更に常圧下における押出機、又は減圧下における押出機を使用して得られた小塊が示されている。
減圧下における押出機を使用したものは、他のものに比べ透明感のある黄色の小塊であり、小塊の内部が充分に脱気された緻密な構造であることを示している。

12 乙第6号証の記載事項
「成分用語
灰分(かいぶん)
(略)
粗蛋白
(略)
グルテン
穀粉類の多くはたんぱく質含量に大きな違いがないにもかかわらず、このグルテンを形成する特性を持つのは小麦粉だけです。グルテンはパンやめんをつくる際に、形を保つ骨格の役目をするし、イースト発酵で生地がふくらむのも、グルテンがガスを包み込んで膨張するからです。
種類
オーストラリア小麦
■オーストラリア・スタンダード・ホワイト(ASW)
日本式麺に適していると言われている。
色調:クリーミーホワイト
食感:適度な粘弾性
■プライム・ハード
オーストラリアにおける硬質小麦製パン適正が高い
中華麺用粉などへの配合用としての適正あり
アメリカ小麦
■ダーク・ノーザン・スプリング(DNS)
製パンに敵していると言われている。
■ハード・レッド・ウィンター(HRW)
アメリカで生産量が一番多い。
■ウェスタン・ホワイト(WW)
ケーキ・菓子に敵していると言われている。
カナダ小麦
■No.1・カナダ・ウェスタン・レッド・スプリング(1CW)
世界的に見ても「最も製パンに適している」と言われている。
■デュラム小麦
パスタ用セモリナの原料。
日本小麦
■主な生産地
北海道、北関東、九州
■品種
ホクシン、農林61号など、主に日本式麺(うどん)用粉に使用。」

13 乙第7号証の記載事項
「小麦粉用途(153)
パン用小麦粉(62)
菓子用小麦粉(23)
日本麺用小麦粉(27)
中華麺用小麦粉(22)
パスタ・ピザ用小麦粉(9)
たこ・お好み焼き用小麦粉(10)」

14 乙第8号証の記載事項
「食品用乳化剤
(略)
グリセリン脂肪酸エステル
種類
蒸留モノグリセライド(グリセリン脂肪酸エステル)
品名 : 性状
エマルジーMS(10Kg) : ビーズ状粉末
エマルジーMS(20Kg) : ビーズ状粉末
エマルジーMS粉末 : 粉末
醸造用エマルジー : ビーズ状粉末
味噌用エマルジーMS : ビーズ状粉末
豆腐用エマルジーA : ビーズ状粉末
エマルジーMH : 粉末
ポエムB-100 : ビーズ
エマルジーP-100 : ビーズ状粉末
エマルジーML-N : ロウ状塊
エマルジーOL-100H : ロウ状塊
エマルジーHRO : 半流動体又は塊
エマルジーMO : ロウ状塊
エマルジーMO(M) : ロウ状塊
エマルジーMU : 半流動体又は塊
ポエムM-100 : ロウ状塊又は半流動体
ポエムM-200 : ロウ状塊又は半流動体
ポエムM-300 : ロウ状塊又は半流動体」

15 乙第9号証の記載事項
(15a)「(2)製造工程
1(審決注:○に数字の1) めん類の製造工程
(略)このうち即席めんがその他のめん類と大きく異なる点は、蒸煮工程と油熱乾燥工程または熱風乾燥工程を採っていることである。特に安藤百福氏によって瞬間油熱乾燥法が発明され、これによって簡便調理可能な即席めんが具体的な商品として誕生し、今日の即席めんの一大市場を形成したことは周知のとおりである。
2(審決注:○に数字の2) 即席めんの製造工程
原材料と同様、製造工程の管理が即席めんの品質に与える影響は極めて大きいものがある。
以下に、即席めんの一般的な製造工程について、具体的に述べていく(図5-1参照)。
1)原料配合および混ねつ
ミキサー(混ねつ機)に小麦粉、そば粉、でん粉等の原材料を入れ、あらかじめ調製した練水(ねりみず:水に食塩、かんすい、増粘多糖類等を溶解したもの)を給水し(対粉30?40%)、10?20分間混ねつする。最高のめん生地が練り上がるよう作業環境温度や練り水温度を整えたり、作業温度、湿度に合わせて練水の給水量を決定することがこの工程の重要なポイントであり、最終製品の品質を決定する大切な工程である。ミキサーの種類としてはバッチ式のものから、最近では省力化された連続式加湿型ミキサーも使用されている。
(略)
2)複合・圧延
ミキサーから取り出されためん生地は、「ドウ」と呼ばれる。ドウは、一時タライ型のフィーダー等で10?15分ほど熟成される。そして2組のロール圧延機により2枚のめん帯にされ、さらに1組のロール圧延機により1枚のめん帯に複合される。この複合されためん帯は厚みが8?12mmであるが、これを数組の連続ロール圧延機(通常5?7組)により所定のめん帯厚(通常0.7?1.2mm)に順次圧延される。ロールの直径は90?300mmで、めん帯が薄くなるほど直径の小さなものとなっている。
この複合・圧延工程からめん線切出し工程の完了までは、生めんや乾めんの製造工程とほとんど同様である。
3)めん線切出し
最終ロール圧延機により所定の厚みにされためん帯は、ロール状の回転式切出し機(図5-2、通常「切刃」と呼ぶ)の刃の間を通過させて、めん線状に切出す。次いで切刃の直下に据えたウェーブボックスと称する箱形の導管により、めん線にウェーブ(めん線の波形のちぢれ)を付与する。このウェーブは以後の工程でめん線相互の密着を防止し、蒸気や熱油、熱風などの熱媒体の通りを良くしたり、また即席めん独特の食感を付与するために非常に重要なポイントである。切刃は丸刃と角刃に大別され、さらに番手と称する番号の選択により、所定のめんの形状が得られる。丸刃からは、丸い断面のめん線が、角刃からは、四角い断面のめん線ができる。また番手の番号はめん帯幅30mm当りで切刃によって切出されるめん線の本数に対応し、めん線の幅を決定付ける。たとえば、20番手の切刃からはめん線が20本切出され、めん線幅は1.5mmとなる。
4)蒸煮
切出されためん線をステンレス製のネットコンベヤーに移乗させ、トンネル型の蒸煮機内でめん線のα化(でん粉の糊化、たん白の熱変性)を行う。穀類(米、小麦粉等)やいも類に含まれるでん粉は、原料粉状態では生でん粉(β-でん粉)と呼ばれ、分子構造が緻密で、消化酵素が作用しにくく、そのため消化が悪い。これに水を加えて加熱すると、分子構造が膨潤化して、構造が崩れ、糊状の糊化でん粉(α-でん粉)となり、消化酵素の作用を受けやすく、消化しやすい状態となる。このようにでん粉を加水加熱処理によって消化しやすい形態に変化させることをα化(糊化)と称している。米の炊飯は、日常的に見うけられるα化の調理処理である。また、混ねつによってめん生地内に形成されたグルテンにも熱作用が加わり、これによってたん白質の熱変性が進み、「めん質」がさらに強化されるとともに、たん白質自身が消化されやすくなる。
蒸煮は、通常、水蒸気によって行われ、蒸煮機内温度は一般的に99?100℃、処理時間は1?2分である。この蒸煮も製品めん質に与える影響が大きい重要な要素であり、メーカー各社は、実際のところ、目的とする製品の品質によって、また、後続の乾燥工程の条件等も勘案して、温度や時間、蒸気圧や蒸気エネルギー量などの条件を調整し設定している。蒸煮が不十分であると、めんがもろく煮くずれしやすくなり、逆に強すぎるとめん線がかたくなったり、めん線の接着、乾燥工程での不均一化原因となったりする。」(64頁4行?67頁14行)

(15b)「b 熱風乾燥
油熱乾燥に比べて復元性はやや劣るが、油熱乾燥にはない風味、食感が得られる方法として熱風乾燥方式がある。これは一般的には70?90℃の熱風により30?45分かけて、リテイナーに型詰めされためん線の水分を8?12%程度に乾燥し、保存性をあげる方法である。
この熱風乾燥には、油脂を使用しないので酸化(酸敗)による麺の劣化がないというメリットがあるが、他方で、乾燥時間が長く作業性や生産性が悪い。乾燥条件を一定に保つことが難しく製品の安定性が悪くなる、というデメリットもある。
乾燥時間が長くなることにより、めん線の組織が収縮して緻密になり、その結果復元時間もやや長くなるが、生めんに近い食感になる。この乾燥時間の長さや復元性を改善するために、また、遠赤外線やマイクロ波を熱風と併用した乾燥方法もある。一般に油熱乾燥されたものを「フライめん」または「油揚げめん」と呼ぶのに対して、この乾燥方法による即席めんは、「ノンフライめん」または「α(アルファー)めん」「α化めん」と呼ばれている。」(72頁9?26行)

16 乙第10号証
「即席めんの製造
1 概説
即席ラーメンの製造工程の概略は第二図に示す通りである。(略)
2 原料配合、混捏(写真1)
即席ラーメンの原料配合は種類によって区々であるが、めん配合の一例を示せば第7表の如くである。主原料の小麦粉の品質は準強力粉又は強力粉で粉蛋白質九?一二%、Wet Gluten(湿麩)二五?三五%、灰分〇・四%前後のものが多く使用される。水には予めかん水(炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、ポリ燐酸塩類など)、食塩、増粘剤(CMC、グアールガムなど)、呈味成分などのめん質改良剤を溶解しておく。
(略)
混捏とは混合機により、小麦粉に水およびそのほかの添加物を均一に混合、捏和せしめることをいう。小麦粉の蛋白質は、吸水、膨潤してグルテンを形成し、かん水によりグルテンの形成は更に促進される。又かん水により小麦粉中の天然色素(フラボノイド系)が黄色に発色する。混合機には縦型と横型がありその機構は第三図のごとき型式がある。混捏は即席ラーメンの品質を左右する重要な因子で精密周到な行程管理が必要である。混捏終了時にはオカラ状態の小塊となり均一な水分の分布状態であることが望ましい。混捏時間は約二〇分前後が普通である。
3 製めん(写真1及び2)
混合機により送り出されたドウは一時フィーダー(捏粉供給機)に貯えられその真下に位置する複合機に連続的に供給される。複合機は第四図の如く、二組のロール機(A)で供給機より送りこまれてくるドウを二枚の粗めん帯に圧延し、これを別のロール機(B)で一枚のめん帯に圧延する。以下数段のロール圧延機により圧延を繰返し、必要とするめん帯の厚さに圧延仕上げを行う。ロール圧延機のロール直径は、複合機から送られてくる厚いめん帯を順次必要とする厚さになる様に圧延するために、大きい径のロールから次第に小さい径のロールによって圧延しなければならない。この連続延機のロールの直径と回転数との関係はくり入れられるめん帯を圧延しながら一定の速度で送り出さねばならないのでその調整は重要な作業である。
すなわちめん帯が一組のロールを通過する前と後のめん帯の厚さの比率(圧延比)は大口径ロールで一・六、中口径ロールで一・三、最後の小口径ロールで一・〇五程度に調整される。
次に切出機によりめん帯を必要な巾に切り出す。これにはロールに溝を切ったものを二本組合わせた切刃が使用される。切り出すめん線の巾はJIS規格により三〇cmの幅から何本のめん線が切出せるかを表わす番手番号により区別されている。切刃の種類及び呼び方(番手)は第8表の如くである。なお、めん線の断面の形状により同一番手の切刃について角刃、丸刃を区別する。
切刃により連続しためん線となったものは、切断機により所定重量になるように一定の長さに切断計量される。切断の行程は工場によっては次の蒸熱の行程の後に行う場合がある。」(20頁6行?26頁13行)

17 乙第11号証
甲第1号証に記載されている製造工程と、本願発明の製造工程とを対比した工程図が示されている。

18 乙第12号証
乾燥即席麺の分野において、通常使用される混ねつ手段である通常ミキサーを使用して得られたドウの物性と、更に常圧下における押出機又は減圧下における押出機を用いて前記ドウから得られた小塊の物性について、切断強度と密度とで比較した結果、減圧下における押出機を用いて得られた小塊が、切断強度、密度が増加していることが示されている。

第6 当審の判断

1 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、上記第5(1a)のとおり、「乾めん、即席めん等のめん類を製造するにあたり、原料粉に、常温で固型状をなしている食品用乳化剤および/または常温で固型状をなしている食品用油脂類を添加し、混合することを特徴とする早もどりめん類の製造方法。」が記載されている。
そして、原料粉については、「小麦粉又は小麦粉を主体としこれに穀粉、又はでん粉を混合した原料粉」(上記第5(1e))と説明され、「常温で固型状をなしている食品用乳化剤および/または常温で固型状をなしている食品用油脂類」については、それぞれ「例えば、脂肪酸モノグリセライド、シヨ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等」及び「例えば、極度硬化牛脂または水添固型牛脂のような動物性油脂および極度硬化パーム油、水添固型大豆油または水添固型綿実油のような植物性油脂」(上記第5(1f))と説明されている。
これらの材料のうち、原料粉である小麦粉は、産地により複数の種類が知られており、また、日本麺、中華麺、パスタなど製造する麺類の種類に応じて異なる製品が複数市販されていることも知られている(上記第5 12、13)。そうしてみると、当業者が用途に応じて最適な小麦粉を用途別の市販品から適宜選択して用いることができるものといえる。
また、脂肪酸モノグリセライドなどの常温で固形状をなしている食品用乳化剤も、ビーズ状粉末や粉末などの性状で食品用乳化剤として市販されおり(上記第5 14)、これら市販品から適宜選択して用いることができるものといえる。
また、甲第1号証には、麺類の製造方法についてさらに、「小麦粉又は小麦粉を主体としこれに穀粉、又はでん粉を混合した原料粉に公知のめん質改良剤、食品添加物、調味料、水等と同時に、常温で固型状をなす食品用乳化剤・・・、または、常温で固型状をなす食品用油脂・・・を、添加、混合し、充分練りあげて常法により製めんする。」(上記第5(1e))こと、「得られた製めん生地を切刃等でめん線とし、・・・蒸煮する。この蒸煮工程は・・・でん粉質の糊化・・・を行ない、・・・。蒸煮後のめん線は・・・、熱風乾燥もしくは油揚乾燥を行なう。」(上記第5(1g))ことが説明されている。
そして上記第5(1i)の実施例2には、「小麦粉1kgに固型状脂肪酸モノグリセライド20gを添加し、均一に混合した後、水350ml、食塩15g、かんすい4gの混合液を加え、充分練り上げた後、常法で製めんしロールで1.0m/mに圧延し、#18切刃でめん線とした後、0.8kg/cm^(2)の蒸気で2分間蒸煮し、型枠に入れ80℃の熱風で40分間乾燥し、めん製品を得た。」と記載されている。
ここで、即席麺類を製造する一般的製法を示す上記第5(7b)、(7c)、(15a)、(15b)、及び16によると、小麦粉などの原材料を水などとともに混合機により混捏してドウを得た後、二枚の麺帯とし、これを1枚の麺帯に複合、圧延し、麺線に切出し、蒸煮により麺線をα化(澱粉の糊化、蛋白質の熱変性)し、最後に油熱乾燥や熱風乾燥による乾燥を行う工程が一般的な製造方法として示されている。
また、上記第5(2b)に「一般的に即席麺は、主原料として小麦粉、各種澱粉を用い、中華麺においてはかんすい、和風麺においてはかんすいに代えて重合リン酸塩等を使用する。」、即席ラーメンの製造工程を示した上記第5 16に「水には予めかん水(炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、ポリ燐酸塩類など)、食塩、増粘剤(CMC、グアールガムなど)、呈味成分などのめん質改良剤を溶解しておく。」とあるように、中華麺を製造する場合に通常かん水を使用することも知られている。
そうしてみると、甲第1号証に製麺方法の詳細な記載がなく、使用する小麦粉や乳化剤等の詳細な説明がなく、実施例2に示される麺製品の具体的な種類が記載されていなくても、当業者が技術常識も考慮して甲第1号証に記載された発明を理解することが可能であるといえる。また、本願明細書や甲第2号証の記載もあわせ考慮すると、即席麺類に関する発明の開示として、甲第1号証程度の材料の提示、実施例における効果の評価方法は、当該技術分野における普通のことといえる。

これらのことから、甲第1号証には、
「乾めん、即席めん等のめん類を製造するにあたり、原料粉に、常温で固型状をなしている食品用乳化剤および/または常温で固型状をなしている食品用油脂類を添加し、混合し、充分練りあげて常法により製めんし、得られた製めん生地を切刃等でめん線とし、蒸煮してでん粉質の糊化を行ない、蒸煮後のめん線に熱風乾燥を行なう、早もどりめん類の製造方法。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

2 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを比較する。

(1)甲1発明の「原料粉」は、本件発明1の「主原料」に相当し、甲1発明の「常温で固型状をなしている食品用乳化剤および/または常温で固型状をなしている食品用油脂類」は、本件発明1の「固形状の油脂および/又は乳化剤」に相当するといえるから、甲1発明の「原料粉に、常温で固型状をなしている食品用乳化剤および/または常温で固型状をなしている食品用油脂類を添加し」たものは、本件発明1の「主原料に対し固形状の油脂および/又は乳化剤を含有する麺原料」に相当する。

(2)甲1発明は、「原料粉に、常温で固型状をなしている食品用乳化剤および/または常温で固型状をなしている食品用油脂類を添加し、混合し、充分練りあげて」という工程を有する。
この工程は、上記第5(1e)に、「小麦粉・・・、水等と同時に、常温で固型状をなす食品用乳化剤・・・を、添加、混合し、充分練りあげて」と説明されているように、小麦粉と水とを含む材料を混ぜ合わせる工程といえる。
一方、本件発明1に「麺原料により作成したドウ」とあるところ、ドウを作成する工程について特定されていないが、本願明細書の段落[0043]に、麺の製法について、「乾燥工程の前の製麺方法としては主原料(例えば、小麦粉)と粒子径0.1mm以上の球状又は/及び粒状の、油脂又は/及び乳化剤を少なくとも含む麺原料と、水とを混捏して作成したドウ」と説明されている。そうしてみると、「麺原料により作成したドウ」とは、“主原料に対し固形状の油脂および/又は乳化剤を含有する麺原料と、水とを混捏して作成したドウ”を意味するものといえる。
ところで、ドウについて、即席麺類の一般的製法を記載する上記第5(15a)には、「ミキサーから取り出されためん生地は、「ドウ」と呼ばれる。」とあり、上記第5 16には、「混合機により送り出されたドウは一時フィーダー(捏粉供給機)に貯えられその真下に位置する複合機に連続的に供給される。」とある。また、食品分野の辞書には、「ドウ(dough) 小麦粉に水を加え、練ってつくった粘り気のある生地のこと。パン生地・うどん生地・パイ生地などをいう。」(「料理用語 新・食品事典13」、株式会社真珠書院、1994年6月20日発行、211頁)、「ドウ[dough] ドイツ語ではタイグ(Teig),フランス語ではパート(pate)という.小麦粉生地のなかで,こねたり丸めたりできる程度の硬さのものをいう.小麦粉をこねる過程でグルテンによる網目構造が形成されて,粘弾性あるいは可塑性を生じ,また,ねかし(熟成)によって伸張性も発達するので,加工性に富み種々の生地がつくられる.代表的なドウであるパンのドウは,小麦粉に食塩,砂糖,酵母などの副材料を加えたものに,50?60%(小麦粉重量の)前後の水分を加えてこねあげる.パンの他に,めん(麺),クッキー,パイなどの生地がドウの状態である.」(「丸善食品総合辞典」、丸善株式会社、平成10年3月25日発行、745頁)とある。
これらのことから、ドウとは、小麦粉と水などを練ってつくった生地のことを意味するといえる。そうしてみると、前記甲1発明の「原料粉に、常温で固型状をなしている食品用乳化剤および/または常温で固型状をなしている食品用油脂類を添加し、混合し、充分練りあげて」という工程によって麺生地、すなわちドウが形成されているということができるから、甲1発明のこの工程と、本件発明1の「麺原料により作成したドウ」とは、麺原料からドウを作成する工程を含む点で共通しているといえる。

(3)甲1発明の「常法により製めんし、得られた製めん生地を切刃等でめん線とし」は、上記第5(1i)の実施例2の「常法で製めんしロールで1.0m/mに圧延し、#18切刃でめん線とした」との記載、及び即席麺類の一般的製法を示す上記第5(15a)及び16からみて、ドウを麺帯とし、複合、圧延し、麺線に切出す工程といえる。
一方、本件発明1の「押し出し成形機を用いて、減圧下において圧力を加え小塊又は板状となした後に製麺された麺線」は、本願明細書の段落[0043]に、麺の製法について、「ドウを用い、エクストルーダー又は押し出し成形機において減圧下にて圧力を加えて小塊又は板状とし、複合製麺後、切刃にて麺線を切りだして」と説明されている。そして、複合製麺後、切刃にて麺線を切りだすことは、即席麺類の一般的製法を示す上記第5(15a)及び16からみて、麺帯とし、複合、圧延し、麺線に切出す工程といえる。
そうしてみると、甲1発明の「常法により製めんし、得られた製めん生地を切刃等でめん線とし」と、本件発明1の「押し出し成形機を用いて、減圧下において圧力を加え小塊又は板状となした後に製麺された麺線」とすることとは、ドウから麺帯を得て、それを複合、圧延し、麺線に切出すという工程、すなわち、「ドウから製麺」するという工程において共通しているといえる。

(4)α化とはデンプン質の糊化を意味することは当業者における技術常識であるから(上記第5(15a)の「4)蒸煮」の項参照)、甲1発明の「蒸煮してでん粉質の糊化を行ない」は、本件発明1の「α化し」に相当する。

(5)甲1発明の「早もどりめん類の製造方法」は、「乾めん、即席めん等のめん類を製造する」ことが前提であり、熱風乾燥するものであるから、早もどりめん類は即席乾燥麺といえる。
よって、甲1発明の「蒸煮後のめん線に熱風乾燥を行なう、早もどりめん類の製造方法」は、本件発明1の「次いで当該麺線を熱風により乾燥させる即席乾燥麺の製造方法」に相当する。

(6)したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。

(一致点)
主原料に対し固形状の油脂および/又は乳化剤を含有する麺原料により作成したドウから製麺された麺線をα化し、次いで当該麺線を熱風により乾燥させる即席乾燥麺の製造方法。

(相違点)
ドウから製麺された麺線とする工程が、本件発明1では、「ドウを、押し出し成形機を用いて、減圧下において圧力を加え小塊又は板状となした後に製麺された麺線」とするのに対し、甲1発明では、原料を「混合し、充分練りあげて常法により製めんし、得られた製めん生地を切刃等でめん線」としている点。

(7)そこで、上記相違点について検討する。
甲第1号証には、甲1発明の目的について、上記第5(1b)に「めんの食味を低下することなく、喫食時のめんのほぐれをよくし、復元性を極めて早く改善することにある。」と記載されている。
そして、上記第5(1d)に、復元時間を改善する従来技術として、(i)「原料小麦粉にでん粉を添加し、めん形成の蛋白質含量を減少すると同時にでん粉質の糊化を高度に行なうこと」、(ii)「膨化剤等を加えその気泡により多孔質化して復元性を改善する試み」、(iii)「製めん時に圧延ローラーを少なく、または弱くしてめんに気泡を含ませる試み」、及び(iv)「めん線に筋をつける方法」があり、それぞれ、(i)「蒸煮時に、加えたでん粉が過度に膨潤糊化し、めん線同志が付着して糊化が均一にならず、又、生産作業性も低下し同時に喫食時のほぐれが悪く、復元性にバラツキが生じる」、(ii)「気泡がめん組織を破壊するため滑らかで弾力性のある食味のめんをつくることが出来ない」、(iii)「めんの弾力性、復元後の湯のびの点で不充分」、及び(iv)「復元性に長時間かかるものに対してはそれなりの効果があるが細いめん線には利用しにくい」という欠点があることが示されている。
これらの従来技術及びその欠点を考慮して、上記第5(1d)には、「製めん原料に常温で固型状をなしている乳化剤および/または常温で固型状をなしている油脂を添加」することで、「得られた即席めんのめん線に無数の微小孔が生じ、同時にめん線同志の付着が極めて少なく、喫食時にお湯を注ぐとほぐれが早く、復元時間が従来の1/2?1/3に短縮され、その食味も従来のものに比べ弾力性、滑らかさに富み、スープとの調和した商品価値の高いものが得られることを発見した。」ものであることが説明されている。

また、上記第5(1h)には、「本発明によるめんの多孔質は従来からある膨化処理によるものではなく、又、混合工程を少なくしグルテン形成をおさえた形の多孔質ではなく、充分練り上げてあるため、めんの組織がしつかり形成されたものであり、めん本来の弾力性を主とする食味を保つたものである。」とも説明されている。
ここで、“従来からある膨化処理によるものではなく”とは、上述したように、上記第5(1d)の記載から、膨化剤等を加えその気泡により多孔質化する方法では気泡が麺の組織を破壊するため滑らかで弾力性のある食味の麺をつくることができない、という従来技術の欠点を回避したものと理解できる。
また、“混合工程を少なくしグルテン形成をおさえた形の多孔質ではなく”とは、食品分野の辞書にグルテンについて、「グルテン[wheat gluten,gluten] 小麦粉に少量の水を加えてこねると,小麦粉中のタンパク質,グリアジンとグルテニンによって三次元網状構造(ネットワーク)が形成され,特異な粘弾性をもつドウができる.」(「丸善食品総合辞典」、丸善株式会社、平成10年3月25日発行、335?336頁)とあることからも理解できるとおり、練る工程を少なくして三次元網目状構造の形成、粘弾性の形成を抑制する必要がない、ということを意味すると理解できる。
また、気泡の発生による欠点や、不十分な処理によって本来必要なグルテン形成を抑制しなければならないという欠点を回避して、“めん本来の弾力性を主とする食味を保ったもの”とできることから、上記第5(1d)の、製めん時に圧延ローラーを少なく、または弱くしてめんに気泡を含ませる方法では、めんの弾力性、復元後の湯のびの点で不充分となる、という従来技術の欠点も回避したものと理解できる。

そうしてみると、甲1発明の「混合し、充分練り上げ」る工程は、その具体的な手段について記載されていないものの、これら甲第1号証の記載からすると、「製めん原料に常温で固型状をなしている乳化剤および/または常温で固型状をなしている油脂を添加」することで、「得られた即席めんのめん線に無数の微小孔が生じ」多孔質化を達成できるため、「充分練り上げてあるため、めんの組織がしつかり形成されたもの」とすることができる、すなわち、麺線とする前に、麺の組織を破壊するような気泡を残さないようにし、グルテンを形成し、麺の組織がしっかりと形成されたものとすることを目的とする工程といえる。

一方、甲第2号証には、上記第5(2a)のとおり、「麺生地を脱気して小塊又は板状体とする第1の工程と、前記小塊又は板状体を麺線に製麺し蒸煮する第2の工程と、前記麺線を麺塊に裁断する第3の工程と、前記麺塊に風向きの異なる熱風を時間差を与えて供給し前記麺塊の表面を予備乾燥をする第4の工程と、前記麺塊を高温熱風による本乾燥により微発泡状態にする第5の工程とを備えたことを特徴とする即席麺の製造方法。」が記載されている。
そして、上記第5(2d)に、「常法により作製した生地を脱気する工程は、・・・作製した生地を減圧下又は常圧下において押圧力を加えて脱気することにより、生地の密度を高くして、小塊又は板状体とすることが好ましい。・・・混捏した生地をエクストルーダ又は押し出し成形機において、減圧下又は常圧下において押圧力を加えてチップ状に押し出して小塊を形成するか、或いは板状体に押し出したものをロールで圧延し麺帯とし、切刃により麺線に切り出」すと記載されている。
また、上記第5(2f)には脱気工程の具体例として、「数値例1:真空ミキサにより混捏した生地を作成し」、「数値例2:常法により混捏した生地を作成し、生地をエクストルーダを用いて押圧力を加えて脱気し」、及び「数値例3:常法により混捏した生地を作成し、生地についてエクストルーダ中を真空度300?760mmHgにおいて押圧力を加えて脱気しながら」が記載され、真空ミキサで混捏しつつ脱気する方法、混捏した生地を常圧下でエクストルーダを用いて押圧力を加えて脱気する方法、及び混捏した生地を減圧下でエクストルーダを用いて押圧力を加えて脱気する方法が示されている。
そして、上記第5(2g)に、「先ず生地を脱気することにより麺線の発泡を抑制し」と記載されているように、生地を脱気する工程は麺線の発泡を抑制するための工程である。
これらのことから、甲第2号証には、即席乾燥麺を製造する方法において、常法により混捏した生地、すなわちドウをエクストルーダ又は押し出し成形機で、減圧下又は常圧下において押圧力を加えて脱気することにより、麺線の発泡を抑制し、生地の密度を高くした小塊又は板状体を得ることが示されているといえる。
そして、常法により混捏し、さらに押し出し成型機で脱気処理を行って得られる密度の高い生地は、グルテン形成が行われ、麺の組織を破壊する気泡がなく、麺の組織がしっかり形成された生地ということができる。

そうしてみると、甲1発明において、「混合し、充分に練りあげて常法により製めんし、得られた製めん生地を切刃等でめん線」とする工程として、麺の組織がしっかり形成されたものとするとともに、麺線とする前に麺生地内に存在する空気を麺の組織を破壊しない程度まで脱気して、麺本来の弾力性を保った麺とする目的から、その「混合し、充分に練りあげ」る工程の具体的手段として、甲第2号証の上記第5(2d)に、より効果的な方法として記載されている「作製した生地を減圧下又は常圧下において押圧力を加えて脱気することにより、生地の密度を高くして、小塊又は板状体とする」工程、すなわち、「混捏した生地をエクストルーダ又は押し出し成形機において、減圧下又は常圧下において押圧力を加えてチップ状に押し出して小塊を形成するか、或いは板状体に押し出したものをロールで圧延し麺帯とし、切刃により麺線に切り出」す工程を採用することは当業者が容易に想到し得たことである。
その際に、脱気を減圧下で行う方が常圧下で行うより生地の密度が高いものがより確実に得られることは当業者に自明であるから、減圧下において押圧力を加えてチップ状に押し出して小塊を形成するか、或いは板状体に押し出す工程を採用することは当業者が容易になし得たことである。

なお、被請求人は、甲第1号証では、甲第2号証に記載の多孔質化方法を排除しているので、両者を組み合わせるには阻害要因がある旨、また、甲第2号証の特定の工程のみを抜き出して組み合わせる動機付けはない旨主張しているので、その点についても検討する。
甲第2号証に記載の即席麺の製造方法では、甲第1号証に記載のような乳化剤や油脂を用いて多孔質とする方法ではなく、上記第5(2e)に「最後に本乾燥として、熱風温度110?145℃・・・に調整された・・・本乾燥室を・・・通過させ、麺中の水分を7?14%にしながら麺線外側部及び中心部を微発泡状態とする。」と説明されているとおり、麺の内部に存在する水分を脱水乾燥させて水分が存在した部分を微空洞化して多孔質とする方法である。
このような甲第2号証に記載された100℃を超える熱風で乾燥することで得られる多孔質は、甲第1号証に記載された粉末油脂を用いて80℃程度の熱風で乾燥することで得られる多孔質とは異なるものであることが、上記第5 10の実験結果から理解できる。
しかしながら、甲第2号証に記載の発明は、脱気工程のあと特定の乾燥工程を組み合わせるものではあるが、脱気工程は、「先ず生地を脱気することにより麺線の発泡を抑制し」(上記第5(2g))という独立した工程であって、後に続く乾燥工程と一体不可分な工程とはいえず、この脱気工程のみを、甲第1号証に記載の粉末油脂を用いるような他の製麺方法に採用できない理由もない。そして、これらを組み合わせる動機付けについては、上記で検討したとおりである。

(8)次に、本件発明1の効果について検討する。
本願明細書には、本件発明1の効果に関して以下のようなことが記載されている。
「温湯中における「ほぐれ時間」が150秒以下である」(段落[0013])、真空麺帯機の使用と麺原料に粉末粒状油脂または粉末粒状乳化剤を添加することの組合せにより、「真空麺帯機の特徴を最大限に引き出すことができ、しかも、「生麺のような粘弾性を有する食感」、「生麺のようなみずみずしさ」を得ることが出来るとともに、真空麺帯機独特な緻密な構造は壊していないために、通常製麺に比べ、麺線表面のべたつきが少なく、粉末粒状油脂または粉末粒状乳化剤の元々の離型効果との相乗効果により「麺線のほぐれ」を飛躍的に向上させることができる」(段落[0018])。
また、「(1)真空麺帯機の特徴を残しつつ、従来技術における問題点が解決される。すなわち、真空麺帯機の特徴を、より活かした麺を得ることができる。(2)減圧度を実質的に変えずに麺線の密度をコントロールすることが出来るため、真空麺帯機の特徴を、より活かした麺を得ることができる。(3)従来技術における真空麺帯機を使用することで生じていた「湯戻りの悪さ」、「コシの強すぎ」を解決することができる。(4)喫食時における麺塊の「麺線のほぐれ」を飛躍的に向上させることができる。」(段落[0020])とも記載されている。

ア 粘弾性について
甲第1号証には、上記第5(1c)に「めんの食味は従来から“あし”とか“こし”と表現されているようにその太さ、弾力性・・滑らかさ、もちもち性などの物理的な感触の占める割合が大きく、これは主にめんのつくり方とめんの太さ、または、厚みによるところが大である。」ことが示され、上記第5(1d)に「その食味も従来のものに比べ弾力性、滑らかさに富み」と記載され、上記第5(1h)に「めん本来の弾力性を主とする食味を保つたものである。」ことが記載されている。
そして、麺のこしとは、上記第5 5にも「弾力・粘りなど」とあるように、麺の弾力性や粘弾性を示すことと同義ということができ、よって、甲1発明においても、麺本来のこしを主とする食味を保つものが得られていることから、生麺のような粘弾性を有する食感が得られることは、当業者が予測し得たことである。

イ 緻密な構造について
本願明細書の段落[0044]に「(真空麺帯機) 本発明において使用可能な、脱気下でエクストルーダーなどによる押出し麺帯の形成装置は、特に制限されない。より具体的には、例えば、特開昭61-132132号(特願昭59-254855号)に示されている麺生地製造装置における脱気装置(以後、「真空麺帯機」という)を好適に使用することができる。」とあり、真空麺帯機は本件発明1の「押し出し成形機を用いて、減圧下において圧力を加え小塊又は板状とな」すための装置を意味しているといえる。
そして、真空麺帯機の特徴は、上記効果に関する記載からみて緻密な構造が得られることにあるといえ、本件発明1の効果のひとつとして、真空麺帯機の特徴である緻密な構造が得られるとともに、その緻密な構造が維持されることと解される。
しかしながら、甲第1号証には、上記第5(1h)に「めんの表面及び内部に無数の微小孔を生じ乾燥工程後もこれが残り多孔質のめんとなる」こと、「麺の組織がしっかり形成されたものである」ことが記載されていることから理解できるとおり、甲1発明の方法による多孔質とする工程は気泡による多孔質化とは異なり、形成された麺の組織を壊すことはないと予測することができ、甲1発明において、「混合し、充分に練りあげ」る工程において甲第2号証に記載された手段を採用した場合にも同様の結果が得られることも予測し得ることである。
そして、甲第2号証の上記第5(2d)に記載された「混捏した生地をエクストルーダ又は押し出し成形機において、減圧下又は常圧下において押圧力を加えてチップ状に押し出して小塊を形成するか、或いは板状体に押し出」す手段の減圧下での処理は、本願明細書記載の真空麺帯機での処理に相当するといえ、この手段を採用することにより真空麺帯機の特徴である緻密な構造が得られることも、当業者が予測し得たことである。

ウ 真空麺帯機と粉末粒状油脂又は粉末粒状乳化剤の組合せによって「湯戻りの悪さ」、「麺線のコシの強すぎ」を解決することについて
甲第1号証の上記第5(1h)に「無数の微小孔を有する多孔質めんをつくると同時に、その作用により、めん線同志の付着をなくし、又、お湯の浸透性をよくすることにより、喫食時に、お湯を注ぐと、ほぐれ易く、復元性が極めて早い、しかも、スープのりがよく、食味の向上しためんを得ることが出来る」とあり、上記第5(1j)にも「復元性」や「めんの食味」を評価した結果、実施例2が、固形状脂肪酸モノグリセライド20gの添加を行わなかった以外、実施例2と同様な操作により麺製品を得た比較例Bに比べいずれも効果が向上していることが示されている。よって、本件発明1の「湯戻りの悪さ」、「麺線のコシの強すぎ」を解決できるという効果も、当業者が予測し得たことである。

エ 真空麺帯機と粉末粒状油脂又は粉末粒状乳化剤の組合せによって「麺線のほぐれ」が飛躍的に向上することについて
甲第1号証には、上記第5(1f)に「乳化剤の添加量が0.2%未満だとほぐれの効果が少なく、・・・油脂の場合、0.2%未満だと乳化剤と同様である」とあり、また、上記第5(1j)の実施例2と比較例Bとの結果を比較すると、麺のほぐれ具合が、「5・・・非常によい」に対し、「2・・・やや悪い」と悪くなったことが示されており、常温で固型状をなしている食品用乳化剤および/または常温で固型状をなしている食品用油脂類を添加することで、麺のほぐれ効果が向上することが示されている。
また、甲第2号証の上記第5(2c)に、従来技術について「真空ミキサを使用することにより、減圧条件下で生地を調整する工程」と「親水性乳化剤溶液を付着させ、低温熱風乾燥を行う方法」とを有する乾燥即席麺の製造方法が、「喫食時のほぐれ性は改善されている」旨記載されているように、減圧条件下で生地を得る方法を採用するとほぐれ性が向上することは、本出願前から知られていたことである(特開平5-91845号公報、段落[0023]、特開平6-64号公報、段落[0026]、特開平6-169713号公報、段落[0012]、特開平6-292528号公報、段落[0020]、及び特開平7-8194号公報、段落[0016]参照)。
よって、本件発明1のほぐれ性に関する効果も、当業者が予測し得たことである。

なお、被請求人は、本件発明1のほぐれ効果が格別なものである旨特に主張しているので、その点について補足して検討する。
本願明細書の段落[0079]?[0085]に試験例2としてほぐれ効果に関する試験を行ったことが示されているが、前記試験は、試験を行った装置に関する記載に誤記があるとともに、明らかにされていないことも多く、試験に用いた乾燥麺の製造条件についても、添加した粉末油脂の量や、混捏条件、乾燥条件など不明な点も多い。
そして、請求人はこの点に関し、上記第5 6の実験成績証明書を提出し、前記試験例2にできる限り即した追試を行ったところ異なる結果が得られたことが示されている。
これらの試験結果から、本件発明1の条件で得られた乾燥麺のほぐれ効果が優れたものとなる場合もあることが理解できるとともに、異なる結果が得られる場合もあることが理解できる。
そうしてみると、油脂そのものから予測される離型効果と真空麺帯機を使用した場合に予測されるほぐれ性の向上効果と比べて、本件発明1が予測もし得ない格別な効果を奏したものということもできない。

オ 減圧下における処理であることについて
さらに、被請求人は、上記第5 11及び18の実験成績証明書を提出し、本件発明1が、減圧下における処理を採用することにより、透明感のある黄色の小塊が得られ、充分に脱気された「緻密な構造」であること、密度及び切断強度が顕著に増大することを示し、通常ミキサーや常圧下における処理では得ることができないものであることも主張しているので、この点についても検討する。
減圧下で圧力をかけることにより、生地に含まれる空気がより確実に脱気されることは、普通に予測できることである。
そして、脱気しつつ圧力をかけることにより、ドウがさらに捏ねられることとなりグルテン形成、すなわち三次元網目状構造の形成が進むことも予測されるから、緻密な構造となることも予測し得たことであり、緻密な構造であれば密度や切断強度が増大することも当然の結果といえる。
このような結果は、甲第2号証に記載された減圧下において押圧力を加えてチップ状に押し出して小塊を形成するなどの処理を行うことによって同様に得られるものといえる。

以上のとおり、本件発明1は、甲第1号証、甲第2号証に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の固形状の油脂又は/および乳化剤について、「粒子径0.1mm以上の粉末粒状の油脂または乳化剤である」と限定するものである。
そこで検討するに、甲第1号証には、上記第5(1f)に「本発明で使用する食品用乳化剤および油脂は熱溶融性であり、粉末または粒状であることが好ましい。・・・粒径は10メツシユ、好ましくは20メツシユであることが好ましい。・・・粒径が10メツシユより大きくなると短いめん線の場合、切れるおそれがある。」と記載されている。
そして、20メッシュはふるいの目開き0.833mm、10メッシュは1.651mm(上記第5 4)に対応する。
そうしてみると、甲1発明において、「常温で固型状をなしている食品用乳化剤および/または常温で固型状をなしている食品用油脂類」として、粒子径0.1mm以上の粉末又は粒状のものとすることは、当業者が適宜なし得たことである。

よって、本件発明2は、甲第1号証、甲第2号証に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 本件発明3について
本件発明3は、本件発明2の粉末粒状の油脂または乳化剤が「スプレークーリング法又はドラムドライ法により製造されたものである」と限定するものである。
甲第3号証には、融点45?75℃の粉末状の油脂を穀類粉または及び澱粉に対して0.2?10重量%配合するノンフライ麺の製造方法が記載されている(上記第5(3a))。
そして、「湯戻り性やスープや調味液とのなじみ性等の麺質を向上させる」(上記第5(3b))ものであること、「添加された粉末状の高融点油脂がその乾燥工程中にごく一部しか溶解せずにノンフライ麺生地中に空隙を作り、ノンフライ麺生地中および表面に微細な穴を開け、その空隙に湯が浸透する事により、復元性が向上し、スープとのなじみ性も良好になる」(上記第5(3c))ことが記載されている。
また、上記第5(3d)には、「本発明で用いられる油脂は食用油脂であれば特に限定されるものではなく、・・・パーム核油の硬化油およびエステル交換油等が例示できる。・・・本発明に用いる油脂の形状は粉末である必要がある。・・・粉末油脂の作成方法は特に限定されることはないが、溶解した油脂を冷却塔(チラー)の中へ噴霧して粉末化するスプレークーリング方式や溶解した油脂を冷却されたドラム上へ流し固化せしめてかきとるドラムフレーク方式等が挙げられる。・・・粉末状の油脂の粒子径は平均粒子径が0.1mm以上であれば特に限定されない」ことが記載されている。
上記のとおり、甲第3号証には、甲1発明と同様な粒径を有する粉末状の食用油脂により即席乾燥麺を多孔質とする方法が記載されており、その油脂の製造方法としてスプレークーリング方式やドラムフレーク方式が示されている。
そうしてみると、甲1発明の粉末または粒状であることが好ましい「常温で固型状をなしている食品用乳化剤および/または常温で固型状をなしている食品用油脂類」をスプレークーリング方式やドラムフレーク方式で製造してみることは、当業者が容易になし得たことである。

よって、本件発明3は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5 本件発明4について
本件発明4は、本件発明1?3の固形状の油脂または乳化剤の融点を「50℃?70℃である」と限定するものである。
そこで検討するに、甲第1号証には、「本発明で使用する食品用乳化剤および油脂は熱溶融性であり、粉末または粒状であることが好ましい。融点は40℃以上、好ましくは50℃以上であり、・・・。融点を40℃以上としたのは製めん時の摩擦熱で溶融しないことが必要なためである。」(上記第5(1f))と記載されている。
また、実施例2では、80℃の熱風で乾燥したことが示されている(上記第5(1i))。
前記乳化剤等は、熱処理で溶融して多孔質を形成するものであることを考慮すると、甲1発明において、「常温で固型状をなしている食品用乳化剤および/または常温で固型状をなしている食品用油脂類」の融点を50℃?70℃の範囲とすることは、当業者が容易になし得たことである。

よって、本件発明4は、甲第1号証、甲第2号証に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6 本件発明5について
本件発明5は、本件発明1?4の固形状の油脂または乳化剤の添加量を「主原料に対して、0.5?10%である」と限定するものである。
そこで検討するに、甲第1号証には、「固型状食品用乳化剤の添加量が0.2?3%」、「固型状食品用油脂の添加量が0.2?15%」又は「固型状食品用油脂および固型状食品用乳化剤からなる混合物の添加量が0.2?15%」であることが示されている(上記第5(1a))。
また、「乳化剤の添加量が0.2%未満だとほぐれの効果が少なく、また3%より高いと乳化剤の油臭が残り食味をそこなう。また、油脂の場合、0.2%未満だと乳化剤と同様であるが、15%より高いとめん線のつながりが悪くなるので好ましくない。」(上記第5(1f))とも説明されている。
ここで、甲第1号証には、前記添加量が何に対する値であるかは明記されていないが、麺の多孔性を形成するために用いるものであるから、上記の範囲に関する記載を考慮して、主原料を基準とした添加量を特定することは、当業者が容易になし得たことであって、格別な効果を奏する臨界的意義を有する値ともいえない。

よって、本件発明5は、甲第1号証、甲第2号証に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

7 本件発明6について
本件発明6は、本件発明1?5において、「α化の手段として、蒸気を用いる蒸し機を使用する」と限定するものである。
甲第1号証には、「0.5?2kg/cm^(2)の圧力の蒸気で1?4分間蒸煮する」(上記第5(1g))、「0.8kg/cm^(2)の蒸気で2分間蒸煮し」(上記第5(1i))と記載されている。
したがって、甲1発明において、「蒸煮」する方法として蒸気を用いる蒸し機を使用すると特定することは、当業者が容易になし得たことである。

よって、本件発明6は、甲第1号証、甲第2号証に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

8 本件発明7について
本件発明7は、本件発明1?6において、「即席麺を乾燥させる際の熱風が、温度60℃?100℃の範囲の熱風を単独もしくは組み合わせたものである」と限定するものである。
甲第1号証には、実施例2に「型枠に入れ80℃の熱風で40分間乾燥し」たことが記載されている(上記第5(1i))。
甲1発明において、「熱風乾燥」の温度を前記80℃近傍の最適な範囲と特定することは、当業者が容易になし得たことであって、格別な工夫を要することではない。

よって、本件発明7は、甲第1号証、甲第2号証に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

9 まとめ
したがって、本件発明1ないし7は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第7 むすび
以上のとおり、本件請求項1ないし7に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2011-12-28 
出願番号 特願2009-53969(P2009-53969)
審決分類 P 1 113・ 121- Z (A23L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 戸来 幸男  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 関 美祝
杉江 渉
登録日 2011-03-04 
登録番号 特許第4693913号(P4693913)
発明の名称 即席乾燥麺およびその製造方法  
代理人 吉井 一男  
代理人 永坂 友康  
代理人 石田 敬  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  
代理人 戸田 俊材  
代理人 小林 良博  
代理人 小谷 昌崇  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 胡田 尚則  
代理人 小谷 悦司  

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