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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C12N 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N |
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管理番号 | 1274451 |
審判番号 | 不服2010-11816 |
総通号数 | 163 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-07-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-06-02 |
確定日 | 2013-05-22 |
事件の表示 | 特願2003-564542「毒性および病原体が媒介する疾患を治療しかつ予防するための新規イムノアドヘシン」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 8月 7日国際公開、WO03/64992、平成17年 8月 4日国内公表、特表2005-522998〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は,2002(平成14)年10月25日(パリ条約による優先権主張2001年10月26日 米国)を国際出願日とするものであって,平成21年3月30日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたが,平成22年1月25日付で拒絶査定がなされ,これに対して,同年6月2日に拒絶査定に対する審判請求がなされ,同日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。 第2.平成22年6月2日付の手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成22年6月2日付の手続補正を却下する。 [理由] 1.補正後の本願発明 上記補正により,補正前の特許請求の範囲の請求項11が削除され,補正前の請求項28について, 「【請求項28】 イムノアドヘシンおよび植物材料を含んでなる組成物であって,上記イムノアドヘシンがキメラ非ウイルス毒素受容体タンパク質を含んでなり,上記キメラ非ウイルス毒素受容体タンパク質が免疫グロブリン重鎖の少なくとも一部分と連結している,上記組成物。」から,対応する 「【請求項27】 イムノアドヘシンおよび植物材料を含んでなる組成物であって,上記イムノアドヘシンがキメラ非ウイルス毒素受容体タンパク質を含んでなり,上記キメラ非ウイルス毒素受容体タンパク質が多量体化能を与えまたはエフェクター機能を与えるの十分な免疫グロブリン重鎖の少なくとも一部分と連結しており,上記イムノアドヘシンが植物中で発現される,上記組成物。」へと補正された。 2.独立特許要件について 補正前の請求項28に係る補正は,補正前の請求項28に記載した発明を特定するために必要な事項である「イムノアドヘシン」が「植物中で発現される」という限定を付加するものであり,また,「免疫グロブリン重鎖の少なくとも一部分」が「多量体化能を与えまたはエフェクター機能を与えるの十分な」ものであるという限定を付加するものであって,その補正前の請求項28に記載された発明とその補正後の請求項27に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,補正前の請求項28についての上記補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで,本件補正後の請求項27に記載された発明(以下,「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するかどうか)について以下に検討する。 (1)特許法第29条第2項 (1-1)引用例 原査定の拒絶の理由で引用文献3として引用された本願優先日前の1993年に頒布された刊行物であるJ.Virol., 1993,Vol.67, No.6, p.3561-3568(以下,「引用例3」という。)は,「キメラICAM-1/免疫グロブリン分子によるライノウイルスの効率的な中和と破壊」と題する論文であり,以下の事項が記載されている。 ア.「細胞間接着分子1(ICAM-1)はヒトライノウイルス(HRVs)の90%により細胞受容体として用いられる。ICAM-1の細胞外ドメイン及び免疫グロブリン(Igs)の定常領域を含むキメライムノアドヘシン分子は,増加した結合価,Igアイソタイプ,及びICAM-1のドメインの数が中和活性及びライノウイルスの構造破壊に与える影響を決定するために設計された。これらのイムノアドヘシンは,IgA1,IgM,IgG1のヒンジと重鎖の定常領域に融合されたICAM-1のN末端ドメイン1及び2を含む(IC1-2D/IgA,-/IgM,及び-/IgG)。さらに,5個全ての細胞外領域がIgA1に融合された(IC1-5D/IgA)。イムノアドヘシンは,HRVの結合,感染力,構造におけるアッセイにおいて,5個のドメインと2個のドメインを含む可溶型ICAM-1(それぞれsICAM-1及びIC1-2D)と比較された。HRVのプラーク形成阻害において,IC1-5D/IgAは200倍,IC1-2D/IgM,IC1-2D/IgAはそれぞれ25及び10倍,ICAM-1より効果的であった。同じキメラはライノウイルスの細胞への結合阻害,?65S粒子の形成により表されるウイルスキャプシドの構造破壊において,高度に効果的であった。この結果は,ICAM-1のドメインの数とフレキシブルなIgヒンジが中和の効率に寄与する重要な因子であることを示す。二価に結合したキメラのHRV破壊におけるより高い効率はより高い結合力に起因した。IC1-5D/IgAイムノアドヘシンはナノモル濃度で効果的であったから,ライノウイルス感染の治療を可能にする。」(第3561頁要約第1?15行) イ.「IC1-2D/IgA及びIC1-5D/IgA構築物の発現は最初にCOS細胞にDEAE-デキストランと共に導入することで検証された(略)。続いて,安定な産生細胞系はCHO DG44細胞に形質導入することで得られた(略)。」(第3562頁左欄第23?27行) ウ.「IC1-2D/IgM構築物(略)はPvuIで直線化され5×10^(6)J558Lミエローマ細胞に上記のエレクトロポレーションにより導入された。・・・SfiIで直線化されたIC1-2D/IgAプラスミドはPvuIで直線化された選択マーカーpSV2gptと共にJ558L細胞に同様に導入された。」(第3562頁左欄第49?57行) エ.「J558L細胞において発現するIC1-2D/IgAは非還元SDS-PAGEでのサイズにおいて,CHO細胞で発現したものと同様であり,このことはJ558L細胞で発現するJ鎖が2あるいは3個の二量体をジスルフィド結合しなかったことを示唆する(データ示さず)。IC1-2D/IgMは還元状態では80kDaとして挙動し,非還元状態では160kDaの二量体分子として挙動し,ゲルの最上位置では非常に高い分子量の分子として挙動する。後者のバンドのサイズはJ鎖により結合した5個のダイマー分子,あるいは天然のIgMとして見出される6個のダイマー分子と一致する。」(第3563頁右欄第9?18行) オ.「非還元SDS-PAGE(図2B)がジスルフィド結合において異なる,一つは160kDaに,もう一方はもっと高分子に移動する2種類のIC1-2D/IgMの存在を示唆したので,IC1-2D/IgM調製物はスクロース勾配沈降にかけられた。沈降において,ダイマー型(?7S)及びデカあるいはドデカ型(?19S)に一致するIC1-2D/IgMの二つのピークが分離された(図5A)。・・・およそデカ型のキメラは,HRV3のHeLa細胞への結合阻害において,ダイマー型キメラの5倍効果的であり,分離されていないIC1-2D/IgMは阻害において中間であった(図5B)。」(第3564頁右欄第7行?第3565頁左欄第2行) 同じく,原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された本願優先日前の1996年に頒布された刊行物であるTIBTECH.(Trends in Biotechnology), 1996,Vol.14, p.52-60(以下,「引用例2」という。)は,「イムノアドヘシン:原理と応用」と題する論文であり,以下の事項が記載されている。 カ.「イムノアドヘシンの大部分は,IgG1重鎖のヒンジとFc領域,及び,通常は受容体あるいは接着分子であるI型膜貫通タンパク質の細胞外ドメイン(ECD)との組み合わせである(図1)。・・・これまでに,50以上のイムノアドヘシンが報告されてきた(表1)。イムノアドヘシンの原型はIgG1分子に似た,しかし,CH1ドメインと軽鎖がないジスルフィド結合したホモダイマーである。」(第52頁右欄第9?19行) キ.「基本的なイムノアドヘシンの主題におけるいくつかの構造の変種が可能である(図3a-3f)。一つのそのような変種は多価のイムノアドヘシンである。IgG-ベースのイムノアドヘシン(図3a-3d)は2個の標的結合部位を含むのに対し,IgM-ベースのイムノアドヘシンはそのような部位を10個含む(図3e)。多価のイムノアドヘシンはIgG-ベースの対応物よりもより強い結合力で対応する標的に結合できる。例えば,そのようなものにはCD4-IgM(略),ICAM-1-IgM(略)あるいはCD2-IgM(略)が含まれる。」(第54頁右欄第7行?第55頁左欄第7行) ク.「(e)J鎖で結合した5量体IgM(CD2-IgM)」(第57頁 図3説明 第11?12行) 同じく,原査定の拒絶の理由で引用文献5として引用された本願優先日前の2001年10月15日に頒布された刊行物であるBiomol.Engineer., 2001.10.15,Vol.18,No.3,p.87-94(以下,「引用例5」という。)は,「植物における分泌型IgA抗体の生産」と題する論文であり,以下の事項が記載されている。 ケ.「植物は,H及びL鎖,J鎖及び分泌成分の4つの鎖からなる分泌型IgAを容易に会合させることができる。・・・哺乳動物細胞や微生物を用いた通常のスチールタンクのバイオリアクターと比較して,GMP植物抗体のコストはおそらく1/10までと期待される。植物と哺乳動物細胞が産生する抗体のグリコシル化の形式の違いは,見かけ上は抗原との結合あるいは特異性に影響しないが,ヒトにおける免疫原性の可能性に懸念がある。植物のN結合グリカンは,ヒトとはアルファ1,3結合フコース及びキシロース糖を有する点で異なる。有害な影響やヒト抗マウス抗体(HAMA)は,う歯をコントロールするためのストレプトコッカスミュータントに特異的な植物産生分泌型IgAの局所的な口腔投与を受けた40人以上の患者において見られなかった(略)。」(第87頁要約第10?18行) コ.「過去10年以上の進歩は,植物が産業上あるいは薬学上のリコンビナントタンパク質を大スケールで産生するための容易で経済的なバイオリアクターとなることを示す(略)。遺伝子操作された形質転換植物は,ヒトあるいは動物の体液/組織,リコンビナント微生物,形質導入動物細胞系,あるいはトランスジェニック動物と比較して,タンパク質の供給源として多くの長所を有する。長所は,(a)低価格である可能性での,農業規模における生の材料の産生,場合によっては直接食用になる材料を用いた産生。(b)発酵方法と比較して減少した出資価格。(c)生産の急速なスケールアップ。(d)抗体のようなマルチマータンパク質の(微生物とは違う)真核生物の正しい会合。及び(e)植物はHIV,プリオン,肝炎ウイルスなどヒトの病原体のホストとならないことによる増加した安全性,などである。」(第88頁左欄第16?32行) (1-2)対比・判断 引用例3に記載されているのはイムノアドヘシンであるから,引用例3に記載された事項は本件補正発明と課題が共通しており,引用例3には,記載事項ア?オより,ヒトライノウイルスの細胞受容体であるICAM-1の細胞外ドメインが免疫グロブリン(以下,「Ig」ということもある。)のヒンジと重鎖の定常領域に融合されたキメライムノアドヘシンが記載され,免疫グロブリンとしてIgMを用いた場合にデカあるいはドデカ型の多量体を形成したことも記載されているので(記載事項エ,オ),引用例3に記載された,免疫グロブリンのヒンジと重鎖の定常領域は,本件補正発明の「多量体化能を与えまたはエフェクター機能を与えるの十分な免疫グロブリン重鎖の少なくとも一部分」に相当する。また,引用例3において,形質転換した細胞で産生されたイムノアドヘシンを精製しHRVと細胞との結合阻害実験に用いており(例えば記載事項オ),該精製物は本件補正発明のイムノアドヘシンを含んでなる組成物に相当する。 そこで,本件補正発明と引用例3に記載された事項を比較すると,引用例3に記載のICAM-1の細胞外ドメインは本件補正発明の受容体タンパク質に相当するので,両者は,イムノアドヘシンを含んでなる組成物であって,上記イムノアドヘシンがキメラ受容体タンパク質を含んでなり,上記キメラ受容体タンパク質が多量体化能を与えまたはエフェクター機能を与えるの十分な免疫グロブリン重鎖の少なくとも一部分と連結している点で共通し,両者は,以下の点で相違する。 a.受容体タンパク質が,本件補正発明においては,非ウイルス毒素の受容体であるのに対し,引用例3においては,ウイルスの細胞受容体であるICAM-1である点。 b.イムノアドヘシンが,本件補正発明においては,植物中で発現され,イムノアドヘシンを含む組成物が植物材料も含むのに対し,引用例3においては,動物細胞中で発現され,イムノアドヘシンを含む組成物が植物材料を含まない点。 上記相違点について検討する。 相違点aについて,引用例2記載事項カにあるように,本願優先日前,免疫グロブリン重鎖のヒンジとFc領域,及び,受容体あるいは接着分子であるI型膜貫通タンパク質の細胞外ドメインが融合したイムノアドヘシンとして種々のものが報告されており,用いられる受容体もウイルス由来タンパク質やサイトカインなど様々なものに対する受容体であった。 そして,本願優先日前,受容体として,種々の微生物毒素に対する膜貫通型である受容体は周知であり(必要ならば,ボツリヌス毒素受容体について,遺伝子医学,1999,Vol.3,No.3,p.505-509,ジフテリア毒素受容体について日本細菌学雑誌,1996,Vol.51,No.3,p.853-862,炭疽菌毒素受容体について,原査定の拒絶の理由で引用文献6として引用されたNature,Vol.414, p.225-229 (Published online 23 October 2001)参照のこと。),微生物毒素の毒性の原因である微生物毒素と受容体の結合を阻害するという課題も自明の課題であったから,該課題を解決するために,引用例3に記載された,ウイルスとその細胞受容体との結合阻害に用いられるイムノアドヘシンにおいて用いる受容体として,ICAM-1にかえて,微生物毒素など非ウイルス毒素に対する受容体を用いることは,当業者が目的に応じて適宜行うことである。 相違点bについて,引用例5記載事項ケ,コより,リコンビナントタンパク質,特に抗体を植物において産生することに多くの利点があることが記載されているので,引用例3に記載のイムノアドヘシンについても植物中で発現させることは当業者が容易に想到し得たことであり,植物中で発現させた場合にイムノアドヘシンの精製の程度により組成物として植物材料を含むのは,当然の結果である。 (1-3)本件補正発明の効果 本件補正発明の効果について,本願明細書の実施例において実際に作成され,目的の効果を有することが示されたのは,イムノアドヘシンが含む受容体タンパク質としてICAM-1,つまりウイルスの受容体を用いた場合のみである。 そして,受容体タンパク質として非ウイルス毒素受容体タンパク質を用いた場合については,実施例10から12に非ウイルス毒素受容体タンパク質として炭疽毒素受容体の細胞外ドメインの一部を用いることが記載されているものの,ベクターの調製方法及び一般的記載にとどまり,実際にイムノアドヘシンを発現させて効果を確かめたことは示されておらず,本件補正発明の効果が確認できない。 仮に,ICAM-1についての効果が援用できるとしても,本願明細書の実施例において示されたのは,ICAM-1の細胞外ドメインを用いた場合であり,受容体タンパク質全体を用いた場合にどのような効果があるかは不明である。 さらに,仮に,本願明細書に炭疽毒素受容体の細胞外ドメインの一部を用いることが記載されていると仮定しても,非ウイルス毒素受容体タンパク質の中で炭疽毒素受容体について示されただけであり,その他のあらゆる非ウイルス毒素受容体タンパク質において同様の効果を奏するとはいえない。 また,植物中で発現することの効果について,データは示されておらず,本願明細書の段落【0015】には「本発明のイムノアドヘシンは動物細胞培養においてよりも植物において生産するほうが際立って安価であり,かつ植物は動物ウイルスを宿さないことがわかっているのでヒト使用に対して植物中の生産はより安全でありうる。」との記載があるだけであり,このような効果は,引用例5記載事項コから予想できる範囲の効果に過ぎない。 よって,本件補正発明が奏する効果には,引用例5の記載から予想できる程度のものや,その程度が不明なものが多数包含されているといえるから,本件補正発明の構成全体にわたって,当業者が予測できない顕著な効果が奏せられているとはいえない。 したがって,本件補正発明は,当業者が引用例2,3及び5に記載された発明及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものである。 (1-4) 小括 したがって,本件補正発明は,当業者が引用例2,3及び5に記載された発明及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。 また仮に,本件補正発明で非ウイルス毒素受容体タンパク質を用いた効果が当業者が予測できないものであるとした場合には,以下の(2)の理由が存在する。 (2)特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号 (2-1) 本件補正発明について,本願明細書の実施例において実際に作成され,目的の効果を有することが示されたのは,イムノアドヘシンが含む受容体タンパク質としてライノウイルス受容体(非ウイルス毒素受容体タンパク質ではない)であるICAM-1の細胞外ドメインを用いた場合のみであって,受容体タンパク質として非ウイルス毒素受容体タンパク質を用いた場合のイムノアドヘシンの効果については示されていない。 ここで,平成21年3月30日付意見書には「リガンド受容体は,抗体と異なり,特定のリガンドのみに対して大きなアフィニティーを有し,そのリガンドに対する機能的な結合を維持するために保持されるべき特異的な構造を有する。この特異的な機能的構造はグリコシル化によって維持される(略)。リガンド受容体はその結合領域において広範囲にグリコシル化されており,柔軟な"induced fit"メカニズムが利用されることはない。予測されるように,リガンドと受容体の結合に必要な構造の特異性を考慮すると,そのようなタンパク質においてはグリコシル化の変更は機能的に非常に重要である。」,「リコンビナントタンパク質が非天然構築物として発現された場合,その天然のコンフォメーションを有していないことがある。従って,当業者は炭疽菌毒素受容体タンパク質などの毒素受容体タンパク質をキメライムノアドヘシン分子に導入した場合に,その活性を保持しているとは予測できない。」と記載され,本願請求人は,リガンドと受容体の結合には,結合に必要な領域の構造の保持が抗体よりも重要であること,タンパク質を非天然構築物として発現した場合,その天然のコンフォメーションを有していないことがあるから,当業者は炭疽菌毒素受容体タンパク質などの毒素受容体タンパク質をキメライムノアドヘシン分子に導入した場合に,その活性を保持しているとは予測できないと主張している。該主張をふまえると,受容体をイムノアドヘシン分子に導入した場合に,実際にイムノアドヘシン分子を作成して活性を確かめた分子以外は受容体の活性を保持していることは予測できないこととなる。さらに,リガンドとの結合に重要な受容体の構造の維持にグリコシル化が寄与しているとの主張をふまえると,動物細胞とは異なるグリコシル化の形式となる植物細胞においてキメラタンパク質として発現させた場合に,もとの受容体の結合を維持できるかは受容体によって異なり,実際にキメラタンパク質を作成して確かめたもの以外は結合が維持できるか不明であることとなる。 したがって,受容体としてICAM-1の細胞外ドメインを用いた結果から,すべての非ウイルス毒素受容体タンパク質(細胞外ドメインでないものも含む)を用いたイムノアドヘシンにおいてまで結合能が維持できると一般化することはできない。 したがって,本件補正発明は本願明細書の記載に裏付けられておらず,その課題を解決できることを当業者が理解できるように記載されているとはいえないから,本件補正発明は本願の発明の詳細な説明に記載されているものであるとはいえない。 また,本願の発明の詳細な説明は,本件補正発明について,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているということはできない。 (2-2)審判請求人の主張 審判請求人は,平成22年7月15日付の審判請求書の手続補正書において,以下のように主張している。 a.「非ウイルス毒素受容体タンパク質」について 「免疫グロブリンドメインは,多量体化のためのスキャホールドとして供給され,エフェクター機能を付与することにより,毒素受容体タンパク質の機能を促進致します(本願明細書段落「0010」,及び段落「0058」の第6行目から13行目)。免疫グロブリン重鎖は重要な毒素結合機能にとって必要ではありません。補正後の請求項には,「多量体化能を与えまたはエフェクター機能を付与するのに十分な」免疫グロブリン重鎖の少なくとも一部分と記載されております。イムノアドヘシンについての記載に基づけば,あらゆる毒素受容体タンパク質がイムノアドヘシンとして有用であることは明らかであると思料致します。また,周知の非ウイルス毒素受容体タンパク質がイムノアドヘシンとして用い得ることは本願明細書及び本願優先日の一般的な知見により裏付けられております。まず,本願明細書段落「0028」には,以下のように記載されており,この記載はイムノアドヘシンが公知のあらゆる毒素受容体タンパク質を含むことを示しております。・・・さらに,審査官殿もご認定されておりますように,「非ウイルス毒素受容体は本願優先日当時多くのタンパク質が周知」でした。さらに,本願明細書において,Immunology, Roitt et al., Mosby St, Louis, Mo. (1993 3rd Ed.)が引用されております(本願明細書段落「0058」)。この文献は本願優先日における,免疫グロブリン重鎖ドメインの機能的役割についての当業者の一般的知見を示しております。すなわち,本願優先日において,如何にして非ウイルス毒素受容体タンパク質が毒性物質に結合し,さらに免疫グロブリン重鎖が受容体を多量体化することに用いることができ,受容体の結合機能を促進することが理解されていたことを考えれば,当業者はあらゆる毒素受容体タンパク質が免疫グロブリン重鎖と連結し,請求項に記載のイムノアドヘシンを形成することができることを理解することができます。以上のように,当業者はあらゆる「非ウイルス毒素受容体タンパク質」は本願明細書に明確に記載され,当業者はあらゆる「非ウイルス毒素受容体タンパク質」がイムノアドヘシンとして有用であることを理解できたと言えます。」 b.「炭疽毒素受容体(ATR)」について 「審査官殿は,発明の詳細な説明に,ATRを用いたイムノアドヘシンが,実際に効果があったという結果,さらに,その植物細胞で発現させた物が効果があったという結果も記載されておらず,推認できるものでもないとご認定されておりました。しかしながら,本願明細書実施例10?14には,免疫グロブリン重鎖に連結した炭疽毒素受容体を含むイムノアドヘシンの作製方法(本願明細書段落「0198」?「0203」),及び植物中におけるイムノアドヘシンの作製方法(本願明細書段落「0204」),哺乳類細胞及びヒトにおけるイムノアドヘシンを有効にする方法(本願明細書段落「0207」,「0208」)が記載されております。この明細書の記載及び毒素受容体タンパク質及び免疫グロブリンドメインの一般的な知識があれば,当業者にとって機能的な炭疽毒素受容体を含む機能的なイムノアドヘシンを作製することはルーチンワークとして行うことができるものと思料致します。さらに,キメラ非ウイルス毒素受容体タンパク質を含む機能的なイムノアドヘシンが植物中で製造できることの裏付けとして,本願の出願後に作成された論文「Wycoff et al., An Immunoadhesin Produced in Patns as a Therapy for Anthrax」(参考資料1)があります。該論文は,本願の発明者であるWycoff(ウィコフ)らによって著されたものです。この論文のデータは,キメラ炭疽毒素受容体を含む機能的なイムノアドヘシンが植物中で製造できたことを示しております。該論文の第17?19頁並びに図1及び2には,IgG1重鎖の定常領域に連結したキメラ炭疽毒素受容体を含むイムノアドヘシンを植物中で製造するのに成功したことが示されております。さらに,第20?22頁並びに図4及び5には,植物で製造されたキメラ炭疽毒素受容体を含むイムノアドヘシンが炭疽毒素受容体の鼻腔投与チャレンジからウサギを防御したことが示されております。以上のように,「キメラ非ウイルス毒素タンパク質を含むイムノアドヘシン」は明確であり,実施可能要件を満たしております。従いまして,「非ウイルス毒素受容体タンパク質」に関しまして,請求項1?41は,特許法第36条第6項第1号及び特許法第36条第4項第1号の規定を満たしているものと思料致します。」 上記主張について検討する。 主張aについて,どのような非ウイルス毒素受容体を用いてもイムノアドヘシンを形成できるのであれば,このようなイムノアドヘシンを作成すること自体は当業者が容易に想到することであり,特許法第29条第2項により特許を受けることができない。 主張bについて,本願当初明細書には,非ウイルス毒素受容体である炭疽毒素受容体を用いたイムノアドヘンシンを実際に植物細胞で発現させたことは記載されておらず,参考文献1において示されたデータはいわゆる後出しのデータであるから出願時のデータとして採用することができない。 また,仮にこれらのデータを採用したとしても,イムノアドヘシンとして機能することが示されたのは,受容体としてICAM-1及び炭疽毒素受容体を用いた場合のみであり,非ウイルス毒素受容体については炭疽毒素受容体についてのみであるから,それ以外のあらゆる非ウイルス毒素受容体を用いた場合にまで一般化できないのは上記(2-1)に述べたとおりである。 よって,上記主張a及びbはいずれも採用できない。 (2-3)小括 したがって,本件補正発明は本願の発明の詳細な説明に記載されているものであるとはいえないので,本願は特許法第36条第6項第1号に規定する要件をみたさない。 また,本願の発明の詳細な説明は,本件補正発明について,当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているということはできず,本願は,特許法第36条第4項第1項に規定する要件をみたさない。 (3)小括 本件補正発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができず,また,本件補正発明について,本願は,特許法第36条第6項第1号及び第4項第1号に規定する要件をみたさないので,特許出願の際独立して特許を受けることができるものでない。 3.むすび 以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.本願発明について 1.本願発明 平成22年6月2日の手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願発明は,平成21年3月30日付手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて,その請求項1乃至41に記載された事項により特定されるとおりのものであり,そのうち請求項1に係る発明は,以下のとおりのものである。(以下,「本願発明」という。) 「【請求項1】 キメラ非ウイルス毒素受容体タンパク質を含んでなるイムノアドヘシンであって,上記キメラ非ウイルス毒素受容体タンパク質が,免疫グロブリン重鎖の少なくとも一部分と連結した毒素受容体タンパク質;ならびに上記キメラ非ウイルス毒素受容体タンパク質と結合したJ鎖および分泌成分を含んでなる上記イムノアドヘシン。」 2.引用例 引用例2,3及び5の記載は,上記第2の2(1)(1-1)の欄に記載したとおりである。 さらに,同じく原査定の拒絶の理由で引用文献4として引用された本願優先日前の1999年に頒布された刊行物であるProc.Natl.Acad.Sci.USA, 1999,Vol.96, p.3029-3034(以下,「引用例4」という。)は,「CHO細胞において会合し産生された種々の分子型IgA抗体の抗原結合性と安定性に関するin vitroの比較 」と題する論文であり,以下の事項が記載されている。 サ.「粘膜免疫反応の特徴は抗原特異的分泌型IgA(S-IgA)抗体の外部への分泌産生である。・・・プラズマ細胞において重鎖及び軽鎖は,J鎖と会合して重合し,一方,上皮を通過し輸送される間に分泌成分(SC)が加わってIgAへとアセンブルする。組換キメラ型マウス-ヒト単量体,二量体,及びS-IgA抗体を,キメラ重鎖及び軽鎖,ヒトJ鎖,及びヒトSCに対する3つの各々の選択マーカーを持つ発現ベクターで逐次トランスフェクションした単一CHO細胞で産生させた。種々の分子型の生化学的特性を調べると,種々のポリペプチドの会合により期待する大きさ及び共有原子価のIgA抗体が産生していた。全てのキメラIgA抗体は親IgA抗体の抗原結合能を保持していた。・・・4つの異なる遺伝的成分を用いて新しくプログラムしたCHO細胞は,機能的キメラS-IgAの会合が可能と結論した。」(第3029頁要約第1?23行) 3.対比・判断 引用例3記載事項エより,イムノアドヘシンにおいて免疫グロブリン重鎖としてIgMを用いた場合にJ鎖を含むものが示唆されているので,本願発明と引用例3に記載された事項を比較すると,両者は,キメラ受容体タンパク質を含んでなるイムノアドヘシンであって,上記キメラ受容体タンパク質が,免疫グロブリン重鎖の少なくとも一部分と連結した受容体タンパク質;ならびに上記キメラ受容体タンパク質と結合したJ鎖を含んでなる上記イムノアドヘシンである点で共通し,両者は,以下の点で相違する。 a.キメラ受容体タンパク質が,本願発明においては,非ウイルス毒素の受容体であるのに対し,引用例3においては,ウイルスの細胞受容体であるICAM-1である点。 b.イムノアドヘシンが,本願発明においては,分泌成分も含むのに対し,引用例3においては,分泌成分についての記載はない点。 上記相違点について検討する。 相違点aについては,上記第2の2(1)(1-2)の欄に記載したとおりである。 相違点bについて,引用例4記載事項サ及び引用例5記載事項ケにもあるように,分泌型IgAの構成成分がIgAの重鎖,軽鎖,J鎖及び分泌成分であることはすでに周知の技術的事項であり,引用例5においてはこれら4成分を植物に導入することで会合したIgAを製造することに成功している。 よって,引用例3におけるイムノアドヘシンにおいても,免疫グロブリンの会合に寄与する分泌成分を用いることは当業者が容易に想到し得たことである。 そして,引用例3においてはJ鎖を含むイムノアドヘシンにおける免疫グロブリンはIgMであり,この点で引用例4及び5の記載とは相違するが,本願発明においても用いる免疫グロブリンの種類の限定はなく,請求項1を引用する請求項3において「上記免疫グロブリン重鎖がIgA,IgA1,IgA2,IgM,およびキメラ免疫グロブリン重鎖からなる群から選択される」と記載され,本願明細書段落【0057】には,キメラ非ウイルス毒素受容体についての直接の記載ではないが,「キメラICAM-1分子は好ましくはIgMまたはIgA重鎖の少なくとも一部分を含有し,免疫グロブリン重鎖が免疫グロブリンJ鎖と結合してそれにより分泌成分と結合できることを可能にする。免疫グロブリン重鎖から誘導されたキメラICAM-1分子の部分は,IgA重鎖またはIgM重鎖からまたは重鎖のいずれかの他のアイソタイプから選択される個々のドメインから成ることを意図する。また,IgAまたはIgM以外の免疫グロブリン重鎖からまたは免疫グロブリン軽鎖から誘導された免疫グロブリンドメインを分子的に遺伝子操作して免疫グロブリンJ鎖と結合し,そしてこれを用いて本発明の免疫グロブリンおよびイムノアドヘシンを生産することも意図する。」と記載されているように,本願発明においてもキメラ受容体分子のうちのIgMまたはIgA重鎖が免疫グロブリンJ鎖と結合し,それにより分泌成分と結合できることを利用してJ鎖及び分泌成分を用いているものと認められるので,上記のように容易に想到したものと差はない。 4.本願発明の効果について 本願明細書において,キメラ非ウイルス毒素受容体タンパク質を含んでなるイムノアドヘシンであって,上記キメラ非ウイルス毒素受容体タンパク質が,免疫グロブリン重鎖の少なくとも一部分と連結した毒素受容体タンパク質,ならびに上記キメラ非ウイルス毒素受容体タンパク質と結合したJ鎖および分泌成分を含んでなる上記イムノアドヘシンは作成されておらず,また,分泌成分およびJ鎖の有無によりイムノアドヘシンの特性がどのように異なるかは実験データなどにより示されていないので,本願発明の効果は確認できない。 本願明細書の段落【0015】には,「分泌成分および免疫グロブリンJ鎖の本発明のイムノアドヘシンとの結合は粘膜環境におけるイムノアドヘシンの安定性を増加する(略)。分泌成分と結合した分泌性IgA(SIgA)は,乳および初乳を含む粘膜分泌物中に通常見出される抗体アイソタイプである。他の抗体アイソタイプと異なり,SIgAはごくわずかなタンパク分解しか受けずに腸を通過することができる。SIgAはまた室温にて粗植物調製物中で非常に安定である。分泌成分の機能が粘膜の苛酷な環境から抗体を保護するようである(略)。」と記載されており,分泌成分およびJ鎖を用いることの効果は,安定性を増加することであると考えられるが,該効果を奏するとしてもそれは当業者が予想できる範囲の効果に過ぎない。 また,免疫グロブリンとしてIgA及びIgM以外を用いた場合のJ鎖および分泌成分を用いたときの効果は不明であるから,本願発明の構成全体にわたって,当業者が予測できない顕著な効果が奏せられているともいえない。 さらに,審判請求人は,平成22年7月15日付の審判請求書の手続補正書の「IgAのJ鎖および分泌成分なしに効果のあるイムノアドヘシンについて」の欄で,「本願明細書の段落「0060」には,以下のように,請求項に記載のイムノアドヘシンが常にキメラ毒素受容体タンパク質に結合したJ鎖及び分泌成分を必要とするわけではないことが記載されております。(略)さらに,本願明細書の段落「0104」には,以下のように記載されており,J鎖及び分泌成分が必須の成分でないことが示されております。(略)参考資料1(Wycoff et al.)には,J鎖及び分泌タンパク質を有しない非ウイルス毒素受容体タンパク質を含むイムノアドヘシンが開示されております。IgG1の定常領域に連結したキメラ非ウイルス毒素受容体タンパク質のみを含むイムノアドヘシンを製造するために用いられる構築物が記載されております(第6?7頁)。いずれの構築物もJ鎖及び分泌成分を含んでおりません。さらに,参考資料1(Wycoff1et al.)は,J鎖及び分泌成分を有しない機能的イムノアドヘシンが植物中で作製できたことが記載されております(第17?18頁,図1及び2,第20?22頁,並びに図4及び5)。以上のように,本願明細書には,IgAのJ鎖および分泌成分なしに効果のあるイムノアドヘシンとなること示されております。従いまして,ご指摘の請求項は実施可能要件を満たしているものと思料致します。(略)参考資料3には,「免疫グロブリン重鎖の少なくとも一部分」についての実験結果と,「J鎖および/または分泌成分のないイムノアドヘシン」についての実験結果が示されております。」と主張し,「免疫グロブリン重鎖の少なくとも一部分」についての欄で「参考資料3には,さらに,IgA(J鎖があるものとないもの)のCα1-Cα3に連結した非ウイルス毒素受容体を含む機能的なイムノアドヘシンが植物で製造できたことが示されております。」と主張し,「J鎖および/または分泌成分のないイムノアドヘシン」についての欄で「参考資料3には,さらに,J鎖を有するが分泌成分を有しないIgA2の定常領域に連結した非ウイルス毒素受容体タンパク質を含む機能的なイムノアドヘシンの発現が示されております。」と主張している。 ここで,これらの主張は進歩性についての主張ではなく,参考資料1及び3は本願出願時のデータとして採用できるものではないが,イムノアドヘシンの機能の発揮にJ鎖および分泌成分の有無が関与しないことを示唆しており,J鎖および分泌成分を用いた場合に無い場合と比較して顕著な効果を奏するものではないことを裏付けるものである。 5.審判請求人の主張 審判請求人は,平成21年3月30日付意見書において以下のように主張している。 a.引用文献2には,病原生物により産生される毒素に結合する非ウイルス毒素受容体は記載されておらず,引用文献3乃至5には非ウイルス生物により産生される毒素に結合する受容体を含むイムノアドヘシンについては記載されていない。 b.「引用文献4及び5に記載されているのは抗体である。一方,本願発明のキメラ非ウイルス毒素受容体を含むイムノアドヘシンはリガンド受容体であって,単純な抗体ではない。抗体はしばしば "induced fit"(誘導適合)のメカニズムにより結合する(略)。結合における"induced fit"メカニズムにおいては,コンフォメーションの柔軟性が必要であるが,このコンフォメーションの柔軟性はグリコシル化により阻害されることが知られている(略)。このため,抗体の結合領域又は可変領域は高度に適合可能な形状を有し,まれにしかグリコシル化されない。一方,リガンド受容体は,抗体と異なり,特定のリガンドのみに対して大きなアフィニティーを有し,そのリガンドに対する機能的な結合を維持するために保持されるべき特異的な構造を有する。この特異的な機能的構造はグリコシル化によって維持される(略)。リガンド受容体はその結合領域において広範囲にグリコシル化されており,柔軟な"induced fit"メカニズムが利用されることはない。予測されるように,リガンドと受容体の結合に必要な構造の特異性を考慮すると,そのようなタンパク質においてはグリコシル化の変更は機能的に非常に重要である。従って,抗体とイムノアドヘシンの結合メカニズムは異なり,抗体についての引用文献4及び5の記載から,本願発明のイムノアドヘシンを想到することはできない。」 c.「引用文献6には,キメラ非ウイルス炭疽菌毒素受容体については,記載されていない。リコンビナントタンパク質が非天然構築物として発現された場合,その天然のコンフォメーションを有していないことがある。従って,当業者は炭疽菌毒素受容体タンパク質などの毒素受容体タンパク質をキメライムノアドヘシン分子に導入した場合に,その活性を保持しているとは予測できない。よって,引用文献6の記載からは,本願発明のイムノアドヘシンに想到することはできない。」 上記主張について検討する。 主張aについては,上記第2の2(1)(1-2)の欄に記載したとおりである。 主張b及びcについて,上記(1-2)の欄に記載したように,本願発明のイムノアドヘシンの着想自体は容易であり,それが顕著な効果を奏するかについて,主張b及びcのようにリガンド受容体とリガンドとの結合において特異的な構造の維持が重要なのであれば,受容体をキメラタンパク質とした場合に結合能が維持されているかは,イムノアドヘシンを実際に製造して目的の機能を維持しているか確かめることが必要であるところ,本願明細書においては,非ウイルス毒素受容体を含むイムノアドヘシンの効果は確認されていないから,顕著な効果を奏するとはいえない。グリコシル化については,本願発明は植物において発現するものに限定されていないので採用できない。 よって,上記主張a乃至cはいずれも採用できない。 6.小括 したがって,本願発明は引用例2乃至5の記載及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4.むすび したがって,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-12-12 |
結審通知日 | 2012-12-18 |
審決日 | 2013-01-07 |
出願番号 | 特願2003-564542(P2003-564542) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N) P 1 8・ 536- Z (C12N) P 1 8・ 121- Z (C12N) P 1 8・ 537- Z (C12N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 水落 登希子 |
特許庁審判長 |
鵜飼 健 |
特許庁審判官 |
鈴木 恵理子 六笠 紀子 |
発明の名称 | 毒性および病原体が媒介する疾患を治療しかつ予防するための新規イムノアドヘシン |
代理人 | 藤田 節 |
代理人 | 平木 祐輔 |
代理人 | 田中 夏夫 |