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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C02F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C02F
管理番号 1274467
審判番号 不服2011-18003  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-19 
確定日 2013-05-22 
事件の表示 特願2007-515513「汚泥処理プロセス」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月15日国際公開、WO2005/118490、平成20年 1月24日国内公表、特表2008-501508〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2005年6月1日(パリ条約による優先権主張外国官庁受理2004年6月1日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成18年12月1日付けで国内書面が提出され、平成19年2月1日付けで国際出願翻訳文提出書が提出され、平成22年7月30日付けで拒絶理由通知書が起案された(発送日は同年8月3日)が、出願人からの応答はなく、平成23年4月13日付けで拒絶査定が起案され (発送日は同年4月19日)、これに対し同年8月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に同日付けで特許請求の範囲の記載に係る手続補正書が提出され、同年9月29日に審判請求書の請求の理由についての手続補正書が提出されたものであり、その後平成24年4月17日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が起案され(発送日は同年4月24日)、同年10月24日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成23年8月19日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年8月19日付けの手続補正(以下、必要に応じて「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.本件補正により、特許請求の範囲は、補正前の
「【請求項1】
バイオソリッドを処理する方法であって、
前記バイオソリッドのpHを調整するステップと、
二酸化塩素を前記バイオソリッドに添加するステップと、
回虫卵の殻に浸透可能な化学種の非帯電状態を維持するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記pHが酸を使用して調整される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
重硫酸ナトリウム、硫酸、クエン酸、リン酸、塩酸、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される酸を使用して前記pHが調整される請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記化学種が亜硝酸である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
約300重量ppm?約3000重量ppmの濃度に達するように前記バイオソリッドに亜硝酸を添加するステップを含む請求項4に記載の方法。
【請求項6】
亜硝酸塩ラジカルを解離生成する種を添加することによって亜硝酸が形成される請求項4に記載の方法。
【請求項7】
+200?+600mVの範囲内の酸化還元電位を維持するステップを含む請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記汚泥のpHを3.8未満に低下させる請求項4に記載の方法。
【請求項9】
塩基を使用して前記pHを上昇させる請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、およびこれらの組み合わせならびに混合物からなる群から選択される請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記非帯電性化学種がNH_(4)である請求項8に記載の方法。
【請求項12】
二酸化塩素の添加によって前記バイオソリッドのORPを上昇させるステップを含む請求項1に記載の方法。
【請求項13】
予備生成された二酸化塩素の前記バイオソリッドへの添加、亜塩素酸ナトリウムの前記酸性化されたバイオソリッドへの添加、塩素酸ナトリウムの前記酸性化されたバイオソリッドへの添加、次亜塩素酸ナトリウムの前記酸性化されたバイオソリッドへの添加、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される方法によって二酸化塩素を生成するステップを含む請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記バイオソリッドのORPを上昇させることによって前記亜硝酸を安定化させるステップを含む請求項3に記載の方法。
【請求項15】
前記バイオソリッドが閉鎖系内で維持されることを維持するステップと、前記非帯電性種の揮発を防止するステップとを含む請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記バイオソリッドが嫌気的または好気的に消化される請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記バイオソリッドを嫌気的に消化するステップと、前記バイオソリッドのpHを低下させるステップとを含む請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記バイオソリッドが嫌気的に消化され、かつ前記非帯電性化学種がH2Sである請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記バイオソリッドにおける固形率が1?8重量%の範囲の固形物含有量である請求項1に記載の方法。」
から、次のとおりに補正された。
「【請求項1】
バイオソリッドを処理する方法であって、
二酸化塩素を前記バイオソリッドに添加するステップと、
前記バイオソリッドが+200?+600mVの酸化還元電位に達したときに、二酸化塩素の添加をやめるステップと、
前記バイオソリッドのpHを調整するステップと、
回虫卵の殻に浸透可能な化学種の非帯電状態を生じ、維持するステップと
を含む方法であって、ここに、前記化学種が亜硝酸である、方法。
【請求項2】
前記pHが酸を使用して調整される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
重硫酸ナトリウム、硫酸、クエン酸、リン酸、塩酸、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される酸を使用して前記pHが調整される請求項2に記載の方法。
【請求項4】
300重量ppm?3000重量ppmの濃度に達するように前記バイオソリッドに亜硝酸を添加するステップを含む請求項1?3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
亜硝酸塩ラジカルを解離生成する種を添加することによって亜硝酸が形成される請求項1?4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記バイオソリッドのpHを3.8未満に低下させる請求項1?5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
塩基を使用して前記バイオソリッドのpHを上昇させるステップをさらに含む請求項1?6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記塩基が、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、およびこれらの組み合わせならびに混合物からなる群から選択される請求項7に記載の方法。
【請求項9】
予備生成された二酸化塩素の前記バイオソリッドへの添加、亜塩素酸ナトリウムの前記酸性化されたバイオソリッドへの添加、塩素酸ナトリウムの前記酸性化されたバイオソリッドへの添加、次亜塩素酸ナトリウムの前記酸性化されたバイオソリッドへの添加、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される方法によって二酸化塩素を生成するステップを含む請求項1?8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
二酸化塩素を添加することによって前記バイオソリッドのORPを上昇させ、それにより、前記亜硝酸を安定化させる、請求項1?9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記バイオソリッドが閉鎖系内で維持されて、前記非帯電状態における化学種の揮発を防止する、請求項1?10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記バイオソリッドを嫌気的または好気的に消化するための請求項1?11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記バイオソリッドのpHを調整するステップにおいて、前記バイオソリッドのpHを低下させる、前記バイオソリッドを嫌気的に消化するための請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記バイオソリッドにおける固形率が1?8重量%の範囲の固形物含有量である請求項1?13のいずれか1項記載の方法。」

2.本件補正は、本件補正前の請求項1を引用する請求項4を引用する請求項6をさらに引用する請求項7、即ち、引用を行わない形式で書き換えると、
「【請求項7】
バイオソリッドを処理する方法であって、
前記バイオソリッドのpHを調整するステップと、
二酸化塩素を前記バイオソリッドに添加するステップと、
+200?+600mVの範囲内の酸化還元電位を維持するステップと、
回虫卵の殻に浸透可能な化学種の非帯電状態を生じ、維持するステップと
を含む、方法であって、前記化学種が亜硝酸であって、亜硝酸塩ラジカルを解離生成する種を添加することによって亜硝酸が形成される方法。」
となる本件補正前の請求項7において、(i)「+200?+600mVの範囲内の酸化還元電位を維持するステップ」と記載されていたものを、「前記バイオソリッドが+200?+600mVの酸化還元電位に達したときに、二酸化塩素の添加をやめるステップ」と補正し、(ii)「化学種の非帯電状態を維持するステップ」と記載されていたものを「化学種の非帯電状態を生じ、維持するステップ」と補正すると共に、(iii)「亜硝酸塩ラジカルを解離生成する種を添加することによって亜硝酸が形成される」という限定を削除して、本件補正後の請求項1とすることを含むものである。
二酸化塩素を添加して所定範囲内に酸化還元電位を維持する際に、酸化還元電位が所定範囲内に達したときに、過剰に二酸化塩素を添加されて所定範囲を逸脱しないように、二酸化塩素の添加をやめるというやり方も、酸化還元電位を維持する方法としてとり得る態様の1つであるから、この本件補正前の請求項7についての補正事項(i)は、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項である「+200?+600mVの範囲内の酸化還元電位を維持するステップ」を、「前記バイオソリッドが+200?+600mVの酸化還元電位に達したときに、二酸化塩素の添加をやめるステップ」に限定する、いわゆる限定的減縮を目的とするものであるとしても、「非帯電状態を生じ」という新たなステップを導入する補正事項(ii)や発明を特定するために必要な事項を削除する補正である上記補正事項(iii)は、いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものには該当しないし、誤記の訂正を目的とするものにも、明りょうでない記載の釈明を目的とするものにも該当しない。

したがって、本件補正は、平成18年法律第55条改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。

3.仮に、上記補正がいわゆる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるか否かについて、以下で検討する。

(1)引用例の記載事項
(ア)原査定の拒絶の理由に引用された、米国特許第5281341号明細書(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア-1)「When municipal sludges were treated by the oxyozonation process and with the addition of 400 to 600 mg/L of sodium nitrite after ozonation, the following results were noted:
1. The oxyozonation process reduced the bacterial contaminates by over 6 orders of magnitude.
2. Viruses were reduced by more than 3 orders of magnitude.
3. When the pH was held to around 2.7 and the nitrite content was about 500 mg/kg of wet sludge, the Ascaris eggs were completely inactivated within two days of storage.
The results indicate that with properly managed sludge treatment, Ascaris eggs can be effectively inactivated with minimal additional expense. In addition, problems have been noted with volatilization of nitrous acid. 」(明細書第4欄20行?36行)
(翻訳文:都市汚泥がオキシオゾン処理とオゾン処理後の400?600mg/L亜硝酸ナトリウムの添加で処理された場合、次の結果が注目されている:
1.オキシオゾン処理プロセスは、細菌汚染を6桁を超える強度で減少させた。
2.ウイルスは、3桁以上の強度で減少された
3.pHが2.7周辺に保たれて、亜硝酸塩濃度が約500mg/kg湿潤汚泥であった場合、回虫卵は2日間の貯蔵で完全に不活化された。

結果は、適正に管理された汚泥処理で、回虫卵は最小の追加経費を使い効果的に不活化され得ることを示す。さらに、問題は亜硝酸の揮発とともに注目されてきた。)

(ア-2)「EXAMPLES
Waste activated sludge from the Valley Creek WWTP in Jefferson County, Alabama was treated with Synox Process according to the following operating conditions.
1. The sludge had about 1.7% total suspended solids and a pH of 6.19.
2. Sludge was acidified by the addition of sulfuric acid to pH 2.92.
3. 90 gallons of acidified sludge was exposed to approximately 1 gram of ozone per minute (a concentration of 4% by weight in oxygen) for 100 minutes while being recirculated through a Synox pressure vessel operating at 60 psi.
4. After ozonation the sludge was thickened by flotation to approximately 3.0% total solids.
The sludge was mixed thoroughly and the initial pH, temperature, ORP and TSS determined. Before treatment with nitrite, samples were taken and were analyzed for nitrites and Ascaris eggs. Samples were evaluated for nitrite and Ascaris reduction immediately after nitrite addition and then after 4, 8, 12, and 24 hours of contact.」(明細書第5欄34行?56行)
(翻訳文: 例
アラバマ州、ジェファーソン郡にあるValley Creek WWTPからの廃活性汚泥が、Synoxプロセスで、次の操作条件に従って処理された。
1.汚泥は、約1.7%全懸濁固形物とpH6.19を有していた。
2.汚泥は、硫酸の添加でpH2.92と酸性化された。
3.酸性化汚泥90ガロンが、60psiで操作されているSynox圧力容器を再循環されている間に、毎分およそ1gのオゾン(酸素中に4重量%濃度)に100分間曝された。
4.オゾン処理後、汚泥は浮上により約3.0%全固形物に濃化された。
汚泥は、徹底的に混合されて、当初pH、温度、ORP及びTSSが決定された。亜硝酸塩での処理前、サンプルが取り出されて、亜硝酸塩と回虫卵が分析された。サンプルは、亜硝酸塩添加後直ちに、そして4,8,12と24時間の接触後、亜硝酸塩と回虫卵減少が評価された。)

(ア-3)「 The formation of nitrite varies with respect to pH and oxidation reduction potential (ORP-0.059 log [e^(-)]). FIG. 13 illustrates this potential phenomenon with respect to pH and ORP. In this study, the ORP of the sludge was in the range of 0.480 volts and 0.590 volts. The nitrite was probably formed during the ozonation process as the pH dropped from 5.7 to 3.8 or when the ORP was at the 0.710 to 0.650 volts before reduction of the ORP during transport to our laboratory. Another important factor is the pH which also influences the form of the nitrous acid as noted in FIG. 14. The inactivation was noted to be effective in the pH range of 3.0 to 2.7 where the nitrous acid (non-charged form) is predominantly between 72 to 82 percent of the total nitrite.」(明細書8欄29行?43行)
(翻訳文: 亜硝酸塩の形成は,pHと、酸化還元電位(ORP-0.059log[e^(-)])に関連して変化する。図13は、pHとORPに関連したこの現象を図示する。この研究において、汚泥のORPは0.480Vと0.590Vの範囲であった。亜硝酸塩は、オゾン処理プロセス中にpHが5.7から3.8に低下する際に、又は我々の研究室へ輸送される間にORPが減少する前に、ORPが0.710?0.650Vである時に、多分形成された。もう1つの重要な因子が、図14に示されている亜硝酸の形成にもまた影響するpHである。不活化は、亜硝酸(非帯電形)が優勢的に全亜硝酸塩の72?82%の間である3.0?2.7のpH範囲で効果的であることが注目された。)

(ア-4)「1. A method of treating liquid waste or process streams that include a sludge component, and that enhances sludge treatment or stabilization, comprising the steps of:
a) preliminarily acidifying the sludge to be treated to a pH of about 3.0 in an oxygen enriched environment; and
b) ozonating the sludge to raise the oxydation reduction potential of the sludge;
c) placing the waste stream in a closed chamber;
d) maintaining a nitrous acid level of 400 mg/l in the waste stream being treated for a sufficient time to kill pathogens.
・・・・
10. The method of claim 1 wherein in step "d" the pathogens being killed include at least bacteria, viruses, protozoa, and helminth eggs.
・・・・
13. The method of claim 1 wherein ORP (oxidation reduction potential) is between 400-450 millivolts positive. 」(明細書第9欄32行?第10欄37行)
(翻訳文:1.汚泥成分を含む液体廃棄物またはプロセス流を処理し、汚泥処理と安定化を増強する方法であって、次のステップを含む:
a)処理される汚泥を、酸素富化環境内で約3のpHに予備的に酸性化すること;そして
b)汚泥の酸化還元電位を上げるために汚泥をオゾン処理すること;
c)廃液流を閉鎖されたチャンバ内に置くこと;
d)処理される廃液流中に400mg/Lの亜硝酸レベルを病原体を殺滅するために十分な時間維持すること。
・・・・
10.ステップd)において、殺滅される病原体が細菌、ウイルス、原生動物及び寄生虫卵である、請求項1の方法。
・・・・
13.ORP(酸化還元電位)が+400?+450mVである、請求項1の方法。)

(イ)原査定の拒絶の理由に引用された、特開2000-140894号公報(以下、「刊行物4」という。)には、次の事項が記載されている。
(イ-1)「【請求項1】 生物学的廃水処理設備の沈殿池から引き抜かれた汚泥混合液の濃縮設備および濃縮された汚泥の脱水機よりなる汚泥の処理装置において、該汚泥混合液または濃縮された汚泥の送液路に塩素系酸化剤注入機構を設け、かつ該濃縮装置および脱水機で分離された分離液の処理装置がリンを除去しうる装置であることを特徴とする汚泥の処理装置」(特許請求の範囲)

(イ-2)「塩素系酸化剤は塩素ガス、次亜塩素酸塩、二酸化塩系等である。これらのなかで塩素ガス、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウムおよび二酸化塩素が好ましい。」(段落【0030】)

(イ-3)「塩素系酸化剤の代わりに、オゾンや過酸化水素などの酸化剤を用いても同様に生物反応抑制効果は得られるが、本発明において、塩素系酸化剤に限定したゆえんは、それが他の酸化剤に比して安価であり、経済的であることにある。」(段落【0033】)

(2)刊行1発明
刊行物1には、記載事項(ア-4)に「1.汚泥成分を含む液体廃棄物またはプロセス流を処理し、汚泥処理と安定化を増強する方法であって、次のステップを含む:
a)処理される汚泥を、酸素富化環境内で約3のpHに予備的に酸性化すること;そして
b)汚泥の酸化還元電位を上げるために汚泥をオゾン処理すること;
c)廃液流を閉鎖されたチャンバ内に置くこと;
d)処理される廃液流中に400mg/Lの亜硝酸レベルを病原体を殺滅するために十分な時間維持すること。」と記載され、「液体廃棄物」の代表的なものが「排水」であり、汚泥成分は排水処理によって生成することは明らかであるから、刊行物1に記載された方法は、「排水処理により生成した汚泥成分を含む排水を処理し、汚泥を処理する方法」である。
また、酸化還元電位については、記載事項(ア-4)に「13.ORP(酸化還元電位)が+400?+450mVである、請求項1の方法。」と記載されている。
そして、記載事項(ア-4)に「10.ステップd)において、殺滅される病原体が細菌、ウイルス、原生動物及び寄生虫卵である、請求項1の方法。」と記載され、寄生虫卵については、記載事項(ア-1)に「回虫卵は2日間の貯蔵で完全に不活化された。・・・結果は、適正に管理された汚泥処理で、回虫卵は最小の追加経費を使い効果的に不活化され得ることを示す」と、記載事項(ア-2)に「サンプルは、亜硝酸塩添加後直ちに、そして4,8,12と24時間の接触後、亜硝酸塩と回虫卵減少が評価された。」と記載されているように、回虫卵が具体的に例示されている。
さらに、「亜硝酸」は、記載事項(ア-3)に「不活化は、亜硝酸(非帯電形)が優勢的に全亜硝酸塩の72?82%の間である3.0?2.7のpH範囲で効果的であることが注目された。」と、非帯電状態にある化学種であることが記載されているから、これらの記載を整理すると、刊行物1には、
「排水処理により生成した汚泥成分を含む排水を処理し、汚泥を処理する方法であって、
処理される汚泥を、酸素富化環境内で約3のpHに予備的に酸性化すること;
汚泥の酸化還元電位を+400?+450mVに上げるために汚泥をオゾン処理すること;
処理される排水中に非帯電状態の化学種である亜硝酸のレベル400mg/Lを回虫卵を殺滅するために十分な時間維持することを含む、方法」
の発明(以下、「刊行1発明」という。)が記載されているものと認められる。

(3)本願補正発明と刊行1発明との対比
本願明細書の段落【0002】?【0003】には、「本発明は、都市排水または農業排水処理に関し、より詳細には、二酸化塩素と、蠕虫卵(回虫)に浸透することが知られている非帯電性化学種との組み合わせを利用することによって病原体の低下および安定化が達成されるバイオソリッド(biosolids)処理の改善された方法に関する。
【背景技術】
排水処理では、汚泥生成物が生成される。生成されるバイオソリッドが土壌改良として栄養価値を含有し、かつ土壌施用によって処分されるように、固形物中の病原体数を低減し、かつ病原体を他の場所に輸送可能な媒介体(鳥、ハエ、動物)のその誘引を低下させる必要がある。」と記載されているので、本願補正発明における「バイオソリッド」とは、都市排水処理または農業排水処理で生成される汚泥生成物を意味するものと認められるから、刊行1発明の「排水処理により生成した汚泥成分を含む排水を処理し、汚泥を処理する方法」は、本願補正発明の「バイオソリッドを処理する方法」に相当することは明らかである。
そして、刊行1発明において「汚泥の酸化還元電位を+400?+450mVに上げるために汚泥をオゾン処理すること」は、汚泥にオゾンを添加して汚泥の酸化還元電位を+400?+450mVに上げることに他ならないし、オゾンも二酸化塩素も酸化還元電位を上げることのできる酸化剤であることは化学的技術常識である。また、酸化剤を添加して汚泥(バイオソリッド)の酸化還元電位を+400?+450mVに上げるという際には、その目的とする所定の酸化還元電位範囲に達したときに酸化剤の添加をやめるという態様の添加も、当然包含されているものである。

そうすると、本願補正発明と刊行1発明とは、
(一致点)
「バイオソリッドを処理する方法であって、
酸化剤を前記バイオソリッドに添加するステップと、
前記バイオソリッドが+400?+450mVの酸化還元電位に達したときに、酸化剤の添加をやめるステップと、
前記バイオソリッドのpHを調整するステップと、
回虫卵に関連する化学種の非帯電状態を生じ、維持するステップと
を含む方法であって、ここに、前記化学種が亜硝酸である、方法。」
で一致し、次の点で相違する。
(相違点a)
前記バイオソリッドの酸化還元電位を所定の範囲に上げるために添加する酸化剤が、本願補正発明では、「二酸化塩素」であるの対し、刊行1発明では、「オゾン」である点。
(相違点b)
亜硝酸が、本願補正発明では、「回虫卵の殻に浸透可能な化学種」であるのに対し、刊行1発明では、回虫卵を殺滅するための化学種であって、回虫卵の殻に浸透可能な化学種であることは特定されていない点。

(4)検討
これらの相違点について検討する。
(4.1)相違点1について
排水処理で生成した汚泥(バイオソリッド)を処理する方法において、使用される酸化剤として、二酸化塩素は、記載事項(イ-2)、(イ-3)に「塩素系酸化剤は塩素ガス、次亜塩素酸塩、二酸化塩系等である。これらのなかで塩素ガス、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウムおよび二酸化塩素が好ましい。」、「塩素系酸化剤の代わりに、オゾンや過酸化水素などの酸化剤を用いても同様に生物反応抑制効果は得られる」と記載されているように、オゾンと同様に使用可能な酸化剤であるところ、記載事項(イ-3)には続けて「本発明において、塩素系酸化剤に限定したゆえんは、それが他の酸化剤に比して安価であり、経済的であることにある。」と、オゾンに対して二酸化塩素の方が経済的に有利であることが記載されている。
そして、排水処理で生成した汚泥(バイオソリッド)を処理する方法において処理に使用する薬剤費用を安価なものとし、処理をできるだけ経済的なものにしようとすることは、一般的な技術課題にすぎないから、回虫卵を殺滅するために酸化還元電位を所定の範囲に上げるために添加する酸化剤としてより高価なオゾンを使用している刊行1発明を、オゾンより安価に入手可能な二酸化塩素をオゾンに代えて使用して酸化還元電位を所定の範囲に上げるように刊行1発明の方法を変更してみるようなことは、当業者であれば容易に行い得る技術的創作活動の範囲内の事項である。

(4.2)相違点2について
刊行1発明において、亜硝酸がどのような生物化学的な作用機序で回虫卵を殺滅するのか記載はないが、回虫卵を保護している殻に浸透可能な化学種でなければ、回虫卵に作用を及ぼすことはできず、したがって回虫卵を殺滅することはできないと当然考えられる。
そうすると、刊行1発明においても、亜硝酸は回虫卵の殻に浸透可能な化学種であると認められるから、相違点2は実質的に相違点ではない。
なお、本願明細書の段落【0009】?【0010】にも、「非帯電性化学種は、特定の条件下で回虫卵の殻に浸透可能であることが知られている(参照)。米国特許第4,936,983号明細書は、閉鎖系内では400mg/Lを超える濃度の亜硝酸によってバイオソリッド中の回虫の不活化が可能であることを教示している。
混合物のpHおよび/またはORPを制御することにより、廃棄物流れ中の非イオン性または非帯電性の化学種を維持することが可能である。米国特許第4,936,983号明細書では、ORP制御に対するオゾンの使用について教示され、亜硝酸が回虫の不活化に対する浸透剤として使用される。」と記載されているところである。

そうすると、本願補正発明は、刊行物1、4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成23年8月19日付けの手続補正は前記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし19に係る発明は、補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし19に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
バイオソリッドを処理する方法であって、
前記バイオソリッドのpHを調整するステップと、
二酸化塩素を前記バイオソリッドに添加するステップと、
回虫卵の殻に浸透可能な化学種の非帯電状態を維持するステップと
を含む、方法。」(以下、「本願発明1」という。)

2.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である刊行物1、4及びその記載事項は、前記第2の3.(1)に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明1は、前記第2で検討した本願補正発明における二酸化塩素の添加についての特定事項である「前記バイオソリッドが+200?+600mVの酸化還元電位に達したときに、二酸化塩素の添加をやめるステップと」と、化学種の「非帯電状態を生じ」るステップと、回虫卵の殻に浸透可能な化学種についての「ここに、前記化学種が亜硝酸である」と限定する特定事項がないものである。
してみると、本願発明1を特定するために必要な事項である「前記バイオソリッドが+200?+600mVの酸化還元電位に達したときに、二酸化塩素の添加をやめるステップ」と化学種の「非帯電状態を生じ」るステップという限定を含み、回虫卵の殻に浸透可能な化学種について「ここに、前記化学種が亜硝酸である」と限定する本願補正発明が、前記第2の3.に記載したとおり、刊行物1、4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、二酸化塩素の添加についてのステップの「前記バイオソリッドが+200?+600mVの酸化還元電位に達したときに、二酸化塩素の添加をやめるステップ」と化学種の「非帯電状態を生じ」るステップという特定事項がなく、回虫卵の殻に浸透可能な化学種についての「ここに、前記化学種が亜硝酸である」と特定のない本願発明1も、本願補正発明と同様の理由により、刊行物1、4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明1は、刊行物1、4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-13 
結審通知日 2012-12-18 
審決日 2013-01-07 
出願番号 特願2007-515513(P2007-515513)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C02F)
P 1 8・ 575- Z (C02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 片山 真紀  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 國方 恭子
中澤 登
発明の名称 汚泥処理プロセス  
代理人 澤本 真奈美  
代理人 田中 光雄  
代理人 山崎 宏  
代理人 冨田 憲史  

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