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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23K
管理番号 1274482
審判番号 不服2012-2064  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-02-02 
確定日 2013-05-22 
事件の表示 特願2007-556460「溶接装置を制御及び/又は調節するための方法並びに溶接装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月31日国際公開、WO2006/089322、平成20年 8月14日国内公表、特表2008-531283〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2006年2月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年2月25日、オーストリア共和国)を国際出願日とする出願であって、平成22年11月9日付け拒絶理由通知に応答して平成23年2月23日付けで手続補正がなされ、平成23年9月29日付けで拒絶査定がなされた。
これに対し、平成24年2月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、当審による平成24年5月25日付けの審尋に対して、平成24年8月27日付けで回答書が提出されたものである。


第2.平成24年2月2日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成24年2月2日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の内容の概要
本件補正は、平成23年2月23日付けで補正された特許請求の範囲及び明細書をさらに補正するものであって、特許請求の範囲の請求項1に関する以下の補正を含んでいる。なお、下線部は補正箇所を示す。

(1)本件補正前の請求項1
「 【請求項1】
溶接ワイヤ(13)を用い、溶接装置(1)と溶接電流源(2)とをそれぞれ制御するための方法であって、電気アーク(15)の点火後に、前記溶接ワイヤ(13)が、該溶接ワイヤが加工物(16)に接触するまで前記加工物(16)の方向に運搬され、その後に、短絡の形成後に、短絡段階(33)の間に、前記ワイヤの運搬方向が反対にされ、前記溶接ワイヤ(13)が、前記短絡の開始まで前記加工物(16)から離され、溶接電流I及び/又は溶接電圧Uが、電気アーク段階(36)の間に前記溶接ワイヤ(13)が融解するように、すなわち液滴形成が起こるように調節される方法において、
少なくともいくつかの短絡段階(33)の間に、前記溶接電流I及び/又は前記溶接電圧Uの極性が切り替えられ、前記溶接電流I及び/又は前記溶接電圧Uの振幅が所定値に調節され、前記溶接ワイヤの溶融がそれぞれ防止されるが、前記溶接ワイヤ(13)を前記加工物(16)から持ち上げるときの前記電気アーク(15)の再点火が、前記短絡段階(33)の終わりに又は前記電気アーク段階(36)の初めに前記溶接電流Iと、補助電圧なしの前記溶接電圧Uのみによって前記電気アーク(15)を再点火することにより可能とされ、前記溶接電流I及び/又は前記溶接電圧Uの極性が、1つの短絡段階(33)と1つの電気アーク段階(36)とにより形成されるそれぞれの期間(40、41)の後に切り替えられ、加工物(16)の熱影響領域が前記溶接電流Iの負の部分によって低減される、
ことを特徴とする方法。」

(2)本件補正後の請求項1
「 【請求項1】
溶接ワイヤ(13)を用い、溶接装置(1)と溶接電流源(2)とをそれぞれ制御するための方法であって、電気アーク(15)の点火後に、前記溶接ワイヤ(13)が、該溶接ワイヤが加工物(16)に接触するまで前記加工物(16)の方向に運搬され、その後に、短絡の形成後に、短絡段階(33)の間に、前記ワイヤの運搬方向が反対にされ、前記溶接ワイヤ(13)が、前記短絡の開放まで前記加工物(16)から離され、溶接電流I及び/又は溶接電圧Uが、電気アーク段階(36)の間に前記溶接ワイヤ(13)が融解するように、すなわち液滴形成が起こるように調節される方法において、
少なくともいくつかの短絡段階(33)の間に、前記溶接電流I及び/又は前記溶接電圧Uの極性が切り替えられ、前記溶接電流I及び/又は前記溶接電圧Uの振幅が所定値に調節され、前記溶接ワイヤの溶融がそれぞれ防止されるが、前記溶接ワイヤ(13)を前記加工物(16)から持ち上げるときの前記電気アーク(15)の再点火が、前記短絡段階(33)の終わりに又は前記電気アーク段階(36)の初めに前記溶接電流Iと、補助電圧なしの前記溶接電圧Uのみによって前記電気アーク(15)を再点火することにより可能とされ、前記溶接電流I及び/又は前記溶接電圧Uの極性が、1つの短絡段階(33)と1つの電気アーク段階(36)とにより形成されるそれぞれの期間(40、41)の後に切り替えられ、加工物(16)の熱影響領域が前記溶接電流Iの負の部分によって低減され、前記溶接電流Iの極性が、前記短絡段階(33)の間においてそれぞれの期間(40、41)の後に切り替えられ、前記短絡が前記ワイヤの運搬方向の反対により開放され、前記溶接電流Iが、前記短絡の開放後に動作電流(39)に変更される、
ことを特徴とする方法。」


2.補正の適否
本件補正のうち特許請求の範囲の請求項1についてする補正は、「短絡の開始」という誤記を「短絡の開放」と訂正するほかに、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「溶接電流Iの極性」について、「溶接電流Iの極性が、短絡段階(33)の間においてそれぞれの期間(40、41)の後に切り替えられ」と限定し、「短絡」について、「短絡がワイヤの運搬方向の反対により開放され」と限定し、「溶接電流I」について、「溶接電流Iが、短絡の開放後に動作電流(39)に変更される」と限定するものであるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか。)について以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、上記1.(2)に示すとおりのものである。

(2)各刊行物の記載事項及び各刊行物記載の発明
本願優先日前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開昭60-187468号公報(以下、「刊行物1」という。)及び特開昭63-157765号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項及び発明が記載されている。

ア.刊行物1記載の事項及び刊行物1記載の発明
(ア)第2ページ左下欄第4ないし8行
「本発明は、溶滴の短絡及び離脱を電気的に検知し、溶接電流の強弱を制御するとともに、ワイヤ送給速度の高低、ワイヤ送給の断続、正転、逆転等の制御を行うようにしたことをその特徴とする。」

(イ)第3ページ左上欄第6行ないし左下欄第10行
「次に本発明方法における溶接現象を第4図に基づいて説明するに、同図上段(a)乃至(h)は溶接ワイヤ3の経時的な変化をその順に拡大して示したもの、同図(i)、(j)、(k)に示すグラフはそれぞれ溶接電圧V、溶接電流I、ワイヤ送給速度vの時間tに対する変化を示すものであり、ワイヤ速度vは正側を被溶接物4に向かう方向とし、負側を被溶接物4から遠ざかる方向とした。
而して、第4図(a)、(b)、(c)では溶接ワイヤ3は被溶接物4に向かつて送給され、通常の溶接電流化で溶接アーク10が発生するが、同図(d)では溶融金属15が被溶接物4と短絡するために溶接アーク10が消滅し、図示の如く溶接電圧Vが急激に低下する。この電圧変化は第3図に示す電圧検出器14によつて検出され、電圧判定器11によつて短絡発生時期が判定される。そして電圧判定器11はこの判定に基づいて溶接電源制御器12に信号を送り、該溶接電源制御器12を通じて図示の如く溶接電流Iを低下させる。これと同時にモータ制御器7も短絡の信号を受け取り、時間設定器13に設定されている時間t_(2)経過後、溶接ワイヤ3の送給方向を逆転させる。このため溶融金属15は、第4図(f)に示す如く、溶接電流Iのピンチ効果によることなく、溶接ワイヤ3をその先端から離脱し、これは被溶接物4側へ移行する。
上記の如く溶融金属15が離脱移行すれば、溶接ワイヤ3と被溶接物4とは電気的に絶縁されるため、両者間の電圧は溶接電源9の無負荷電圧に等しくなつて急激に上昇する。このため、電圧検出器14を通じて電圧判定器11は溶融金属15の離脱移行時期を判定することができ、溶接電源制御器12及びモータ制御器8を通じて時間設定器13に設定されている時間に応じて短絡移行が発生し、t_(1)時間後に溶接電流I及び溶接電圧Vを増大させることにより、第4図(g)に示す如く溶接アーク10を再発生させ、t_(3)時間後に溶接ワイヤ3の送給を正転させれば、溶接を持続させることができる。
以上のような制御により、第4図(f)に示す溶融金属15の離脱移行時には微小な溶接電流しか流れていないためスパッタの発生を抑制することができ、溶接アークの安定性を高めて溶接部の外観性向上、溶接欠陥の発生防止を図ることができる。」

(ウ)第4図の図示
第4図の(a)ないし(c)の期間、及び(g)ないし(h)の期間には、溶接ワイヤ3の先端に、溶接アーク10及び溶融金属15が生じていることの図示がある。

(エ)刊行物1記載の発明
上記(イ)の「同図(d)では溶融金属15が被溶接物4と短絡するために溶接アーク10が消滅し、図示の如く溶接電圧Vが急激に低下する。この電圧変化は第3図に示す電圧検出器14によつて検出され、電圧判定器11によつて短絡発生時期が判定される。そして電圧判定器11はこの判定に基づいて溶接電源制御器12に信号を送り、該溶接電源制御器12を通じて図示の如く溶接電流Iを低下させる。」という記載は、短絡している期間に溶接電流Iを低下させることを意味しており、そのように溶接電圧V及び溶接電流Iが低下していれば、溶接ワイヤ3から新たに溶融金属15が生じないことは、明らかである。
また、上記(イ)の「これと同時にモータ制御器7も短絡の信号を受け取り、時間設定器13に設定されている時間t_(2)経過後、溶接ワイヤ3の送給方向を逆転させる。このため溶融金属15は、第4図(f)に示す如く、溶接電流Iのピンチ効果によることなく、溶接ワイヤ3をその先端から離脱し、これは被溶接物4側へ移行する」という記載は、短絡してからt_(2)時間経過後に、溶接ワイヤ3の送給方向を逆転させ、それにより溶融金属15がワイヤ3の先端から離脱すること、すなわち短絡が開放されることを意味しているから、溶接ワイヤ3の送給方向を逆転することは、短絡段階の間に行われていることは明らかである。
以上の記載事項を、技術常識を踏まえつつ本件補正発明に照らして整理すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されていると認める。

「溶接ワイヤ3を用い、溶接装置と溶接電源9とをそれぞれ制御するための方法であって、溶接アーク10が発生した後に、溶接ワイヤ3が、該溶接ワイヤ3が被溶接物4に短絡するまで前記被溶接物4に向かって送給され、その後に、短絡の形成後に、短絡している期間の間に、前記ワイヤ3の送給方向が逆転され、前記溶接ワイヤ3が、前記短絡の開放まで前記被溶接物4から離され、溶接電流I及び溶接電圧Vが、溶接アーク10が発生している期間に前記溶接ワイヤ3が溶融金属15を生じるように調整される方法において、
少なくともいくつかの短絡している期間の間に、前記溶接電圧Vが急激に低下し、また、前記溶接電流Iを低下させ、溶接ワイヤ3から新たに溶融金属15が生じないが、前記溶接ワイヤ3を前記被溶接物4から持ち上げるときの前記溶接アーク10の再発生が、前記溶接アーク10が発生している期間の初めに前記溶接電流Iと、補助電圧なしの前記溶接電圧Vのみによって前記溶接アーク10を再発生することにより可能とされ、前記短絡が前記溶接ワイヤの送給方向の逆転により開放され、前記溶接電流Iが、前記短絡の開放からt_(1)時間後に増大される、
方法。」

イ.刊行物2記載の事項
(ア)第2ページ左上欄第10行ないし右上欄第17行
「[従来の技術]
消耗電極(溶接ワイヤ)を定速送給しつつ溶接を行う消耗電極式アーク溶接においては、比較的低電流域では、短絡とアークを繰り返す短絡移行型のアーク溶接方法を採用する。この溶接方法は、全姿勢、高能率溶接が可能であるという利点を有しており、一般には、母材側がマイナス(-)、ワイヤ側がプラス(+)になるように直流電圧を印加する逆極性溶接が行われている。この逆極性溶接では、母材への入熱が大きために、溶込量が大で、フラツトなビードを得やすい利点があるが、母材が薄板の場合には継手精度が悪く、ギヤツプが有る場合等には溶落ち現象が起こりやすいといつた欠点がある。逆に、母材側がプラス(+)、ワイヤ側がマイナス(-)になるように直流電圧を印加する正極性溶接では、ワイヤ溶融量が多く、母材への入熱量が小さいため、余盛を大きくしたいギヤツプのある薄板に対しては適しているが、継手精度が比較的良好な場合は凸ビード形状になり易く、また、多少のねらいずれが生じると、継手形状によつては融合不良が起こるといつた問題が生ずる。
また、継手によつては、逆極性溶接では溶落ちが生じ、正極性溶接では溶込み不良あるいは凸ビード形状となるため、溶込み量および余盛量が、逆極性溶接で得られるレベルと正極性溶接で得られるレベルの中間的なレベルとすることが望まれる場合が多い。」

(イ)第3ページ左上欄第2ないし11行
「この発明は上記目的を達成するため、直流電圧は消耗電極と母材間にアークが発生している間は同一極性を維持する電圧とし、極性の切換えを短絡期間内に行わせる構成とし・・・(中略)・・・たものである。」

(ウ)第4ページ右下欄第14行ないし第5ページ左上欄第1行
「このように、本実施例では、極性切換えが、短絡時に該短絡と同期して行われるのではなくて、短絡期間の開始後、短絡が確実となつた後に行われるので、切換えタイミングが、ワイヤ速度の変動、溶融池の振動、溶滴の不規則な揺動等に起因する見かけ上の短絡に左右されることがなくなり、正極性と逆極性の時間比率を所望通りに調整することができる。」

(エ)第2図の図示
第2図の(a)には、溶接電圧Vaと溶接電流Iaとの波形が示されており、それぞれの波形について、アーク期間と短絡期間とからなる期間が繰り返されていること、及び、それぞれの波形について、逆極性と正極性とに極性切換えが行われており、当該極性切換えが短絡期間内に行われていることが、示されている。

(オ)刊行物2記載の発明
以上の記載事項を、技術常識を踏まえつつ本件補正発明に照らして整理すると、刊行物2には次の発明(以下、「刊行物2記載の発明」という。)が記載されていると認める。
「溶接ワイヤを用いる短絡移行型のアーク溶接方法において、
少なくともいくつかの短絡期間の間に、溶接電流Ia及び溶接電圧Vaの極性切換えが行われ、前記溶接電流Ia及び前記溶接電圧Vaの極性が、1つの短絡期間と1つのアーク期間とにより形成されるそれぞれの期間の後に切換えられ、前記溶接電流Iaの極性が、前記短絡期間の間においてそれぞれの期間の後に切換えられる、
方法。」

(3)対比
本件補正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「溶接電源9」が本件補正発明の「溶接電流源」に相当することは明らかであり、以下同様に、「溶接アーク10」が「電気アーク」に相当し、「溶接アーク10が発生」することが「電気アークの点火」に相当し、「被溶接物4」が「加工物」に相当し、「被溶接物4に短絡する」ことが「加工物に接触する」ことに相当し、「送給」が「運搬」に相当し、「短絡している期間の間に、前記ワイヤ3の送給方向が逆転され」ることが「短絡段階の間に、ワイヤの運搬方向が反対にされ」ることに相当し、「溶接電流I及び溶接電圧Vが、溶接アーク10が発生している期間に溶接ワイヤ3が溶融金属15を生じるように調整される」ことが「溶接電流I及び」「溶接電圧Uが、電気アーク段階の間に溶接ワイヤが融解するように、すなわち液滴形成が起こるように調節される」ことに相当し、「短絡している期間」が「短絡段階」に相当し、「溶接電流Iを低下させ」ることが「溶接電流I」「の振幅が所定値に調節され」ることに相当し、「溶接ワイヤ3から新たに溶融金属15が生じない」ことが「溶接ワイヤの溶融が」「防止される」ことに相当し、「溶接アーク10の再発生が、溶接アーク10が発生している期間の初めに溶接電流Iと、補助電圧なしの溶接電圧Vのみによって前記溶接アーク10を再発生することにより可能とされ」ることが「電気アークの再点火が、」「電気アーク段階の初めに溶接電流Iと、補助電圧なしの溶接電圧Uのみによって前記電気アークを再点火することにより可能とされ」ることに相当し、「短絡が溶接ワイヤの送給方向の逆転により開放され」ることが「短絡がワイヤの運搬方向の反対により開放され」ることに相当する。
また、刊行物1記載の発明において「短絡の開放からt_(1)時間後」とは、短絡が開放した後の時間を意味するから、本件補正発明における「短絡の開放後」にほかならないから、刊行物1記載の発明において「溶接電流Iが、短絡の開放からt_(1)時間後に増大される」ことは、本件補正発明における「溶接電流Iが、短絡の開放後に動作電流に変更される」ことに相当する。

以上から、本件補正発明と刊行物1記載の発明とは、以下の点で一致及び相違する。

<一致点>
「溶接ワイヤを用い、溶接装置と溶接電流源とをそれぞれ制御するための方法であって、電気アークの点火後に、前記溶接ワイヤが、該溶接ワイヤが加工物に接触するまで前記加工物の方向に運搬され、その後に、短絡の形成後に、短絡段階の間に、前記ワイヤの運搬方向が反対にされ、前記溶接ワイヤが、前記短絡の開放まで前記加工物から離され、溶接電流I及び溶接電圧Uが、電気アーク段階の間に前記溶接ワイヤが融解するように、すなわち液滴形成が起こるように調節される方法において、
少なくともいくつかの短絡段階の間に、前記溶接電流Iの振幅が所定値に調節され、溶接ワイヤの溶融が防止されるが、前記溶接ワイヤを前記加工物から持ち上げるときの前記電気アークの再点火が、前記電気アーク段階の初めに前記溶接電流Iと、補助電圧なしの前記溶接電圧Uのみによって前記電気アークを再点火することにより可能とされ、前記短絡が前記ワイヤの運搬方向の反対により開放され、前記溶接電流Iが、前記短絡の開放後に動作電流に変更される、
方法。」

<相違点>
本件補正発明の方法は、「少なくともいくつかの短絡段階の間に、溶接電流I及び/又は溶接電圧Uの極性が切り替えられ」ており、さらに、「溶接電流I及び/又は溶接電圧Uの極性が、1つの短絡段階と1つの電気アーク段階とにより形成されるそれぞれの期間の後に切り替えられ、加工物の熱影響領域が前記溶接電流Iの負の部分によって低減され、前記溶接電流Iの極性が、前記短絡段階の間においてそれぞれの期間の後に切り替えられ」ているのに対して、刊行物1記載の発明の方法は、溶接電流I及び溶接電圧Vのいずれについても、その極性が切り替えられていない点。

(4)相違点の判断
上記相違点について検討するため、上記(2)イ.(オ)に摘示する刊行物2記載の発明を参照して、本件補正発明と対比すると、刊行物2記載の発明の「短絡期間」が本件補正発明の「短絡段階」に相当することは明らかであって、以下同様に、「溶接電流Ia」が「溶接電流I」に相当し、「溶接電圧Va」が「溶接電圧U」に相当し、「極性切換え」が「極性が切り替えられ」ることに相当し、「溶接電流Ia及び溶接電圧Vaの極性が、1つの短絡期間と1つのアーク期間とにより形成されるそれぞれの期間の後に切換えられ」ることが「溶接電流I及び」「溶接電圧Uの極性が、1つの短絡段階と1つの電気アーク段階とにより形成されるそれぞれの期間の後に切り替えられ」ることに相当し、「溶接電流Iaの極性が、短絡期間の間においてそれぞれの期間の後に切換えられる」ことが「溶接電流Iの極性が、短絡段階の間においてそれぞれの期間の後に切り替えられ」ることに相当する。
そして、刊行物2記載の発明を、本件補正発明の用語を用いて表現すると、
「溶接ワイヤを用いる短絡移行型のアーク溶接方法において、
少なくともいくつかの短絡段階の間に、溶接電流I及び溶接電圧Uの極性が切り替えられ、前記溶接電流I及び前記溶接電圧Uの極性が、1つの短絡段階と1つの電気アーク段階とにより形成されるそれぞれの期間の後に切り替えられ、前記溶接電流Iの極性が、前記短絡段階の間においてそれぞれの期間の後に切り替えられる、
方法」
ということができる。
刊行物1記載の発明の方法は、上記(2)ア.(イ)に摘示するように、溶接ワイヤ3と被溶接物4とを短絡させることにより、溶融金属15を溶接ワイヤ3から被溶接物4へと移行させているから、刊行物2記載の発明における「短絡移行型のアーク溶接方法」と同じ溶接方法である。
また、刊行物1記載の発明の方法において、溶接ワイヤ3側の極性が、プラス(逆極性)であるのかマイナス(正極性)であるのか明らかではないが、いずれの極性であるとしても、上記(2)イ.(ア)に摘示する問題を有しているといえるから、刊行物1及び2記載の発明に接した当業者であれば、刊行物1記載の発明に、溶接電流や溶接電圧の極性を切り替えるという刊行物2記載の発明の適用を当然に試みたはずである。
そして、上記(2)イ.(ア)に摘示するとおり、「ワイヤ側がマイナス(-)になるように直流電圧を印加する正極性溶接では、・・・・・母材への入熱量が小さい」のであるから、溶接電流の極性を切り替えて溶接電流Iがマイナスとなる期間において、加工物の熱影響領域が低減されるようになることは、必然的に得られる結果にすぎない。
以上から、刊行物1記載の発明において、「少なくともいくつかの短絡段階の間に、溶接電流I及び溶接電圧Uの極性が切り替えられ」るように構成し、さらに、「溶接電流I及び溶接電圧Uの極性が、1つの短絡段階と1つの電気アーク段階とにより形成されるそれぞれの期間の後に切り替えられ、加工物の熱影響領域が前記溶接電流Iの負の部分によって低減され、前記溶接電流Iの極性が、前記短絡段階の間においてそれぞれの期間の後に切り替えられ」るように構成することは、刊行物2記載の発明に基づいて、当業者が容易に想到できた事項である。

(5)補正の適否についてのむすび
以上のとおり、本件補正発明は、刊行物1及び2記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

したがって、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、平成23年2月23日付けで補正された特許請求の範囲及び明細書並びに願書に最初に添付した図面の記載からみて、上記第2.1.(1)に示すとおりのものである。

2.引用刊行物の記載事項及び引用刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、及びその記載事項は、上記第2.2.(2)に記載したとおりである。

3.対比
本願発明は、前記2.1.(2)に補正後の発明として記載した発明、すなわち本件補正発明から、上記第2.2で指摘した各限定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2.2.(5)に記載したとおり、刊行物1及び2記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、本願発明も同様に、刊行物1及び2記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1及び2記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-17 
結審通知日 2012-12-18 
審決日 2013-01-09 
出願番号 特願2007-556460(P2007-556460)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中島 昭浩  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 刈間 宏信
菅澤 洋二
発明の名称 溶接装置を制御及び/又は調節するための方法並びに溶接装置  
代理人 山田 卓二  
代理人 田中 光雄  

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