ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09D |
---|---|
管理番号 | 1274512 |
審判番号 | 不服2010-24852 |
総通号数 | 163 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-07-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-11-04 |
確定日 | 2013-05-23 |
事件の表示 | 特願2008-501706「均一分散性光触媒コーティング液及びその製造方法並びにこれを用いて得られる光触媒活性複合材」拒絶査定不服審判事件〔平成19年8月30日国際公開、WO2007/097284〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成19年2月19日(優先権主張 平成18年2月20日)を国際出願日とする特許出願であって、平成20年8月19日に条約34条の規定に基づく補正の翻訳文が提出され、平成21年12月18日に手続補正書が提出され、平成22年1月28日付けで拒絶理由が通知され、同年4月5日に意見書及び手続補正書が提出され、同年4月30日付けで拒絶理由が通知され、同年7月12日に意見書及び手続補正書が提出され、同年7月29日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、同年11月4日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成23年3月1日付けで前置審査の結果が報告され、当審において平成24年5月22日付けで審尋され、同年7月26日に回答書が提出され、同年12月11日付けで拒絶理由が通知され、平成25年2月12日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 2.本願発明 本願の請求項1?4に係る発明は、平成25年2月12日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。 「透明な基板上に光触媒活性が評価される可視光透明性の光触媒コーティング塗膜を形成し、 硝酸銀水溶液を前記光触媒コーティング塗膜上に載せ、 可視吸収スペクトルで照射前の透過率を測定し、 UVを照射した後、 可視吸収スペクトルで照射後の透過率を測定し、 前記照射前の透過率から照射後の透過率へと透過率が減少した割合を求め、 光触媒反応によって生成した銀粒子による透過率の減少の割合による、可視光透明性の光触媒コーティング塗膜の光触媒活性の評価方法。」 3.拒絶理由の概要 これに対して、当審において平成24年12月11日付けで通知した拒絶理由の理由1の概要は、請求項1?4に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 4.当審の判断 (1)引用文献及びその記載事項 刊行物1:特開平11-169726号公報 刊行物2:特開2000-162129号公報 刊行物3:国際公開第2004/026470号 刊行物4:吉岡謙ほか「紫外線遮蔽機能を持つ酸化チタンナノ粒子分散透明薄膜」、神奈川県産学公交流研究発表会要旨集 平成16年度、神奈川県産業技術センター、平成16年10月22日(原査定による引用文献2) (1-1)刊行物1 1-ア.「また、本発明に係る光触媒作用を有する複合機能材は、前記した機能材を、基材表面に設けた。機能材を基材表面に固定する手段としては、例えば無機化合物または有機化合物からなるバインダを用いる。バインダの使用態様としては、バインダを機能材と基材表面の間に介在せしめる他にバインダ中に機能材を混合分散してもよい。また基材としては、例えば、陶磁器製品やガラスが挙げられる。」(段落0014) 1-イ.「【発明の実施の形態】(実施例1)石原産業製の酸化チタンゾル(STS-11:TiO_(2)濃度15%)に、塩化亜鉛、塩化鉄(〓)、塩化ニッケル、塩化銅、酢酸銅の0.5wt%水溶液を適量添加した。このとき、添加した金属の量は、添加した金属全てが析出したと仮定して、担持金属の酸化チタン粒子被覆率が約0.5%になるようにした。この後、上記の水溶液を水道水で希釈し、TiO_(2)濃度が0.75%になるように調整し、紫外線を40J/cm_(2)だけ照射し、金属をTiO_(2)表面に担持させた。そして、金属をTiO_(2)表面に担持した溶液を、釉薬が付与された焼成済タイル表面または無釉の焼成済タイル表面に長石や炭酸カリウム等からなるフリットをコーティングしたものの上に2.2×10^(-3)g/cm^(3)だけ塗布し、880℃で焼き付けた。得られた試料の光触媒活性を、硝酸銀の呈色量と油分解性能により評価した。」(段落0016) 1-ウ.「評価方法 1.AgNO_(3)による光触媒活性指標:1%のAgNO_(3)aqを試験体に塗布し、紫外線ランプ(1.5mW/cm^(2))を300sec照射し、光還元による銀呈色度によって光活性を評価した。」(段落0017) 1-エ.「(実施例2)光触媒活性に及ぼす担持金属量の効果を以下の実験で調べた。先ず、(実施例1)と同様な方法で、酸化チタン粒子表面に酢酸銅を出発塩としてCuを担持せしめた。……。得られた試料の光触媒活性を、硝酸銀の呈色値と油分解性能により評価した。……。結果を図1及び図2に示す。」(段落0019) 1-オ.「 」(図面の図1) (1-2)刊行物2 2-ア.「基材上に形成した光触媒機能膜の表面を有機染料で着色し、紫外線を該着色の色素膜の層に照射し、該色素膜の層の透過率または吸光度の測定を行い、その測定時間中、該色素膜の層に該紫外線を連続的に照射しながら、該色素膜の層に測定光を照射して測定した透過率または吸光度の測定値の変化で光触媒機能の防汚活性度を評価することを特徴とする光触媒機能評価方法。」(特許請求の範囲の請求項1) 2-イ.「【発明が解決しようとする課題】現在、この光触媒機能防汚活性を評価する方法として、……、(3)着色膜の吸光度測定法が提案されている。 …… さらに(3)の着色膜の吸光度測定法は、光触媒機能膜上に吸着せしめた着色膜の透過率または吸光度を測定し、光触媒機能の活性度を評価する方法で、上記の二法に比べて測定に要する時間が短くでき、実用的な方法として提案されている(高見和之、橋本和仁、藤嶋 昭:第4回光触媒シンポジウム、論文集P.36-37「光触媒反応の最近の展開」1997年12月17日、東京大学山上会館)。この評価法の原理、具体的方法およびその問題点について、以下に詳述する。 1.被測定材(例として基板は厚さ1mmのパイレックス・ガラス板とし、片面に酸化チタンの光触媒機能膜が形成されている)の上方からブラックライト・ランプ光を24時間照射する。 2.メチレンブルー(有機色素)の水溶液中に該被測定材を1時間、浸漬する。 3.該被測定材をメチレンブルー液から引き上げ、外からの光を遮断したデシケータ内で30分間、乾燥する。乾燥後、被測定材の裏面の着色色素をふきとる。 4.吸着した色素の吸光度を測定する。この値を初期値とする。予め、色素未吸着の被測定材で測定し、これをゼロとし校正する。測定に使用する光の波長は580nmである。 5.一定照度のブラックライト・ランプ光を該被測定材の吸着色素膜表面に照射し続ける。 6.所定の時間間隔(例えば2分)おきに該被測定材を取り出し、一定の波長の光による吸光度を測定する(波長の一例は580nm、吸光度の測定器に色差計が使用される)。 7.吸光度測定後、再び、ブラックライト・ランプ光による照射を続ける。横軸にブラックライト・ランプ光の照射開始からの時間、縦軸に残存色素による吸光度をプロットする。 8.照射時間?吸光度の減少度をプロットする。活性度の異なる被測定材の同じ照射時間における吸光度の減少度の比が光活性度の比となる。 上記の手順説明で明らかなように、この方法は連続的な吸光度の比ではない。該被測定材は吸光度の測定の都度、ブラックライト・ランプ光照射から取り出され、吸光度測定後に再びブラックライト・ランプ光の照射が継続される。したがって毎回、吸光度を測定する場所は必ずしも全く同じ箇所ではなく、色素の不均一などによるデータのばらつきの原因となる。したがって一枚の被測定材の上を約10ヶ所について測定して、その平均値を求めるという操作が必要となる。」(段落0006?0012) 2-ウ.「【発明の実施の形態】本発明の方法において、被測定材の基材はガラスのような透光性のもの、あるいは不透光性のタイルのようなものであってもよく、図1に示すようにその基材1の表面にアナターゼ型結晶の酸化チタンからなる光触媒機能膜の層2が形成され、その上に着色による色素膜の層3を形成して試料板25が形成される。 図2はガラスのような透光性の基材1の表面に垂直方向に上から下に向かって測定光を与えて、該色素膜の透過率または吸光度を測定する、発光素子4と受光素子5の関連を示した。図3はやや不透光性の基材1の場合の発光素子4と受光素子5の関連の配置を示した。図3の場合について、光触媒機能の活性度の測定原理を説明する。図4に示すような厚さd、吸収係数μの均質平板に強さI_(0)の光が入射して透過する場合、透過光の強さI_(t)は次式で与えられる。 I_(t)=I_(0)・exp(-μd) …(1) 透過率Tおよび吸光度Aは次式で定義される。 T=I_(t)/I_(0)×100%=exp(-μd)×100% …(2) A=-log(I_(t)/I_(0))=μd …(3) 図5に示すような配置において、単色の測定光I_(0)が入射角θで色素膜の層3、光触媒機能層2及び基材1に入射し、底部の反射体6で反射し、分光反射光I_(t)が得られた場合の吸光度Aを考える。受光素子5およびそれに続く回路の出力電圧E(mV)は、受光素子5への入力光の強さIに比例するように製作されているから、I_(0)、I_(t)に対応した受光側の出力をE_(0)、E_(t)とすると、 E_(0)∝I_(0)、 E_(t)∝I_(t) したがって透過率T、吸光度Aは次式のように受光出力を測定することで求められる。 T=I_(t)/I_(0)×100%=E_(t)/E_(0)×100% A=-log(I_(t)/I_(0))=-log(E_(t)/E_(0)) 色素膜の層3、光触媒機能層2および基材1の厚さを夫々d_(1)、d_(2)、d_(3)とし、吸収係数をμ_(1)、μ_(2)、μ_(3)とし、底面の反射率をRとすると、反射光の入射光に対する吸光度Aは次式で表される。 A=-log(I_(t)/I_(0)) =-log(R)+2/cosθ・(μ_(1)d_(1)+μ_(2)d_(2)+μ_(3)d_(3)) …(4) 光学系の配置に変化を与えず、光触媒機能層2に一定照度のブラックライト・ランプ光をΔt時間、照射することにより、色素膜の層3の吸光度μ_(1)d_(1)が減少して(μ_(1)d_(1)-Δμd) に変化すると、Δt時間後の吸光度A(Δt)は、 A(Δt)=-log(R)+2/cosθ・(μ_(1)d_(1)-Δμd+μ_(2)d_(2)+μ_(3)d_(3))…(5) となる。したがって吸光度の変化ΔAは次式によって表されるように、単に色素膜の層3の吸光度の変化のみ比例することになる。 A(Δt)-A=ΔA=2/cosθ・(Δμd/Δt) …(6) (6)式により図5に示すような光学的な配置を変化させず、一定照度のブラックライト・ランプ光の照射の下で、吸光度の変化を連続的に測定することができれば、色素膜の変化が求められ、この値はその原因となるべき光触媒機能層2の色素分解能力、すなわち、光触媒機能の活性度を与えるものとなる。ただし(4)(5)式に示されるように、反射光の測定の場合に、反射光の強度は底面の反射率に比例するので、反射率が低い場合には測定が困難となる。上記の原理は図5の配置についてのものであるが、図2のような測定光が上から下への一方向の場合についても、同様の取り扱いにより次式が得られ、吸光度の変化が光触媒機能の活性度評価を与えることになる。 ΔA=(Δμd) …(7) 上記の原理によって任意の光触媒機能膜の活性度を評価するためには、ある特定の光触媒機能膜との吸光度変化の比をもって活性度とすることができる。」(段落0017?0018) 2-エ.「【図1】 【図2】 【図3】 【図4】 【図5】 」(図面の【図1】?【図5】) (1-3)刊行物3 3-ア.「<光触媒活性の評価> 本実施例の光触媒アパタイト含有膜の光触媒活性を、メチレンブルー分解試験により調べた。具体的には、まず、上述と同様の手法によりガラスプレート(100×100mm)の所定箇所に本実施例の光触媒アパタイト含有膜を形成し、当該ガラスプレートを、10μMのメチレンブルー水溶液に浸漬して染色した。次に、このようにして染色されたガラスプレートに対して、紫外線ランプにより、10mW/cm^(2)の紫外線(照射波長領域200?400nm)を12時間照射した。すると、光触媒アパタイト含有膜が形成されている箇所は退色し、形成されていない箇所は退色せず、本実施例の光触媒アパタイト含有膜は光触媒機能に基づく分解作用を有していることが判った。また、紫外線照射の前後において、ガラスプレートの透過率を測定したところ、図4の結果を得た。 図4において、透過率曲線Aは、紫外線照射前に得られたものであり、透過率曲線Bは、紫外線照射後に得られたものである。透過率曲線Aにおいては、650nm付近にメチレンブルー由来の吸収が存在する。一方、透過率曲線Bにおいては、メチレンブルー由来の吸収が消失している。これは、光触媒アパタイト含有膜に含まれるTi-CaHAPおよび酸化チタンの光触媒機能によってメチレンブルーが分解されたことを示唆するものである。また、Ti-CaHAP含有膜を形成していないガラスプレートのみの可視領域における透過率は90%程度であり、図4に示すように、光触媒アパタイト含有膜が形成されている同一のガラスプレートの可視領域における透過率は85%程度であるので、本実施例に係る光触媒アパタイト含有膜は実質的に透明であることが理解できよう。」(17頁7?27行) (1-4)刊行物4 4-ア.「1.はじめに 紫外線遮蔽機能を持つ酸化チタン粒子分散薄膜の透明性を高めるために,薄膜中の酸化チタン粒子の平均分散粒子径が100nm以下となるように,コーティング液の最適化,コーティング方法の最適化に関する検討を行った。 2.実験 コーティング液は,酸化チタン粒子水分散液と無機系バインダーの混合液とした。酸化チタン粒子は,一次粒子径が30nmで水中での分散安定性の高い日本エアロジル製P25とした。分散剤は,高濃度分散が可能な複数の高分子分散剤を比較検討した。分散機は,メーカー数杜で分散安定性の比較実験を行った。無機系バインダーは,アルコキシシラン縮合体の、水-アルコール混合溶液であるシリカ系バインダー(固形分3wt%)とした。コーティング方法は,スプレーコーティング法を用いることとした。 薄膜の特性としては,薄膜中の酸化チタン粒子の分散状態をSEMで観察し,可視光透明性および紫外線遮蔽性については分光光度計を用いて測定した。 3 結果および考察 酸化チタン濃縮液の濃度は30wt%を選定した。分散剤は,ブロック共重合体からなる高分子分散剤を選定した。分散機は,ビーズミルを選定した。スプレーコーティングの条件としては,1回のコーティングで400nmの均一膜を形成するような条件を最適化した。 写真1にシリコンウェハ上に形成させた酸化チタン粒子分散薄膜のSEM像を示す。分散粒子径286.7nmのものは,粒子径100nm 以下のものが凝集体を形成していることがわかる。分散粒子径84.4nmのものは,粒子径100nm 以下のものが一つ一つ孤立して存在していることがわかる。 図1に石英板上に形成させた薄膜の紫外・可視吸収スペクトルを示す。分散粒子径286.7nmのものは,紫外光域(200?400nm)の透過率の低下が大きいことから,紫外線遮蔽性が高いことがわかる。しかし,可視光線(200?400nm)の透過率の低下も大きく,可視光透明性は低いことがわかる。分散粒子径84.4nmのものは,紫外光域の透過率の低下が前者のものより小さいことから,紫外線遮蔽性は前者よりもやや低いことがわかる。しかしながら,コート回数をさらに増やすと,紫外線遮蔽性をさらに高めることも可能と考える。可視光域では,全域にわたって透過率の低下が10%以下と小さいことから,可視光透明性は前者よりも高いことがわかる。 よって,薄膜中の酸化チタン粒子を100nm以下に一つ一つ孤立して存在させると,紫外線遮蔽性を低下させずに,可視光透明性を向上させられる可能性を見出すことができた。」 (2)刊行物1に記載された発明 刊行物1には、「金属をTiO_(2)表面に担持した溶液を、釉薬が付与された焼成済タイル表面または無釉の焼成済タイル表面に長石や炭酸カリウム等からなるフリットをコーティングしたものの上に2.2×10^(-3)g/cm^(3)だけ塗布し、880℃で焼き付けた。得られた試料の光触媒活性を、硝酸銀の呈色量と油分解性能により評価した。」(摘示1-イ)と記載され、その硝酸銀の呈色量による光触媒活性の評価方法は、「AgNO_(3)による光触媒活性指標:1%のAgNO_(3)aqを試験体に塗布し、紫外線ランプ(1.5mW/cm^(2))を300sec照射し、光還元による銀呈色度によって光活性を評価した。」(摘示1-ウ)にと記載されていることから、刊行物1には、以下の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。 「金属をTiO_(2)表面に担持した溶液を、釉薬が付与された焼成済タイル表面または無釉の焼成済タイル表面に長石や炭酸カリウム等からなるフリットをコーティングしたものの上に2.2×10^(-3)g/cm^(3)だけ塗布し、880℃で焼き付け、得られた試料の光触媒活性を、1%のAgNO_(3)aqを試験体に塗布し、紫外線ランプ(1.5mW/cm^(2))を300sec照射し、光還元による銀呈色度によって光活性を評価する方法」 (3)対比・判断 本願発明1と刊行物1発明を対比すると、刊行物1発明における「釉薬が付与された焼成済タイル表面または無釉の焼成済タイル表面に長石や炭酸カリウム等からなるフリットをコーティングしたもの」は、本願発明1における「基板」に相当することから、刊行物1発明の「金属をTiO_(2)表面に担持した溶液を、」「基板」「の上に」「2.2×10^(-3)g/cm^(3)だけ塗布し、880℃で焼き付け、得られた試料」及び「試験体」は、本願発明1における「基板上に光触媒活性が評価される光触媒コーティング塗膜」に相当する。 また、刊行物1発明における「1%のAgNO_(3)aqを試験体に塗布し」及び「紫外線ランプ(1.5mW/cm^(2))を300sec照射し」は、それぞれ本願発明1における「硝酸銀溶液を前記光触媒コーティング塗膜上に載せ」及び「UVを照射した後」に相当する。 したがって、両者は、 「基板上に光触媒活性が評価される光触媒コーティング塗膜を形成し、 硝酸銀水溶液を前記光触媒コーティング塗膜上に載せ、 UVを照射した後、 光触媒反応によって生成した銀粒子による光触媒コーティング塗膜の光触媒活性の評価方法」 の点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。 相違点1: 「基板」について、本願発明1では「透明な基板」と特定しているのに対し、刊行物1発明では、「釉薬が付与された焼成済タイル表面または無釉の焼成済タイル表面に長石や炭酸カリウム等からなるフリットをコーティングしたもの」であるから、「透明な基板」でない点。 相違点2: 「光触媒コーティング塗膜」について、本願発明1では「可視光透明性」と特定しているのに対し、刊行物1発明ではそのような規定をしていない点。 相違点3: 「光触媒活性の評価」について、本願発明1では、可視吸収スペクトルで照射前の透過率を測定し、可視吸収スペクトルで照射後の透過率を測定し、前記照射前の透過率から照射後の透過率へと透過率が減少した割合を求め、透過率の減少の割合」によって、光触媒活性を評価するのに対し、刊行物1発明では、光硝酸銀の光還元による銀呈色度によって光触媒活性を評価している点。 上記相違点について検討する。 ≪相違点1≫ 刊行物2には、「光触媒機能評価方法」(摘示2-ア)が記載されており、「基材上に形成した光触媒機能膜の表面を有機染料で着色し、紫外線を該着色の色素膜の層に照射し、該色素膜の層の透過率または吸光度の測定を行」う(摘示2-イ)ことが記載されている。そして、「図2はガラスのような透光性の基材1の表面に垂直方向に上から下に向かって測定光を与えて、該色素膜の透過率または吸光度を測定する、発光素子4と受光素子5の関連を示した。図3はやや不透光性の基材1の場合の発光素子4と受光素子5の関連の配置を示した。」(摘示2-ウ)と記載されるように、色素膜の層の透過率または吸光度を測定する方法は、透過法(刊行物2の図2)と反射法(刊行物1の図3または5)があるものと解される。そして、透過法が採用される場合には「ガラスのような透光性の基材」が使用され、反射法が採用される場合には「やや不透光性の基材」が採用されることは、この刊行物2の記載から明らかである。 そして、光触媒コーティング塗膜の基材として「透明性の基材」を使用することは、刊行物2の摘示2-イに「基板は厚さ1mmのパイレックス・ガラス板」を使用して光触媒機能膜を形成し、吸光度を測定することが記載され、刊行物3にも「ガラスプレート」を基材として光触媒膜を形成し、透過率を測定していること(摘示3-ア)、刊行物4においても、「石英板」上に酸化チタン粒子分散膜を形成し、紫外・可視吸収スペクトルを測定していること(摘示4-ア)が記載されていることからみて、普通に行われていることである。 このような状況をふまえると、刊行物1発明では、基材として「釉薬が付与された焼成済タイル表面または無釉の焼成済タイル表面に長石や炭酸カリウム等からなるフリットをコーティングしたもの」という「不透明な基材」を使用しているとしても、そのことは格別なものではなく、さらに、刊行物1には、「基材としては、陶磁器製品やガラスが挙げられる。」(摘示1-ア)と記載されていることも踏まえると、基材としてガラスのような「透明な材料」を使用することは、適宜なし得ることである。 ≪相違点2≫ 「光触媒コーティング塗膜」が「可視光透明性の光触媒コーティング塗膜」である点については、刊行物1には記載されていない。しかし、このことは刊行物1発明における「光触媒コーティング塗膜」が「可視光透明性ではない」ことを意味するものではない。 ところで、刊行物2には、「図2はガラスのような透光性の基材1の表面に垂直方向に上から下に向かって測定光を与えて、該色素膜の透過率または吸光度を測定する、発光素子4と受光素子5の関連を示した。」(摘示2-ウ)及び「上記の原理は図5の配置についてのものであるが、図2のような測定光が上から下への一方向の場合についても、同様の取り扱いにより次式が得られ、吸光度の変化が光触媒機能の活性度評価を与えることになる。」(摘示2-ウ)と、また、刊行物3には、「紫外線照射の前後において、ガラスプレートの透過率を測定した」(摘示3-ア)と記載されているように、透過法による透過率または吸光度の測定について記載されているところ、この手法による場合、基材及び基材上に形成される「光触媒コーティング塗膜」は少なくとも特定スペクトルにおいて「透明」であることが当然の前提となる。 そして、本願発明1において、「可視吸収スペクトルで(UV)照射前の透過率を測定」し、「可視吸収スペクトルで(UV)照射後の透過率を測定」すると特定されているが、「可視吸収スペクトル」で透過率を測定するとの意味は必ずしも明確ではないところ、本願明細書段落0051には、「この光触媒活性の評価は、各試料の光触媒コーティング塗膜上に1重量%の硝酸銀水溶液を等量ずつ載せ、UV(3mW/cm^(2))を10分間照射した後、光触媒反応によって生成した銀粒子による透過率の低下を調べ」と記載されていることからみて、「可視吸収スペクトル」で透過率を測定するとは、単に特定の波長の可視光線で吸収率を測定することを意味するにすぎないものと解され、このことは、上記した刊行物2や3の記載と軌を一にするものである。なお、本願明細書段落0049には、「石英ディスク(基材)上に形成させた光触媒コーティング塗膜の紫外・可視吸収スペクトルを図2に示す」と記載されているように、単に光触媒コーティング塗膜の可視光透明性を確認するための手法として「可視吸収スペクトル」が測定されているところ、この可視吸収スペクトルは光触媒活性の評価方法とは直接関係するものではないことが明らかである。 そうすると、本願発明1の「光触媒活性の評価方法」において、「可視光透明性の光触媒コーティング塗膜」を使用する理由は、光触媒コーティング塗膜が「可視光透明性」のものでなければ評価できないからというものではなく、単に、評価対象となる光触媒コーティング塗膜を可視光透明性のものに限定したということ以上の意味はないものと解される。 そして、そのようなコーティング塗膜は刊行物4に「可視光透明性の光コーティング塗膜」が記載されているように(摘示4-ア)公知のものであるから、刊行物1発明における「光触媒コーティング塗膜」として刊行物4に記載された「可視光透明性」のものを採用することは格別なことではなく、当業者が容易に想到しえることである。 ≪相違点3≫ 本願発明1は、「可視吸収スペクトルで照射前の透過率を測定し、可視吸収スペクトルで照射後の透過率を測定し、前記照射前の透過率から照射後の透過率へと透過率が減少した割合を求め、光触媒反応によって生成した銀粒子による透過率の減少割合によって、光触媒活性を評価する」ものであるが、刊行物2でも、「基材上に形成した光触媒機能膜の表面を有機染料で着色し、紫外線を該着色の色素膜の層に照射し、該色素膜の層の透過率または吸光度の測定を行い、その測定時間中、該色素膜の層に該紫外線を連続的に照射しながら、該色素膜の層に測定光を照射して測定した透過率または吸光度の測定値の変化で光触媒機能の防汚活性度を評価する」(摘示2-ア)ものであり、紫外線照射による変化を透過率又は吸光度での測定値の変化で活性度を測定するものであり、刊行物3においても、「紫外線照射の前後において、ガラスプレートの透過率を測定」(摘示3-ア)するものであるから、紫外線照射による変化に対して、紫外線照射の前後において透過率または吸光度を測定することは当然のことに過ぎない。 刊行物1発明においては、「光触媒活性」を「硝酸銀の光還元による銀呈色度」で評価しているが、これは、光触媒活性粒子に「紫外線を照射することで、光触媒粒子の光活性点上に電子を生じさせ、この電子によって光活性点若しくはその近傍に添加した金属又はその化合物を還元析出せしめる」(刊行物1の段落0010)ことを利用することにもとづくものである。そして、「銀呈色度」による評価とは、摘示1-エ及び1-オに記載されているように、硝酸銀の呈色値(ΔE)を測定することによるものと解されるが、銀が析出すると、当然のことながら、光は吸収・散乱されることは自明であることにかんがみれば、硝酸銀の呈色値(ΔE)の測定というのは、光還元により生じた銀粒子による光の反射・透過の程度を測定することにほかならない。 そうすると、銀粒子の析出による「銀呈色度」についても、その変化を透過率の測定により評価することは、当業者にとって格別な困難性を要することとは認められない。 (4)まとめ したがって、本願発明1は刊行物1?4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (5)請求人の主張について 請求人は、平成25年2月12日付け意見書において、縷々主張しているが、「透過光に折る評価と反射光による評価」、「銀呈色度と色素膜の色消失」に関する主張と解される。 まず、「透過光に折る評価と反射光による評価」については、光の透過率又は吸光度の測定により材料の光学的性質を評価する際に、透過法も反射法も周知の手法であるところ、各手法のメリット及びデメリットもよく知られているところである。 そうすると、「透過光に折る評価」とするか「反射光による評価」とするかは、そのメリット・デメリットを勘案して当業者が適宜選択できるものといえる。このことは、刊行物2において両手法を併記していることからも明らかである。 なお、同意見書において「透過法のメリット」について主張しているが、本願明細書にはこのメリットについて何も記載されていない。 また、「銀呈色度と色素膜の色消失」については、いずれも光触媒活性の評価に使用されるものであることは知られたものであり、そして、いずれも色(色相だけでなく彩度や明度も含まれる。)の変化を利用するものであるから、いずれの手法を採用するかについても当業者が適宜決定できることにすぎない。 5.むすび 以上のとおりであるから、本願発明1は、刊行物1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に該当し、特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-03-25 |
結審通知日 | 2013-03-26 |
審決日 | 2013-04-08 |
出願番号 | 特願2008-501706(P2008-501706) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C09D)
P 1 8・ 537- WZ (C09D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 牟田 博一、小川 由美 |
特許庁審判長 |
松浦 新司 |
特許庁審判官 |
磯貝 香苗 新居田 知生 |
発明の名称 | 均一分散性光触媒コーティング液及びその製造方法並びにこれを用いて得られる光触媒活性複合材 |
代理人 | 相川 俊彦 |
代理人 | 相川 俊彦 |
代理人 | 相川 俊彦 |