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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
管理番号 1274522
審判番号 不服2011-25024  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-11-21 
確定日 2013-05-23 
事件の表示 特願2005- 88456「液晶組成物の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月 5日出願公開、特開2006-265453〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、平成17年 3月25日にされた特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成23年 5月18日付け 拒絶理由通知
平成23年 7月22日 意見書・手続補正書
平成23年 8月19日付け 拒絶査定
平成23年11月21日 本件審判請求
同日 手続補正書
平成23年12月 1日付け 審査前置移管
平成24年 2月 1日付け 前置報告書
平成24年 2月 3日付け 審査前置解除
平成24年 9月18日付け 審尋
平成24年11月16日 回答書
平成24年12月25日付け 拒絶理由通知
平成25年 2月25日 意見書

第2 本願に係る発明について
本願に係る発明は、平成23年11月21日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係るものは、以下の事項により特定されるものである(以下、「本願発明」という。)。
「2種以上の液晶化合物を脂肪族炭化水素系溶剤に溶解し、孔径10μmから0.001μmのフィルターで濾過した後、液晶組成物のネマチック相-等方性液体転移温度以下で溶媒を留去することを特徴とする液晶組成物の製造方法。」

第3 当審が通知した拒絶理由の概要
当審が平成24年12月25日付けで通知した拒絶理由は概略以下のとおりのものである。
「理由:本願発明1ないし3は、いずれも、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物:
1.特開2003-238958号公報(原査定における「引用文献1」)
2.特開平5-105876号公報(本願明細書における「特許文献1」)
3.特表平9-503237号公報(本願明細書における「特許文献2」)
(上記各刊行物を「引用例1」ないし「引用例3」という。)
・・(後略)」

第4 当審の判断
当審は、上記拒絶理由通知における理由と同一の理由により、本願は、特許法第49条第2号に該当するから、拒絶すべきものである、
と判断する。以下詳述する。

1.刊行物に記載された事項
上記拒絶理由通知で引用され、本審決でも引用する刊行物は、以下のとおりである。

刊行物:
1.特開2003-238958号公報
2.特開平5-105876号公報
3.特表平9-503237号公報
(以下、上記各刊行物を引き続き「引用例1」ないし「引用例3」という。)

(1)引用例1

(ア-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 液晶表示素子材料およびその原料の精製方法であって、液晶組成物、及び該液晶組成物が液晶表示素子に封入された際にこれと直接接触する材料の原料のうち、該原料が、
(A)それ自体液状の場合はそのまま、あるいは有機溶剤溶液とし、
(B)固体の場合は有機溶剤溶液として、これを、
アミノシリル基をシリカゲル表面に化学結合させたシリカゲル、もしくはカルシウムをシリカゲル表面に吸着させたシリカゲルと接触させることによって、前記液晶組成物及び前記材料の原料中に含有されるイオン性物質を除去することを特徴とする液晶表示素子用材料及びその原料の精製方法。
・・(後略)」

(ア-2)
「【0001】以下に本発明を詳細に説明するが、「液晶組成物、及び該液晶組成物が液晶表示素子に封入された際にこれと直接接触する材料の原料」を単に「液晶表示素子用原材料」と略記する。
【0002】
【発明の属する技術分野】本発明は液晶表示素子用原材料の精製方法に関し、更に詳しくは、特定の吸着剤を用いて精製を行うことで、該液晶表示素子用原材料に含まれる不純物を低減することのできる液晶表示素子用原材料の精製方法に関する。
【0003】
【従来技術】液晶表示素子は広告板、装飾表示板、時計、コンピューター、プロジェクション、デジタルペーパー、携帯用情報端末等の多くの分野で利用されている。最近は、大容量の情報が表示可能であることから、アクティブマトリックス方式の液晶表示素子が主流となっている。
【0004】アクティブマトリックス方式の液晶表示素子が有する問題として、電圧保持率(VHR)の低下による表示不良や、フリッカー、ディスプレイの焼き付きがある。これは、液晶表示素子に封入されている液晶組成物中にイオン性物質等の不純物が存在し、これにより液晶組成物の比抵抗値が低下することが主な原因である。このイオン性物質等の不純物は、通常の分析手法では検出することが難しく、取り除くことは困難である。
【0005】・・(中略)・・しかし、これらの精製方法では、液晶組成物から金属イオン性物質や有機イオン性化合物をある程度除去することはできるが、電圧保持率の低下はいぜんとして防ぐことはできなかった。
【0006】この原因として、液晶表示素子を構成する部材のうち、液晶配向膜、シール剤、封止剤、スペーサー、あるいはカラーフィルター等の、液晶組成物と直接接触しうる部材を形成するための原材料中にもイオン性物質等の不純物が存在し、この不純物が液晶組成物中に移行して電圧保持率を低下させていることが考えられる。よって、これらの原材料に存在するイオン性物質も除去できる精製方法が望まれている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明が解決しようとする課題は、液晶組成物のみならず液晶表示素子用原材料に含まれる金属イオン性物質や有機イオン性化合物等のイオン性物質を除去し、液晶表示素子としての表示素子特性を向上させることにある。」

(ア-3)
「【0010】
【発明の実施の形態】本発明の精製方法で精製可能な液晶表示素子用原材料は、液晶組成物、及び該液晶組成物が液晶表示素子に封入された際にこれと直接接触する材料の原料である。
【0011】 本発明の精製方法で精製可能な液晶組成物は、それ自体が液状か、または有機溶媒に可溶なものであれば特に限定はなく、従来の液晶表示素子の調光層に使用するような公知慣用の液晶組成物を使用することができる。・・(後略)」

(ア-4)
「【0026】本発明で使用する液晶表示素子用原材料を溶解するための有機溶媒としては、ノルマルヘキサン、ノルマルヘプタン等の炭化水素系有機溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系有機溶媒、酢酸エチル等のエステル系有機溶媒、クロロホルム等のハロゲン系有機溶媒、イソピロピルアルコール等のアルコール系有機溶媒等が挙げられ、中でもノルマルヘキサン、ノルマルヘプタン、トルエン、キシレン、酢酸エチルが好ましい。」

(ア-5)
「【0029】本発明の精製方法は、液晶表示素子用原材料が混合物である場合、混合物のまま精製することができる。例えば、光散乱型液晶表示素子の調光層の原料である液晶組成物と光硬化性樹脂組成物との混合物は、そのまま本発明の精製方法により精製することができる。勿論、液晶組成物と光硬化性樹脂組成物とをそれぞれ精製した後、混合して使用してもよい。」

(ア-6)
「【0035】(実施例2)4-メトキシメチルフェニル-トランス-4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキサンカルボキシレート 1gに、ノルマルヘキサン30ml、カルシウムをシリカゲル表面に吸着させたシリカゲルである富士シリシア化学社製の「FL100DX」100mg、及び撹拌子を加え室温で2時間撹拌した。その後、孔径0.5μmのPTFE製フィルターで加圧ろ過し、更に濾液からノルマルヘキサンを減圧留去して、4-メトキシメチルフェニル-トランス-4-(トランス-4-プロピルシクロヘキシル)シクロヘキサンカルボキシレートの精製物を得た。該精製物を、大日本インキ化学工業社製のネマチック液晶を示す母体液晶組成物「KT12-13」に20%添加し、液晶組成物とした。
【0036】(株)イーエッチシー社製のソーダライム硝子の使用テストセル(セル厚:12μm、ITO電極面積:1cm2、液晶配向膜:ポリイミド液晶配向膜)に該液晶組成物を充填した。次に、注入口に封止剤を塗布し、400W/m2の紫外線を東芝硝子社製のUV35フィルターを通して60秒間照射して硬化させた。封止剤は、積水化学社製の封止剤「フォトレックA-704-180」を、ノルマルヘキサンに溶解させた後、「クロマトレックスNH-DM1020」を5%添加して1時間撹拌し、ろ過後、濾液からノルマルヘキサンを減圧留去して精製したものを使用した。得られた液晶セルの25℃での印加電圧1V時の電圧保持率は98.0%であり、5V時では97.5%であった。80℃では印加電圧1V時の電圧保持率は94.0%であり、5V時では93.5%であった。」

(ア-7)
「【0040】(実施例6)下記構造式で示される液晶組成物(1) 10gに「クロマトレックスNH-DM1020」500mg、「300mesh」500mg、及び撹拌子を加え室温で2時間撹拌した。その後、孔径0.5μmのPTFE製フィルターで加圧濾過し、液晶組成物(1)の精製物Aを得た。実施例2と同様に液晶セルを作成し、電圧保持率を評価したところ、25℃での印加電圧1V時の電圧保持率は99.4%であり、5V時では99.2%であった。80℃での印加電圧1V時の電圧保持率は99.0%であり、5V時では98.9%であった。
【0041】
【化2】


液晶組成物(1)」

(2)引用例2

(イ-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】(i)一般式I:
【化1】(式は省略)
(式中、Rは炭素原子数2?7の直鎖状アルキル基を示す)で表わされる1種または2種以上の含フッ素化合物8?60重量%、
(ii)一般式II:
【化2】(式は省略)
(式中、Rは前記と同意義であり、Lは水素原子またはフッ素原子を示し、QはOCF_(2)、OCFH、OCFClまたは単結合を示す)で表わされる1種または2種以上の含フッ素化合物8?60重量%、
(iii)一般式III:
【化3】(式は省略)
(式中、R、LおよびQは前記と同意義であり、Eは次式:
【化4】(式は省略)
または
【化5】(式は省略)
で表わされる基を示す)で表わされる1種または2種以上の含フッ素化合物8?60重量%、
および(iv)一般式IV:
【化6】(式は省略)
(式中、RおよびLは前記と同意義である)で表わされる1種または2種以上の含フッ素化合物0?60重量%含有するネマチック液晶組成物。
・・(後略)」

(イ-2)
「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、末端および側鎖がフッ素化された含フッ素化合物を含有するネマチック液晶組成物に関し、該組成物は、活性マトリックスディスプレー用液晶組成物として特に有用である。」

(イ-3)
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】この発明はこのような要請に応え、非常に高い抵抗率を有すると共に、上記の他の望ましい物性を有する液晶組成物を提供するためになされたものである。」

(イ-4)
「【0021】本発明による上記の液晶組成物は常法に従って調製すればよい。一般的には、主要な構成成分となる成分に、該成分よりも少量使用する成分を、好ましくは昇温下で、所定量溶解させる。この場合、加熱温度を、主要な構成成分の透明点よりも高くすることによって、溶解過程を特に容易におこなうことができる。しかしながら、各成分を適当な有機溶剤、例えば、アセトン、クロロホルムまたはメタノールに溶解させた溶液を混合し、その後、該溶剤を、例えば、減圧蒸留によって除去してもよい。この溶剤を使用する方法の場合には、不純物や望ましくないドーパントを含有しない溶剤を使用しなければならない。」

(イ-5)
「【0041】
【発明の効果】本発明によるネマチック液晶組成物は、高い電圧保持比と非常に優れた低温安定性を有し、特に活性マトリックスディスプレー用液晶組成物として好適である。」

(3)引用例3

(ウ-1)
「【特許請求の範囲】
1.スーパーツィスト液晶ディスプレイであって、
-フレームとともに、セルを形成している2枚の面平行の外側基板、
-このセル中に存在する正の誘電異方性を有するネマティック液晶混合物、
-上記外側基板の内側上に積重されている配向層を備えた電極層、
-上記外側基板の表面の分子の長軸と外側基板との間の約1度?30度のピッチ角、および
100?600°の値を有する配向層から配向層までのセル内の液晶混合物のツィスト角、
を有し、上記ネマティック液晶混合物が、
a)+1.5より大きい誘電異方性を有する化合物の1種または2種以上を含有する液晶成分Aを30?90重量%含有し、
b)-1.5?+1.5の誘電異方性を有する成分の1種または2種以上を含有する液晶成分Bを10?65重量%含有し、
c)-1.5以下の誘電異方性を有する化合物の1種または2種以上を含有する液晶成分Cを0?20重量%含有し、およびまた
d)層厚さ(面平行外側基板の隔たり)とカイラルネマティック液晶混合物のナチュラルピッチとの比が約0.2?1.3であるような量の光学活性成分Dを含有し、
かつまた当該ネマティック液晶混合物が少なくとも60℃のネマティック相範囲、35mPa.sよりも大きくない粘度および少なくとも+1の誘電異方性を有する(これらの化合物の誘電異方性および当該ネマティック液晶混合物に関連するパラメーターは20℃の温度に基づくものである)、スーパーツィスト液晶ディスプレイにおいて、
上記成分Bは、式I1および(または)I2:(各式は省略)
各式中、R^(3)およびR^(4)はそれぞれ独立して、C原子1?8個を有するアルキルである、
で表わされる化合物の少なくとも1種を含有しており、および(または)
上記成分Aは、式II1および(または)III1:(各式は省略)
式中、R^(1)はC原子1?8個を有するアルキルまたはアルコキシである;
式中R^(2)は、8個までのC原子を有するアルケニル、オキサアルキルである、
で表わされる化合物の少なくとも1種を含有していることを特徴とするスーパーツィスト液晶ディスプレイ。
2.上記成分Bが、式I1および(または)I2で表わされる化合物の少なくとも1種を含有しており、かつまた上記成分Aが、式IIおよびIII:(各式は省略)
各式中、
Rは、12個までのC原子を有するアルキル、アルコキシ、オキサアルキル、アルケニルまたはアルケニルオキシであり、
・・(中略)・・
L^(1)?L^(6)はそれぞれ独立して、HまたはFであり、
Z^(1)は、-COO-、-CH_(2)CH_(2)-または単結合であり、
Z^(2)は、-COO-、-CH_(2)CH_(2)-、-C≡C-または単結合であり、
Qは、CF_(2)、OCF_(2)、CFH、OCFHまたは単結合であり、
Yは、FまたはClであり、
mは、1または2であり、そして
nは、0または1である、
で表わされる化合物を含有することを特徴とする、請求項1に記載のディスプレイ。
・・(中略)・・
10.請求項2?9のいずれか1項に定義されている組成を有する液晶混合物。
・・(後略)」(第2頁第1行?第9頁最下行)

(ウ-2)
「本発明に従い使用することができる液晶混合物は、それ自体慣用の方法で製造される。一般に、比較的少量で使用される成分の所望量を基本成分を構成する成分中に、有利には高められた温度で溶解させる。成分の有機溶剤、例えばアセトン、クロロホルムまたはメタノール中の溶
液を混合し、次いで混合後に、例えば蒸留により溌剤を再除去することもできる。」(第50頁最下行?第51頁第5行)

2.検討

(1)引用例1に記載された発明
上記引用例1には、「液晶表示素子材料・・の精製方法であって、液晶組成物・・が、
(A)それ自体液状の場合はそのまま、あるいは有機溶剤溶液とし、
(B)固体の場合は有機溶剤溶液として、これを、
・・シリカゲルと接触させることによって、前記液晶組成物・・に含有されるイオン性物質を除去することを特徴とする液晶表示素子用材料・・の精製方法。」が記載されている(摘示(ア-1)参照)。
そして、上記引用例1には、当該「有機溶剤」として「ノルマルヘキサン、ノルマルヘプタン等の炭化水素系有機溶媒」が使用されること(摘示(ア-4)参照)及び「本発明の精製方法は、液晶表示素子用原材料が混合物である場合、混合物のまま精製することができる」こと(摘示(ア-5)参照)もそれぞれ記載されている。
また、上記引用例1には、具体例として、液晶化合物に、ノルマルヘキサン、シリカゲル及び撹拌子を加え室温で撹拌した後、孔径0.5μmのPTFE製フィルターで加圧ろ過し、更に濾液からノルマルヘキサンを減圧留去して、液晶化合物の精製物を得ること(摘示(ア-6)参照)並びに液晶組成物にシリカゲル、アルミナ粉体及び撹拌子を加え室温で撹拌した後、孔径0.5μmのPTFE製フィルターで加圧濾過し、液晶組成物の精製物を得ること(摘示(ア-7)参照)もそれぞれ記載されている。
してみると、上記引用例1には、
「液晶化合物などの液晶表示素子用材料をノルマルヘキサンなどの炭化水素系溶剤に溶解した有機溶剤溶液をシリカゲルで処理し、孔径0.5μmのフィルターで加圧濾過した後、溶媒を減圧留去することを特徴とする液晶表示素子用材料の精製方法」
に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(2)対比・検討

ア.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「ノルマルヘキサンなどの炭化水素系溶剤」、「孔径0.5μmのフィルターで・・濾過した後」及び「溶媒を・・留去する」は、それぞれ、本願発明1における「脂肪族炭化水素系溶剤」、「孔径10μmから0.001μmのフィルターで濾過した後」及び「溶媒を留去する」に相当することが明らかである。
そして、本願発明における「2種以上の液晶化合物」を含む「液晶組成物」が、引用発明における「液晶化合物などの液晶表示素子用材料」の範ちゅうに属することも明らかであって、引用発明における「液晶表示素子用材料の精製方法」は、結局のところ当該「精製」により「液晶表示素子用材料」を製造しているのであるから、本願発明における「液晶組成物」なる液晶表示素子用材料の「製造方法」に相当するものと認められる。
してみると、両者は「液晶表示素子用材料を脂肪族炭化水素系溶剤に溶解し、孔径0.5μmのフィルターで濾過した後、溶媒を留去することを特徴とする液晶組成物の製造方法」である点で一致し、下記の3点で相違していると認められる。

相違点1:「液晶表示素子用材料」につき、本願発明では、「2種以上の液晶化合物」を含む「液晶組成物」であるのに対して、引用発明では、「液晶化合物などの液晶表示素子用材料」である点
相違点2:本願発明では、「液晶組成物のネマチック相-等方性液体転移温度以下で溶媒を留去する」のに対して、引用発明では、「溶媒を・・留去する」点
相違点3:引用発明では、「液晶表示素子用材料を・・溶剤に溶解した有機溶剤溶液をシリカゲルで処理し」ているのに対して、本願発明では、当該「シリカゲルで処理」することにつき規定されていない点

イ.各相違点に係る検討

(ア)相違点1について
上記相違点1につき検討すると、引用例1には、引用発明における「液晶表示素子用材料」は、「液晶組成物、及び該液晶組成物が液晶表示素子に封入された際にこれと直接接触する材料の原料」を意味するものと定義・記載され(摘示(アー2)の【0001】及び摘示(ア-3)参照)、また、引用発明の「精製方法は、液晶表示素子用原材料が混合物である場合、混合物のまま精製することができる」ことも記載されている(摘示(ア-5)参照)。
また、上記引用例2及び3にもそれぞれ記載されている(摘示(イ-4)及び摘示(ウ-2)参照)とおり、高い電圧保持比などの好適な物性を有するアクティブマトリックス用の液晶組成物を構成するにあたり、2種以上の液晶化合物等の各成分をそれぞれ有機溶剤に溶解して溶液とし、さらにその溶液を混合した後、所望に応じて種々の処理をしてから有機溶剤を留去する製造方法により液晶組成物を得ることは、当業者の周知技術であるものと認められる。
してみると、引用発明において、処理すべき「液晶表示素子用材料」として、「2種以上の液晶化合物」を含む「液晶組成物」を有機溶剤溶液の状態で使用し精製に付することは、実質的な相違点であるとは認められないか、上記当業者の周知技術などに基づき、当業者が通常の創作能力を発揮することにより、適宜なし得ることであると認められる。
したがって、上記相違点1は、実質的な相違点でないか、当業者が適宜なし得ることである。

(イ)相違点2について
上記相違点2につき検討すると、上記引用例1には、引用発明における「溶媒」の「留去」にあたり、加熱・昇温したことが記載されておらず、当該「留去」までの操作が全て室温で行われていることも記載されている(摘示(ア-6)参照)から、引用発明における「溶媒」の「留去」は、室温で行われているものと認められる。
そして、上記「室温」は、液晶表示素子の駆動温度環境では液晶組成物がネマチック状態であることを要する旨の技術常識からみて、液晶組成物のネマチック相-等方性液体転移温度以下であることが当業者に自明である。
してみると、上記引用発明において、「溶媒」の「留去」を液晶組成物のネマチック相-等方性液体転移温度以下で行うことは、実質的な相違点であるということができないか、当業者が適宜なし得ることというほかはない。
したがって、上記相違点2は、実質的な相違点でないか、当業者が適宜なし得る事項である。

(ウ)相違点3について
上記相違点3につき検討すると、本願明細書の記載(【0017】ないし【0018】及び【0030】参照)からみて、本願発明において、溶媒に溶解した液晶組成物を濾過する際に濾過塔にシリカゲルなどの吸着剤を充填して濾過直前に吸着剤による処理を併せて行うことが好適なのであるから、本願発明においても、当該「シリカゲルなどの吸着剤による処理」を含む態様が包含されているものと認められる。
したがって、上記相違点3については、実質的な相違点であるとはいえない。

ウ.本願発明の効果について
本願発明の効果につき検討すると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載(【0007】?【0010】)からみて、本願発明の効果は、「液晶組成物の比抵抗を低下させることなく、アクティブマトリックス用の組成物においては特に電圧保持率(VHR)も又低下させることなく製造する方法」を提供することなどであるものといえる。
それに対して、引用発明においても「アクティブマトリックス方式の液晶表示素子が有する問題として、電圧保持率(VHR)の低下による表示不良や、フリッカー、ディスプレイの焼き付きがある。これは、液晶表示素子に封入されている液晶組成物中にイオン性物質等の不純物が存在し、これにより液晶組成物の比抵抗値が低下することが主な原因である。」との従来技術の欠点に基づき、「液晶組成物のみならず液晶表示素子用原材料に含まれる金属イオン性物質や有機イオン性化合物等のイオン性物質を除去し、液晶表示素子としての表示素子特性を向上させる」「液晶表示素子用材料の精製方法」の提供を解決課題とするものである(摘示(ア-2)参照)から、引用発明に上記当業者の周知技術を組み合わせた場合、イオン性物質等の不純物が除去されることにより、液晶組成物の比抵抗値の低下を防ぎ、電圧保持率の低下を防止できるであろうことは、当業者が予期し得る範囲のものと認められる。
したがって、本願発明の効果は、引用発明及び当業者の周知技術を組み合わせた場合の効果から、当業者が予期し得ない程度の格別顕著なものであるとはいえない。

エ.小括
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び上記当業者の周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)審判請求人の主張について

ア.審判請求人は、平成25年2月25日付け意見書において、
「(2-1)
審判官殿は、相違点1(「液晶表示素子用材料」につき、本願発明1では、「2種以上の液晶化合物」を含む「液晶組成物」であるのに対して、引用発明では、「液晶化合物などの液晶表示素子用材料」である点)について、『引用例1には、引用発明における「液晶表示素子用材料」は、「液晶組成物、及び該液晶組成物が液晶表示素子に封入された際にこれと直接接触する材料の原料」を意味するものと定義・記載され(摘示(アー2)の【0001】及び摘示(ア-3)参照)・・・』と認定されています。ここで、この認定を上記「引用発明」に当てはめて記載しますと、引用例1には、「液晶組成物をノルマルヘキサンなどの炭化水素系溶剤に溶解した有機溶剤溶液をシリカゲルで処理し・・・を特徴とする液晶表示素子用材料の精製方法」に係る発明が記載されているものと認定できますが、引用例1においては、当該「液晶組成物」を炭化水素系溶剤に溶解して得ることについては記載されておりません。
つまり、引用例1の摘示(ア-1)『【特許請求の範囲】【請求項1】液晶表示素子材料およびその原料の精製方法であって、液晶組成物、及び該液晶組成物が液晶表示素子に封入された際にこれと直接接触する材料の原料のうち、該原料が、
(A)それ自体液状の場合はそのまま、あるいは有機溶剤溶液とし、
(B)固体の場合は有機溶剤溶液として、・・・(中略)・・・イオン性物質を除去することを特徴とする液晶表示素子用材料及びその原料の精製方法。・・(後略)』部分は、液晶組成物を精製する場合に、液晶組成物を液状のまま使用するか、有機溶剤に溶かし有機溶剤溶液として使用するかについての記述であり、精製以前に、当該液晶組成物を有機溶剤に溶解して得ることについては記載されておりません。この点につきましては、出願人は、先の意見書(平成23年7月22日)、審判請求書(平成23年11月21日)、及び、審尋に対する回答書(平成24年11月16日)において何度も主張しておりますが、明確な回答を頂いておりません。
詳述しますと、通常、液晶組成物は複数の液晶化合物を混合し、均一にすることにより得られます。

この均一にする方法として、通常は加熱による方法が採られます。以下、液晶組成物の従来の製造方法を示しますが、液晶化合物は単体では室温において固体であることが多いため、液晶組成物を製造する際、液晶化合物を容器に順に測りとっていくと下記の図のように液晶化合物が積み重なっていくことになります。これらを均一な混合物とすると液晶組成物となりますが、従来は液晶化合物のすべて又は一部の融点以上に加熱することにより、全体を液体として撹拌することにより均一な組成物とします。これを室温にもどす液晶組成物となります(本願段落番号【0005】、【0026】)。

これに対し、本願発明1は、複数の液晶化合物を脂肪族炭化水素系溶剤に溶解した後、溶媒を留去して液晶組成物を得るものです。

ここで引用例1の段落番号0035に記載された発明は、単一の液晶化合物を精製した後、母体液晶に添加するものであります。このため、各々の液晶化合物をシリカゲルにより処理する精製工程においては溶媒を使用するものの、その後の、液晶組成物を製造する工程(精製後の液晶化合物と母体液晶(組成物)を均一な液晶組成物とする工程)では溶媒を使用したとの記載はなく、またそれを示唆する記載もありません。また、該母体液晶(組成物)の製造におきましても溶媒を使用したとの記載はなく、それを示唆する記載もありません。

更に、引用例1の段落番号0040及び0041に記載された発明は、8種類の液晶化合物がすでに均一な状態となっている液晶組成物を溶媒に溶解し、溶液状態として精製した後、溶媒を留去して液晶セルに充填する液晶組成物を得ています。このように、液晶組成物をシリカゲルにより処理する精製工程においては溶媒を使用するものの、該8種類の液晶化合物がすでに均一な状態となっている液晶組成物の製造におきまして溶媒を使用したとの記載はなく、それを示唆する記載もありません。

本願発明の製造方法においては溶媒を加え、その後留去する工程の前後で、不均一な液晶化合物が均一な液晶組成物へと変化しておりますが、引用例1記載の発明においては当該工程は液晶化合物及び液晶組成物の精製工程として行われているため、その前後で含有する不純物量に変化こそあれ、単体の液晶化合物は単体の液晶化合物であり、液晶組成物は構成成分が同一の液晶組成物のままであります。
このように、本願発明1と引用例1記載の発明とは目的も実施の形態も異っているものであります。
したがいまして、本願発明1は引用例1記載の発明と相違点を有しているものと思量いたします。

(2-2)
また、審判官殿は、相違点1について、『引用例1には、・・・また、引用発明の「精製方法は、液晶表示素子用原材料が混合物である場合、混合物のまま精製することができる」ことも記載されている(摘示(ア-5)参照)。』と認定されています。
摘示(ア-5)には、『【0029】本発明の精製方法は、液晶表示素子用原材料が混合物である場合、混合物のまま精製することができる。例えば、光散乱型液晶表示素子の調光層の原料である液晶組成物と光硬化性樹脂組成物との混合物は、そのまま本発明の精製方法により精製することができる。勿論、液晶組成物と光硬化性樹脂組成物とをそれぞれ精製した後、混合して使用してもよい。』と記載されており、これは、液晶組成物とその他の成分として例えば光硬化性樹脂組成物とを混合して精製することができることを意図しているにすぎず、液晶化合物を混合して液晶組成物(液晶混合物)として精製することを意図しているのではなく、ましてや、複数の液晶化合物を溶剤に溶解して、液晶組成物の製造過程の1工程として溶媒に溶解した液晶組成物の形で精製することを意図するものではありません。

(2-3)
さらに、審判官殿は、相違点1について、『また、上記引用例2及び3にもそれぞれ記載されている(摘示(イ-4)及び摘示(ウ-2)参照)とおり、高い電圧保持比などの好適な物性を有するアクティブマトリックス用の液晶組成物を構成するにあたり、2種以上の液晶化合物等の各成分をそれぞれ有機溶剤に溶解して溶液とし、さらにその溶液を混合した後、所望に応じて種々の処理をしてから有機溶剤を留去する製造方法により液晶組成物を得ることは、当業者の周知技術であるものと認められる。』と認定されております。
摘示(イ-4)には、『【0021】本発明により上記の液晶組成物は常法に従って調整すればよい。・・・しかしながら、各成分を適当な有機溶剤、例えば、アセトン、クロロホルムまたはメタノールに溶解させた溶液を混合し、その後、該溶剤を、例えば、減圧蒸留によって除去してもよい。この溶剤を使用する方法の場合には、不純物や望ましくないドーパントを含有しない溶剤を使用しなければならない。』と記載されています。
また、摘示(ウ-2)には、『本発明に従い使用することができる液晶混合物は、それ自体慣用の方法で製造される。一般に、比較的少量で使用される成分の所望量を基本成分を構成する成分中に、有利には高められた温度で溶解させる。成分の有機溶剤、例えばアセトン、クロロホルムまたはメタノール中の溶液を混合し、次いで、混合液に、例えば蒸留により溌剤を再除去することもできる。』と記載されています。
上記のとおり、引用例2、引用例3の摘示(イ-4)及び、摘示(ウ-2)には、確かに、液晶組成物(液晶混合物)は、溶剤を用いて製造されることについて記載されていますが、複数の液晶化合物等の各成分を溶剤に溶解して混合した後、有機溶剤を留去する前に、所望に応じて種々の処理をすることについて記載も示唆もされておりません。つまり、本願発明のように、濾過処理を想定しておりませんので、用いる溶剤も本願発明では脂肪族炭化水素系溶剤を用いているのに対して、引用例2、引用例3では液晶化合物の溶解度を考慮したためかカルボニル基、ハロゲンやヒドロキシ基等を分子内に有するいわゆる極性溶媒であるアセトン、クロロホルムまたはメタノールを用いることとなっています。

(2-4)
そして、審判官殿は、相違点1について、『してみると、引用発明において、処理すべき「液晶表示素子用材料」として、「2種以上の液晶化合物」を含む「液晶組成物」を有機溶剤溶液の状態で使用し精製に付することは、・・・上記当業者の周知技術などに基づき、当業者が通常の創作能力を発揮することにより、適宜なし得ることであると認められる。したがって、上記相違点1は、実質的な相違点でないか、当業者が適宜なし得ることである。』と結論付け、また、
本願発明の効果について、『(前略)・・・それに対して、引用発明においても「アクティブマトリックス方式の液晶表示素子が有する問題として、電圧保持率(VHR)の低下による表示不良や、フリッカー、ディスプレイの焼き付きがある。これは、液晶表示素子に封入されている液晶組成物中にイオン性物質等の不純物が存在し、これにより液晶組成物の比抵抗値が低下することが主な原因である。」との従来技術の欠点に基づき、「液晶組成物のみならず液晶表示素子用原材料に含まれる金属イオン性物質や有機イオン性化合物等のイオン性物質を除去し、液晶表示素子としての表示素子特性を向上させる」「液晶表示素子用材料の精製方法」の提供を解決課題とするものである(摘示(ア-2)参照)から、引用発明に上記当業者の周知技術を組み合わせた場合、イオン性物質等の不純物が除去されることにより、液晶組成物の比抵抗値の低下を防ぎ、電圧保持率の低下を防止できるであろうことは、当業者が予期し得る範囲のものと認められる。したがって、本願発明の効果は、引用発明及び当業者の周知技術を組み合わせた場合の効果から、当業者が予期し得ない程度の格別顕著なものであるとはいえない。』とされています。
しかしながら、上述しましたように、引用例2、引用例3におきましては、所望に応じて種々の処理をすることを想定しておりませんので、引用例2、引用例3に記載の溶媒(アセトン、クロロホルムまたはアセトン)を用いて液晶組成物(液晶混合物)を製造するという当業者の周知技術を、引用発明(引用例1)に直ちに適用することは極めて困難であり、さらには、特定の溶媒を選択して濾過をすることにより比抵抗を低下させることなく、また、電圧保持率も低下させることなく液晶組成物を製造できるという有利な効果を予測できません。」
と主張している(意見書「(2)本願発明1が特許されるべき理由」の欄)ので以下検討する。

イ.検討

(ア)上記「(2-1)」の主張について
本願発明における「2種以上の液晶化合物を脂肪族炭化水素系溶剤に溶解し」という工程につき本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討しても、実施例1(及び実施例2)において、「なす型フラスコに上記の組成に従い各液晶化合物を秤量し化合物の合計が20gとなるよう計量し、n-ヘプタンを加え、溶解した。」(【0024】及び【0030】)と記載されているのみであり、上記工程の他の具体的な操作条件等につき記載されていない。
してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、上記工程につき、「2種以上の液晶化合物を秤量・集積したものに対して溶剤を加えて溶解する」手法により実施すべきものと限定的に認識するものではなく、他の手法(例えば、「個々の液晶化合物をそれぞれ溶剤に溶解した上でそれらを混合する」手法又は「複数種の液晶化合物を事前に混合した液晶組成物を溶剤に溶解する」手法など)を採用することができると認識するものと理解するのが自然である。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき当業者の技術常識に照らしても、上記工程につきいずれかの手法を採用した場合、同工程により生成するものが手法の差異により異なるものとなる技術的要因が存するものとは認められず、上記のいずれの手法を採用しても、2種以上の液晶化合物と脂肪族炭化水素系溶剤とからなる同一の液晶溶液組成物が製造されるものと認められる。
なお、そもそも、上記工程における同一の容器(例えば「なす型フラスコ」)に所定の組成に従い各液晶化合物を秤量・計量して集積・収容したもの(例えば上記「(2-1)」の主張における第2の図の左端の状態又は第3の図の左端の炭化水素系溶媒を添加する直前の状態のもの)であっても、ネマチック液晶組成物を構成する液晶化合物が常温において流動性を有するものが多いことは当業者に自明であるから、均質化はしていないものの広義の意味での「液晶組成物」の範ちゅうに属するものと認められる。
したがって、本願発明における「2種以上の液晶化合物を脂肪族炭化水素系溶剤に溶解し」なる工程と引用発明における「液晶化合物などの液晶表示素子用材料をノルマルヘキサンなどの炭化水素系溶剤に溶解した」なる工程において「液晶化合物などの液晶表示素子用材料」として「液晶組成物」を使用した場合との間には、実質的な相違が存するものではない。
よって、審判請求人の上記「(2-1)」の主張は、根拠を欠くものであり、当を得ないものである。

(イ)上記「(2-2)」の主張について
引用発明につき、上記引用例1には、「本発明の精製方法は、液晶表示素子用原材料が混合物である場合、混合物のまま精製することができる。例えば、光散乱型液晶表示素子の調光層の原料である液晶組成物と光硬化性樹脂組成物との混合物は、そのまま本発明の精製方法により精製することができる。勿論、液晶組成物と光硬化性樹脂組成物とをそれぞれ精製した後、混合して使用してもよい。」と記載されている(摘示(ア-5)参照)のであるから、「液晶表示素使用原材料が混合物である場合」には、混合物である「液晶組成物」をそのまま使用する場合をも含まれることが当業者に自明であり、他の成分をさらに含むもの(例えば液晶組成物と光硬化性樹脂組成物との混合物など)に限定的に解釈すべき事由が存するものとも認められない。
してみると、審判請求人の上記「(2-2)」の主張は、根拠を欠くものであり、当を得ないものである。

(ウ)上記「(2-3)」及び「(2-4)」の主張について
本願発明と引用発明との対比において、使用する有機溶剤の種別についてはそもそも相違点ではない。
そして、上記引用例2及び3は、審判請求人(出願人)が本願明細書の発明の詳細な説明において従来技術として挙げている(本願明細書【0004】参照)ものであり、それらの引用趣旨は、「高い電圧保持比などの好適な物性を有するアクティブマトリックス用の液晶組成物を構成するにあたり、2種以上の液晶化合物等の各成分をそれぞれ有機溶剤に溶解して溶液とし、さらにその溶液を混合した後、所望に応じて種々の処理(例えば撹拌処理などをも含む)をしてから有機溶剤を留去する製造方法により液晶組成物を得ること」が、当業者の周知技術であることを単に立証したにすぎない。
してみると、審判請求人の上記「(2-3)」及び「(2-4)」の主張は、本願明細書の記載に基づかないものであるか、各引用例の記載を正解しないものであるから、いずれにしても当を得ないものである。

ウ.小括
したがって、審判請求人の上記意見書における主張は、いずれにしても当を得ないものであり、採用する余地がないものであるから、当審の上記(2)の検討結果を左右するものではない。

(4)当審の判断のまとめ
以上のとおり、本願発明は、上記引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第5 むすび
よって、本願は、他の請求項に係る各発明につき検討するまでもなく、特許法第49条第2号の規定に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-28 
結審通知日 2013-03-29 
審決日 2013-04-09 
出願番号 特願2005-88456(P2005-88456)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 仁科 努  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 目代 博茂
橋本 栄和
発明の名称 液晶組成物の製造方法  
代理人 河野 通洋  

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