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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16F
管理番号 1274542
審判番号 不服2012-12684  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-03 
確定日 2013-05-23 
事件の表示 特願2007-102975「樹脂製部材および樹脂製部材の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 2月28日出願公開、特開2008- 45736〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成19年4月10日(優先日:平成18年7月19日、出願番号:特願2006-197310号)の出願であって、平成24年3月26日付け(平成24年4月3日:発送日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年7月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし18に係る発明は、平成23年9月5日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
内部に中空部が形成される樹脂製の本体部を備える樹脂製部材であって、
外部入力荷重が作用する側に外部入力荷重を分散させる緩衝部が設けられるとともに、前記中空部には、当該緩衝部の外部入力荷重が作用する側と反対側に、本体部に固定される塑性変形が可能な補強部材が設けられ、外部入力荷重が作用する側と前記補強部材との間に、前記補強部材よりも剛性の低い予備補強材が設けられ、
前記本体部は、外部入力荷重が作用する側のアウター部材と、外部入力荷重が作用する側と反対側に配置されて前記補強部材が取り付けられるインナー部材とを有し、前記アウター部材は、インナー部材よりも薄く形成されることを特徴とする樹脂製部材。」

3.引用文献の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物は、次のとおりである。
1.特開平8-142784号公報(以下、「引用文献1」という。)

(1)引用文献1
引用文献1には、「衝撃吸収構造体」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「【請求項5】 基体の表面をカバーする衝撃吸収構造体において、前記基体との間に空間が形成されるように装着可能な表皮体と、基体の表面に密着配置可能な当接板とを備え、その当接板には、表皮体側に向けて複数のリブを突設し、それらのリブを、断面が先端になるに従って薄くなる多段の板状に構成した衝撃吸収構造体。」
イ.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、車輛が衝突した際、車内にて搭乗者が二次衝突により受ける衝撃を吸収、緩和して予想される被害を可能な限り少なくするための衝撃吸収構造体に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、衝撃吸収構造体として、インストルメントパネルでは、図12のa,bに夫々例示する如く、パネル14とパッド15の間に、パネル14から外部衝撃に対して充分撓みうるリブ16を突出させた構造(特開昭60-222345号)や、芯材17と表皮材18との間に緩衝材19や衝撃吸収材20を充填した構造(実開平1-52967号公報)、ニーパッドとしては、図12のcに示す如く、表皮部材21内にハニカム構造体22を内蔵した構造(実開昭57-59741号公報)や、その他にも図示はしないが各種形状のリブ(突起)における座屈現象や緩衝材のクッション作用を効果的に利用した構造が知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記従来の構造は、衝突の衝撃によってリブを座屈或は緩衝材を圧縮せしめ、変位ストロークの範囲内で衝撃を一気に吸収しようとするものであるため、図13の衝撃により加わる荷重と変位との関係を示した説明図からも明らかな如く、搭乗者が受ける最大荷重Fが大きく、致命的なダメージを受けやすい。そこで最大荷重を下げ、その低い最大荷重を維持したまま衝撃吸収を可能にすることが望まれるものの、リブの座屈や緩衝材の圧縮が一気に始まって衝撃の吸収が同時進行するので、変位ストローク、つまり基材と表層との間隔が充分確保されていないと、衝撃荷重を吸収しきれない。基材と表層との間隔を大きくすればかさばってしまい、室内空間を狭める結果となるので、衝撃吸収構造体の厚さにはおのずと限界がある。」
ウ.「【0008】前記衝撃吸収用のリブと表皮体とはABS樹脂により一体成形されており、その表皮体2の外面には、合成皮革5で覆われた発泡ウレタンのパッド6が被着されている。尚前記表皮体2は、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成樹脂も好適に使用され、パッド6もポリエステル等で形成できる。」
エ.「【0010】衝撃荷重は、図5に示す如く複数に分けて最大荷重を低く保ちつつ段階的に吸収され、このように限られた変位ストローク内で徐々に衝撃が吸収されるから、衝撃吸収構造体の厚さが従来と同じであっても、最大荷重Fを低く押えることが可能となるのである。
【0011】尚前記実施例は表皮体の外面にパッドを被着させているが、図6のaに示す如く、表皮体2の外表面に、例えばポリ塩化ビニールや布地等の内装材8を直接貼着してパッドを省略することもできるし、図6のbに示す如く、リブ3,4の間に、発泡樹脂の緩衝材9を充填し、衝撃吸収効果を高めても差し支えない。
【0012】又、リブは格子状に配列されるばかりでなく、図7に例示する如く、一つ一つ独立した高さの異なる柱状リブ10,10a,10b,10cや板状リブ11,11a,11b,11c,11d,11eを規則正しく配置したり、図8のaに例示する如く、高さの異なる板状リブ11,11a,11b,・・を直線状に連続させたり、それらの板状リブ11,11a,11b,・・が、図8のbに例示する如く複合的に組み合わせ配置されることもある。更に、図9のaやbに示す如く、基端部12cから先になるほど12b,12aと段階的に薄くした段付き板状リブ12や、基端部13cから先になるほど13b,13aと段階的に細くした段付き柱状リブ13とすれば、図10の如く、先端部分12a(13a)から順に中間部分12b(13b),基端部分12c(13c)と座屈し、前記実施例と同様、衝撃を段階的に吸収させることができる。
【0013】これらの実施例に示した衝撃吸収構造体は、表皮体がその両サイドにおいて基体に固着されることによって、基体と表皮体との間に空間が形成されるようになっているが、衝撃吸収構造体に、基体1と密着する当接板2aを設け、その当接板2aと表皮体2とで内部中空の構造体を形成し、その構造体の空間P内に、図11のaに例示する如く、当接板2a側より表皮体2側に向けて縦リブ3,3,3及び横リブ4,4・・を突設させたり、その逆に、表皮体2側より当接板2側に向けて縦リブ3,3,3及び横リブ4,4・・を突設させたり、図示はしないが、表皮体2と当接板2との両側からリブを突設させることもできる。このような中空体構造とすれば、当接板を両面接着テープ等で基体に貼り付けるだけで簡単に装着できる。尚、当接板は、表皮体と一体的に形成するばかりでなく、別体に形成して個々に組み付けするようにしても差し支えない。」
以上の記載事項及び図面からみて、本願発明の記載ぶりに倣って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明に記載されている発明」という。)が記載されている。
「内部に空間が形成されるABS樹脂により一体成形される中空体構造を備える衝撃吸収構造体であって、
衝撃荷重が作用する側に衝撃荷重を吸収させるパッド6を有する表皮体2が設けられるとともに、前記空間には、当該パッド6を有する表皮体2の衝撃荷重が作用する側と反対側に、中空体構造に固定される座屈が可能なABS樹脂から成形される段付き板状リブ12が設けられ、前記段付き板状リブ12は基端部12cから先になるほど12b,12aと段階的に薄くしたものであり、
前記中空体構造は、衝撃荷重が作用する側の表皮体2と、衝撃荷重が作用する側と反対側に配置されて前記段付き板状リブ12が取り付けられる当接板2aとを有する衝撃吸収構造体」

4.対比
本願発明と引用発明を対比すると、その意味、機能または構造からみて、後者の「空間」は前者の「中空部」に相当し、以下同様に「ABS樹脂により一体成形される」は「樹脂製の」に、「中空体構造」は「本体部」に、「衝撃吸収構造体」は「樹脂製部材」に、「衝撃荷重」は「外部入力荷重」に、「表皮体2」は「アウター部材」に、「当接板2a」は「インナー部材」に、それぞれ相当する。
引用発明の「座屈が可能な段付き板状リブ12」は衝撃吸収時に図10に示されるように塑性座屈するものであるから本願発明の「塑性変形が可能な補強部材」に相当する。
そして、本願発明の「緩衝部」は、本願明細書の「このアウター部材4および予備補強材11が、外部入力荷重が作用した際に、緩衝部として機能することとなる。」(段落【0034】)との記載から、アウター部材による緩衝と予備補強材による緩衝の両方に該当するものであるから、引用発明の「衝撃荷重を吸収させるパッド6を有する表皮体2」は、本願発明のアウター部材が緩衝部として機能する意味において「外部入力荷重を分散させる緩衝部」に相当する。
そうすると、両者は本願発明の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。
[一致点]
「内部に中空部が形成される樹脂製の本体部を備える樹脂製部材であって、
外部入力荷重が作用する側に外部入力荷重を分散させる緩衝部が設けられるとともに、前記中空部には、当該緩衝部の外部入力荷重が作用する側と反対側に、本体部に固定される塑性変形が可能な補強部材が設けられ、
前記本体部は、外部入力荷重が作用する側のアウター部材と、外部入力荷重が作用する側と反対側に配置されて前記補強部材が取り付けられるインナー部材とを有する樹脂製部材。」
そして、両者は次の点で相違する。
[相違点1]
本願発明は、「外部入力荷重が作用する側と前記補強部材との間に、前記補強部材よりも剛性の低い予備補強材が設けられ」るのに対し、
引用発明は、予備補強材が設けられていない点。
[相違点2]
本願発明は、「アウター部材は、インナー部材よりも薄く形成される」のに対し、
引用発明は、「表皮体2」は、「当接板2a」よりも薄く形成されているか不明である点。

5.判断
(1)上記相違点1について検討する。
本願発明の「予備補強材」については、本願明細書に「第2実施形態に係る樹脂製部材1’は、補強部材3とアウター部材4の間に、補強部材3よりも剛性の低い予備補強材11が設けられる。予備補強材11は、例えばウレタン材であるが、補強部材3よりも剛性が低ければ、他の材料でもよい。このアウター部材4および予備補強材11が、外部入力荷重が作用した際に、緩衝部として機能することとなる。」(段落【0034】)と記載されていることからして、本願発明は「補強部材」より剛性の低い「予備補強材」を該「補強部材」の外部入力荷重が作用する側に配置してアウター部材とともに緩衝部として機能させ、外部入力荷重が付与される際に、緩衝部から徐々に荷重が作用した後に補強部材で荷重を受けるものである。(本願明細書【0008】参照。)
これに対して、引用発明の「段付き板状リブ12」(本願発明の補強部材に相当)は、基端部12cから先になるほど12b,12aと段階的に薄くした構造を有するものであり、引用文献1に「図9のaやbに示す如く、基端部12cから先になるほど12b,12aと段階的に薄くした段付き板状リブ12や、基端部13cから先になるほど13b,13aと段階的に細くした段付き柱状リブ13とすれば、図10の如く、先端部分12a(13a)から順に中間部分12b(13b),基端部分12c(13c)と座屈し、前記実施例と同様、衝撃を段階的に吸収させることができる。」(段落【0012】)と記載されているように、引用発明は「段付き板状リブ12」の先端部分12aから衝撃を段階的に吸収させる機能を有するものである。
してみると、本願発明の「補強部材」及び「予備補強材」の組み合わせと、引用発明の「段付き板状リブ12」とは、衝撃を段階的に吸収させる機能を有する点で共通している。
さらに、引用発明の「段付き板状リブ12」は、「基端部12cから先になるほど12b,12aと段階的に薄く」形成されていることから、剛性に関していえば、基端部12cから先になるほど12b,12aと段階的に低くくなっているものであり、衝撃荷重が作用する側の剛性の低い部分と当接板2a(本願発明のインナー部材に相当)側の剛性の高い部分とから成っているものといえ、剛性の低い部分と剛性の高い部分とから構成することにより、衝撃荷重を段階的に吸収する構造であることが理解できる。
また、引用文献1の「尚前記実施例は表皮体の外面にパッドを被着させているが、・・・図6のbに示す如く、リブ3,4の間に、発泡樹脂の緩衝材9を充填し、衝撃吸収効果を高めても差し支えない。」(段落【0011】を参照)との記載から、引用文献1には発泡樹脂から成る緩衝材9を中空部に配置する点が示唆されている。
そして、発泡樹脂から成る緩衝材9がABS樹脂から成形される「段付き板状リブ12」より剛性が低いことは明らかであるので、引用発明の中空部に配置される「段付き板状リブ12」において、衝撃荷重が作用する側の剛性の低い部分として、当該発泡樹脂の緩衝材9を採用することは当業者であれば適宜になし得ることである。
よって、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは当業者であれば容易に想到し得るものである。

(2)上記相違点2について検討する。
引用発明は、段落【0010】に「衝撃荷重は、図5に示す如く複数に分けて最大荷重を低く保ちつつ段階的に吸収され、このように限られた変位ストローク内で徐々に衝撃が吸収されるから、衝撃吸収構造体の厚さが従来と同じであっても、最大荷重Fを低く押えることが可能となるのである。」と記載されているように、衝撃荷重を徐々に吸収することを課題としているので、衝撃荷重の初期段階での吸収を果たす「表皮体2」の剛性を低くする動機付けは十分あるものであり、また、衝撃荷重の初期段階での吸収を果たす部材の剛性を低くすることは従来周知の技術である。(一例として、実願昭49-94377号(実開昭51-22336号)のマイクロフィルム参照)そして、剛性を低くする手段として部材の厚みを薄くすることは常套手段であるから、引用発明の「表皮体」の構造において、表皮体2を当接板2aよりも薄く形成することは当業者であれば容易に想到し得るものである。

(3)作用効果について
本願発明の奏する作用効果をみても、引用発明及び周知技術に記載されている事項から、当業者が予測できる範囲内のものであって、格別ではない。

6.むすび
以上総合すると、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができない以上、本願の請求項2ないし18に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-21 
結審通知日 2013-03-26 
審決日 2013-04-08 
出願番号 特願2007-102975(P2007-102975)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柳楽 隆昌  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 森川 元嗣
窪田 治彦
発明の名称 樹脂製部材および樹脂製部材の製造方法  
代理人 八田 幹雄  
代理人 八田 幹雄  

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