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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1274693
審判番号 不服2011-19719  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-13 
確定日 2013-05-30 
事件の表示 特願2005-129661「変性重合体組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成18年11月 9日出願公開、特開2006-306962〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は,平成17年4月27日を出願日とする特許出願であって,平成23年3月16日付けで拒絶理由が通知され,同年5月20日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲及び明細書が補正され,同年6月3日付けで拒絶査定がされたところ,これに対して,同年9月13日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲及び明細書が補正されたので,特許法162条所定の審査がされた結果,同年10月24日付けで同法164条3項の規定による報告がされ,平成24年10月29日付けで同法134条4項の規定による審尋がされ,同年12月20日に回答書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定

[結論]
平成23年9月13日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成23年9月13日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の内容
本件補正は特許請求の範囲の全文を変更する補正事項を含むものであるところ,本件補正の前後における特許請求の範囲の請求項1の記載は,それぞれ以下のとおりである。
・ 本件補正前(平成23年5月20日付け手続補正書)
「(A)ポリビニル芳香族化合物とリチウムのモル比(ポリビニル芳香族化合物/リチウム)が0.05?1.0の範囲で調製された有機リチウム系触媒を用いて共役ジエン系単量体を重合,または共役ジエン系単量体と芳香族ビニル化合物とを共重合させた後に得られた重合活性末端に反応可能な官能基を有する変性剤を反応させて得られる変性重合体:100重量部
(B)シリカ系無機充填剤,金属酸化物,金属水酸化物,カーボンから選ばれる少なくとも1種の補強性充填剤:0.5?300重量部からなる変性重合体組成物。」
・ 本件補正後
「(A)ジビニルベンゼンとリチウムのモル比(ジビニルベンゼン/リチウム)が0.05?0.25の範囲で調製された有機リチウム系触媒を用いて共役ジエン系単量体を重合,または共役ジエン系単量体と芳香族ビニル化合物とを共重合させた後に得られた重合活性末端に反応可能な官能基を有する変性剤を反応させて得られる変性重合体:100重量部
(B)シリカ系無機充填剤,金属酸化物,金属水酸化物,カーボンから選ばれる少なくとも1種の補強性充填剤:0.5?300重量部からなる変性重合体組成物。」

2 本件補正の目的
本件補正は,補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「ポリビニル芳香族化合物」を「ジビニルベンゼン」と限定し,さらに,有機リチウム系触媒の調整に係るポリビニル芳香族化合物(ジビニルベンゼン)とリチウムのモル比について,補正前の「モル比(ポリビニル芳香族化合物/リチウム)が0.05?1.0の範囲」を「モル比(ジビニルベンゼン/リチウム)が0.05?0.25の範囲」と限定するものである。しかも,本件補正の前後で,請求項1に記載の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は変わらない。
よって,本件補正は,請求項1についてする補正については,平成18年法律第55号改正前の特許法17条の2第4項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認める。他の請求項についてする補正についても,同様である。
なお,本件補正は,いわゆる新規事項を追加するものではないと判断される。

3 独立特許要件違反の有無について
上記2のとおりであるから,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,要するに,本件補正が特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項の規定に適合するものであるか(いわゆる独立特許要件違反の有無)について検討するところ,本件補正は当該要件に違反すると判断される。
すなわち,本願補正発明は,本願の出願前に頒布された刊行物である下記引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない(なお,引用文献1は,上記拒絶理由の通知に際し,「引用文献1」として請求人に提示された刊行物である。)。
・ 引用文献1: 特開2002-284933号公報
以下,特許を受けることができない理由を詳述する。

4 本願補正発明
本願補正発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲及び明細書(以下「本願補正明細書」という。)の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。
「(A)ジビニルベンゼンとリチウムのモル比(ジビニルベンゼン/リチウム)が0.05?0.25の範囲で調製された有機リチウム系触媒を用いて共役ジエン系単量体を重合,または共役ジエン系単量体と芳香族ビニル化合物とを共重合させた後に得られた重合活性末端に反応可能な官能基を有する変性剤を反応させて得られる変性重合体:100重量部
(B)シリカ系無機充填剤,金属酸化物,金属水酸化物,カーボンから選ばれる少なくとも1種の補強性充填剤:0.5?300重量部からなる変性重合体組成物。」

5 本願補正発明が特許を受けることができない理由
(1) 引用発明
ア 引用文献1には,次の記載がある。(なお,下線は当合議体による。以下同じ。)
「【請求項1】 炭化水素溶媒中,有機リチウム化合物を開始剤として用いて共役ジエン系単量体を重合,または共役ジエン系単量体と芳香族ビニル化合物とを共重合させた後に得られた重合体の活性末端と分子中に2個以上のエポキシ基を有する多官能化合物を反応させて得られる変性重合体(成分A)と,該重合体の活性末端と反応可能な官能基を有する変性剤を反応させて得られる変性重合体(成分B)との混合物であり,重合体組成物の重量平均分子量が100,000?2,000,00(審決注:【0030】などの記載から,「2,000,000」の誤記と認められる。)である変性共役ジエン系重合体組成物。
【請求項2】 分子中に2個以上のエポキシ基を持つ多官能化合物が,次の一般式の多官能化合物で表される請求項1記載の変性共役ジエン系重合体組成物。
【化1】…
【請求項3】 共役ジエン系重合体の活性末端と反応可能な官能基を有する変性剤が下記(1)?(8)から選ばれる1以上の化合物である,請求項1又は請求項2記載の変性共役ジエン系重合体組成物。
(1)N-置換アミノアルデヒド類,N-置換アミノチオアルデヒド類,N-置換アミノケトン類,N-置換アミノチオケトン類,及び分子中に下記の構造を有する化合物。
【化2】…
(2)少なくとも1個のアミノ基,アルキルアミノ基またはジアルキルアミノ基を有するベンゾフェノン類またはチオベンゾフェノン類である化合物。
(3)一般式,R_(4n)MX_(4-n)で表される化合物。(但し,式中Rはアルキル基,アルケニル基,シクロアルケニル基または芳香族炭化水素基,Mはケイ素またはスズ原子,Xはハロゲン原子,nは0?3の整数)
(4)一般式,X_(n)M(OR^(1))_(m)R^(2)_(4-m-n)で表される化合物。(但し,式中R^(1),R^(2)は,アルキル基,アルケニル基,シクロアルケニル基または芳香族炭化水素基,Mはケイ素またはスズ原子,Xはハロゲン原子,nは0?2,mは1?4の整数であり,mとnの和は2?4である。)
(5)イソシアネート化合物またはイソチオシアネート化合物。
(6)R^(1)_(m)Si(OR^(2))_(n)X_((4-m-n))で表される化合物。(式中,R^(1)はエポキシ基若しくは不飽和カルボニル基を有する置換基を,Xはアルキル基,ハロゲン原子を,R^(2)は炭素数1?20の脂肪族,脂環族,芳香族の各炭化水素基から選ばれる基を表す。mは1?3の整数を,nは1?3の整数を,それぞれ表し,且つ,m+nは2?4の整数を表す。)
(7)下記一般式で表されるオルガノシロキサン化合物。
【化3】…
(8)下記一般式で表されるオルガノシロキサン化合物。
【化4】…
【請求項4】 請求項1?3のいずれかに記載の変性共役ジエン系重合体組成物(A)100重量部,及び該(A)成分100重量部に対してそれぞれ,
(1)ゴム用伸展油 1?100重量部
(2)補強性シリカ 25?100重量部(3)加硫剤及び加硫促進剤 1.0?20重量部
からなるゴム組成物。」(【特許請求の範囲】。なお,審決の便宜上,【化1】?【化4】で表される一般式について,その記載を省略する。)
「【発明の属する技術分野】本発明は,シリカを充填剤として含有するゴム組成物の加工性を改善し,ヒステリシスロス特性,強度特性に優れた共役ジエン系重合体を含むゴム組成物に関する。詳しくは,本発明は共役ジエン系重合体の活性末端とエポキシ基を有する多官能化合物を反応させて得られる変性重合体,及び重合活性末端と反応可能な官能基を有する変性剤を反応させて得られる変性重合体の混合物を用いることにより,シリカとの親和性が改善された新規な変性共役ジエン系重合体組成物を提供すること,更には,特定構造の共役ジエン系重合体を用い,オイル,シリカ,加硫剤及び加硫促進剤等を配合・混練して得られる新規なゴム組成物に関する。その加硫物はタイヤ用を中心に従来から共役ジエン系重合体ゴム組成物が使用されている用途で好適に使用される。」(【0001】)
「【発明が解決しようとする課題】このような状況下で,本発明は,シリカ配合において,カ?ボンブラックの配合量が少ない場合にあっても加工性に優れ,また,更に低転がり抵抗性と耐ウエットスキッド性のバランス,強度特性等を改善した共役ジエン系重合体組成物を提供する事を目的とする。」(【0007】)
「【課題を解決するための手段】本発明者らは,上記の課題を解決すべく共役ジエン系重合体の分子構造及び変性構造さらに製造方法について鋭意検討をおこない,特定の変性成分を特定量含有する変性共役ジエン系重合体の混合物が優れた性能を有することを見出し本発明を完成するに至った。」(【0008】)
「重合開始剤としてはアニオン重合開始剤が用いられ,有機アルカリ金属化合物,有機アルカリ土類金属が好ましく,特に有機リチウム化合物が好適である。有機リチウム化合物としては,重合開始の能力があるあらゆる有機リチウム開始剤を含み,低分子量のもの,可溶化したオリゴマーの有機リチウム化合物,また,1分子中に単独のリチウムを有するもの,1分子中に複数のリチウムを有するもの,有機基とリチウムの結合様式において,炭素-リチウム結合からなるもの,窒素-リチウム結合からなるもの,錫-リチウム結合からなるもの等を含む。具体的には,モノ有機リチウム化合物としてn-ブチルリチウム,sec-ブチルリチウム,t-ブチルリチウム,n-ヘキシルリチウム,ベンジルリチウム,フェニルリチウム,スチルベンリチウム,多官能有機リチウム化合物として1,4-ジリチオブタン,sec-ブチルリチウムとジイソプロペニルベンゼンの反応物,1,3,5-トリリチオベンゼン,n-ブチルリチウムと1,3-ブタジエンおよびジビニルベンゼンの反応物,n-ブチルリチウムとポリアセチレン化合物の反応物,窒素-リチウム結合からなる化合物としてジメチルアミノリチウム,ジイソプロピルアミノリチウム,ジヘキシルアミノリチウム,ヘキサメチレンイミノリチウムなどがあげられる。特に好ましいものは,n-ブチルリチウム,sec-ブチルリチウムである。これらの有機リチウム化合物は1種のみならず2種以上の混合物としてももちいられる。重合反応において,芳香族ビニル単量体を共役ジエン系単量体とランダムに共重合する目的で,ジエチルエーテル,ジエチレングリコールジメチルエーテル,テトラハイドロフラン,2,2-ビス(2-オキソラニル)プロパン等のエーテル類,トリエチルアミン,テトラメチルエチレンジアミン等のアミン類等の非プロトン性極性化合物を添加することも実施可能である。」(【0018】)
「本発明の変性共役ジエン系重合体(A成分)を得るために用いる変性剤としては,分子内に2個以上のエポキシ基を持つ多官能化合物がもちいられる。分子中に2個以上のエポキシ基を持つ多官能化合物としてはいかなる化合物も使用できる。具体的には,エチレングリコールジグリシジルエーテル,グリセリントリグリシジルエーテル等の多価アルコールのポリグリシジルエーテル,ジグリシジル化ビスフェノールA等の2個以上のフェノール基を有する芳香族化合物のポリグリシジルエーテル,1,4-ジグリシジルベンゼン,1,3,5-トリグリシジルベンゼン,ポリエポキシ化液状ポリブタジエン等のポリエポキシ化合物,4,4’-ジグリシジル-ジフェニルメチルアミン,4,4’-ジグリシジル-ジベンジルメチルアミン等のエポキシ基含有3級アミン,ジグリシジルアニリン,ジグリシジルオルソトルイジン,テトラグリシジルメタキシレンジアミン,テトラグリシジルアミノジフェニルメタン,テトラグリシジル-p-フェニレンジアミン,ジグリシジルアミノメチルシクロヘキサン,テトラグリシジル-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン等のジグリシジルアミノ化合物があげられる。好ましくは,分子中に2個以上のエポキシ基および1個以上の窒素含有基を持つ多官能化合物がもちいられる。…」(【0023】)
「本発明の変性共役ジエン系重合体(B成分)は,重合体の活性末端と反応可能な官能基を有する変性剤と反応させて得られるものである。変性剤は,重合体の活性末端と反応可能であれば特に限定されるものではないが,好ましい変性剤としては,次の(1)?(8)から選ばれる1以上の化合物が挙げられる。
(1)N-置換アミノアルデヒド類,N-置換アミノチオアルデヒド類,N-置換アミノケトン類,N-置換アミノチオケトン類…。
(2)少なくとも1個のアミノ基,アルキルアミノ基またはジアルキルアミノ基を有するベンゾフェノン類またはチオベンゾフェノン類である化合物から選ばれる化合物…。
(3)一般式,R_(4n)MX_(4-n)で表される化合物。(但し,式中Rはアルキル基,アルケニル基,シクロアルケニル基または芳香族炭化水素基,Mはケイ素またはスズ原子,Xはハロゲン原子,nは0?3の整数)で表される化合物から選ばれるケイ素化合物またはスズ化合物化合物…。
(4)一般式,X_(n)M(OR^(1))_(m)R^(2)_(4-m-n)で表される化合物。(但し,式中R^(1),R^(2)は,アルキル基,アルケニル基,シクロアルケニル基または芳香族炭化水素基,Mはケイ素またはスズ原子,Xはハロゲン原子,nは0?2,mは1?4の整数であり,mとnの和は2?4である。)で表される化合物から選ばれる化合物…。
(5)イソシアネート化合物またはイソチオシアネート化合物から選ばれる化合物…。
(6)R^(1)_(m)Si(OR^(2))_(n)X_((4-m-n))で表される化合物。(式中,R^(1)はエポキシ基若しくは不飽和カルボニル基を有する置換基を,Xはアルキル基,ハロゲン原子を,R^(2)は炭素数1?20の脂肪族,脂環族,芳香族の各炭化水素基から選ばれる基を表す。mは1?3の整数を,nは1?3の整数を,それぞれ表し,且つ,m+nは2?4の整数を表す。)で表される化合物から選ばれる化合物…。
(7)下記一般式で表される
【化10】…
オルガノシロキサン化合物から選ばれる化合物…。
(8)下記一般式で表される
【化11】…
オルガノシロキサン化合物から選ばれる化合物…。」(【0034】?【0043】。なお,【化10】,【化11】で表される一般式についても記載を省略するが,その内容は上記【化3】,【化4】と同じである。)
「本発明の補強性シリカとしては,湿式法シリカ,乾式法シリカ,合成ケイ酸塩系シリカのいずれのものも使用できる。補強効果及びグリップ性能改良効果が高いのは粒子径の小さいシリカであり,小粒径・高凝集タイプのものが好ましい。本発明の補強性シリカは,補強効果のある充填剤として,原料ゴム100重量部あたり25?100重量部が使用される。25重量部未満では強度その他の物理性能が劣り,100重量部を超えると硬くなりすぎたり,強度がかえって低下したりゴム性能が低下する。…」(【0052】)

イ 上記アのとおり,引用文献1には,特に特許請求の範囲の請求項1及び4の記載などを総合すると,次のとおりの発明(引用発明)が記載されていると認める。
「炭化水素溶媒中,有機リチウム化合物である重合開始剤を用いて共役ジエン系単量体を重合,または共役ジエン系単量体と芳香族ビニル化合物とを共重合させた後に得られた重合体の活性末端と分子中に2個以上のエポキシ基を有する多官能化合物を反応させて得られる変性重合体(成分A)と,該重合体の活性末端と反応可能な官能基を有する変性剤を反応させて得られる変性重合体(成分B)との混合物であり,重量平均分子量が100,000?2,000,000である変性共役ジエン系重合体組成物100重量部に対して,さらにゴム用伸展油1?100重量部,補強性シリカ25?100重量部並びに加硫剤及び加硫促進剤1.0?20重量部を添加してなるゴム組成物」

(2) 対比
ア 本願補正発明と引用発明を対比する。
(ア) 本願補正発明の「変性重合体」は,共役ジエン系単量体を重合,または共役ジエン系単量体と芳香族ビニル化合物とを共重合させた後に得られた重合(体)について,該重合体の活性末端と反応可能な官能基を有する変性剤を反応させて得られるものである。
そして,引用発明の「変性共役ジエン系重合体組成物」は,変性重合体(成分A)と変性重合体(成分B)との混合物であるが,変性重合体(成分A)及び変性重合体(成分B)はいずれも,共役ジエン系単量体を重合,または共役ジエン系単量体と芳香族ビニル化合物とを共重合させた後に得られた重合体であって,該重合体の活性末端と反応可能な官能基を有する化合物(分子中に2個以上のエポキシ基を有する多官能化合物,変性剤)を反応させて得られるものである。しかも,活性末端と反応可能な官能基を有する化合物(分子中に2個以上のエポキシ基を有する多官能化合物,変性剤)の例として引用文献1に記載されているもの(例えば,【請求項2】,【請求項3】,【0023】,【0034】?【0043】)は,本願補正発明の変性剤の具体例として本願補正明細書(例えば,【請求項2】,【0023】?【0031】)に掲記のものと同じである。
そうすると,引用発明の「変性共役ジエン系重合体組成物」は,本願補正発明の「変性重合体」に相当する。
(イ) また,引用発明の「補強性シリカ」は,本願補正発明の「シリカ系無機充填剤」もしくは「補強性充填剤」に相当する。
(ウ) さらに,本願補正発明の「変性重合体組成物」について,本願の請求項1は変性重合体と補強性充填剤とからなる旨特定するが,本願補正明細書(例えば,【0039】?【0041】)の記載から,変性重合体及び補強性充填剤以外の添加物(加硫剤,加硫促進剤,ゴム用軟化剤など)が配合されてなるものを何ら排除しないと解される。よって,引用発明の「ゴム組成物」は,変性共役ジエン系重合体組成物及び補強性シリカのほか,ゴム用伸展油,加硫剤及び加硫促進剤が添加されてなるものではあるが,本願補正発明の「変性重合体組成物」に相当するといえる。

イ したがって,本願補正発明と引用発明との一致点,相違点は,それぞれ次のとおりのものと認めることができる。
・ 一致点
共役ジエン系単量体を重合,または共役ジエン系単量体と芳香族ビニル化合物とを共重合させた後に得られた重合活性末端に反応可能な官能基を有する変性剤を反応させて得られる変性重合体:100重量部,シリカ系無機充填剤からなる補強性充填剤:25?100重量部からなる変性重合体組成物
・ 相違点
共役ジエン系単量体を重合,または共役ジエン系単量体と芳香族ビニル化合物とを共重合させるために用いられる有機リチウム系触媒(重合開始剤)について,本願補正発明は「ジビニルベンゼンとリチウムのモル比(ジビニルベンゼン/リチウム)が0.05?0.25の範囲で調製された有機リチウム系触媒」であるのに対し,引用発明は単に「有機リチウム化合物」とのみ特定する点

(3) 相違点についての判断
ア 引用発明の「有機リチウム化合物(重合開始剤)」について,引用文献1には,「重合開始の能力があるあらゆる有機リチウム開始剤を含み」としつつ各種具体例を掲記する(【0018】)。そうすると,当業者であれば,引用発明の「有機リチウム化合物」に係るこれら具体例の中から,n-ブチルリチウム,1,3-ブタジエン及びジビニルベンゼンの反応物などの多官能有機リチウム化合物を選択することは,想到容易である。
そして,共役ジエンポリマーを製造するにあたって用いられる多官能有機リチウム化合物の重合開始剤について,ジビニルベンゼンとリチウムのモル比(ジビニルベンゼン/リチウム)が0.05?0.25の範囲で調製されたものは周知であるところ(要すれば,特開昭57-40513号公報(特許請求の範囲,10頁の表5-1),特開平2-229809号公報(5頁表-A)を参照。),本願補正発明の上記相違点に係る構成は,引用発明の有機リチウム化合物として,n-ブチルリチウム,1,3-ブタジエン及びジビニルベンゼンの反応物を選択したとき,その反応物の調製にあたり,ジビニルベンゼンとリチウムのモル比について,上記周知の数値範囲を単に採用したにすぎないといえる。

イ 請求人は,本願補正発明はジビニルベンゼンとリチウムのモル比が0.05?0.25の範囲で調製された有機リチウム系触媒を用いることで,シリカ系無機充填剤等の補強性充填材を用いても加工性を損なうことなく,低転がり抵抗性と耐ウエットスキッド性のバランス,強度特性等を改善した共役ジエン系重合体組成物の提供が可能となることが,平成23年5月20日付け意見書に記載のある追加実験データ(比較例2)から理解できる旨主張する(審判請求書4頁)。
しかし,請求人の上記主張は,出願の後に補充した追加実験データの結果を踏まえてするものであるところ,このような本願補正発明の技術的意義(作用効果)は,本願当初明細書において明らかにしていなかった事項であり(本願当初明細書には,【0018】に,ジビニルベンゼンとリチウムとのモル比についてではなく,ポリビニル芳香族化合物と有機リチウム化合物とのモル比についての記載があるにすぎない。),しかも本願当初明細書に当業者において当該効果を認識できる程度の記載やこれを推論できる記載があるとは認められない。
よって,上記実験結果を参酌することは許されず,これを踏まえた請求人の上記主張は採用できない。
仮に,上記追加実験データの結果を参酌することが許されるとしても,本願補正発明は,有機リチウム系触媒を構成する有機リチウム化合物についてn-ブチルリチウムに限定しておらず,1,4-ジリチオブタンや1,3,5-トリリチオベンゼンなど,有機リチウム化合物1モル当たり2モル以上のリチウムを含むものも採用しうるところ(本願補正明細書の【0017】),本願補正明細書及び追加実験データから理解しうる技術的事項は,ジビニルベンゼンとn-ブチルリチウムのモル比が0.05?0.25の範囲で調製されたものであるときに,範囲外のものに比して有利な効果を発揮することが理解できるにとどまるから,結局,請求人の主張は,本願補正発明の特定事項に基づかないものというほかない。

ウ 小活
よって,本願補正発明は,引用発明及び周知の技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないといえる。

6 まとめ
以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年法律55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記第2のとおり,本件補正は却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成23年5月20日付けで補正された特許請求の範囲及び明細書(以下「本願明細書」という。)の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「(A)ポリビニル芳香族化合物とリチウムのモル比(ポリビニル芳香族化合物/リチウム)が0.05?1.0の範囲で調製された有機リチウム系触媒を用いて共役ジエン系単量体を重合,または共役ジエン系単量体と芳香族ビニル化合物とを共重合させた後に得られた重合活性末端に反応可能な官能基を有する変性剤を反応させて得られる変性重合体:100重量部
(B)シリカ系無機充填剤,金属酸化物,金属水酸化物,カーボンから選ばれる少なくとも1種の補強性充填剤:0.5?300重量部からなる変性重合体組成物。」

2 平成23年3月16日付け拒絶理由
拒絶理由は,要するに,本願発明は,引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,という理由を含むものである。

3 引用発明
引用発明は,上記第2_5(1)イにおいて認定のとおりである。

4 対比・判断
本願発明は,本願補正発明との比較において,上記相違点に係る構成すなわち共役ジエン系単量体を重合,または共役ジエン系単量体と芳香族ビニル化合物とを共重合させるために用いられる有機リチウム系触媒について,「ジビニルベンゼンとリチウムのモル比(ジビニルベンゼン/リチウム)が0.05?0.25の範囲で調製された」とあった本願補正発明の特定事項をすべて含む「ポリビニル芳香族化合物とリチウムのモル比(ポリビニル芳香族化合物/リチウム)が0.05?1.0の範囲で調製された」ことをその特定事項とするものである(上記第2_1参照)。
そうすると,本願発明の特定事項をすべて含む本願補正発明が,上述のとおり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである以上,本願発明も,同様の理由により,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるといえる。

第4 むすび
以上のとおり,請求人に通知された拒絶の理由は妥当なものであるから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-27 
結審通知日 2013-04-02 
審決日 2013-04-15 
出願番号 特願2005-129661(P2005-129661)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C08L)
P 1 8・ 121- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 米村 耕一  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 須藤 康洋
小野寺 務
発明の名称 変性重合体組成物  
代理人 鳴井 義夫  
代理人 松井 佳章  
代理人 武井 英夫  

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