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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1274695
審判番号 不服2011-21601  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-06 
確定日 2013-05-30 
事件の表示 特願2006-325105「オルガノシリコーンレジンエマルジョン組成物及び該組成物の被膜が形成された物品」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 6月19日出願公開、特開2008-138059〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成18年12月1日の特許出願であって、平成23年6月13日付けで拒絶理由が通知され、同年7月22日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年8月4日付けで拒絶査定がなされ、同年10月6日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年11月7日付けで前置報告がなされ、当審で平成24年10月22日付けで審尋がなされ、同年11月20日に回答書が提出されたものである。



第2 平成23年10月6日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の結論]
平成23年10月6日付けの手続補正を却下する。

[理由」
1.補正の内容
平成23年10月6日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、補正前の
「【請求項1】
(A)下記組成式:
[XSiO_(3/2)]_(h)[R(X)SiO]_(k)[RSiO_(3/2)]_(m)[R_(2)SiO]_(n)
(式中、Rは同一又は異種の炭素数1?20の1価炭化水素基、Xは炭素数1?20のメタクリル基又はアクリル基含有1価有機基であり、hは0?0.5、kは0?0.5、mは0.2?0.99、nは0?0.8で、h+k+m+n≦1.0、0<h+k≦0.5を満足する正数である。)
で示されるオルガノシリコーンレジン:100質量部、
(B)SP値が8.0?11.0である水混和性有機溶剤:2?50質量部、
(C)乳化剤:1?50質量部、
(D)水:25?2,000質量部
を含有してなり、(B)成分以外の有機溶剤を実質的に含有しないことを特徴とするオルガノシリコーンレジンエマルジョン組成物。
【請求項2】
基材表面に請求項1記載のオルガノシリコーンレジンエマルジョン組成物の被膜が形成された物品。」
を、
「【請求項1】
ゴム基材表面に塗布されるゴム基材用オルガノシリコーンレジンエマルジョン組成物であって、
(A)下記組成式:
[XSiO_(3/2)]_(h)[R(X)SiO]_(k)[RSiO_(3/2)]_(m)[R_(2)SiO]_(n)
(式中、Rは同一又は異種の炭素数1?20の1価炭化水素基、Xは炭素数1?20のメタクリル基又はアクリル基含有1価有機基であり、hは0?0.5、kは0?0.5、mは0.2?0.99、nは0?0.8で、h+k+m+n≦1.0、0<h+k≦0.5を満足する正数である。)
で示されるオルガノシリコーンレジン:100質量部、
(B)SP値が8.0?11.0である水混和性有機溶剤:2?50質量部、
(C)乳化剤:1?50質量部、
(D)水:25?2,000質量部
を含有してなり、(B)成分以外の有機溶剤を実質的に含有しないことを特徴とするオル
ガノシリコーンレジンエマルジョン組成物。
【請求項2】
ゴム基材表面に請求項1記載のオルガノシリコーンレジンエマルジョン組成物の被膜が形成された物品。」
と補正するものを含むものである。

2.新規事項の有無及び補正の目的について
本件補正は、次の補正事項Aを含むものである。
補正事項A:補正前の請求項1に、「ゴム基材表面に塗布されるゴム基材用オルガノシリコーンレジンエマルジョン組成物であって」との事項を付加。
補正事項Aは、補正前の請求項1に、発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)である「ゴム基材表面に塗布されるゴム基材用オルガノシリコーンレジンエマルジョン組成物であって」との事項を付加するものであって、これは、願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)の段落【0035】及び【0046】?【0051】の記載に基づくものであり、補正事項Aは、当初明細書に記載した事項の範囲内でしたものである。
しかしながら、補正前の請求項1に「ゴム基材表面に塗布されるゴム基材用オルガノシリコーンレジンエマルジョン組成物であって」との発明特定事項を付加することは、エマルジョン組成物が塗布される基材をゴムと限定するもの、すなわちエマルジョン組成物の用途を規定するものであるところ、補正前の請求項1には、発明特定事項として当該エマルジョン組成物の用途について何ら規定していないことから、補正事項Aが補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定したものであるということはできない。
したがって、補正事項Aは、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるということはできない。
さらに、補正事項Aは、請求項の削除、誤記の訂正、または明りょうでない記載の釈明のいずれかを目的とするものにも該当しない。
よって、補正事項Aは、特許法第17条の2第4項各号に掲げるいずれの事項をも目的とするものではない。

3.独立特許要件について
仮に、請求項1に係る本件補正が、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものであるとした場合に、請求項1に係る本件補正が、同条第5項において準用する同法第126条第5項の規定を満たすものか否かについて以下検討する。

(1)本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)は、平成23年10月6日に提出された手続補正書により補正された明細書(以下、「補正明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりの、次のとおりのものである。

「【請求項1】
ゴム基材表面に塗布されるゴム基材用オルガノシリコーンレジンエマルジョン組成物であって、
(A)下記組成式:
[XSiO_(3/2)]_(h)[R(X)SiO]_(k)[RSiO_(3/2)]_(m)[R_(2)SiO]_(n)
(式中、Rは同一又は異種の炭素数1?20の1価炭化水素基、Xは炭素数1?20のメタクリル基又はアクリル基含有1価有機基であり、hは0?0.5、kは0?0.5、mは0.2?0.99、nは0?0.8で、h+k+m+n≦1.0、0<h+k≦0.5を満足する正数である。)
で示されるオルガノシリコーンレジン:100質量部、
(B)SP値が8.0?11.0である水混和性有機溶剤:2?50質量部、
(C)乳化剤:1?50質量部、
(D)水:25?2,000質量部
を含有してなり、(B)成分以外の有機溶剤を実質的に含有しないことを特徴とするオルガノシリコーンレジンエマルジョン組成物。」

(2)引用刊行物
刊行物A:特開2006-225629号公報(平成23年6月13日付け拒絶理由通知書における引用文献1)

(3)引用刊行物の記載事項
本願の出願日より前に頒布された刊行物Aには以下のとおりのことが記載されている。

摘示ア 「【請求項1】
(A)組成式:[RSiO_(3/2)]_(m)[R_(2)SiO]_(n)(ここで、Rは同一又は異種の炭素数1?20の1価有機基であり、mは0.2?1.0、nは0?0.8である。)で示されるオルガノシリコーンレジン:100質量部、
(B)SP値が8.0?11.0である水混和性有機溶剤:2?50質量部、
(C)乳化剤:1?50質量部、
(D)水:25?2,000質量部
を含有してなり、(B)成分以外の有機溶剤を実質的に含有しないことを特徴とするオルガノシリコーンレジンエマルジョン組成物。
【請求項2】
(B)SP値が8.0?11.0である水混和性有機溶剤が、アルキレンオキシド単位を有する化合物である請求項1記載のオルガノシリコーンレジンエマルジョン組成物。
【請求項3】
SP値が8.0?11.0である水混和性有機溶剤が、ブチルセロソルブ、ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル又はプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートである請求項1又は2記載のオルガノシリコーンレジンエマルジョン組成物。
【請求項4】
基材表面に請求項1,2又は3記載のオルガノシリコーンレジンエマルジョン組成物の被膜が形成された物品。」(特許請求の範囲請求項1?4)

摘示イ 「本発明は、構造物、建材等の外装用塗料等として好適に用いられるシリコーンレジンのエマルジョン組成物及びその被膜を有する物品に関する。
【背景技術】
近年、環境汚染及び安全な作業環境確保の観点から、塗料あるいはコーティング剤分野において、有機溶剤から水系へと分散媒の変更が求められている。この要求に基づき、アクリル樹脂に代表されるラジカル重合性ビニルモノマーを乳化重合したエマルジョン系塗料が、優れた被膜形成性及び耐薬品性の良さからコーティング剤の基本材料として幅広く採用されている。しかしながら、この種の塗料は本質的に耐水性及び耐候性に劣るといった欠点を有している。」(段落0001?0002)

摘示ウ 「【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、環境上の問題がなく、耐水性及び耐候性が良好で、安定性の良好なオルガノシリコーンレジンエマルジョン組成物、及び該組成物の被膜を有する物品を提供することを目的とする。」(段落0005?0006)

摘示エ 「(A)成分であるオルガノシリコーンレジンは、組成式:[RSiO_(3/2)]_(m)[R_(2)SiO]_(n)(ここで、Rは同一又は異種の炭素数1?20の1価有機基であり、mは0.2?1.0、nは0?0.8である。)で示されるものである。
ここで、Rは同一又は異種の炭素数1?20の1価有機基であり、具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルなどのアルキル基、フェニル、トリル、ナフチルなどのアリール基、ビニル、アリルなどのアルケニル基、あるいはこれらの有機基構造中の水素原子の一部をハロゲン原子や、アミノ、アクリロキシ、メタクリロキシ、エポキシ、メルカプト、カルボキシル等の極性基含有の有機基で置換したものなどが挙げられる。本発明においては、Rの30モル%以上がメチル基、10モル%以上がフェニル基であることが望ましい。」(段落0012?0013)

摘示オ 「本発明のオルガノシリコーンレジンエマルジョン組成物は、金属、セラミック系無機材料、ガラス、木材、紙製品、プラスチック等の透明又は不透明な基材表面に塗布し、室温あるいは加熱するなどして硬化させることにより硬化保護被膜を形成することができる。この硬化保護被膜は、高硬度で可撓性に富み、接着性、耐候性も良好であり、更に撥水性も付与することができるので、金属、セラミック、木材等の外装建材の下地処理剤、トップコート剤等の塗料、プレコートメタル等の金属表面の保護コート剤、電子写真用キャリアの帯電調節コート剤、あるいは接着剤等に適している。
・・・
基材がプラスチックの場合、プラスチック板、磁気あるいは感熱性記録用フィルム、包装用フィルム、ビニルクロス等の表面保護コーティング、あるいは機能付与用バインダーとして好適に使用することができる。」(段落0032?0034)

(4)刊行物Aに記載された発明
刊行物Aには、摘示ア及びエからみて、「(A)組成式:[RSiO_(3/2)]_(m)[R_(2)SiO]_(n)(ここで、Rは同一又は異種の炭素数1?20の1価有機基であり、mは0.2?1.0、nは0?0.8である。)で示されるオルガノシリコーンレジン:100質量部、
(B)SP値が8.0?11.0である水混和性有機溶剤:2?50質量部、
(C)乳化剤:1?50質量部、
(D)水:25?2,000質量部
を含有してなり、(B)成分以外の有機溶剤を実質的に含有しないことを特徴とするオルガノシリコーンレジンエマルジョン組成物。」の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されているといえる。

(5)対比
補正発明と刊行物発明とを対比すると、補正発明と刊行物発明とは、「オルガノシリコーンレジン:100質量部、
(B)SP値が8.0?11.0である水混和性有機溶剤:2?50質量部、
(C)乳化剤:1?50質量部、
(D)水:25?2,000質量部
を含有してなり、(B)成分以外の有機溶剤を実質的に含有しないことを特徴とするオルガノシリコーンレジンエマルジョン組成物。」の点で一致し、次の相違点1及び2で一応相違する。

<相違点1>
オルガノシリコーンレジンエマルジョン組成物の用途が、補正発明では、「ゴム基材表面に塗布されるゴム基材用」であるのに対し、刊行物発明では、その点に関し特に規定されていない点。

<相違点2>
オルガノシリコーンレジンが、補正発明では、「(A)下記組成式:
[XSiO_(3/2)]_(h)[R(X)SiO]_(k)[RSiO_(3/2)]_(m)[R_(2)SiO]_(n)(式中、Rは同一又は異種の炭素数1?20の1価炭化水素基、Xは炭素数1?20のメタクリル基又はアクリル基含有1価有機基であり、hは0?0.5、kは0?0.5、mは0.2?0.99、nは0?0.8で、h+k+m+n≦1.0、0<h+k≦0.5を満足する正数である。)で示される」のに対し、刊行物発明では、「(A)組成式:
[RSiO_(3/2)]_(m)[R_(2)SiO]_(n)(ここで、Rは同一又は異種の炭素数1?20の1価有機基であり、mは0.2?1.0、nは0?0.8である。)で示される」である点。

(6)相違点に対する判断
○相違点1について
刊行物発明は、摘示ア?ウからみて、塗料あるいはコーティング剤分野に適用されるものであると認められ、摘示オには、エマルジョン組成物を塗布する基材表面の種類として、「金属、セラミック系無機材料、ガラス、木材、紙製品、プラスチック等」と広く一般的なものが列挙されている。
そして、皮膜形成オルガノシリコーンレジンエマルジョン組成物の技術分野において、被覆対象となる基材としてゴムはプラスチックなどと同様に周知のものであると認められる(例えば、特開平7-196984号公報参照。)から、刊行物Aにおいて、たとえエマルジョン組成物を塗布する基材表面の種類として「ゴム」と明記されていないとしても、刊行物発明に係るオルガノシリコーンレジンエマルジョン組成物は、広く一般的な基材表面に塗布することを意図しているものであり、そのような基材としてゴムは当然に包含されるものであり、またゴム用であることを排除するものでもない。そうすると、相違点1は実質的な相違点ではない。
また、仮に刊行物発明に係る組成物は、ゴム基材に塗布することを含むものではないとしても、刊行物A中には明記されていないものの、刊行物Aに記載されたエマルジョン組成物を塗布する基材表面の種類として、ゴムを選択する程度のことは、刊行物Aの記載に接したこの発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)であれば、上記周知技術から容易になし得ることにすぎないといわざるを得ない。そして、そのことによりもたらされる効果について検討しても、補正明細書の実施例、参考例及び比較例においては何れもゴムシートを基材として用いており、ゴム以外の基材と比較したものではないことから、ゴム基材を選択したことによる格別の効果を認めることはできない。

○相違点2について
刊行物発明におけるオルガノシリコーンレジンは、組成式中のRについて、摘示エには、「Rは同一又は異種の炭素数1?20の1価有機基であり、具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルなどのアルキル基、フェニル、トリル、ナフチルなどのアリール基、ビニル、アリルなどのアルケニル基、あるいはこれらの有機基構造中の水素原子の一部をハロゲン原子や、アミノ、アクリロキシ、メタクリロキシ、エポキシ、メルカプト、カルボキシル等の極性基含有の有機基で置換したものなどが挙げられる。」と記載されている。そうすると、かかるRとしては、「異種の炭素数1?20の1価有機基であり」、一方が、「メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルなどのアルキル基、フェニル、トリル、ナフチルなどのアリール基、ビニル、アリルなどのアルケニル基」から選ばれた基であって、他方が「これらの有機基構造中の水素原子の一部をハロゲン原子や、アミノ、アクリロキシ、メタクリロキシ、エポキシ、メルカプト、カルボキシル等の極性基含有の有機基で置換したもの」から選ばれた基である場合を包含することは明らかである。そして、当該一方の基である「メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルなどのアルキル基、フェニル、トリル、ナフチルなどのアリール基、ビニル、アリルなどのアルケニル基から選ばれた基」が、補正発明における「Rは同一又は異種の炭素数1?20の1価炭化水素基」に相当し、当該他方の基である極性基含有の有機基で置換したもののうち、アクリロキシ、メタクリロキシで置換したものが、補正発明における「Xは炭素数1?20のメタクリル基又はアクリル基含有1価有機基であり」に相当することは明らかである。そうすると、相違点2は実質的な相違点ではない。
また、仮にそうでないとしても、皮膜形成オルガノシリコーンレジンエマルジョン組成物の技術分野において、基材との密着性を向上させることを目的としてオルガノシリコーンレジンの構造中に官能性基を導入することは周知のものであると認められる(例えば、特開平11-130962号公報参照。)から、刊行物発明において、基材との密着性を向上させることを目的として、刊行物発明におけるオルガノシリコーンレジンにおけるRの一部として、アクリロキシ、メタクリロキシで置換したものを選択する程度のことは、当業者であれば、上記周知技術から容易になし得ることにすぎないといわざるを得ない。そして、そのことによりもたらされる効果について検討しても、補正明細書の実施例2と参考例3及び4との比較においては、両者共に密着性が良好となっていることから、官能性基として特にメタクリル基又はアクリル基を選択したことによる格別の効果を認めることはできない。なお、ゴムシートの基材が、前者においてはEPDMを用い、後者においてはウレタンを用いており、ゴム基材の種類が異なるものの、両者共にゴム基材に該当することには変わりはないことから、この点は評価上の差異ではない。

(7)効果についての請求人の主張の検討
請求人は、審判請求書において、エマルジョンA(メルカプト基含有)及びエマルジョンB(エポキシ基含有)をEPDMゴムシートに適用した参考例3’及び4’を追加の実験結果として示して、何れも密着性に劣る結果が得られたことから、実施例2(メタクリル基含有)における格別の効果を主張している。
しかしながら、補正発明においては、オルガノシリコーンレジンエマルジョン組成物が「ゴム基材表面に塗布されるゴム基材用」としか規定されておらず、ゴムの種類を特に限定しているわけではないことから、EPDMゴムもウレタンゴムも共に当該「ゴム基材」に包含されるものである。そうすると、補正明細書の参考例3(メルカプト基含有)及び4(エポキシ基含有)もウレタンゴムシートに対して良好な密着性を有するものであることから、補正明細書の実施例2(メタクリル基含有)との効果上の差異が不明であり、請求人の主張はその意味が不明である。仮に、実施例2(メタクリル基含有)の効果が、EPDMゴムに対する密着性を主張しようとするものであるとしても、そのような主張は請求項の記載に基づかないものであり、受け入れられるものではない。そもそも、組成式中のXとして特に「アクリル基又はメタクリル基含有1価有機基」が他の1価反応性有機基よりも特にゴムとの密着性に優れるものであるとの主張は、本願の願書に最初に添付した明細書の記載に基づくものではなく、受け入れられるものではない。

(8)まとめ
したがって、補正発明は刊行物Aに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。あるいは、補正発明は刊行物Aに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.平成24年11月20日付けの回答書での請求人の主張についての検討
請求人は、「このように基材をゴム基材と減縮した請求項2との整合をはかる点から、請求項1のオルガノシリコーンレジンエマルジョン組成物を『ゴム基材表面に塗布されるゴム基材用』と規定したものであり、この規定も、上記請求項2が減縮であることから、同様に減縮と認められるべきものであると思料する。
従って、上記平成23年10月6日付けの手続補正は、特許法第17条の2第3,4,5項の規定を満たすものと思料しますが、出願人は、必要によっては現請求項1を削除し、現請求項2のみとすることについては吝かでありませんので、この点ご考慮下さるようお願い申し上げます。」と主張しているが、請求項1についての補正が、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるということができないことは、上記2.で述べたとおりであるし、仮に、請求項1を削除して請求項2のみとしたとしても、請求項2に係る本件補正も、上記3.で述べたのと同じ理由により、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反しており、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反しており、あるいはそうでないとしても、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反しており、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



第3 原査定の妥当性についての判断

1.本願発明
上記のとおり、平成23年10月6付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項1及び2に係る発明は、平成23年7月22日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
(A)下記組成式:
[XSiO_(3/2)]_(h)[R(X)SiO]_(k)[RSiO_(3/2)]_(m)[R_(2)SiO]_(n)(式中、Rは同一又は異種の炭素数1?20の1価炭化水素基、Xは炭素数1?20のメタクリル基又はアクリル基含有1価有機基であり、hは0?0.5、kは0?0.5、mは0.2?0.99、nは0?0.8で、h+k+m+n≦1.0、0<h+k≦0.5を満足する正数である。)
で示されるオルガノシリコーンレジン:100質量部、
(B)SP値が8.0?11.0である水混和性有機溶剤:2?50質量部、
(C)乳化剤:1?50質量部、
(D)水:25?2,000質量部
を含有してなり、(B)成分以外の有機溶剤を実質的に含有しないことを特徴とするオルガノシリコーンレジンエマルジョン組成物。」

2.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、本願発明1は、引用文献1(特開2006-225629号公報)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、あるいは、本願発明1は、引用文献1に記載された発明から、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものを含むものである。

3.引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明
引用文献1は、上記第2 3.(2)の刊行物Aと同じであるから、引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明は、上記第2 3.(3)及び(4)に記載したとおりである。
以下、引用文献1に記載された発明を「刊行物発明」ともいう。

4.対比
本願発明と刊行物発明とを対比する。
本願発明は、上記第2 2.で述べたとおり、補正発明における、オルガノシリコーンレジンエマルジョン組成物の用途を、「ゴム基材表面に塗布されるゴム基材用」であると限定することをなくしたものに相当する。
そうすると、上記第2 3.(5)で述べたとおり、両者は、「オルガノシリコーンレジン:100質量部、
(B)SP値が8.0?11.0である水混和性有機溶剤:2?50質量部、
(C)乳化剤:1?50質量部、
(D)水:25?2,000質量部
を含有してなり、(B)成分以外の有機溶剤を実質的に含有しないことを特徴とするオルガノシリコーンレジンエマルジョン組成物。」の点で一致し、次の相違点3で一応相違する。

<相違点3>
オルガノシリコーンレジンが、本願発明では、「(A)下記組成式:
[XSiO_(3/2)]_(h)[R(X)SiO]_(k)[RSiO_(3/2)]_(m)[R_(2)SiO]_(n)(式中、Rは同一又は異種の炭素数1?20の1価炭化水素基、Xは炭素数1?20のメタクリル基又はアクリル基含有1価有機基であり、hは0?0.5、kは0?0.5、mは0.2?0.99、nは0?0.8で、h+k+m+n≦1.0、0<h+k≦0.5を満足する正数である。)で示される」のに対し、刊行物発明では、「(A)組成式:
[RSiO_(3/2)]_(m)[R_(2)SiO]_(n)(ここで、Rは同一又は異種の炭素数1?20の1価有機基であり、mは0.2?1.0、nは0?0.8である。)で示される」である点。

5.相違点3に対する判断
相違点3は、上記相違点2と同じであるから、上記第2 3.(6)○相違点2についてで述べたとおり、実質的な相違点ではない。あるいは、当業者であれば、引用文献1に記載された発明から容易になし得ることにすぎない。そして、そのことによりもたらされる効果も格別顕著なものであるとすることはできない。

6.まとめ
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。あるいは、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。



第4 請求人の主張の検討
1.平成23年7月22日付けの意見書での主張について
請求人は、平成23年7月22日付けの意見書において、「引用文献1には、確かに組成式中のRとして、アクリロキシ基、メタクリロキシ基が例示されているものの、実施例においてはメチル基のみか、メチル基及びフェニル基のみを用いたシリコーンレジンが記載されているのみであって、アクリロキシ基、メタクリロキシ基を用いたシリコーンレジンについての具体的例示はない。このような引用文献1のメチル基、フェニル基含有シリコーンレジンを用いたエマルジョン組成物は、上述した本願比較例1,2に相当する程度のものである。
また、引用文献1には、耐候性の良好な高硬度被膜を有するシリコーンレジンの安定なエマルジョンを得ることができるという効果が記載されているが、密着性が良好な高硬度被膜を有するシリコーンレジンの安定なエマルジョン組成物を得ることができるという本願発明の作用効果については記載がない。
このような引用文献1から、炭素数1?20のメタクリル基又はアクリル基含有1価有機基を含有するオルガノシリコーンレジンを用いた場合に、密着性に優れる硬化被膜が得られるという本願発明の作用効果は想到し難い。
よって、引用文献1から、本願発明の構成及び作用効果を予測することは困難である。」と主張している。
しかしながら、上記第2 3.(6)○相違点2についてで述べたとおり、引用文献には、刊行物発明におけるオルガノシリコーンレジンの組成式中のRとして、本願発明の選択肢に包含されるものが記載されているといえる。あるいは、刊行物発明におけるオルガノシリコーンレジンにおけるRの一部として、アクリロキシ、メタクリロキシで置換したものを選択する程度のことは、当業者であれば、周知技術から容易になし得ることにすぎないといわざるを得ない。
したがって、請求人の上記主張は採用することができない。

2.平成23年10月6日付けの審判請求書での主張について
また、請求人は、平成23年10月6日付けの審判請求書の(3)(c)「引用文献の説明及び本願発明との対比」において、「引用文献1には、確かに組成式中のRとして、アクリロキシ基、メタクリロキシ基が例示されているものの、実施例においてはメチル基のみか、メチル基及びフェニル基のみを用いたシリコーンレジンが記載されているのみであって、アクリロキシ基、メタクリロキシ基を用いたシリコーンレジンについての具体的例示はない。
特に、本願発明はアクリロキシ基又はメタクリロキシ基を有するXSiO_(3/2)単位又はR(X)SiO単位をアクリロキシ基又はメタクリロキシ基を有さないRSiO_(3/2)単位と併用するものであるが、引用文献1にはかかる併用については開示も示唆もない。
また、引用文献1には、その組成物が適用される基材について種々記載されているが、ゴム基材に対して適用することについては記載がない。
従って、本願発明のアクリロキシ基又はメタクリロキシ基を有するXSiO_(3/2)単位又はR(X)SiO単位とアクリロキシ基又はメタクリロキシ基を有さないRSiO_(3/2)単位を併用したオルガノシリコーンレジンを用いたオルガノシリコーンレジンエマルジョン組成物は、実施例にも示されているように、優れた密着性を示すものであるが、本願発明の上記オルガノシリコーンレジンについて記載がなく、ゴム基材に対する適用についても記載のない引用文献1から、上記本願発明の構成及びそれによる作用効果は想到し難い。」と主張している。
しかしながら、「引用文献1にはかかる併用については開示も示唆もない」とする点については、上記第2 3.(6)○相違点2についてで述べたとおりであるし、「引用文献1には、その組成物が適用される基材について種々記載されているが、ゴム基材に対して適用することについては記載がない」とする点については、上記第2 3.(6)○相違点1についてで述べたとおりである。
また、追加実験を基にした効果の主張については、上記第2 3.(7)で述べたとおりである。
したがって、請求人の上記主張も採用することができない。



第5 むすび
以上のとおり、本願発明1、すなわち、平成23年7月22日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明についての原査定の理由は、妥当なものである。
したがって、他の請求項に係る発明について更に検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-27 
結審通知日 2013-04-02 
審決日 2013-04-15 
出願番号 特願2006-325105(P2006-325105)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08L)
P 1 8・ 572- Z (C08L)
P 1 8・ 575- Z (C08L)
P 1 8・ 113- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡▲崎▼ 忠  
特許庁審判長 渡辺 仁
特許庁審判官 塩見 篤史
小野寺 務
発明の名称 オルガノシリコーンレジンエマルジョン組成物及び該組成物の被膜が形成された物品  
代理人 石川 武史  
代理人 小林 克成  
代理人 小島 隆司  
代理人 重松 沙織  

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