• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02F
管理番号 1274748
審判番号 不服2012-8441  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-10 
確定日 2013-05-31 
事件の表示 特願2009-135225「シリンダヘッドの冷却構造」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 8月27日出願公開、特開2009-191856〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
本件出願は、平成17年8月4日に出願した特願2005-226129号の一部を平成21年6月4日に新たな出願としたものであって、平成23年9月27日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成23年11月25日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成24年2月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成24年5月10日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けで明細書及び特許請求の範囲について手続補正がなされ、その後、当審において平成24年9月7日付けで書面による審尋がなされ、これに対して平成24年11月8日付けで回答書が提出されたものである。

2.平成24年5月10日付け手続補正について

(1)補正の内容

平成24年5月10日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成23年11月25日付けの手続補正により補正された)下記の(a)に示す請求項1を下記の(b)に示す請求項1と補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲

「【請求項1】
1シリンダに2つの吸気ポートと2つ排気ポートを備えたシリンダヘッドの冷却構造において、前記シリンダヘッド(10)の排気ポート(2,2)の周辺における過熱箇所(T)に冷却水を噴射するための冷却水噴射ノズル(6)を前記シリンダヘッド(10)内に設け、その冷却水噴射ノズル(6)は冷却された冷却水が流過する配管に連通しており、前記冷却水噴射ノズル(6)は、ソケット(61)を含む曲がり管(62)で構成され、前記ソケット(61)は、大径部(61a)と小径部(61b)とからなる段付チューブとして形成され、また、前記曲がり管(62)は、拡径部(62a)と曲がり部(62c)とノズル(62b)とで構成され、更に、前記拡径部(62a)の外周が、前記ソケット(61)の小径部(61b)の内周に嵌合するように形成され、前記冷却水噴射ノズル(6)の仮想延長線は、前記シリンダヘッド(10)中の過熱箇所(T)よりもシリンダヘッド(10)の冷却用水路(5)における冷却水の流れる方向(W)の上流側に位置し、前記冷却水噴射ノズル(6)の冷却水が、冷却用水路(5)における冷却水と共に前記過熱箇所(T)に衝突するように構成されているシリンダヘッドの冷却構造。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲

「【請求項1】
1シリンダに2つの吸気ポートと2つの排気ポートとを備えたシリンダヘッドの冷却構造において、前記シリンダヘッド(10)の排気ポート(2)の周辺における過熱箇所(T)に冷却水を噴射するための冷却水噴射ノズル(6)を前記シリンダヘッド(10)に設け、その冷却水噴射ノズル(6)は冷却された冷却水が流過する配管に連通しており、前記冷却水噴射ノズル(6)は、ソケット(61)を含む曲がり管(62)で構成され、前記ソケット(61)は、大径部(61a)と小径部(61b)とからなる段付チューブとして形成され、また、前記曲がり管(62)は、拡径部(62a)と曲がり部(62c)とノズル部(62b)とで構成され、前記拡径部(62a)の外周がソケット(61)の小径部(61b)の内周に嵌合され、前記冷却水噴射ノズル(6)の仮想延長線は前記シリンダヘッド(10)の過熱箇所(T)よりもシリンダヘッド(10)の冷却用水路(5)の冷却水に流れる方向(W)の上流側であって、前記冷却水噴射ノズル(6)の冷却水が冷却用水路(5)の冷却水と共に前記過熱箇所(T)に衝突するように構成されていることを特徴とするシリンダヘッドの冷却構造。」

(2)本件補正の目的

本件補正後の請求項1は、特許請求の範囲の請求項1に関して、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における「ノズル(62b)」の記載を、「ノズル部(62b)」とすることを含むものである。
そこで、本件出願における明細書の記載をみると、その段落【0019】には、「曲がり管62は、拡径部62aと曲がり部62cとノズル部62bとで構成されている。」との記載があり、この記載によれば、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における「ノズル(62b)」の記載は、「ノズル部(62b)」の誤記であることが明らかである。
よって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、平成18年法律第55号附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第3号に掲げる誤記の訂正を目的とするものに該当する。

3.本件発明

上記2.(1)(b)に示した請求項1における「冷却水に流れる方向(W)」は「冷却水の流れる方向(W)」の誤記と認められるので、本件出願の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、平成24年5月10日付けの手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
1シリンダに2つの吸気ポートと2つの排気ポートとを備えたシリンダヘッドの冷却構造において、前記シリンダヘッド(10)の排気ポート(2)の周辺における過熱箇所(T)に冷却水を噴射するための冷却水噴射ノズル(6)を前記シリンダヘッド(10)に設け、その冷却水噴射ノズル(6)は冷却された冷却水が流過する配管に連通しており、前記冷却水噴射ノズル(6)は、ソケット(61)を含む曲がり管(62)で構成され、前記ソケット(61)は、大径部(61a)と小径部(61b)とからなる段付チューブとして形成され、また、前記曲がり管(62)は、拡径部(62a)と曲がり部(62c)とノズル部(62b)とで構成され、前記拡径部(62a)の外周がソケット(61)の小径部(61b)の内周に嵌合され、前記冷却水噴射ノズル(6)の仮想延長線は前記シリンダヘッド(10)の過熱箇所(T)よりもシリンダヘッド(10)の冷却用水路(5)の冷却水の流れる方向(W)の上流側であって、前記冷却水噴射ノズル(6)の冷却水が冷却用水路(5)の冷却水と共に前記過熱箇所(T)に衝突するように構成されていることを特徴とするシリンダヘッドの冷却構造。」

4.刊行物に記載された発明

(1)刊行物1の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の原出願日前に頒布された実願昭61-4877号(実開昭62-117225号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

a)「 【産業上の利用分野】
本考案は、自動車用内燃機関の冷却装置に関するものである。」(明細書第1ページ第12ないし14行)

b)「このため、ボア間のシリンダ壁およびシリンダヘッド中心部の燃焼室内壁は、その他の部位に比較して非常に温度が高くなり易く、しばしばノッキングの発生源となったり、NOx濃度が非常に高くなるという難点がある。」(明細書第2ページ第7ないし11行)

c)「図において、符号1はシリンダブロックで、内側にはシリンダボアが形成され、シリンダライナ1aを介して冷却水通路2,3,4などが形成されていて、シリンダヘッド5に向けて冷却水が流れるようになっている。
上記冷却水通路2,3,4は、その基端で共通のウオータポンプ6に連通しており、またシリンダヘッド5内に形成した冷却水通路7からは、サーモスタット8によって開閉される弁9を介してラジエータ10へ冷却水が流れるようになっている。
上記ラジエータ10は、上記ウオータポンプ6のサクションに循環路11が設けられており、上記ウォータポンプ6のデリバリ側からはバイパス通路12が分岐されており、シリンダブロック1の冷却水通路2,3,4とは独立した別系統として構成されている。
上記バイパス通路12には、コントロールバルブ14が設置されており、このコントロールバルブ14を経由して流通する冷却水は、シリンダヘッド5内に形成された冷却水通路7内に挿入されたシャワーパイプ13に連通されている。
上記シャワーパイプ13は、シリンダヘッド5内の冷却水がよどみがちな部位A,冷却水循環が不足しがちな部位B、あるいは冷却水循環を強力に推進してより効果的に冷却をさせる必要のある部位Cに対して、冷却水が噴射されるように構成されている。」(明細書第6ページ第1行ないし第7ページ第7行)

(2)上記(1)及び図面の記載より分かること

イ)上記(1)c)における「より効果的に冷却をさせる必要のある部位C」との記載を上記(1)b)の記載とあわせてみると、部位Cは冷却をする必要のある部位、すなわち、温度が高くなっている部位であるから、技術常識に照らせば、過熱している部位C(以下、「部位C」を「過熱部位C」という。)であることが分かる。

ロ)上記(1)c)及び図面の記載を技術常識に照らせば、シャワーパイプ13は、図面において細く描かれているノズル部から冷却水を噴射させており、しかも、曲がり部を備えたパイプであり、さらに、冷却水が流通する通路の断面積は、ノズル先端部に向かうにしたがって減少していることが分かる。

ハ)上記(1)c)及び図面の記載を技術常識に照らせば、シャワーパイプ13から噴射された冷却水は冷却水通路7の冷却水と共に過熱部位Cに衝突するように構成されていることが分かる。

(3)刊行物1に記載された発明

したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)が記載されている。

<刊行物1に記載された発明>

「シリンダヘッド5の冷却装置において、シリンダヘッド5における過熱部位Cに冷却水を噴射するためのシャワーパイプ13をシリンダヘッド5に設け、そのシャワーパイプ13は冷却された冷却水が流通するバイパス通路12に連通しており、シャワーパイプ13は、曲がり部を備えたパイプで構成され、曲がり部を備えたパイプは、曲がり部とノズル部とで構成され、シャワーパイプ13の冷却水が冷却水通路7の冷却水と共に過熱部位Cに衝突するように構成されているシリンダヘッド5の冷却装置。」

(4)刊行物2の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の原出願日前に頒布された特開2000-170600号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、シリンダヘッドの燃焼面の冷却効率を向上できるシリンダヘッド冷却構造に関するものである。」(段落【0001】)

b)「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、シリンダヘッドの冷却構造を鋭意研究する中で、次のような知見を得た。即ち、(1)(審決注:原文では丸付き数字の1)燃焼面は、その全面が一様に高温となるのではなく、高温となりやすい部分とそうでない部分とを有している。(2)(審決注:原文では丸付き数字の2)高温となりやすい部分を集中的に冷却すれば、燃焼面の冷却効率を向上できる。
【0005】図1はシリンダヘッドの燃焼面を示す図である。図3に示すようなバルブシート301を設けて排気弁30の周囲を強制的に冷却している構造のシリンダヘッド1の燃焼面2においては、最も高温となりやすい部分は一点鎖線で囲んだ部分20であり、該部分(以下、ホットスポットと称する)20は、2つの排気ポート31,32と燃焼面2の周縁21との間の部分である排気ポート間部22(一点鎖線で示す)の略中心部に該当する。なお、41,42は吸気ポートである。」(段落【0004】及び【0005】)

c)「【0011】
【発明の実施の形態】(実施形態1)図2は本実施形態におけるシリンダヘッドの底面図、図3は排気ポートに排気弁が取り付けられた状態の縦断面図であり、図2のIII-III断面に相当する図である。図4は図2のIV-IV断面図である。なお、図4は一部拡大図も含んでいる。シリンダヘッド1の燃焼面2には、それぞれ2個の排気ポート31,32及び吸気ポート41,42がある。そして、排気ポート31,32と燃焼面2の周縁21との間の部分である排気ポート間部22の略中心部は、燃焼面2において最も高温となりやすいホットスポット20である。一方、シリンダヘッド1の内部には、多数の冷却水通路が形成されており、排気ポート間部22に面しては排気ポート間冷却水通路51が形成されている。更に、排気ポート31,32の周囲には、排気ポート31,32をそれぞれ囲む周囲冷却水通路61,62が形成されている。周囲冷却水通路61,62は、シリンダヘッド1を縦に貫通する縦貫冷却水通路71,72,73,74の内の近接している縦貫冷却水通路71,72からそれぞれ延びている。なお、排気弁30は、図3に示すように、排気ポート31,32に対して燃焼面2側から嵌め込み式となっており、周囲冷却水通路61,62は、排気弁30を嵌め込むことによって構成されている。
【0012】そして、本実施形態のシリンダヘッド冷却構造では、周囲冷却水通路61,62を相互に連通させるパイプ90が、排気ポート間部22に面する排気ポート間冷却水通路51の底部を直線的に貫通して設けられている。そして、パイプ90には、排気ポート間部22に面する排気ポート間冷却水通路51の底面511に向けて開口した1個の孔901が形成されている。なお、パイプ90は、銅又はSUSでできている。
【0013】上記冷却構造においては、周囲冷却水通路61,62の冷却水が、パイプ90へ流入し、孔901から底面511に向けて噴射されるので、排気ポート間部22に接触する単位時間当たりの冷却水量が増大し、排気ポート間部22ひいてはホットスポット20の冷却効率が向上する。従って、シリンダヘッド1の燃焼面2の冷却効率が向上する。」(段落【0011】ないし【0013】)

d)「【0022】(実施形態5)図8は本実施形態におけるシリンダヘッドの縦断面拡大部分図であり、図4の拡大図に相当するものである。図9は図8のIX矢視図である。本実施形態では、実施形態1におけるパイプ90の代わりに、パイプ91を設け、その他は実施形態1と同じとしている。パイプ91は、一端が周囲冷却水通路61に連通し、他端が排気ポート間部22に面する排気ポート間冷却水通路51の底部に位置するよう、設けられている。そして、パイプ91の他端の開口911は底面511に向いている。なお、パイプ91は、銅又はSUSでできている。
【0023】上記冷却構造においては、周囲冷却水通路61の冷却水が、パイプ91を経て開口911から底面511に向けて噴射されるので、排気ポート間部22に接触する単位時間当たりの冷却水量が増大し、排気ポート間部22ひいてはホットスポット20の冷却効率が向上する。従って、燃焼面2の冷却効率が向上する。」(段落【0022】及び【0023】)

(5)上記(4)及び図面の記載より分かること

イ)上記(4)b)及びc)並びに図1、2、4、8及び9の記載によれば、シリンダヘッド1の排気ポート31,32の周辺におけるホットスポット20に冷却水を噴射するためのパイプ91をシリンダヘッド1に設けることが分かる。

ロ)上記(4)d)並びに図8及び9の記載によれば、「冷却水が、パイプ91を経て開口911から底面511に向けて噴射されるので、排気ポート間部22に接触する単位時間当たりの冷却水量が増大し、排気ポート間部22ひいてはホットスポット20の冷却効率が向上する」こと、及び、技術常識に照らせば、排気ポート間冷却水通路51には、冷却水が流れていることが明らかであるから、図9において、2つの排気ポート31,32間に排気ポート間冷却水通路51が存在しており、排気ポート間冷却水通路51に流れる冷却水は、図9において、上から下へと流れていると考えることがごく自然であるので、パイプ91の仮想延長線はシリンダヘッド1のホットスポット20よりもシリンダヘッド1の排気ポート間冷却水通路51の冷却水の流れる方向の上流側であって、パイプ90の冷却水が排気ポート間冷却水通路51の冷却水と共にホットスポット20に衝突するように構成されていることが分かる。

(6)刊行物2に記載された発明

したがって、上記(4)及び(5)を総合すると、刊行物2には次の発明(以下、「刊行物2に記載された発明」という。)が記載されている。

<刊行物2に記載された発明>

「1シリンダに2つの吸気ポート41,42と2つの排気ポート31,32とを備えたシリンダヘッド1の冷却構造において、シリンダヘッド1の排気ポート31,32の周辺におけるホットスポット20に冷却水を噴射するためのパイプ90をシリンダヘッド1に設け、パイプ91の仮想延長線はシリンダヘッド1のホットスポット20よりもシリンダヘッド1の排気ポート間冷却水通路51の冷却水の流れる方向の上流側であって、パイプ90の冷却水が排気ポート間冷却水通路51の冷却水と共にホットスポット20に衝突するように構成されているシリンダヘッド1の冷却構造。」

5.対比・判断

本件発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明における「シリンダヘッド5」、「冷却装置」、「過熱部位C」、「シャワーパイプ13」、「流通」、「バイパス通路12」、「曲がり部を備えたパイプ」及び「冷却水通路7」は、その機能、構造又は技術的意義からみて、それぞれ、本件発明における「シリンダヘッド」、「冷却構造」、「過熱箇所」、「冷却水噴射ノズル」、「流過」、「配管」、「曲がり管」及び「冷却用水路」に相当する。

してみると、本件発明と刊行物1に記載された発明とは、
「シリンダヘッドの冷却構造において、シリンダヘッドにおける過熱箇所に冷却水を噴射するための冷却水噴射ノズルをシリンダヘッドに設け、その冷却水噴射ノズルは冷却された冷却水が流過する配管に連通しており、冷却水噴射ノズルは、曲がり管で構成され、曲がり管は、曲がり部とノズル部とで構成され、冷却水噴射ノズルの冷却水が冷却用水路の冷却水と共に過熱箇所に衝突するように構成されているシリンダヘッドの冷却構造。」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>

「シリンダヘッド」及び「過熱箇所」に関し、
本件発明においては、「1シリンダに2つの吸気ポートと2つの排気ポートとを備えた」シリンダヘッドであり、「排気ポートの周辺における」過熱箇所であるのに対し、
刊行物1に記載された発明においては、シリンダヘッド5がそのような吸気ポート及び排気ポートを備えているか否か不明であり、過熱部位Cが「排気ポートの周辺における」ものか否か不明である点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>

「曲がり管」に関し、
本件発明においては、「大径部と小径部とからなる段付チューブとして形成され」た「ソケットを含む」ものであり、また、「拡径部と曲がり部とノズル部」とで構成され、「拡径部の外周がソケットの小径部の内周に嵌合され」るものであるのに対し、
刊行物1に記載された発明においては、「大径部と小径部とからなる段付チューブとして形成され」た「ソケットを含む」ものであるか否か不明であり、また、曲がり部とノズル部とで構成されているところ、「拡径部の外周がソケットの小径部の内周に嵌合され」る「拡径部」を備えているか否か不明である点(以下、「相違点2」という。)。

<相違点3>

「冷却水噴射ノズルの冷却水が冷却用水路の冷却水と共に過熱箇所に衝突するように構成されている」点に関し、
本件発明においては、「冷却水噴射ノズルの仮想延長線はシリンダヘッドの過熱箇所よりもシリンダヘッドの冷却用水路の冷却水の流れる方向の上流側である」のに対し、
刊行物1に記載された発明においては、本件発明における「冷却水噴射ノズル」に相当する「シャワーパイプ13」の仮想延長線が、シリンダヘッド5の過熱部位Cよりもシリンダヘッドの冷却水通路7の冷却水の流れる方向の上流側であるか否か不明である点(以下、「相違点3」という。)。

まず、上記相違点1について検討する。

刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された発明、及び、本件発明は、いずれも、シリンダヘッドの冷却構造の技術分野に属するものであり、しかも、シリンダヘッドにおける過熱箇所(過熱部位またはホットスポット)に冷却水を噴射するための冷却水噴射ノズル(シャワーノズル又はパイプ)をシリンダヘッドに設け、冷却水噴射ノズルの冷却水が冷却用水路(冷却水通路又は排気ポート間冷却水通路)の冷却水と共に過熱箇所に衝突するように構成されている点で、その構成及び作用において共通しているものであるといえる。
そこで、本件発明と刊行物2に記載された発明とを対比すると、刊行物2に記載された発明における「吸気ポート41,42」、「排気ポート31,32」、「シリンダヘッド1」、「ホットスポット20」、「パイプ90」及び「排気ポート間冷却水通路51」は、その機能、構造又は技術的意義からみて、それぞれ、本件発明における「吸気ポート」、「排気ポート」、「シリンダヘッド」、「過熱箇所」、「冷却水噴射ノズル」及び「冷却用水路」に相当する。

そうすると、刊行物2に記載された発明は、本件発明における用語を用いて、以下のように表現することができる。

「1シリンダに2つの吸気ポートと2つの排気ポートとを備えたシリンダヘッドの冷却構造において、シリンダヘッドの排気ポートの周辺における過熱箇所に冷却水を噴射するための冷却水噴射ノズルをシリンダヘッドに設け、冷却水噴射ノズルの仮想延長線はシリンダヘッドの過熱箇所よりもシリンダヘッドの冷却用水路の冷却水の流れる方向の上流側であって、冷却水噴射ノズルの冷却水が冷却用水路の冷却水と共に過熱箇所に衝突するように構成されているシリンダヘッドの冷却構造。」

そして、この本件発明における用語を用いて表現した刊行物2に記載された発明から、以下の技術を導き出すことができる。

「シリンダヘッドの冷却構造において、シリンダヘッドは、1シリンダに2つの吸気ポートと2つの排気ポートとを備えており、過熱箇所は、シリンダヘッドの排気ポートの周辺における過熱箇所であり、過熱箇所に冷却水を噴射するための冷却水噴射ノズルをシリンダヘッドに設ける技術。」(以下、「刊行物2に記載された技術1」という。)

「シリンダヘッドの冷却構造において、冷却水噴射ノズルの仮想延長線はシリンダヘッドの過熱箇所よりもシリンダヘッドの冷却用水路の冷却水の流れる方向の上流側であって、冷却水噴射ノズルの冷却水が冷却用水路の冷却水と共に過熱箇所に衝突するように構成する技術。」(以下、「刊行物2に記載された技術2」という。)

してみると、刊行物1に記載された発明における「シリンダヘッド5」及び「過熱部位C」について、刊行物2に記載された技術1を適用して、上記相違点1に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば、容易に想到できたことである。

次に、相違点2について検討する。

管の形成構造において、複数の管部材を互いに連結して一つの管として構成することも、単一の管として構成することも、例示するまでもなく本件出願の原出願日前に慣用されている手段であるところ、複数の管部材を互いに連結して一つの管として構成する際に、大径部と小径部とからなるソケットとソケットの小径部の内周に嵌合される部位を備えた管部材とを用いることは、本件出願の原出願日前に周知の技術(例えば、平成24年9月7日付けの審尋において示した実願昭53-98213号(実開昭55-15324号)のマイクロフィルム[特に、明細書第4ページ第10ないし18行及び第5ページ第13ないし18行並びに第4及び5図の記載によれば、冷却水連通管12(本件発明における「ソケット」に相当する。)は大径部と小径部とを備えており、その小径部の内周に冷却水ジエツトパイプ9(本件発明における「曲がり管」に相当する。)の基端部外周が嵌合されていることが明らかである。]等参照。以下、「周知技術1」という。)である。
また、上記4.(2)ロ)のとおり、刊行物1に記載された発明における曲がり部を備えたパイプにおいて、冷却水が流通する通路の断面積は、ノズル先端部に向かうにしたがって減少しており、この通路の断面積の減少によってノズル先端部から噴射される冷却水の速度が上昇することは自明である。
さらに、シリンダヘッドの冷却構造において、冷却水噴射ノズルとして、曲がり管を用いることは、本件出願の原出願日前に周知の技術(例えば、平成24年9月7日付けの審尋において示した特開平8-14101号公報[特に、図9]、実願昭53-117885号(実開昭55-36909号)のマイクロフィルム[特に、第2図]及び実願昭50-138001号(実開昭52-50137号)のマイクロフィルム[特に、明細書第5ページ第1行ないし下から2行並びに第3及び4図]等参照。以下、「周知技術2」という。)である。
してみると、刊行物1に記載された発明において、シャワーパイプ13を構成する曲がり部を備えたパイプ(本件発明における「曲がり管」に相当する。)について、周知技術1及び2を考慮して、「大径部と小径部とからなる段付チューブとして形成され」た「ソケットを含む」ものとし、また、「拡径部の外周がソケットの小径部の内周に嵌合され」る「拡径部」を含む構成として、上記相違点2に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば、容易に想到できたことである。

最後に、相違点3について検討する。

刊行物1に記載された発明においては、本件発明における「冷却水噴射ノズル」に相当する「シャワーパイプ13」の仮想延長線が、シリンダヘッド5の過熱部位Cよりもシリンダヘッドの冷却水通路7の冷却水の流れる方向の上流側であるか否か不明であるとこと、刊行物1の上記4.(1)c)及び図面の記載によれば、刊行物1に記載された発明において、シャワーパイプ13から噴射される冷却水は、冷却水通路を流通して過熱部位Cに到達する冷却水に比較して、より低温であることは技術常識に照らして明らかである。
そして、刊行物1に記載された発明においては、シャワーパイプ13の冷却水が冷却水通路7の冷却水と共に過熱部位Cに衝突するように構成されているのであるから、過熱部位Cにおけいて効率的に冷却を行うことがごく自然であるから、シャワーパイプ13の冷却水と冷却水通路7の冷却水とが合流する位置は、冷却水通路7の冷却水の流れの方向でみて、過熱部位Cよりも上流側に設定する必要があることは当業者にとって明らかである。
してみると、刊行物1に記載された発明において、本件発明における「冷却水噴射ノズル」に相当する「シャワーパイプ13」の仮想延長線を、シリンダヘッド5の過熱部位Cよりもシリンダヘッドの冷却水通路7の冷却水の流れる方向の上流側に設定して、上記相違点3に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば、容易に想到できたことである。
仮にそうでないとしても、刊行物1に記載された発明におけるシャワーパイプ13(本件発明における「冷却水噴射ノズル」に相当する。)の仮想延長線の設定について、刊行物2に記載された技術2を適用して、上記相違点3に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば、容易に想到できたことである。

そして、本件発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術1、並びに、周知技術1及び2に基づいて、又は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術1及び2、並びに、周知技術1及び2から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

6.むすび

以上のとおり、本件発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術1、並びに、周知技術1及び2に基づいて、又は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術1及び2、並びに、周知技術1及び2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-18 
結審通知日 2013-03-21 
審決日 2013-04-18 
出願番号 特願2009-135225(P2009-135225)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩▲崎▼ 則昌  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 中川 隆司
久島 弘太郎
発明の名称 シリンダヘッドの冷却構造  
代理人 特許業務法人高橋特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ