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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60T
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60T
管理番号 1274749
審判番号 不服2012-20026  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-11 
確定日 2013-05-31 
事件の表示 特願2008-177169「ブレーキ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 1月21日出願公開、特開2010- 13068〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成20年7月7日の出願であって、平成24年7月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年10月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、手続補正がなされたものである。

2.平成24年10月11日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年10月11日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】
運転者により操作されるブレーキ操作子(12)と、
前記ブレーキ操作子(12)の操作によりブレーキ液圧を発生するマスタシリンダ(11)と、
前記ブレーキ操作子(12)の操作を検出するブレーキ操作検出手段(Sa)と、
前記マスタシリンダ(12)が発生するブレーキ液圧よりも高いブレーキ液圧を電気的に発生する電気式液圧発生手段(23)と、
前記ブレーキ操作検出手段(Sa)で検出した操作量あるいは操作力に応じて前記電気式液圧発生手段(23)の作動を制御する制御手段(U)とを備え、
前記電気式液圧発生手段(23)が、電動モータ(52)の回転軸にボールねじ機構(55)を介して連動するピストン(38A,38B)の前進によりブレーキ液圧を発生させるブレーキ装置であって、
前記制御手段(U)は、
前記ブレーキ操作検出手段(Sa)が前記ブレーキ操作子(12)の操作を検出している間にイグニッションスイッチ(Sd)がオンしたときに前記電気式液圧発生手段(23)を起動させて、該電気式液圧発生手段(23)が発生するブレーキ液圧を、前記起動から所定時間だけ、前記マスタシリンダ(12)が発生するブレーキ液圧と同等の液圧に設定することを特徴とする、ブレーキ装置。」に補正された。
上記補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「電気式液圧発生手段(23)」について、「前記電気式液圧発生手段(23)が、電動モータ(52)の回転軸にボールねじ機構(55)を介して連動するピストン(38A,38B)の前進によりブレーキ液圧を発生させる」という事項を追加して限定するするものであって、これは、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(2)引用例
(2-1)引用例1
特開2005-35393号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、車輌の制動力制御装置に係り、更に詳細には所謂電子制御式の制動力制御装置に係る。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車輌の制動力制御装置の一つとして、例えば下記の特許文献1に記載されている如く、運転者の制動操作量に応じて制動力制御手段により車輪の制動力を制御する電子制御式の制動力制御装置であって、イグニッションスイッチがオフの状態にて運転者による制動要求があったときには、運転者による制動要求の有無に関係なくイグニッションスイッチがオンの状態に切り換えられた場合と同様、制動力制御手段に電流を供給し制動力を制御し得るようにする制動力制御装置が従来より知られている。
【0003】
かかる制動力制御装置によれば、イグニッションスイッチがオフの状態にあっても運転者による制動要求があったときには制動力制御手段に電流が供給されるので、制動力制御手段により確実に運転者の制動操作量に応じて車輪の制動力を制御し、運転者の制動要求を満たすことができる。
【特許文献1】特開2002-154414号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、自動車等の車輌に於いては、イグニッションスイッチがオンに切り換えられると、エンジンのクランキングが開始されるが、エンジンのクランキングには多量の電流が必要とされる一方でオルタネータによる発電が不十分であるため、電源電圧が一時的に低下する。そのため運転者による制動要求がある状況にてイグニッションスイッチがオンに切り換えられる場合や、イグニッションスイッチがオフの状態にて運転者による制動要求があり、制動力制御手段に電流が供給され制動力を制御し得るようにされた後にイグニッションスイッチがオンに切り換えられる場合には、制動力制御手段による各車輪の制動力の制御が適正に行われなくなることがある。
【0005】
特に制動力制御装置がマスタシリンダと各車輪のホイールシリンダとの連通を制御する常開の電磁開閉弁(マスタカット弁)を有し、常開の電磁開閉弁を閉弁させた状態で高圧の圧力源の圧力を使用して各車輪のホイールシリンダ圧力を制御することにより運転者の制動操作量に基づき各車輪の制動力を制御する構成の場合には、電源電圧の低下により常開の電磁開閉弁が開弁し、高圧の作動液体がマスタシリンダへ逆流し、マスタシリンダ圧力が瞬間的に上昇することに起因して運転者がペダルショックを感じることがある。
【0006】
本発明は、電磁開閉弁によりマスタシリンダとホイールシリンダとの連通が遮断された状態でホイールシリンダ圧力を制御することにより各車輪の制動力を制御するよう構成された従来の制動力制御装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、運転者の制動要求がある状況に於いてエンジンのクランキングが行われることにより電源電圧が一時的に低下する虞れがあるときには、高圧の作動液体がマスタシリンダへ逆流することを防止し、これにより運転者がペダルショックを感じることを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の主要な課題は、本発明によれば、請求項1の構成、即ちマスタシリンダと各車輪のホイールシリンダとの連通を制御する電磁開閉弁と、運転者の制動操作量に基づき各車輪の目標ホイールシリンダ圧力を演算すると共に、高圧の圧力源の圧力を使用して前記電磁開閉弁を閉弁させた状態で各車輪のホイールシリンダ圧力が対応する目標ホイールシリンダ圧力になるよう制御する制御手段と、イグニッションスイッチがオンの状態にあるとき若しくは運転者の制動操作が検出されているときには前記制御手段へ電力を供給する手段とを有する車輌の制動力制御装置に於いて、前記制御手段は、運転者の制動操作量がその基準値以上であり且つエンジン回転数がその基準値未満の状況に於いては、各車輪のホイールシリンダ圧力を前記目標ホイールシリンダ圧力よりも低い圧力に制御することを特徴とする車輌の制動力制御装置によって達成される。
【0008】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記目標ホイールシリンダ圧力よりも低い圧力は実質的にマスタシリンダ圧力と同一の圧力であるよう構成される(請求項2の構成)。
【0009】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1又は2の構成に於いて、前記電磁開閉弁は常開の電磁開閉弁であるよう構成される(請求項3の構成)。」
(い)「【発明の効果】
【0010】
上記請求項1の構成によれば、運転者の制動操作量がその基準値以上であり且つエンジン回転数がその基準値未満の状況に於いては、各車輪のホイールシリンダ圧力が目標ホイールシリンダ圧力よりも低い圧力に制御されるので、各車輪のホイールシリンダ圧力が目標ホイールシリンダ圧力よりも低い圧力に制御されない場合に比して各車輪のホイールシリンダ圧力とマスタシリンダ圧力との間の差圧を低減することができ、これによりエンジン回転数がその基準値未満でありエンジンのクランキングにより電源電圧が一時的に低下し電磁開閉弁が一時的に開弁しても、各車輪のホイールシリンダの側より高圧の作動液体がマスタシリンダへ逆流する虞れを低減することができ、従って運転者がペダルショックを感じる虞れを効果的に低減することができる。
【0011】
また上記請求項2の構成によれば、目標ホイールシリンダ圧力よりも低い圧力は実質的にマスタシリンダ圧力と同一の圧力であるので、高圧の作動液体がマスタシリンダへ逆流することを確実に防止することができ、これにより運転者がペダルショックを感じることを確実に防止することができる。
【0012】
また上記請求項3の構成によれば、電磁開閉弁は常開の電磁開閉弁であるので、エンジンのクランキングにより電源電圧が一時的に低下すると電磁開閉弁が一時的に開弁するが、電磁開閉弁の一時的な開弁を許容することができる。
【0013】
[課題解決手段の好ましい態様]
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1の構成に於いて、制御手段は運転者の制動操作量に基づき各車輪の目標ホイールシリンダ圧力をマスタシリンダ圧力よりも高い値に演算するよう構成される(好ましい態様1)。
【0014】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1の構成に於いて、制御手段は各車輪の目標ホイールシリンダ圧力を運転者の制動操作量に基づく目標ホイールシリンダ圧力よりも低い圧力に設定することにより、各車輪のホイールシリンダ圧力を前記目標ホイールシリンダ圧力よりも低い圧力に制御するよう構成される(好ましい態様2)。
【0015】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至3の構成に於いて、エンジン回転数の基準値はエンジンのアイドル回転数であるよう構成される(好ましい態様3)。
【0016】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至3の構成に於いて、エンジン回転数の基準値はオルタネータによる安定的な発電が可能な回転数であるよう構成される(好ましい態様4)。
【0017】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至3の構成に於いて、制御手段はマスタシリンダ圧力及び運転者による制動操作子の操作変位量に基づき各車輪の目標ホイールシリンダ圧力を演算するよう構成される(好ましい態様5)。
【0018】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至3の構成に於いて、制御手段は電磁開閉弁を介してマスタシリンダに接続されたストロークシュミレータを有し、イグニッションスイッチがオフの状態にて運転者の制動操作が検出された後にイグニッションスイッチがオンの状態へ切替えられた場合には、マスタシリンダ圧力に基づき各車輪の目標ホイールシリンダ圧力を演算し、電磁開閉弁を閉弁状態に維持し且つ常開の電磁開閉弁を閉弁させた状態で各車輪のホイールシリンダ圧力を目標ホイールシリンダ圧力に制御するよう構成される(好ましい態様6)。」
(う)「【0024】
マスタシリンダ14にはリザーバ30が接続されており、リザーバ30には油圧供給導管32の一端が接続されている。油圧供給導管32の途中には電動機34により駆動されるオイルポンプ36が設けられており、オイルポンプ36の吐出側の油圧供給導管32には高圧の油圧を蓄圧するアキュムレータ38が接続されている。リザーバ30とオイルポンプ36との間の油圧供給導管32には油圧排出導管40の一端が接続されている。リザーバ30、オイルポンプ36、アキュムレータ38等は後述の如くホイールシリンダ22FL、22FR、22RL、22RR内の圧力を増圧するための高圧の圧力源として機能する。
…(略)…
【0028】
リニア弁50FL、50FR、50RL、50RRはそれぞれホイールシリンダ22FL、22FR、22RL、22RRに対する増圧弁(保持弁)として機能し、リニア弁60FL、60FR、60RL、60RRはそれぞれホイールシリンダ22FL、22FR、22RL、22RRに対する減圧弁として機能し、従ってこれらのリニア弁は互いに共働してアキュムレータ38内より各ホイールシリンダに対する高圧のオイルの給排を制御する増減圧制御弁を構成している。」
(え)「【0041】
ステップ20に於いては運転者による制動要求があるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ40へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ30へ進む。尚運転者による制動要求があるか否かの判別は、例えば圧力センサ66、68により検出されたマスタシリンダ圧力Pm1及びPm2の平均値Pmaが開始基準値Pms(正の定数)以上であるか又はストロークセンサ70により検出された踏み込みストロークStが開始基準値Sts(正の定数)以上であるか否かの判別により行われてよい。」
(お)「【0051】
かくして図示の実施例によれば、電源電圧Eが正常であり、エンジンが基準値Neo以上の回転数にて運転されている状況に於いて、運転者により制動操作が行われると、ステップ10、20、50に於いて肯定判別が行われ、ステップ60に於いて否定判別が行われ、これによりステップ70?100及び130に於いて各車輪のホイールシリンダ圧力Piがマスタシリンダ圧力Pm1、Pm2よりも高い目標制動圧Ptiになるよう、電磁開閉弁24L及び24Rが閉弁された状態でブレーキバイワイヤ式に制御される。
【0052】
これに対し電源電圧Eは正常であるが、エンジンが基準値Neo未満の回転数にて運転されている状況にて運転者により制動操作が行われたり、運転者により制動操作が行われている状況にてエンジンが始動される場合の如く、エンジン回転数Neが基準値Neo未満であり且つ運転者の制動要求があるときには、ステップ10、20、50に於いて肯定判別が行われると共に、ステップ60に於いても肯定判別が行われ、これによりステップ110、120及び130に於いて各車輪のホイールシリンダ圧力Piがマスタシリンダ圧力Pm1、Pm2の平均値Pmaに等しい目標制動圧Ptiになるよう、電磁開閉弁24L及び24Rが閉弁された状態でブレーキバイワイヤ式に制御される。
【0053】
従ってエンジンのクランキングに起因して電源電圧Eが一時的に低下し、電磁開閉弁24L及び24Rが一時的に開弁しても、各車輪のホイールシリンダの側よりマスタシリンダ14へ高圧のオイルが逆流することを確実に防止することができ、これによりマスタシリンダ14への高圧のオイルの逆流によるブレーキペダル12のキックバック及びこれに起因して運転者がショックを感じることを確実に防止することができる。
【0054】
尚エンジン回転数Neが基準値Neo未満であり且つ運転者の制動要求がある状況はそれほど長い時間に亘り継続せず、また運転者はブレーキペダル12を踏み増しすることにより車輪の制動力を増大することができるので、各車輪の目標ホイールシリンダ圧力Ptiがマスタシリンダ圧力Pm1、Pm2の平均値Pmaに設定されることによる過剰の不都合は生じない。
【0055】
またイグニッションスイッチ84がオフの状態にて運転者によりブレーキペダル12が踏み込まれることにより、電子制御装置78がブレーキペダル踏み込み起動時制御モードにて動作している場合には、エンジンが始動されない限り上述の高圧のオイルの逆流の虞れはないので、ステップ50に於いて否定判別が行われ、これにより通常制御モードの場合と同様にステップ110、120及び130に於いて各車輪のホイールシリンダ圧力Piがマスタシリンダ圧力Pm1、Pm2の平均値Pmaに等しい目標制動圧Ptiになるよう、電磁開閉弁24L及び24Rが閉弁された状態でブレーキバイワイヤ式に制御される。
【0056】
特に図示の実施例によれば、エンジン回転数Neが基準値Neo未満であり且つ運転者の制動要求がある場合には、ステップ110に於いてマスタシリンダ圧力Pmに基づき図7に示されたグラフに対応するマップより係数Kf及びKrが演算されるが、係数Kf及びKrはPm1、Pm2の平均値Pmaが高い領域に於いては平均値Pmaが高いほど1よりも漸次大きくなるよう演算されるので、運転者の制動要求の度合が非常に高い場合には、その要求に応じて車輪の制動力を確実に高い値に制御することができる。
【0057】
以上に於いては本発明を特定の実施例について詳細に説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0058】
例えば上述の実施例に於いては、エンジン回転数Neが基準値Neo未満であり且つ運転者の制動要求があるときには、原則として係数Kf及びKrが1に設定され各車輪の目標ホイールシリンダ圧力Ptiがマスタシリンダ圧力Pm1、Pm2の平均値Pmaに設定されることにより、各車輪のホイールシリンダ圧力Piが本来の目標ホイールシリンダ圧力よりも低い圧力に制御されるようになっているが、各車輪のホイールシリンダ圧力Piが本来の目標ホイールシリンダ圧力よりも低い圧力に低減され、各車輪のホイールシリンダの側よりマスタシリンダ14への高圧のオイルの逆流が抑制され、これによりブレーキペダル12のキックバックが低減される限り、係数Kf及びKrは1よりも大きい値であってもよい。
【0059】
また上述の実施例に於いては、係数Kf及びKrはPm1、Pm2の平均値Pmaが低い領域に於いては平均値Pmaに拘らず一定の値(1)であり、平均値Pmaが高い領域に於いては平均値Pmaが高いほど1よりも漸次大きい値に演算されるようになっているが、係数Kf及びKrはPm1、Pm2の平均値Pmaが低い領域より平均値Pmaが高いほど1よりも漸次大きい値に演算されてもよく、また平均値Pmaが高い領域に於いても一定の値に演算されるよう修正されてよい。
【0060】
また上述の実施例に於いては、各車輪の目標制動圧Ptiは運転者の制動操作量を示す値としてのマスタシリンダ圧力Pm1、Pm2の平均値Pma及びブレーキペダルの踏み込み量Stに基づいて運転者の要求減速度Gtが演算され、各車輪の目標制動圧Ptiは運転者の要求減速度Gtに基づいて演算されるようになっているが、制動力の制御自体は本発明の要旨をなすものではなく、当技術分野に於いて公知の任意の要領にて実行されてよい。
【0061】
また上述の実施例に於いては、各車輪のホイールシリンダ圧力Piを制御する増減圧制御弁は増圧制御弁としてのリニア弁50FL?50RR及び減圧制御弁としてのリニア弁60FL?60RRよりなっているが、これらの弁は増減圧及び保持の機能を備えた制御弁に置き換えられてもよい。
【0062】
更にマスタシリンダ圧力は二つの圧力センサ66及び68により検出されるようになっているが、マスタシリンダ圧力は一つの圧力センサにより検出されるよう修正されてもよい。」
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「運転者により操作されるブレーキペダル12と、
ブレーキペダル12の操作によりブレーキ液圧を発生するマスタシリンダ14と、
ブレーキペダル12の踏み込みストロークを検出するストロークセンサ70と、
リザーバ30、オイルポンプ36、及びアキュムレータ38を有する高圧の圧力源と、
アキュムレータ38内より各ホイールシリンダに対する高圧のオイルの給排を制御する増減圧制御弁と、
ストロークセンサ70で検出したストロークに応じて高圧の圧力源及び増減圧制御弁の作動を制御する電子制御装置78とを備える制動力制御装置であって、
電子制御装置78は、
ストロークセンサ70がブレーキペダル12のストロークが所定値以上であると判別した後、イグニッションスイッチ84がオンに切り換えられると、高圧の圧力源及び増減圧制御弁を作動させ、エンジン回転数が所定値未満の状況では、各車輪のホイールシリンダ圧を2つのマスタシリンダ室の圧力の平均値に等しい目標制動圧となるように制御する制動力制御装置。」
(2-2)引用例2
特開2008-143256号公報(以下、「引用例2」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(か)「【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者による制動操作を検出する制動操作検出手段と、前記制動操作に応じてアクチュエータを電気的に制御してブレーキ液圧を発生させるスレーブシリンダと、前記ブレーキ液圧で作動して車輪を制動する制動力を発生するホイールシリンダと、前記スレーブシリンダおよび前記ホイールシリンダ間に配置されて車輪のロックを抑制するABS装置とを備えたブレーキ装置に関する。」
(き)「【0014】
スレーブシリンダ23のアクチュエータ31は、電動モータ32の出力軸に設けた駆動ベベルギヤ33と、駆動ベベルギヤ33に噛合する従動ベベルギヤ34と、従動ベベルギヤ34により作動するボールねじ機構35とを備える。スレーブシリンダ23のシリンダ本体36の内部に一対のリターンスプリング37A,37Bで後退方向に付勢された一対のピストン38A,38Bが摺動自在に配置されており、ピストン38A,38Bの前面に一対の第2液圧室39A,39Bが区画される。一方の第2液圧室39Aはポート40A,41Aを介して液路Pb,Pcに連通し、他方の第2液圧室39Bはポート40B,41Bを介して液路Qb,Qcに連通する。
【0015】
しかして、電動モータ32を一方向に駆動すると、駆動ベベルギヤ33、従動ベベルギヤ34およびボールねじ機構35を介して一対のピストン38A,38Bが前進し、液路Pb,Qbに連なるポート40A,40Bが閉塞された瞬間に第2液圧室39A,39Bにブレーキ液圧を発生させ、そのブレーキ液圧をポート41A,41Bを介して液路Pc,Qcに出力することができる。」
(3)対比
本願補正発明と引用例1発明とを比較すると、
後者の「ブレーキペダル」は前者の「ブレーキ操作子(12)」に相当し、以下同様に、「ブレーキペダル12の踏み込みストロークを検出する」は「ブレーキ操作子(12)の操作を検出する」に、「ストロークセンサ」は「ブレーキ操作検出手段」に、「制動力制御装置」は「ブレーキ装置」に、それぞれ相当する。
引用例1の「【0051】かくして図示の実施例によれば、電源電圧Eが正常であり、エンジンが基準値Neo以上の回転数にて運転されている状況に於いて、…これによりステップ70?100及び130に於いて各車輪のホイールシリンダ圧力Piがマスタシリンダ圧力Pm1、Pm2よりも高い目標制動圧Ptiになるよう、電磁開閉弁24L及び24Rが閉弁された状態でブレーキバイワイヤ式に制御される。」の記載からすると、後者の「リザーバ30、オイルポンプ36、及びアキュムレータ38を有する高圧の圧力源」及び「アキュムレータ38内より各ホイールシリンダに対する高圧のオイルの給排を制御する増減圧制御弁」は、前者の「マスタシリンダが発生するブレーキ液圧よりも高いブレーキ液圧を電気的に発生する電気式液圧発生手段」に相当するといえる。
後者の「ストロークセンサ70で検出したストロークに応じて高圧の圧力源及び増減圧制御弁の作動を制御する電子制御装置78」は前者の「ブレーキ操作検出手段で検出した操作量あるいは操作力に応じて電気式液圧発生手段の作動を制御する制御手段」に相当する。
後者の「ストロークセンサ70がブレーキペダル12のストロークが所定値以上であると判別した後、イグニッションスイッチ84がオンに切り換えられると、高圧の圧力源及び増減圧制御弁を作動させ、」は前者の「前記ブレーキ操作検出手段が前記ブレーキ操作子の操作を検出している間にイグニッションスイッチがオンしたときに前記電気式液圧発生手段を起動させて、」に相当する。
引用例1の【0028】及び図1をみると、後者の「各車輪のホイールシリンダ圧」は「増減圧制御弁」を構成するリニア弁50FL、50FR、50RL、50RRの出口圧に略等しいから、後者の「各車輪のホイールシリンダ圧を2つのマスタシリンダ室の圧力の平均値に等しい目標制動圧となるように制御する」は、前者の「該電気式液圧発生手段(23)が発生するブレーキ液圧」を「前記マスタシリンダ(12)が発生するブレーキ液圧と同等の液圧に設定する」に相当する。
したがって、本願補正発明の用語に倣って整理すると、両者は、
「運転者により操作されるブレーキ操作子と、
前記ブレーキ操作子の操作によりブレーキ液圧を発生するマスタシリンダと、
前記ブレーキ操作子の操作を検出するブレーキ操作検出手段と、
前記マスタシリンダが発生するブレーキ液圧よりも高いブレーキ液圧を電気的に発生する電気式液圧発生手段と、
前記ブレーキ操作検出手段で検出した操作量あるいは操作力に応じて前記電気式液圧発生手段の作動を制御する制御手段とを備えるブレーキ装置であって、
前記制御手段は、
前記ブレーキ操作検出手段が前記ブレーキ操作子の操作を検出している間にイグニッションスイッチがオンしたときに前記電気式液圧発生手段を起動させて、該電気式液圧発生手段が発生するブレーキ液圧を、前記マスタシリンダが発生するブレーキ液圧と同等の液圧に設定する、ブレーキ装置。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本願補正発明は「電気式液圧発生手段(23)が、電動モータ(52)の回転軸にボールねじ機構(55)を介して連動するピストン(38A,38B)の前進によりブレーキ液圧を発生させる」ものであるのに対し、引用例1発明は「リザーバ30、オイルポンプ36、及びアキュムレータ38を有する高圧の圧力源」及び「アキュムレータ38内より各ホイールシリンダに対する高圧のオイルの給排を制御する増減圧制御弁」を備える点。
[相違点2]
本願補正発明は、「該電気式液圧発生手段(23)が発生するブレーキ液圧を、前記起動から所定時間だけ、前記マスタシリンダ(12)が発生するブレーキ液圧と同等の液圧に設定する」のに対し、引用例1発明は、「エンジン回転数が所定値未満の状況では、各車輪のホイールシリンダ圧を2つのマスタシリンダ室の圧力の平均値に等しい目標制動圧となるように制御する」点。
(4)判断
(4-1)相違点1について
引用例1発明は、「リザーバ30、オイルポンプ36、及びアキュムレータ38を有する高圧の圧力源」及び「アキュムレータ38内より各ホイールシリンダに対する高圧のオイルの給排を制御する増減圧制御弁」を備え、これにより、ブレーキペダル12に踏み込み操作に応じて車輪のホイールシリンダ圧力を発生させている。このような圧力を発生させる手段は、上記の構成に限定されるものではなく、所要の性能・特性、形状・構造の簡素性等に応じて適宜選択・設計する事項である。
引用例2には、電動モータの回転軸にボールねじ機構を介して連動するピストンの前進によりブレーキ液圧を発生させる手段が示されており、引用例1発明に引用例2の上記事項を適用することは格別困難なことではない。
なお、引用例2に示されているようなボールねじ機構を用いた液圧発生手段は、例えば、特開平3-220052号公報(特にボールネジ17a)、特開平3-276854号公報(特にボールねじ130)、特開平5-278586号公報(特に図1)に示されているように周知である。
(4-2)相違点2について
引用例1発明は、エンジン回転数をみて、「エンジン回転数が所定値未満の状況」にあるときは、「電気式液圧発生手段(23)が発生するブレーキ液圧」を所定の圧力に制御しているが、このように、車両のエンジン始動時に該始動時の課題に関連して車両各部の制御を行う場合、その制御を行なう期間を判断するにあたって、始動からの時間をみるか、エンジン回転数の上昇をみるか等、何に基づいて判断するかは、それぞれの手段の長短を考慮しつつ、所要性能や用途等に応じて、通常、代替的に採用する適宜の設計的事項にすぎない。
例えば、特開2006-97593号公報には、「【0012】そこで、本発明では、始動直後の所定の期間内はこの超リタード燃焼を禁止する。この所定の期間とは、筒内温度(燃焼室壁温度)が所定の温度に達するまでの期間、あるいは排気系の温度が所定の温度に達するまでの期間、に相当するものであり、これらの温度の検出もしくは推定、あるいは単に所定時間の経過、などに基づいて定められる。」と、特開平8-337113号公報には、「【0035】ステップS4では空調開始条件、例えばエンジン2の回転数が所定回転数以上に上がっている、冷却水温度が所定温度以上になっている、所定時間が経過した等、エンジン2の回転が安定していることを図示しない適宜のセンサによって確認し、これが確認されると、ステップS5に移行して空調装置3を起動する。」と、特開2001-164958号公報には、「【0056】例えば、上記実施例においては、図4に示すS190の処理において、タービンライナー26の回転開始時点を、タービン回転数センサ41の出力信号により把握する態様としたが、この他にも、エンジン回転数センサ13によりエンジン回転数が所定回転数(例えばアイドル回転数付近)まで上昇したことが検出されたこと、吸気圧センサ7により吸入管圧力が所定値まで低下したことが検出されたこと、或いは、タイマによりスタータモータ12が駆動を開始した後所定時間が経過したことが検出されたこと等を基準に判断してもよい。ただし、これら各パラメータとタービンライナーの回転開始時点との関係は予め実験により求めておくものとする。」と、特開2004-84679号公報には、「【0012】このように構成することにより、エンジンの自動停止中にブレーキペダルが解放されてエンジンが自動始動された場合に、エンジン始動直後から所定の期間(エンジン回転数が所定回転数を越えるまで、あるいは、エンジンの自動始動から所定時間が経過するまで)は変速機による伝達トルクを前記第1の油圧値で伝達可能なトルクよりも減少させることができ、…」と、それぞれ記載されている。引用例1発明に上記の周知事項を適用して、相違点2に係る本願補正発明の上記事項に想到することは当業者が容易になし得たものと認められる。
そして、本願補正発明の効果は、引用例1、2に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が予測し得た程度のものである。
したがって、本願補正発明は、引用例1、2に記載された発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(5)むすび
本願補正発明について以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成24年10月11日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成24年6月1日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
運転者により操作されるブレーキ操作子(12)と、
前記ブレーキ操作子(12)の操作によりブレーキ液圧を発生するマスタシリンダ(11)と、
前記ブレーキ操作子(12)の操作を検出するブレーキ操作検出手段(Sa)と、
前記マスタシリンダ(12)が発生するブレーキ液圧よりも高いブレーキ液圧を電気的に発生する電気式液圧発生手段(23)と、
前記ブレーキ操作検出手段(Sa)で検出した操作量あるいは操作力に応じて前記電気式液圧発生手段(23)の作動を制御する制御手段(U)と、
を備えたブレーキ装置において、
前記制御手段(U)は、
前記ブレーキ操作検出手段(Sa)が前記ブレーキ操作子(12)の操作を検出している間にイグニッションスイッチ(Sd)がオンしたときに前記電気式液圧発生手段(23)を起動させて、該電気式液圧発生手段(23)が発生するブレーキ液圧を、前記起動から所定時間だけ、前記マスタシリンダ(12)が発生するブレーキ液圧と同等の液圧に設定することを特徴とする、ブレーキ装置。」

3-1.本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)について
(1)本願発明
本願発明は上記のとおりである。
(2)引用例
引用例1、2、及び、その記載事項は上記2.に記載したとおりである。
(3)対比・判断
本願発明は実質的に、上記2.で検討した本願補正発明から、その「前記電気式液圧発生手段(23)が、電動モータ(52)の回転軸にボールねじ機構(55)を介して連動するピストン(38A,38B)の前進によりブレーキ液圧を発生させる」という事項を削除して拡張したものに相当する。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記2.に記載したとおり、引用例1、2に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明は、実質的に同様の理由により、引用例1、2に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)むすび
したがって、本願発明は引用例1、2に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.結語
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-01 
結審通知日 2013-04-03 
審決日 2013-04-18 
出願番号 特願2008-177169(P2008-177169)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60T)
P 1 8・ 575- Z (B60T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 立花 啓  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 森川 元嗣
窪田 治彦
発明の名称 ブレーキ装置  
代理人 ▲ぬで▼島 愼二  
代理人 落合 健  
代理人 仁木 一明  

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