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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23F
管理番号 1274759
審判番号 不服2011-4505  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-02-28 
確定日 2013-05-27 
事件の表示 特願2001-233842「沈殿を防止するコーヒー飲料の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 2月18日出願公開、特開2003- 47406〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年8月1日の出願であって、平成22年11月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年2月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成21年5月14日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1は、以下のとおりである。(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

「【請求項1】ガラクトマンナン分解酵素によるコーヒー液の処理工程を含むコーヒー飲料の製造方法において、前記処理工程は前記コーヒー液の一部に事前に前記酵素を溶解してなる酵素液を用い、反応温度30?40℃で、反応時間25?35分で行われることを特徴とする製造方法。」

第3 刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願日前に頒布された刊行物1(原査定の引用文献1)及び刊行物2(原査定の引用文献3)には、以下の事項がそれぞれ記載されている。なお、下線は当審が付した。以下、同じ。

(1)刊行物1:特開平7-184546号公報の記載事項

(1a)「【請求項1】コーヒー抽出液を、マンナン分解酵素による処理と、アルカリ性ナトリウム塩またはアルカリ性カリウム塩添加による処理に付すことを特徴とする、コーヒー飲料の製造方法。
【請求項2】添加する塩が炭酸水素ナトリウムである、請求項1記載の製造方法。」

(1b)「【0001】〔発明の背景〕
【産業上の利用分野】本発明は、保存後でも濁りや沈澱のでない安定な性質を有するコーヒー飲料の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】本来、コーヒー抽出液は保存中に濁りや沈澱を発生しやすい性質を有している。さらに近年は、本格風味を出すための原料コーヒー豆の使用量の増大化、販売地域拡大による市場滞留期間の長期化および自動販売機による加温などにより沈澱が生じて商品価値を著しく低下させるという問題が生じてきている。この問題を解決するために種々の方法が提案されている。酵素の利用という観点では、ドイツ特許出願公開2063489 号公報には糖質分解酵素の有用性が、特公昭47-19736号公報および特開平4-45745 号公報には繊維質分解酵素の有用性が開示されている。また、アルカリ性塩の利用という観点では特開昭61-74543号公報および特開平2-222647号公報に、炭酸水素ナトリウムの有用性が開示されている。しかし、これらの方法は単独ではほかの方法と同様に十分な効果を示さず、特に、ミルク入りのコーヒー飲料の場合は沈澱抑制効果は非常に悪かった。」

(1c)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、長期間保存した後でも沈澱発生が防止されているコーヒー飲料の製造方法を提供することを目的とするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、コーヒー抽出液をマンナン分解酵素で処理することと、アルカリ性ナトリウム塩またはアルカリ性カリウム塩を添加することにより、沈澱を防止できることを見出だすことにより完成されるに至った。すなわち、本発明による安定なコーヒー飲料の製造方法は、コーヒー抽出液を、マンナン分解酵素による処理と、アルカリ性ナトリウム塩またはアルカリ性カリウム塩添加による処理に付すこと、を特徴とするものである。
【0005】〔発明の具体的説明〕本発明によるコーヒー飲料の製造法は、基本的にコーヒー抽出液のマンナン分解酵素処理およびアルカリ性ナトリウム塩またはアルカリ性カリウム塩の添加からなるものであることは前記したところである。
【0006】コーヒー抽出液は、焙煎豆から抽出した液、それを濃縮したエキス、あるいは一旦インスタントコーヒーに加工したものを水(通常は熱水)で溶かした液のいずれでも使用可能である。
【0007】コーヒー抽出液のマンナン分解酵素による処理において、マンナン分解酵素はその起源に制限はなく、マンナン分解活性を有するものであれば精製品でも粗精製品でも使用可能である。マンナン分解酵素としては、α型またはβ型マンノシダーゼがあげられるが、β型マンノシダーゼがより好ましい。この反応温度、時間、pH、添加量は使用する酵素の由来あるいは活性等によって適した条件を選択すればよい。たとえば、ガマナーゼ1.5L(ノボノルディスクバイオインダストリー株式会社製、Aspergillus niger 由来、150万VHCU/g)の場合であれば、通常、原料の焙煎豆に対して0.1%以上添加して、40?50℃、pH4.5?5.5で30分間以上反応させればよいが、好ましくは、約0.2%添加して、45℃、pH5.0前後の条件で2時間以上反応させることが望ましい。なお、本明細書中でいう%はすべて重量%である。添加した酵素は、反応後において特に除去する必要はない。また、この酵素反応は、酵素の添加の他に、固定化酵素などによる接触反応によりコーヒー抽出液中に直接酵素が含まれないようにすることも可能である。
【0008】アルカリ性ナトリウム塩およびアルカリ性カリウム塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられるが、香味の点からアルカリ性ナトリウム塩が好ましく、特に炭酸水素ナトリウムが最も好ましい。これらの塩は、最終製品(水で希釈して焙煎豆含量を一定濃度に調整したもの)に対して通常0.03?0.30%、好ましくは0.05?0.2%添加する。添加時期は、酵素反応より前あるいはこれと同時であっても良いが、酵素処理後の方が好ましい。
【0009】本発明においては、他の通常コーヒー飲料に添加する原料、例えば乳類(たとえば全粉乳、脱脂粉乳、牛乳など)、糖類(たとえば砂糖など)、乳化剤(たとえばシュガーエステルなど)等を適宜添加することができる。
【0010】従来提案されていたコーヒー飲料の製造方法では、特に乳類を添加した際に沈澱防止効果が弱くなってしまうのに対し、本発明方法はその場合でも防止効果が十分強いものである。」

(1d)「【0011】
【実施例】以下に実施例をあげて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例1:ストレートコーヒーに対する効果
コーヒー焙煎豆(サントス#2)を中挽きにしたもの300gを95℃の湯で抽出して、3000mlのコーヒー抽出液を得た。これを45℃に冷却した後、ガマナーゼ1.5L(ノボノルディスクバイオインダストリー社製)を1.2g(原料焙煎豆の0.4%に相当)添加した。2時間後、炭酸水素ナトリウムを最終製品(水で希釈して焙煎豆含量を5.5%に調製したもの)に対し、0.06%、0.12%、0.18%添加して190g容量の缶に充填し、121℃で10分間殺菌した。・・・略・・・」

(2)刊行物2:特開2001-145485号公報の記載事項

(2a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、新規なβ-マンナナーゼ、その製造法および用途、ならびに関連の微生物に関するものであり、さらに詳細には、本発明は、従来のものより低温でも活性を示す新規なβ-マンナナーゼおよびその製造方法、β-マンナナーゼ酵素剤(代表的には、コーヒー飲料での沈殿生成防止剤)、β-マンナナーゼのコーヒー飲料における沈殿生成防止のための使用および沈殿生成防止方法、ならびに上記酵素の産生能を有するβ-マンナナーゼ産生菌に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、コーヒー飲料は缶入り製品としての流通量が増加している。コーヒー抽出液は保存中に濁りや沈殿を発生しやすく、これらを抑える製法の開発が望まれている。さらに近年では、本格風味を提供するための原料コーヒー豆の使用量増加、販売地域拡大による市場滞留期間の長期化および自動販売機や温缶機による加温などにより、沈殿が生じ、商品価値を著しく低下させるという問題が生じている。コーヒー抽出液の沈殿はコーヒー豆由来のガラクトマンナンに起因し、マンナン分解酵素を利用して沈殿発生を抑える飲料の製造方法が特開平7-184546号公報に、また繊維素分解酵素を用いた沈殿防止方法が特公昭47-19736号公報に、酵素を用いた混濁防止法が特開平4-45745号公報に開示されている。
【0003】また、マンナン分解酵素は、バチルス属由来の酵素が特公昭63-18474、特公平3-65754号公報に、ペニシリウム・パープロゲナム由来の酵素が特開昭63-209586号公報に、クロストリジウム・テルチウム、ラクトバチルス属由来の酵素が特開平5-176767号公報に、リゾプス・ニーベウスが特公昭49-12710号公報にそれぞれ開示されている。さらに報告があるものとしてトリコデルマ・レーゼイ(Appl. Microbiol. (1993 39:58-62)、ストレプトマイセス属(Agric. Biol. Chem., 48(9), 2189-2195, 1985)、エンテロコッカス・カゼリフラバス(J. Ferment. Bioeng., vol.76(1), 14-18, 1993)、ビブリオ属(Appl. and Environ. Microbiol. Nov., 1990, 3505-36510)、エアロモナス属(J. Fac. Arg., Kyushu Univ., 27(3. 4), 89-98(1983)由来のマンナナーゼ等がある。」

(2b)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上述の方法では例えば、市販されているマンナン分解酵素であるアスペルギルス・ニガー由来の酵素セルロシンGM5(阪急共栄物産株式会社)、ガマナーゼ(ノボノルディスクバイオインダストリー株式会社)、また論文にて報告されている酵素であるトリコイデルマ・レーゼイ由来酵素、ペニシリウム・パープロゲナム由来のβ-マンナナーゼ等は、その至適温度は概ね70?80℃であり、常温における酵素反応性が低い。さらに蛋白重量あたりの比活性が低いため、コーヒー抽出液の沈殿解消を工業的に行うには、処理温度を高くする(40?50℃)ことが必要であった。その結果、工程が複雑化し、またコーヒー本来の香味、品質の劣化の問題を生じていた。20?30℃程度の常温で十分に作用させるためには酵素添加量を上げることも考えられるが、その場合上述の酵素は比活性が低いために多量の酵素を添加せざるをえず、酵素蛋白質由来の異味を生じる問題があり、常温における酵素反応性のより高い酵素、あるいは少量の添加量で効果のある、より高い比活性の酵素の開発が望まれる。
【0005】その他に現在報告されている微生物由来のβ-マンナナーゼとしてはバチルス属由来、クロストリジウム・テルチウム、ラクトバチルス属由来、ストレプトマイセス属由来、エンテロコッカス・カゼリフラバス由来、リゾプス・ニーベウス由来、ビブリオ属由来、エアロモナス属由来があるが、バチルス属、ストレプトマイセス属由来酵素は至適pHが中性?アルカリ性であるため、コーヒーの処理の目的には適さず、クロストリジウム・テルチウム、ラクトバチルス属、エンテロコッカス・カゼリフラバスは微嫌気性細菌のため、培養装置の気相部を窒素で置換する必要があり、培養方法が煩雑化するため工業的に使用するのには困難である。リゾプス・ニーベウス由来酵素については特公昭49-12710号公報によると、酵素の採取方法として、SE-セファデックスなどのイオン交換体を低イオン強度に緩衝化し分離する第一工程と、高イオン強度に緩衝化し分離する第二工程が必要であり、実用上は難点を残していた。またビブリオ属には食品汚染菌が数多く見られ、食品工業において使用するには安全性に難点がある。エアロモナス属酵素は温度安定性が低く、工業的に流通して使用するには保存安定性に問題がある。
【0006】本発明は、より常温に近い状態でもマンナン分解活性が高く、かつ高い比活性を有する酵素、その製造法および用途(例えば、コーヒー製造において少量の添加量で有効な沈殿防止方法)を提供することを目的とするものである。」

(2c)「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者はかかる実情において、コーヒー沈殿防止に更に適した活性を有するβ-マンナナーゼを産生する微生物を微生物保存機関より取寄せた菌株にて探索した結果、単輪生のペニシリウム属に属する微生物から高いマンナン分解活性を持つ菌株を多数見出した。単輪生とはペニシリウム属の同定を行う際に重要なぺニシリの形態的特徴の一種であり、分生子柄より直接フィアライドを輪生し、メトレ、ラミなどの分岐を持たないぺニシリの状態を表している。一方、分生子柄に分岐を持つ複輪生、多輪生もある。
【0008】本発明者は、さらに自然界からも検索した結果、群馬県の土壌から高分解活性株を複数株見出し、分離同定あるいは分離観察したところ、分離された微生物のうち、コーヒー沈殿防止に適した活性を有するものの全てが単輪生のペニシリウム(Penicillium)属に属する微生物であることがわかった。この微生物は(1)マンナンに対し高い分解活性を有するβーマンナナーゼを多量に産生すること、(2)これをコーヒー抽出液に作用させた場合、驚くべきことに常温でも沈殿防止効果がすぐれていること、(3)この酵素を精製したところ、非常に高い比活性を持つため、酵素添加量が少なくてよいこと、(4)また本菌は安全な菌であり、食品工業での利用において安全性に問題がないこと、を見出し、この知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0009】従って、本発明は新規なβ-マンナナーゼ、その製造法および用途、さらに具体的には、β-マンナナーゼ酵素剤(代表的には、例えばガラクトマンナンに作用してコーヒー飲料での沈殿を解消することができる沈殿生成防止剤)、β-マンナナーゼのコーヒー飲料における沈殿生成防止のための使用および沈殿生成防止方法、ならびに上記酵素を産生する能力を有するβ-マンナナーゼ産生菌に関する。
【0010】すなわち、本発明によるβ-マンナナーゼは、次の理化学的性質を有することを特徴とするものであり、代表的には単輪生のペニシリウム属または単輪生のユーぺニシリウム属に属する微生物によって生産することができる。
(1)作用
β-マンナンのβ-1,4-D-マンノピラノシド結合を非特異的に加水分解して、マンノースおよびマンノオリゴ糖を生成する。
(2)至適pH
至適pHは約5.0?6.0である。
(3)作用適温の範囲
作用適温範囲は少なくとも約20?70℃である。(ここで、少なくとも約20?70℃とは、約20?70℃は明確に適温範囲であるということであり、それ以外の範囲を排除するものではない。)
(4)30℃活性/40℃活性が約80%以上である。
【0011】好ましい態様において、このβ-マンナナーゼは、次の理化学的性質を有することを特徴とするものであり、代表的には前記の微生物、特にペニシリウム・マルチカラーに属する微生物によって生産することができる。
(1)作用
β-マンナンのβ-1,4-D-マンノピラノシド結合を非特異的に加水分解して、マンノースおよびマンノオリゴ糖を生成する。
(2)至適pH
至適pHは約5.0?6.0である。
(3)作用適温の範囲
作用適温範囲は少なくとも約20?70℃である。
(4)30℃活性/40℃活性が約80%以上である。
(5)基質特異性
マンナン、ガラクトマンナン、グルコマンナンに特異的に作用し、アラビノキシラン、キシラン、トラガントガム、セルロース、カルボキシメチルセルロースには作用しない。
(6)至適温度
至適温度は約60?70℃である
(7)安定pH範囲
安定pH範囲は約3.0?10.0である。
(8)温度安定性
温度安定性(pH5.0において)は、30℃で1時間の処理を行ったときの残存活性を100%としたとき、50℃で1時間の処理により約100%の残存活性であり、60℃で1時間の処理により約70%の残存活性である。
(9)分子量
分子量は約42,000?45,000(SDS-PAGE法)である。
【0012】また、本発明によるβ-マンナナーゼの製造方法は、上記β-マンナナーゼの生産菌を培養し、培養物から上記酵素もしくは含有組成物を採取することを特徴とするものである。
【0013】さらに、本発明によるβ-マンナナーゼ酵素剤(代表的には、コーヒー飲料の沈殿生成防止剤)は、上記β-マンナナーゼを含んでなるものである。
【0014】本発明はまた、上記β-マンナナーゼの、コーヒー飲料における沈殿生成防止のための使用でもある。
【0015】本発明による沈殿生成防止法は、コーヒー抽出液に、上記のβ-マンナナーゼ酵素剤を作用させる(好ましくは低温もしくは常温で)ことを特徴とするものである。
【0016】本発明による微生物は、上記のβ-マンナナーゼを産生する能力を有する微生物である。」

(2d)「【0035】通常この方法は、基本的に上記β-マンナナーゼ酵素剤をコーヒー抽出液に添加して適当な時間、酵素反応処理に付すことからなるが、この際、上記酵素剤に加えて他の沈殿防止剤、例えばアルカリ性ナトリウム塩またはアルカリ性カリウム塩などを添加することも可能である。
【0036】コーヒー抽出液は、通常焙煎豆から抽出した液、それを濃縮したエキス、あるいは一旦インスタントコーヒーに加工したものを熱水で溶かした液のいずれでも使用可能である。コーヒー飲料としては、コーヒー抽出液をそのままもしくは熱水等で希釈するものの他、乳類(全粉乳、脱脂粉乳、牛乳など)、糖類(砂糖など)等の通常コーヒー飲料に使用される添加剤を加えたものも対象となる。
【0037】コーヒー抽出液のβ-マンナナーゼ酵素剤による処理において、この反応温度、時間、pH、添加量は酵素の活性等により適宜設定すればよいが、本発明の酵素を用いる場合、通常、原料の焙煎豆に対して酵素剤を0.02%?4.0%程度になるようにコーヒー抽出液に添加して、約20?70℃、pH4?6の条件で30分以上反応させればよいが、好ましくは、酵素剤を0.2?2.0%添加して、常温、pH約5.5の条件で2時間以上反応させることが望ましい。本発明において、常温とは、約20℃?40℃の範囲をいうが、好ましい態様では25℃?35℃である。なお、本明細書で使用する%表示は、特に断りのない限り重量%を意味する。
【0038】他の沈殿防止剤としての上記塩(アルカリ性ナトリウム塩およびアルカリ性カリウム塩)としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、炭酸カリウム等があげられるが、香味の点からアルカリ性ナトリウム塩が好ましく、特に炭酸水素ナトリウムが最も好ましい。これらの塩は、最終製品(水で希釈して焙煎豆含量を一定濃度に調整したもの)に対して通常0.03?0.30%、好ましくは0.05?0.20%添加する。添加時期は、酵素反応より前またはこれと同時であっても良いが、酵素処理後の方が好ましい。上記酵素処理と塩処理との併用処理による方法では、特に乳類を添加したコーヒー飲料の場合において、より高い沈殿防止効果を発揮することができる。乳類を添加したコーヒー飲料の場合の沈殿防止効果については、特開平7-184546号公報も参照されたい。
【0039】添加した酵素は、反応後において特に除去する必要はなく、また、この酵素反応は、酵素の添加の他に、固定化酵素などによる接触反応によりコーヒー抽出液中に直接酵素が含まれないようにすることも可能である。上述のような本発明の沈殿防止方法により、常温においても多量の酵素を添加しなくても酵素反応を遂行してコーヒー飲料の沈殿防止を可能とし、これにより酵素蛋白由来の異味を生じることのない本来の風味を維持したコーヒー飲料を製造することができる。」

3 対比・判断
刊行物1の上記記載事項(特に上記(1a))から、刊行物1には、
「コーヒー抽出液を、マンナン分解酵素による処理と、アルカリ性ナトリウム塩またはアルカリ性カリウム塩添加による処理に付す、コーヒー飲料の製造方法」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本願発明と刊行物1発明とを比較する。

(ア)本願発明の「コーヒー液」は、本願の明細書を参照すると段落【0013】に「本発明において、コーヒー液とは飲料に供するコーヒーであればいかなるコーヒー液であってもよく、コーヒー抽出液、コーヒー濃縮液またはコーヒー抽出液とコーヒー濃縮液との混合液等のいずれでも構わない。」と記載されていることから、コーヒー抽出液を含むものであるので、刊行物1発明の「コーヒー抽出液」は、本願発明の「コーヒー液」に相当する。

(イ)刊行物1発明の「マンナン分解酵素による処理」と、本願発明の「ガラクトマンナン分解酵素による」処理とは、「酵素による」処理という点で共通する。

(ウ)本願発明は、本願の明細書の段落【0028】?【0030】の記載を参照すると、アルカリ剤として炭酸水素ナトリウムなどをさらに添加し、pHの低下を防止し、沈殿の発生を抑止する旨、記載されていることから、「アルカリ性ナトリウム塩またはアルカリ性カリウム塩添加による処理」をさらに行うことを排除するものではない。

したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。

(一致点)酵素によるコーヒー液の処理工程を含むコーヒー飲料の製造方法。

(相違点1)酵素が、本願発明では「ガラクトマンナン分解酵素」であるのに対し、刊行物1発明では「マンナン分解酵素」である点。

(相違点2)酵素によるコーヒー液の処理工程が、本願発明では、コーヒー液の一部に事前に酵素を溶解してなる酵素液を用いるのに対し、刊行物1発明では、そのようなことについては規定していない点。

(相違点3)酵素によるコーヒー液の処理工程が、本願発明では反応温度30?40℃で、反応時間25?35分で行われるのに対し、刊行物1発明では、特に反応温度、反応時間については規定していない点。

そこで、上記各相違点について検討する。

(相違点1について)
刊行物1発明の「マンナン分解酵素による処理」について、刊行物1の記載を参照すると、マンナン分解酵素による処理によってコーヒー抽出液の沈殿の発生を防止することが記載されている(1c)。
そして、刊行物2には、コーヒー抽出液の沈殿はコーヒー豆由来のガラクトマンナンに起因することが記載され(2a)、コーヒー飲料での沈殿を解消することができる酵素としてガラクトマンナンに作用する酵素(2c)が記載されている。
そうすると、刊行物1発明のコーヒー抽出液の沈殿の発生を防止するための酵素処理として、「マンナン分解酵素による処理」に代えて、ガラクトマンナンに作用する、ガラクトマンナン分解酵素による処理を行うことは、刊行物2を参照して当業者が容易に想到し得たことである。

(相違点2について)
液体の状態のものに酵素を作用させる際に、酵素を予めなんらかの溶媒に溶解させて添加することは、本願出願前から、普通によく行われていたことであり、この際、作用させる対象の液体を溶媒としても用いることも、当業者が通常なし得た具体化手段の一つにすぎず、例えば、下記のとおり、刊行物Aには酵素を予めコーヒーで希釈したものを用いてもよい旨、記載されている。
そうすると、刊行物1発明において、コーヒー抽出液の一部に事前に酵素を溶解し、酵素液とすることも、周知の技術から当業者が容易に想到し得たことである。

・刊行物A:特開昭60-256348号公報(第3頁左上欄3行?18行)
「コーヒーにチロシナーゼを作用させる方法としては、粉末状のチロシナーゼを、コーヒー豆またはコーヒー豆粉砕物と混合したり(レギュラータイプ)、焙煎したコーヒー豆から抽出したコーヒー液に添加したり、あるいはスプレードライやフリーズドライによつて粉末化したコーヒーに均質に混ぜ合わせたりすることにより行なうことができる。この場合、チロシナーゼ粉末は予め適当な担体またはコーヒーで希釈したものであつてもよく、粉末の代わりに顆粒状にしたチロシナーゼを使用してもよい。
別の方法として、チロシナーゼを水性溶媒に溶解したものを使用して、これをコーヒー豆から抽出したコーヒー液に添加したり、コーヒー粉末に吹きつける流動層造粒法によつて、チロシナーゼを添加することもできる。」

(相違点3について)
刊行物1発明の「マンナン分解酵素による処理」について、刊行物1の記載を参照すると、反応温度、時間、pH、添加量は使用する酵素の由来あるいは活性等によって適した条件を選択すればよい旨、記載されている(1c)。そして、ガマナーゼ1.5Lの場合であれば、通常、40?50℃、30分間以上、好ましくは、45℃、2時間以上反応させることが望ましい旨、記載されている(1c)。
一方、刊行物2には、コーヒー抽出液の沈殿解消を工業的に行うには、処理温度を高くする(40?50℃)ことが必要であるが、工程が複雑化し、またコーヒー本来の香味、品質の劣化の問題を生じていたこと(2b)、20?30℃程度の常温で十分に作用させるためには酵素添加量を上げることも考えられるが、比活性が低いと、多量の酵素を添加せざるをえず、酵素蛋白質由来の異味を生じる問題があり、常温における酵素反応性のより高い酵素、あるいは少量の添加量で効果のある、より高い比活性の酵素の開発が望まれていたこと(2b)、そして、より常温に近い状態でもマンナン分解活性が高く、かつ高い比活性を有する酵素を提供することを目的として(2b)、ガラクトマンナンに作用する、β-マンナナーゼを提供したこと(2b,2c)、このβ-マンナナーゼ酵素剤によるコーヒー抽出液の処理では、反応温度、時間等は酵素の活性等により適宜設定すればよいが、コーヒー抽出液に添加して約20?70℃、pH4?6の条件で30分以上反応させればよく、好ましくは、酵素剤を0.2?2.0%添加して、常温、pH約5.5の条件で2時間以上反応させることが望ましく、また、常温とは、約20℃?40℃の範囲をいい、好ましい態様では25℃?35℃であることが記載されている(2d)。
そうすると、刊行物1発明において、上記(相違点1について)で述べたとおり、「マンナン分解酵素による処理」に代えて、ガラクトマンナン分解酵素による処理を採用する際に、コーヒー本来の香味や品質の劣化の問題を生じることがないように、常温に近い状態でも高い比活性を有する酵素を採用して、その処理条件を30℃?40℃程度の常温程度の温度条件とし、また、反応時間についてもコーヒーの香味や品質の劣化が生じない時間として30分程度に設定することは、刊行物2の上記記載から当業者が容易になし得たことである。

(本願発明の効果について)
「適切な酵素添加量、酵素反応温度および酵素反応時間により、コーヒーの品質を劣化させることなく沈殿を有効に防止することができる」との本願明細書の段落【0019】に記載された本願発明の効果は、刊行物1,2及び周知の技術から当業者が予測し得たものであり、格別顕著なものとはいえない。
そして、液体の状態のものに酵素を作用させる際に、酵素を予めなんらかの溶媒に溶解させて添加することは、上記(相違点2について)で述べたとおりに本願出願前の周知の技術であり、予め酵素を溶解させておくことにより、コーヒー液での酵素の溶解時間が短縮できることは当業者が当然に予測できることであるので、本願明細書の段落【0009】に記載された「事前に少量のコーヒー液にガラクトマンナン分解酵素を全量溶解して酵素液を調製した後、その酵素液を処理対象のコーヒー液に添加することにより、酵素の溶解時間を短縮し、その結果、酵素反応の時間を短縮することができる」との効果についても、刊行物1及び2に記載された事項及び周知の技術から当業者が予測し得たものである。

したがって、本願発明は、刊行物1及び2に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は、拒絶をすべきものである。
 
審理終結日 2013-04-01 
結審通知日 2013-04-02 
審決日 2013-04-15 
出願番号 特願2001-233842(P2001-233842)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今村 玲英子滝口 尚良齊藤 真由美  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 小川 慶子
菅野 智子
発明の名称 沈殿を防止するコーヒー飲料の製造方法  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

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