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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09J
管理番号 1274760
審判番号 不服2011-11413  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-05-31 
確定日 2013-05-27 
事件の表示 特願2000-356278「接着フィルムの貼付装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 5月28日出願公開、特開2002-155246〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成12年11月22日の出願であって、平成22年12月17日付けの拒絶理由通知に対して、平成23年2月10日に意見書及び手続補正書が提出され、平成23年2月25日付けで拒絶査定がされ、これに対して、平成23年5月31日に審判請求がされると同時に手続補正書が提出され、平成24年7月20日付けの審尋に対して、平成24年9月18日に回答書が提出されたものである。

第2 平成23年5月31日付けの手続補正について
1.補正の内容
平成23年5月31日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、次の補正事項を含むものである。
(1)補正事項1
旧請求項1?6、旧請求項10を削除し、残りの請求項について項番号の繰り上げを行う補正事項。
(2)補正事項2
新請求項1において、「セパレータ剥がし手段として、剥がされるセパレータに折り返し部を付与する第1の補助部材と、剥がされるセパレータに90度以上の折り返し角を付与する第2の補助部材とを有し」との事項を付加する補正事項。
(3)補正事項3
新請求項1において、「前記セパレータが、第1の補助部材を介して順次位置をずらしながら折り返されるように、かつ、第2の補助部材を介して折り返し角が90度以上となるように、剥がし方向に順次案内されながら、前記接着フィルムの一端側から他端側に向けて順に剥ぎ取られる」との事項付加する補正事項。
(4)補正事項4
旧請求項7の「セパレータを切断することなく接着フィルムを厚み方向にハーフカットする」との事項を新請求項1において「厚み方向にセパレータを切断することなく接着フィルムのみを所定のサイズに切断する」との事項に変更する補正事項。

2.補正の目的
上記補正事項1は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第1号に規定する請求項の削除を目的とするものといえる。
また、上記補正事項2、補正事項3は、旧請求項7(新請求項1)に係る発明の「…セパレータを剥ぎ取る接着フィルムの貼付装置であって…」との事項について「セパレータを剥ぎ取る」ための部材や剥ぎ取りの態様を限定するものであって、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
そして、補正事項4は、平成23年2月25日付け拒絶査定のなお書きに記載された「ハーフカット」に関する特定事項の意味が明確でないから記載された発明が明確でないとの事項に対する補正事項であって、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第4号に規定する明りょうでない記載の釈明を目的とするものといえる。
よって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に該当するものである。

3.独立特許要件の検討
新請求項1に係る補正事項である補正事項2、3は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件補正後における請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものであるか)について検討する。
具体的には、本件補正発明が、次の刊行物1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるかについて検討する。
刊行物1:特開平08-048946号公報
刊行物2:特開平07-029419号公報
(平成23年2月25日付け拒絶査定で引用した引用文献1、2である。)

(1)本件補正発明
本件補正発明は、平成23年5月31日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「被接合物同士の接合前に、少なくとも一方の被接合物の表面に、セパレータ上の接着フィルムを加熱により粘着させ、該接着フィルムを被接合物の表面上に残しつつセパレータを剥ぎ取る接着フィルムの貼付装置であって、厚み方向にセパレータを切断することなく接着フィルムのみを所定のサイズに切断する切断手段と、セパレータを張設した状態にて前記セパレータの反接着フィルム側の面を加熱することにより、所定のサイズに切断された前記接着フィルムを前記一方の被接合物の表面に粘着させるヒートツールと、前記被接合物の裏面を加熱するヒートステージと、前記セパレータの反接着フィルム側の面を冷却する冷却手段とを備え、
セパレータ剥がし手段として、剥がされるセパレータに折り返し部を付与する第1の補助部材と、剥がされるセパレータに90度以上の折り返し角を付与する第2の補助部材とを有し、
前記セパレータが、第1の補助部材を介して順次位置をずらしながら折り返されるように、かつ、第2の補助部材を介して折り返し角が90度以上となるように、剥がし方向に順次案内されながら、前記接着フィルムの一端側から他端側に向けて順に剥ぎ取られることを特徴とする接着フィルムの貼付装置。」

(2)刊行物に記載された事項
刊行物1、2には、次の事項が記載されている。

(2-1)刊行物1
・摘示事項1-a:
「【特許請求の範囲】
【請求項1】剥離用フィルムを有する接着フィルムを対象物に熱転写して接着後、この接着フィルムから前記剥離用フィルムを剥離するための接着フィルムの剥離用フィルムの剥離装置であり、
前記接着フィルムを前記対象物に熱転写するための熱転写手段と、
熱転写された前記接着フィルムの接着層を軟化点以下に冷却してから、前記接着フィルムから前記剥離用フィルムを剥離するために、前記熱転写手段に対して所定の間隔をおいて配置された剥離手段と、を備えることを特徴とする接着フィルムの剥離用フィルムの剥離装置。」

・摘示事項1-b:
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、異方性導電膜(ACF)のような接着フィルムを、ガラス板のような対象物に熱転写して接着後、この接着フィルムから剥離用のフィルムを剥離するための接着フィルムの剥離用フィルムの剥離装置および剥離方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】たとえば液晶パネルのようなガラス板の端子部に対して、TAB型端子部(TAB;Tape Automated Bonding)を熱圧着する場合には、異方性導電膜(ACF)を介して行う。…」

・摘示事項1-c:
「【0012】実施例1
図1は、本発明の接着フィルムの剥離用フィルムの剥離装置の好ましい実施例1を備える接着フィルム定寸貼付装置を示している。図2は、図1の部分Gを拡大して示しており、図3は、図1の本発明の接着フィルムの剥離用フィルムの剥離装置の好ましい実施例の構造および異方性導電膜のテープパスを示す図である。
【0013】まず図1ないし図3を参照する。接着フィルム定寸貼付装置は、次のような要素を含んでいる。本体20は、接着フィルム巻出部22、剥離用フィルム巻取部24、カバーテープ巻取部26、貼付ロボット30、カッター部32および基台42等を備えている。貼付ロボット30は、剥離用フィルム巻取部24と接着フィルム巻出部22のほぼ間に配置されている。基台42の上には被着体あるいは対象物ともいう、たとえば液晶パネル40が配置されるようになっている。」

・摘示事項1-d:
「【0016】…図3の部分P3を拡大したのが図6であり、…。図3に示すカッター部32は、図6に示すように2つの刃32aを所定間隔をおいて備えていて、所定間隔で溝88,88を形成して異方性導電膜ACFのみを切断して、剥離用フィルムTHは切断しないようになっている。」

・摘示事項1-e:
「【0018】次に、貼付ロボット30について説明する。図3の貼付ロボット30は、搬送手段31を備える。この搬送手段31は、ガイド80にそって熱転写手段60および剥離手段70を一体的に矢印X1,X2方向に移動できるようになっている。クランプC1,C2は、接着フィルムSTを矢印AR方向に送るためのクランプである。クランプC2は、剥離手段70に設けられている。
【0019】熱転写手段60と剥離手段70は、図2に示すような構造となっている。熱転写手段60は、加圧ローラとしてのコピーローラ61とヒータ(図示せず)を備え、剥離手段70は剥離ブロック71を備えている。コピーローラ61の中心と剥離ブロック71の前端部の距離は、接着フィルムSTの冷却距離Aとなっている。熱転写手段60および剥離手段70は共に矢印Y方向に上下動可能になっている。
【0020】図3に示す熱転写手段60と剥離手段70は、貼付開始位置PS1(想像線で示す部分)から貼付終了位置PS2(実線で示す部分)の間で、一体的に矢印X1,X2方向に移動可能であり、そのストロークはBで示されている。このストロークBは、上述した異方性導電膜ACFの定寸と同じである。また熱転写手段60のコピーローラ61の中心と剥離ブロック71の後端部の距離はAで示されている。コピーローラ61の中心とカッター32aの中心距離はCで示されている。貼付ロボット30のコピーローラ61により、接着フィルムSTの異方性導電膜ACFのみが液晶パネル40に対して熱圧着され、そして剥離ブロック71により、接着フィルムSTの異方性導電膜ACFから剥離用フィルムTHが剥離されるようになっている。

【0022】図3の熱転写ローラともいうコピーローラ61は、接着フィルムSTに熱を与えて、接着剤をその軟化点を超えて加熱するものである。…
【0023】また図3に示すように、剥離ブロック71は、部分71aを有している。この部分71aは、異方性導電膜ACFから剥離用フィルムTHをほぼ直角に急激に引き上げる部分である。しかしこの剥離ブロック71は、ブロックに限らずローラ状の回転体であっても良い。回転体としては、たとえば1.2mm位の針状のローラを採用できる。しかも、図3に示すように、この剥離ブロック71には、好ましくは冷却液もしくは冷却エアーを供給する冷却手段71bを備えている。冷却手段71bは、積極的に剥離ブロック71を冷やして、急速に接着フィルムSTの接着剤層を冷却するためのものである。」

・摘示事項1-f:
「【0026】次に図10に示すように、矢印X1の方向にコピーローラ61と剥離ブロック71を同期して移動する。これにより、接着フィルムSTがコピーローラ61により液晶パネル40の上面に熱転写される。そして冷却に寄与する距離Aをおいて部分71aにより、剥離用フィルムTHのみが異方性導電膜ACFより剥離される。そして、剥離用フィルムTHのみがローラR10を経て図3のローラR11から剥離用フィルム巻取部24に巻き取られる。
【0027】このように、コピーローラ61により熱圧着された後に、冷却に寄与する長さである冷却距離Aを経て、接着フィルムSTが冷却された後に、剥離用フィルムTHが異方性導電膜ACFから剥離されるので、自動的に接着フィルムSTの接着剤層を軟化点以下の温度に冷却することができる。したがって、従来のような剥離用フィルムTHと異方性導電膜ACFにおいて剥離破壊を起こすことがなく、非常にきれいに剥離用フィルムTHを剥離することができる。しかも部分71aの角度をたとえば直角にすることにより、剥離角度を大きくとることができ、局所的に急激な剥離となり、剥離用フィルムTHが異方性導電膜ACFから剥離しやすくなる。」

・摘示事項1-g:
「【0034】…剥離ブロックに対して積極的に冷却エアーを吹き付けることにより、さらに接着剤層の急激な温度の下降がみられる。これにより、ラミネートロールともいうコピーローラ61(圧着部)の加熱温度の幅を広げても、接着剤層の急激な温度の下降を達成できる。つまり、接着フィルムSTを送るラインスピードを上げても、コピーローラ61(圧着部)で確実に接着フィルムを加熱して、そして接着剤層の急激な温度の下降を行って異方性導電膜ACFから剥離用フィルムTHを確実に剥離することができる。」
・摘示事項1-h:
「【0036】なお、図3のローラR4は、異方性導電膜ACF(接着フィルムST)がどの位の長さが引き出されたかをみるセンサを内蔵している。熱転写手段60(及びクランプC1,C2)により、ストロークBとハーフカットの除去長さ(図6の2つの刃32a,32aによりカットされる長さ)を加えた長さだけ分異方性導電膜ACFが引き出されると、刃32a,32aによりカットされた異方性導電膜ACFのハーフカット部分が、不要な異方性導電膜ACFとして、図示しない除去手段により除去される。」

・摘示事項1-i














(2-2)刊行物2
・摘示事項2-a:
「【0002】
【従来の技術】従来、液晶ディスプレイのガラス基板とFPC(Flexible printed circuit)、回路基板相互間の接着等のように、接続端子が細かいピッチ(例えば回路本数5本/mm)で並んでいる電気部品の接続方法としては、特開平4-323290号公報等で提案されている異方導電性接着剤による接続法がよく知られている。従来の異方導電性接着剤シートは、表面処理していないフィルムにコーティングすることによって加工されている。」

・摘示事項2-b:
「【0010】
【実施例】…図1(a)?(c)はFPC等の回路部に本発明の一実施例の異方導電性接着組成物を接着させ、これを100℃、10kg/cm^(2 )で5秒ホットプレスした後ただちに冷却し、次に塗工フィルムを剥離させるプロセス図である。すなわち、図1(a)は本発明の一実施例の異方導電性接着シートの斜視図、同図(b)はホットプレスによる接着工程図、同図(c)は塗工フィルムの剥離を説明する図である。図1(a)?(c)において、1は異方導電性接着剤組成物、2は塗工フィルム、3はフレキシブル プリント サーキット(FPC)、4は下部ヒータ、5は上部ヒータである。
…」

・摘示事項2-c




(3)検討
ア.刊行物1に記載された発明
刊行物1には、液晶パネル40のような被着体の端子部に対してTAB型端子部(TAB;Tape Automated Bonding)を異方性導電膜(ACF)を介して熱圧着する場合等の用途で用いられる接着フィルムの剥離用フィルムの剥離装置が記載され(摘記事項1-b、1-a)、当該剥離装置を備える接着フィルム定寸貼付装置として、貼付ロボット30、カッター部32、基台42等を備えた接着フィルム定寸貼付装置が記載されている(摘記事項1-c、1-iの【図1】?【図3】)。

また、刊行物1には、接着フィルム定寸貼付装置が備える「貼付ロボット30」、「カッター部32」について、次の事項が記載されている。
・「貼付ロボット30」は、熱転写手段60と剥離手段70とを備え(摘記事項1-e)、これらのうち、熱転写手段60は、接着フィルムを対象物に熱転写するものであり、加圧ローラとしてのコピーローラ61とヒータを備え、コピーローラ61により、接着フィルムSTの異方性導電膜ACFのみがその軟化点を超えて加熱されて液晶パネル40に対して熱圧着されること(摘記事項1-e、1-i【図10】)、及び、剥離手段70は、剥離ブロック71を備え、それによって接着フィルムSTの異方性導電膜ACFから剥離用フィルムTHが剥離されるようになっており、好ましくは、冷却手段71bを備えること(摘記事項1-e?1-g)。
・「カッター部32」は、2つの刃32aを所定間隔をおいて備え、所定間隔で溝88を形成して異方性導電膜ACFのみを切断し、剥離用フィルムTHは切断しないようになっていること(摘記事項1-d、1-h、1-iの【図6】)。

以上の事項からみて、刊行物1には、次の発明が記載されているといえる(以下、「引用発明」という。)。

「液晶パネルのような被着体の端子部に対してTAB型端子部を異方性導電膜を介して熱圧着する場合等の用途で用いられる接着フィルムの剥離用フィルムの剥離装置を備える接着フィルム定寸貼付装置であって、
該接着フィルム定寸貼付装置は、熱転写手段と剥離手段とを備えた貼付ロボット、カッター部、基台を備え、
前記熱転写手段は、接着フィルムを対象物に熱転写するものであり、加圧ローラとしてのコピーローラとヒータを備え、
前記剥離手段は、剥離ブロックを備え、それによって接着フィルムの異方性導電膜から剥離用フィルムが剥離されるようになっており、冷却手段を備え、
前記カッター部は、2つの刃を所定間隔をおいて備え、所定間隔で溝を形成して異方性導電膜のみを切断し、剥離用フィルムは切断しないようになっている、
接着フィルム定寸貼付装置。」

イ.本件補正発明と引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。

引用発明の
「液晶パネルのような被着体の端子部…TAB型端子部」、
「異方性導電膜」、
「(異方性導電膜を介して)熱圧着する場合等の用途で用いられる接着フィルムの剥離用フィルムの剥離装置を備える接着フィルム定寸貼付装置」
は順に、
本件補正発明の
「被接合物同士」、
「接着フィルム」、
「(接着フィルムを)加熱により粘着させ…接着フィルムの貼付装置」
との事項に相当する。

刊行物1の【図10】(摘記事項1-i)の記載等からみて、接着フィルムSTは、弛みのない張った状態で、「加圧ローラとしてのコピーローラとヒータ」によって、剥離用フィルムTH側の面から加熱して異方性導電膜ACFを粘着させられているものと解されるから、
引用発明の
「加圧ローラとしてのコピーローラとヒータ」、
「該接着フィルム定寸貼付装置は、熱転写手段…を備えた貼付ロボット…を備え…前記熱転写手段は接着フィルムを対象物に熱転写するものであり」
は順に、
本件補正発明の
「セパレータの反接着フィルム側の面を加熱することにより、接着フィルムを被接合物の表面に粘着させるヒートツール」、
「セパレータを張設した状態にて(前記セパレータの反接着フィルム側の面を)加熱することにより…前記接着フィルムを前記一方の被接合物の表面に粘着させる」
との事項に相当する。

引用発明の
「(該接着フィルム定寸貼付装置は…剥離手段…を備えた貼付ロボット…を備え…)前記剥離手段は、剥離ブロックを備え、それによって接着フィルムの異方性導電膜から剥離用フィルムが剥離されるようになっており」は、
本件補正発明の
「セパレータ上の…接着フィルムを被接合物の表面上に残しつつセパレータを剥ぎ取る…セパレータ剥がし手段」
との事項に相当する。
また、刊行物1の「また図3に示すように、剥離ブロック71は…異方性導電膜ACFから剥離用フィルムTHをほぼ直角に急激に引き上げる…この剥離ブロック71には、好ましくは冷却液もしくは冷却エアーを供給する冷却手段71bを備えている。冷却手段71bは、積極的に剥離ブロック71を冷やして、急速に接着フィルムSTの接着剤層を冷却するためのものである。」(摘記事項1-e)との記載等からみて、引用発明の「冷却手段71b」は、剥離用フィルムTHを異方性導電膜ACFの反対側の面から冷却して接着フィルムSTの接着剤層を冷却するものと解されるから、
引用発明の
「(剥離手段は…)冷却手段を備え」は、
本件補正発明の
「セパレータの反接着フィルム側の面を冷却する冷却手段とを備え」
との事項に相当する。

引用発明の
「剥離用フィルム」、
「(該接着フィルム定寸貼付装置は…)カッター部を備え…前記カッター部は、2つの刃を所定間隔をおいて備え、所定間隔で溝を形成して異方性導電膜のみを切断し、剥離用フィルムは切断しないようになっている」
は、順に、
本件補正発明の
「セパレータ」、
「所定のサイズに切断された前記接着フィルム…厚み方向にセパレータを切断することなく接着フィルムのみを所定のサイズに切断する切断手段」
との事項に相当する。

以上を総合すると、両者は、
「被接合物同士の接合前に、少なくとも一方の被接合物の表面に、セパレータ上の接着フィルムを加熱により粘着させ、該接着フィルムを被接合物の表面上に残しつつセパレータを剥ぎ取る接着フィルムの貼付装置であって、厚み方向にセパレータを切断することなく接着フィルムのみを所定のサイズに切断する切断手段と、セパレータを張設した状態にて前記セパレータの反接着フィルム側の面を加熱することにより、所定のサイズに切断された前記接着フィルムを前記一方の被接合物の表面に粘着させるヒートツールと、前記セパレータの反接着フィルム側の面を冷却する冷却手段を備え、
セパレータ剥がし手段を備えた接着フィルムの貼付装置。」
の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:本件補正発明は「被接合物の裏面を加熱するヒートステージ」を備えたものであるのに対して、引用発明は「基台」を備えたものである点

相違点2:セパレータ剥がし手段が、本件補正発明は「剥がされるセパレータに折り返し部を付与する第1の補助部材と、剥がされるセパレータに90度以上の折り返し角を付与する第2の補助部材とを有し、前記セパレータが、第1の補助部材を介して順次位置をずらしながら折り返されるように、かつ、第2の補助部材を介して折り返し角が90度以上となるように、剥がし方向に順次案内されながら、前記接着フィルムの一端側から他端側に向けて順に剥ぎ取られる」ものであるのに対して、引用発明は、セパレータ剥がし手段がそのようなものであることを発明特定事項とするものでない点

ウ.相違点の検討
(ア)相違点1
例えば、刊行物2に、ガラス基板とFPC等との被接合物同士の接合前に、接着フィルム(「異方導電性接着剤組成物1」)を一方の被接合物(「FPC3」)に加熱により粘着させ、接着フィルムを被接合物の表面上に残しつつセパレータ(「塗工フィルム2」)を剥ぎ取る接着フィルムの貼付方法において、接着フィルム加熱手段として、上部ヒータ5と下部ヒータ4とによる加熱手段を使用することにより「異方導電性接着シート」の上面及び下面の両面から加熱することが開示されている(摘記事項2-a?2-c)ように、被接合物に接着フィルムを粘着させるための加熱手段として、重ね合わせた被接合物と接着フィルムを上下に設けたヒータによって加熱すること、即ち、表裏両面から加熱することは、周知の技術と認められる。
そして、重ね合わせた被接合物と接着フィルムを表裏両面から加熱することが周知の技術であることを考慮すると、引用発明において基台に加熱手段を設け「被接合物の裏面を加熱するヒートステージ」とすることによって、接着フィルムを表裏両面から加熱するようにして、その粘着を効率的に行うことは、当業者が容易に想到し得たことと認められる。
なお、本件補正明細書の発明の詳細な説明に「とくに、接着フィルムの両面側から同じように加熱した後、セパレータ側から気体ブローによる冷却を施せば、強制的に確実に所望の温度差をつけることができ、所定のフィルムの貼付が確実に行われる。」(段落【0011】)と、接着フィルムを表裏両面から加熱することによって確実に温度差をつけることができフィルムの貼付が確実に行われることが記載されているが、引用発明も冷却手段を備えるものであって接着フィルムの両面に温度差をつけることができるものと解されるところ、刊行物1の「…冷却エアーを吹き付けることにより…接着剤層の急激な温度の下降を達成できる。…接着剤層の急激な温度の下降を行って異方性導電膜ACFから剥離用フィルムTHを確実に剥離することができる。」(摘記事項1-g)との記載等からみて、引用発明も剥離破壊を起こすことなく確実に剥離用フィルムTHを剥離して接着フィルムの貼付を確実にすることができるものと認められるから、接着フィルムを表裏両面から加熱することによって当業者の予測し得ないほど顕著な効果の差があるものとは認められない(なお、接着フィルムの表裏面が同様に加熱されると同程度の温度になるであろうことは明らかであるから、冷却による温度降下の分の温度差が生じることは当業者が予測し得た範囲内のことと認められる。)。

(イ)相違点2
刊行物1の摘記事項1-iの【図10】、及び、摘記事項1-fの「…部分71aにより、剥離用フィルムTHのみが異方性導電膜ACFより剥離される。」、「…剥離用フィルムTHのみがローラR10を経て…剥離用フィルム巻取部24に巻き取られる。」との記載等からみて、「剥離ブロック」の「部分71a」は、本件補正発明の「(セパレータ剥がし手段としての)剥がされるセパレータに折り返し部を付与する第1の補助部材」に相当し、「部分71a」で剥離された剥離用フィルムを巻取部24側に誘導する「ローラR10」は、本件補正発明の「剥がされるセパレータに折り返し角を付与する第2の補助部材」に相当するものと認められるから、刊行物1には、「剥がされるセパレータに折り返し部を付与する第1の補助部材と、剥がされるセパレータに折り返し角を付与する第2の補助部材」を有するセパレータ剥がし手段が記載されていると認められる。
また、摘記事項1-iの【図10】からは、剥離用フィルムが「剥離ブロック71」の「部分71a」によって直角に急激に引き上げられて剥離され、「ローラR10」によって90度の折り返し角を付与されて、水平に「ローラR11」の方向に導かれることが読み取れる。
そうすると、刊行物1において「ローラR10」によって付与される折り返し角は、本件補正発明における「90度以上」という折り返し角の条件を満たすものであって、相違しないものと認められる(さらに言えば、接着材において粘着剤層から剥離した剥離用フィルムを巻き取って回収する際に適宜の角度で折り返して巻き取ることは当業者が通常行うことであり、例えば、下記の周知例1に例示されるように、折り返しの角度を90度以上とすることも通常行われる範囲のことと認められる。)。
また、摘記事項1-iの【図10】、摘記事項1-fの「…図10に示すように、矢印X1の方向にコピーローラ61と剥離ブロック71を同期して移動する。これにより…剥離用フィルムTHのみが異方性導電膜ACFより剥離される。」(摘記事項1-f)との記載等からみて、刊行物1には、セパレータ剥がし手段が「セパレータが、第1の補助部材を介して順次位置をずらしながら折り返されるように、かつ、第2の補助部材を介して折り返し角を付与されるように、剥がし方向に順次案内されながら、前記接着フィルムの一端側から他端側に向けて順に剥ぎ取られる」ものであることが記載されていると認められる。

以上によれば、刊行物1には、セパレータ剥がし手段として、「剥がされるセパレータに折り返し部を付与する第1の補助部材と、剥がされるセパレータに90度以上の折り返し角を付与する第2の補助部材とを有し、前記セパレータが、第1の補助部材を介して順次位置をずらしながら折り返されるように、かつ、第2の補助部材を介して折り返し角が90度以上となるように、剥がし方向に順次案内されながら、前記接着フィルムの一端側から他端側に向けて順に剥ぎ取られる」ものが開示されているといえるから、引用発明においてセパレータ剥がし手段をそのようなものとすることは当業者が容易になし得たことと認められる。

[周知例1(特開平10-112494号公報)について]
【図1】に図示される剥離フィルム106は、ローラ107によって粘着剤層から剥離された後、ローラ108によって90度を超える角度で折り返され、巻取ローラ110に巻き取られるものと認められる(同図の右上部分に素描により示したように、ローラ108による折り返し角度Rは90度を超えるものと認められる。)。

「【0021】…繰り出しローラ103は、ローラ107との間で接着シートSを挟持し、接着シートSをシート貼付部200へ送り出す。
【0022】一方、ローラ107によって接着シートSから分離された剥離フィルム106は、テンションローラ108、ガイドローラ109を介して巻取ローラ110に巻き取られる。」





エ.本件補正発明の効果について
本件補正発明は、本件補正明細書の発明の詳細な説明の記載からみて、「剥がしミスを生じることなく、所定サイズの接着フィルムを確実に効率よく貼り付けることが可能になる。また…セパレータ剥ぎ取り動作自身も容易になる。」(段落【0026】)という効果を奏するものと認められるが、そのような効果は、刊行物1の「…剥離ブロックに対して積極的に冷却エアーを吹き付けることにより、さらに接着剤層の急激な温度の下降がみられる。これにより…異方性導電膜ACFから剥離用フィルムTHを確実に剥離することができる。」との記載(摘記事項1-g)等からみて、当業者が刊行物1の記載事項から予測し得た範囲内のものと認められるから、格別顕著な効果とはいえない。

(4)独立特許要件のまとめ
よって、本件補正発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものとはいえないから、上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定される要件を満たさないものである。

4.補正の却下の決定のむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
本件出願に係る発明は、平成23年2月10日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?請求項10に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項7に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、下記のとおりのものである。
「【請求項7】
被接合物同士の接合前に、少なくとも一方の被接合物の表面に、セパレータ上の接着フィルムを加熱により粘着させ、該接着フィルムを被接合物の表面上に残しつつセパレータを剥ぎ取る接着フィルムの貼付装置であって、
セパレータを切断することなく接着フィルムを厚み方向にハーフカットし所定のサイズに切断する切断手段と、
セパレータを張設した状態にて前記セパレータの反接着フィルム側の面を加熱することにより、所定のサイズに切断された前記接着フィルムを前記一方の被接合物の表面に粘着させるヒートツールと、
前記被接合物の裏面を加熱するヒートステージと、
前記セパレータの反接着フィルム側の面を冷却する冷却手段と
を備えたことを特徴とする接着フィルムの貼付装置。」

第4 原査定の理由
原査定は、請求項7?請求項10については「平成22年12月17日付け拒絶理由通知書に記載した理由1?2によって、拒絶をすべきものです」とするものであり、その理由2は「この出願の発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である、下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものである。 そして、理由2でいう「下記の刊行物」とは次の引用文献1、2である。

引用文献1 特開平08-048946号公報
引用文献2 特開平07-029419号公報

第5 当審の判断
当審は、原査定の理由のとおり、本願発明は、引用文献1、2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものと判断する。

1.引用文献1、2の記載事項
引用文献1、2は、「第2 3.独立特許要件の検討」における刊行物1、2と同じ文献であり、引用文献1、2の記載事項は、前記「第2 3.(2)(2-1)、(2-2)」において示した刊行物1、2の記載事項と同じである。
そして、引用文献1には「第2 3.(3)ア.」に記載した発明(以下同様に「引用発明」という。)が記載されている。

2.本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比すると、前記「第2 3.(3)イ.」で対比したとおりであり、また、引用発明の「異方性導電膜のみを切断し、剥離用フィルムは切断しない」点は、本願明細書の段落【0014】の「…(厚み方向にセパレータ1を切断することなく接着フィルムのみを切断、つまりハーフカットする)…」との事項等を考慮すると、本願発明の「セパレータを切断することなく接着フィルムを厚み方向にハーフカット」する構成の点に相当すると認められる。
よって、両者は、
「被接合物同士の接合前に、少なくとも一方の被接合物の表面に、セパレータ上の接着フィルムを加熱により粘着させ、該接着フィルムを被接合物の表面上に残しつつセパレータを剥ぎ取る接着フィルムの貼付装置であって、
セパレータを切断することなく接着フィルムを厚み方向にハーフカットし所定のサイズに切断する切断手段と、
セパレータを張設した状態にて前記セパレータの反接着フィルム側の面を加熱することにより、所定のサイズに切断された前記接着フィルムを前記一方の被接合物の表面に粘着させるヒートツールと、
前記セパレータの反接着フィルム側の面を冷却する冷却手段と
を備えたことを特徴とする接着フィルムの貼付装置。」
の点で一致し、次の点において相違する。

相違点1’:本願発明は「被接合物の裏面を加熱するヒートステージ」を備えたものであるのに対して、引用発明は「基台」を備えたものである点

3.検討
(1)相違点1’、及び、本願発明の効果について
上記相違点1’は、前記「第2 3.(3)イ.」に記載した相違点1と同様の相違点と認められるから、上記相違点1’に係る本願発明の構成の点は、「第2 3.(3)ウ.(ア)」に記載した理由と同様に理由によって、当業者が容易になし得たことと認められる。
また、本願発明の効果は、前記「第2 3.(3)エ.」に記載した理由と同様に理由によって、当業者が予測し得た範囲のものと認められ、格別顕著なものとは認められない。

(2)請求人の主張について
ア.請求人は、平成23年2月10日付け意見書において、次の主張をしている。
「例えば、刊行物1に記載される引用発明においては、1回の熱転写操作で転写すべき異方性導電膜の終端を形成する目的で、所定サイズにカットされた異方性導電膜のハーフカット部分が除去されるので、当該ハーフカット部分が無駄に捨てられることとなります(段落[0036]?[0038]参照。)。
これに対し本願発明においては、接着フィルムのハーフカット部分を被接合物の表面に順次粘着させていくため、ハーフカット部分が無駄に捨てられることはありません。」

しかしながら、本願発明は「ハーフカットし所定のサイズに切断する」との発明特定事項を有するものであって、所定サイズにカットされた異方性導電膜のハーフカット部分が除去されるか否かを特定したものではないし、異方性導電膜のハーフカット部分が除去されないことが本願発明の発明特定事項から明らかなことともいえないから、請求人の主張は、本願の特許請求の範囲に記載された発明特定事項を有する発明についての主張として妥当なものとはいえない。
また、刊行物1の実施例1等の態様において、廃棄されるハーフカット部分があるものであるとしても、廃棄されるハーフカット部分をなくして無駄をなくすように切断手段等を調整することは当業者が容易になし得た設計的事項と認められる。
よって、請求人の主張は妥当なものといえない。

イ.請求人は、平成24年9月18日付け回答書において、次の主張をしている。
「(刊行物1の)段落[0027]に記載されているように『部分71aの角度をたとえば直角にする』場合、折り返しローラが壁に当たり装置高さを高めてしまうおそれがあります。」

しかしながら、刊行物1の【図10】(摘記事項1-i)には、折り返しローラに相当する「ローラR10」を90度の角度で折り返すことが図示されているし、例えば、前記周知例1に例示されるように、粘着剤層から剥離した剥離用フィルムを折り返して巻き取る際に、折り返しの角度を90度以上とすることは、通常行われる範囲のことと認められる。
そして、部分71aの角度を直角にしても、折り返しローラの折り返しの角度を90度以上とすれば、装置高さを高めてしまうことにはならないことは、当業者にとって明らかなことと認められる。
よって、請求人の主張は妥当なものといえない。

ウ.請求人は、平成24年9月18日付け回答書において、次の主張をしている。
「本願発明における『折り返し角』とは、セパレータに折り返し部を付与する第1の補助部材とは別の第2の補助部材によってセパレータに付与される角度のことであり(請求項1)、上述の参考資料1における角度Bのことを指しています。そして、この折り返し角を90度以上とすることにより、装置の高さを押さえた構成にすることができ、例えばヒートツール9とヒートステージ7とが接近している場合においても、接着フィルムを効率よく剥がすことが可能となります(図2?4)。
そして、このような本願発明の構成および効果について、刊行物1には記載も示唆もなされておりません。」

しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明には、「第2の補助部材」がセパレータに付与する折り返し角を90度以上とすることにより、どのような作用効果が生じるのかについては記載されていないから、請求人の主張は、本願明細書の記載に基づくものといえない。
また、上記イ.において記載したとおり、折り返しローラの角度を90度とすることは引用文献1に図示されているし、また、90度以上とすることは通常行われる範囲のことと認められる。
よって、請求人の主張3は妥当なものといえない。

4 まとめ
よって、本願発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物である引用文献1、2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の点について検討するまでもなく、本件出願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-29 
結審通知日 2013-04-02 
審決日 2013-04-15 
出願番号 特願2000-356278(P2000-356278)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松原 宜史  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 星野 紹英
小出 直也
発明の名称 接着フィルムの貼付装置  
代理人 細田 浩一  
代理人 伴 俊光  

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