• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1274795
審判番号 不服2011-21979  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-12 
確定日 2013-05-29 
事件の表示 特願2001-569511「超音波Bモード及びドップラー・フロー・イメージング」拒絶査定不服審判事件〔平成13年9月27日国際公開、WO01/71376、平成15年9月24日国内公表、特表2003-527905〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、平成13年2月15日(パリ条約による優先権主張外国受理庁 平成12年3月23日、米国(US))を国際出願日とする特許出願(2001年特許願第569511号。以下「本件出願」という。)につき、平成23年7月1日付けで拒絶査定(発送日:同年同月5日)がなされたところ、これに対し、同年10月12日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成23年10月12日付けの手続補正についての補正却下の決定
1 補正却下の決定の結論
平成23年10月12日付けの手続補正を却下する。

2 補正却下の決定の理由
(1)平成23年10月12日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)の内容
本件補正は、本件出願の明細書の特許請求の範囲の請求項1を以下のとおり補正することを含むものである。

ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(平成23年2月17日提出の手続補正書の請求項1)
「【請求項1】 超音波システム(10)において、検査対象物(S)から、マルチゲート方式ドップラー・データ及びBモード・データを取得して表示する装置であって、
前記検査対象物内へ超音波を送信するように接続されている超音波送信器(50)と、
前記検査対象物から後方散乱された超音波に応答して、後方散乱信号を作成するように接続されている受信器(50)と、
前記後方散乱信号に応答して、前記対象物内の深さ変分の所定の範囲を表す複数のドップラー信号サンプルを作成する複数の距離ゲート(71?74)と、
前記ドップラー信号サンプルに応答して、前記深さ変分の範囲を表す複数のドップラー周波数信号を作成すると共に、前記後方散乱信号に応答して、前記深さ変分の範囲を表すBモード・データを作成する論理装置(20,30)と、
前記Bモード・データに応答して、前記深さ変分の範囲内の前記対象物の一部を表すBモード画像を作成すると共に、前記ドップラー周波数信号に応答して、第1の軸に沿って前記ドップラー周波数を表し且つ第2の軸に沿って前記深さ変分の範囲を表すドップラー画像を作成する表示装置(60)と、
を有し、
前記深さ変分の範囲を表す前記ドップラー画像の一部は、前記深さ変分の範囲内の前記対象物の一部を表すBモード画像に重ね合わされる、検査対象物(S)からドップラー及びBモード・データを取得して表示する装置。」

イ 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】 超音波システム(10)において、検査対象物(S)から、マルチゲート方式ドップラー・データ及びBモード・データを取得して表示する装置であって、
前記検査対象物内へ超音波を送信するように接続されている超音波送信器(50)と、
前記検査対象物から後方散乱された超音波に応答して、後方散乱信号を作成するように接続されている受信器(50)と、
前記後方散乱信号に応答して、前記対象物内の深さ変分の所定の範囲を表す複数のドップラー信号サンプルを作成する複数の距離ゲート(71?74)と、
前記ドップラー信号サンプルに応答して、前記深さ変分の範囲を表す複数のドップラー周波数信号を作成すると共に、前記後方散乱信号に応答して、前記深さ変分の範囲を表すBモード・データを作成する論理装置(20,30)と、
前記Bモード・データに応答して、前記深さ変分の範囲内の前記対象物の一部を表すBモード画像を作成すると共に、前記ドップラー周波数信号に応答して、第1の軸に沿って前記ドップラー周波数を表し且つ第2の軸に沿って前記深さ変分の範囲を表す複数のドップラー画像を作成する表示装置(60)と、
を有し、
前記超音波は、前記対象物内の第1の関心領域(ROI1)へ方向付けされた第1のドップラー・ビーム(B1)と、前記対象物内の第2の関心領域(ROI2)へ方向付けされ、前記第1のドップラー・ビーム(B1)に対して独立した第2のドップラー・ビーム(B2)とを含んでおり、前記後方散乱信号は、前記第1のドップラー・ビーム(B1)に応答して前記第1の関心領域から後方散乱された超音波に応答して作成された第1群の後方散乱信号と、前記第2のドップラー・ビーム(B2)に応答して前記第2の関心領域から後方散乱された超音波に応答して作成された第2群の後方散乱信号とを含んでおり、前記複数のドップラー信号サンプルは、前記第1群の後方散乱信号に応答して作成された第1群のドップラー信号サンプルと、前記第2群の後方散乱信号に応答して作成された第2群のドップラー信号サンプルとを含んでおり、
また前記複数のドップラー信号サンプルは、前記第1群のドップラー信号サンプルに応答して作成された第1の複数のドップラー周波数信号と、前記第2群のドップラー信号サンプルに応答して作成された第2の複数のドップラー周波数信号とを含んでおり、前記ドップラー画像は、前記第1の複数のドップラー周波数信号に応答して作成された第1のドップラー画像と、前記第2の複数のドップラー周波数信号に応答して作成された第2のドップラー画像とを含んでおり、
前記深さ変分の範囲を表す前記ドップラー画像の一部は、前記深さ変分の範囲内の前記対象物の一部を表すBモード画像に重ね合わされる、検査対象物(S)からドップラー及びBモード・データを取得して表示する装置。」
(なお、下線部は補正箇所を示す。)

(2) 本件補正の適否について
本件補正において、本件補正前の請求項1の「ドップラー画像」を「複数のドップラー画像」とすることは、ドップラー画像を減縮し、特定する補正であり、さらに、同請求項1に、「前記超音波は、前記対象物内の第1の関心領域(ROI1)へ方向付けされた第1のドップラー・ビーム(B1)と、前記対象物内の第2の関心領域(ROI2)へ方向付けされ、前記第1のドップラー・ビーム(B1)に対して独立した第2のドップラー・ビーム(B2)とを含んでおり、前記後方散乱信号は、前記第1のドップラー・ビーム(B1)に応答して前記第1の関心領域から後方散乱された超音波に応答して作成された第1群の後方散乱信号と、前記第2のドップラー・ビーム(B2)に応答して前記第2の関心領域から後方散乱された超音波に応答して作成された第2群の後方散乱信号とを含んでおり、前記複数のドップラー信号サンプルは、前記第1群の後方散乱信号に応答して作成された第1群のドップラー信号サンプルと、前記第2群の後方散乱信号に応答して作成された第2群のドップラー信号サンプルとを含んでおり、また前記複数のドップラー信号サンプルは、前記第1群のドップラー信号サンプルに応答して作成された第1の複数のドップラー周波数信号と、前記第2群のドップラー信号サンプルに応答して作成された第2の複数のドップラー周波数信号とを含んでおり、前記ドップラー画像は、前記第1の複数のドップラー周波数信号に応答して作成された第1のドップラー画像と、前記第2の複数のドップラー周波数信号に応答して作成された第2のドップラー画像とを含んでおり、」の構成を付加する補正は、補正前の「超音波」、「後方散乱信号」、「複数のドップラー信号サンプル」、及び「ドップラー画像」の構成を、減縮し特定する補正であるから、特許請求の範囲を減縮するものである。
そうすると、本件補正は減縮する補正を含む補正であり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前(以下、単に「平成18年改正前」という。)の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(3) 独立特許要件について
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(ア)引用刊行物記載の発明
(3A)原査定の拒絶の理由に引用され、本件出願の優先権主張の日前に頒布された特開昭61-181449号公報(以下、「引用刊行物A」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付与したものである。以下、同様である。)

(3A-1)「特許請求の範囲
(1)生体被検査領域の2次元血流速分布をリアルタイムに計測する第1の手段と、該被検査領域上の指定線で指定する線状領域の1次元血流速分布を2次元血流速分布の計測とは異なる測定条件で計測する第2の手段とを有する血流速度測定装置において、
該第2の手段が出力する線状領域の流速情報を該流速情報に比例する変位で、2次元血流速分布図上に又は前記指定線が表示された該2次元血流速分布図と並べて同時表示する手段を有することを特徴とする血流速度測定装置。
・・・
(5)2次元血流速分布図にはBモード図が重ね表示されていることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の血流速度測定装置。」(1頁左下欄4行?右下欄10行)

(3A-2)「〔概要〕
2次元血流速分布図と、該分布図上の指定線上の血流速分布を血流速に比例する変位として表示する分布図を、位置対応が明瞭なようにして同時表示し、各部面流速の把握が確実、容易であるようにした。
〔産業上の利用分野〕
本発明は、生体内臓器特に心臓の中の血液の流速を可視像化し、臓器の超音波像と共に表示して、心臓病などの診断を正確、迅速に行なうのに有効な血流速度測定装置に関する。
超音波を生体内に送信し、反射波を受信してブラウン管に表示すると、生体内蔵器の像が得られ、かかる装置(超音波診断装置)は生体内疾病の発見、治療に広く使用されている。また超音波が、血液のように動いているものに当って反射すると、反射超音波の周波数はドツプラ効果により送信超音波の周波数より流速に応じた値だけずれており、このずれより該流速(詳しくは超音波送受信方向の速度成分)を求め、流速分布をブラウン管に表示することができる。心臓の弁不良などの病気は心臓内血液の流れが正常時と異なるから、ブラウン管上の血流速分布図を観察することにより心臓病診断を適確、容易に行なうことができる。
・・・
〔従来の技術〕
指定した線上の血流速分布のような1次元流速分布表示(ID)は一般に横軸は時間のMモード像上で行なわれ、臓器内面流速分布のような2次元流速分布表示(2D)はBモード像上で行なわれる。第6図で説明すると(a)はMモート像上のID表示で、横軸は時間、縦軸は距離(深さ)である。曲線41?43は臓器(本例では心臓)の器壁、斜線部44,45は血流速を示す。即ち曲線41?43は器壁の各1点を示すがこれらは運動しているので時間軸で見れば曲線になり、またこれらの器壁で囲まれた空間(こゝでは線状空間)内の血液は流れているので流速を持ちその流速が輝度で表わされるので該空間つまり44,45は時間軸で見れば流速の時間変化に対応して輝度が変化する領域となる。横軸は時間のMモート表示に重ねられたこのID表示は、速度が輝度(または色)で表わされるため、速度値を詳細に読取ることは困難である。
第6図(b)はBモード像上の2D表示例を示し、51?54は臓器(心臓)の器壁、斜線55?57は血流速を表わす。この像は第5図に示すようにプローブ(超音波送受信器)10からの超音波で生体内被検査領域を扇形走査して得られたものである。即ちプローブ10から超音波を、少しずつ角度を変えながら送出し、反射波を受信すると、扇形領域12を超音波で走査することができ、該反射波を走査と同期してブラウン管上に表示すると扇形領域12内の臓器の器壁が第6図(b)の51?54の如く表示される(これをBモード像という)。器壁間血液の流速は反射波をドツプラ処理して得られ、輝度又は色として表示される。この2D表示は、心臓内血流状態に異常を来たしている病変などを短時間で検出可能とし、診断に大きな成果を挙げているが、やはり速度を輝度または色で表わすため速度表示段階が4?8段と粗く、速度値読取りが容易でない。
・・・
第5図はID表示と2D表示ができる超音波診断装置の概要を示す図で、プローブ10は多数の超音波送受信子を配列してなるアレイ型であり、送信・偏向部20で該プローブの送受信子を逐次選択して電圧印加することにより送出角度を順次異ならせて超音波を送信し、扇形走査することができる。受信・偏向部22はその逐次選択される送受信子の反射波受信出力を受取り、それをBモード又はMモード処理部24及びマルチゲートドプラ処理部26へ送る。表示制御部28はCRT表示部30ヘビデオ信号を送る画面メモリを備えており、処理部24は該画面メモリへBモード又はMモード像データを書込み、処理部26は該画面メモリへ血流速情報(スペクトル、平均、分散)を書込む。なお既知のように画面メモリはCRTに表示される画像と同じ画像(但しデータ)を格納される。
第6図(a)のようなMモード像を表示する場合はカーソル14により超音波を送受信する線状領域を指定し、この線状領域へ超音波を繰り返し、例えば100回送信し、その都度反射超音波を受信する。その受信データを処理部24でMモード処理し、画面メモリに書込み、表示部30に表示すれば、該100回の送受信期間を横軸に、反射点までの距離を縦軸にして、第6図(a)の曲線41,42,43の如き像が表示され、更に処理部26でドップラ処理して流速データを得、これを表示制御部28の画面メモリに書込めば流速に応じて輝度又は色変化する領域44,45が表示される。プローブ10で送受信する超音波送出領域を線状領域に限定せず、扇状領域12に亘って変化させれば、第6図(b)の像になる。」(1頁右下欄12行?3頁左上欄9行)

(3A-3)「〔問題点を解決するための手段および実施例〕
本発明は、生体被検査領域の2次元血流速分布をリアルタイムに計測する第1の手段と、該被検査領域上の指定線で指定する線状領域の1次元血流速分布を2次元血流速分布の計測とは異なる測定条件で計測する第2の手段とを有する血流速度測定装置において、該第2の手段が出力する線状領域の流速情報を該流速情報に比例する変位で、2次元血流速分布図上に又は前記指定線が表示された該2次元血流速分布図と並べて同時表示する手段を有することを特徴とするものである。
本発明の血流速度測定装置の概略、構成は第5図と同じであり、異なるのは表示制御部28の一部で、これを第1図に示す。28aはピットマップ(画面メモリ)で、第5図のB/Mモード処理部24及びマルチゲートドプラ処理部26より画像データを書込まれる。本発明では指定線上の流速分布を第2図(a)?(d)のようにグラフ(線画)表示する。これらの図の画像60は第6図(b)と同じ2D表示を加えたBモード像であり、14aはカーソルで、第5図で言えば走査(被検査)領域12上の直線状領域14を示す。カーソル14aで指定した線状領域に超音波送受信方向を固定して、この位置で複数回前記の例では100回送受信し、マルチゲートドプラ処理部26で血流速分布を求め、それを画像60と同じ表示部(CRT)画面70にグラフ表示する。第2図(a)では該グラフは61であり、画像60と並べて表示する。このグラフ6Iで表わされる流速分布は勿論カーソル14a上の流速分布であり、このカーソルにより1次元表示61と2次元表示60との対応が明示される。
第2図(b)では前記グラフは62であり、これは画像60上のカーソル14a上に表示され、1次元表示と2次元表示の対応つまりどの部分の流速かが明示される。また第2図(c)では前記グラフは63であり、やはり画像60内に表示される。どの部分の流速かはグラフの横軸として表示された直線14bが示している。直線14bは順次角度を変えた複数本のカーソル上の所定点を結んで得られるものである。カーソル14aは超音波送受信方向を示す線であり、プローブ10から放射状にしか延びないが、順次角度を変える複数本のカーソルに沿って超音波送受信を行ない、直線14b上での流速のみを取出してグラフ表示すると曲線63が得られる。こゝでは直線14bもカーソル若しくは指定線と呼ぶ。また第2図(d)では前記グラフは64であり、これは画像(ID表示を加えたMモード像)65上に表示される。このグラフ64は、画像60上のカーソル14a上の流速分布を示すと共に、画像65上のある時点(これはグラフ64の横軸14cで示される)における流速分布を示す。
第2図(a)のグラフ61を画かせるには、ビットマップ28aは画面70に対応させ、該ビットマップの一部に画像60のデータを書込み(この書込み系は第1図では図示を省略している)、該ビットマップの残部にグラフ61のデータを書込めばよい。第1図のDはカーソル14a上のn個の点(ドップラ処理はこのように分割して行なう)の流速データであり、速度ピット・マップアドレス変換回路28bにより、該n個の点に対する画面70上、従ってビットマップ28a上アドレスが求められ、該アドレスにデータDが書込まれる。詳しくは、該アドレス(これは画面の横方向をx座標、縦方向をy座標として、所定のx座標を通りX方向に延びる直線の座標)をデータDでx方向に変えたアドレスに、所定の輝点を表わすデータが書込まれる。アドレス変換回路28bはかゝるx座標Axを出力し、また歩進カウンタ28dはy座標Ayを出力する。
第2図(b)のグラフ62のデータもは一同様にしてビットマップに書込むことができるが、カーソル14aがX方向を向く場合はとも角(第1図(alとはX座標が異なるのみ)、それ以外の斜め方向を向く場合は修正が必要である。即ちカーソル14aはグラフ62の横軸になるので、それが傾くということは座標回転させたことであり、グラフ62上の各点の座標を該座標回転に応じて座標変換する必要がある。この座標変換をするに必要なデータは読取り専用メモリ28Cに格納しておき、カーソルの角度情報φによりこれを読出し、得られた修正量Δx、Δyを歩進カウンタ28dの出力、アドレス変換回路28bの出力に加える。」(3頁左下欄1行?4頁左下欄4行)

(3A-4)「処理時間を第4図で説明すると、第6図(b)の画像は、超音波を一方向に8回送受信し、これらよりドップラ信号を取出すと共に、1回目の送受信でBモード信号を得、これらにより画いている。扇形領域は32方向に分割しており、従って第4図(a)に示すように送受信回数は32×8=256回である。深さ19.5cmまで計測するとすれば、1回の送受信には19.5cm×2/1.5×10^(5)cm/S=260μSかかり、従って全体では32×260μS=83mSかかる。同じ時間にグラフ61?64のデータも得るには第4図(b)または(c)に示すようにすればよく、これは可能である。即ち第4図(b)では24方向に分割しており、従って2D表示用には192回の送受信を行ない、残りの256-192=64回の送受信は1D(グラフ)表示用に割当てる。送受信回数を多くするとS/Nの向上、速度は周波数分解能の向上を図ることができ、定量測定用のグラフ表示にはこのように測定条件を変える(送受信回数を変える)のがよく、これにより高精度の1次元流速分布測定を可能とすることができる。また第4図(c)では16方向に分割して16×8=128回の送受信で2D表示を行ない、残りの128の送受信の各半分を1D表示用及びBモード表示用に割当てている。
第4図(b)では単純に2D表示用に24方向へ、1方向では8回ずつ超音波を送受信する操作を開始し、カーソルで指定されたID表示用線状領域へ来たとき64回続けて超音波を送受信し、それが終ったら再び2D表示用の送受信を続けるという方法でもよいが、2D表示用と1D表示用の超音波送受信を交互に行なうようにしてもよい。」(5頁左上欄1行?右上欄12行)

(3A-5)第2図(b)には、カーソル14aの軸が生体内被検査領域の深さ方向を示し、及び、カーソル14aの軸に直交する方向に流速分布を示すことが描かれている。

上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-1)?(3A-5)の記載を参照すると、上記引用刊行物Aには、
「超音波診断装置において、超音波を生体内に送信し、反射波を受信し、マルチゲートドプラ処理部26及びB/Mモード処理部24を介して、グラフ62で表わされる流速分布と、画像60で表されるBモード像をCRT画面70に表示する超音波診断装置であって、
プローブの送受信子を逐次選択して電圧印加することにより送出角度を順次異ならせて超音波を生体内被検査領域に送信する送信・偏向部20と、
生体内被検査領域からの反射波を受信する送受信子の反射波受信出力を受取る受信・偏向部22と、
送受信子の反射波受信出力を受取った受信・偏向部22から送られる受信データをドップラ処理して血流速データを得るマルチゲートドプラ処理部26と、
送受信子の反射波受信出力を受取った受信・偏向部22から送られる受信データをB/Mモード処理するB/Mモード処理部24と、
処理部24でBモード処理された画像データからBモード像の画像60を表示するとともに、マルチゲートドプラ処理部26で処理された画像データからカーソル14a線上に血流速分布のグラフ62を表示する表示制御回路28及び表示部30と、
を有し、
血流速分布のグラフ62をBモード像の画像60上の超音波送受信方向を示すカーソル14a線上に表示する超音波診断装置。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

(3B)原査定の拒絶の理由に引用され、本件出願の優先権主張の日前に頒布された、特開平10-165400号公報(以下、「引用刊行物B」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(3B-1)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、超音波変調ビームを診断部に対して送受波して、診断部内の運動情報を抽出する超音波診断装置に関する。」

(3B-2)「【0014】図1は超音波診断装置の構成を示すブロック図である。同図において発振器1は例えば5MHzの搬送波周波数信号を発生し、パルサ2はプローブ3の振動部の数に相当する数の駆動回路からなり、それぞれ発振器1の信号をパルス変調してプローブ3の各振動部からそれぞれ超音波のバースト波を発生させる。ディレイ回路5はプロセッサ29から与えられる送受波ビームの指向方向のデータに応じて、パルサ2の各駆動回路に対して所定の時間差(位相差)をもってパルス変調信号を与える。これにより所定の指向方向に送波ビームが形成される。プリアンプ4はプローブ3の各振動部の受波信号を前段増幅し、ディレイ回路5はその信号をプロセッサ29から与えられる送受波ビームの指向方向のデータに応じて、所定の時間差(位相差)をもって出力する。加算回路6は遅延されたこれらの受波信号を加算することによって、所定の指向方向からの受波信号の時系列信号を生成する。検波回路7は受波信号の振幅成分を検出する。ADコンバータ8は検波信号をディジタル信号に変換し、プロセッサ29はそのデータを順次読み取り、上記送受波ビームの指向方向(角度)と、そのビーム上のどの距離(深さ)からの受波信号が検出されているかを示すデータと検波信号のデジタルデータとによってBモード像の画像データを生成し、これを画像メモリ30に書き込む。表示制御部31は画像メモリ30に書き込まれたデータを画像として表示部32に表示する。プロセッサ29はCPU,RAM,ROMを含み、CPUはROMにあらかじめ書き込んだプログラムを実行することによって前述および後述の処理を行う。RAMはそのプログラムの実行に際してワーキングエリアとして用いる。
【0015】一方、90度位相シフタ12は発振器1の発振信号に対して90度の位相差を与える。乗算回路13は加算回路6によって得られた受波信号に対して、キャリア周波数の信号である発振器1の発振信号をI成分抽出用参照波として掛け合わせてI成分の信号を生成し、乗算回路14は加算回路6によって得られた受波信号に対して、90度位相のずれたキャリア周波数の信号をQ成分抽出用参照波として掛け合わせてQ成分の信号を生成する。ローパスフィルタ15,16は発振信号の周波数成分を含む不要な高周波成分を除去する。ここで、発振信号の角周波数をωr 、ドプラシフト角周波数をωd として、受波信号をAcos(ωr + ωd) tとし、上記参照波をそれぞれBcos ωr tおよびBsin ωr tとすれば、ドプラシフト周波数信号のI成分は(AB/2)cos ωd tと表されQ成分は(AB/2)sin ωd tと表される。このように、受波信号に対して90度位相の異なる発振信号を参照波として乗じて、すなわち2乗検波して、ドプラシフト周波数より高域の周波数成分を除去することによって、90度位相差検波によりドプラシフト周波数信号のI成分とQ成分を抽出する。
【0016】サンプルホールド回路17,18はタイミング信号発生回路38からのタイミング信号によってローパスフィルタ15,16の出力信号をサンプリングし、ホールドする。具体的には、例えば26kHz等の所定のパルス繰り返し周波数(以下PRFという。)で同一方向に送波ビームを順次複数回送波するとともに、その都度ビーム上に所定のサンプルゲートの位置をサンプリングする。このPRFは求めるべきドプラシフト周波数の最高周波数の2倍以上にとればよい。バンドパスフィルタ19,20はこの信号から、例えば呼吸や拍動などの0Hz付近に強く生じる不要な低周波信号成分、およびサンプリングにより生じる不要な高周波成分を除去する。マルチプレクサ21,22はタイミング信号発生回路38からの切換信号に応じた入力を選択してADコンバータ23,24へ与える。ADコンバータ23,24はこれをそれぞれディジタルデータに変換する。メモリ27はそれらのデータを記憶する。FFT回路28はメモリ27にそれぞれ書き込まれたI成分およびQ成分の時間波形データを高速フーリエ変換することによって、ドプラシフト周波数のスペクトルを求め、その実数部と虚数部との2乗和または2乗和の平方根、またはそれをさらに対数変換した値をパワースペクトルとして求める。このドプラシフト周波数のパワースペクトルは、血流速分布(縮流)、超音波ビームの幅方向への広がり、血管の形状および走行(乱流)、血球からの不規則散乱などの影響をうけて、通常或る広がりをもつため、最高ドプラシフト周波数は意味をもたない。そこで、例えばパワースペクトルの最高値の1/2のパワースペクトルを示す周波数をドプラシフト周波数として求める。
【0017】上記サンプルホールド回路17,18、バンドパスフィルタ19,20は設定可能なサンプルゲートの数に対応する数だけあれば十分であるが、実際には各サンプルホールド回路は1スキャン分に亘ってホールドする必要がないため、それより少ない数でよい。すなわち、同一ビーム上にサンプルゲートが密集して、一部が重なる場合があっても、各サンプルゲートの信号を順次AD変換できるだけの数を用意しておいて、それらを順繰りに使用すればよい。
【0018】プロセッサ29はトラックボール33およびキーボード34の操作内容を読み取って、後述するサンプルゲート設定領域を設定し、その領域内にサンプルゲートの位置を設定する。すなわち、Bモード像抽出のための時間とは別の時間に、サンプルゲートを通る方向に送受波ビームを向けるとともに、タイミング信号発生回路38がその送受波ビーム上のサンプルゲートの位置からの反射波をサンプリングし、その信号がサンプリングの順にADコンバータ23,24に出力されるように、タイミング信号発生回路38へ制御データを与える。また、プロセッサ29はFFT回路28の求めた各時刻の各サンプルゲートにおけるスペクトルからドプラシフト周波数すなわち運動物体の速度をそれぞれ求めるとともに、キーボード34により選択される表示モードに応じて各種演算処理を施して画像データを生成し、これを画像メモリ30に書き込む。表示制御部31は画像メモリ30に書き込まれた画像データに応じた画像を表示部32に表示する。また、プロセッサ29はカラーフローイメージデータを生成する回路(不図示)からのカラーフローデータを読み取って、画像メモリ30にカラーフローイメージデータを書き込んだり、そのデータから血流速度の高い領域を抽出し、複数のサンプルゲートをその領域に自動設定する。オーディオ処理回路35はバンドパスフィルタ19,20のいずれかから出力される、指定された1つのサンプルゲートにおけるドプラシフト周波数の信号を増幅し、スピーカ36,37へ出力する。これにより、指定されたサンプルゲートの位置におけるドプラシフト周波数の音の変化(血流速度の拍動音)を聞くことができる。
【0019】このように受波信号に対して、90度の位相差を持った送波信号のキャリア周波数信号をそれぞれ乗じてローパスフィルタを通すことによって90度位相差検波を行い、ドプラシフト周波数信号のI信号とQ信号を検出し、これを、設定したサンプルゲートの位置からの受波信号について検出するために、それぞれのサンプルゲートの位置に応じたタイミングでサンプルホールドし、それぞれのサンプルゲートにおけるドプラシフト周波数信号のドプラシフト周波数データを抽出する。これを送波ビームおよび受波ビームのスキャンを繰り返す毎に行うことによって、各サンプルゲートにおけるドプラ周波数の時間変化を検出する。」

(3B-3)「【0021】図3はプローブと診断部およびサンプルゲートの設定領域との関係を示す図である。プローブ3によるスキャンはセクタ状であり、その範囲内のBモード像を得る。このBモード像が表示されている画面に対してセクタ状のサンプルゲート設定領域の対角の2点をトラックボールやジョイスティックなどのポインティングデバイスで設定することによって(A)に示すようにセクタ状のサンプルゲート設定領域を設定する。このように診断部内にサンプルゲート設定領域を設定することによって、(B)に示すようにその設定領域内に複数のサンプルゲートを分布させる。この例では、サンプルゲート設定領域内の距離方向に等間隔、角度方向に略等角度にサンプルゲートが分布するようにその位置を自動決定する。
【0022】尚、図1に示した構成で、メモリ27およびFFT回路28は、それぞれ複数のサンプルゲートについて受け持つようにすれば、メモリ27およびFFT回路28の数はサンプルゲートの数より少なくてもよい。また、サンプルゲートの位置がプローブ3に近づくほど、角度方向に隣接するサンプルゲートの間隔が狭くなり、逆にサンプルゲートの位置がプローブ3より遠ざかるほど、角度方向に隣接するサンプルゲートの間隔が広くなるため、プローブに近い位置ほど角度方向のサンプルゲートの間隔を間引くようにし、プローブから遠い位置ほど角度方向のサンプルゲートの間隔を補間するようにして、限られた設定可能なサンプルゲートの数を有効に利用するようにしてもよい。また、サンプルゲート設定領域を設定する方式ではなく、複数のサンプルゲートの位置を個別に任意に設定するようにしてもよい。
【0023】図4はこのようにして設定された各サンプルゲートにおけるドプラシフト周波数の大きさ、すなわち血流速度に応じた濃度および色の像をBモード像に重ねて表示させた例である。ただし、図面上では濃度および色を表せないので、濃度の違いをドットの大きさで表している。また、拍動によって血流速度が変化するため、時間経過に伴って上記サンプルゲート位置の濃度および色が変化する。このように白黒のBモード像に対してサンプルゲートのドプラシフトの大きさに応じたカラー画像を重ねて表示することによって、血流のある位置および血流速度の変化を容易に把握できるようになる。尚、上記実施形態の濃度および色を用いて表示する代わりに、血流の速度と方向を示す情報をベクトル表示することもできる。また、上記濃度および色に加えて重ねて血流の速度と方向を示す情報をベクトル表示させることもできる。
【0024】図5は受波ビーム上の血流速度のプロファイルを求めた場合の例について示している。(A)に示す例では、血管内の狭窄部を含む領域をサンプルゲート設定領域としている。通常このような血栓の音響特性は血液の音響特性と殆ど同一であるため、血管内の狭窄部はBモード像には殆ど表れない場合もある(前述のカラーフローイメージングでも解像度が低いため、画像上には殆ど表れない場合もある。)。血流速度プロファイルを求めるには、各受波ビーム上の各サンプルゲートにおけるドプラシフト周波数(すなわち血流速度に比例する値)の瞬時値を求め、その時間波形におけるピーク値または時間平均値を検出し、(B)に示すように受波ビーム上の各サンプルゲート位置における血流速度を結ぶ曲線を求めれば、それが血流速度プロファイルとなる。このような血流速度プロファイルを各受波ビーム毎に抽出すれば、サンプルゲート設定領域内についての血流速度分布が求まる。このように血管断面での血流速度プロファイルが求まれば、これからより正確な血流量の計算が可能となる。」

(3B-4)「【0028】図10は複数のサンプルゲートについて同時計測が可能な本願の特徴を利用して、同時に複数のサンプルゲート位置における血流速度波形を表示した例である。画面の上方にはBモード像にサンプルゲート位置を示すマークを重ねて表示し、下部には各サンプルゲート位置における血流速度波形を表示する。サンプルゲート数が多い場合には、血流速度波形を更に細かく配列するか、キー操作などによってページを切り換えて表示するようにしてもよい。
【0029】以上に述べた例では、プローブを中心とする扇形の範囲をスキャンする例を示したが、図11に示すようにいわゆるリニアプローブ方式で、プローブに垂直な方向に送波ビームおよび受波ビームを形成し、ビームの位置を平行に移動させる場合についても同様に適用することができる。尚、プローブの送受波面に対して、送波ビームおよび受波ビームの傾き角度は血流の方向に応じて変えられる。この場合も、サンプルゲート設定領域の対角位置をトラックボールなどによって設定することにより、ビーム方向およびスキャン方向についてそれぞれ等間隔にサンプルゲートを分布させるように各サンプルゲートの位置を自動設定するように構成すればよい。」

(3B-5)図10には、Bモード画像上の2つの送受信方向における複数の所定のサンプルゲート位置での血流速度波形を、Bモード画像とともに表示することが描かれている。

(イ)本願補正発明と引用発明との対比・判断
(イ-1)本願補正発明と引用発明とを対比する。
(i)引用発明の「超音波診断装置」及び「生体内」は、その構成・機能からみて、それぞれ本願補正発明の「 超音波システム(10)」及び「検査対象物(S)」に相当する。
さらに、引用発明の「マルチゲートドプラ処理部26」は、受信データをドップラ処理して血流速データを得ることから、本願補正発明の「マルチゲート方式ドップラー・データ」「を取得」するものに相当し、また、上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-4)に、
「処理時間を第4図で説明すると、第6図(b)の画像は、超音波を一方向に8回送受信し、これらよりドップラ信号を取出すと共に、1回目の送受信でBモード信号を得、これらにより画いている。扇形領域は32方向に分割しており、従って第4図(a)に示すように送受信回数は32×8=256回である。深さ19.5cmまで計測するとすれば、1回の送受信には19.5cm×2/1.5×10^(5)cm/S=260μSかかり、従って全体では32×260μS=83mSかかる。」
と記載されており、この記載によれば、引用発明の「B/Mモード処理部24」は、Bモードにおいて、受信データをBモード処理していることから、本願補正発明の「Bモード・データを取得」することに相当する。
そうすると、引用発明の「超音波を生体内に送信し、反射波を受信し、マルチゲートドプラ処理部26及びB/Mモード処理部24を介して、グラフ62で表わされる流速分布と、画像60で表されるBモード像をCRT画面70に表示する超音波診断装置」が、本願補正発明の「検査対象物(S)から、マルチゲート方式ドップラー・データ及びBモード・データを取得して表示する装置」に相当する。

(ii)本件出願明細書の段落【0011】に、
「 図1のスキャナ・システム10の『フロントエンド』部は、超音波トランスデューサ・アレイ40と、送信器(TX)、受信器(RX)、TX/RXビームフォーマ、復調器、復号器及びフィルタ・モジュール50とを含んでいる。」
と記載されていることから、引用発明の「プローブの送受信子を逐次選択して電圧印加することにより送出角度を順次異ならせて超音波を生体内被検査領域に送信する送信・偏向部20」が、本願補正発明の「前記検査対象物内へ超音波を送信するように接続されている超音波送信器(50)」に相当する。
また、例えば、特開昭62-164441号公報に、
「(a)焦点を合わせた信号を血管の中心へ送り、かつ血管内の血液流を表す後方散乱ドプラーシフト信号を受けるB-モードおよびパルス化超音波ドプラースキャナー」(5頁右下欄18行?6頁左上欄1行)
と記載されているように、超音波を送信した際の対象物からの反射波が、対象物から後方散乱された超音波であることは自明な技術事項であることから、引用発明の「生体内被検査領域からの反射波を受信する送受信子の反射波受信出力を受取る受信・偏向部22」が、本願補正発明の「前記検査対象物から後方散乱された超音波に応答して、後方散乱信号を作成するように接続されている受信器(50)」に相当する。

(iii)例えば、特開昭62-137041号公報に、
「〔従来の技術〕
超音波診断装置における血流速プロファイル表示は、超音波ビームを生体内のターゲットに向けて放射し、その反射波信号について、心腔内などの診断領域内の連続する複数位置に対応させた多数のサンプルゲートを設け、並列に周波数解析処理すなわちドプラ解析を行い、第4図に示すように、リアルタイムで深さ方向(ビーム方向)の血流速分布を求める場合に使用される。」(1頁右下欄8?16行)
こと、
「〔問題点を解決するための手段〕
本発明は、血流速プロファイル情報を作成するために使用する複数のサンプルゲート(以後、マルチゲートという)のゲート位置を、血流スペクトルの測定点に自動的に追従させて変更することにより、血流速プロファイル表示と血流スペクトル時系列表示とを連動制御するものである。」(2頁右上欄2?8行)
こと、及び、
「なお2本発明による単一ゲートパルスとマルチゲートパルスとの連動制御は、必要に応じて任意に解除可能にすることもできる。その場合には。
従来の装置と同様に、血流速プロファイル表示領域を血流スペクトル時系列表示の測定点とは無関係に任意設定することができる。」(4頁左上欄13?18行)
ことが記載されているように、超音波診断装置のドップラー処理に用いられるマルチゲートが、任意に設定された深さ方向、すなわち、距離に対応して設けられた多数のサンプルゲートであることは技術常識であるから、引用発明の「送受信子の反射波受信出力を受取った受信・偏向部22から送られる受信データをドップラ処理して血流速データを得るマルチゲートドプラ処理部26」の「マルチゲート」が、本願補正発明の「前記後方散乱信号に応答して、前記対象物内の深さ変分の所定の範囲を表す複数のドップラー信号サンプルを作成する複数の距離ゲート(71?74)」に相当する。

(iv)本件出願明細書の段落【0010】に、
「 図1に示される好ましい実施形態では、Bモード・データ処理は処理装置20の形態の専用のBモード論理装置で具現化される。一方、ドップラーI/Qデータのマルチゲート処理、及び全てのBモード後処理(走査変換、ビデオ処理)はプログラマブル・コンピュータ30の形態の別の論理装置で実行される。論理装置20及び30は、マイクロプロセッサ、ディジタル信号処理装置、又は論理及び算術演算が可能な特定用途向け集積回路を含めて、様々なデバイスによって具現化することができる。」
と記載されていることから、引用発明の「マルチゲートドプラ処理部26」、及び「B/Mモード処理部24」が、本願補正発明の「論理装置」に含まれることは明らかである。
また、本件出願明細書の段落【0017】に、
「[異なる表示窓におけるBモード及びスペクトル・フロー画像]
図3は表示装置60の画面110上の一形態の表示を表す。ドップラー周波数信号を表すドップラー画像DIが画面110の一部分120に表示される。該画面部分120において、垂直軸Vは距離の位置(対象物S内の深さ変分)を表し、水平軸はドップラー・シフト周波数すなわち速度を表す。(本明細書では、ドップラー速度はドップラー周波数の一形態を表しているものと見なす)。・・・」
と記載されていることから、本願補正発明の「ドップラー周波数信号」は、「ドップラー・シフト周波数」すなわち「速度」を意味し、さらに、上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-2)に、
「また超音波が、血液のように動いているものに当って反射すると、反射超音波の周波数はドツプラ効果により送信超音波の周波数より流速に応じた値だけずれており、このずれより該流速(詳しくは超音波送受信方向の速度成分)を求め、流速分布をブラウン管に表示することができる。・・・」
ことが記載されていることから、引用発明の「受信データをドップラ処理して血流速データを得る」ことは、本願補正発明の「複数のドップラー周波数信号を作成する」ことに含まれる。
そして、上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-2)に、
「第6図(b)はBモード像上の2D表示例を示し、51?54は臓器(心臓)の器壁、斜線55?57は血流速を表わす。この像は第5図に示すようにプローブ(超音波送受信器)10からの超音波で生体内被検査領域を扇形走査して得られたものである。
・・・
第6図(a)のようなMモード像を表示する場合はカーソル14により超音波を送受信する線状領域を指定し、この線状領域へ超音波を繰り返し、例えば100回送信し、その都度反射超音波を受信する。その受信データを処理部24でMモード処理し、画面メモリに書込み、表示部30に表示すれば、該100回の送受信期間を横軸に、反射点までの距離を縦軸にして、第6図(a)の曲線41,42,43の如き像が表示され、更に処理部26でドップラ処理して流速データを得、これを表示制御部28の画面メモリに書込めば流速に応じて輝度又は色変化する領域44,45が表示される。プローブ10で送受信する超音波送出領域を線状領域に限定せず、扇状領域12に亘って変化させれば、第6図(b)の像になる。」
と記載されていることから、B/Mモード処理部24が、Bモード処理する際には、扇状領域12の深さの範囲内をBモード処理することになる。
そうすると、引用発明の「送受信子の反射波受信出力を受取った受信・偏向部22から送られる受信データをドップラ処理して血流速データを得るマルチゲートドプラ処理部26」及び「送受信子の反射波受信出力を受取った受信・偏向部22から送られる受信データをB/Mモード処理するB/Mモード処理部24」が、本願補正発明の「前記ドップラー信号サンプルに応答して、前記深さ変分の範囲を表す複数のドップラー周波数信号を作成すると共に、前記後方散乱信号に応答して、前記深さ変分の範囲を表すBモード・データを作成する論理装置(20,30)」に相当する。

(v)上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-2)に、
「第6図(b)はBモード像上の2D表示例を示し、51?54は臓器(心臓)の器壁、斜線55?57は血流速を表わす。この像は第5図に示すようにプローブ(超音波送受信器)10からの超音波で生体内被検査領域を扇形走査して得られたものである。」
と記載されており、この記載によれば、引用発明において、Bモード像の画像60は、生体内の扇形の被検査領域の画像を表示しているものといえる。
さらに、上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-4)に、
「第2図(b)には、カーソル14aの軸が生体内被検査領域の深さ方向を示し、及び、カーソル14aの軸に直交する方向に流速分布を示す」
ことが記載されており、また、上記(iv)において検討したように、本願補正発明の「ドップラー周波数信号」は、「ドップラー・シフト周波数」すなわち「速度」を意味することを考慮すると、引用発明の「処理部24でBモード処理された画像データからBモード像の画像60を表示するとともに、マルチゲートドプラ処理部26で処理された画像データからカーソル14a線上に血流速分布のグラフ62を表示する表示制御回路28及び表示部30」と、本願補正発明の「前記Bモード・データに応答して、前記深さ変分の範囲内の前記対象物の一部を表すBモード画像を作成すると共に、前記ドップラー周波数信号に応答して、第1の軸に沿って前記ドップラー周波数を表し且つ第2の軸に沿って前記深さ変分の範囲を表す複数のドップラー画像を作成する表示装置(60)」とは、「前記Bモード・データに応答して、前記深さ変分の範囲内の前記対象物の一部を表すBモード画像を作成すると共に、前記ドップラー周波数信号に応答して、第1の軸に沿って前記ドップラー周波数を表し且つ第2の軸に沿って前記深さ変分の範囲を表すドップラー画像を作成する表示装置(60)」である点で共通する。

(vi)上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-4)に、
「第2図(b)には、カーソル14aの軸が生体内被検査領域の深さ方向を示し、及び、カーソル14aの軸に直交する方向に流速分布を示す」
ことが記載されていることから、引用発明の「血流速分布のグラフ62をBモード像の画像60上の超音波送受信方向を示すカーソル14a線上に表示する超音波診断装置」と、本願補正発明の「前記深さ変分の範囲を表す前記ドップラー画像の一部は、前記深さ変分の範囲内の前記対象物の一部を表すBモード画像に重ね合わされる、検査対象物(S)からドップラー及びBモード・データを取得して表示する装置」とは、「前記深さ変分の範囲を表す前記ドップラー画像は、前記深さ変分の範囲内の前記対象物の一部を表すBモード画像に重ね合わされる、検査対象物(S)からドップラー及びBモード・データを取得して表示する装置」である点で共通する。

そうすると、本願補正発明と引用発明とは、
「 超音波システム(10)において、検査対象物(S)から、マルチゲート方式ドップラー・データ及びBモード・データを取得して表示する装置であって、
前記検査対象物内へ超音波を送信するように接続されている超音波送信器(50)と、
前記検査対象物から後方散乱された超音波に応答して、後方散乱信号を作成するように接続されている受信器(50)と、
前記後方散乱信号に応答して、前記対象物内の深さ変分の所定の範囲を表す複数のドップラー信号サンプルを作成する複数の距離ゲート(71?74)と、
前記ドップラー信号サンプルに応答して、前記深さ変分の範囲を表す複数のドップラー周波数信号を作成すると共に、前記後方散乱信号に応答して、前記深さ変分の範囲を表すBモード・データを作成する論理装置(20,30)と、
前記Bモード・データに応答して、前記深さ変分の範囲内の前記対象物の一部を表すBモード画像を作成すると共に、前記ドップラー周波数信号に応答して、第1の軸に沿って前記ドップラー周波数を表し且つ第2の軸に沿って前記深さ変分の範囲を表すドップラー画像を作成する表示装置(60)と、
を有し、
前記深さ変分の範囲を表す前記ドップラー画像は、前記深さ変分の範囲内の前記対象物の一部を表すBモード画像に重ね合わされる、検査対象物(S)からドップラー及びBモード・データを取得して表示する装置。」
である点で一致し、次の相違点(あ)?相違点(う)で相違する。

・相違点(あ)
第1の軸に沿って前記ドップラー周波数を表し且つ第2の軸に沿って深さ変分の範囲を表すドップラー画像を作成する際に、本願補正発明では、「複数」のドップラー画像を作成するのに対して、引用発明では、カーソル14a線上に血流速分布のグラフ62を表示する点。

・相違点(い)
本願補正発明では、「前記超音波は、前記対象物内の第1の関心領域(ROI1)へ方向付けされた第1のドップラー・ビーム(B1)と、前記対象物内の第2の関心領域(ROI2)へ方向付けされ、前記第1のドップラー・ビーム(B1)に対して独立した第2のドップラー・ビーム(B2)とを含んでおり、前記後方散乱信号は、前記第1のドップラー・ビーム(B1)に応答して前記第1の関心領域から後方散乱された超音波に応答して作成された第1群の後方散乱信号と、前記第2のドップラー・ビーム(B2)に応答して前記第2の関心領域から後方散乱された超音波に応答して作成された第2群の後方散乱信号とを含んでおり、前記複数のドップラー信号サンプルは、前記第1群の後方散乱信号に応答して作成された第1群のドップラー信号サンプルと、前記第2群の後方散乱信号に応答して作成された第2群のドップラー信号サンプルとを含んでおり、
また前記複数のドップラー信号サンプルは、前記第1群のドップラー信号サンプルに応答して作成された第1の複数のドップラー周波数信号と、前記第2群のドップラー信号サンプルに応答して作成された第2の複数のドップラー周波数信号とを含んでおり、前記ドップラー画像は、前記第1の複数のドップラー周波数信号に応答して作成された第1のドップラー画像と、前記第2の複数のドップラー周波数信号に応答して作成された第2のドップラー画像とを含んで」いるのに対して、引用発明ではそのような構成を備えていない点。

・相違点(う)
深さ変分の範囲を表す前記ドップラー画像が、前記深さ変分の範囲内の前記対象物の一部を表すBモード画像に重ね合わされる際に、本願補正発明では、深さ変分の範囲を表す前記ドップラー画像の「一部」が前記深さ変分の範囲内の前記対象物の一部を表すBモード画像に重ね合わされるのに対して、引用発明では、血流速分布のグラフ62をBモード像の画像60上のカーソル14a線上に表示する点。

(イ-2)当審の判断
そこで、上記相違点(あ)?相違点(う)について判断する。
まず、最初に、相違点(う)について検討し、次に相違点(あ)及び相違点(い)を検討する。

・相違点(う)について
引用発明は、血流速分布のグラフ62をBモード像の画像60上の超音波送受信方向を示すカーソル14a線上、すなわち、超音波送受信方向の血流速分布の全体をBモード像の画像60に重ねて表示しているが、超音波診断装置において、Bモード画像と、ドップラー血流速度を同時表示させる際に、検査領域からの反射波信号のうち、所定の深さ範囲からの反射波の信号を受波するようにゲートを設定して、ドップラー血流速度の一部の領域のみを表示することは周知である。
たとえば、上記引用刊行物Bの摘記事項(3B-1)及び(3B-3)に、それぞれ、
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、超音波変調ビームを診断部に対して送受波して、診断部内の運動情報を抽出する超音波診断装置に関する。」
こと、及び、
「【0023】図4はこのようにして設定された各サンプルゲートにおけるドプラシフト周波数の大きさ、すなわち血流速度に応じた濃度および色の像をBモード像に重ねて表示させた例である。ただし、図面上では濃度および色を表せないので、濃度の違いをドットの大きさで表している。また、拍動によって血流速度が変化するため、時間経過に伴って上記サンプルゲート位置の濃度および色が変化する。このように白黒のBモード像に対してサンプルゲートのドプラシフトの大きさに応じたカラー画像を重ねて表示することによって、血流のある位置および血流速度の変化を容易に把握できるようになる。尚、上記実施形態の濃度および色を用いて表示する代わりに、血流の速度と方向を示す情報をベクトル表示することもできる。また、上記濃度および色に加えて重ねて血流の速度と方向を示す情報をベクトル表示させることもできる。
【0024】図5は受波ビーム上の血流速度のプロファイルを求めた場合の例について示している。(A)に示す例では、血管内の狭窄部を含む領域をサンプルゲート設定領域としている。通常このような血栓の音響特性は血液の音響特性と殆ど同一であるため、血管内の狭窄部はBモード像には殆ど表れない場合もある(前述のカラーフローイメージングでも解像度が低いため、画像上には殆ど表れない場合もある。)。血流速度プロファイルを求めるには、各受波ビーム上の各サンプルゲートにおけるドプラシフト周波数(すなわち血流速度に比例する値)の瞬時値を求め、その時間波形におけるピーク値または時間平均値を検出し、(B)に示すように受波ビーム上の各サンプルゲート位置における血流速度を結ぶ曲線を求めれば、それが血流速度プロファイルとなる。このような血流速度プロファイルを各受波ビーム毎に抽出すれば、サンプルゲート設定領域内についての血流速度分布が求まる。このように血管断面での血流速度プロファイルが求まれば、これからより正確な血流量の計算が可能となる。」
ことが記載されており、さらに、特開平7-286999号公報に、
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、超音波のドプラ効果を利用して被検体内の任意の観測範囲の血流情報や組織の運動情報などの移動物体の移動情報を診断する超音波診断装置に関する。
・・・
【0004】このバースト波を採用した場合、移動物体の観測範囲内の移動情報(例えば血流速度)は以下のように得られる。まず、例えばTVモニタ上に図3に示すような被検体の断層像(Bモード像)と観測範囲を示すサンプルボリュームマーカ(以下、マーカという。)を表示してドプラ信号の検出対象部位(図中では血管)を探す。そしてTVモニタを参照してマーカを検出対象部位に移動し、マーカの観測領域(空間長)、観測位置(深さなど)を設定する。このように設定を行うと、プローブにより被検体にバースト波を繰り返し送波し、その反射エコーを繰り返し受波する。プローブにより反射エコーが受波されると、反射エコー信号に対して直交位相検波などの信号処理を施してドプラ信号を得る。得られたドプラ信号にはレンジゲート回路によりレンジゲートが掛けられ、観測範囲内のドプラ信号が切り出される。以下、レンジゲート回路によりドプラ信号に対してレンジゲートを掛ける一例について具体的に説明する。図4は、従来の超音波診断装置において、1回の送信タイミングによって送信したバースト波から得られたドプラ信号に対して掛けるレンジゲートのタイミング及びゲート幅を説明するための図である。尚、バースト波は、任意の周期(レート周期)で繰り返されるレート信号のブランキングの終了時刻から送波されるものとして以下説明する。また、レート信号には、当該レートと次のレートの間にブランキング時間と呼ばれる時間があり、ブランキンブ時間の開始時刻は、当該レートの最深部の位置に相当する時刻を示し、終了時刻は次のレートの深さ0に相当する時刻を示す。図4の横軸は、プローブ先端(深さ0)からの深さ方向の距離(深度)に応じた時間軸を示しており、プローブ1先端からの深さに対応する。t_(0 )は、深さ0の時刻、即ちプローブにて最初に反射エコーが受波された時刻を示している。レンジゲートを掛けるタイミングとはt_(0 )を起点とした時間遅れのことをいう。P_( 1) ?P_( n) は、1回の送信タイミングによって送信された超音波が反射する音響インピーダンスの界面(各深さの散乱体)からの反射エコーを浅い部分から順に示したものである。図4に示すようにレンジゲート回路は、プローブ先端を基準(時刻t_(0 ) を起点)にし、レンジゲートを掛けてマーカ内の最浅部に相当する時刻から最深部に相当する時刻の範囲に時間幅(ゲート幅)τ_( G) のドプラ信号を切り出している。 切り出されたドプラ信号は、高調波成分や血管などの固定反射エコー及び比較的遅い生体内の動きに拠るドプラ偏移周波数が除去され、血流のみのドプラ偏移周波数が抽出された後、周波数分析器に送られる。周波数分析器では、不要なドプラ偏移信号(周波数)が除去されたドプラ信号を高速フーリエ変換等の周波数解析して観測範囲内の周波数スペクトラムを求める。求めた周波数スペクトラムは、血流速度に対応するものとして、TVモニタに表示される。」
ことが記載されている。
そして、引用発明の超音波診断装置も上記周知の超音波診断装置もともに、Bモード画像と、ドップラー血流速度を同時表示させる点で共通することから、引用発明において、Bモード画像と、ドップラー血流速度を同時表示させる際に、検査領域からの反射波信号のうち、所定の深さ範囲からの反射波の信号を受波するようにゲートを設定し、得られたドップラー血流速度の一部の領域のみを表示する上記周知の構成を採用し、超音波送受信方向を示すカーソル14a線上のうちの所定の深さ範囲の生体内被検査領域を受信できるようにマルチゲートを設定し、得られた血流速分布のグラフ62をBモード像の画像60上のカーソル14a線上の所定の範囲に表示することにより、本願補正発明のごとく、深さ変分の範囲を表す前記ドップラー画像が、前記深さ変分の範囲内の前記対象物の一部を表すBモード画像に重ね合わされる際に、本願補正発明では、深さ変分の範囲を表す前記ドップラー画像の「一部」が前記深さ変分の範囲内の前記対象物の一部を表すBモード画像に重ね合わされるようにすることは、当業者であれば容易になし得るものである。

・相違点(あ)及び相違点(い)について
(1)引用発明では、超音波送受信方向を示す1つのカーソル14a線上に血流速分布のグラフ62を表示しているが、超音波により血流速度を測定する際に、複数の超音波送受信方向の血流速を同時に表示することは周知である。
例えば、上記引用刊行物Bの(3B-4)及び(3B-5)にそれぞれ、
「【0028】図10は複数のサンプルゲートについて同時計測が可能な本願の特徴を利用して、同時に複数のサンプルゲート位置における血流速度波形を表示した例である。画面の上方にはBモード像にサンプルゲート位置を示すマークを重ねて表示し、下部には各サンプルゲート位置における血流速度波形を表示する。サンプルゲート数が多い場合には、血流速度波形を更に細かく配列するか、キー操作などによってページを切り換えて表示するようにしてもよい。」
こと、及び、
「図10には、Bモード画像上の2つの送受信方向における複数の所定のサンプルゲート位置での血流速度波形を、Bモード画像とともに表示する」
ことが記載され、また、「P.TORTOLI,F.ANDREUCCETTI,G.MANES, C.ATZENI,Blood Flow Images by a SAW-Based Multigate Doppler System,IEEE TRANSACTIONS ON ULTRASONICS,FERRO ELECTRICS,AND FREQUENCY CONTROL,1988年 9月,VOL.35,NO.5,p545-551」に、
「Multigate pulsed Doppler systems [3]-[6], capable of measuring the instantaneous blood velocity profiles on the beam axis, represent significant example of this evolution.(当審訳:ビーム軸上の血流速度プロフィールを瞬時に測ることができる、マルチゲートパルスドップラー・システム[3]-[6]が、この進化の重要な見本を代表するものである。)」(545頁左欄26?29行)
こと、及び、
「The experimental velocity profiles obtained correspond to four different positions of the transducer and are reported in the lower part of Fig. 10.当審訳:得られた実験的速度プロフィールは変換器の異なる4つの位置に対応しており、図10の下方部で報告されている。)」(550頁左欄2?4行)
と記載されている。
そして、引用発明と上記周知のものとは、超音波により血流速度を測定する点で共通することから、引用発明において、超音波送受信方向を示すカーソル14a線上に血流速分布のグラフ62を表示する際、上記周知例の複数の超音波送受信方向の血流速を同時に表示する構成を採用し、超音波送受信方向を示す複数のカーソル線上に血流速分布のグラフを表示することにより本願補正発明のごとく、第1の軸に沿って前記ドップラー周波数を表し且つ第2の軸に沿って深さ変分の範囲を表すドップラー画像を作成する際に、「複数」のドップラー画像を作成することは当業者が容易になし得るものである。(相違点(あ))

(2)さらに、上記周知例の複数の超音波送受信方向の血流速を同時に表示する構成を採用し、超音波送受信方向を示す複数のカーソル線上に血流速分布のグラフを表示することは、複数、例えば、2つの超音波送受信方向の生体内被検査領域に超音波を送信し、この2つの生体内被検査領域から後方散乱される2つの反射波を受信し受信データを得、さらに受信した2つの受信データをそれぞれドップラー処理して、2つの血流速分布の画像、すなわち、2つのドップラー画像を得て、表示部30に表示することになるから、超音波送受信方向を示す複数、例えば2つのカーソル線上に血流速分布のグラフを表示することにより、本願補正発明のごとく、「前記超音波は、前記対象物内の第1の関心領域(ROI1)へ方向付けされた第1のドップラー・ビーム(B1)と、前記対象物内の第2の関心領域(ROI2)へ方向付けされ、前記第1のドップラー・ビーム(B1)に対して独立した第2のドップラー・ビーム(B2)とを含んでおり、前記後方散乱信号は、前記第1のドップラー・ビーム(B1)に応答して前記第1の関心領域から後方散乱された超音波に応答して作成された第1群の後方散乱信号と、前記第2のドップラー・ビーム(B2)に応答して前記第2の関心領域から後方散乱された超音波に応答して作成された第2群の後方散乱信号とを含んでおり、前記複数のドップラー信号サンプルは、前記第1群の後方散乱信号に応答して作成された第1群のドップラー信号サンプルと、前記第2群の後方散乱信号に応答して作成された第2群のドップラー信号サンプルとを含んでおり、また前記複数のドップラー信号サンプルは、前記第1群のドップラー信号サンプルに応答して作成された第1の複数のドップラー周波数信号と、前記第2群のドップラー信号サンプルに応答して作成された第2の複数のドップラー周波数信号とを含んでおり、前記ドップラー画像は、前記第1の複数のドップラー周波数信号に応答して作成された第1のドップラー画像と、前記第2の複数のドップラー周波数信号に応答して作成された第2のドップラー画像とを含んで」いる構成となることは明らかである。(相違点(い))

(3)また、上記「・相違点(う)について」おいて検討したように、引用発明において、Bモード画像と、ドップラー血流速度を同時表示させる際に、周知の構成を採用し、超音波送受信方向を示すカーソル14a線上のうちの所定の深さ範囲の生体内被検査領域を受信できるようにマルチゲートを設定し、得られた血流速分布のグラフ62をBモード像の画像60上のカーソル14a線上の所定の範囲に表示するようにした場合には、超音波送受信方向を示す複数のカーソル線上に表示される血流速分布のグラフが、Bモード像の画像60上の複数のカーソル14線上の所定の範囲の血流速分布を表示することになるのは自明な事項である。

そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明及び周知の技術事項から予測される範囲内のものであって、格別のものではない。

なお、請求人は、当審の審尋に対する回答書において、
「本願発明のスペクトラルフロー表示では、対象物内の深さ変分の所定の範囲(時間ではなく)に対する(平均カラーフロー速度ではなく)ドップラー周波数信号(速度)のプロットが行われます。かかるプロットは引用文献2のストリップ・チャートとは大きく異なるものであります。本願発明のスペクトラルフロー表示では、例えば、血管壁に近いゼロに近い速度や中心付近のより速いドップラー周波数(速度)で血管の管内に渡る空間的速度分布をマップアウトすることができ、スペクトラルフロー全体のプロファイルは表示画面上で心サイクルに渡って高速に拍動することとなります。」
旨の主張をしている。
そこで、上記請求人の主張について検討する。
上記「(イ-1)」の(v)において検討したように、上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-4)に、
「第2図(b)には、カーソル14aの軸が生体内被検査領域の深さ方向を示し、及び、カーソル14aの軸に直交する方向に流速分布を示す」
ことが記載されており、また、上記(iv)において検討したように、本願補正発明の「ドップラー周波数信号」は、「ドップラー・シフト周波数」すなわち「速度」を意味することを考慮すると、引用発明の血流速分布としてグラフ62は、血管壁の近傍や血管の中央の血流速度(ドップラー周波数)を表示するものである。
さらに、上記「・相違点(う)について」において検討したように、超音波診断装置において、Bモード画像と、ドップラー血流速度を同時表示させる際に、検査領域からの反射波信号のうち、所定の深さ範囲からの反射波の信号を受波するようにゲートを設定して、ドップラー血流速度の一部の領域のみを表示することは、例えば、上記引用刊行物Bに記載されているように周知であるから、引用発明において、Bモード画像と、ドップラー血流速度を同時表示させる際に、周知の構成を採用し、超音波送受信方向を示すカーソル14a線上のうちの所定の深さ範囲の生体内被検査領域を受信できるようにマルチゲートを設定し、得られた血流速分布のグラフ62をBモード像の画像60上のカーソル14a線上の所定の範囲に表示することにより、「対象物内の深さ変分の所定の範囲(時間ではなく)に対する(平均カラーフロー速度ではなく)ドップラー周波数信号(速度)のプロットが行われ・・・本願発明のスペクトラルフロー表示では、例えば、血管壁に近いゼロに近い速度や中心付近のより速いドップラー周波数(速度)で血管の管内に渡る空間的速度分布をマップアウトする」ことができるから、請求人の主張は採用できないものである。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(4)補正却下の決定についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下しなければならないものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成23年10月12日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1?11に係る発明は、平成23年2月17日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 2 (1)」の「ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載したように、以下のとおりのものである。

「【請求項1】 超音波システム(10)において、検査対象物(S)から、マルチゲート方式ドップラー・データ及びBモード・データを取得して表示する装置であって、
前記検査対象物内へ超音波を送信するように接続されている超音波送信器(50)と、
前記検査対象物から後方散乱された超音波に応答して、後方散乱信号を作成するように接続されている受信器(50)と、
前記後方散乱信号に応答して、前記対象物内の深さ変分の所定の範囲を表す複数のドップラー信号サンプルを作成する複数の距離ゲート(71?74)と、
前記ドップラー信号サンプルに応答して、前記深さ変分の範囲を表す複数のドップラー周波数信号を作成すると共に、前記後方散乱信号に応答して、前記深さ変分の範囲を表すBモード・データを作成する論理装置(20,30)と、
前記Bモード・データに応答して、前記深さ変分の範囲内の前記対象物の一部を表すBモード画像を作成すると共に、前記ドップラー周波数信号に応答して、第1の軸に沿って前記ドップラー周波数を表し且つ第2の軸に沿って前記深さ変分の範囲を表すドップラー画像を作成する表示装置(60)と、
を有し、
前記深さ変分の範囲を表す前記ドップラー画像の一部は、前記深さ変分の範囲内の前記対象物の一部を表すBモード画像に重ね合わされる、検査対象物(S)からドップラー及びBモード・データを取得して表示する装置。」

2.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物の記載事項は上記「第2 2 (3)」の(ア)に記載したとおりである。

3.本願発明と引用発明との対比・判断
本件補正は、上記「第2」の「2 補正却下の決定の理由」の「(2) 本件補正の適否について」において検討したように、本件補正前の請求項1の構成を、減縮し特定する補正であるから、特許請求の範囲を減縮するものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに減縮したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 2 (3)」の(イ)において検討したとおり、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、本件出願は、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-12 
結審通知日 2012-12-18 
審決日 2013-01-16 
出願番号 特願2001-569511(P2001-569511)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 順也樋口 宗彦  
特許庁審判長 後藤 時男
特許庁審判官 信田 昌男
小野寺 麻美子
発明の名称 超音波Bモード及びドップラー・フロー・イメージング  
代理人 小倉 博  
代理人 荒川 聡志  
代理人 黒川 俊久  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ