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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B22D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B22D
管理番号 1274967
審判番号 不服2012-14225  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-24 
確定日 2013-06-06 
事件の表示 特願2006-336936「鋳物用仕上げ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 7月 3日出願公開、特開2008-149328〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成18年12月14日の出願であって、平成24年4月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成24年7月24日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けに手続補正がされた。
そして、平成24年9月11日付けで審査官の前置報告がなされ、当審により平成24年10月1日付けで当該前置報告を踏まえた審尋を行ったところ、請求人から平成24年12月5日に回答がされた。

2.平成24年7月24日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年7月24日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
平成24年7月24日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
ワークを位置決めする治具を端部に持たせた複数軸多関節構成の治具ユニットと、端部に鋳物仕上げに必要な工具を持たせた複数軸多関節構成の工具ユニットとを備え、ワークに付着した不用物を多関節機構のNC制御機構により除去して仕上げ加工する鋳物用仕上げ装置において、装置を治具ユニットと工具ユニットとに分割し、それぞれのユニットを同時に一台の制御ユニットで補間制御することにより多関節構造の関節軸強度を高くし、かつ関節部に用いられる減速機のバックラッシュを防止することによりバックラッシュに基づく精度の低下を防止し、加工精度を向上させることを特徴とし、前記治具ユニットは仕上げ加工すべきワークを旋回軸で旋回し、揺動軸で揺動して加工し易い姿勢にワーククランプ治具によりクランプし、前記工具ユニットは位置決めされ、ワーククランプ治具でクランプされたワークを揺動軸で揺動し、移動軸で移動して加工ツールでツール動作により必要な加工を施してなる鋳物用仕上げ装置。」と補正された(なお、「冶具」とあるのは「治具」の明らかな誤記と認めて当審において訂正し、また、補正された事項に下線を付した。)。

上記特許請求の範囲についての補正は、補正前の請求項1に記載された「治具ユニット」「工具ユニット」に関し、上記下線部記載のように限定するもの(以下「限定事項」という。)であって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)刊行物
(ア)原査定の拒絶の理由に示された、登録実用新案第3085828号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
・「【0001】
【考案の属する技術分野】
本考案はアルミや鉄を鋳造加工して複雑な形状の各種鋳造品(ワーク)を製造する際、ワークに付着される鋳物砂、湯口、押し湯、鋳物バリ等の不用物を多関節構造のNC制御機構により除去して仕上げ加工する装置に係り、特に多関節構造の関節軸強度を高くするとともに、コンパクトにした複雑な形状を有する鋳造品の仕上げ加工装置に関する。」
・「【0008】
【課題を解決するための手段】
上述の目的を達成するため、本考案によれば、複雑な形状を有する鋳造品に付着される鋳物砂、湯口、押し湯、鋳物バリ等の不用物を多関節構造のNC制御機構により除去して仕上げ加工する装置において、仕上げ加工すべき鋳造品を加工しやすい姿勢に位置決めする治具側NC機構と、上記位置決めされた鋳造品をツール動作により必要な加工を施すツール側NC機構とを備え、これらをそれぞれ別ユニットとして分割して設置してなり、これにより多関節構造の関節軸強度を高くし、かつコンパクトとすることを特徴とする。」
・「【0013】
本考案の特徴は仕上げ加工すべき鋳造品(ワーク)Aを施回軸1を施回し、揺動軸1、2、3、4、5を揺動して加工し易い姿勢にワーククランプ治具8によりクランプする治具側NC機構9と、位置決めされ、ワーククランプ治具8でクランプされたワークAを、揺動軸6、7で揺動して、エンドミル、チップソー、チッパー等の加工ツール10でツール動作により必要な加工を施すツール側NC機構11とを備え、かつ、これら治具側NC機構9およびツール側NC機構11をそれぞれ別ユニットとして分割して設置したことに存する。」

ここで、刊行物1において次のことが明らかである。
・「治具側NC機構」は、ワークを位置決めする治具を端部に持たせた複数軸多関節構成のユニットであって、仕上げ加工すべきワークを旋回軸で旋回し、揺動軸で揺動して加工し易い姿勢にワーククランプ治具によりクランプするものである。
・「ツール側NC機構」は、端部に鋳物仕上げに必要な工具を持たせた複数軸多関節構成のユニットであって、位置決めされ、ワーククランプ治具でクランプされたワークを、揺動軸で揺動してツール動作により必要な加工を施すものである。

そうすると、刊行物1には次の発明(以下「引用発明」という。)が実質的に記載されているものと認められる。
「ワークを位置決めする治具を端部に持たせた複数軸多関節構成の治具側NC機構としてのユニットと、端部に鋳物仕上げに必要な工具を持たせた複数軸多関節構成のツール側NC機構としてのユニットとを備え、ワークに付着した不用物を多関節機構のNC制御機構により除去して仕上げ加工する鋳造品の仕上げ加工装置において、これらユニットを別ユニットとして分割設置し、これにより多関節構造の関節軸強度を高くし、前記治具側NC機構としてのユニットは、仕上げ加工すべきワークを旋回軸で旋回し、揺動軸で揺動して加工し易い姿勢にワーククランプ治具によりクランプし、前記ツール側NC機構としてのユニットは、位置決めされ、ワーククランプ治具でクランプされたワークを、揺動軸で揺動して加工ツールでツール動作により必要な加工を施してなる鋳造品の仕上げ加工装置。」

(イ)同じく拒絶の理由に示された、特開平5-27815号公報(以下「刊行物2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
・「【0005】本発明は、上記課題を解消する2以上のロボットの同期制御方法を提供することを目的とし、2以上のロボットが共同で作業する時、互いに同期して作業をすることができ、かつ、直線や円弧の補間動作を行いながら互いに独立して動作させることができる上記課題を解消した2以上のロボットの同期制御方法を提供することを目的とする。」
・「【0014】図5は、1のマイクロコンピュータで時分割処理して、2のロボットを制御する場合の本発明の別の実施例産業用ロボットの同期制御方法に使用されるロボット制御システムの構成を示すブロック図である。この場合、同期入りの時は、時分割処理するスレーブの制御プログラムから補間計算プログラムを除き、マスターの制御プログラムで、マスターとスレーブの補間計算プログラムを合わせて実行することで、時分割で処理する処理順序の不確定性に起因する同期制御のばらつきを小さくすることができる。
【0015】図6は本発明の別の実施例産業用ロボットの同期制御方法を示すフローチャートを示す。スレーブで実行していた図3のブロック14及びブロック17は、図6ではブロック14-1及びブロック17-1として、マスターで実行する。スレーブは、同期切りの時はブロック18で補間動作を実行するが、同期入りの場合は補間動作を実行せず、補間動作をマスターにまかせる。また、図2において、2のシステムを3以上に拡張する場合は、Bのクロックと同じものがロボットの台数分追加し、共有メモリ(C)のロボット2に相当する部分が、ロボットの台数分追加することで全く同じ考え方で拡張することができることは、容易に理解できるところである。ただし、3以上のシステムでも常にマスターは1台であり、残りはすべてスレーブとなる。」

(ウ)同じく拒絶の理由に示された、特開平4-100689号公報(以下「刊行物3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
・「2軸回転テーブル機構21(第2図乃至第5図参照)は、回転軸31と、互いに交差する入力軸32と出力軸33とを具えた第1減速機(減速機)34と、第1サーボモータ(モータ)35と、ワーク設置台36と、第2減速機37を介して回転軸31を回転させる第2サーボモータ38とを具え、後述する3次元移動テーブル機構22に設けられている。」(公報2頁左下欄12行ないし19行)
・「第1減速機34の入力軸32と出力軸33は、入力軸32に設けられたウォーム(図示省略)と、出力軸33に設けられたカムフォロア(図示省略)上で放射状に突出したニードルローラ(図示省略)との噛合によって、連結されている。又、第1減速機34はバックラッシュが生じないよう、出力軸33を通常噛合時の位置より僅かに入力軸32に近付けて配置し、ニードルローラをウォームに適正予圧で噛合させている。」(公報2頁右下欄10行ないし18行)

(3)本願補正発明と引用発明との対比
両発明を対比すると、引用発明の「鋳造品の仕上げ加工装置」が、本願補正発明の「鋳物用仕上げ装置」に相当する。
また、本願補正発明の「治具ユニット」と引用発明の「治具側NC機構としてのユニット」とは、ともに「治具側のユニット」との点で概念上共通する。同様に、本願補正発明の「工具ユニット」と引用発明の「ツール側NC機構としてのユニット」とは、「工具側のユニット」との点で概念上共通する。

そうすると、両発明の一致点、相違点は次のとおりである。
〈一致点〉
「ワークを位置決めする治具を端部に持たせた複数軸多関節構成の治具側のユニットと、端部に鋳物仕上げに必要な工具を持たせた複数軸多関節構成の工具側のユニットとを備え、ワークに付着した不用物を多関節機構のNC制御機構により除去して仕上げ加工する鋳物用仕上げ装置。」
〈相違点〉
ア 本願補正発明のユニットが「治具ユニット」と「工具ユニット」であって、「装置を治具ユニットと工具ユニットとに分割し、それぞれのユニットを同時に一台の制御ユニットで補間制御することにより多関節構造の関節軸強度を高くし」、さらに、「前記治具ユニットは仕上げ加工すべきワークを旋回軸で旋回し、揺動軸で揺動して加工し易い姿勢にワーククランプ治具によりクランプし、前記工具ユニットは位置決めされ、ワーククランプ治具でクランプされたワークを揺動軸で揺動し、移動軸で移動して加工ツールでツール動作により必要な加工を施してなる」ものであるのに対して、引用発明のものは「治具側NC機構としてのユニット」と「ツール側NC機構としてのユニット」であり、「これらユニットを別ユニットとして分割設置し、これにより多関節構造の関節軸強度を高くし」、さらに、「前記治具側NC機構としてのユニットは、仕上げ加工すべきワークを旋回軸で旋回し、揺動軸で揺動して加工し易い姿勢にワーククランプ治具によりクランプし、前記ツール側NC機構としてのユニットは、位置決めされ、ワーククランプ治具でクランプされたワークを、揺動軸で揺動して加工ツールでツール動作により必要な加工を施してなる」ものである点。
イ 本願補正発明が、「関節部に用いられる減速機のバックラッシュを防止することによりバックラッシュに基づく精度の低下を防止し、加工精度を向上させる」のに対して、引用発明はこのようなバックラッシュを防止する機能が存在しない点。

(4)相違点についての判断
(4-1) 相違点アについて
引用発明におけるツール側NC機構としてのユニットは、位置決めされ、ワーククランプ治具でクランプされたワークを、揺動軸で揺動して、必要な加工を施すものであり、ツールの軸方向への移動動作が存在するのか否か明確でない。しかし、引用発明に係る装置において、ツールが軸方向に移動し得るようにすることは、加工の態様からみて当業者が当然想起することであって、そのような動作ができる構成、即ち、「仕上げ加工すべき鋳造品(ワーク)Wを旋回軸1、揺動軸2、3、4を揺動し、旋回軸5で旋回して加工し易い姿勢にワーククランプ治具8によりクランプする治具ユニットAと、位置決めされ、ワーククランプ治具9でクランプされたワークWを、揺動軸6、7で揺動し、移動軸8で移動して、エンドミル、チップソー、チッパー等の加工ツール10でツール動作により必要な加工を施す工具ユニットBとを備え」(本件出願明細書段落【0019】参照。当審にて下線部の読点を付した。)た構成とすることは、当業者が通常の創作能力を発揮して採用することにすぎない。
引用発明に係る装置は、「治具側NC機構としてのユニット」と「ツール側NC機構としてのユニット」とを2つの別ユニットとして分割し、これにより「多関節構造の関節軸強度を高くし」たものであるが、その2つの別ユニットのそれぞれにNC機構を搭載させていることから、この2つのNC機構の間で連結された補間制御がなされていないのであれば、ワークに対する加工プログラムの教示が困難となることは自明である。
ここで、一般に数値制御において補間制御が行えるようにすること自体良く知られており、刊行物2には、一方にワークを把持させ、他方にバリ取りツールを把持させた2台のロボットを制御して各種作業を行うものにおいて、直線や円弧の補間動作を行いながら同期作業を行うものが記載されている。そして、この刊行物2の【図5】【図6】に係る例は、2台のロボットを1つのマイクロコンピュータで制御するものである。この例では、制御機構全体が1つの制御ユニットとして構成されているか否かまでは明らかではないが、それらを1つの制御ユニットにまとめること自体は、当業者にとって、単なる設計的事項にすぎない。
そうすると、引用発明において、このような刊行物2に記載の技術的事項を考慮して、1つのまとまりのあるNC機構の制御ユニットを構成して補間制御を行うことには、当業者にとっての格別の創意工夫が見いだせるものではない。
以上を踏まえると、引用発明において、相違点アに係る本願補正発明の発明特定事項を採用することは、当業者にとって容易に想到し得たことと言える。

(4-2) 相違点イについて
一般に、歯車機構においては、バックラッシュが生じ得るものであって、精度の観点からこれを防止すること、すなわち、バックラッシュ防止技術を施すことが良く知られている。そして、刊行物3には、ワークを載置する回転テーブルに関しウォーム等を用いた減速機のバックラッシュを防止することが開示されている。
引用発明の関節部に歯車機構を用いた減速機を採用することは、当業者が機械設計上通常行う程度のことであって、その際に、刊行物3に記載されるバックラッシュ防止技術も適用することには、当業者にとっての格別の創意工夫は見いだせない。

(4-3) 以上を踏まえると、本願補正発明の発明特定事項は、引用発明、刊行物2、3の記載事項に基づいて、当業者が容易に案出し得たものである。
そして、本願補正発明の発明特定事項により得られる作用効果も、引用発明、刊行物2、3の記載事項から当業者であれば予測できる範囲のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明、刊行物2、3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明は、平成24年3月12日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものにあるところ、そこには次のとおり記載されている。
「【請求項1】
ワークを位置決めする治具を端部に持たせた複数軸多関節構成の治具ユニットと、端部に鋳物仕上げに必要な工具を持たせた複数軸多関節構成の工具ユニットとを備え、ワークに付着した不用物を多関節機構のNC制御機構により除去して仕上げ加工する鋳物用仕上げ装置において、装置を治具ユニットと工具ユニットとに分割し、それぞれのユニットを同時に一台の制御ユニットで補間制御することにより多関節構造の関節軸強度を高くし、かつ関節部に用いられる減速機のバックラッシュを防止することによりバックラッシュに基づく精度の低下を防止し、加工精度を向上させることを特徴とする鋳物用仕上げ装置。」(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

(2)刊行物等から認定される技術事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物から認定される技術事項は、既に「2.(2)」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、既に「2.」で検討した本願補正発明から、前記限定事項を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、既に「2.(4)」に記載したとおり、引用発明、刊行物2、3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件出願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-19 
結審通知日 2013-03-26 
審決日 2013-04-08 
出願番号 特願2006-336936(P2006-336936)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B22D)
P 1 8・ 121- Z (B22D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池ノ谷 秀行  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 加藤 友也
井上 茂夫
発明の名称 鋳物用仕上げ装置  
代理人 染谷 仁  

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