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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1275090
審判番号 不服2011-23629  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-11-02 
確定日 2013-06-05 
事件の表示 特願2003-418556「針シールドを有するフラッシュバック血液採取針」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 7月 7日出願公開、特開2005-176928〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成15年12月16日の出願であって,平成23年6月29日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年11月2日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?23に係る発明は,平成22年6月10日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?23に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,その請求項1に係る発明は,次のとおりのものである。

「【請求項1】
基端部と,先端部と,当該両端部間に延びてチャンバを形成し,少なくとも一部分が当該チャンバ内に流れ込む流体の観察を可能にする材料で形成されたチャンバ壁とを有するハウジングと,
前記ハウジングから先端側に突出して前記チャンバに連通するIVカニューレと,
前記ハウジングから突出するとともに,前記チャンバに連通する非患者側カニューレと,
前記ハウジングに対して軸回転可能とされ,前記IVカニューレから間隔を空けて前記チャンバの観察を可能にするように位置合わせされる開放位置に配置可能であり,更に当該IVカニューレを覆う閉鎖位置まで軸回転可能であるシールドとを備えていることを特徴とする針アセンブリ。」(以下「本願発明」という)

第3 引用刊行物の記載事項

(1)本願出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2003-88513号公報(以下「刊行物1」という)には,次の事項が記載されている(なお,下線は当審にて記したものである。以下同様。)。

(1-ア)
「【請求項1】 流体導入端とこれに連通する反対側の流体排出端とを有するハウジングであって,その内部にサンプルを保持するための環状のフラッシュバック・チャンバを形成し且つ該チャンバ内の流体の存在を視認する手段を具えた円筒状外壁によって形成されたハウジングと,
前記流体導入端と流体連通し且つそこから外方に延在する第1カニューレであって,前記チャンバの近傍に位置する開口を有する第1内側端とこれの反対側の第1外側端とを有する第1カニューレと,
前記流体排出端と流体連通し且つそこから外方に延在する第2カニューレであって,前記第1内側端の近傍に位置する開口を有する第2内側端を有し,更に前記第2内側端の反対側に第2外側端を有する第2カニューレとを具え,
前記第1及び第2カニューレは互いに軸方向に整列されて,前記ハウジングの長手方向に沿って両者間に軸方向の流体通路を提供することを特徴とする針アセンブリ。」

(1-イ)
「【請求項3】 前記視認手段が,透明及び半透明の丈夫なプラスチックからなる材料の群から選ばれた材料で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の針アセンブリ。」

(1-ウ)
「【0009】
【発明の実施の形態】本発明は,患者から血液その他の流体サンプルを一つ以上の排気された採血チューブに採取する際に,静脈穿刺(フラッシュバック)を視認できる血液採取用針アセンブリを提供するものである。
【0010】図1?図4に示されているように,本発明の針アセンブリ10は,透明又は半透明のハウジング12を具え,このハウジングは,一方の側に流体導入針(第1カニューレ)を,反対側に流体排出針(第2カニューレ)を支えている。第1カニューレから採取された流体はハウジングを通じて直ちに視認でき,静脈穿刺が適正に行われたことを適時に示す。
【0011】図1?図3に示されているように,針アセンブリ10は流体導入端14とこれに隣り合う流体排出端16とを有するハウジング12を具えている。流体導入端14は,流体排出端16の近くの端部から突出した環状の肩部20を有する円筒状外壁18によって形成されている。この壁18はその中にフラッシュバック・チャンバ22を取り囲んでいる。このチャンバ22は,更に前記壁18から外方に突出した円錐台状の傾斜部28の内部に規定された環状の溝26を具えている。
【0012】流体導入端14は,更に円筒状延長部32が設けられた注入端30によって形成されている。前記壁18の内径よりも小さい外径を有するこの円筒状延長部32は,両者の間を連結する円錐台状傾斜部28によって壁18から突出している。
【0013】円筒状延長部32はこれを通じて延在する大きな孔34を有し,この孔は第1流体導入カニューレ36をその中に挿入して収容し,且つ固定する大きさを有している。第1カニューレ36は,注入端30から外方に突出した外側端40を有し,更に鋭い斜面部42を有している。カニューレ36の反対側の端には,注入端30においてカニューレ36に挿入される鋭くない先端46を有する第1内側端44が規定されている。これらの斜面部42と鋭くない先端46は,流体が中断することなく流れるように対応する形状を有する開口をそれぞれ具えている。
【0014】第1カニューレ36は,第1内側端44が環状溝26に近接して設置され,両者の間に流体連通が維持されるように孔34内に位置決めされている。カニューレ36が適正に位置決めされると,これは孔34と摩擦係合し,或いは接着剤その他の手段によって固定される。
【0015】孔34は,円筒状延長部32の一部に跨がって存在し,傾斜部28内に延びて第1カニューレ36と第2流体排出カニューレ52のそれぞれに連通している。第2カニューレ52は鋭くない先端56を持った第2の内側端54を有する。この鋭くない先端56は溝26内の開口を取り囲んで,第1カニューレ36の第1内側端44に隣接している。第2カニューレ52は,更に非患者側の斜面端60を有する外側端58を具えている。第2カニューレ52は流体排出端16から外方に延在し,ハウジング12を貫通する細長い流体通路を形成している。非患者側の斜面端60は,更に外側端58を覆うシール可能なスリーブ61を具えている。」

(1-エ)
「【0018】ハウジング12は半透明又は透明な材料で構成され,このアセンブリの使用者がチャンバ22の内容物を容易に目視可能になっている。半透明な丈夫なプラスチックが望ましいが,図2に示された窓100等の種々のポートや窓を使用して使用者がチャンバ22の内容物を目視できるようにしてもよい。」

上記記載事項(1-ア)?(1-エ)によれば,刊行物1には次の発明が記載されていると認められる。

「流体導入端とこれに連通する反対側の流体排出端とを有するハウジングであって,その内部にサンプルを保持するための環状のフラッシュバック・チャンバを形成し且つ該チャンバ内の流体の存在を視認する手段を具えた円筒状外壁によって形成されたハウジングと,
前記流体導入端と流体連通し且つそこから外方に延在する第1カニューレであって,前記チャンバの近傍に位置する開口を有する第1内側端とこれの反対側の第1外側端とを有する第1カニューレと,
前記流体排出端と流体連通し且つそこから外方に延在する第2カニューレであって,前記第1内側端の近傍に位置する開口を有する第2内側端を有し,更に前記第2内側端の反対側に第2外側端を有する第2カニューレとを具え,
前記第1及び第2カニューレは互いに軸方向に整列されて,前記ハウジングの長手方向に沿って両者間に軸方向の流体通路を提供しており,
視認手段が,透明及び半透明の丈夫なプラスチックからなる材料の群から選ばれた材料で構成されている,
針アセンブリ。」(以下,「引用発明」という)

(2)本願出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2003-310757号公報(以下「刊行物2」という)には,次の事項が記載されている。

(2-ア)
「【請求項1】 対向する基端部と先端部とを有する針ハブと,
該針ハブの該先端部に接続された基端部と,該針ハブから先端側に突出する先端部とを有する針状カニューレと,
該針ハブから横方向に突出する翼部と,
該針ハブにヒンジ接続されるとともに,該針状カニューレが露出される第1位置と,該針状カニューレが被覆される第2位置との間を移動可能に構成された針被覆部材と,
該被覆部材が該第2位置にあるとき,該被覆部材と係止係合するように,該針状カニューレの少なくとも1つの基端位置に対応して設けられた係止手段とを備えていることを特徴とする安全針アセンブリ。」

(2-イ)
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】針状カニューレが誤って肌に刺さるのは,痛みを伴うものであり,感染症の原因ともなる。したがって,たいていの針状カニューレには,使用前,使用後の両方において針状カニューレを包囲する剛性手段が設けられている。使用前の保護は,通常,針ハブに摩擦係合するよう取り付けられた基端部と,針状カニューレの先端部を越えて延びる先端部とを有する剛性プラスチックチューブによって行われる。プラスチックチューブは,針状カニューレの使用直前に取り外され,廃棄される。針状カニューレの使用後の保護は,通常,針が露出される第1位置から,針状カニューレが被覆部材内に安全に被覆される第2位置へと,針状カニューレに対し相対移動可能な被覆部材によって行われる。このような被覆部材には,第1位置で被覆部材を解除可能に保持し,第2位置でより安全に被覆部材を保持する手段が設けられるのが一般的である。第2位置で被覆部材を保持することによって,使用後の針状カニューレの偶発的な再露出が防止される。また,好ましくは,針状カニューレの再使用が防止される,または,実質的に困難なものとされる。
【0005】このように,被覆が確実で,取り扱いが容易な医療器具の開発が望まれている。」

(2-ウ)
「【0017】針アセンブリ16は,針状カニューレ34と,針ハブ36と,針プロテクタ38とを備えている。針状カニューレ34は,基端部40と,先端部42と,両端部間に延びるルーメン44とを備えている。針状カニューレ34の先端部42は,面取りされ,鋭利な先端部が形成されている。
【0018】針ハブ36は,ポリカーボネート,ポリプロピレン,ポリエチレン,アクリル酸,ポリスチレン,及びABS樹脂などのプラスチック材料によって一体成形される。針ハブ36内を流れる血液または他の流体が観察できるよう,針ハブ36は透明,または,半透明の材料で成形するのが好ましい。針ハブ36は,基端部46と,先端部48と,両端部間に延びる段付き通路(図示せず)とを有する。基端部46に隣接した通路の一部は,チューブ12の先端部28を挿入可能な寸法に形成されている。すなわち,チューブ12の先端部28は,針ハブ36の通路内に嵌入し,針ハブ36の基端部46に隣接した位置で結合されている。針ハブ36の先端部48に隣接した通路の一部は,針状カニューレ34の基端部40を摺動可能に受け入れる寸法に形成されている。すなわち,針状カニューレ34の基端部40はエポキシ樹脂及び/または機械的な接合によって針ハブ36に恒久的に接合されている。」

(2-エ)
「【0020】翼部付きグリップ18は,ポリオレフィン,ポリ塩化ビニル,あるいは他のエラストマーポリマーなどの弾性材料を使用して成形される。翼部付きグリップ18は,可撓翼部54,55と筒状取り付け部とを有する。筒状取り付け部には,針ハブ36と密着係合する寸法を有する内側通路が設けられている。翼部54,55には,それぞれ係止穴57,58が設けられている。
【0021】第1実施例の安全被覆部材20には,基端部60と,先端部62と,先端部62から基端部60に向けて延びる略U字通路63とが設けられている。被覆部材20の基端部60は,針ハブ36の基端部46に近接した位置で針ハブ36にヒンジ接続されている。すなわち,被覆部材20と針ハブ36とを一体成形し,被覆部材20と針ハブ36とのヒンジ接続によって,被覆部材20の基端部60に,または,その近傍に一体の蝶番(ヒンジ)を形成してもよい。あるいは,針ハブ36の基端部46によって,被覆部材20の基端部60において相手方のヒンジ部材とスナップ係合可能なヒンジ部材を形成してもよい。被覆部材20の通路63は,内部に針状カニューレ34を挿入可能な断面寸法を有する。また,被覆部材20の先端部62は,針ハブ36の基端部46と針状カニューレ34の先端部42との距離より大きい距離だけ基端部60から離間した位置に配設されるようにしてもよい。このような構成によって,被覆部材20は,図1に示すように,針状カニューレ34が使用のため十分露出された第1位置から,図2に示すように,針状カニューレ34が安全に被覆された第2位置へと回動可能になる。
【0022】被覆部材20は,針状カニューレ34を実質的に包囲する第2位置において被覆部材20を係止する構造を備えている。すなわち,図1に示すように,被覆部材20には,被覆部材20の基端部から横方向に突出するタブ64,65が形成されている。タブ64,65には,被覆部材20を第1位置から第2位置へ回動するために,指で付与される押圧力を受けるのに十分大きく,操作しやすい位置に操作面が形成されている。係止フィンガー部67,68は,翼部54,55に面したタブ64,65の所定部分から堅固に突出している。係止フィンガー部67,68には,翼部54,55の厚みに略等しい距離だけタブ64,65から離間した位置に係止戻り止め部材70,71が設けられている。係止フィンガー部67,68は,翼部54,55に設けられた係止穴57,58内に対して嵌め込み可能な位置に配置され,また,そのような寸法を有する。翼部54,55及び係止フィンガー部67,68は,被覆部材20を針状カニューレ34を包囲する第2位置に移動させる外力に応答して僅かに変形する。被覆部材20を十分回動させると,係止戻り止め部材70は,翼部54,55のそれぞれに設けられた係止穴57,58に対して完全に嵌入される。その結果,翼部54,55及び係止フィンガー部67,68は,針状カニューレ34を包囲する第2位置に被覆部材20を確実に係止し,針状カニューレ34の再使用を防止するために,それ以上弾性変形し得ない状態まで弾性復帰することとなる。被覆部材20が第2位置にあるときに,カニューレ34と係合するような形状を有して,通路63内に形成されたカニューレフィンガー係止部を係止フィンガー部67,68の補足部材として設けてもよい。」

第4 対比・判断

1 対比

本願発明と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明における「フラッシュバック・チャンバ」は,その機能からみて,本願発明における「チャンバ」に相当することは明らかである。また,引用発明における「ハウジング」は,「フラッシュバック・チャンバ」を形成するものであるから,本願発明における「ハウジング」に相当する。

(イ)引用発明における「流体導入端」及び「流体排出端」が,それぞれ,本願発明における「基端部」及び「先端部」に相当することは明らかである。また,引用発明における「円筒状外壁」は,前記「ハウジング」を形成するものであるから,本願発明の「チャンバ壁」に相当する。

(ウ)引用発明における「ハウジング」は,「チャンバ内の流体の存在を視認する手段を具えた円筒状外壁によって形成された」ものであり,前記「視認手段」は,「透明及び半透明の丈夫なプラスチックからなる材料の群から選ばれた材料で構成されている」ものであるから,引用発明と本願発明とは,「少なくとも一部分が当該チャンバ内に流れ込む流体の観察を可能にする材料で形成されたチャンバ壁とを有するハウジング」を備えた点で一致する。

(エ)引用発明における「第2カニューレ」は,「ハウジング」の「流体排出端と流体連通し且つそこから外方に延在する」ものであり,「ハウジング」は「フラッシュバック・チャンバ」を形成する「円筒状外壁」によって形成されたものであるから,本願発明における「ハウジングから先端側に突出して前記チャンバに連通するIVカニューレ」に相当する。

(オ)引用発明における「第1カニューレ」は,「ハウジング」の「流体導入端と流体連通し且つそこから外方に延在する」ものであり,「ハウジング」は「フラッシュバック・チャンバ」を形成する「円筒状外壁」によって形成されたものであるから,本願発明における「ハウジングから突出するとともに,前記チャンバに連通する非患者側カニューレ」に相当する。

そうすると,両者は,

(一致点)
「基端部と,先端部と,当該両端部間に延びてチャンバを形成し,少なくとも一部分が当該チャンバ内に流れ込む流体の観察を可能にする材料で形成されたチャンバ壁とを有するハウジングと,
前記ハウジングから先端側に突出して前記チャンバに連通するIVカニューレと,
前記ハウジングから突出するとともに,前記チャンバに連通する非患者側カニューレと,
を備えていることを特徴とする針アセンブリ。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明では,「前記ハウジングに対して軸回転可能とされ,前記IVカニューレから間隔を空けて前記チャンバの観察を可能にするように位置合わせされる開放位置に配置可能であり,更に当該IVカニューレを覆う閉鎖位置まで軸回転可能であるシールドとを備えている」のに対し,
引用発明では,そのようなシールドを備えていない点。

2 判断

上記相違点1について検討する。

刊行物2には,上記摘記事項(2-イ)のとおり,「針状カニューレが誤って肌に刺さる」ことを防止するために,「針が露出される第1位置から,針状カニューレが被覆部材内に安全に被覆される第2位置へと,針状カニューレに対し相対移動可能な被覆部材によって」針状カニューレを保護することが記載されている。また,刊行物2には,上記摘記事項(2-ア)?(2-エ)から,「針状カニューレ34」と,前記「針状カニューレ34」がその先端部48に接続される「針ハブ36」と,前記「針ハブ36」の基端部46にヒンジ接続された「被覆部材20」であって,前記「針状カニューレ34」が露出される「第1位置」と,前記「針状カニューレ34」が被覆される「第2位置」との間を移動可能に構成された「被覆部材20」とを備えた「安全針アセンブリ」が記載されている。また,上記摘記事項(2-ウ)には,「針ハブ36内を流れる血液または他の流体が観察できるよう,針ハブ36は透明,または,半透明の材料で成形するのが好ましい」ことが記載されており,さらに,上記「第1位置」を図示する図1を参照すると,上記「第1位置」は,「被覆部材20」が「針ハブ36」内の血液又は他の流体の観察を妨げない位置であることは明らかである。
したがって,刊行物2には,「針状カニューレ34」が露出されるとともに「針ハブ36」内を流れる血液または他の流体を観察可能とする「第1位置」に配置可能であり,更に前記「針状カニューレ34」が被覆される「第2位置」まで,「針ハブ36」に対し軸回転可能に構成された「被覆部材20」が記載されているといえる。

ここで,本願発明の「IVカニューレから間隔を空けて」について検討すると,請求項20に,「前記シールドは,前記開放位置において,前記IVカニューレから90°を超える間隔を置かれた回転位置に位置合わせされる」とあることから,上記「間隔」とは,「IVカニューレ」からの角度間隔であるものといえる。そして,刊行物2でも,図1を参照すると,前記「第1位置」は,「針状カニューレ34」から角度間隔をあけて配置される位置である。

そして,針状のカニューレを誤って刺すことがないように,使用後に針状のカニューレを保護したいという課題が,血液の採取等に用いられる,針状のカニューレを備えた医療器具においては一般的な課題であることは,例えば特開平6-343697号公報,特表平7-502440号公報,特開平8-107933号公報等からみても明らかであって,当業者であれば当然に想定する課題であるから,針状カニューレを備えた引用発明に,同様の針状カニューレを備えた刊行物2に記載の技術事項を適用し,本願発明と為すことは,当業者が容易に想到し得ることである。

また,本願明細書に記載された本願発明によってもたらされる効果は,刊行物1及び2の記載事項から,当業者であれば予測することができる程度のものであり,格別顕著なものとはいえない。

3 請求人の主張について
請求人は,平成23年11月2日に提出した審判請求書において,「これら針ハブ36が果たす役割とハウジング12が果たす役割とはそれぞれ大きく異なります。そのため,両引用文献1,2には,引用文献1の針ハブ36に設けられた安全被覆部材20を引用文献2のハウジング12に適用する動機付けとなる記載が存在しません。」と主張している。
しかしながら,被覆部材20は,針状カニューレ34に対して設けられたものであり,上記のとおり,針状のカニューレを安全に被覆したいという課題は,針状のカニューレをもつ器具の一般的な課題であるから,引用発明に刊行物2に記載の技術事項を適用する動機付けが存在しないとはいえない。

また,請求人は,同請求書において,「両引用文献1,2は,引用文献2に係るハウジング12との干渉を避けながら第1カニューレ36を被覆可能となるように,引用文献2に係るハウジング12に対して引用文献1に係る安全被覆部材20を適用するための具体的構成を開示も示唆もしていません。…そして,各引用文献1及び2には,『IVカニューレから間隔を空けて前記チャンバの観察を可能にするように位置合わせされる開放位置に配置可能であり,更に当該IVカニューレを覆う閉鎖位置まで軸回転可能であるシールド』を確保するために,引用文献2の血液採取針アセンブリに対して引用文献1の被覆部材20を再設計するために参考となる教示も示唆もありません。」と主張している。
しかしながら,上記したとおり,刊行物2においても,透明部材である「針ハブ36」内を流れる血液または他の流体を観察可能とすることを前提とするものであるから,刊行物1及び2に接した当業者が,刊行物2に記載された,針状カニューレを安全に被覆する機能と,針状カニューレから透明部材内に流入した血流を観察可能とする機能の両方を維持しつつ,刊行物1記載のフラッシュバック血液採取針に被覆部材を適用しようと試みることは当然のことといえ,その際,ハウジングとの干渉を避けながら上記両機能を実現するために,被覆部材を具体的にどのように設計するかについては,当業者であれば当然為し得る設計的事項である。

さらに,請求人は,同請求書において,「本願発明1は,『フラッシュバックチャンバを有する流体採取針アセンブリ上に蝶番式シールドが存在することは,被覆と,フラッシュバックチャンバの眺めが遮蔽されないこととの双方を提供することの複雑さの点から本質的に問題がある([0004])』という課題を解決するものです。これに対し,引用文献1及び2は,この本願発明1の課題に何ら言及していません。」と主張している。
しかしながら,上記したとおり,刊行物2は,針状カニューレの安全な被覆と,針状カニューレから透明部材内に流入した血流を観察可能とすることの両方を実現したものであって,本願発明における課題を示唆するものであるといえる。

よって請求人の主張は採用できない。

4 まとめ
以上のとおり,本願発明は,引用発明,及び刊行物2に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきである。

なお,本願と同一出願人であり,同一の内容である米国特許出願(US 2003/0229315 A1)が,本願出願日(平成15年12月16日)以前の2003年12年11日に公開されている。

第5 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-07 
結審通知日 2013-01-08 
審決日 2013-01-21 
出願番号 特願2003-418556(P2003-418556)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門田 宏  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 後藤 時男
小野寺 麻美子
発明の名称 針シールドを有するフラッシュバック血液採取針  
代理人 小谷 悦司  

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