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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G02B |
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管理番号 | 1275127 |
審判番号 | 不服2013-3734 |
総通号数 | 163 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-07-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-02-27 |
確定日 | 2013-06-07 |
事件の表示 | 特願2011- 63850「偏光膜および偏光フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月18日出願公開、特開2012-198449〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、平成23年3月23日の出願であって、平成24年11月7日付けで手続補正がなされ、同年11月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成25年2月27日付けで拒絶査定不服審判が請求されたものである。 なお、審判請求人は審判請求書において面接を希望していたので、審判合議体は平成25年3月15日に電話応対により面接希望日の確認を行ったところ、審判請求人は同年3月18日に面接希望をキャンセルするとの返答をしたので、審判合議体は引用文献1ないし4の各関係する実施例におけるNz係数の値を示して新規性に関する原審の拒絶の理由に対する反論をするように依頼したが、審判請求人は同年3月29日の電話応対において、実験して各引用文献のNz係数を求めても1.10以上1.50以下の範囲内になる場合も範囲外になる場合も想像でき、実験の手間やコストと結果とのコストパフォーマンスからみて、実験してNz係数の値を提示することはしない旨の回答をした。 2 本願発明 本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成24年11月7日付け手続補正によって補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項によって特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明は次のものである。 「二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂膜から構成され、 該ポリビニルアルコール系樹脂膜のNz係数が1.10以上1.50以下である、偏光膜であって、 該ポリビニルアルコール系樹脂膜を、第1の方向に収縮させ、第2の方向に延伸することにより得られる、偏光膜。」(以下「本願発明」という。) 3 刊行物の記載事項 (1)原査定の拒絶の理由に引用された「本願の出願前に頒布された刊行物である特開2008-310262号公報(以下「引用例1」という。)」には、図とともに次の事項が記載されている。(下線は審決で付した。以下同じ。) ア 「【実施例】 【0097】 つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例および比較例によってなんら限定ないし制限されない。また、実施例および比較例における横収縮率は、下記の方法により測定した。 【0098】 (横収縮率) 図6(A)に示すように、幅方向延伸工程の後、長手方向収縮工程において、4本のロールR1?R4を用いて親水性ポリマーフィルムを搬送する際に、最上流のロールR1における親水性ポリマーフィルムに2つのマークM1、M2をマークし、その間の長さをW1とし、最下流のロールR4での前記マークM1、M2の間の長さW2を測定し、下記の式(2)により横収縮率を算出した。なお、測定は、2回実施し、その平均値を横収縮率とした。なお、W1は、270mmである。 横収縮率(%)=[(W1-W2)/W1]×100 (2) 【0099】 (PVAフィルムの準備) 重合度2400のPVAからなる厚み75μm、幅0.13m、長さ50mのロールに巻き回した原反PVAフィルム(クラレ社製、商品名「VF-PS」)を準備した。前記原反PVAフィルムを順次繰り出し、前記PVAフィルムの幅方向の両端を把持手段(テンタークリップ)により把持し、テンター延伸機で速度1m/分で前記PVAフィルムの長手方向に搬送した。この際、前記把持手段(テンタークリップ)によるつかみしろの長さは15mm、幅は50mmとした。また、前記PVAフィルムの長手方向に隣接する前記把持手段(テンタークリップ)の間の距離は、5mmとした。 【0100】 (偏光子の作製) (1)膨潤工程および幅方向延伸工程 30m/分で前記PVAフィルムの幅方向に往復運動する噴霧装置(スプレー)を用いて、16mL/分の流量で、前記PVAフィルムの両面に、気相中で、30℃の水(膨潤液)を30秒噴霧した。その際、前記把持手段(テンタークリップ)により、前記PVAフィルムを原反の2.2倍の長さになるように幅方向に延伸した。 【0101】 (2)染色工程および幅方向延伸工程 前記噴霧装置(スプレー)を用いて、前記膨潤後のPVAフィルムの片面に、気相中で、0.2重量%のヨウ素を含む30℃の水溶液(染色液)を25秒噴霧した。その際、前記把持手段(テンタークリップ)により、前記PVAフィルムを原反の3.3倍の長さになるように幅方向に延伸した。 【0102】 (3)架橋工程および幅方向延伸工程 前記噴霧装置(スプレー)を用いて、前記染色処理後の前記PVAフィルムの片面に、気相中で、3重量%のホウ酸と3重量%のヨウ化カリウムとを含む30℃の水溶液(架橋液)を10秒噴霧した。その際、前記把持手段(テンタークリップ)により、前記PVAフィルムを原反の3.6倍の長さになるように幅方向に延伸した。 【0103】 (4)幅方向延伸工程 前記噴霧装置(スプレー)を用いて、前記架橋後の前記PVAフィルムの片面に、4重量%のホウ酸と5重量%のヨウ化カリウムとを含む60℃の水溶液(延伸用の処理液)を60秒噴霧した。その際、前記把持手段(テンタークリップ)により、前記PVAフィルムを原反の5.9倍の長さになるように幅方向に延伸した。 【0104】 (5)調整工程 前記噴霧装置(スプレー)を用いて、前記延伸処理後の前記PVAフィルムの片面に、4重量%のヨウ化カリウムを含む30℃の水溶液(調整液)を10秒噴霧した。 【0105】 (6)長手方向収縮工程 図6(A)に示すように、前記PVAフィルムを前記把持手段(テンタークリップ)から開放すると同時に、前記PVAフィルムを長手方向に四本のロールR1?R4で搬送しながら、45℃の雰囲気下で1分間加熱乾燥処理を施すことで、前記PVAフィルムの含水率を減少させ、前記開放直後と比較して、前記PVAフィルムの長手方向の長さを85%に収縮した(収縮率15%)。前記ロールは、合計4本用い、前記PVAフィルムの進行方向の下流側にいくに従い、順次前記ロールの回転速度を遅くした。前記PVAフィルムの進行方向(長手方向)に隣接する前記ロールの間の距離は、60mmとした。前記各ロールの回転速度は、前記PVAフィルムの進行方向の上流側から、それぞれ、ロールR1=1.00m/分、ロールR2=0.9m/分、ロールR3=0.875m/分およびロールR4=0.85m/分とした。また、前記PVAフィルムは、その両端の段差部を四本のロールR1?R4の各肩部に掛けた状態で搬送した。前記PVAフィルムにおける厚膜部の幅の長さは30mm、前記段差の高さ(深さ)は30μmであった。また、前記ロールR1は、80mmφ、軸方向長さ470mm、前記ロールR2、前記ロールR3および前記ロールR4は、50mmφ、軸方向長さ470mmであった。 【0106】 (7)乾燥工程 前記収縮後の前記PVAフィルムに60℃で1分間乾燥処理を施した。前記乾燥後の偏光子を、ポリエチレンテレフタレートを合紙として巻き取ることで、連続の偏光子を得た。」 イ 上記アからみて、引用例1には、 「重合度2400のPVAからなる厚み75μm、幅0.13m、長さ50mのロールに巻き回した原反PVAフィルムの幅方向の両端を把持手段により把持し、テンター延伸機で速度1m/分で前記PVAフィルムの長手方向に搬送し、前記PVAフィルムの両面に、気相中で、30℃の水(膨潤液)を30秒噴霧しながら前記PVAフィルムを原反の2.2倍の長さになるように幅方向に延伸し、前記膨潤後のPVAフィルムの片面に、気相中で、0.2重量%のヨウ素を含む30℃の水溶液である染色液を25秒噴霧しながら前記PVAフィルムを原反の3.3倍の長さになるように幅方向に延伸し、前記染色処理後の前記PVAフィルムの片面に、気相中で、3重量%のホウ酸と3重量%のヨウ化カリウムとを含む30℃の水溶液である架橋液を10秒噴霧しながら前記PVAフィルムを原反の3.6倍の長さになるように幅方向に延伸し、前記架橋後の前記PVAフィルムの片面に、4重量%のホウ酸と5重量%のヨウ化カリウムとを含む60℃の水溶液である延伸用の処理液を60秒噴霧しながら前記PVAフィルムを原反の5.9倍の長さになるように幅方向に延伸し、前記PVAフィルムを搬送しながら、1分間加熱乾燥処理を施すことで、前記PVAフィルムの含水率を減少させ、前記PVAフィルムの長手方向の長さを85%に収縮し、収縮後の該PVAフィルムに60℃で1分間乾燥処理を施した偏光子。」の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 (2)原査定の拒絶の理由に引用された「本願の出願前に頒布された刊行物である特開2008-15000号公報(以下「引用例2」という。)」には、図とともに次の事項が記載されている。 ア 「【0023】 図1?図5は、本発明に係る偏光フィルムの湿式延伸製造装置の1実施の形態を示す。図1中において符号1は偏光フィルムの湿式延伸製造装置の全体を示すが、偏光素子乾燥機40までを示し、トリアセチルセルロース等の保護フィルム貼り合わせ等の次工程は省略してある。湿式延伸法は、ポリビニールアルコール系フィルム3を延伸前後で溶液中に浸漬させ、フィルム3の吸水性を生かし、短時間で膨潤させ、その後、フィルム3に加熱及び冷却を施すことなく延伸部の前後に設置したロールの周速度差により延伸し、偏光フィルムとなす。勿論、乾式延伸法における加熱ロールは使用しない。 【0024】 27は巻き取り状態のポリビニールアルコール系フィルム原反、28a?28gはニップロール、29は膨潤槽、30は染着槽、31は洗浄槽(架橋槽)、32は延伸槽、33は延伸基準ロールとなる第1延伸用ロール、34は第2延伸用ロール、35は第3延伸用ロール、36は延伸基準ロールとなる第4延伸用ロール、37は第5延伸用ロール、38a?38eは圧着ロール、39は洗浄槽(補色槽)、40は偏光素子乾燥機、41は乾燥後の偏光素子、各50は案内ロールである。 【0025】 PVA系フィルム原反27からのPVA系フィルム3は、所定の張力かつ所定の速度でニップロール28aによつて巻き出され、膨潤槽29内に送られる。膨潤槽29内には所定温度でミネラル分、雑菌、色度、濁度、臭気、PH値等を基準値以下に維持した生産水又は純水が収容され、PVA系フィルム3の表面の汚れやブロッキング防止剤等を洗浄すると共に、PVA系フィルム3を膨潤させることで、染色ムラ等の不均一性を防止する作用を有する。膨潤槽29の溶液には、ヨウ化カリウム、ホウ酸、柔軟剤等を適宜に加えることもあり、また、膨潤槽29において低倍率で延伸することも可能である。膨潤槽29で低張力状態で処理されたPVA系フィルム3は、一般に、幅が最大で23%程自然拡幅し、厚さは75μm(原反27の厚さ)を基準として16?19μm増加する。また、吸水することにより重量も70?90%増加する。 【0026】 膨潤槽29の溶液中を通過したPVA系フィルム3は、膨潤槽29の前端部のニップロール28bによつてフィルム3の両面の余剰水を水切りし、次工程の染着槽30にニップロール28cの駆動力で低張力状態で送られる。染着槽30内の溶液は膨潤槽29と同条件の生産水又は純水に二色性を有するヨウ素等の二色性物質を微小量加えた液で、ポリビニールアルコール分子鎖間にヨウ素イオンを着床させる。 【0027】 また、ポリビニールアルコール系フィルム3の両面に余剰に付着した染料及び架橋剤を生産水又は純水で洗浄し、洗浄槽(架橋槽)31の前端部に配置したニップロール28dで水切りを行い、染着、架橋後のポリビニールアルコール系フィルム3は1つの延伸槽32に送られる。なお、洗浄槽(架橋槽)31でも低倍率で延伸することが可能である。 【0028】 延伸槽32では、膨潤槽29と同様の生産水又は純水に、ホウ素化合物、ヨウ化物等を微小含有させた水溶液を用い、50℃位まで加温された貯留溶液中で、ロール装置2により、ポリビニールアルコール系フィルム3に縦方向(前後方向)に一軸延伸をかける。後端部のニップロール28dによつて延伸槽32に送り込まれるポリビニールアルコール系フィルム3は、後端位置の案内ロール50によつて溶液中に導かれ、ロール装置2によつて延伸された後、再度、前端位置の案内ロール50によつて溶液中に導かれ、前端部のニップロール28eによつて洗浄槽(補色槽)39に導入される。 【0029】 ロール装置2は、図2に示す3つの延伸用ロール33,34,35を順次に有する第1の延伸ロール組、及び図4に示す2つの延伸用ロール36,37を順次に有する第2の延伸ロール組を備える。これらの延伸用ロール33,34,35,36,37は、溶液中に浸漬され、それぞれ図外の回転駆動源によつて個別に回転駆動される駆動ロールであり、個別に遊動ロールである圧着ロール38a?38eを付属している。各延伸用ロール33,34,35,36,37は、各々独立した速度可変なモータを付属し、各ロール33,34,35,36,37単独での比率運転と張力制御が可能である。圧着ロール38a?38eについても、接触すべき延伸用ロール33,34,35,36,37の周速に合わせて個別に回転数を制御することが可能な駆動ロールとすることが可能である。 【0030】 第1の延伸ロール組を構成する延伸用ロール33,34,35では、ほぼ同一水平面上に平行配置する中心軸が前後方向に移動及び固定可能であり、所定位置で回転自在に支持し、第1,第2延伸用ロール33,34の間、及び第2,第3延伸用ロール34,35の間に任意のロール間隙を設定可能になつている。図2に示す状態は、第1,第2延伸用ロール33,34の間にロール間隙G1を設定し、第2,第3延伸用ロール34,35の間をフィルム3を介在させて密着させてロール間隙を零に設定している。 【0031】 すなわち、溶液を収容する延伸槽32の中に、第1延伸用ロール33(第1駆動ロール)、第2延伸用ロール34(第2駆動ロール)及び第3延伸用ロール35(第3駆動ロール)を配置すると共に、後端位置の案内ロール50を経て延伸槽32の溶液中に浸漬させたポリビニールアルコール系フィルム3を第1延伸用ロール33、第2延伸用ロール34及び第3延伸用ロール35に順次に巻き付けて、第1延伸用ロール33と第2延伸用ロール34との間及び第2延伸用ロール34と第3延伸用ロール35との間の内の少なくとも一方でフィルム3を延伸させて偏光フィルムにすることができる。そして、第1延伸用ロール33、第2延伸用ロール34及び第3延伸用ロール35のそれぞれに第1,第2及び第3の圧着ロール38a,38b,38cが付属されているので、ポリビニールアルコール系フィルム3が、第1の圧着ロール38aによつて第1延伸用ロール33に押し付けられ、第2の圧着ロール38bによつて第2延伸用ロール34に押し付けられ、第3の圧着ロール38cによつて第3延伸用ロール35に押し付けられている。 【0032】 具体的には、第1,第2及び第3の圧着ロール38a,38b,38cが、それぞれ第1延伸用ロール33、第2延伸用ロール34及び第3延伸用ロール35の上側に配置され、ポリビニールアルコール系フィルム3が、第1の圧着ロール38aに上側から巻き付けられて第1の圧着ロール38aと第1延伸用ロール33との間に通され、第1延伸用ロール33に巻き付けられて、第2の圧着ロール38bと第2延伸用ロール34との間を通つて第3延伸用ロール35に下側から巻き付けられて第3の圧着ロール38cと第3延伸用ロール35との間を通つて第3の圧着ロール38cに巻き付けられ、第3の圧着ロール38cの上側から導出されて、中間位置の案内ロール50に導かれている。しかして、ポリビニールアルコール系フィルム3は、対をなす第1の圧着ロール38a及び第1延伸用ロール33において逆S字状に巻き付けられ、対をなす第3延伸用ロール35及び第3の圧着ロール38cにおいてS字状に巻き付けられている。なお、対をなす第4の圧着ロール38d及び第4延伸用ロール36においても逆S字状に巻き付けられている。 【0033】 各延伸用ロール33,34,35,36,37の材質は、金属ロールにニトリルゴム(NBR)又はエチレンプロピレンゴム(EPDM)を被着したライニングロールが望ましいが、硬質クロームメッキを施した金属ロールとしてもよい。 【0034】 各圧着ロール38a?38eの表面素材は延伸用ロール33?37と同質のゴムライニングロールであり、また、表面粗度も同じでよい。 【0035】 しかして、圧着ロール38a?38eは、溶液中のポリビニールアルコール系フィルム3が延伸用ロール33,34,35,36,37と滑りを生じないように押圧させる機能を主として有し、また、S字状にポリビニールアルコール系フィルム3を巻き付けた圧着ロール38a,38c,38dは、対応する延伸用ロール33,35,36へのポリビニールアルコール系フィルム3の巻き付け長さを増加させて滑りを抑制すると共に、ポリビニールアルコール系フィルム3による上方への押圧力を支持するバックアップロールとしての機能を併有する。なお、圧着ロール38a?38eの容量決定値は、全幅でポリビニールアルコール系フィルム3が張力により完全破断可能な容量とした。 【0036】 このような第1の延伸ロール組(33?35)及び第2の延伸ロール組(36,37)を適宜の周速にて駆動することにより、1段延伸法、2段延伸法、3段延伸法の適用が可能になる。 【0037】 1段延伸法は、第1の延伸ロール組の一対の延伸用ロール33,34の間のみで一軸延伸を施すことによつて実施される。従つて、他の延伸用ロール34,35,36,37の周速は同一に設定する。このとき、対をなす延伸用ロール35及び圧着ロール38bを一体的に前後に水平移動させ、延伸用ロール35をフィルム3を挟んで延伸用ロール34に密着させることにより、延伸用ロール35は、圧着ロール38bと共に延伸用ロール34に対するポリビニールアルコール系フィルム3の滑りを防止するように機能する。 【0038】 1段延伸法において、図2に示す第1,第2延伸用ロール33,34の周速を5.2倍とすれば、ポリビニールアルコール系フィルム3は5.2倍に一軸延伸されることになる。延伸時のネックイン(延伸による幅方向収縮)については、ロール間隙G1によつて延伸距離S1(スパン)と共に決定される。仮に、延伸用ロールの外径を310mmとした場合、ロール間隙G1を1mmとすれば、延伸距離S1(スパン)は約25mmであり、延伸後のPVA偏光素子の幅方向収縮は約5%となつた。この数値は、ポリビニールアルコール系フィルム3の重合度、延伸用ロールの間隙G1(延伸距離S1)の変化に加え、溶液温度、溶液中のホウ素化合物、ヨウ化物の濃度等により変化するものである。」 イ 上記アからみて、引用例2には、 「ポリビニールアルコール系フィルムを延伸前後で溶液中に浸漬させ、フィルムの吸水性を生かし、短時間で膨潤させ、次工程の染着槽にニップロールの駆動力で低張力状態で送られ、生産水又は純水に二色性を有するヨウ素等の二色性物質を微小量加えた液で、ポリビニールアルコール分子鎖間にヨウ素イオンを着床させ、染着、架橋後のポリビニールアルコール系フィルムは1つの延伸槽に送られ、50℃位まで加温された貯留溶液中で、ロール装置により、ポリビニールアルコール系フィルムに縦方向(前後方向)に一軸延伸をかけ、ポリビニールアルコール系フィルムは5.2倍に一軸延伸され、延伸後のPVA偏光素子の幅方向収縮は約5%となつた偏光フィルム」の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。 (3)原査定の拒絶の理由に引用された「本願の出願前に頒布された刊行物である特開2001-305347号公報(以下「引用例3」という。)」には次の事項が記載されている。 ア 「【0029】 【実施例】以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、実施例中の二色性比は以下の方法により評価した。 【0030】二色性比:得られた偏光フィルムの偏光性能を評価する指標として二色性比を使用した。この二色性比は、日本電子機械工業会規格(EIAJ)LD-201-1983に準拠し、分光光度計を用いて、C光源、2℃視野にて測定・計算して得た透過率Ts(%)と偏光度P(%)を使用して下記の式から求めた。 二色性比=log(Ts/100-Ts/100×P/100)/log(Ts/100+Ts/100×P/100) 【0031】実施例1 けん化度99.9モル%で重合度4000のPVA100重量部、グリセリン10重量部、ラウリン酸ジエタノールアミド0.1重量部および水からなる揮発分80%の含水PVAチップを100℃に加熱溶融し、95℃のクロームメッキした金属ロールに溶融押出製膜した。さらに金属ロール表面のPVA溶液を100℃の熱風で乾燥し、フィルム幅3.6mで平均厚さ75μmのPVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムの幅方向中央部の1m四方を短冊状に切り、その厚さを1cm間隔で測定したところ、最も厚い部分が77.4μm、最も薄い部分が72.5μmであり、厚さ精度は4.9μmであった。 【0032】このフィルム幅3.6mのPVAフィルムを予備膨潤、染色、一軸延伸、固定処理、乾燥、熱処理の順に処理して偏光フィルムを作製した。すなわち、前記PVAフィルムを30℃の水中に3分間浸漬して予備膨潤し、ヨウ素濃度0.4g/リットル、ヨウ化カリウム濃度40g/リットルの40℃の水溶液中に4分間浸漬した。続いて、ホウ酸4%の50℃の水溶液中で長さ方向に5.5倍にロール方式で一軸延伸を行ったところ、ネックイン率(延伸後の幅/延伸前の幅)は62%であった。さらに、ヨウ化カリウム40g/リットル、ホウ酸40g/リットルの30℃の水溶液中に5分間浸漬して固定処理を行った。この後PVAフィルムを取り出し、定長下、40℃で熱風乾燥し、さらに100℃で5分間熱処理を行った。 【0033】得られた偏光フィルムの幅方向中心部の厚さは22μmであり、透過率は43.3%、偏光度は99.7%、平均二色性比は45.7であった。この偏光フィルムの幅方向中央部と、そこから幅方向端面に向かった25cmの位置との透過率の差は、0.5%であった。クロスニコル状態の2枚の偏光板の間に、得られた偏光フィルムを45°の角度で挟み、透過光を目視で観察すると、光学ムラはほとんど認められなかった。 【0034】実施例2 けん化度99.9モル%で重合度2400のPVA100重量部、グリセリン10重量部、ポリオキシエチレンラウリルエーテル0.1重量部および水からなる揮発分70%の含水PVAチップを100℃で加熱溶融し、95℃のクロームメッキした金属ロールに溶融押出製膜した。さらに金属ロール表面のPVA溶液を100℃の熱風で乾燥し、フィルム幅3.2mで平均厚さ75μmのPVAフィルムを得た。得られたフィルムの幅方向中央部の1m四方を短冊状に切り、その厚さを1cm間隔で測定したところ、最も厚い部分が77.1μm、最も薄い部分が72.8μmであり、厚さ精度は4.3μmであった。 【0035】このフィルム幅3.2mのPVAフィルムを予備膨潤、染色、一軸延伸、固定処理、乾燥、熱処理の順に処理して偏光フィルムを作製した。すなわち、前記PVAフィルムを30℃の水中に3分間浸漬して予備膨潤し、ヨウ素濃度0.4g/リットル、ヨウ化カリウム濃度40g/リットルの40℃の水溶液中に4分間浸漬した。続いて、ホウ酸4%の50℃の水溶液中で長さ方向に5.0倍にロール方式で一軸延伸を行ったところ、ネックイン率(延伸後の幅/延伸前の幅)は60%であった。さらに、ヨウ化カリウム40g/リットル、ホウ酸40g/リットルの30℃の水溶液中に5分間浸漬して固定処理を行った。この後PVAフィルムを取り出し、定長下、40℃で熱風乾燥し、さらに100℃で5分間熱処理を行った。 【0036】得られた偏光フィルムの幅方向中心部の厚さは25μmであり、透過率は42.6%、偏光度は99.6%、平均二色性比は39.3であった。この偏光フィルムの幅方向中央部と、そこから幅方向端面に向かった25cmの位置との透過率の差は、0.8%であった。クロスニコル状態の2枚の偏光板の間に、得られた偏光フィルムを45°の角度で挟み、透過光を目視で観察すると、光学ムラはほとんど認められなかった。」 イ 上記アからみて、引用例3には、 「フィルム幅3.6mのPVAフィルムを予備膨潤、ヨウ素濃度0.4g/リットル、ヨウ化カリウム濃度40g/リットルの40℃の水溶液中に4分間浸漬しての染色、一軸延伸、固定処理、乾燥、熱処理の順に処理して作製した偏光フィルムであって、 長さ方向に5.5倍にロール方式で一軸延伸を行ったところ、ネックイン率(延伸後の幅/延伸前の幅)は62%であり、 長さ方向に5.0倍にロール方式で一軸延伸を行ったところ、ネックイン率(延伸後の幅/延伸前の幅)は60%である、偏光フィルム。」の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。 4 引用発明1との対比・判断 本願発明と引用発明1とを対比する。 (1)引用発明1の「ヨウ素」、「PVAからなる原反PVAフィルム」、「偏光子」、「PVAフィルムの長手方向」、「収縮」、「1分間加熱乾燥処理を施すことで、前記PVAフィルムの含水率を減少させ、前記PVAフィルムの長手方向の長さを85%に収縮し」、「幅方向」、「延伸」及び「幅方向に延伸」は、それぞれ、本願発明の「二色性物質」、「ポリビニルアルコール系樹脂膜」、「偏光膜」、「第1の方向」、「収縮」、「第1の方向に収縮させ」、「第2の方向」、「延伸」及び「第2の方向に延伸する」に相当する。 (2)本願明細書の発明の詳細な説明には次の記載がある。 ア 「【0031】 B-2.延伸 上記Nz係数は、例えば、延伸方法、延伸倍率、延伸温度等の延伸条件を適宜選択することにより制御することができる。延伸方法としては、例えば、テンター延伸機を用いた固定端延伸、周速の異なるロールを用いた自由端延伸、同時二軸延伸機を用いた二軸延伸、逐次二軸延伸が挙げられる。これらは、単独で、または、二種以上組み合わせて採用し得る。具体的には、図3に示すように、PVA系樹脂膜10を周速の異なるロール31,31,32,32間に通して搬送方向(MD)に延伸(自由端延伸)する場合、例えば、搬送方向に直交する方向(TD)への延伸と組み合わせる形態が挙げられる。以下、好ましい実施形態について具体的に説明する。 【0032】 好ましい実施形態においては、本発明の偏光膜は、PVA系樹脂膜を第1の方向に収縮させて、第2の方向に延伸することにより製造される。このような製造方法によれば、上記Nz係数を良好に満足させることができる。 【0033】 第1の方向は、1つの実施形態においては、PVA系樹脂膜の搬送方向(MD)である。搬送方向は、好ましくは、長尺状のPVA系樹脂膜の長尺方向であり、PVA系樹脂膜の長尺方向に対して反時計回りに-5°?+5°の方向を包含し得る。別の実施例形態においては、第1の方向は、搬送方向に直交する方向(TD)である。搬送方向に直交する方向は、好ましくは、長尺状のPVA系樹脂膜の幅手方向であり、PVA系樹脂膜の長尺方向に対して反時計回りに85°?95°の方向を包含し得る。なお、本明細書において、「直交」とは、実質的に直交する場合も包含する。ここで、「実質的に直交」とは、90°±5.0°である場合を包含し、好ましくは90°±3.0°、さらに好ましくは90°±1.0°である。 【0034】 収縮は、延伸と同時に行ってもよいし、別のタイミングで行ってもよい。また、その順序も限定されないし、一段階で収縮させてもよいし、多段階で収縮させてもよい。1つの実施形態においては、好ましくは、PVA系樹脂膜を第2の方向に延伸しながら、第1の方向に収縮させる。別の実施形態においては、好ましくは、PVA系樹脂膜を第1の方向に収縮させた後に、第2の方向に延伸する。 【0035】 本実施形態では、例えば、PVA系樹脂膜の収縮率を調整することにより、上記Nz係数を良好に満足させることができる。PVA系樹脂膜の第1の方向の収縮率は、好ましくは40%以下、さらに好ましくは35%以下、特に好ましくは20%以下である。優れた耐久性を達成することができる。一方、収縮率は、好ましくは5%以上である。5%を下回ると、十分な光学特性が得られないおそれがある。 【0036】 上記第2の方向は、所望の偏光膜に応じて、任意の適切な方向に設定することができる。好ましくは、第2の方向と上記第1の方向とは直交する。具体的には、上記第1の方向がPVA系樹脂膜の搬送方向(MD)である場合、第2の方向は、好ましくは、搬送方向に直交する方向(TD)である。上記第1の方向が搬送方向に直交する方向(TD)である場合、第2の方向は、好ましくは、搬送方向(MD)である。なお、第2の方向が、実質的に、得られる偏光膜の吸収軸方向となる。 …略… 【0042】 第2の方向延伸倍率は、PVA系樹脂膜の元長に対して、好ましくは4.0倍以上である。第1の方向に収縮させることにより、このような高い倍率での延伸が可能となり、優れた光学特性を有する偏光膜を得ることができる。一方、延伸倍率は、好ましくは6.0倍以下、さらに好ましくは5.5倍以下である。」 イ 「【0051】 [実施例1] <積層体の作製> (熱可塑性樹脂基材) 熱可塑性樹脂基材として、長尺状で厚み200μm、Tg123℃のシクロオレフィン系樹脂フィルム(JSR社製、商品名「ARTON」)を用いた。 (塗布液の調製) 重合度1800、ケン化度98?99%のポリビニルアルコール(PVA)樹脂(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセノール(登録商標)NH-18」)を水に溶解させて、濃度7重量%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。 (PVA系樹脂層の形成) 延伸処理を施した熱可塑性樹脂基材の片面に、上記塗布液をダイコーター(ダイコート法)により塗布した後、100℃で180秒間乾燥して、厚み9μmのPVA系樹脂層を形成した。このようにして、積層体を作製した。 【0052】 <収縮・延伸処理> 得られた積層体を、図2に示すように、同時二軸延伸機を用いて、140℃で、第1の方向(MD)に40%収縮させると同時に、第2の方向(TD)に5.0倍に乾式延伸した。 【0053】 <染色処理> 次いで、積層体を、25℃のヨウ素水溶液(ヨウ素濃度:0.5重量%、ヨウ化カリウム濃度:10重量%)に30秒間浸漬させた。 【0054】 <架橋処理> 染色後の積層体を、60℃のホウ酸水溶液(ホウ酸濃度:5重量%、ヨウ化カリウム濃度:5重量%)に60秒間浸漬させた。 【0055】 <洗浄処理> 架橋処理後、積層体を、25℃のヨウ化カリウム水溶液(ヨウ化カリウム濃度:5重量%)に5秒間浸漬させた。 このようにして、熱可塑性樹脂基材上に、厚み3μmの偏光膜を作製した。 【0056】 積層体の偏光膜側にビニルアルコール系接着剤を介して保護フィルム(厚み:80μm、富士フイルム社製、商品名「TD80UL」)を貼り合わせた。次に、偏光膜から熱可塑性樹脂基材を剥離し、この剥離面にビニルアルコール系接着剤を介して保護フィルム(厚み:40μm、東洋鋼鈑社製、商品名「ファインキャスト」)を貼り合わせて偏光フィルムを作製した。」 ウ 「【0057】 [実施例2] 積層体の作製に際し、厚み10μmのPVA系樹脂層を形成したこと、収縮・延伸処理において第1の方向の収縮率を35%としたこと、および、染色処理に際してヨウ素濃度を0.45重量%としたこと以外は、実施例1と同様にして偏光フィルムを作製した。なお、得られた偏光膜の厚みは、3μmであった。」 エ 「【0058】 [実施例3] 積層体の作製に際し、厚み13μmのPVA系樹脂層を形成したこと、収縮・延伸処理において第1の方向の収縮率を15%としたこと、および、染色処理に際してヨウ素濃度を0.35重量%としたこと以外は、実施例1と同様にして偏光フィルムを作製した。なお、得られた偏光膜の厚みは、3μmであった。」 オ 「【0059】 [実施例4] 積層体のかわりに厚み75μmのPVA系樹脂フィルム(クラレ社製、商品名「PS-7500」)を用いたこと、収縮・延伸処理の温度を110℃として第1の方向の収縮率を20%としたこと、および、染色処理に際してヨウ素濃度を0.2重量%としたこと以外は、実施例1と同様にして偏光フィルムを作製した。なお、得られた偏光膜の厚みは、19μmであった。」 カ 「【0060】 [実施例5] 厚み75μmのPVA系樹脂フィルム(クラレ社製、商品名「PS-7500」)に染色・架橋・洗浄処理を施しながら、L(延伸間距離)/W(延伸直前のフィルム幅)=0.1のロール間で湿式延伸(第1の方向(TD)の収縮率:20%、第2の方向(MD)への延伸倍率:5.0倍)することより、厚み19μmの偏光膜を作製した。この偏光膜に、実施例1と同様の保護フィルムを貼り合わせて偏光フィルムを作製した。なお、染色、架橋および洗浄処理の条件は、染色処理に際してヨウ素濃度を0.05重量%としたこと以外は実施例1と同様とした。」 キ 「【0065】 【表1】 」 ク 上記キの表1の記載から、実施例1ないし5のNz係数は順に1.10、1.20、1.40、1.35及び1.35であることが見て取れる。 したがって、上記アないしキからみて、二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂膜を、第1の方向に収縮させ、第2の方向に延伸することにより得られる、Nz係数が1.10以上1.50以下である本願発明の偏光膜は、二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂膜を第1の方向に5%以上40%以下収縮させて、上記第1の方向とは直交する第2の方向に、ポリビニルアルコール系樹脂膜の元長に対して4.0倍以上6.0倍以下延伸することにより製造されるものと解される。 (3)引用発明1の「偏光膜(偏光子)」は、「ポリビニルアルコール系樹脂膜(PVAフィルム)」を原反の5.9倍の長さになるように「第2の方向に延伸(幅方向に延伸)」し、前記「ポリビニルアルコール系樹脂膜」を搬送しながら、「第1の方向に15%収縮させ(1分間加熱乾燥処理を施すことで、前記PVAフィルムの含水率を減少させ、前記PVAフィルムの長手方向の長さを85%に収縮し)」たものであるから、「二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂膜」を「第1の方向」に5%以上40%以下「収縮」させて、上記「第1の方向とは直交する第2の方向」に、「ポリビニルアルコール系樹脂膜」の元長に対して4.0倍以上6.0倍以下「延伸」することにより製造されるものであるといえる。 してみると、上記(2)クからみて、引用発明1の「偏光膜」の「Nz係数」は「1.10以上1.50以下」の範囲内の値になるといえる。 したがって、引用発明1の「ポリビニルアルコール系樹脂膜のNz係数」と本願発明の「ポリビニルアルコール系樹脂膜のNz係数」とは「1.10以上1.50以下」の範囲内である点で一致する。 (4)上記(1)ないし(3)からみて、本願発明と引用発明1とは、 「二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂膜から構成され、 該ポリビニルアルコール系樹脂膜のNz係数が1.10以上1.50以下である、偏光膜であって、 該ポリビニルアルコール系樹脂膜を、第1の方向に収縮させ、第2の方向に延伸することにより得られる、偏光膜。」である点で一致し、相違するところはない。 (5)したがって、本願発明は、引用発明1と同一の発明であるから、引用例1に記載された発明であり、本願の出願前に頒布された刊行物に記載された発明である。 5 引用発明2との対比・判断 本願発明と引用発明2とを対比する。 (1)引用発明2の「二色性を有するヨウ素等の二色性物質」、「ポリビニールアルコール系フィルム」、「PVA偏光素子」、「延伸後のPVA偏光素子の幅方向」、「収縮」、「延伸後のPVA偏光素子の幅方向収縮」、「縦方向(前後方向)」、「一軸延伸」及び「縦方向(前後方向)に一軸延伸をかけ」は、それぞれ、本願発明の「二色性物質」、「ポリビニルアルコール系樹脂膜」、「偏光膜」、「第1の方向」、「収縮」、「第1の方向に収縮させ」、「第2の方向」、「延伸」及び「第2の方向に延伸する」に相当する。 (2)引用発明2の「偏光膜(PVA偏光素子)」は、生産水又は純水に「二色性物質(二色性を有するヨウ素等の二色性物質)」を微小量加えた液で、ポリビニールアルコール分子鎖間にヨウ素イオンを着床させ、染着、架橋後の「ポリビニルアルコール系樹脂膜(ポリビニールアルコール系フィルム)」を「第2の方向に延伸(縦方向(前後方向)に一軸延伸をかけ)」し、「ポリビニルアルコール系樹脂膜」は5.2倍に「延伸(一軸延伸)」され、「第1の方向収縮(延伸後のPVA偏光素子の幅方向収縮)」は約5%となつたものであるから、「二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂膜」を「第1の方向」に5%以上40%以下「収縮」させて、上記「第1の方向とは直交する第2の方向」に、「ポリビニルアルコール系樹脂膜」の元長に対して4.0倍以上6.0倍以下「延伸」することにより製造されるものであるといえる。 してみると、上記4(2)クからみて、引用発明2の「偏光膜」の「Nz係数」は「1.10以上1.50以下」の範囲内の値になるといえる。 したがって、引用発明2の「ポリビニルアルコール系樹脂膜のNz係数」と本願発明の「ポリビニルアルコール系樹脂膜のNz係数」とは「1.10以上1.50以下」の範囲内である点で一致する。 (3)上記(1)及び(2)からみて、本願発明と引用発明2とは、 「二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂膜から構成され、 該ポリビニルアルコール系樹脂膜のNz係数が1.10以上1.50以下である、偏光膜であって、 該ポリビニルアルコール系樹脂膜を、第1の方向に収縮させ、第2の方向に延伸することにより得られる、偏光膜。」である点で一致し、相違するところはない。 (4)したがって、本願発明は、引用発明2と同一の発明であるから、引用例2に記載された発明であり、本願の出願前に頒布された刊行物に記載された発明である。 6 引用発明3との対比・判断 本願発明と引用発明3とを対比する。 (1)引用発明3の「ヨウ素」、「PVAフィルム」、「偏光フィルム」、「幅」、「ネックイン」、「ネックイン率(延伸後の幅/延伸前の幅)は62%、60%」、「長さ方向」、「一軸延伸」及び「長さ方向に5.5倍、5.0倍にロール方式で一軸延伸を行った」は、それぞれ、本願発明の「二色性物質」、「ポリビニルアルコール系樹脂膜」、「偏光膜」、「第1の方向」、「収縮」、「第1の方向に収縮させ」、「第2の方向」、「延伸」及び「第2の方向に延伸する」に相当する。 (2)引用発明3の「偏光膜(偏光フィルム)」は、フィルム幅3.6mの「ポリビニルアルコール系樹脂膜(PVAフィルム)」を予備膨潤、「二色性物質(ヨウ素)」濃度0.4g/リットル、ヨウ化カリウム濃度40g/リットルの40℃の水溶液中に4分間浸漬しての染色、「延伸(一軸延伸)」、固定処理、乾燥、熱処理の順に処理して作製した「偏光膜(偏光フィルム)」であって、 「第2の方向(長さ方向)」に5.5倍にロール方式で「延伸」を行ったところ、「収縮(ネックイン)」した率(「延伸」後の「第1の方向(幅)」長/「延伸」前の「第1の方向」長)は62%であり、「第2の方向」に5.0倍にロール方式で「延伸」を行ったところ、「収縮」した率(「延伸」後の「第1の方向(幅)」長/「延伸」前の「第1の方向」長)は60%であるから、「二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂膜」を「第1の方向」に5%以上40%以下「収縮」させて、上記「第1の方向とは直交する第2の方向」に、「ポリビニルアルコール系樹脂膜」の元長に対して4.0倍以上6.0倍以下「延伸」することにより製造されるものであるといえる。 してみると、上記4(2)クからみて、引用発明3の「偏光膜」の「Nz係数」は「1.10以上1.50以下」の範囲内の値になるといえる。 したがって、引用発明3の「ポリビニルアルコール系樹脂膜のNz係数」と本願発明の「ポリビニルアルコール系樹脂膜のNz係数」とは「1.10以上1.50以下」の範囲内である点で一致する。 (3)上記(1)及び(2)からみて、本願発明と引用発明3とは、 「二色性物質を含むポリビニルアルコール系樹脂膜から構成され、 該ポリビニルアルコール系樹脂膜のNz係数が1.10以上1.50以下である、偏光膜であって、 該ポリビニルアルコール系樹脂膜を、第1の方向に収縮させ、第2の方向に延伸することにより得られる、偏光膜。」である点で一致し、相違するところはない。 (4)したがって、本願発明は、引用発明3と同一の発明であるから、引用例3に記載された発明であり、本願の出願前に頒布された刊行物に記載された発明である。 7 むすび 本願発明は、上記4ないし6のとおり、刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-04-03 |
結審通知日 | 2013-04-10 |
審決日 | 2013-04-23 |
出願番号 | 特願2011-63850(P2011-63850) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(G02B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中村 理弘 |
特許庁審判長 |
小牧 修 |
特許庁審判官 |
西村 仁志 清水 康司 |
発明の名称 | 偏光膜および偏光フィルム |
代理人 | 籾井 孝文 |