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審決分類 審判 判定 その他 属さない(申立て成立) B01D
管理番号 1275171
判定請求番号 判定2012-600048  
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2013-07-26 
種別 判定 
判定請求日 2012-11-21 
確定日 2013-06-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第3218031号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号物件目録記載の「アロンフロックEシリーズ」は、特許第3218031号の請求項7に記載された特許発明の技術的範囲に属しない。 
理由 [1]請求の趣旨と手続の経緯
1.請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は、イ号物件目録記載の「アロンフロックEシリーズ」は,特許第3218031号の請求項7に記載された特許発明の技術的範囲に属しない,との判定を求めるものである。

2.手続の経緯
平成13年 1月16日 出願(優先日 平成12年9月25日)
平成13年 8月 3日 特許登録
平成24年11月21日 本件判定請求
平成25年 1月25日 答弁書(被請求人)
平成25年 4月17日 弁駁書(請求人)

[2]本件特許発明
本件特許発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1-11に記載されたとおりのものであり、このうち、請求人が上記判定を求める請求項7に係る発明(以下、「本件特許発明7」という。)につき、その構成を構成要件毎に符号を付して分説すると、次のとおりである。

「A(e)抽出対象物質を含有する液体と同じ組成の液体、または界面活性 剤を用いずに混合できる液体と、
B(f)(e)の液体とは極性が異なる液体または界面活性剤を用いずに は混合できない液体と、
C 界面活性剤とで多層乳化したエマルションを含有する抽出液であり、

D 次の両方の事項を特徴とするもの:
1.該抽出液と抽出対象物質を含有する液体とを接触・撹拌した際に、 多層乳化エマルションが転層することにより、抽出対象物を含有する ミセルを形成するもの。
2.転層により生成した、抽出対象物を含有するミセルが比重により沈 殿または浮上するもの。」
(以下、それぞれ、「構成要件A」?「構成要件D」という。)

[3]イ号物件
平成24年11月21日付け判定請求書およびイ号物件目録によれば、本件イ号物件の構成は、本件特許発明の構成要件に対応させ分説、記載すると、次のとおりである。

「a.カチオン性の(メタ)アクリル酸エステル,ノニオン性のアクリルア ミドの重合性単量体(モノマー)の水溶液と
b.炭化水素系油(パラフィン系オイル)と
c.界面活性剤等とを混合し,その後,重合開始剤を添加し水溶性モノマ ーを重合させることで製造される油中水系(W/O)エマルション型 高分子凝集剤であり、
d.水溶性高分子であるエマルション型高分子凝集剤は、懸濁水中の複数 の固体粒子に結合し、これら粒子同士を互いに引きつけて凝集させる もの。」

[4]対比・判断
1.構成要件Cについて
まず、イ号物件が、構成要件Cを充足するかどうかについて検討する。
イ号物件に係る高分子凝集剤は、炭化水素系油(パラフィン)中に、アクリルアミド等の水溶性高分子が界面活性剤により分散した油中水系(W/O)エマルションを含むものと認められる(イ号物件目録「1.イ号製品の説明(3)イ号製品の構成に関する説明」)。
この点については、甲第2号証(「アロンフロック E-3589」のCryo FIB-SEM観察に関する)の図1-3(アロンフロックE-3589のクライオ断面SEM画像)及び図1-3’(水分の昇華する条件にて再び行った同断面のSEM画像)を見ると、図1-3では、球状のドメイン部分(分散質)とマトリクス部分(分散媒)が認められ、図1-3’では、該ドメインの一部の周囲における薄い層が顕著に観察される(∇で示した部分)。そして、参考図3は、O/W型エマルションの断面SEM画像であるが、これと図1-3、図1-3’とを比較すると、球状のドメイン部分とマトリクス部分のコントラストが反転しているとともに、参考図3における水分昇華後の場合には、マトリクス部分、すなわち、W部分において多数の脱落部が観察されることから、図1-3及び図1-3’における粒状のドメイン部は、水分およびポリマーにより形成され、図1-3’におけるドメインの一部の周囲における薄い層は、水分の一部の昇華によるものと認められる。
このことからも、上記「イ号物件に係る高分子凝集剤は、炭化水素系油(パラフィン)中に、アクリルアミド等の水溶性高分子が界面活性剤により分散した油中水系(W/O)エマルションを含むもの」であることが確認される。
一方、被請求人は、答弁書において、【図3】(乙第1号証のFig.4(a)(W/Oエマルションにおける水を昇華させた後のSEM画像))、【図4】及び【図5】(乙第3号証のFig.7及びFig.9(a)(連続層をパラフィンオイルとしたW/Oエマルションを凍結させ水を昇華させた後のCryo-SEM写真))に基いて、「請求人が主張するように、イ号製品が含有するエマルションがW/Oエマルションであるとするならば、図3乃至5(【図3】乃至【図5】)のように、円形の陥没が生じ、薄い層を含めた層構造は認められないはずである。しかし、甲第2号証の昇華後のSEM画像には陥没は認められず、むしろ上記薄い層が陥没しているように見受けられるので、中心の油層を周回するように存在する水層が昇華しており、…エマルションの形状が全く異なることが分かる。従って、イ号製品が含有するエマルションはW/Oエマルションではないか,少なくともW/Oエマルションのみからなるものではないことは明らかである。」(答弁書第5頁下から第5行?第6頁第3行;なお、下線は、当審において付与した)としている。
また、【図9】(乙第7号証第4頁左欄最上段(イ号製品の凍結割断レプリカ法によるTEM画像))、【図10】(乙第8号証のFig.2(O/WエマルションについてのCryo-TEM画像))に基いて、「図9(【図9】)に示すように、割断されたエマルションに層構造が見られる(例えば矢印部分)。……他方、…図10(【図10】)に示すように、O/Wエマルションのように多層乳化していないエマルションを凍結割断した場合、エマルションの内部が均一に割断される。そのため、図9の矢印で示されるような層構造は認められない。従って、乙第7号証と乙第8号証との比較から明らかな通り、乙第7号証はイ号製品がW/Oエマルションではなく、O/W/Oまたはそれ以上に多層乳化した多層乳化エマルションを含有することを示している。」(答弁書第8頁下から第13行?第9頁第6行)とし、イ号製品は多層乳化エマルションを含有しており、構成要件Cを充足すると主張する。
しかしながら、イ号物件は、上記のとおり、炭化水素系油(パラフィン)中に、アクリルアミド等の水溶性高分子が界面活性剤により分散したW/Oエマルションを含むものであり、中心にあるのは、水溶性ポリマーを含むW層であって、中心が油層であることを前提とする上記【図3】乃至【図5】に基づく主張は、妥当性を欠くものである。
さらに、上記【図9】、【図10】の凍結分割レプリカ法によるTEM画像については、【図9】の矢印部分には、層構造が観察されるものの、多層構造に特徴的な同心円状の輪は認められない(リポソームの多層構造のTEM画像では、同心円状の輪が観察される(弁駁書第9頁【リポソームの凍結割断レプリカ法による画像?日本電子(株)のウェブページから抜粋】)のに対して、多層乳化していないO/WエマルションのTEM画像(【図10】)においても、O層外側に【図9】と同様の層構造が観察されることから、直ちに、イ号物件が、多層乳化エマルションを含んでいるとは認められない。また、【図10】は、O/Wエマルションの画像であるから、W/Oエマルションの画像である【図9】との比較において、直ちに多層乳化の根拠になるともいえない。
したがって、イ号物件は、上記のとおり、W/Oエマルションから構成され、多層乳化エマルションを含んでいるとは認められない。
よって、イ号物件は、本件特許発明7の構成要件Cを充足しない。

2.構成要件Aについて
本件特許発明7は、「抽出液」であり、該抽出液は「水」を含有する(【0011】、【0024】)。そして、該抽出は、液中に含まれる「多層乳化エマルション」の作用によるものである(【0007】、【0017】、図2)。
これに対し、イ号物件は、「水」及び「油(炭化水素系油(パラフィン系オイル))」を含むものの、廃水処理等に用いられる液状の「高分子凝集剤」であると認められる(イ号物件目録、甲第3号証の1「MTアクアポリマー株式会社」製品紹介等)。
この点につき、被請求人は、イ号製品がカチオン凝集剤であった場合、抽出対象物がプラスに帯電していると凝集効果はないが、イ号物件は、多層乳化エマルションを含有しているため、抽出物質が正負いずれに帯電しているかにかかわらず、本件特許発明7記載の抽出液として機能し、使用される旨主張する(答弁書第9-10頁)。
しかしながら、凝集剤とコロイド粒子との吸着力はイオン性のみならず、非イオン性にも基いており、カチオン同士の場合、吸着力が低下するとしても凝集効果は発生すると認められる(甲第14号証第166頁)から、上記「イ号製品がカチオン凝集剤であった場合、抽出対象物がプラスに帯電していると凝集効果はない」との主張は妥当性を欠いている。
また、上記「1.構成要件Cについて」のとおり、イ号物件は、多層乳化エマルションを含んでいるとは認められないことから、イ号物件は、「水」を含むものの、「抽出液」として機能し使用されるものとはいえない。
よって、イ号物件は、本件特許発明7の構成要件Aを充足しない。

3.構成要件Bについて
上記「2.構成要件Aについて」のとおり、イ号物件は「油(炭化水素系油(パラフィン系オイル))」を含んでおり、本件特許発明7も「油」を含むものである(【0011】、【0024】)。
よって、イ号物件は、本件特許発明7の構成要件Bを充足する。

4.構成要件Dについて
上記「1.構成要件Cについて」のとおり、イ号物件は、多層乳化エマルションを含んでいるとは認められないから、「多層乳化エマルションが転層することにより、抽出対象物を含有するミセルを形成するもの」(構成要件D-1)とはいえないし、「転層により生成した、抽出対象物を含有するミセルが比重により沈殿または浮上するもの。」(構成要件D-2)ともいえない。
よって、イ号物件は、本件特許発明7の構成要件Dを充足しない。

なお、この点について、被請求人は、答弁書において、乙第9号証(事実実験公正証書)に基き、概略、次のような主張をしているので、以下のとおり検討する。
ア. タンパク質(豆乳)を青色に染色し、さらにイ号物件を投入して撹拌し、浮上分離されたものを光学顕微鏡によって写真撮影したところ(実験2-1)、試験管上部に青い凝集物が確認され(【図11】)、この凝集物中には、抽出対象物を内部に包含するミセルが確認される(【図12】、【図13】)。この結果によれば、イ号物件に関し、炭化水素系油のミセルは凝集作用に関与しており、分離作用にも関与している。
イ.オーロラピンクの粉末を抽出対象物とし、水に分散させ、当該液体をプレパラートに採り、同じプレパラートにイ号物件を採り、接触させて顕微鏡に採り、接触させて顕微鏡にて動画を観察したところ(実験1-2)、エマルションは多層乳化しており、その後エマルションの外層の油層がはじけてオーロラピンクを囲い込むようにして新たなミセルが形成されている(動画001、002、請求人作成の模式図【図18】)。
ウ.オーロラピンクの粉末を抽出対象物とし、水に分散させ、当該液体にイ号物件を添加し、撹拌後3時間静置したところ(実験1-1)、試験管の底にピンク色の細かい沈殿が見られた(【図19】)ほか、沈殿を取り出して顕微鏡観察したところ、抽出対象物を含有するミセルが観察された(【図20】、【図21】)ことから、イ号物件により、転層により生成した抽出物を含有するミセルが比重により沈殿している。

しかしながら、ア.については、【図12】、【図13】には、内部に青い点状の領域を有する1つのミセルが観察されるものの、青色に染色されたタンパク質がミセル内に取り込まれたものかどうかは直ちに明らかではないし、これ自体が、多層エマルションが存在し、転層することにより抽出対象物を含有するミセルを形成することを裏付けるものでもない。
イ.については、動画001、002及びその写真【図14】-【図17】)によれば、オーロラピンクを取り囲んでいるようにも見える1つのミセルが観察されるが、被請求人が模式図によって説明するように、多層エマルションが転層乳化し、オーロラピンクを取り込んでミセルを形成しているかどうかは明らかではない。
ウ.については、【図19】において、ピンク色の細かい沈殿は明りょうには観察できず、また、沈殿物の顕微鏡写真(【図20】、【図21】)によれば、オーロラピンクを取り囲んでいるようにも見える1つのミセルは確認できるものの、それ以外の沈殿物の様子は不明であり、これをもって、直ちに「転層により生成した、抽出対象物を含有するミセルが比重により沈殿」が生じているとは認められない。そして、甲第15号証(被請求人による上記実験1-1と同1条件による試験3の結果)も、これを支持するものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、イ号物件は、本件特許の請求項7に係る特許発明の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
 
判定日 2013-05-27 
出願番号 特願2001-7151(P2001-7151)
審決分類 P 1 2・ 9- ZA (B01D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 新居田 知生  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 川端 修
石川 好文
登録日 2001-08-03 
登録番号 特許第3218031号(P3218031)
発明の名称 多層乳化エマルションを利用した有用物の抽出方法および抽出液  
代理人 ▲高▼野 芳徳  
代理人 正林 真之  
代理人 坂田 洋一  
代理人 濱野 愛  
代理人 小林 幸夫  

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