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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E04B
管理番号 1275446
審判番号 不服2011-19260  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-07 
確定日 2013-06-13 
事件の表示 特願2000-208677「脱臭可能な建築物」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 1月23日出願公開、特開2002- 21214〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成12年7月10日の出願であって、平成23年6月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
その後、平成24年8月20日付けで、当審における拒絶理由が通知され、同年10月19日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成24年10月19日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】 被脱臭物を収容する建築物の内部の建築材料の少なくとも一部に、珪藻土または珪藻土を主成分とする脱臭剤を含んでなる水系または非水系のエマルジョン塗料を塗布し、被脱臭物と珪藻土とを接触させるようにし、
前記建築材料は、セメントまたは樹脂をバインダーとする板材であり、
前記塗料を塗布した建築材料を、前記建築物から容易に取り外せるようにし、
被脱臭物と珪藻土との接触を促進させるために、建築物の内部に空気循環手段を設けたことを特徴とする脱臭可能な建築物。」(以下、「本願発明」という。)

3 刊行物に記載された発明
(1)刊行物1
本願の出願前に頒布された刊行物である、実願昭51-4896号(実開昭52-96508号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物1」という。)には,次の記載がある。
(1a)「・・・活性炭(K)体(・・・)を収蔵。(2)体の(H)部及び(X)部利用で、表面版(1)、裏面版(2)体両者一体に係合、即ち(K)体が介在包蔵形態なるよう、表面版(1)、活性炭(K)、裏面版(2)体、三者三層状重合序列に組成一体化なす本考所謂改良型パネル盤(V)体として形成なるも(V)体、四辺コーナ部面に更に止子孔(8)部を表面版(1)体の表面より裏面版(2)体に向け直角状に貫通穿設なし、止子ネジ(h)体で着脱自在、家屋、地板天井部(T)部、更に又部屋周壁面等に附設するように構成なる本案の構造。」(実用新案登録請求の範囲)

(1b)「 以上構成なる本考実施図第1図例参照例図の如く、本考を使用した場合表面版(1)体に任意数に及ぶ気孔(M)開設で(V)体内部に空気流通を得、及び(Y)体を得、裏面版(2)体に形設(U)部に収蔵なる、該活性炭(K)体群は、部屋内に微量に発生する室臭、室湿等即ち該改良型パネル盤(V)体内に収蔵なす、活性炭(1)体の消臭、吸着、吸湿作用によって該部屋内空気は常に爽やかに浄化状態の空気を保持なさしむ衛生効果を奏するものである。
更に又長期経過によって、(V)体内に収蔵の(K)体群の消臭、吸着、吸湿機能の衰退の場合、第3図例参照の如く解脱分離なせるよう構成なるから、第1図例参照、地板天井部(T)部に装設のパネル盤体(V)体を止子ネジ(h)解脱なせば、第3図例の如く容易に分離解体なるから新規活性炭を交換収蔵なし使用すれば又、あらたに効果の更新を図れるものである。
尚・・・(V)体に収蔵の活性炭(K)体を皮膜布(F)、(F)からなる袋体(1)に一端収納なし、(V)体に収蔵なすもよく効果に変化は来さない。」(明細書第3頁第4行?第4頁第4行。なお、「活性炭(1)」は「活性炭(K)」の誤記と認める。)

上記記載事項(1a)?(1b)及び図面の記載からみて、刊行物1には、次の発明が記載されているものと認められる。
「表面版(1)体に任意数に及ぶ気孔(M)開設で改良型パネル盤(V)体内部に空気流通を得、部屋内に微量に発生する室臭、室湿等即ち該改良型パネル盤(V)体内に収蔵なす、活性炭(K)体の消臭、吸着、吸湿作用によって該部屋内空気は常に爽やかに浄化状態の空気を保持なさしむ衛生効果を奏するものであって、該改良型パネル盤(V)体は、表面版(1)、裏面版(2)体両者一体に係合、即ち(K)体が介在包蔵形態なるよう、表面版(1)、活性炭(K)、裏面版(2)体、三者三層状重合序列に組成一体化して形成し、四辺コーナ部面に更に止子孔(8)部を表面版(1)体の表面より裏面版(2)体に向け直角状に貫通穿設なし、止子ネジ(h)体で着脱自在、家屋、地板天井部(T)部、更に又部屋周壁面等に附設するように構成なる家屋。」
(以下、「刊行物1記載の発明」という。)

(2)刊行物2
本願の出願前に頒布された刊行物である、特開平10-331099号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の記載がある。
(2a)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として壁装材(壁紙)として使用される化粧シートおよび化粧シート仕上塗料に関するものである。」

(2b)「【0011】
無機質粉末15の粒径を1?20μmとするのは、塗膜の表面に無機質粉末15の粒径に応じた細かい凹凸20が出来、それによって塗膜のキラツキがなるためであり、その粒径が余り細かければ、無機質粉末15を配合する意味がなくなる一方、その粒径が余り大きくなると、その粒径に応じて塗膜表面の凹凸20も大きくなるものの、無機質粉末15が塗膜から突き出る恰好になり、それが掻きとられて化粧シート14に掻き痕が付き易くなるためである。」

(2c)「【0016】
無機質粉末15には、胡粉やチョーク等の天然産カルシウム、クレー、タルク、マイカ等の天然産珪酸塩、珪藻土、石英、珪石、珪砂等の天然産珪酸等が使用される。それらの中で、好ましい無機質粉末は珪藻土である。それは、珪藻土が珪藻(プランクトン)の死骸の堆積物であって微細孔を有し、断熱、調湿、脱臭、遮音等の機能を化粧シート14に付与するうえで好ましいからである。」

(2d)「【0018】
【実施例】
裏打紙11に塗布した接着剤12の塗布面に、パルプ繊維1重量部と炭酸カルシウム8重量部と酢酸ビニルエマルジョン(固形分濃度;17重量%)5重量部とで造粒された粒径42メッシュ(JIS呼びμ;350μm)の骨材13を散布積層し、接着剤12の塗布面に触れない余分な骨材を取り除き、珪藻土(比重;2.1)とエチレン酢酸ビニル・エマルジョン(固形分濃度;55重量%、乾燥塗膜比重;1.1)とパルプ繊維(平均繊維長;1mm、比重;1.5)とから成り、塗膜に占めるこれらの容積比率が、珪藻土が10容積部、エチレン酢酸ビニルが12容積部、パルプ繊維が15容積部となる塗料18を骨材散布積層面に180g/m^(2)(乾燥重量)を塗布し、加熱乾燥室に通して化粧シート14をつくった。・・・」

(3)刊行物3
本願の出願前に頒布された刊行物である、特開平10-71197号公報(以下、「刊行物3」という。)には、次の記載がある。
(3a)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は住居等の居住空間の臭いの除去、抗菌、防汚等を実現しうる光触媒機構に関する。」

(3b)「【0009】
図2は本発明に係る光触媒機構の作用図であり、短波長光ランプ8の光線はガラス板21を透過して光触媒5に当り、それを活性化する。すると、光触媒5表面の吸着水と光触媒の光励起により生成する正孔とが反応してラジカルOH(水酸基ラジカル)が生成される。そして、例えば、アンモニアの脱臭の場合には、このラジカルOHが付近の空気(矢印(4))中のアンモニア等の臭いを無臭化する。なお、脱臭用途の場合、部屋にはサーキュレータが取付けられていて、このサーキュレータで空気の強制循環をなさせてもよい。」


4 対比・判断
本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「部屋内に微量に発生する室臭」のある「部屋内」は、本願発明の「被脱臭物を収容する建築物の内部」に相当している。
次に、刊行物1記載の発明の「家屋、地板天井部(T)部、更に又部屋周壁面」及び「改良型パネル盤(V)体」は、本願発明の「建築物の内部の少なくとも一部」及び「建築材料」にそれぞれ相当している。
また、刊行物1記載の発明の「改良型パネル盤(V)体は、表面版(1)、裏面版(2)体両者一体に係合、即ち(K)体が介在包蔵形態なるよう、表面版(1)、活性炭(K)、裏面版(2)体、三者三層状重合序列に組成一体化して形成」することと,本願発明の「建築物の内部の建築材料の少なくとも一部に、珪藻土または珪藻土を主成分とする脱臭剤を含んでなる水系または非水系のエマルジョン塗料を塗布」することは、建築物の内部の建築材料の少なくとも一部に、脱臭剤を含んだ建築材料を形成する点で共通している。
そして、刊行物1記載の発明の、「部屋内に微量に発生する室臭、室湿等即ち改良型パネル盤(V)体内に収蔵なす、活性炭(1)体の消臭、吸着、吸湿作用によって該部屋内空気は常に爽やかに浄化状態の空気を保持なさしむ」ことは、本願発明の「脱臭剤を」、「被脱臭物と」、「接触させる」ことに相当するといえる。
さらに、刊行物1記載の発明の「改良型パネル盤(V)体」は、パネル盤(V)体であることから、本願発明の「建築材料は、セメントまたは樹脂をバインダーとする板材」と、「建築材料は」「板材」という点で共通している。
また、刊行物1記載の発明の「改良型パネル盤(V)体」は、内部に活性炭を収蔵していることから、本願発明の「塗料を塗布した建築材料」と、「脱臭剤を含んだ建築材料」という点で共通している。
本願明細書【0007】の「本発明の塗料を塗布した建築材料(例えば板材)を、ビス止め等により建築物から容易に取り外せる」との記載からみて、刊行物1記載の発明の「改良型パネル盤(V)体として形成し、四辺コーナ部面に更に止子孔(8)部を表面版(1)体の表面より裏面版(2)体に向け直角状に貫通穿設なし、止子ネジ(h)体で着脱自在、家屋、地板天井部(T)部、更に又部屋周壁面等に附設する」は、本願発明の(塗料を塗布した)「建築材料を」、「建築物から容易に取り外せる」に相当するといえる。

以上より、両者は以下の点で一致している。
「被脱臭物を収容する建築物の内部の建築材料の少なくとも一部に、脱臭剤を含んだ建築材料を形成し、被脱臭物と脱臭剤とを接触させるようにし、前記建築材料は板材であり、脱臭剤を含んだ建築材料を前記建築物から容易に取り外せるようにした脱臭可能な建築物」

そして、以下の点で相違している。
(相違点1)
脱臭剤を含んだ建築材料を形成するために、本願発明は、「建築材料は、セメントまたは樹脂をバインダーとする板材であり」「建築物の内部の建築材料の少なくとも一部に、珪藻土または珪藻土を主成分とする脱臭剤を含んでなる水系または非水系のエマルジョン塗料を塗布し」たのに対し、刊行物1記載の発明は、「活性炭」を改良型パネル盤体内に収蔵する点。

(相違点2)
本願発明は、「被脱臭物と脱臭剤との接触を促進させるために、建築物の内部に空気循環手段を設け」ているのに対し、刊行物1記載の発明は、「活性炭に空気流通をさせる」点。

(相違点1について)
「建築材料は、セメントまたは樹脂をバインダーとする板材」は、例えば、特開平9-87002号公報(段落【0019】参照)、特開平10-102634号公報(段落【0016】参照)のように従来周知のものであるので、刊行物1に記載された発明の改良型パネル盤体を用いる構成を従来周知のセメントまたは樹脂をバインダーとする板材とすることは当業者が適宜なし得る設計事項である。
次に、記載事項(2a),(2c),(2d)からみて、刊行物2には、脱臭剤として珪藻土を用いる点、さらに、珪藻土等を含む水系または非水系のエマルジョンを塗布して壁装材(壁紙)として使用できる化粧シートとする点が記載されている。
そして、刊行物1の発明の改良型パネル盤体と刊行物2記載の化粧シートは、硬質・非硬質に関わらず、室内の脱臭をする建材という同一の技術分野に属することから、刊行物1に記載された発明における、活性炭を用いる構成に代えて、刊行物2に記載された、珪藻土、さらに珪藻土を含むエマルジョンを用いる技術事項を採用することは当業者が容易に想到し得るものである。
そうすると,刊行物1に記載された発明における、改良型パネル盤体を用いる構成を従来周知のセメントまたは樹脂をバインダーとする板材とするとともに、刊行物1に記載された発明の活性炭を用いる構成を、刊行物2に記載された、珪藻土、さらに珪藻土を含むエマルジョンを用いる構成として、本願発明の相違点1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(相違点2について)
刊行物1には、脱臭剤としての活性炭に空気を流通させる点が、刊行物3には、脱臭剤に、サーキュレータで空気の強制循環をさせる点がそれぞれ記載されており、刊行物1及び3に記載の発明は、室内の脱臭という同一の技術分野に属することから、刊行物1に記載された発明における、空気を単に流通させる構成に、刊行物3に記載された、空気を強制循環させる技術事項を付加し、本願発明の相違点2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

さらに、本願発明の作用効果も、刊行物1記載の発明、刊行物2及び3記載の技術事項及び周知技術から、当業者が予測できる範囲内のものである。 したがって、本願発明は、刊行物1記載の発明、刊行物2及び3記載の技術事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5 まとめ
以上のとおり,本願発明は特許を受けることができないから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-04 
結審通知日 2013-04-09 
審決日 2013-04-24 
出願番号 特願2000-208677(P2000-208677)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (E04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小野 忠悦  
特許庁審判長 高橋 三成
特許庁審判官 筑波 茂樹
中川 真一
発明の名称 脱臭可能な建築物  
代理人 野田 茂  

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