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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01D
管理番号 1275462
審判番号 不服2012-9762  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-25 
確定日 2013-06-13 
事件の表示 特願2006-301573「中空状多孔質膜用支持体、中空状多孔質膜およびそれらの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 5月22日出願公開、特開2008-114180〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年11月7日の出願であって、平成23年5月20日付けで拒絶理由が通知され(発送日は同年5月24日)、平成23年7月22日付けで意見書並びに特許請求の範囲及び明細書に係る手続補正書が提出され、平成24年2月24日付けで拒絶査定され(発送日は同年2月28日)、同年5月25日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされると共に同日付けで特許請求の範囲及び明細書に係る手続補正書が提出されたものであり、その後、同年9月21日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が通知され(発送日は同年9月25日)、同年11月20日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成24年5月25日付けの手続補正について
平成24年5月25日付けの手続補正(以下、必要に応じて「本件補正」という。)により、特許請求の範囲は次のとおりに補正された。
「【請求項1】
糸を丸編した円筒状編紐からなり、
前記円筒状編紐が、下記式(1)で表される範囲内の温度t(℃)で熱処理された編紐である、中空状多孔質膜用支持体。
Tm-80℃≦t<Tm ・・・(1)。
式中、Tmは、糸の材料の溶融温度(℃)である。
【請求項2】
前記円筒状編紐の編目の数が、1周あたり5以上である、請求項1に記載の中空状多孔質膜用支持体。
【請求項3】
前記糸の繊度が、200?1000dtexである、請求項1または2に記載の中空状多孔質膜用支持体。
【請求項4】
前記円筒状編紐の外径が、1.0?5.0mmである、請求項1?3のいずれかに記載の中空状多孔質膜用支持体。
【請求項5】
下記(a)工程および下記(b)工程を有する、中空状多孔質膜用支持体の製造方法。
(a)糸を丸編して円筒状編紐を編成する工程。
(b)前記円筒状編紐を、下記式(1)で表される範囲内の温度t(℃)で熱処理する工程。
Tm-80℃≦t<Tm ・・・(1)。
式中、Tmは、糸の材料の溶融温度(℃)である。
【請求項6】
前記(b)工程において、前記円筒状編紐を、温度tに加熱された金型の貫通孔に通す、請求項5に記載の中空状多孔質膜用支持体の製造方法。
【請求項7】
前記貫通孔の、円筒状編紐の入り口側の内径Dが、前記貫通孔の、円筒状編紐の出口側の内径d以上である、請求項6に記載の中空状多孔質膜用支持体の製造方法。
【請求項8】
前記内径dが、熱処理前の円筒状編紐の外径の50?100%である、請求項7に記載の中空状多孔質膜用支持体の製造方法。
【請求項9】
前記金型の上流側に設けられた紐供給装置と、前記金型の下流側に設けられた引取り装置とによって、前記円筒状編紐を前記金型の貫通孔に連続的に通す、請求項6?8のいずれかに記載の中空状多孔質膜用支持体の製造方法。
【請求項10】
前記円筒状編紐の外径が、1.0?5.0mmである、請求項5?9のいずれかに記載の中空状多孔質膜用支持体の製造方法。
【請求項11】
請求項1?4のいずれかに記載の中空状多孔質膜用支持体と、
該支持体の外周面に設けられた多孔質膜層と
を有する、中空状多孔質膜。
【請求項12】
請求項1?4のいずれかに記載の中空状多孔質膜用支持体の外周面に、多孔質膜層の材料および溶剤を含む製膜原液を塗布し、凝固させることによって多孔質膜層を形成する、中空状多孔質膜の製造方法。」

上記補正は、本件補正前の特許請求の範囲に記載された
「 【請求項1】
糸を丸編した円筒状編紐からなる、中空状多孔質膜用支持体。
【請求項2】
前記円筒状編紐の編目の数が、1周あたり5以上である、請求項1に記載の中空状多孔質膜用支持体。
【請求項3】
前記糸の繊度が、200?1000dtexである、請求項1または2に記載の中空状多孔質膜用支持体。
【請求項4】
前記円筒状編紐が、下記式(1)で表される範囲内の温度t(℃)で熱処理された編紐である、請求項1?3のいずれかに記載の中空状多孔質膜用支持体。
Tm-80℃≦t<Tm ・・・(1)。
式中、Tmは、糸の材料の溶融温度(℃)である。
【請求項5】
前記円筒状編紐の外径が、1.0?5.0mmである、請求項1?4のいずれかに記載の中空状多孔質膜用支持体。
【請求項6】
下記(a)工程を有する、中空状多孔質膜用支持体の製造方法。
(a)糸を丸編して円筒状編紐を編成する工程。
【請求項7】
さらに下記(b)工程を有する、請求項6に記載の中空状多孔質膜用支持体の製造方法。
(b)前記円筒状編紐を、下記式(1)で表される範囲内の温度t(℃)で熱処理する工程。
Tm-80℃≦t<Tm ・・・(1)。
式中、Tmは、糸の材料の溶融温度(℃)である。
【請求項8】
前記(b)工程において、前記円筒状編紐を、温度tに加熱された金型の貫通孔に通す、請求項7に記載の中空状多孔質膜用支持体の製造方法。
【請求項9】
前記貫通孔の、円筒状編紐の入り口側の内径Dが、前記貫通孔の、円筒状編紐の出口側の内径d以上である、請求項8に記載の中空状多孔質膜用支持体の製造方法。
【請求項10】
前記内径dが、熱処理前の円筒状編紐の外径の50?100%である、請求項9に記載の中空状多孔質膜用支持体の製造方法。
【請求項11】
前記金型の上流側に設けられた紐供給装置と、前記金型の下流側に設けられた引取り装置とによって、前記円筒状編紐を前記金型の貫通孔に連続的に通す、請求項8?10のいずれかに記載の中空状多孔質膜用支持体の製造方法。
【請求項12】
前記円筒状編紐の外径が、1.0?5.0mmである、請求項6?11のいずれかに記載の中空状多孔質膜用支持体の製造方法。
【請求項13】
請求項1?5のいずれかに記載の中空状多孔質膜用支持体と、
該支持体の外周面に設けられた多孔質膜層と
を有する、中空状多孔質膜。
【請求項14】
請求項1?5のいずれかに記載の中空状多孔質膜用支持体の外周面に、多孔質膜層の材料および溶剤を含む製膜原液を塗布し、凝固させることによって多孔質膜層を形成する、中空状多孔質膜の製造方法。」
から請求項1乃至3を削除し、請求項1を引用する請求項4を新たに請求項1とし、請求項4において引用された請求項2及び3を用いて新たに記載して請求項2及び3とするものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に規定する請求項の削除を目的とするものに該当する。

第3 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「 糸を丸編した円筒状編紐からなり、
前記円筒状編紐が、下記式(1)で表される範囲内の温度t(℃)で熱処理された編紐である、中空状多孔質膜用支持体。
Tm-80℃≦t<Tm ・・・(1)。
式中、Tmは、糸の材料の溶融温度(℃)である。」

第4 引用刊行物
1 刊行物に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2003-225542号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
(1-ア)「【請求項1】管状編物の補強材と前記補強材の表面にコーティングされた高分子樹脂薄膜とからなり、前記高分子樹脂薄膜は0.01?1μmの孔径を有する微細孔が形成されたスキン層と、10μm以下の孔径を有する微細孔が形成されたスポンジ状構造の内層とからなることを特徴とする編物により補強された複合中空糸膜。」(特許請求の範囲)
(1-イ)「この中、管状編物を用いた中空糸型の複合膜に関するものがハヤノ(Hayano)等によって特許文献1に初めて提示された。しかし、この技術では、管状編物をコーティングのための支持体の概念として用いたことではなく、アクリル系中空糸膜が80℃以上で単独に使われる場合発生する収縮現象による水透過度の減少を補完するために、管状編物を膜の内部に完全に含浸させたことを特徴とする。このような複合膜は、支持体の上に薄膜がコーティングされた場合に比べて、膜の厚さが増加し、含浸された編物が流体の流れの抵抗を増大させるので、水透過度が著しく減少する現象が発生する。」(段落【0005】)
(1-ウ)「また、薄膜層の構造及び特性は、複合中空糸膜の全体の水透過性能及び機械的性能を左右するが、これは相対的に大きい空隙と高い強度を有する管状編物の補強材に比べて、薄膜層が微細な空隙と低い機械的強度を有するためである。即ち、薄膜層を通過した濾過液は相対的に大きい空隙を有する編物の支持層を小さい抵抗で通過することになる。一方、薄膜層では流れへの抵抗が大きいので、微細孔の構造及び多孔度によって膜全体の水透過度が決定される。」(段落【0008】)
(1-エ)「【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、編物の支持体の上に高分子樹脂薄膜をコーティングすることにより、機械的強度、濾過信頼度及び水透過性能に全て優れた複合中空糸膜を提供することにある。」(段落【0015】)
(1-オ)「高分子樹脂薄膜の厚さは0.2mm以下であり、高分子樹脂薄膜が補強材の内に浸透する距離は補強材の厚さの30%未満であることが機械的強度及び水透過性能を同時に向上させるに好ましい。」(段落【0023】)
(1-カ)「[実施例1]ポリスルホン17重量%、ポリビニールピロリドン9重量%及びポリエチレングリコール10重量%を64重量%のジメチルホルムアミド(有機溶媒)に攪拌溶解させて透明な紡糸ドープを製造する。次いで、前記紡糸ドープを直径が2.38mmφである2重管状ノズルに供給すると共に、外径が2mmである管状編物を前記ノズルの中央部に通過させて、前記管状ノズルの表面に紡糸ドープを被覆(コーティング)した後、これを空気中に吐出させる。この時、紡糸ドープの供給速度に対する編物の進行速度の比(k)は750g/m^(2)とし、紡糸ドープの被覆(コーティング)の厚さは0.2mmとした。続いて、前記のように紡糸ドープの被覆された管状編物を10cmのエアキャップ内に通過した後、35℃の外部凝固槽を通過させて凝固処理する。次いで、これを洗浄槽で洗浄してから巻取りして複合中空糸膜を製造する。製造された複合中空糸膜の構造及び各種物性を評価した結果を表1にまとめて示した。」(段落【0046】)

2 引用発明の認定
刊行物1には、記載事項(1-ア)に「管状編物の補強材と前記補強材の表面にコーティングされた高分子樹脂薄膜とからなり、前記高分子樹脂薄膜は・・・微細孔が形成されたスキン層と、・・・スポンジ状構造の内層とからなる・・・編物により補強された複合中空糸膜。」が記載されている。
そして、この記載を本願発明の記載振りに則って整理すると、刊行物1には、
「管状編物の補強材と前記補強材の表面にコーティングされた『微細孔が形成されたスキン層とスポンジ状構造の内層からなる高分子樹脂薄膜』からなる複合中空糸膜の管状編物補強材。」
の発明(以下、「刊行1発明」という。)が記載されているものと認められる。

3 対比、判断
本願発明と刊行1発明とを対比すると、刊行1発明の「管状編物の補強材」は、複合中空糸膜の補強を目的とするから、本願発明の「中空状の支持体」に相当するということができる。また、刊行1発明の「補強材の表面にコーティングされた『微細孔が形成されたスキン層とスポンジ状構造の内層からなる高分子樹脂薄膜』」は、微細孔とスポンジ状構造を有する多孔質膜層であるから、本願発明の「多孔質膜層」に相当することも明らかである。
そして、刊行1発明の「外径が2mmである管状編物」は、「中空糸膜の・・・補強材」に用いられ、紐状の形態を有するから、「中空編紐」とみることができる。

してみると、両者は、
「円筒状編紐からなる、中空状多孔質膜用支持体。」
で一致し、次の点で相違する。

相違点a:本願発明は、支持体が「糸を丸編した」したものであるのに対し、刊行1発明は、補強材が「管状編物」である点
相違点b:本願発明は、前記円筒状編紐が、「下記式(1)で表される範囲内の温度t(℃)で熱処理された編紐
Tm-80℃≦t<Tm ・・・(1)。
式中、Tmは、糸の材料の溶融温度(℃)である。」であるのに対し、刊行1発明は、管状編物を熱処理することを特定事項としていない点

そこで、相違点a及びbについてまとめて検討する。
本願発明において「丸編」及び「熱処理」の技術的意義は、「本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意検討を行った結果、組紐と同等の機械特性(耐圧強度、引張り強度等)を有し、生産性のよい丸編により編成された円筒状編紐を中空糸多孔質膜用支持体に用いることにより、支持体のコストを抑えることができることを見出した。
また、円筒状編紐を加熱された金型に通して、特定の温度で熱処理を施すことにより、円筒状編紐の伸縮性(外径変化)を抑えることができることを見出した。」(本願当初明細書段落【0014】)というものである。
刊行1発明における「管状編物」からは、直ちに「丸編」とはいえないものの、平成24年7月3日付で提出された審判請求書の補正書に証拠方法として申出のあった「改訂版 メリヤスハンドブック」、日本繊維研究会、昭和43年11月、p.81(以下、「参考資料1」という。)には「3.1よこ編みの組織」と題して「2.メリヤスの種類
メリヤスに緯メリヤスと経メリヤスとに分類され、横編機、丸編機、靴下編機は緯メリヤスであり、トリコット機、・・・等は経メリヤス機である。第1表、緯メリヤスは原則として編針の数に関係なく1本の糸で緯方向に順次にループをつくり編地を形成するのに対して経メリヤスは原則として針数と同数あるいは倍数の糸で、すなわち編針に対応するそれぞれの糸で径方向にループをつくるのであって、このため一般に緯メリヤスと経メリヤスとでは、次のような相違点が生じる。
(1)伸縮性は緯メリヤスが大で経メリヤスは小。
・・・」と記載されているように、伸縮性が大であるとしても1本の糸で緯方向に順次にループをつくり編地を形成する丸編が管状編物としては代表的なものである。
そして、原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2002-129450号公報(以下、「刊行物2」という。)には、「ところで、腐敗防止、乾燥防止、通気性、浸透性、露光性、微粒子除去、不純物除去、繊度保持、香料や忌避剤の叙放などの機能を付与するための工業、衣料、家庭、園芸、農業や医療等の資材としては、多孔質の構造で、しかも丸断面、三角、四角などの中空の形状で形成され、しかも保持されていることが重要な要素として位置付けられる場合がある。
・・・
繊維糸条で構成される不織布、織物や編地などは好適な素材であるが、不織布、織物や横編地・トリコットなどの編地は一般的に面状であり、これを用いて例えば丸断面の筒状の構造体を作るとなると、縫合や接着芯地などで接着する必要がある。この場合、前述のごとく縫合部分や接着部分ができるので、全体が均質な構造体にはなり得ないという問題が生じる。
ところが、繊維糸条で構成される、いわゆる丸編地にあっては、文字通り繋ぎ目がなく、即座にシームレスの筒状体を形成する構造体である点で、極めて好ましい布帛構造体といえる。しかしながら、前述のように繊維は可撓性を有する材料であるために、中空の断面形状を保持し得ないという致命的な欠点がある。」(段落【0004】?【0007】)と記載され、「また、ポリエチレンテレフタレートからなる繊維糸条で構成される中空構造を維持した筒状の起毛・高度目編地構造体を得るに際し、型部材を内在させた丸編地を自発伸長を生起しない温度で熱処理して、該型部材の外形形状を賦型した繊維微多孔の高密度編地構造体を得て、次ぎに、先の熱履歴よりも高温下にて熱処理を施す際該編地外周部を被覆する部材で封じ込めるて熱処理する過程で起毛することで横置き、縦置きしても中空の断面形状を維持し、良好な寸歩安定性を有し、繊維微細孔を多数有し、かつ軽い曲げ対する自由度と高反発性を兼ね備えた筒状の高度目起毛編地構造体を得ることができる。」(段落【0071】)と記載されるように、丸編地を賦形等の手段により微粒子除去、不純物除去の機能を付与した資材として用いることは、普通に採用されている周知技術にすぎないものであり、これを微粒子除去、不純物除去の機能を付与した資材即ち濾過関連部材である複合中空糸膜の前記高分子樹脂薄膜の補強材に用いようとすることは、当業者であれば容易に想到し得るというべきである。
そして、刊行物1には、この周知技術の適用を阻害する事情も認められない。
そして、相違点bに係る「熱処理」ついても、刊行物2には、「この段階で得る本発明の中空の断面形状(筒状)を呈した高密度編地構造体は、該処理温度以下の環境下で安定的に使用できることはいうまでもない。もし、該Tgを越える温度雰囲気下で使用すると繊維自体が自発伸長(収縮とは逆の現象で繊維自身が自発的に伸びる現象をいう)を起こし、先の熱処理で折角賦型した形状が崩れるという重大な問題や繊維自身が極端に軟化するという問題が発生する。
本発明の高度目編地をTg以上の温度雰囲気下で使用する環境はいくらでもある。そこで該課題を解決するための本発明の熱処理について述べると、高配向未延伸糸条を丸編機にて編地を作成し、該編み地の内側に型部材を挿入した後、前記55?130℃の蒸気もしくは熱水中あるいは該蒸気もしくは熱水と等価の熱エネルギーである乾熱雰囲気下にて熱処理を施し、該編地を該型部材の形状にフィットさせて一旦賦型し、次いで該編地の外周部を被覆部材で被覆・固定し、130?240℃の乾熱雰囲気下にて熱処理を施こして熱セットし、外在する該熱処理体の該被覆部材を取り除き、内在する該型部材から編地を取り出すことで、、本発明の中空形状(筒状)の高度目の編地構造体を得るものである。
自発伸長が発現する温度以上での熱処理における本発明の該自発伸長性を抑止する手段として提案する被覆材は特定されるものではないが、例示するとクラフト紙やコットン紙アラミド、フッ素などの耐熱フィルムやシート状物、さらには耐熱不織布を巻き付けることでの固定、金属性や耐熱プラスチック製の型枠による固定、無機質の粘土状物含浸・乾燥による固定、エメリーペーパー、針などの表面突起を有する粗面シート部材を巻くことによる固定、融着繊維もしくはパウダーを一部混ぜ込んで融着させることでの固定、さらには耐熱・熱硬化樹脂をコーティング、含浸を施しての固定など各種固定手段を施した後に自発伸長開始温度以上融点温度未満の高温熱処理を施すものである。」(段落【0040】?【0042】)と記載され、自発伸長開始温度即ちTg以上融点温度即ちTm未満、具体的には130?240℃の高温熱処理を施すことが明記されている。また「ポリエチレンテレフタレートポリマーを主とする繊維は、融点も264℃(昭和40年12月15日発行繊維学会編「化繊便覧」117頁)と耐熱性が極めて高く、工業用途としてその利用価値が大きい。」(段落【0018】)である。
そして、刊行物1発明の「管状編物」も補強材であるからには、強度が高いことが望ましいことは当然で、相違点bの熱処理温度である「Tg以上Tm未満」が包含する「Tm-80℃≦t<Tm」は、臨界的意義を有するものでないと認められるから、熱処理の採用とその温度範囲を特定することも当業者であれば格別の困難なく想到し得たことというべきである。
さらに、相違点a及びbに係る特定事項を採用した本願発明により当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されたものとすることはできない。

第5 回答書の主張について
請求人は、回答書において「審判請求人が審判請求書にて主張しているように、審判請求書に添付の参考資料1、2の記載からすれば、縦編で形成された筒状体に比べ、伸び縮みしやすい丸編で形成された筒状体の方が、中空糸膜の補強を目的とした用途に適さないと考えるのが妥当ですから、引用文献1、2において用いる管状編物として、引用文献3に記載されたような丸編したものを用いることは、当業者といえども容易になし得ることではありません。」と主張する。
しかしながら、刊行物2の記載事項にあるように「繊維糸条で構成される、いわゆる丸編地にあっては、文字通り繋ぎ目がなく、即座にシームレスの筒状体を形成する構造体である点で、極めて好ましい布帛構造体といえる。しかしながら、前述のように繊維は可撓性を有する材料であるために、中空の断面形状を保持し得ないという致命的な欠点がある。」ことを克服するために「型部材を内在させた丸編地を自発伸長を生起しない温度で熱処理して、該型部材の外形形状を賦型した繊維微多孔の高密度編地構造体を得て、次ぎに、先の熱履歴よりも高温下にて熱処理を施す際該編地外周部を被覆する部材で封じ込めるて熱処理する過程で起毛することで横置き、縦置きしても中空の断面形状を維持し、良好な寸歩安定性を有し、繊維微細孔を多数有し、かつ軽い曲げ対する自由度と高反発性を兼ね備えた筒状の高度目起毛編地構造体を得ることができる。」としたもので、刊行物2の記載に接することで、刊行物1に記載された管状編物として丸編みを指向するといえるので、上記請求人の主張を採用することができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明並びに刊行物及び参考資料1に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-09 
結審通知日 2013-04-16 
審決日 2013-04-30 
出願番号 特願2006-301573(P2006-301573)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大島 忠宏  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 真々田 忠博
豊永 茂弘
発明の名称 中空状多孔質膜用支持体、中空状多孔質膜およびそれらの製造方法  
代理人 高橋 詔男  
代理人 鈴木 三義  
代理人 志賀 正武  

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