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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1275469
審判番号 不服2012-17998  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-14 
確定日 2013-06-13 
事件の表示 特願2008-160304「窒化物半導体発光ダイオード素子およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 1月 7日出願公開、特開2010- 3804〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成20年6月19日の出願であって、平成24年5月9日付けで手続補正書が提出され、同年7月31日付けで拒絶の査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対し、同年9月14日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、上記の平成24年5月9日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲、明細書、及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める(以下「本願発明」という。)。
「n型窒化物半導体層と、
p型窒化物半導体層と、
前記n型窒化物半導体層と前記p型窒化物半導体層との間に設置された窒化物半導体活性層とを含み、
前記窒化物半導体活性層に対して前記p型窒化物半導体層側に、
酸化インジウム錫を含有する第1の透明電極層と、
酸化錫を含有する第2の透明電極層とを有し、
前記第1の透明電極層は、前記第2の透明電極層よりも前記p型窒化物半導体層側に設置されており、
前記第1の透明電極層の厚さは40nm以下であり、
前記第2の透明電極層は、アンチモンを含有する、窒化物半導体発光ダイオード素子。」

3.引用例
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前である平成19年6月14日に頒布された「特開2007-149966号公報 」(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(なお、下線は審決で付した。以下、同じ。)
・「以下、本発明に係る半導体発光素子について添付図面に基づいて具体的に説明する。なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解するために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
<第一の実施形態>」(段落【0009】)
・「図1は、本発明に係る発光素子の第一の実施形態を示す断面図である。
本発明の発光素子1は、サファイヤ基板2の一方の面にGaNバッファ層3を介してSiをドーパントとするn型GaNコンタクト層4が設けられ、このn型GaNコンタクト層4を介してSiをドーパントとするn型AlGaNクラッド層5(主たる第一導電型層)が設けられる。そして、このn型AlGaN層5を介してInGaNとGaNの多重量子井戸(MQW)構造となる発光部6、発光部6を介してp型ドーパントであるMgを含むp型AlGaNクラッド層7(主たる第二導電型層)、p型AlGaN層7を介して、同じくMgをドーパントとするp型GaNコンタクト層8、ITO膜9、FTO膜10の順に積層されてなる透明導電体11が設けられている。この透明導電体11の表面の周縁の一部にはp側電極12が設けられ、一方、n型GaNコンタクト層4の周辺部の一部の上に積層された各層が除去されて、露出したn型GaNコンタクト層4上にn側電極13が設けられている。」(段落【0010】)
・「ここで本発明では、前記透明導電体11が、真空蒸着法により形成された最下層と、該最下層上にスプレー熱分解法により形成された上層とから構成され、該上層のうち少なくとも1層は、前記最下層よりも耐熱性が高いことを特徴とする。
前記最下層は、例えば、スズ添加インジウム(ITO)膜である。
前記上層は、例えば、フッ素添加酸化スズ(FTO)膜である。」(段落【0011】)
・「<実施例5?実施例7>
実施例5?実施例7では、透明導電体において、膜厚を2nm、5nm、10nmと変えて蒸着法ITO膜を形成し、該ITO膜の上に膜厚100nmのFTO膜をSPD法により成膜して発光素子を作製した。
このようにして作製した発光において、透明導電体の熱処理前後における接触抵抗変化を表5に示す。これにより、ITO膜の膜厚は5nm以上とする必要があると考えられる。」(段落【0057】)
これらの記載事項を総合すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「サファイヤ基板2の一方の面にGaNバッファ層3を介してSiをドーパントとするn型GaNコンタクト層4が設けられ、このn型GaNコンタクト層4を介してSiをドーパントとするn型AlGaNクラッド層5が設けられ、そして、このn型AlGaN層5を介してInGaNとGaNの多重量子井戸(MQW)構造となる発光部6、発光部6を介してp型ドーパントであるMgを含むp型AlGaNクラッド層7、p型AlGaN層7を介して、同じくMgをドーパントとするp型GaNコンタクト層8、膜厚を10nmに形成したスズ添加インジウム(ITO)膜9、フッ素添加酸化スズ(FTO)膜10の順に積層されてなる透明導電体11が設けられている半導体発光素子。」

4.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、
後者における「n型GaNコンタクト層4及びn型AlGaNクラッド層5」は、その構造、機能、作用等からみて、前者における「n型窒化物半導体層」に相当し、以下同様に、「p型AlGaNクラッド層7及びp型GaNコンタクト層8」は「p型窒化物半導体層」に、「InGaNとGaNの多重量子井戸(MQW)構造となる発光部6」は「窒化物半導体活性層」に、「スズ添加インジウム(ITO)膜9」は「酸化インジウム錫を含有する第1の透明電極層」に、「フッ素添加酸化スズ(FTO)膜10」は「酸化錫を含有する第2の透明電極層」に、「半導体発光素子」は「窒化物半導体発光ダイオード素子」に、それぞれ相当する。
また、後者の「InGaNとGaNの多重量子井戸(MQW)構造となる発光部6(窒化物半導体活性層)」は、n型GaNコンタクト層4及びn型AlGaNクラッド層5を介して発光部6、発光部6を介して、p型AlGaNクラッド層7及びp型GaNコンタクト層8を設けているから、「n型GaNコンタクト層4及びn型AlGaNクラッド層5(n型窒化物半導体層)とp型AlGaNクラッド層7及びp型GaNコンタクト層8(p型窒化物半導体層)との間に設置された」といえる。
また、後者の「スズ添加インジウム(ITO)膜9、フッ素添加酸化スズ(FTO)膜10」は、発光部6を介してp型AlGaNクラッド層7及びp型GaNコンタクト層8、スズ添加インジウム(ITO)膜9、フッ素添加酸化スズ(FTO)膜10の順に積層されてなるから、「InGaNとGaNの多重量子井戸(MQW)構造となる発光部6(窒化物半導体活性層)に対してp型AlGaNクラッド層7及びp型GaNコンタクト層8(p型窒化物半導体層)側に有している」といえ、また「スズ添加インジウム(ITO)膜9(第1の透明電極層)は、フッ素添加酸化スズ(FTO)膜10(第2の透明電極層)よりもp型AlGaNクラッド層7及びp型GaNコンタクト層8(p型窒化物半導体層)側に設置されている」といえる。
したがって、両者は、
「n型窒化物半導体層と、
p型窒化物半導体層と、
前記n型窒化物半導体層と前記p型窒化物半導体層との間に設置された窒化物半導体活性層とを含み、
前記窒化物半導体活性層に対して前記p型窒化物半導体層側に、
酸化インジウム錫を含有する第1の透明電極層と、
酸化錫を含有する第2の透明電極層とを有し、
前記第1の透明電極層は、前記第2の透明電極層よりも前記p型窒化物半導体層側に設置されており、
前記第1の透明電極層の厚さは10nmである、
窒化物半導体発光ダイオード素子。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
第1の透明電極層の厚さに関して、本願発明は、「40nm以下」であるのに対して、引用発明は、「10nm」である点。
[相違点2]
第2の透明電極層に関して、本願発明は、「アンチモンを含有する」のに対して、引用発明は、アンチモンを含有するか否か明らかでない点。

5.当審の判断
上記相違点について以下検討する。
(1)相違点1について
引用発明のスズ添加インジウム(ITO)膜9(第1の透明電極層)の厚さは、「10nm」であるから、本願発明の第1の透明電極層の厚さである「40nm以下」に包含されることから、上記相違点1は実質的な相違点ではない。

(2)相違点2について
一般に半導体発光素子において、その透明電極層の材料として、アンチモンを含有する酸化錫を用いることは、本願出願前に周知の技術事項(例えば、特開2008-78169号公報の【請求項1】、段落【0037】、特開2005-268601号公報の段落【0022】、及び特開2007-5813号公報の【請求項13】、段落【0033】参照。)である。
また、一般に透明電極層において、その材料として、アンチモンを含有する酸化錫を用いることにより、抵抗率が小さくなることは、本願出願前に技術常識(例えば、特開2005-135802号公報の段落【0018】、特開2001-172052号公報の段落【0026】、及び特開2000-77358号公報の段落【0051】参照。)である。
そして、引用発明と上記周知の技術事項とは、共に半導体発光素子という技術分野に属し、透明電極として共通の機能、作用を有するから、引用発明に上記周知の技術事項を適用することは、当業者が容易に想到し得るものである。
したがって、引用発明において、上記技術常識に照らし、上記周知の技術事項を適用することにより、相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

そして、本願発明における全体の発明特定事項によって奏される効果も、引用発明、上記周知の技術事項、及び上記技術常識から当業者が予測し得る範囲内のものである。

(3)むすび
したがって,本願発明は、引用発明、上記周知の技術事項、及び上記技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-10 
結審通知日 2013-04-16 
審決日 2013-05-01 
出願番号 特願2008-160304(P2008-160304)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 靖記  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 吉野 公夫
鈴木 秀幹
発明の名称 窒化物半導体発光ダイオード素子およびその製造方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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