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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02P
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02P
管理番号 1275472
審判番号 不服2012-20898  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-24 
確定日 2013-06-13 
事件の表示 特願2007-182898「リレー溶着判定装置および電動車両」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 1月29日出願公開、特開2009- 22110〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は,平成19年7月12日の特許出願であって,平成24年4月19日付けで通知された拒絶の理由に対して,平成24年6月25日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが,平成24年7月25日付けで拒絶査定がされ,これに対して,平成24年10月24日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに同日付けの手続補正書が提出されたものである。

第2.平成24年10月24日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年10月24日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.特許請求の範囲の請求項1の記載は,平成24年10月24日付けの手続補正書による補正(以下,「本件補正」という。)により,次のように補正された。
(1)本件補正前
「【請求項1】
電源の正極側とコンデンサの一端側端子とがリレーを介して接続され、
前記リレーの励磁コイルの一端側と前記電源の正極側とが互いに接続され、
前記リレーの他端側端子と前記コンデンサの一端側端子とを接続する通電路の中途部に負荷が接続され、
前記電源の電圧を検出する電源電圧センサが前記リレーの励磁コイルに接続され、
前記コンデンサの端子電圧を検出するコンデンサ電圧センサが前記リレーの他端側端子と前記コンデンサの一端側端子とを接続する通電路の中途部に接続され、
前記リレーのOFF動作が指令されてから、所定の時間が経過するまでに、前記電源電圧センサの検出値と前記コンデンサ電圧センサの検出値との差が所定の閾値以上となった場合に、前記リレーが溶着していないと判定する溶着判定手段を備えていることを特徴とするリレー溶着判定装置。」(平成24年6月25日付けの手続補正書を参照。)
(2)本件補正後
「【請求項1】
電源の正極側とコンデンサの一端側端子とがリレーを介して接続され、
前記リレーの励磁コイルの一端側と前記電源の正極側とが互いに接続され、
前記リレーの他端側端子と前記コンデンサの一端側端子とを接続する通電路の中途部に負荷が接続され、
前記電源の電圧を検出する電源電圧センサが前記リレーの励磁コイルに接続され、
前記コンデンサの端子電圧を検出するコンデンサ電圧センサが前記リレーの他端側端子と前記コンデンサの一端側端子とを接続する通電路の中途部に接続され、
前記リレーのOFF動作が指令されてから、所定の時間が経過するまでに、前記電源電圧センサの検出値と前記コンデンサ電圧センサの検出値との差が所定の閾値以上となった場合に、前記リレーが溶着していないと判定するとともに、前記電源電圧センサの検出値と前記コンデンサ電圧センサの検出値との差が所定の閾値以上とならなかった場合に、前記リレーが溶着していると判定する溶着判定手段を備えていることを特徴とするリレー溶着判定装置。」

2.本件補正の目的要件
特許請求の範囲の請求項1についての補正は,リレーの溶着を判定する「溶着判定手段」という発明特定事項につき「電源電圧センサの検出値とコンデンサ電圧センサの検出値との差が所定の閾値以上となった場合に、リレーが溶着していないと判定する」という構成に加えて,「前記電源電圧センサの検出値と前記コンデンサ電圧センサの検出値との差が所定の閾値以上とならなかった場合に、前記リレーが溶着していると判定する」という構成も有するものと特定するものであるから,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について,次に検討する。

3.本願補正発明の独立特許要件
(1)刊行物
ア.原査定の拒絶の理由に引用文献1として示された特開2005-328675号公報(以下「刊行物1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。
・「【0013】
図1は、本発明のインバータモジュール35を備えた電気自動車用空調装置の一実施例の電源回路図、図2は本発明のインバータモジュール35の斜視図をそれぞれ示している。
【0014】
図1において、1は電気自動車の直流電源としてのメインバッテリーであり、空調装置の電動コンプレッサ10に、開閉器2や充電装置としての充電回路7、コンデンサ30、放電抵抗31及び本発明のインバータモジュール35などから成るインバータ装置8を介して直流電源を供給している。前記バッテリー1からは直流電圧が出力されるが、電動コンプレッサ10には後述するインバータモジュール35により三相疑似交流に変換された電圧が供給される。」
・「【0016】
前記開閉器2はバッテリー1とスイッチング素子群12の間のプラスライン4に接続されている。コンデンサ30はスイッチング素子群12に電圧を安定的に供給するためのものであり、開閉器2とスイッチング素子群12の間プラスライン4とマイナスライン6間に接続される。また、放電抵抗31は当該コンデンサ30に充電された電荷を放電するためのものであり、コンデンサ30とスイッチング素子群12の間のプラスライン4とマイナスライン6間に接続される。この抵抗31はモールドパッケージ40内にモールドされている。」
・「【0017】
前記充電回路7は、開閉器3と正特性サーミスタ18及び後述するダイオード19の直列回路から成り、開閉器2に並列に接続されている。この充電回路7は、バッテリー1の電圧を印加する際に、コンデンサ30に流れる突入電流とコンデンサ30に発生する突入電圧を抑制するためのものである。
【0018】
即ち、インバータ装置8のコントローラ60は、空調装置の図示しないコントローラからの運転指令に基づき、先ず、開閉器2を開いている状態(解裂)で開閉器3を閉じ、バッテリー1からの電流を正特性サーミスタ18及びダイオード19を介してコンデンサ30に流し、充電する。正特性サーミスタ18は自己発熱して抵抗値を増大させるので、流れる電流値の上昇を抑える働きをする。これにより、突入電流を抑えて、コンデンサ30やスイッチング素子群12の保護を図る。
【0019】
次に、コンデンサ30への充電が完了するタイミングでコントローラ60は開閉器2を閉じ、その後充電回路7の開閉器3を開いて以後は開閉器2を介してスイッチング素子群12にバッテリー1の電圧を印加するようになる。コントローラ60はスイッチング素子群12のスイッチング素子14のON-OFFを制御して所定周波数の三相疑似交流電圧を生成し、電動コンプレッサ10のモータに印加して駆動する。
【0020】
そして、前記空調装置のコントローラからの運転指定指令に基づき、コントローラ60は開閉器2を開いて(解裂)、電動コンプレッサ10の運転を停止する。」
・「【0027】
他方、インバータ装置8には、開閉器2前後の電圧を検出するための分圧用抵抗50、51、52、53が設けられている。即ち、開閉器2の後段のコンデンサ30との間となる位置のプラスライン4とバッテリー1のマイナスライン6間に抵抗50と51の直列回路(電圧検出回路)が接続される。
【0028】
また、開閉器2の前段のバッテリー1との間となる位置のプラスライン4とマイナスライン6間に抵抗52と53の直列回路(電圧検出回路)が接続される。前記抵抗50、51は開閉器2の後段の電圧を検出するものであり、抵抗52、53は開閉器2の前段の電圧を検出するためのものである。
【0029】
また、実施例では抵抗50及び抵抗52は同一の抵抗値とされ、同様に抵抗51と抵抗53も同一の抵抗値とされている。そして、抵抗50及び抵抗52の抵抗値は、それらのマイナスライン6側に接続された抵抗51及び53より十分大きい抵抗値とされている。そして、抵抗51と抵抗53の端子電圧がコントローラ60に入力されることになる。」
・「【0030】
ここで、バッテリー1が接続された状態では開閉器2の開閉状態にかかわらず、コントローラ60に入力される抵抗51の端子電圧V1は略バッテリー1の電圧となる。そして、コンデンサ30が放電し切った状態では、開閉器2が開いていれば、コントローラ60に入力される抵抗53の端子電圧V2は零となり、開閉器2が閉じた状態では電圧V2は略電圧V1(多少の電圧降下あり)となる。これにより、コントローラ60に入力される抵抗51、抵抗53の端子電圧V1、V2から、開閉器2の開閉状態を検出することができる。従って、コントローラ60により開閉器2を開く制御が行われているにもかかわらず開閉器2が閉じている状態、所謂開閉器2の溶着を判断することができるようになる。」
・「【0041】
一方、図4のステップS3にてコントローラ60に入力される開閉器2の前段のプラスライン4の電圧V1が250Vより高く400Vより低い場合にはバッテリー1の電圧は正常と判断し、コントローラ60はステップS4に進んで開閉器2の後段の抵抗51の端子電圧に基づいて検出される開閉器2の後段のプラスライン4の電圧V2がV1-10Vより高いか否か判断する。ここで、この時点ではコントローラ60は開閉器2及び開閉器3を解裂するよう制御している。また、ダイオード70はコンデンサ30側が順方向とされているので、仮にコンデンサ30に充電電荷があったとしても、開閉器2及び開閉器3が正常状態であれば、開閉器2の後段のプラスライン4の電圧V2は零となる。従って、開閉器2及び開閉器3を閉じる制御を行う以前に電圧V2が電圧V1-10V(10Vは回路の電圧降下を見越したもの)より高くなっている場合には、開閉器2又は開閉器3が溶着して閉じているものと判断できる。
【0042】
即ち、コントローラ60は前記開閉器2の前段のプラスライン4の電圧V1と開閉器2の後段のプラスライン4の電圧V2とを比較し、その差(V1-V2)が所定範囲(実施例では10Vより小さい範囲)内の場合、開閉器2又は開閉器3が溶着して閉じているものと判断し、ステップS5に進んでインバータ装置8への制御出力を停止し、所定の警報を行う。これにより、スイッチング素子14がONしないので、コンプレッサ10のモータには通電が行われなくなる。
【0043】
他方、開閉器2及び開閉器3が溶着しておらず、開いている場合にはコントローラ60に入力される電圧V2は前述の如く零となるので、差(V1-V2)は10V以上となる。従って、コントローラ60はステップS4で電圧V1-10Vの値が電圧V2以上であった場合には、開閉器2及び開閉器3の溶着は生じていないものと判断し、ステップS4からステップS6に進んで図5の制御を開始する。」

・図1及び3を見れば,バッテリー1のプラスライン4側とコンデンサ30の一端側端子とが開閉器2,開閉器3を介して接続され,前記開閉器2のスイッチング素子群12側端子と前記コンデンサ30の一端側端子とを接続するプラスライン4に抵抗31が接続されている。
そして,段落【0033】に記載されるように,図3において図1と同一の符号が付されているものは,同一若しくは類似の効果を奏するものであるから,上記引用箇所の構成はいずれも第1実施例と第2実施例に共通の構成であり,上記引用箇所の動作も第1実施例と第2実施例に共通の動作である。

・刊行物1では,「開閉器2の後段のコンデンサ30との間となる位置のプラスライン4とバッテリー1のマイナスライン6間に抵抗50と51の直列回路(電圧検出回路)が接続される。」(段落【0027】)と記載され,「開閉器2の前段のバッテリー1との間となる位置のプラスライン4とマイナスライン6間に抵抗52と53の直列回路(電圧検出回路)が接続される。前記抵抗50、51は開閉器2の後段の電圧を検出するものであり、抵抗52、53は開閉器2の前段の電圧を検出するためのものである。」(段落【0028】)と記載されているが,これらの接続位置を,本願補正発明と同様の正極側の接続のみでの表現とすれば,それぞれ,「抵抗52と53の直列回路(電圧検出回路)」は,「開閉器2の前段のバッテリー1との間となる位置」に接続され,「抵抗50と51の直列回路(電圧検出回路)」は,「開閉器2とスイッチング素子群12の間」に接続されているということができる。
また,コントローラ60がこれら2つの電圧検出回路の検出電圧の差を用いて開閉器2又は開閉器3の溶着の有無を判断している(段落【0030】,及び【0041】?【0043】)ことから,この溶着判断の構成を備えた装置を開閉器溶着判定装置と言うことができる。

ウ.以上の事項を踏まえ、刊行物1が開示する開閉器溶着判定装置を本願補正発明の表現にならって表現すると、刊行物1には,次の発明が記載されていると認めることができる。(以下,この発明を「引用発明」という。)
「バッテリー1のプラスライン4とコンデンサ30の一端側端子とが開閉器2,開閉器3を介して接続され,
前記開閉器2のスイッチング素子群12側の端子とコンデンサ30の一端側端子とを接続する位置のプラスライン4に抵抗31が接続され,
前記開閉器2の前段の電圧を検出する電圧検出回路が開閉器2の前段のバッテリー1との間となる位置に接続され,
前記開閉器2の後段の電圧を検出する電圧検出回路が開閉器2とスイッチング素子群12の間に接続され,
前記開閉器2及び開閉器3を解裂するよう制御しているときに,前記開閉器2の後段の抵抗51の端子電圧に基づいて検出される開閉器2の後段のプラスライン4の電圧V2と開閉器2の前段のプラスライン4の電圧V1との差(V1-V2)が10V以上であるとき開閉器2又は開閉器3の溶着は生じていないものと判断し、電圧V2がV1-10Vより高い(すなわち,電圧V1とV2との差が10V以下である)とき開閉器2又は開閉器3が溶着して閉じているものと判断するコントローラ60を有する開閉器溶着判定装置。」

エ.同じく原査定の拒絶の理由に引用文献3として示された特開2001-292568号公報(以下「刊行物2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
・「【0015】
【発明の実施の形態】実施の形態1.図1は本発明の実施の形態1の直流変換電源で換気扇を駆動する床下換気装置の構成図、……、11は直流変換電源4の出力電圧の低下を検出する不足電圧検出部、12は不足電圧検出部11での電圧低下持続時間tを計時する停電時間計測部、13は停電回数計数部であり、リセットタイマー14で設定された所定時間T内の停電回数を計数する。15は接点駆動制御部であり、開閉器5の開閉器コイル5bへの通電を制御して開閉器接点5aを開閉する。」

・図1には,上記記載を参照すれば,負荷2へ直流電圧を供給する電源4と負荷2の一端側端子に開閉器(リレー)5の接点両端が接続され,前記開閉器(リレー)5の励磁コイル5bの一端側と前記電源4の正極側とが互いに接続され,前記電源4の電圧を検出する電源電圧センサ11が前記開閉器(リレー)5の励磁コイル5bに接続された構成が記載されている。

(2)対比・判断
ア.本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「開閉器2のスイッチング素子群12側」は,開閉器2の両端のうち,バッテリーの接続される側とは反対側であり,コンデンサ30が接続される側であるから,本願補正発明の表現を用いれば「開閉器の他端側」と言うことができ,同様に,引用発明の,開閉器2のスイッチング素子群12側の端子とコンデンサ30の一端側端子とを接続する位置の「プラスライン4」は,「通電路」と言うことができる。
そして,刊行物1の段落【0018】【0019】には開閉器2,開閉器3がそれぞれコントローラ60により開閉制御されるものであることが記載されていることから,これらの開閉器2,3は「リレー」であると言うことができる。
したがって,引用発明の「バッテリー1のプラスライン4」「開閉器2」「開閉器2のスイッチング素子群12側の端子とコンデンサ30の一端側端子とを接続する位置のプラスライン4」は,それぞれ,本願補正発明の「電源の正極側」「リレー」「リレーの他端側端子とコンデンサの一端側端子とを接続する通電路」に相当する。
また,引用発明の「抵抗31」は,コンデンサ30に充電された電荷を放電する(刊行物1の段落【0016】)ものであり,放電によって開閉器2の解裂時にはその両端の電圧差が大きいことから開閉器が溶着していないことを判断する(刊行物1の段落【0030】,及び【0041】?【0043】参照。)ものであり,本願補正発明の負荷12がリレーOFF動作指令後にコンデンサの電圧が低下していることを判断してリレーが溶着していないことを判断する(本願明細書の段落【0095】参照。)ものであることから,両者は「コンデンサ電圧を低下させる手段」との概念で共通する。
そして,引用発明の「開閉器2の前段の電圧を検出する電圧検出回路」と,本願補正発明の「電源電圧センサ」とは接続位置の特定を除き「電源の電圧を検出する」「電源電圧センサ」である点で共通するので,引用発明の「開閉器2の前段の電圧を検出する電圧検出回路が開閉器2の前段のバッテリー1との間となる位置に接続され」る構成と本願補正発明の「電源の電圧を検出する電源電圧センサが前記リレーの励磁コイルに接続さ」れる構成とは「電源電圧センサが電源の電圧を検出する位置に接続され」との概念で共通する。
さらに,引用発明においてコンデンサ30の一端側端子は開閉器2の他端側すなわち,開閉器2の後段に接続されているので開閉器2の後段の電圧はコンデンサ30の電圧に等しいものである。したがって,引用発明の「開閉器2の後段の電圧を検出する電圧検出回路」「開閉器2とスイッチング素子群12の間」は,それぞれ,本願補正発明の「コンデンサの端子電圧を検出するコンデンサ電圧センサ」「リレーの他端側端子とコンデンサの一端側端子とを接続する通電路の中途部」に相当する。
そして,引用発明の「開閉器2及び開閉器3を解裂するよう制御しているとき」は,これに続く記載のように溶着の判定を行う時点であることから,開閉器をOFF指令しているときであって開閉器の溶着を判定するときである。また,本願補正発明において「リレーのOFF動作が指令されてから,所定の時間が経過するまでに,前記電源電圧センサの検出値と前記コンデンサ電圧センサの検出値との差が所定の閾値以上となった場合」の「所定の時間」とは,「電源電圧センサの検出値と前記コンデンサ電圧センサの検出値との差が所定の閾値以上」となるのに必要な時間以上であることは明らかである。したがって,引用発明の「開閉器2及び開閉器3を解裂するよう制御しているとき」と本願補正発明の「リレーのOFF動作が指令されてから,所定の時間が経過するまで」とは,「接点が溶着していなければ電圧が低下して電源電圧との差が所定値以上大きくなっているとき」との概念で一致する。
また,本願補正発明の「差が所定の閾値以上となった場合」は,上記検出時点において溶着の判断が「差が所定の閾値以上」である場合であると言えるので,引用発明の「開閉器2の後段の抵抗51の端子電圧に基づいて検出される開閉器2の後段のプラスライン4の電圧V2と開閉器2の前段のプラスライン4の電圧V1との差(V1-V2)が10V以上であるとき開閉器2又は開閉器3の溶着は生じていないものと判断し,電圧V2がV1-10Vより高い(すなわち,電圧V1とV2との差が10V以下である)とき開閉器2又は開閉器3が溶着して閉じているものと判断する」ことは,検出時点の特定を除き,本願補正発明の「電源電圧センサの検出値と前記コンデンサ電圧センサの検出値との差が所定の閾値以上となった場合に,前記リレーが溶着していないと判定するとともに,前記電源電圧センサの検出値と前記コンデンサ電圧センサの検出値との差が所定の閾値以上とならなかった場合に,前記リレーが溶着していると判定する」ことに相当するものと言える。

イ.そうすると,本願補正発明と引用発明との一致点,相違点は,次のとおりである。
《一致点》
「電源の正極側とコンデンサの一端側端子とがリレーを介して接続され,
前記リレーの他端側端子と前記コンデンサの一端側端子とを接続する通電路の中途部にコンデンサ電圧を低下させる手段が接続され,
電源電圧センサが電源の電圧を検出する位置に接続され,
前記コンデンサの端子電圧を検出するコンデンサ電圧センサが前記リレーの他端側端子と前記コンデンサの一端側端子とを接続する通電路の中途部に接続され,
前記接点が溶着していなければ電圧が低下して電源電圧との差が所定値以上大きくなっているとき,前記電源電圧センサの検出値と前記コンデンサ電圧センサの検出値との差が所定の閾値以上となった場合に,前記リレーが溶着していないと判定するとともに,前記電源電圧センサの検出値と前記コンデンサ電圧センサの検出値との差が所定の閾値以上とならなかった場合に,前記リレーが溶着していると判定する溶着判定手段を備えていることを特徴とするリレー溶着判定装置。」

《相違点1》
本願補正発明では,「前記リレーの励磁コイルの一端側と電源の正極側とが互いに接続され」ており,「電源電圧センサが電源の電圧を検出する位置に接続され」た構成について「電源の電圧を検出する電源電圧センサがリレーの励磁コイルに接続され」たと特定されているのに対し,引用発明では,励磁コイルに関する特定はなく,「電源電圧センサが電源の電圧を検出する位置に接続され」た構成について「開閉器2の前段の電圧を検出する電圧検出回路が開閉器2の前段のバッテリー1との間となる位置に接続され」たものである点。

《相違点2》
「コンデンサ電圧を低下させる手段」が,本願補正発明では「負荷」であるのに対し,引用発明では「抵抗」である点。

《相違点3》
溶着判定手段による判定を行うのが,本願補正発明では「リレーのOFF動作が指令されてから,所定の時間が経過するまで」であるのに対し,引用発明では「開閉器2及び開閉器3を解裂するよう制御しているとき」である点。

ウ.以下,相違点について検討する。
《相違点1について》
引用発明において,開閉器2,開閉器3の構成は特定されてないものの,刊行物1の段落【0018】【0019】には開閉器2,開閉器3がそれぞれコントローラ60により開閉制御されるものであることが記載されている。そのようなコントローラ等の制御回路により制御される開閉器は,通常リレーと解せるものである。そして,そのようなリレーの開閉に励磁コイルを用いることは,常套手段である。
このような励磁コイルに励磁電流を供給する手段は任意であるから,リレーの励磁コイルの一端側と電源の正極側とが互いに接続されたものとすることも,当業者が通常の創作能力を発揮して適宜採用し得た事項である(例.刊行物2参照。)。
そして,電源の電圧を検出する位置は,実質的に電源の電圧を検出できる位置であればよいのであって,刊行物2に記載されるように,直流電位の実質的に低下しない位置であるリレーの励磁コイルの任意の一端で電源電圧を検出する構成とすることも,当業者が通常の創作能力を発揮して適宜採用し得た事項にすぎない。

《相違点2及び3について》
本願補正発明においては,負荷がどのようなものであり,その接続関係やリレーのOFFと電圧の変化がどのように関係しているかといった特定は存在せず,また,「所定の時間」がどのような時間であるかと言う特定もない。
本件出願の明細書の記載全体からすると,本願補正発明の「負荷」は,コンデンサの電荷を放電させるものと理解するのが相当であり,また,本願補正発明の「所定の時間」は,電圧差が十分に大きくなるのに必要な時間以上の任意の時間と理解するのが相当である。
引用発明の「抵抗」とはコンデンサの電荷を放電させる負荷としての機能を有するものである。そして,本願補正発明においては「負荷」にそれ以外の機能を認めることができないのだから,引用発明の「抵抗」とは,実質的に本願補正発明の「負荷」と同じと言える。
したがって,相違点2は,実質的なものではない。
また,引用発明においても,それを開示する刊行物1の段落【0030】に「コンデンサ30が放電し切った状態では,開閉器2が開いていれば,コントローラ60に入力される抵抗53の端子電圧V2は零となり,開閉器2が閉じた状態では電圧V2は略電圧V1(多少の電圧降下あり)となる。」と記載があるとおり,開閉器が開いている場合,つまり開閉器をOFF動作させた場合は通常であればコンデンサが放電していくことを前提に電源電圧との差を求めて,それにより溶着の判定を行うものである。
そうしてみると,引用発明において,溶着がないという判定を行うには,開閉器2を開いてから放電に必要な時間,すなわち「所定の時間」が経過する時点迄待つ必要があり,また,既に溶着状態になって時間が経っているようであれば,それを判定するのに「所定の時間」の経過を要しないことは,当業者にとって自明である。
したがって,引用発明において相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項を採用することは,当業者が通常の創作能力を発揮して採用し得る域を出るものではない。

また,本願補正発明の発明特定事項により,引用発明,上記刊行物2記載の事項及び常套手段から予期される以上の格別顕著な効果が奏されるとも言えない。

したがって,本願補正発明は,刊行物1に記載された引用発明,刊行物2記載の事項及び常套手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)むすび
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本件出願の請求項1に係る発明は,平成24年6月25日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである(「第2.1.(1)参照。以下,これを「本願発明」と言う。)。

2.刊行物
原査定の拒絶の理由に示された刊行物1及び2の記載事項,並びに引用発明は,前記「第2.3.(1)」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は,上記したとおりであって,前記「第2.」で検討した本願補正発明からリレーの溶着を判定する「溶着判定手段」につき,「電源電圧センサの検出値とコンデンサ電圧センサの検出値との差が所定の閾値以上とならなかった場合に,リレーが溶着していると判定する」との発明特定事項を省いたものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含みさらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が,前記「第2.3.(2)」に記載したとおり,刊行物1に記載された引用発明,刊行物2記載の事項及び常套手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,刊行物1に記載された引用発明,刊行物2記載の事項及び常套手段に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1に記載された発明,刊行物2記載の事項及び常套手段に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-10 
結審通知日 2013-04-16 
審決日 2013-04-30 
出願番号 特願2007-182898(P2007-182898)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02P)
P 1 8・ 575- Z (H02P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 仁科 雅弘  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 藤井 昇
槙原 進
発明の名称 リレー溶着判定装置および電動車両  
代理人 佐野 弘  
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