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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16G |
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管理番号 | 1275528 |
審判番号 | 不服2012-13685 |
総通号数 | 164 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-08-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-07-17 |
確定日 | 2013-06-12 |
事件の表示 | 特願2006-534766「歯付きベルト」拒絶査定不服審判事件〔平成17年4月28日国際公開,WO2005/038294,平成19年4月5日国内公表,特表2007-508510〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯の概略 本願は,平成16年10月15日(パリ条約による優先権主張:2003年10月17日,イタリア国)を国際出願日とする国際出願であって,平成19年10月1日付けで手続補正がなされた後,平成22年7月13日付けで拒絶の理由が通知され,平成22年11月17日付けで意見書の提出及び手続補正がなされた。 そして,平成23年5月23日付けで拒絶の理由が通知され,平成23年9月28日付けで意見書の提出及び手続補正がなされたが,平成24年3月14日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成24年7月17日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 第2 本願発明について 本願の請求項1ないし請求項8に係る発明は,平成19年10月1日付け,平成22年11月17日付け及び平成23年9月28日付けの手続補正により補正された,明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項8に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。 「【請求項1】 本体及び複数の歯を含む歯付きベルトであって, 前記歯は,布によってコーティングされ, 前記布は,該布の繊維をRFLの液体溶液に含浸して処理された後,引き続き,外側が抵抗層によってコーティングされ, 前記繊維と前記抵抗層の間には,いかなる接着材料も存在せず, 前記抵抗層は,前記布に直接接着され,前記抵抗層は,フッ素系プラストマー,エラストマー材料,及び加硫剤を含み, 前記フッ素系プラストマーは,前記エラストマー材料に対して,101乃至150重量部の重量だけ含まれ,前記フッ素系プラストマーは,50%を超える量が10μmより小さい平均サイズの粒子によって形成されることを特徴とする歯付きベルト。 【請求項2】 前記フッ素系プラストマーは,ポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする請求項1記載の歯付きベルト。 【請求項3】 前記エラストマー材料は,HNBRを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の歯付きベルト。 【請求項4】 前記エラストマー材料は,ポリメタクリル酸の亜鉛塩で改質されたHNBRを含むことを特徴とする請求項3記載の歯付きベルト。 【請求項5】 前記抵抗層は,50乃至80g/m^(2)の重量を有することを特徴とする請求項4記載の歯付きベルト。 【請求項6】 請求項1乃至5のうちいずれか一項記載の歯付きベルトを製造する方法であって, RFL組成物で布を処理する第1のステップと,前記布上に,直接抵抗層を塗布させる 第2ステップとを有することを特徴とする方法。 【請求項7】 歯付きベルトの歯に接着される抵抗層であって, フッ素系プラストマーおよびエラストマー材料を有し, 前記フッ素系プラストマーは,50%を超える量が10μmよりも小さい平均サイズの粒子によって形成されることを特徴とする抵抗層。 【請求項8】 歯付きベルトの歯に接着されるように適合された抵抗層であって, フッ素系プラストマーおよびエラストマー材料を有し, 前記フッ素系プラストマーは,前記エラストマー材料に対して,101乃至150重量 部の重量だけ含まれ, 前記フッ素系プラストマーは,50%を超える量が10μmよりも小さい平均サイズの 粒子によって形成されることを特徴とする抵抗層。」 第3 引用例とその記載事項 1 引用例 原査定の拒絶の理由に示された引用例は,以下のとおりである。 引用例1:特開2002-39276号公報 引用例2:特開2001-32887号公報 2 引用例に記載された事項 (1) 引用例1 (i) 引用例1には,「歯付きベルト」に関し,以下の事項が記載されている。 ・「本体(2)と, 織物(5)によって被覆される複数の歯(4)とを含む歯付きベルト(1)であって, 上記織物を外側から被覆する抵抗層(8)を含み, 上記抵抗層は,フッ素処理されたプラストマ,エラストマー材料,及び,加硫剤を含み, 上記フッ素処理されたプラストマは,上記エラストマー材料の量よりも多い量で上記抵抗層内に存在することを特徴とする歯付きベルト。」(【請求項1】) ・「上記織物と上記抵抗層との間に置かれる接着剤(9)を含むことを特徴とする請求項1記載の歯付きベルト。」(【請求項2】) ・「上記抵抗層は上記フッ素処理されたプラストマを,上記エラストマー材料100の割合に対し101乃至150の割合の重量で含むことを特徴とする請求項1乃至5のうちいずれか一項記載の歯付きベルト。」(【請求項6】) ・「上記抵抗層は0.01乃至1.5mmの厚さを有することを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか一項記載の歯付きベルト。」(【請求項7】) ・「被膜織物5は一般的に,本体2のエラストマー材料への接着を改善するよう織物5自体に対し好適には10乃至30重量パーセントの量で,特にRFLのような接着剤で処理される。同じ接着剤が補強インサート3と本体2との間に使用される。」(段落【0024】) ・「フッ素処理されたプラストマは,例えばZONYL(DUPONTに登録された商標)又はARGOFLON(AUSIMONTに登録された商標)のようなポリテトラフルオロエチレンが使用され,エラストマー材料はHNBRを含むことが好適である。エラストマー材料には,ポリメタクリル酸の亜鉛塩で変更されるHNBR,例えばZEOFORTE ZSC(NIPPON ZEONに登録された商標)が使用されることがより好適である。」(段落【0030】) ・「特に,歯付きベルトの被膜織物5が上述されたような種類の抵抗層8によって被覆されると,特定の適用における歯付きベルトの耐磨耗性は,抵抗層8がない場合よりもかなり大きい。 抵抗層8は同時に,フッ素処理に基づく添加剤に典型的である磨耗に対する最適な抵抗特徴と,エラストマー材料の最適な機械的特徴とを同時に有し,また接着剤9によって織物に接着されることが可能である。 ・・・ 本発明の歯付きベルトを制限されない例によって説明する。 例1 表1は本発明の抵抗層8に使用されるフッ素処理されたプラストマの特性を示す。 ・・・ 例3 表3は本発明に従って形成される抵抗層8の化学組成を表す。抵抗層8は0.230mmの厚さを有する。」(段落【0035】ないし【0041】) (ii) 「本発明の抵抗層8に使用されるフッ素処理されたプラストマの特性を示す。」(段落【0039】)表である,「表1」(段落【0040】【表1】)には,フッ素処理されたプラストマ(ZONYL MP 1500)の平均粒径が20μmであることが示されている。 (iii) 以上の記載及び図面の記載からすると,引用例1には以下の発明(以下,それぞれ「引用発明1」及び「引用発明2」という。)が記載されているといえる。 (引用発明1) 「本体(2)及び複数の歯(4)を含む歯付きベルト(1)であって, 前記歯(4)は,織物(5)によって被覆され, 前記織物(5)は,RFLで処理された後,外側に抵抗層(8)が接着剤(9)によって接着され, 前記抵抗層(8)は,フッ素処理されたプラストマ,エラストマー材料,及び加硫剤を含み, 前記フッ素処理されたプラストマは,前記エラストマー材料100の割合に対し101乃至150の割合の重量で含まれ,前記前記フッ素処理されたプラストマは,20μmの平均サイズの粒子によって形成される歯付きベルト(1)。」 (引用発明2) 「歯付きベルト(1)の歯(4)に接着される抵抗層(8)であって, フッ素処理されたプラストマおよびエラストマー材料を有し, 前記フッ素処理されたプラストマは,20μmの平均サイズの粒子によって形成される抵抗層(8)。」 (2) 引用例2 引用例2には,「ゴムベルト」に関し,以下の事項が記載されている。 ・「ゴム配合物で形成されたベルト本体の表面の全部又は一部が繊維材料で被覆されたゴムベルトにおいて,前記繊維材料の表裏面及び繊維間に,少なくともフッ素樹脂粉末を含む粉末状減摩材が集束するように,樹脂系接着成分と,ゴム成分と,前記フッ素樹脂粉末を含む粉末状減摩材とが前記繊維材料の表裏面及び繊維間に含浸付着されているゴムベルト。」(【請求項1】) ・「前記樹脂系接着成分及びゴム成分は,レゾルシン-ホルマリン-ゴムラテックス処理液を乾燥して形成された請求項1記載のゴムベルト。」(【請求項2】) ・「前記フッ素樹脂粉末は,前記ゴム成分100重量部に対し30?200重量部添加され,その平均粒子径は,100μm以下であり,前記混合物は,前記繊維材料重量の5?40%含浸付着している請求項1又は2記載のゴムベルト。」(【請求項3】) ・「ゴム成分21と樹脂系接着成分22とフッ素樹脂23とからなる混合物24は,レゾルシン-ホルマリン-ゴムラテックス(以下,RFLと略記する)処理液に,フッ素樹脂粉末を分散混合したものを,繊維材料を浸漬し,乾燥後加熱することにより形成することが好ましい。」(段落【0021】) ・「繊維材料の内部まで大量のフッ素樹脂粉末23を絡ませるためには,粉砕又は造粒により粉粒状となったフッ素樹脂粉末を用い,その平均粒子径が100μm以下(より好ましくは10μm以下)になったものを用いることが好ましい。100μmを越えると,RFL処理液中にフッ素樹脂粉末が沈降し均一に分散しにくくなり,更に混合物内におけるフッ素樹脂粉末の表面積が減少して摩擦係数低減効果が少なくなるからである。このような観点から,フッ素樹脂粉末は出来るだけ小さい粒径のもの例えば10μm以下のものが好ましい。」(段落【0029】) ・「フッ素樹脂粉末を分散させたRFL液にて処理された繊維材料の表面に対して,必要に応じてゴム糊を付着させることができる。図1の例では,イソシアネート化合物を含んだゴム配合物の第1ゴム糊を第1ゴム層5として付着させ,更にフッ素樹脂粉末又はフッ素樹脂粉末以外の減摩材を配合したゴム配合物の第2ゴム糊を第2ゴム層6として付着させている。なお,前記第1ゴム層5は省略可能であり,第2ゴム層6をフッ素樹脂粉末を含むRFL処理液で処理された繊維材料の表面に形成することもできる。或いは第2ゴム糊としてイソシアネート化合物さらにはフッ素樹脂粉末又はフッ素樹脂粉末以外の減摩材を配合したゴム配合物の第2ゴム層6をフッ素樹脂粉末を含むRFL処理液で処理された繊維材料の表面に形成することもできる。 第1ゴム層5は,接着力を高める中間層として機能し,イソシアネート化合物が接着成分として作用する。そのため,ベルト本体と同種のゴム成分を有する第1ゴム糊を採用できる。・・・ 第2ゴム層6は,摩擦係数低減効果を有する表層として機能し,フッ素樹脂粉末又はフッ素樹脂粉末以外の減摩材が配合されている。この第2ゴム層6は,第1ゴム層5と同様に,ベルト本体と同種のゴム配合物をメチルエチルケトン(MEK),トルエン等の溶剤に溶解させ,フッ素樹脂粉末又はフッ素樹脂粉末以外の減摩材を添加して処理液とし,この処理液を塗布した後乾燥固化することにより形成される。・・・ なお,ベルト本体を形成するゴム配合物の材質には特に制限はなく,使用条件に応じて適切なものが適宜選択される。自動車エンジン用及び各種エンジン用歯付ベルトの場合,耐熱性と耐油性を備えたH-NBR,CR,CSM等が使用される。一般産業用機械に用いる歯付ベルトには,H-NBR,CR,CSM以外に,NBR,エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM),エチレンプロピレン共重合体(EPR),SBR,イソプレンゴム(IR),天然ゴム(NR),フッ素ゴム,シリコンゴム等何れの場合も使用可能である。このような歯付ベルトの場合,図1で説明した歯布の使用が有効である。」(段落【0030】ないし【0033】) 第4 対比及び判断 1 請求項1に係る発明について (1) 本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)と引用発明1とを,その有する機能に照らして対比すると,引用発明1の「本体(2)」は本願発明1の「本体」に相当し,以下同様に,「歯(4)」は「歯」に,「歯付きベルト(1)」は「歯付きベルト」に,「織物(5)」は「布」に,「抵抗層(8)」は「抵抗層」に,「フッ素処理されたプラストマ」は「フッ素系プラストマー」に,「エラストマー材料」は「エラストマー材料」に,「加硫剤」は「加硫剤」に,それぞれ相当する。 そして,引用発明1の「織物(5)」は,RFLで処理された後,外側に抵抗層によってコーティングされる点において,本願発明1の「布」と一致し,引用発明1の「抵抗層(8)」に含まれる「フッ素処理されたプラストマ」(フッ素系プラストマー)は,エラストマー材料に対して,101乃至150重量部の重量だけ含まれる点において,本願発明1の「抵抗層」と一致する。 そうすると,本願発明1と引用発明1とは,以下の点で一致し,相違する。 (一致点1) 「本体及び複数の歯を含む歯付きベルトであって, 前記歯は,布によってコーティングされ, 前記布は,RFLで処理された後,外側が抵抗層によってコーティングされ, 前記抵抗層は,フッ素系プラストマー,エラストマー材料,及び加硫剤を含み, 前記フッ素系プラストマーは,前記エラストマー材料に対して,101乃至150重量部の重量だけ含まれる歯付きベルト。」である点 (相違点1) 本願発明1は,「布」が「該布の繊維をRFLの液体溶液に含浸して処理された後,引き続き,外側が抵抗層によってコーティングされ」,「前記繊維と前記抵抗層の間には,いかなる接着材料も存在せず」,「前記抵抗層は,前記布に直接接着され」るものであるのに対し,引用発明1においては,「織物(5)」に係るRFL処理の具体的な内容が明らかでないとともに,「織物(5)」の外側に「抵抗層(8)」が「接着剤(9)」によって接着されるものである点 (相違点2) 本願発明1は,「抵抗層」に含まれる「フッ素系プラストマー」が,「50%を超える量が10μmより小さい平均サイズの粒子」によって形成されるものであるのに対し,引用発明1においては,「抵抗層(8)」に含まれる「フッ素処理されたプラストマ」が,「20μmの平均サイズの粒子」によって形成されるものである点 (2)(i) まず,上記相違点1について検討する。 引用発明1において「織物(5)」に係るRFL処理の具体的な内容が明らかでないが,引用例2に記載されているように(段落【0021】(上記第3・2(2))),布の繊維をRFLの液体溶液に含浸して処理することは従前より知られた手法で,そのような手法により処理することは当業者にとって格別困難なことではない。 また,引用発明1は,接着剤(9)によって,織物(5)の外側に抵抗層(8)を接着するものであるが,引用例1に「・・・また接着剤9によって織物に接着されることが可能である。」(段落【0036】(上記第3・2(1))と記載されているように,必須のものとは解されず,具体的な材質や厚み等に応じて適宜に接着剤(9)を施すものであることが窺われる。 この点に関し,引用例2に,歯布4の外側に,接着力を高めるための第1ゴム層5を介して,フッ素樹脂粉末が配合された第2ゴム層6を配すること,歯布4の外側に該第2ゴム層6を直接配すること,両者を選択的に採用し得ることが記載され、該第2ゴム層6のエラストマー材料として、引用発明1においても想定されている(引用例1段落【0030】(上記第3・2(1))HNBRが利用できる旨が記載されている(段落【0030】ないし【0033】(上記第3・2(2))。摩擦係数低減効果を有する表層として機能することからして、該第2ゴム層6が抵抗層に相当することは明らかなところ,このような事項が従前より知られていることに照らせば,引用発明1において,織物(5)の外側に抵抗層(8)を直接接着することは,当業者が適宜になし得ることである。 そうすると,引用発明1において,上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到できた事項である。 (ii) 次に,相違点2について検討する。 ア 引用発明1は,抵抗層(8)に含まれるフッ素処理されたプラストマが,20μmの平均サイズの粒子によって形成されるものであるが,引用例1の記載からすると,同時に抵抗層(8)の厚さを0.230mmとすることを想定しており(段落【0041】(上記第3・2(1)),所定の抵抗層の厚さを前提とした粒径であって、このような粒径に限定されないことが窺われる。 そして,引用例1には,抵抗層(8)の厚さを0.01ないし1.5mmとし得る旨記載されており(【請求項7】(上記第3・2(1)),仮に抵抗層(8)の厚さを0.01mm(10μm)程度とする場合においても,フッ素処理されたプラストマの平均サイズが20μmであることが好適であるとは解されず,より小さな平均サイズのものを利用することは,当業者であれば格別困難なことではない。 イ また,引用例2には,布に係るRFL処理液に関する事項ではあるが,処理液中の均一な分散の観点から,フッ素樹脂粉末の粒径は小さい方が好ましい旨記載されており(段落【0029】(上記第3・2(2)),溶媒中の均一な分散の意味においてこのような事項は一般的な知見である。 引用発明1において,フッ素処理されたプラストマが抵抗層(8)に均一に分散されるべきであることは,その機能に照らして当然であるから,そうした観点に基づいて,引用例2に記載された事項を知り得た当業者が,より小さな平均サイズのものを利用しようと試みることは容易になし得ることである。その場合,技術の類似性に鑑みれば,引用例2に示された,粒径が10μm以下のものが好ましい点(段落【0029】(上記第3・2(2))が十分に参考になるものである。 ウ 加えて,抵抗層中に平均粒径7μmのフッ素樹脂粉末を含ませること,平均粒径が小さいものが好適であることも,周知の事項である(例えば,特開2000-310293号公報(特に,段落【0038】【表3】「実施例7」及び【0042】参照。),特開2001-56043号公報(特に,段落【0042】【表5】「実施例8」,【0048】【表11】」「実施例37」及び【0054】参照。),特開2001-208137号公報(特に,段落【0062】【表9】「実施例12」,【0068】【表15】「実施例41」及び【0073】参照。))。 エ 以上の点を総合的に判断すれば,引用発明1に引用例2に記載された事項及び上記周知の事項を適用し,フッ素処理されたプラストマをより小さい平均サイズの粒子によって形成すること,具体的には,50%を超える量が10μmより小さい平均サイズの粒子によって形成するようにし,上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到できた事項である。 (iii) 本願発明1が奏する効果をみても,引用発明1,引用例2に記載された事項及び上記周知の事項から予測し得る範囲内のものであって,格別ではない。 (3)(i) 請求人は,この点に関し概ね,以下のように主張している。 ・引用文献1には,織物5と抵抗層8の間に,RFLではない別の接着剤9が設置された構成が明確に記載されており,これから,当業者は,「前記繊維と前記抵抗層の間には,いかなる接着材料も存在せず,前記抵抗層は,前記布に直接接着され」るという特徴に想到することはできない。 ・引用文献1には,フッ素処理されたプラストマとして平均粒径が20μmのものしか記載されていないため,引用文献1において,平均粒径を変更してしまうと,発明の効果が発揮できるかどうか判断することができなくなってしまうから,当業者はこの値をその他の値に変更することに想到し得ない。 ・引用文献2には,「該布の繊維をRFLの液体溶液に含浸して処理された後,引き続き,外側が抵抗層によってコーティングされ」ること,「前記抵抗層は,前記布に直接接着され」ることについて,開示されていない。 ・引用文献2には,本願発明の抵抗層に相当する層は開示されていない。フッ素系樹脂粉末23を含む混合物は布4の繊維の周りに配置され,布4は,「抵抗層」ではない。また,混合物の形成に水を含む液体を使用しており(表3参照),このような方法では,布の外側に「抵抗層」のような別個の層を形成することはできない。本願発明では,抵抗層は水を含まない固体で構成されるため,布の外側に別個の層として配置することができる。このように,抵抗層を有さない引用文献2は本願発明とは全く異なる構成となっており,引用文献として採用することはできない。仮に引用文献1と2を組み合わせることができたとしても,これにより得られる構成は,引用文献1において,繊維を含む織物5の周囲に,フッ素系樹脂粉末23を含む混合物が配置された構成に過ぎない。 ・本願発明では,従来のような布と抵抗層の間に,両者の接着性を高めるため配置される接着材料を使用せずに,抵抗層8を布5に直接接着することができる。引用例1に記載されたような接着剤は比較的高価であり,このような接着剤を使用した場合,工程数が増えてしまうという問題がある。従来の構成では,布と抵抗層の間の接着性を高めるため,このような接着剤は必須の部材であり,省略することはできない。これに対し,本願発明では,「前記フッ素系プラストマーは,50%を超える量が10μmより小さい平均サイズの粒子によって形成される」という構成を採用することにより,引用例1に記載されたような,RFLとは異なる接着剤を使用せずに,布と抵抗層の間に良好な密着性が得られることを初めて見出した。このような構成および効果が,従来の構成では得られない有意なものであることは,引用文献1に接着剤9が明示されていることからも明らかである。 ・本願発明は,「前記繊維と前記抵抗層の間には,いかなる接着材料も存在せず,前記抵抗層は,前記布に直接接着され」,「前記フッ素系プラストマーは,50%を超える量が10μmより小さい平均サイズの粒子によって形成される」という特徴を有するため,布と抵抗層の間に別個の接着剤を設ける必要がなくなり,例えば,「歯付きベルト1の製造の処理時に1つの段階を有利になくすことを可能にし,従って,時間と費用における相当の節約を実現する」(本願明細書段落【0044】)ことが可能になるという,引用文献1,2からは予想し得ない有意な効果が得られる。 (ii)ア しかしながら,すでに検討したとおり,引用例1の段落【0036】の記載からすると,織物(5)と抵抗層(8)の間に接着剤(9)を介在させることは任意付加的であって必須であるとは解されず,その他の記載(例えば,【請求項1】の記載)も併せて,その記載全体を総合的にみれば,必須のものではなく具体的な材質や厚み等に応じたものであることが窺われる。 引用例2には,布の繊維をRFLの液体溶液に含浸して処理された後,引き続き,外側が抵抗層によってコーティングされること,抵抗層は,布に直接接着されることが記載されているから(段落【0021】及び【0030】ないし【0033】),引用発明1において,織物(5)の外側に抵抗層(8)を直接接着することは,当業者が適宜になし得ることである。 イ また,すでに検討したとおり,引用例1の記載からすると,平均粒径が20μmである点は想定している抵抗層(8)の厚さ(0.230mm)に関連していると解されるともに(段落【0041】),採用可能な厚さとして示された0.01mm(10μm)(【請求項7】)程度とする場合にも20μmであることが好適であるとは解されず,より小さな平均サイズのものとする契機は十分に認められる。 そして,引用例2に記載された,布に係るRFL処理液中の均一な分散の観点から,フッ素樹脂粉末の粒径は小さい方が好ましい点(段落【0029】)は,溶媒中の均一な分散の意味において一般的な知見であるところ,引用発明1において,フッ素処理されたプラストマが抵抗層(8)に均一に分散されるべきであることは当然であるから,その観点で,引用例2に記載された点が適用可能であることは明らかである。その場合,たとえ抵抗層に係るものでないとしても,技術の類似性に鑑みれば,引用例2に例示された粒径は十分に参考になる。 加えて,抵抗層中に平均粒径7μmのフッ素樹脂粉末を含ませること,平均粒径が小さいものが好適であることも,周知の事項であるから,いずれにしても,引用発明1において,フッ素処理されたプラストマを,50%を超える量が10μmより小さい平均サイズの粒子によって形成されるようにすることは,当業者が容易に想到できた事項である。 ウ 請求人は,本願発明では,「前記フッ素系プラストマーは,50%を超える量が10μmより小さい平均サイズの粒子によって形成される」という構成を採用することにより,引用例1に記載されたような,RFLとは異なる接着剤を使用せずに,布と抵抗層の間に良好な密着性が得られることを初めて見出した,などと主張するが,すでに述べたとおり,まず,引用発明1は,織物(5)と抵抗層(8)の具体的な材質や厚み等に応じて,任意付加的に接着剤(9)を介在させるものであると解されるし,そもそも直接接着することが従前から知られていることであって,接着剤(9)を使用せずに直接接着することは,当業者が容易に想到できた事項である。 そして,すでに述べたとおり,引用発明1において,フッ素処理されたプラストマより小さな平均サイズのものとすることは,当業者が容易に想到できた事項であるところ,その場合,抵抗層(8)の性状が変化することも技術的に明らかであるから,粒径も踏まえて接着剤(9)の要否を検討することも,当業者にとって格別困難なことではなく,その観点から,接着剤(9)を使用せずに直接接着することも,当業者が容易に想到できた事項である。 また,請求人が主張する,接着剤を介在させないことによる効果も,技術的に自明なものであって,格別のものではない。 よって,請求人の主張は,採用することができない。 (4) 以上を総合すると,本願発明1は,引用発明1,引用例2に記載された事項及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 2 請求項7に係る発明について (1) 本願の請求項7に係る発明(以下「本願発明7」という。)と引用発明2とを,その有する機能に照らして対比すると,引用発明2の「歯付きベルト(1)」は本願発明7の「歯付きベルト」に相当し,以下同様に,「歯(4)」は「歯」に,「抵抗層(8)」は「抵抗層」に,「フッ素処理されたプラストマ」は「フッ素系プラストマー」に,「エラストマー材料」は「エラストマー材料」に,それぞれ相当する。 そうすると,本願発明7と引用発明2とは,以下の点で一致し,相違する。 (一致点2) 「歯付きベルトの歯に接着される抵抗層であって, フッ素系プラストマーおよびエラストマー材料を有する抵抗層。」である点 (相違点3) 本願発明2は,「抵抗層」に含まれる「フッ素系プラストマー」が,「50%を超える量が10μmよりも小さい平均サイズの粒子」によって形成されるものであるのに対し,引用発明2においては,「抵抗層(8)」に含まれる「フッ素処理されたプラストマ」が,「20μmの平均サイズの粒子」によって形成されるものである点 (2)(i) 上記相違点3について検討するに,上記相違点3は,本願発明1及び引用発明1に係る上記相違点2と実質的に同じである(上記1(1))。 そして,すでに検討したとおり,引用発明1に引用例2に記載された事項及び上記周知の事項を適用し,上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到できた事項であるから(上記1(2)(ii),実質的に同様の理由により,引用発明2に引用例2に記載された事項及び上記周知の事項を適用し,上記相違点3に係る本願発明2の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到できた事項である。 (ii) 本願発明2が奏する効果をみても,引用発明2,引用例2に記載された事項及び上記周知の事項から予測し得る範囲内のものであって,格別ではない。 (3) 請求人は,本願発明1と同様の特徴を有する本願発明7も,本願発明1と同様に進歩性を有する旨主張しているが,すでに検討したとおり,本願発明1に係る請求人の主張は採用することができないものであるから,同様に,本願発明7に係る主張も採用することができない。 (4) 以上を総合すると,本願発明7は,引用発明2,引用例2に記載された事項及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 むすび 以上のとおり,本願発明1(請求項1に係る発明)及び本願発明7(請求項7に係る発明)は,引用発明1,引用発明2,引用例2に記載された事項及び上記周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そして,本願発明1(請求項1に係る発明)及び本願発明7(請求項7に係る発明)が特許を受けることができない以上,本願の請求項2ないし請求項6並びに請求項8に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-12-27 |
結審通知日 | 2013-01-15 |
審決日 | 2013-01-28 |
出願番号 | 特願2006-534766(P2006-534766) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F16G)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 広瀬 功次 |
特許庁審判長 |
山岸 利治 |
特許庁審判官 |
常盤 務 窪田 治彦 |
発明の名称 | 歯付きベルト |
代理人 | 伊東 忠重 |
代理人 | 伊東 忠彦 |
代理人 | 大貫 進介 |