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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E02D
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  E02D
管理番号 1275530
審判番号 無効2012-800133  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-08-29 
確定日 2013-06-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第3750066号発明「地盤改良工法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成17年 5月31日:出願(特願2005-159318号)
平成17年12月16日:設定登録(特許第3750066号)
平成24年 8月29日:本件審判請求
平成24年11月16日:被請求人より答弁書提出
平成25年 1月 7日:審理事項通知
平成25年 2月 5日:請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成25年 2月 5日:被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成25年 2月20日:口頭審理
平成25年 3月11日:請求人より上申書提出

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は,本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。
「【請求項1】
先端部に上下二段の噴射孔を備えた注入ロッドを地盤に挿入し,当該注入ロッドを回転させながら引き上げる際に,上段噴射孔から切削水を噴射するとともに下段噴射孔から硬化材を噴射して,地盤中に柱状の改良体を造成する地盤改良工法において,
前記硬化材の注入率を10?30%に設定するとともに,前記切削水の注入率を10?40%に設定して,地盤中に柱状の改良体を造成することを特徴とする地盤改良工法。
【請求項2】
先端部に上下二段の噴射孔を備えた注入ロッドを地盤に挿入し,当該注入ロッドを回転させながら引き上げる際に,上段噴射孔から切削水を噴射するとともに下段噴射孔から硬化材を噴射して,地盤中に柱状の改良体を造成する地盤改良工法において、
前記硬化材の注入率を10?30%に設定するとともに,前記硬化材の注入率と前記切削水の注入率とを足し合わせた総注入率を20?50%に設定して,地盤中に柱状の改良体を造成することを特徴とする地盤改良工法。
【請求項3】
前記切削水の噴射圧力pwと前記切削水の単位時間当たりの吐出量qwとの積で表わされる切削能力pw×qwと地盤の切削径φcとの相関関係から,前記切削径φcに加えて,前記切削水の噴射圧力pwまたは前記切削水の単位時間当たりの吐出量qwのいずれか一方を設定することで,設定されていない前記切削水の噴射圧力pwまたは前記切削水の単位時間当たりの吐出量qwを決定し,
前記硬化材の噴射圧力psと前記硬化材の単位深さ当たりの注入量Qsとの積で表わされる改良体造成能力ps×Qsと前記改良体の径φとの相関関係から,前記改良体の径φに加えて,前記硬化材の噴射圧力psまたは前記硬化材の単位深さ当たりの注入量Qsのいずれか一方を設定することで,設定されていない前記硬化材の噴射圧力psまたは前記硬化材の単位深さ当たりの注入量Qsを決定し,
これら設定もしくは決定された前記切削径φc,前記切削水の噴射圧力pw,前記切削水の単位時間当たりの吐出量qw,前記硬化材の噴射圧力ps,および前記硬化材の単位深さ当たりの注入量Qsを用いて,径φの改良体を造成することを特徴とする請求項1または2に記載の地盤改良工法。」
(以下,請求項1ないし3に係る発明を,それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」という。)

第3 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は,本件特許第3750066号の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された発明についての特許を無効とする,審判の費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,審判請求書,平成25年2月5日付け口頭審理陳述要領書,同年2月20日の口頭審理及び同年3月11日付け上申書において,甲第1号証を提示し,以下の無効理由を主張した。

[無効理由]
(1)無効理由1(特許法第36条第4項第1号違反)
本件特許明細書の発明の詳細な説明には,当業者が本件特許発明1ないし3を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないので,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
(具体的な理由)
(1)-1 無効理由1-1
本件明細書の段落[0021]に「図8は、切削水の噴射圧力pwと硬化材の噴射圧力psについて適宜の値を設定し、その値を図4および図5(関係式(1)、(2)を図化したもの)に当てはめて切削水注入率αwおよび硬化材注入率αsを算出し、・・・」と記載されているが,噴射圧力psの適宜の値を設定しても、Qsの値が決まらなければ,αsは算出できない。即ち,psの適宜の値を設定するだけではαsは一義的に決まらないので図8に記載の相関関係のデータは求まらない。これと同様に,切削水の噴射圧力pwの適宜の値を設定するだけでは,切削水注入率αwは一義的に決まらない。それ故,段落[0021]の記載からどのようにして切削水注入率αwおよび硬化材注入率αsを算出できるのか,さらには,どのようにして図8のデータを得られるのか理解できない。

(1)-2 無効理由1-2
本件特許発明1?3は,特定条件の実験により得られたデータに基づいて,硬化材および切削水の好適な注入率を設定するだけであり,発明の効果を奏するために不可欠であると思われるその他の条件を特定しないため,大径の改良体を合理的に造成し,コスト縮減と施工の効率化を図ることができるとは到底考えられない。上記した本件特許発明1?3の効果を得るには,当業者であっても,本件発明において特定されていない種々の条件を設定するために期待し得る程度を超える試行錯誤が必要であるので,発明の詳細な説明には,当業者が本件特許発明1?3を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
さらに,上申書において,以下の主張もしている。
「(2)・・・ 被請求人は,第1回口頭審理において,本件特許発明を実際に実施しているのは,N=5?100の中間程度の強度の地盤であると回答しています。しかし,実測データは,1種類のある地盤強度で取得した(ラボ実験で取得した)と述べるだけで,どの程度の地盤強度であったのか回答していません。
そもそも,本件特許発明の技術的思想の中核は,図4?図8のデータに基づいて上記数値限定をしたことにありますので,実測データを取得した地盤強度を明らかにすることは不可欠です。さらに,本件特許明細書に実測データを取得した地盤強度が記載されていないのですから,その明らかにした地盤強度であったことを証明する必要があります。・・・。
(3)さらに,地盤強度が異なれば,切削径が異なることは明らかなので,1種類のある地盤強度で取得した実測データに基づいて作成された図4?図8が,砂質土N=30やN=200などの様々な地盤強度において問題なく適用できて,本件特許発明を有効に実施できることを裏付ける証拠資料がなければ,図4?図8を有効に使用できることを説明したことにはなりません。・・・。
(4)圧縮空気とともに硬化材を噴射する場合,圧縮空気の噴射圧力が異なる場合,引上げ速度が異なる場合など,これら条件が異なっても本件特許発明の効果が得られることを裏付ける証拠資料を被請求人は何ら示していません。」(上申書第1頁第8行?第2頁第9行)

(a)
「本件特許明細書の段落[0018]に記載の(1)式および(2)式は,正しくは下記のとおりだと思われる。
φc=1.973・1n(pw×qw)-13.6 (1)
φ=1.985・1n(ps×Qs)-4.24 (2) 」(陳述要領書第2頁第11頁?第14頁)

(b)
「本件特許発明1において「硬化材の注入率を10?30%に設定するとともに,前記切削水の注入率を10?40%に設定」しているが,例えば,注入率の30%と31%では,効果には大きな差はなく,それぞれの数値の上限及び下限には臨界的意義はない。」(口頭審理において主張)

(2)無効理由2:特許法第36条第6項第1号違反
本件特許請求の範囲に記載の本件特許発明は,発明の詳細な説明に記載されたものではないので,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(具体的な理由)
(2)-1 無効理由2-1
本件特許発明1?3は,ある特定条件での実験データに基づいて好適範囲として設定した硬化材の注入率および切削水の注入率を,発明の詳細な説明に記載されていない条件の場合にまで,根拠なく無制限に拡大して適用するものである。したがって,本件特許発明1?3は,発明の詳細な説明にサポートされたものではなく,発明の詳細な説明に記載されていない内容を含むものである。

(2)-2 無効理由2-2
本件図4?図8のデータは,段落[0014]に記載されているように,下段噴射孔から硬化材のみを噴射する実施形態によるものであるが,本件特許発明1?3では,「硬化剤のみを噴射して」と限定されていないので,本件特許発明1?3は,発明の詳細な説明にサポートされたものではなく,発明の詳細な説明に記載されていない内容を含むものである。

(a)
「答弁書の第4頁第6行?第16行の被請求人の説明により,図8のデータは,設定した改良径φ毎,切削径φc毎に存在することになる。被請求人の説明どおりに,例えば,改良径φを1.0mに設定して図8のデータを取得してみる。
図5の曲線(2),即ち,段落[0019]の(4)式にφ1.0mを代入すると,ps×Qs=14.01となる。そして,αs×ps=17.84となる。(αs,ps)としてそれぞれの座標を表すと,(10%,178.4),(20%,89.2),(30%,59.5)となる。
同様に改良径φを2.0mに設定して図8のデータを取得すると,(4)式は,ps×Qs=23.18となる。そして,αs×ps=7.38となる。・・・同様に改良径φを3.0mに設定して図8のデータを取得すると,(4)式は、ps×Qs=38.37となる。そして,αs×ps=5.43となる。・・・
同様に改良径φを5.0mに設定して図8のデータを取得すると,(4)式は,ps×Qs=105.1となる。そして,αs×ps=5.35となる。・・・
この結果から,改良径φが小さくなる程,図8の曲線(as-ps曲線)は右上側の位置に移動することが分かる。そして,改良径φが2m以下になると,もはや,図8に記載された曲線(αs-ps曲線)とは程遠い位置の曲線になるため,本件特許発明で特定した硬化材の注入率の範囲では,本件特許発明の効果を奏することはできない。切削径φcについても同様であり,切削径φcが小さくなる程,図8の曲線(αw-pw曲線)は右上側の位置に移動する。・・・
本件特許発明では,改良径φ,切削径φcの範囲を特定していないので,本件特許発明の効果を奏しない場合が明らかに含まれている。
したがって,本件発明は,発明の詳細な説明にサポートされたものではく,この点において,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
そもそも,図4は切削径φcが約2m?5mの場合の実測データであり,
図5は改良径φが約2m?4mの場合の実測データである。したがって,本
件特許発明の効果を奏するための切削径φc,改良径φの範囲は有限になる
はずである。しかしながら,本件特許発明では,これらの範囲が何ら特定さ
れていないという矛盾がある。」(陳述要領書第6頁第8行?第7頁第10行)
そして,上申書において,「(8)尚,平成25年2月5日付けで提出した口頭審理陳述要領書の第6ページの「(7)その他の主張について」において記載した図8の座標の算出方法は以下のとおりです。・・・」として,座標の算出方法を具体的に説明している。(上申書第2頁第25行?第3頁第13行)

(3)無効理由3:特許法第36条第6項第2号違反
本件特許請求の範囲の記載は,本件特許発明が明確ではないので,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(具体的な理由)
(3)-1 無効理由3-1
上記無効理由1-1と同じ根拠で,本件特許発明1?3は明確ではない。

(3)-2 無効理由3-2
切削径φcは,施工前,施工中,施工後のいずれの段階においても把握することは実質的に不可能であると思われるし,切削径φcを把握する手法も本件特許明細書には開示されていない。また,切削径φcは深さ方向で一定ではなく,ばらつくと考えられるが,その場合の切削径φcはどのように定義されるのかも不明である。それ故,本件特許発明1?3は明確ではない。
さらに,上申書において,次のように意見を述べている。
「(6)また,本件特許発明を実施する際に,切削径をどのように把握するのかについて,本件特許明細書には記載がなく,また,本件特許明細書に記載がなくても当業者であれば把握できることについての説明もありません。切削径は,上記の数値限定した値を求めるために必須の値です。実際の施工において切削径が把握できないのですから,本件特許発明の内容は不明りょうと言わざるを得ません。」(上申書第2頁第17行?第21行)

[証拠方法]
甲第1号証:地盤改良工法便覧,1991年7月31日初版1刷発行,日本材料学会土質安定材料委員会編,日刊工業新聞社,第447頁(当審注:頁数は印刷されていないが,447に相当)?第454頁

2 被請求人の主張の概要
被請求人は,平成24年11月16日付け答弁書,同年2月5日付け口頭審理陳述要領書,同年2月20日の口頭審理において,本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求め,請求人の主張する無効理由に対して以下のように反論した。

(1)無効理由1
(1)-1 無効理由1-1に対して
「本件特許明細書段落[0021]では,「図8は,切削水の噴射圧力pwと硬化材の噴射圧力psについて適宜の値を設定し,その値を図4および図5(関係式(1),(2)を図化したもの)に当てはめて・・・」と記載するが,地盤改良工事を計画する際に,改良径φを設定するのは当然のことであり,改良径φを設定した上で,図5の曲線(2)に噴射圧力psの適宜の値を設定すれば,それに応じた硬化材の注入量Qsが決定されるのは明らかである。
そして,硬化材の注入量Qs(m^(3)/m)が決定されれば,硬化材の注入率αsは,請求人の示した式(A)からも算出できるので,図8のようなデータを取得できるのは明らかである。
また,上記と同様の手順で,切削水についても,切削径φcを設定することで,吐出量qwが決定されるので,注入率αwを決定することができる。なお,注入率αwの算出に際しては,単位体積当たりに吐出量qwで注入される切削水の量は,引上げ時間によって変動するので,引上げ時間ごとに図8のようなデータを取得することができる。このような引上げ時間の設定は,地盤改良工事を計画する際に当然行われることであり,引上げ時間に応じた注入率αwは,当業者であれば適宜決定できるものである。
したがって,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からは,どのようにして図8のデータが得られるかが理解できないということはないので,請求人が主張する無効理由1及び無効理由3は,理由がない。」(答弁書第4頁第6行?第23行)

(1)-2 無効理由1-2に対して
「ア.地盤強度について
本件特許発明には,その発明特定事項中において「地盤改良工法」という事項を特定しており,その適用対象となる地盤は,改良が必要な地盤であって,硬質の地盤までは対象としないことは,当業者であれば容易に理解できるものである。・・・
そうすると,具体的に地盤強度が,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていないとはいえ,当業者であれば,本件特許発明の対象となる地盤は把握することが可能である。」(答弁書第5頁第1行?第10行)
「イ.圧縮空気について
本件特許明細書段落[0018]では,圧縮空気の噴射圧力が1MPaであると記載しているが,当業者にとって,この値およびこの値の前後が,地盤改良に際して好適な範囲であることは技術常識である。そして,当業者であれば,当該範囲で圧縮空気の噴射圧力を設定することは通常行うことである。
また,このような圧縮空気の噴射圧力は,上記のような範囲であれば,切削径および改良径に対する影響は小さいものであり,圧縮空気の噴射圧力が1MPaとは異なったとしても,本件特許明細書で説明した図4?図8のデータが大きく変化しないことは,当業者であれば容易に理解できる。」(答弁書第5頁第19行?第27行)
「ウ.硬化材の仕様について
本件特許発明で用いる硬化材は,本件特許明細書に特に明示等をしていないが,従来から用いられている一般的な硬化材を使用するものである。
また,硬化材が,当業者が地盤改良に際して通常用いるものであれば,切削径および改良径に対する影響は小さいものであり,本件特許明細書で説明した図4?図8のデータが大きく変化しないことは,当業者であれば容易に理解できる。」(答弁書第5頁第34行?第39行)
「エ.引上げ時間について
本件特許明細書で説明する図8では,引上げ時間10分/mと,15分/mの2パターンに対応する切削水の噴射圧力pwと切削水の注入率αwの相関関係のグラフが示されているが,これらグラフは,平行移動すれば略重なることは明らかである。そうすると,これらのグラフの間の引上げ時間である場合はもちろんのこと,多少15分/mよりも長い又は10分/mよりも短い引上げ時間になる場合であっても,適宜平行移動させることにより,図8のようなグラフを取得できることは,当業者からすれば容易に理解できる。
そうすると,引上げ時間が10分/mと,15分/mの2パターン以外の場合であっても,当業者であれば,適宜切削水の噴射圧力pwと切削水の注入率αwを選択して,図4の関係式から切削径に応じた適切な吐出量を設定することは,容易である。」(答弁書第6頁第5行?第15行)
「オ.注入ロッドの回転速度について
本件特許明細書段落[0018]では,上昇ピッチ2.5cmで1回転する回転速度を記載しているが,当業者であれば,この値およびこの値の前後が,地盤改良に際して好適な範囲であることは,技術常識である。そして,当業者であれば,当該範囲で回転速度を設定することは通常行うことである。
また,このような回転速度は,上記のような範囲であれば,切削径および改良径に対する影響は小さいものであり,回転速度が上昇ピッチ2.5cmで1回転と多少異なったとしても,本件特許明細書で説明した図4?図8のデータが大きく変化しないことは,当業者であれば容易に理解できる。」(答弁書第6頁第19行?第27行)
「カ.小括
以上のことから,本件特許明細書の発明の詳細な説明において,地盤強度,圧縮空気の圧力条件,硬化材の仕様,引上げ時間の例示が少ないこと,回転速度の例示が少ないことを理由として,本件特許発明が,実施ができないということはないので,請求人が主張する無効理由1には,理由がない。」(答弁書第6頁第33行?第37行)
また,陳述要領書で,地盤強度に関し,被請求人は以下のとおり陳述している。
「甲第1号証の第453頁の表23.6のC工法における「標準設計数値」を参照すると,砂質土と粘性土との間でN値は大きく相違するものの,例えば,砂質土50<N≦100の場合と,粘性土3<N≦5の場合とで,同じ条件で施工を行うとしている。この点からすると,砂質土50<N≦100の場合と,粘性土3<N≦5の場合との間の相違程度であれば,N値が大きく相違したとしても,改良工事の条件が大きく変わらないことがわかる。
また,砂質土30<N≦50と50<N≦100の場合でN値が相違しても,改良工事の1条件である引上げ速度は20分/mと変わらず,また,その改良される改良体の改良径の相違はごく少ないものとなっていることがわかる。
以上のような点からすれば,当業者であれば,「地盤強度が異なっていたとしても,本件特許明細書で説明した図4?図8のデータが大きく変化しない。」と理解できる。
そして,上記の理由から,改良が必要となる地盤において,地盤強度が異なっていたとしても,本件特許明細書で説明した図4?図8のデータが大きく変化しないのであるから,改良が必要となる地盤においては,図4?図8を用いて本件特許発明を有効に実施できる。
また,改良が必要となる地盤において,本件特許発明を実施するのであれば,本件特許の効果は変わらない。」(陳述要領書第5頁第28行?第6頁第10行)
さらに,圧縮空気の噴射圧力及び注入ロッドの回転速度に関し,以下のとおり陳述している。
「例えば,甲第1号証の452頁の右欄「23.3.3土質条件と有効径」,「23.3.4設計に用いる諸数値」の各欄において「圧縮空気」が挙げられていないことは,「圧縮空気の噴射圧力」が,施工に大きく影響しないことを示していると考える。
また,「圧縮空気の圧力」は「水や硬化材による液体の圧力」と比較して著しく小さく,工学的に「図4?図8のデータが大きく変化しない」ことは当業者であれば明らかと考える。
また,例えば,甲第1号証の452頁の右欄「23.3.3土質条件と有
効径」,「23.3.4設計に用いる諸数値」の各欄において「注入ロッドの回転速度」が挙げられていないことは,「注入ロッドの回転速度」が,施工に大きく影響しないことを示していると考える。」(陳述要領書第6頁第19行?第30行)

(a)
「本件特許明細書の段落[0018]に記載の(1)式および(2)式は,
φc=1.973・1n(pw×qw)+13.6 (1)
φ=1.985・1n(ps×Qs)+4.24 (2)
となっているが,請求人の主張のとおり,
正しくは下記である。
φc=1.973・1n(pw×qw)-13.6 (1)
φ=1.985・1n(ps×Qs)-4.24 (2)」(口頭審理において主張)

(b)
硬化材注入率及び切削水注入率が好適範囲外になる場合の問題点については,陳述要領書で以下のとおり陳述している。
「図8を参照し,まず,硬化材については,硬化材注入率が30%以上の範囲であると,噴射圧力と硬化材注入率との関係を示す曲線が急峻に立ってくる様子がわかる。
そして,このような急峻な立ち上がりの範囲は,硬化材の噴射圧力の変動に対して硬化材注入率の変動が非常に大きくなることを示している。
このため,このような急峻な立ち上がりの範囲で硬化材の噴射圧力を定めると,噴射圧力の変動に対して硬化材注入率が大きく変動するので,品質(改良体の強度や改良径)がバラツキ易くなる(本件特許明細書段落[0022]参照)。
また,硬化材注入率が10%以下の範囲は,上記とは逆に噴射圧力と硬化材注入率の関係を示す曲線が水平に近づき寝てくる。従って,硬化材注入率をわずかに変動させるにしても硬化材の噴射圧力を大きく変動させなければならない範囲となる(本件特許明細書段落[0022]参照)。さらに,噴射圧力が比較的大きくなる範囲でもある。
また,このため,硬化材注入率が10%以下の範囲では,設定しようとする噴射圧力が大きく,また所望の注入率を得ようとした場合の噴射圧力の制御について緻密性が要求されることから,設備を用意する等の点で施工的及びコスト的に困難な状況となる場合がある(例えば、高性能の超高圧ポンプ等が要求され,現実的ではない場合がある)。しかも,注入率も小さいことから所要の強度が得難くなる。
以上のことから,硬化材注入率が30%以上の範囲であると,品質(改良体の強度や改良径)がバラツキ易くなる問題点があり,硬化材注入率が10%以下の範囲であると,施工的及びコスト的に困難な状況となることや,所要の強度が得難くなる問題点がある。」
また,切削水については,切削水注入率が40%以上の範囲であると,噴射圧力と切削水注入率との関係を示す曲線が急峻に立ってくる様子がわかる。
・・・
以上のことから,切削水が40%以上の範囲であると,品質(切削径)がバラツキ易くなる問題点があり,切削水注入率が10%以下の範囲であると,施工的及びコスト的に困難な状況となることや,排泥がスムーズに進まなくなる可能性があるといった問題点がある。」(陳述要領書第4頁第1行?第5頁第10行)

(2)無効理由2
(2)-1 無効理由2-1に対して
「上記ア.?力.でも述べたとおり,本件特許明細書の詳細な説明には,本件特許発明の適用対象となる改良が必要な地盤に対して,当業者であれば通常用いる範囲内で,圧縮空気の噴射圧力,硬化材の仕様,引上げ時間および注入ロッドの回転速度を設定或いは決定することで,本件発明を実施できることが記載されている。
したがって,本件発明は,その実施ができる範囲内で,発明の詳細な説明にサポートされたものと解するのが相当であり,請求人が主張する無効理由2には,理由がない。」(答弁書第6頁第39行?第7頁第5行)

(2)-2 無効理由2-2に対して
「硬化材と圧縮空気を同時に噴射する場合には,硬化材のみを噴射する場合に比べて多少改良径に変化が生じることは認められるが,本件特許明細書で説明した図4?図8のデータが大きく変化しないことは,当業者であれば容易に理解できる。
そうすると,当業者であれば,硬化材と圧縮空気を同時に噴射する場合の図8のデータに対応するデータを取得するとともに,本件特許明細書段落0022に記載に基づき,本件特許発明1及び本件特許発明2の数値範囲を規定し,この規定した範囲で地盤改良を有効に行えることは容易に理解できる。そして,当業者であれば,上記硬化材と圧縮空気を同時に噴射する場合の図8のデータに対応するデータに基づき,本件特許明細書で説明した図5に相当するデー夕から硬化材の吐出量等を決めて,本件発明を実施することができる。
したがって,本件特許発明は,発明の詳細な説明にサポートされたものであるので,請求人が主張する無効理由2には,理由がない。」(答弁書第7頁第15行?第26行)

(a)
「切削径φcが3?5mの範囲であるならば,図4?8のデータは成り立つが,その範囲に限定されるものではない。1m程度だと図8のデータから外れるが,外れたものは本件特許の範囲外である。」(口頭審理において主張)

(3)無効理由3
(3)-1 無効理由3-1に対して
上記無効理由1-1と同じ根拠で,
「したがって,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からは,どのようにして図8のデータが得られるかが理解できないということはないので,請求人が主張する無効理由1及び無効理由3は,理由がない。」(答弁書第4頁第21行?第23行)

(3)-2 無効理由3-2に対して
「当業者からすれば,切削径は,改良径と同等のものであることは技術常識である。
したがって,切削径φcは,技術常識から明確なものであるので,請求人が主張する無効理由3には,理由がない。」(答弁書第7頁第33行?第35行)
さらに,「前回の主張では,請求人の主張の「切削径がいかなるものか」という問に対して,明細書の記載の例では,切削径と改良径が同等であることを主張したものであり,本件特許明細書に添付の図4を実験で求めた際の切削径は,初めに水噴射のみの実験を実施し,その後にスウェーデンサウンディング試験で探針し,切削径を確認したものである。
本件特許発明を実施する場合には,硬化材噴射によって径が拡がる場合もあり,これを考慮して実際の工法適用で改良径設計を実施する。
また,本件特許発明では、硬化材によって切削径を拡げることも除外はしていない。例えば,本件特許明細書に添付の図4,図5,図8等のデータに基づき,切削水の噴射圧力を下げて設定し,硬化材の噴射圧力を上げて設定する等して調整すれば,切削水で切削しなかった部位を,硬化材で補って切削し,所望の改良体を精度良く得ることも可能である。そして,上記噴射圧力に対応する範囲が本件特許発明の注入率範囲にあれば,上記で説明した有益な効果が得られる。」(陳述要領書第7頁第2行?第15行)


第4 無効理由についての判断
(1)無効理由1
(1)-1 無効理由1-1について
本件特許明細書の段落[0021]には,「図8は,切削水の噴射圧力pwと硬化材の噴射圧力psについて適宜の値を設定し,その値を図4および図5(関係式(1),(2)を図化したもの)に当てはめて切削水注入率αwおよび硬化材注入率αsを算出し,注入ロッド1の引上げ時間10分/mおよび15分/mにおける切削水の噴射圧力pwと切削水注入率αwとの相関関係および硬化材の噴射圧力psと硬化材注入率αsとの相関関係を求めたものである。」と記載されている。そこで,図4および図5をみると,「地盤切削径φc」及び「改良径φ」の値が図示されているので,切削水の噴射圧力pwと硬化材の噴射圧力psについて適宜の値を設定し,その値を図4および図5に図示された範囲内の「地盤切削径φc」及び「改良径φ」の適宜の値に当てはめることで,図8のデータを取得できるものである。例えば,「地盤切削径φc」を3mと設定すると,図4のグラフから「切削能力pw×qw」は4500(MPa・l/min)と読み取ることができ,引上げ時間を10.0(分/m)として,さらに切削水の噴射圧力は30(MPa)で施工しようとする場合には,切削水吐出量は150(l/分)となる。そうすると,高さ1m,即ち10分間分の切削水吐出量は1500lとなり,高さ1mで地盤切削径3mの体積で除すると,1500・1000/π(150)^(2)・100=0.212,切削水注入率は約20%となる。このように,地盤切削径φc:3mにおける切削水噴射圧力を変化させて,それに伴う切削水吐出量が決定し,切削水注入率を求め,図8のデータを得ることができるものである。以下,同様に「地盤切削径φc」の設定を変更して,その径に対応するデータを得て,図8に相当する図を得ることができることとなる。したがって,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からは,どのようにして図8のデータが得られるかが理解できないということはないので,発明の詳細な説明には,当業者が本件特許発明1?3を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。









(1)-2 無効理由1-2について
本件特許発明1?3において特定されていない種々の条件の一つとして,地盤強度があるが,改良が必要な地盤は砂質土及び粘性土であり,地盤改良が行われている通常の範囲内であれば良く,地盤強度が,本件特許明細書の発明の詳細な説明に具体的に記載されていないからといって,本件特許発明1?3を実施することができないということはない。また,請求人は,本件特許発明1?3の技術的思想は,図4?図8のデータに基づいて硬化材の注入率と切削水の注入率を数値限定したことにあるので,実測データを取得した地盤強度を明らかにすべきと主張し,さらに,地盤強度によって本件特許明細書の図4?図8が変わり,図4?図8を有効に使用することができないとも主張している。しかしながら,図4?図8はあくまで一実施例であって,実際に施工する現場の地盤の特性に応じて,本件特許発明1?3の技術的思想に基づいて,その地盤に対応した図4?図8に相当する図を作成すればよく,それによって本件特許発明1?3を実施することができるものであり,図4?図8の実測データを取得した地盤強度が明らかでないといって,本件特許明細書には当業者が本件特許発明1?3を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとまではいえない。
次に,圧縮空気の噴射圧力であるが,当業者であれば,図4?図8のデータを用い,当業者が通常用いる範囲に圧縮空気の噴射圧力を設定することで,本件特許発明1?3を,改良が必要な地盤において有効に実施できるものである。したがって,圧縮空気の噴射圧力が1MPaである条件のみしか,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていないからといって,当業者が,本件特許発明1?3を実施することができないということはない。仮に,圧縮空気の噴射圧力が大きく,本件特許明細書の図4?図8のデータをそのまま用いることができない場合であっても,図4?図8はあくまで一実施例であるので,実際に施工する現場で用いる圧縮空気の噴射圧力に応じて,本件特許発明1?3の技術的思想に基づいて,その圧縮空気の噴射圧力に対応した図4?図8に相当する図を作成すればよく,それによって本件特許発明1?3を実施することができるものである。
また,硬化材の仕様については,当業者であれば,図4?図8のデータを用い,通常用いる硬化材を使用することで,本件特許発明1?3を,改良が必要な地盤において有効に実施できる。したがって,硬化材の違いに対する考慮が,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていないからといって,当業者が本件特許発明1?3を実施することができないということはない。
さらに,引上げ時間については,甲第1号証の表23.6には,引上げ速度(min/m)として,16,20,25の3種類が記載されている。一方,本件特許明細書には,引上げ時間が10分/mと,15分/mの2種類が記載されているが,甲第1号証の値と異なり,また2種類しか,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていないからといって,当業者が,本件特許発明1?3を実施することができないということはない。
そして,注入ロッドの回転速度については,段落[0018]には,注入ロッドの回転速度は上昇ピッチ2.5cmで一回転するようにしたと記載されている。当業者であれば,図4?図8のデータを用い,現場の状況や使用機材等に応じて,通常用いる範囲に回転速度を設定することで,本件特許発明1?3を,改良が必要な地盤において実施できるものである。よって,注入ロッドの回転速度の違いに対する考慮が,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていないからといって,当業者が,本件特許発明1?3を実施することができないということはない。
以上のことから,本件特許明細書の発明の詳細な説明において,地盤強度,圧縮空気の圧力条件,硬化材の仕様,引上げ時間の例示が少ないこと,回転速度の例示が少ないことを理由として,本件特許発明1?3が,実施ができないということはないので,請求人が主張する無効理由1-2には,理由がない。
さらに,請求人は「図4および図5のデータをそのまま適用できない蓋然性が高い。」等とも主張するが,上記の地盤強度及び圧縮空気の噴射圧力の項目で述べたように,図4および図5,さらに図6から図8のデータは一実施例であり,当業者であれば,本件特許発明1?3において特定されていない種々の条件を,現場の状況や使用機材等に応じて適宜設定し,図4から図8に相当するデータを得るることができるものであるから,発明の詳細な説明には,当業者が本件特許発明1?3を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。

(a)
本件明細書の段落[0018]に記載の(1)式および(2)式は、
φc=1.973・ln(pw×qw)+13.6 (1)
φ=1.985・ln(ps×Qs)+4.24 (2)
であるが,
段落[0019]では,(1)式と(2)式をそれぞれ(3)式と(4)式のように変換するとして,
pw×qw=exp((φc+13.6)/1.973) (3)
ps×Qs=exp((φ +4.24)/1.985) (4)
となっているが,移項すると+と-の符号が変わるにもかかわらず,符号が変わっておらず,(3)式と(4)式は正しいことから,(1)式と(2)式は、誤記と認められ,正しくは,両当事者が認めた下記のとおりである。
φc=1.973・1n(pw×qw)-13.6 (1)
φ=1.985・1n(ps×Qs)-4.24 (2)

(b)
請求人は,硬化材注入率が好適範囲外になる場合の問題点として,硬化材注入率が30%以上の範囲であると、噴射圧力と硬化材注入率との関係を示す曲線が急峻に立ち,このような急峻な立ち上がりの範囲は、硬化材の噴射圧力の変動に対して硬化材注入率の変動が非常に大きくなり,また、硬化材注入率が10%以下の範囲は、上記とは逆に噴射圧力と硬化材注入率の関係を示す曲線が水平に近づき寝てくるので,硬化材注入率をわずかに変動させるにしても硬化材の噴射圧力を大きく変動させなければならないとしている。そうすると,上記のような急峻な立ち上がりの範囲では、例えば硬化材注入率が30%から31%に1%上昇しても,硬化材の噴射圧力の変動に対して硬化材注入率の変動が急激に大きくなることとなり,施工的及びコスト的に考慮すると,数値の上限には技術的意義が認められるものであり,同様の理由で,数値の下限にも技術的意義が認められるものである。
切削水の注入率に関しても同様であることから,本件特許発明1において「硬化材の注入率を10?30%に設定するとともに,前記切削水の注入率を10?40%に設定」している,それぞれの数値の上限及び下限には技術的意義はあるものと認められる。
本件特許発明2において,「硬化材の注入率と切削水の注入率とを足し合わせた総注入率を20?50%に設定」した点も同様である。
以上のことから,硬化材の注入率及び切削水の注入率の範囲の点は,無効理由1の理由があるとはいえない。

(2)無効理由2
(2)-1 無効理由2-1について
請求人は,本件特許発明1?3は,ある特定条件での実験データに基づいて好適範囲として設定した硬化材の注入率および切削水の注入率を,発明の詳細な説明に記載されていない条件の場合にまで,根拠なく無制限に拡大して適用するものであるので,本件特許発明1?3は,発明の詳細な説明にサポートされたものではなく,発明の詳細な説明に記載されていない内容を含むものである,と主張する。
しかし,本件特許明細書の段落[0030]に「以上,本発明に係る地盤改良工法の実施形態について説明したが,本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく,その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば,上記の実施形態では,相関関係式(1)および(2)を対数近似しているが,直線近似や多項式近似など他の関数でもよいことは言うまでもない。要は,本発明において所期の機能が得られればよいのである。」と記載されているように,本件特許明細書における開示は,ある特定条件での実験データ,実施例に限定されるものではなく,しかも,本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に,発明の詳細な説明に記載された,発明の課題を解決するための手段,即ち硬化材の注入率および切削水の注入率を好適範囲として設定した手段が反映されているので,本件特許発明1?3が発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。

(2)-2 無効理由2-2について
本件図4?図8のデータは,段落[0014]に記載されているように,下段噴射孔から硬化材のみを25(MPa)で噴射する実施形態によるものであるが,下段噴射孔3から圧縮空気とともに硬化材を噴射する場合は,本件特許明細書の図5,図7,図8のデータをそのまま使用せずに,圧縮空気圧を考慮して,新たな相関関係を把握して,図5,図7,図8のデータを新たなデータに変更すればよいことは本件特許明細書から明らかである。
したがって,本件特許明細書の実施例として「硬化剤のみを噴射」するもののみが記載されているとしても,本件特許発明1?3は「圧縮空気の使用の有無に関わらず,「硬化材の噴射」を必須とすれば足りるものであり,「硬化剤のみを噴射して」と限定されていないとしても,本件特許発明1?3が発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。

(a)
切削径φcが3?5mの範囲であるならば,図4?8のデータは成り立つことは両当事者が認めている。そして,切削径φcが小さくなると,図8(αw-pw曲線)の曲線は右上に移動することも両当事者が認めているところである。一方,被請求人は,1m程度だと図8のデータから外れるが,外れたものは本件特許の範囲外である,と認識していることから,切削径φcの範囲を限定するまでもなく,本件特許発明1?3の効果の及ぶ範囲に限定されるものとなる。したがって,切削径φcは,本件発明の技術的思想を反映した図4?8のデータを新たなデータに変更した範囲内にあればよく,また,一実施例である図4?8のデータの範囲内に限定される必要はない。したがって,切削径φcの範囲の限定がないからといって,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,当業者が本件特許発明1?3を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないともいえないし,本件特許請求の範囲に記載の本件特許発明1?3は,発明の詳細な説明に記載されたものではないともいえない。

(3)無効理由3
(3)-1 無効理由3-1について
上記「無効理由1-1について」で述べたように,段落[0021]の記載から切削水注入率αwおよび硬化材注入率αsを算出でき,図8のデータを得ることができるものであるから,本件特許発明1?3を特定するための事項に技術的な不備はない。したがって,本件特許発明1?3に記載の「切削水注入率αw」および「硬化材注入率αs」は明確でないとはいえない。

(3)-2 無効理由3-2について
請求人は,「切削径φc」は,施工前,施工中,施工後のいずれの段階においても把握することは実質的に不可能であると思われるし,切削径φcを把握する手法も本件特許明細書には開示されていない,と主張するが,「切削径φc」は,切削水で切削した後の地盤中の円柱状の径であって,「切削径φc」自体の文言の記載は明確である。それに対し,さらに請求人は,「切削径φc」が,切削水で切削した後の地盤中の円柱状の径であったとしても,いつの時点でどの位置でどのように測定した径であるのかは,本件特許明細書に記載がなく,その意味する内容が曖昧である,と主張する。しかしながら,「切削径φc」は,いつの時点でどの位置でどのように測定した径であるのかは必要ではなく,本件特許明細書における施工仕様の一つとして設定される径であれば足りるものである。また,切削径φcは深さ方向で一定ではなく,ばらつく場合も想定されるが,その場合であっても,本件特許明細書における「切削径φc」の構成に影響しない。
また,請求人の「切削径φc」と「改良体径φ」の二つの概念が存在しており両者が同じものであるとは思われないとの主張は認められる。そして,硬化材噴射圧が高くてさらに地盤が掘削されれば径が拡がることもあろうし,また硬化材噴射圧が低い場合にはさらに地盤が掘削されることなく,切削径が拡がることはないことも想定されるが,それによって,「切削径φc」と「改良体径φ」自体の構成が不明瞭になるものではない。したがって,本件特許発明1?3に記載の「切削径φc」及び「改良体径φ」は明確でないとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり,請求人の主張する理由及び証拠方法によっては,本件特許発明1ないし3に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-11 
結審通知日 2013-04-15 
審決日 2013-05-01 
出願番号 特願2005-159318(P2005-159318)
審決分類 P 1 113・ 536- Y (E02D)
P 1 113・ 537- Y (E02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 深田 高義  
特許庁審判長 高橋 三成
特許庁審判官 筑波 茂樹
中川 真一
登録日 2005-12-16 
登録番号 特許第3750066号(P3750066)
発明の名称 地盤改良工法  
代理人 寺本 光生  
代理人 川渕 健一  
代理人 寺本 光生  
代理人 川渕 健一  
代理人 金川 良樹  
代理人 金川 良樹  
代理人 川渕 健一  
代理人 金川 良樹  
代理人 寺本 光生  

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