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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61M 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M |
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管理番号 | 1275567 |
審判番号 | 不服2011-26298 |
総通号数 | 164 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-08-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-12-05 |
確定日 | 2013-06-14 |
事件の表示 | 特願2008- 71173号「給湿装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 8月14日出願公開、特開2008-183413号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成13年3月21日(パリ条約による優先権主張 2000年3月21日、ニュージーランド)に出願された特願2001-80949号の一部を平成17年3月15日に新たな特許出願とした特願2005-73347号の一部をさらに平成20年3月19日に新たな特許出願としたものであって、平成22年9月21日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、平成23年3月31日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成23年7月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年12月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同時に特許請求の範囲についての手続補正がなされたものである。 第2 平成23年12月5日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成23年12月5日の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 補正後の本願発明 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された。 「気体が必要な患者またはその他の人に供給する気体を給湿する給湿装置であって、 給湿チャンバ手段であって、該給湿チャンバ手段を通って気体が流れるように入口と出口とを有する給湿チャンバ手段と、 前記給湿チャンバ手段に隣接して設けられたチャンバ加熱手段であって、前記給湿チャンバ手段を通過する気体に水蒸気を供給するために該給湿チャンバ手段内の液体水を蒸発させるように構成されたチャンバ加熱手段と、 気体が必要な患者にまたはその他の人に気体流を送るために前記給湿チャンバ手段の出口に連結される気体搬送通路手段と、 予め定められた温度特性とほぼ一致するように前記気体搬送通路手段に沿った気体流の温度特性および/または該気体搬送通路手段の温度特性を調整するように構成された調整式導管加熱手段と、を備えており、 前記調整式導管加熱手段は正温度係数材料でできた少なくとも一つの部分を備え、この少なくとも一つの部分は、内部空間を有するチューブとして形成されており、前記気体搬送通路手段に沿って流れる気体流が、前記気体搬送通路手段に沿う正温度係数材料の前記各部の内部空間を通過し、この各部分の局所的な電気抵抗は、局所的な温度と前記気体搬送通路手段に沿って延びる少なくとも二つの電気伝導体とに正方向に関係し、各電気伝導体は電気的に前記各部分の別個の部分に接続されていることを特徴とする、給湿装置。」(なお、下線は補正箇所を示すものである。) 2 補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無 本件補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「正温度係数材料でできた少なくとも一つの部分」について、「この少なくとも一つの部分は、内部空間を有するチューブとして形成されており、前記気体搬送通路手段に沿って流れる気体流が、前記気体搬送通路手段に沿う正温度係数材料の前記各部の内部空間を通過し」との限定事項を付加するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。 3 独立特許要件 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (1)引用刊行物の記載事項 (刊行物1) 原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平8-109984号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。 ア 「【産業上の利用分野】本発明は、呼吸用の加湿器に関し、特に、排他的ではないが、加湿器の呼吸回路で使用し、加湿ガスを必要とする患者などへ加湿ガスを提供するための呼吸用の加湿器の導管に関する。」(段落【0001】) イ 「【従来の技術】呼吸用の呼吸回路内で生じる『雨降り(rain out)』又は液化を最小に抑え、又はなくすために、加熱要素を使用して、ガスと導管の内壁にとって望ましい温度を維持しようと試みられてきた。患者に送られるときの加湿器内のガスの温度は、典型的に37°Cであり、このときの室温は典型的に22°Cあたりである。加熱要素を導管の外面の周りに設け、導管壁を通して加熱要素からの放出熱を伝達して、導管内を流れるガスの温度をさらに高め、又は維持する。加熱要素を有する吸気用の加湿器の導管は、導管によって送られるガスを液体ではない、比較的高湿度にしておくことができる。」(段落【0002】) ウ 「図1には、呼吸用の加湿システムが示されており、ここでは加湿ガスを加湿器1から加湿ガスを必要とする患者などへ提供するために、呼吸用の加湿器の導管11(吸気ライン)及び13(呼気ライン)を用いる。加湿器1は加熱プレート4を備えており、加熱プレート4は加湿器1によって制御され、加熱伝導基部3を有する加湿室2内で水を加熱し、加熱伝導基部3は、使用の際、加熱プレート4に搭載されている。加湿室2は入口5を有し、この入口5は、送風器7から送風器7の出口8を通り、接続導管10を介して供給されたガス(例えば空気、酸素又は麻酔ガス)を受ける。 加湿室2は出口6を有しており、出口6を通って送風器7によって供給された(加湿)ガスが、接続部品34を介して吸気用の導管11へ通る。吸気用の導管11の端部は、カフス21及び22として終端する。カフス22は加熱ワイヤ用のプラグ18へ接続するために成形された電気接続ピンを有し、このプラグ18は加熱ワイヤ用の電気ワイヤ17を通して加湿器1内で制御されたエネルギ供給源からエネルギを供給する。抵抗のある加熱要素が、以下で説明するように導管11に設けられており、この加熱要素はカフス22内の上述の電気接続ピンへ接続されている。導管11のカフス21は、Y字形状のアダプタ12に接続されており、このアダプタ12は、加湿ガスを必要としている患者などへ矢印27の方向へ加湿ガスを流すための出口を有する。」(段落【0013】?【0014】) エ 「加湿システムは、システム内のガスの通り道に沿った種々の位置における温度を検知できることが好ましい。第1温度プローブ14が、吸気ガスの通り道のY字形状のアダプタ12にあるオリフィス内に挿入され、ガスが患者に供給される地点におけるガスの温度を決定し、加湿器1へフィードバックする。加湿器1は制御手段38を有し、この制御手段38は、加熱プレート4の温度及び/又はオン/オフ状態(又はデューティサイクル)を制御する。例えばコントローラー、すなわち制御手段38は、ここで説明したような加湿器1の作動を得るようプログラムされたマイクロプロセッサーを具備してもよい。 もう1つの温度プローブ15は、接続部品34内に挿入することによって加湿室2の出口6に直接設けられ、加湿室2を出たガスの温度を加湿器1内の制御電気回路構成部分へフィードバックしてもよい。また制御手段38は、加湿室2内での水の加熱を制御するとともに、導管11及び13内の加熱ワイヤへのエネルギ供給をも制御する。矢印24、25及び26は、送風器7からのガスの流れ、加湿室2を通って矢印27の方向の患者へのガスの流れ、及び呼気用の導管13に沿って送風器7へ戻るガスの流れの方向を示している。」(段落【0016】?【0017】) オ 「図1から図9を参照すると、加熱ワイヤ31及び32は、(加湿器1内の制御手段38によって決定された)場合には、抵抗を有する加熱ワイヤ31及び32に電流を流し、エネルギを与え、熱を発生する。この熱は加湿器の導管の内壁を通して伝達される。導管内を流れるガスが導管の内壁の内面に接触すると、熱はガス流に伝達され、内壁の内面の温度が、加湿ガス流の温度と同じぐらいになり、液化がほとんど又は全くない。」(段落【0035】) カ 「本発明は、広範囲の周囲温度及び乾燥状態において使用するのに適した導管であって、かなりの可撓性を有するが耐久力もある導管を提供する。導管は、二重の螺旋状の構造であるので、導管内のガスの流れを妨げるようなねじれを生じることなく、曲げることができる。主な利点は、本発明が、内部導管35の内面を通してかつ内面に沿っての両方における温度勾配を最小限に抑え又は少なくし、液化を最小限にし又は液化しないようにすることができるということである。」(段落【0040】) キ 上記記載事項ウの「加湿器1は加熱プレート4を備えており、加熱プレート4は加湿器1によって制御され、加熱伝導基部3を有する加湿室2内で水を加熱し、加熱伝導基部3は、使用の際、加熱プレート4に搭載されている。」、「加湿室2は入口5を有し、この入口5は、送風器7から送風器7の出口8を通り、接続導管10を介して供給されたガス(例えば空気、酸素又は麻酔ガス)を受ける。」、及び「加湿室2は出口6を有しており、出口6を通って送風器7によって供給された(加湿)ガスが、接続部品34を介して吸気用の導管11へ通る。」の記載、並びに図1の記載からみて、「加湿室2が、該加湿室2を通ってガスが流れるように入口5と出口6とを有する」点、「加熱プレート4が加湿室2に隣接して設けられる」点、「加熱プレート4は、加湿室2を通るガスを加湿するために、加湿室2内の水を加熱し蒸発させる」点、及び「吸気用の導管11が、加湿室2の出口6に接続部品34を介して連結される」点は、いずれも刊行物1に記載されているに等しい事項といえる。 以上の記載事項から、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「加湿器の呼吸回路で使用し、加湿ガスを必要とする患者などへ加湿ガスを提供するための呼吸用の加湿器であって、 加湿室2であって、該加湿室2を通ってガスが流れるように入口5と出口6とを有する加湿室2と、 前記加湿室2に隣接して設けられた加熱プレート4であって、前記加湿室2を通るガスを加湿するために該加湿室2内の水を加熱し蒸発させるように構成された加熱プレート4と、 加湿ガスを必要とする患者などへ加湿ガスを提供するために前記加湿室2の出口6に接続部品34を介して連結される吸気用の導管11と、を備えており、 吸気ガスの通り道のY字形状のアダプタ12にあるオリフィス内に挿入される第1温度プローブ14が、ガスが患者に供給される地点におけるガスの温度を検知して加湿器1へフィードバックするとともに、接続部品34内に挿入することによって加湿室2の出口6に直接設けられるもう1つの温度プローブ15が、加湿室2を出たガスの温度を検知して加湿器1へフィードバックし、加湿器1の制御手段38が加熱プレート4の温度及び導管11内の加熱ワイヤへのエネルギ供給を制御する、呼吸用の加湿器。」 (刊行物2) 原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平11-282548号公報号(以下、「刊行物2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。 ク 「【請求項1】温度が上昇するに連れて電気抵抗が増大するPTC特性と温度が上昇するに連れて電気抵抗が減少するNTC特性とを有するサーミスタから成る発熱体1を備え、さらに、一対の電極導体3,3を、上記発熱体1に一体状に設けたことを特徴とする温度自己制御機能ヒータ。 【請求項2】プラスチック等の高分子化合物から成る基材にPキャリヤとNキャリヤが添加されると共に温度が上昇するに連れて電気抵抗が増大するPTC特性と温度が上昇するに連れて電気抵抗が減少するNTC特性とを有しかつ所定温度tにてPTC特性とNTC特性の勢力が同等となるサーミスタから成る発熱体1を備え、さらに、一対の電極導体3,3を、上記発熱体1に一体状に設けたことを特徴とする温度自己制御機能ヒータ。・・・」(【特許請求の範囲】) ケ 「図1は本発明に係る温度自己制御機能ヒータの実施の一形態に於ける断面図を示し、この温度自己制御機能ヒータは、全体が線条状に形成され、最内層を成す耐熱繊維2と、その耐熱繊維2に螺旋状に巻設される第1電極線3aと、耐熱繊維2及び第1電極線3aを包囲するように形成される発熱体1と、発熱体1の外周面に螺旋状に巻設される第2電極線3bと、発熱体1及び第2電極線3bを包囲するように設けられるセパレータ4と、そのセパレータ4を被覆して最外層を成す外装絶縁体5と、を備えている。つまり、第1電極線3aと第2電極線3bにて、発熱体1に電力を供給するための一対の電極導体3,3が構成され、その電極導体3,3が、発熱体1に一体状に設けられている。 しかして、発熱体1は、プラスチック等の高分子化合物から成る基材に熱に敏感な速効性のPキャリヤと熱に鈍感な遅効性のNキャリヤが添加されると共に温度が上昇するに連れて電気抵抗が増大するPTC特性と温度が上昇するに連れて電気抵抗が減少するNTC特性とを有し、かつ、所定温度tにてPTC特性とNTC特性の勢力が同等となるサーミスタから成る。 ここで、PTC特性とは、正特性温度係数(ポジティブサーミスタ)のことであり、図7に示すように、温度上昇に伴って電気抵抗が増大する特性のことを言う。また、NTC特性とは、負特性温度係数(ネガティブサーミスタ)のことであり、図8に示すように、温度上昇に伴って電気抵抗が減少する特性のことを言う。」(段落【0012】?【0013】) コ 「しかして、基材とPキャリヤとNキャリヤの成分及び構成比率は、基材の種類と、PNの強弱調節等によって種々変化する。言い換えると、基材とPキャリヤとNキャリヤの成分及び構成比率を変化させることにより、所定温度tを調整できる。つまり、発熱体1は、後述するように、温度自己制御機能により所定温度t(設定温度)に一定に保持されつつ発熱する。なお、所定温度tは、例えば、60℃?90℃程度に設定する。用途によっては、その範囲外に設定する場合もある。なお、Pキャリヤの主成分としては、TCNQ塩以外にも、基材の性質により、POCL、PPRL、BORON等を使用する場合がある。 次に、図3は、この温度自己制御機能ヒータに通電した場合の発熱体1の電気抵抗及び温度と経過時間との関係を示し、通電初期においては、発熱体1は、常温又は常温に近い温度であり、このとき最も発熱し易い弱抵抗体となっており、かつ、NTC特性の勢力よりもPTC特性の勢力が強いため、時間経過に略比例して抵抗及び温度が上昇する。そして、時間sにて所定温度tに達し、PTCとNTCの勢力が同等となって抵抗が一定となる。その後は、抵抗及び温度が一定に保持される。つまり、所定温度tに達した後は水平な抵抗(温度)均衡線となり、発熱体1が所定温度tに維持される。」(段落【0018】?【0019】) サ 「また、本発明に係る温度自己制御機能ヒータの用途としては、家庭用として、電気カーペット、電気毛布、電気布団、電気座布団、床暖房、足温器、便器、アンカ、ペットの保温器等が挙げられ、工業用として、製造機械・容器の加熱、材料の加熱又は保温、パイプ・タンクの保温又は凍結防止等が挙げられる。また、農業用として、育苗温床、温室栽培、発酵及び醸造、家畜の保温が挙げられ、防災用として、屋根の融雪・路面の融雪及び凍結防止・水道管及び排水管の凍結防止等が挙げられる。」(段落【0022】) シ 「次に、図5の(a)(b)(c)は、他の実施の形態を示し、(a)は、中心の第1電極線3a(電極導体3)と、その第1電極線3aを被覆する発熱体1と、発熱体1を被覆する第2電極線3b(電極導体3)と、第2電極線3bを被覆する外装絶縁体と、から成る。また、(b)は、発熱体1を、横断面長円状に形成し、一対の断面円形の電極導体3,3を発熱体1の両側縁部に相互に離間して設け、さらに、発熱体1に外装絶縁体5を横断面円形となるように被覆したものである。なお、発熱体1を横断面矩形状としてもよい。(c)は、外装絶縁体5を横断面長円状となるように形成したものであり、他は(b)と同様である。 また、図6は、別の実施の形態を示し、発熱体1が、平板状に形成され、かつ、一対の電極導体3,3が、発熱体1に、相互に離間して設けられている。即ち、発熱体1の両側縁部に、線条状の電極導体3,3を埋設する。このようにすれば、発熱体1の断線はほとんどあり得ない。」(段落【0023】?【0024】) ス 「請求項1記載の温度自己制御機能ヒータによれば、温度制御器が不要となる。また、故障がほとんど発生せず、耐久性も優れる。しかも、消費電力が少なくなるので節電効果がある。さらに、長さの長短に関係なく設定温度における電気抵抗が一定となるので、種々の用途に於て設計の自由度が高い。また、全体を軽量とすることができる。しかも、温度が過度に上昇することを確実に防止でき、安全性が高い。」(段落【0026】) セ 上記記載事項ク、ケ及びシに関連して、図1、2、5、6には、「一対の電極導体3、3が電気的に発熱体1の別個の部分に接続されている」点が示されている。 ソ 上記記載事項サの記載からみて、刊行物2に記載の「温度自己制御機能ヒータ」は、家庭用、工業用等の幅広い分野における管路の加熱に用いることができるものであるといえる。 以上の記載事項及び図示内容から、刊行物2には、次の技術事項が記載されている。 「家庭用、工業用等の幅広い分野における管路の加熱に用いることができる温度自己制御機能ヒータであって、プラスチック等の高分子化合物から成る基材にPキャリヤとNキャリヤが添加され、温度が上昇するに連れて電気抵抗が増大するPTC特性と温度が上昇するに連れて電気抵抗が減少するNTC特性を有する発熱体1を備え、一対の電極導体3、3が電気的に発熱体1の別個の部分に接続されており、通電初期においては、発熱体1は、NTC特性の勢力よりもPTC特性の勢力が強いため、時間経過に略比例して抵抗及び温度が上昇し、所定温度tに達して、PTCとNTCの勢力が同等となって抵抗が一定となった後は、抵抗及び温度が一定に保持され、発熱体1が当該所定温度tに維持される温度自己制御機能ヒータ。」 (2)対比 ア 本願補正発明と引用発明を対比すると、その意味、構造又は機能からみて、引用発明の「加湿器の呼吸回路で使用し、加湿ガスを必要とする患者などへ加湿ガスを提供するための呼吸用の加湿器」は、本願補正発明の「気体が必要な患者またはその他の人に供給する気体を給湿する給湿装置」に相当し、以下同様に、「加湿室2」は「給湿チャンバ手段」に、「ガス」は「気体」に、「入口5」は「入口」に、「出口6」は「出口」に、「加熱プレート4」は「チャンバ加熱手段」に、「通る」は「通過する」に、「ガスを加湿するために」は「気体に水蒸気を供給するために」に、「加湿室2内の水を加熱し蒸発させる」は「給湿チャンバ手段内の液体水を蒸発させる」に、「加湿ガスを必要とする患者などへ加湿ガスを提供するために」は「気体が必要な患者にまたはその他の人に気体流を送るために」に、「加湿室2の出口6に接続部品34を介して連結される」は「給湿チャンバ手段の出口に連結される」に、「吸気用の導管11」は「気体搬送通路手段」に、それぞれ相当する。 イ 引用発明は「吸気ガスの通り道のY字形状のアダプタ12にあるオリフィス内に挿入される第1温度プローブ14が、ガスが患者に供給される地点におけるガスの温度を検知して加湿器1へフィードバックするとともに、接続部品34内に挿入することによって加湿室2の出口6に直接設けられるもう1つの温度プローブ15が、加湿室2を出たガスの温度を検知して加湿器1へフィードバックし、加湿器1の制御手段38が加熱プレート4の温度及び導管11内の加熱ワイヤへのエネルギ供給を制御する」ものであって、第1温度プローブ14やもう1つの温度プローブ15により検知されて加湿器1へフィードバックされるガスの温度に基づき、制御手段38が導管11内の加熱ワイヤへのエネルギ供給を制御するものである。 ここで、制御手段38により当該エネルギ供給が具体的にどのように制御されるのかは、刊行物1の記載からは必ずしも明らかでないが、フィードバック制御とは、一般的に「フィードバックによって制御量の値を目標値と比較し,それらを一致させるように訂正動作を行う制御」(世界大百科事典 平凡社)であり(必要であれば、特開平5-317428号公報の段落【0012】、【0021】等も参照)、当該目標値は予め定められるものであって、また刊行物1では「呼吸用の呼吸回路内で生じる『雨降り(rain out)』又は液化を最小に抑え、又はなくすために、加熱要素を使用して、ガスと導管の内壁にとって望ましい温度を維持」することを従来からの課題としていることを踏まえれば(上記(1)の記載事項イを参照)、引用発明における導管11内の加熱ワイヤが、該導管11を通るガスの温度すなわち温度特性を、予め定められた望ましい温度特性に一致するように調整するよう制御手段38により制御されるものであることは、当業者にとって自明といえるから、本願補正発明の「調整式導管加熱手段」と引用発明の「導管11内の加熱ワイヤ」とは、「予め定められた温度特性とほぼ一致するように気体搬送通路手段に沿った気体流の温度特性および/または該気体搬送通路手段の温度特性を調整するように構成された調整式導管加熱手段」である限りにおいて共通する。 そこで、本願補正発明の用語を用いて表現すると、両者は次の点で一致する。 (一致点) 「気体が必要な患者またはその他の人に供給する気体を給湿する給湿装置であって、 給湿チャンバ手段であって、該給湿チャンバ手段を通って気体が流れるように入口と出口とを有する給湿チャンバ手段と、 前記給湿チャンバ手段に隣接して設けられたチャンバ加熱手段であって、前記給湿チャンバ手段を通過する気体に水蒸気を供給するために該給湿チャンバ手段内の液体水を蒸発させるように構成されたチャンバ加熱手段と、 気体が必要な患者にまたはその他の人に気体流を送るために前記給湿チャンバ手段の出口に連結される気体搬送通路手段と、 予め定められた温度特性とほぼ一致するように前記気体搬送通路手段に沿った気体流の温度特性および/または該気体搬送通路手段の温度特性を調整するように構成された調整式導管加熱手段と、を備えている、給湿装置。」 そして、両者は次の点で相違する。 (相違点) 「調整式導管加熱手段」について、本願補正発明では、「前記調整式導管加熱手段は正温度係数材料でできた少なくとも一つの部分を備え、この少なくとも一つの部分は、内部空間を有するチューブとして形成されており、前記気体搬送通路手段に沿って流れる気体流が、前記気体搬送通路手段に沿う正温度係数材料の前記各部の内部空間を通過し、この各部分の局所的な電気抵抗は、局所的な温度と前記気体搬送通路手段に沿って延びる少なくとも二つの電気伝導体とに正方向に関係し、各電気伝導体は電気的に前記各部分の別個の部分に接続されている」のに対し、引用発明ではそのような構成を有していない点。 (3)相違点の判断 上記相違点について検討する。 刊行物2には、家庭用、工業用等の幅広い分野における管路の加熱に用いることができる温度自己制御機能ヒータ(「調整式導管加熱手段」に相当)であって、プラスチック等の高分子化合物から成る基材にPキャリヤとNキャリヤが添加され、温度が上昇するに連れて電気抵抗が増大するPTC特性と温度が上昇するに連れて電気抵抗が減少するNTC特性を有する発熱体1(通電初期においては、NTC特性の勢力よりもPTC特性の勢力が強いため、時間経過に略比例して抵抗及び温度が上昇する、すなわち正特性温度係数(上記(1)の記載事項ケを参照)を有するものであることから「正温度係数材料でできた少なくとも一つの部分」に相当)を備え、一対の電極導体3、3(「少なくとも二つの電気伝導体」に相当)が電気的に発熱体1の別個の部分に接続されており、通電初期においては、発熱体1は、NTC特性の勢力よりもPTC特性の勢力が強いため、時間経過に略比例して抵抗及び温度が上昇し、所定温度tに達して、PTCとNTCの勢力が同等となって抵抗が一定となった後は、抵抗及び温度が一定に保持され、発熱体1が当該所定温度tに維持される(すなわち「予め定められた温度特性とほぼ一致するように加熱すべき対象の温度特性を調整する」)温度自己制御機能ヒータが記載されているところ、当該発熱体1の局所的な電気抵抗は、局所的な温度と一対の電極導体3、3とに正方向に関係するものであるといえる。 また、上記(1)の記載事項ケ及びシから示唆されるとおり、温度自己制御機能を有するヒーターにおいて、正温度係数材料でできた部分の形状及び少なくとも二つの電気伝導体の配置は、加熱すべき対象に応じて当業者が適宜設計し得る事項であって、また正温度係数材料でできた部分を、内部空間を有するチューブとして形成し、当該内部空間を加熱すべき流体が通過するよう構成することは、本願優先権主張日前に広く知られた事項である(例えば、特表平6-510685号公報の第10頁左上欄第15行?左下欄第10行、図10等を参照)。 したがって、引用発明において、調整式導管加熱手段として、「予め定められた温度特性とほぼ一致するように加熱すべき対象の温度特性を調整する」点で共通の機能を有し、家庭用、工業用等の幅広い分野における管路の加熱に用いることができる温度自己制御機能ヒータに係る刊行物2に記載された上記技術事項を採用し、正温度係数材料でできた少なくとも一つの部分を備え、この各部分の局所的な電気抵抗は、局所的な温度と気体搬送通路手段に沿って延びる少なくとも二つの電気伝導体とに正方向に関係し、各電気伝導体は電気的に前記各部分の別個の部分に接続されるよう構成することは、当業者が容易に想到し得たことであり、その際、正温度係数材料でできた少なくとも一つの部分の形状を、内部空間を有するチューブとし、当該内部空間を加熱すべき気体流が通過するよう構成することに格別な困難性は認められない。 また、本願補正発明による効果も、引用発明、刊行物2に記載された技術事項及び周知の技術事項から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。 したがって、本願補正発明は、引用発明、刊行物2に記載された技術事項及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 (4)むすび したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を、「本願発明」という。)は、平成23年3月31日付けの手続補正書により補正された、拒絶査定時の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 気体が必要な患者またはその他の人に供給する気体を給湿する給湿装置であって、 給湿チャンバ手段であって、該給湿チャンバ手段を通って気体が流れるように入口と出口とを有する給湿チャンバ手段と、 前記給湿チャンバ手段に隣接して設けられたチャンバ加熱手段であって、前記給湿チャンバ手段を通過する気体に水蒸気を供給するために該給湿チャンバ手段内の液体水を蒸発させるように構成されたチャンバ加熱手段と、 気体が必要な患者にまたはその他の人に気体流を送るために前記給湿チャンバ手段の出口に連結される気体搬送通路手段と、 予め定められた温度特性とほぼ一致するように前記気体搬送通路手段に沿った気体流の温度特性および/または該気体搬送通路手段の温度特性を調整するように構成された調整式導管加熱手段と、を備えており、 前記調整式導管加熱手段は正温度係数材料でできた少なくとも一つの部分を備え、この各部分の局所的な電気抵抗は、局所的な温度部分と前記気体搬送通路手段に沿って延びる少なくとも二つの電気伝導体とに正方向に関係し、各電気伝導体は電気的に前記各部分の別個の部分に接続されていることを特徴とする、給湿装置。」 第4 引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1及び刊行物2の記載事項は、前記「第2 [理由]3(1)」に記載したとおりである。 第5 対比・判断 本願発明は、前記「第2 [理由]1」の本願補正発明のうち、「正温度係数材料でできた少なくとも一つの部分」の限定事項である「この少なくとも一つの部分は、内部空間を有するチューブとして形成されており、前記気体搬送通路手段に沿って流れる気体流が、前記気体搬送通路手段に沿う正温度係数材料の前記各部の内部空間を通過し」との構成を省いたものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、他の発明特定事項である上記構成を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 [理由]3(3)」に記載したとおり、引用発明、刊行物2に記載された技術事項及び周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記構成を省いた本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-01-11 |
結審通知日 | 2013-01-17 |
審決日 | 2013-01-29 |
出願番号 | 特願2008-71173(P2008-71173) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(A61M)
P 1 8・ 121- Z (A61M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 智弥 |
特許庁審判長 |
高木 彰 |
特許庁審判官 |
高田 元樹 松下 聡 |
発明の名称 | 給湿装置 |
代理人 | 大塚 文昭 |
代理人 | 倉澤 伊知郎 |
代理人 | 箱田 篤 |
代理人 | 中村 稔 |
代理人 | 西島 孝喜 |
代理人 | 熊倉 禎男 |
代理人 | 吉野 亮平 |