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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1275580 |
審判番号 | 不服2012-797 |
総通号数 | 164 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-08-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-01-16 |
確定日 | 2013-06-10 |
事件の表示 | 特願2007-539558「半導体装置及びその使用乃至製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年5月11日国際公開、WO2006/048354、平成20年6月5日国内公表、特表2008-519447〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、2005年9月13日(パリ条約に基づく優先権主張 外国庁受理2004年11月8日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする特許出願であって、平成22年3月23日付けの拒絶理由通知に対して同年10月1日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成23年9月14日付けで拒絶査定がなされた。 それに対して、平成24年1月16日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、その後、平成24年5月30日付けで審尋がなされ、同年12月6日に回答書が提出された。 第2.補正の適否について 平成24年1月16日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)の適否について検討する。 本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1における「該半導体装置(20,30)は、遮断作動中、400A/cm^(2)?約600A/cm^(2)のオーダの高電流密度で作動可能である」を、「該半導体装置(20,30)は、遮断作動中、400A/cm^(2)?600A/cm^(2)の高電流密度で作動可能である」と補正するものであり(下線は当合議体にて付加。以下同じ。)、補正前の請求項1に含まれていた明瞭でない記載を明瞭にするものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第4項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第4号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たす。 また、本件補正が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすことは明らかである。 よって、本件補正は適法になされたものである。 第3.本願発明 上記第2.において検討したとおり、本件補正は適法になされたものであるから、本願の請求項1?23に係る発明は、本件補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?23に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、請求項1に記載されている事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 半導体装置(20,30)において、 該半導体装置(20,30)は、ショットキーダイオード、MOS構造及びPNダイオードの組合せから成る、PNダイオードが集積化されたトレンチMOSバリアショットキーダイオードを有しており、 前記PNダイオードは、前記PNダイオードの降伏電圧(BV_pn)を前記MOS構造及び前記ショットキーダイオードの降伏電圧(BV_mos,BV_schottky)よりも低くしておくために、クリッパとして使用され、 該半導体装置(20,30)は、遮断作動中、400A/cm^(2)?600A/cm^(2)の高電流密度で作動可能であることを特徴とする半導体装置(20,30)。」 第4.引用刊行物に記載された発明 1.引用例1:米国特許第4982260号明細書 (1)本願の優先権主張の日前に外国において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である米国特許第4982260号明細書(以下「引用例1」という。)には、図14A及び14Bとともに次の記載がある。 a.「この発明は、概略的には整流器に関するものであり、特に、高電圧又は低電圧で利用できる2端子半導体整流器の構造に関するものであって、整流器の必要とされる順方向電圧を低減し、スイッチング速度を改善するための構成を含むものである。 発明の背景 整流器は、整流、すなわち交流を直流に変換することに特に適合された電気デバイスである。より具体的には、整流器は、順方向にバイアスされた(すなわち、アノードがカソードよりも正にバイアスされた)ときに、電流に対して非常に低い抵抗を示し、逆方向にバイアスされた(すなわち、アノードがカソードよりも負にバイアスされた)ときに、電流に対して非常に高い抵抗を示す。」(明細書1欄4行?19行の訳文) b.「 発明の目的 したがって、本発明の目的は、既知の整流器の前述の短所や欠点を克服し、新しく改良されたパワー整流器を提供することである。 本発明の別の目的は、整流器が順方向にバイアスされたときに電流に対する抵抗が小さく、低い逆方向電圧で空乏層領域が結合するパワー整流器を提供することである。 本発明のさらに別の目的は、低い順方向電圧しきい値及び速いスイッチング速度を有する高速パワースイッチング整流器を提供することである。」(同2欄27行?41行の訳文) c.「図14A-Bは、それぞれ、本発明に従った他の整流器700A-Bを表すものである。整流器700A-Bは、第1半導体基板層702及びカソード704を含む。第2半導体層706が、基板層702を覆い、主表面708で終端している。トレンチ710A-Fが、主表面708に沿って相互に間隔を置いて配置され、メサ領域712A-Eを定義する。整流器700Aにおいては、各メサ領域は、一般にN型に高濃度にドープされている半導体基板の第3層714A-Eを含む。第3層714は、主表面708から延びており、金属製のアノード716とオーミック接触している。整流器700Bにおいては、ショットキバリア領域718A-Eが主表面の各メサに形成され、アノードとドリフト領域との間でショットキ接触が形成されている。P^(+)層720A-Fが、各トレンチの底面のドリフト領域706内に配置されている。アノード716が、各トレンチ及びメサ構造を覆い、各トレンチ及びメサ構造に適合している。例えば二酸化シリコンである酸化物層722A-Jが、アノードと各トレンチの側壁との間に配置されている。しかしながら、これらの酸化物層は、必須のものではなく、除外されてもよい。」(同8欄34行?55行の訳文) d.「高電圧領域では、整流器700A及び700Bはバイポーラデバイスとして動作する。具体的には、P^(+)領域がドリフト領域に少数キャリアを注入する。低電圧領域では、整流器はユニポーラデバイスとして動作する。具体的には、整流器700Aにおいては、低電圧領域では、アノードと第3層との間に形成されるオーミック接触を通じて順方向電流が生じる。整流器700Bにおいては、低電圧領域では、ショットキバリア接触領域を通じて順方向電流が生じる。整流器の順方向しきい値電圧が、P-N接合の必要とされる順方向電圧よりも低いので、P^(+)領域は、低電圧流域においては小数キャリアを注入しない。 整流器700A及び700Bが逆方向にバイアスされたときには、酸化物層及びP^(+)層により作られた空乏層領域が結合し、逆方向電流を妨げる。これらの整流器は、それゆえ、低電圧及び高電圧動作の両方における相対的に小さな逆方向リーク電流、並びに速いスイッチング速度を有する。」(同8欄56行?9欄6行の訳文) (2)ここにおいて、引用例1の図14Bに記載された整流器に注目すると、図14Bの記載から、当該整流器の「第1半導体基板層702」はN^(+)型であり、当該「第1半導体基板層702」を覆う「第2半導体層706」はN^(-)型であることが明らかである。 また、図14Bの記載から、「カソード704」が、「第1半導体基板層702」における「第2半導体層706」に覆われている面と反対の面に形成されていることが明らかである。 そして、引用例1には、図14Bにおいて「706」という符号が付されている層について、「第2半導体層」及び「ドリフト層」という2つの語が用いられていて紛らわしいので、「第2半導体層」に統一して記述することにすると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「2端子半導体整流器において、 N^(+)第1半導体基板層702と、 前記N^(+)第1半導体基板層702を覆い、主表面708で終端しているN^(-)第2半導体層706と、 前記主表面708に沿って相互に間隔を置いて配置され、メサ領域712A-Eを定義するトレンチ710A-Fと、 各前記トレンチ710A-Fの底面の前記N^(-)第2半導体層706内に配置されているP^(+)層720A-Fと、 各前記トレンチ710A-F及び前記メサ領域712A-Eを覆う金属製のアノード716と、 前記金属製のアノード716と各前記トレンチ710A-Fの側壁との間に配置された酸化物層722A-Jと、 前記N^(+)第1半導体基板層702における前記N^(-)第2半導体層706に覆われている面と反対の面に形成されたカソード704と、 を備えた2端子半導体整流器。」 2.引用例2:特開昭61-166164号公報 (1)本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である特開昭61-166164号公報(以下「引用例2」という。)には、第1図及び第2図とともに次の記載がある。 a.「(イ)産業上の利用分野 本発明はショットキバリア半導体装置、特に保護用のツェナーダイオードを内蔵したショットキバリア半導体装置に関する。 (ロ)従来の技術 ショットキバリア半導体装置は順方向電圧が低く、順方向の電力損失が小さいという特徴を有し、スイッチング電源回路の出力整流ダイオード等への応用がなされている。斯るスイッチング電源回路の出力整流ダイオードに適用するには、逆方向降伏電圧が高いこと及び破壊耐量(サージ耐圧)が大きいことが要求される。」(1ページ左下欄14行?右下欄5行) b.「(ハ)発明が解決しようとする問題点 しかしながら斯るショットキバリア半導体装置ではガードリングにより逆方向リーク電流を低減することはできるが、逆方向降伏電圧を高くすることはできない。そのためにショットキバリア半導体装置に外部でツェナーダイオードを接続してサージ電圧をかせぎ、逆方向降伏電圧以上の逆方向電圧の印加を防止しなくてはならず、保護用のツェナーダイオードを回路上は必要としていた。」(1ページ右下欄17行?2ページ左上欄5行) c.「(ニ)問題点を解決するための手段 本発明は斯点に鑑みてなされ、イオン注入領域(8)とガード領域(7)間で逆方向降伏電圧より低いツェナー電圧を有するツェナーダイオード(10)を形成し、ツェナーダイオードをショットキバリア半導体装置を一体化して従来の欠点を除去している。」(2ページ左上欄6行?11行) (2)したがって、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。 ここにおいて、上記摘記事項a.の「ショットキバリア半導体装置は順方向電圧が低く、順方向の電力損失が小さいという特徴を有し、スイッチング電源回路の出力整流ダイオード等への応用がなされている。」という記載等から、引用例2において、保護用のツェナーダイオードにより保護しようとしている「ショットキバリア半導体装置」とは、ショットキバリアダイオードであることが明らかであることに留意すると、引用例2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。 「ショットキバリアダイオード(ショットキーダイオード)への逆方向降伏電圧以上の逆方向電圧の印加を防止するために、前記ショットキバリアダイオードに、前記ショットキバリアダイオードの逆方向降伏電圧より低いツェナー電圧、すなわち逆方向降伏電圧を有する保護用のツェナーダイオード、すなわちPN接合ダイオードを内蔵させた半導体装置。」 第5.本願発明と引用発明1との対比 1.引用発明1の「2端子半導体整流器」は、本願発明の「半導体装置(20,30)」に相当する。 2.引用発明1において、「各前記トレンチ710A-F及び前記メサ領域712A-Eを覆う金属製のアノード716」と、「前記N^(+)第1半導体基板層702を覆い、主表面708で終端しているN^(-)第2半導体層706」の「メサ領域712A-E」の部分とがショットキーダイオードとして機能していることは明らかである。 また、引用発明1において、「各前記トレンチ710A-F及び前記メサ領域712A-Eを覆う金属製のアノード716」、「前記金属製のアノード716と各前記トレンチ710A-Fの側壁との間に配置された酸化物層722A-J」、及び「前記N^(+)第1半導体基板層702を覆い、主表面708で終端しているN^(-)第2半導体層706」の「各前記トレンチ710A-Fの側壁」の部分が、MOS構造を構成していることは明らかである。 さらに、引用例1における上記第4.1.(1)d.の「高電圧領域では、整流器700A及び700Bはバイポーラデバイスとして動作する。具体的には、P^(+)領域がドリフト領域に少数キャリアを注入する。」という記載等から、引用発明1において、「各前記トレンチ710A-Fの底面の前記N^(-)第2半導体層706内に配置されているP^(+)層720A-F」と、それに接する「前記N^(+)第1半導体基板層702を覆い、主表面708で終端しているN^(-)第2半導体層706」とが、PN接合ダイオードを構成していることも明らかである。 したがって、本願発明と引用発明1とは、「該半導体装置(20,30)は、ショットキーダイオード、MOS構造及びPNダイオードの組合せから成る、PNダイオードが集積化されたトレンチMOSバリアショットキーダイオードを有して」いる点で一致する。 3.以上を総合すると、本願発明と引用発明1とは、 「半導体装置(20,30)において、 該半導体装置(20,30)は、ショットキーダイオード、MOS構造及びPNダイオードの組合せから成る、PNダイオードが集積化されたトレンチMOSバリアショットキーダイオードを有していることを特徴とする半導体装置(20,30)。」 である点で一致し、次の点で相違する。 (相違点1) 本願発明は、「前記PNダイオードは、前記PNダイオードの降伏電圧(BV_pn)を前記MOS構造及び前記ショットキーダイオードの降伏電圧(BV_mos,BV_schottky)よりも低くしておくために、クリッパとして使用され」るものであるのに対して、引用発明1は、そのような特定がなされていない点。 (相違点2) 本願発明は、「該半導体装置(20,30)は、遮断作動中、400A/cm^(2)?600A/cm^(2)の高電流密度で作動可能である」のに対して、引用発明1は、そのような特定がなされていない点。 第6.相違点についての当審の判断 1.相違点1について (1)一般に、ショットキバリアダイオード(ショットキーダイオード)が、逆方向の電圧に対して弱く、容易に破壊されてしまうという欠点を有することは、例えば、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である上記引用例2における上記第4.2.(1)b.及び下記周知例1にも記載されているように、当業者における技術常識である。 a.周知例1:特開昭63-167679号公報 上記周知例1には、第1図とともに次の記載がある。 「しかるに、上記低損失ダイオードSBD2として、一般にショットキー・バリヤ・ダイオードが使用されるが、かかるショットキー・バリヤ・ダイオードは、逆耐電圧が数十V?100V程度であり、この種のインバータ回路の動作電圧を高くすることができず、前記回生電流IL1’によって破壊されてしまうという問題点があった。 この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたもので、直流電源電圧が高くてもMOS FETに直列に接続された低損失ダイオードの破壊を防止し得るインバータ回路を提供することを目的とする。」 上記記載から、上記周知例1には、ショットキー・バリヤ・ダイオード(ショットキーダイオード)が、逆方向の電圧に対して弱く、容易に破壊されることが記載されているものと認められる。 (2)したがって、引用発明1に接した当業者にとって、引用発明1の「各前記トレンチ710A-F及び前記メサ領域712A-Eを覆う金属製のアノード716」と、「前記N^(+)第1半導体基板層702を覆い、主表面708で終端しているN^(-)第2半導体層706」の「メサ領域712A-E」の部分により形成されるショットキーダイオードが、逆方向の電圧に対して弱く、容易に破壊されてしまうという欠点を有することは、直ちに察知し得たことである。 (3)一方、上記第4.2.(2)に記載したとおり、引用例2には、「ショットキバリアダイオード(ショットキーダイオード)への逆方向降伏電圧以上の逆方向電圧の印加を防止するために、前記ショットキバリアダイオードに、前記ショットキバリアダイオードの逆方向降伏電圧より低いツェナー電圧、すなわち逆方向降伏電圧を有する保護用のツェナーダイオード、すなわちPN接合ダイオードを内蔵させた半導体装置。」(引用発明2)が記載されているものと認められる。 したがって、引用発明1及び2に接した当業者であれば、引用発明1の「各前記トレンチ710A-F及び前記メサ領域712A-Eを覆う金属製のアノード716」と、「前記N^(+)第1半導体基板層702を覆い、主表面708で終端しているN^(-)第2半導体層706」の「メサ領域712A-E」の部分により形成されるショットキーダイオードが、逆方向の電圧に対して弱く、容易に破壊されてしまうという欠点を克服するために、引用発明2を適用し、ショットキーダイオードの逆方向降伏電圧より低い逆方向降伏電圧を有する保護用のPN接合ダイオードを内蔵させることは、容易に想到し得たことである。 また、その場合において、ショットキーダイオードの逆方向降伏電圧より低い逆方向降伏電圧を有する保護用のPN接合ダイオードが、ショットキーダイオードに印加される逆方向電圧をクリップするクリッパとして機能していることは当業者にとって自明である。 (4)そして、上記第5.2.において検討したとおり、引用発明1においては、元より、「各前記トレンチ710A-Fの底面の前記N^(-)第2半導体層706内に配置されているP^(+)層720A-F」と、それに接する「前記N^(+)第1半導体基板層702を覆い、主表面708で終端しているN^(-)第2半導体層706」とが、PN接合ダイオードを構成しているのであるから、引用発明1に対して引用発明2を適用し、ショットキーダイオードの逆方向降伏電圧より低い降伏電圧を有するPN接合ダイオードを内蔵させるに際して、わざわざ別のPN接合ダイオードを新たに設けることなく、「各前記トレンチ710A-Fの底面の前記N^(-)第2半導体層706内に配置されているP^(+)層720A-F」と、それに接する「前記N^(+)第1半導体基板層702を覆い、主表面708で終端しているN^(-)第2半導体層706」とにより構成されるPN接合ダイオードを利用すること、すなわち、本願発明のように、「前記PNダイオードは、前記PNダイオードの降伏電圧(BV_pn)を前記MOS構造及び前記ショットキーダイオードの降伏電圧(BV_mos,BV_schottky)よりも低くしておくために、クリッパとして使用され」る構成とすることは、製造工程の簡略化を勘案して、当業者が適宜なし得たことである。 したがって、相違点1は、当業者が容易に想到し得た範囲に含まれる程度のことである。 2.相違点2について (1)上記1.において検討したとおり、引用発明1に対して引用発明2を適用し、ショットキーダイオードの逆方向降伏電圧より低い降伏電圧を有するPN接合ダイオードを内蔵させるに際して、「各前記トレンチ710A-Fの底面の前記N^(-)第2半導体層706内に配置されているP^(+)層720A-F」と、それに接する「前記N^(+)第1半導体基板層702を覆い、主表面708で終端しているN^(-)第2半導体層706」とにより構成されるPN接合ダイオードを利用するようにすることは、当業者が容易になし得たことである。 そして、その場合において、「各前記トレンチ710A-Fの底面の前記N^(-)第2半導体層706内に配置されているP^(+)層720A-F」と、それに接する「前記N^(+)第1半導体基板層702を覆い、主表面708で終端しているN^(-)第2半導体層706」とにより構成されるPN接合ダイオードは、ショットキーダイオードの保護用、すなわち、ショットキーダイオードに過大な電圧がかからないように、電流をバイパスする手段として用いられるのであるから、ショットキーダイオードの遮断動作中にできるだけ多くの電流を流せるようにすることは、当業者であれば当然に配慮することである。 (2)一方、チップサイズをできるだけ小さくし、装置の小型化を図ることは、半導体装置の技術分野における不断の課題ともいえるものであるから、ショットキーダイオードの遮断動作中に、「各前記トレンチ710A-Fの底面の前記N^(-)第2半導体層706内に配置されているP^(+)層720A-F」と、それに接する「前記N^(+)第1半導体基板層702を覆い、主表面708で終端しているN^(-)第2半導体層706」とにより構成されるPN接合ダイオードの電流密度をできるだけ高くしようとすることもまた、当業者であれば当然に配慮することである。 したがって、当業者にとって、ショットキーダイオードの遮断動作中に、「各前記トレンチ710A-Fの底面の前記N^(-)第2半導体層706内に配置されているP^(+)層720A-F」と、それに接する「前記N^(+)第1半導体基板層702を覆い、主表面708で終端しているN^(-)第2半導体層706」とにより構成されるPN接合ダイオードの電流密度を、例えば、400A/cm^(2)を越える高い電流密度とすること自体に、格別の困難性がないことは明らかである。 (3)一方、本願の明細書及び図面全体を精査しても、本願発明において、「該半導体装置(20,30)」の「遮断作動中」の作動可能な電流密度の下限値及び上限値を、各々「400A/cm^(2)」及び「600A/cm^(2)」とすることによる臨界的意義は見いだせない。 なお、この点に関連して、審判請求人は、平成24年12月6日に提出された回答書において、「最後に『400?600A/cm^(2)』という電流密度には臨界的意義が認められないとのご指摘ですが、本願明細書の段落0002に記載されているように、自動車の発電機システムの通常の動作条件下での電流密度が500A/cm^(2)であるから、400A/cm^(2)という下限値、600A/cm^(2)という上限値は、トレンチMOSバリアショットキーダイオードが自動車の発電機システムにおいてツェナーダイオードとして使用するのに適した値であるという意義を有しています。」と主張している。 しかしながら、本願の特許請求の範囲の請求項1には、本願発明に係る「半導体装置(20,30)」が自動車の発電機システムにおいて使用するという特定がなされていないから、審判請求人の主張は特許請求の範囲の記載に基づかないものであり、採用することができない。 (4)したがって、引用発明1において、ショットキーダイオードの遮断動作中に、「各前記トレンチ710A-Fの底面の前記N^(-)第2半導体層706内に配置されているP^(+)層720A-F」と、それに接する「前記N^(+)第1半導体基板層702を覆い、主表面708で終端しているN^(-)第2半導体層706」とにより構成されるPN接合ダイオードを、400A/cm^(2)?600A/cm^(2)の高電流密度で作動可能とすること、すなわち、本願発明のように、「該半導体装置(20,30)は、遮断作動中、400A/cm^(2)?600A/cm^(2)の高電流密度で作動可能である」構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。 よって、相違点2は当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。 3.判断についてのまとめ 以上のとおりであるから、本願発明は、技術常識を勘案することにより、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第7.むすび 以上検討したとおり、本願発明は、技術常識を勘案することにより、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-01-09 |
結審通知日 | 2013-01-11 |
審決日 | 2013-01-25 |
出願番号 | 特願2007-539558(P2007-539558) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01L)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 早川 朋一 |
特許庁審判長 |
北島 健次 |
特許庁審判官 |
池渕 立 近藤 幸浩 |
発明の名称 | 半導体装置及びその使用乃至製造方法 |
代理人 | 二宮 浩康 |
代理人 | 久野 琢也 |
代理人 | 高橋 佳大 |
代理人 | 篠 良一 |
代理人 | 星 公弘 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |