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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B05D
管理番号 1275695
審判番号 不服2012-2075  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-01-18 
確定日 2013-06-21 
事件の表示 特願2007-246975「基材温度上昇の少ない加熱コーティング方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 4月16日出願公開、特開2009- 78191〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯
本願は、平成19年9月25日の出願であって、平成23年10月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年1月18日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
なお、本件審理の終結を通知した後の平成25年2月25日に審理再開申立書が提出された。その申立の内容は、審理を再開し、さらなる補正の機会を求めるものであるが、補正可能期間を過ぎた後の補正は、補正を補正可能期間に限って認めることとした特許法の定める補正制度と相容れないものであり、審判長は、審理を再開する必要を認めなかった。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成24年1月17日付け(受付日:平成24年1月18日)の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「赤外線をフラッシュまたはパルスで照射する加熱方法により、基材温度の上昇を少なく抑えて無機物成分組成比率の高い皮膜をコーティングする方法」

第3 引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-298542号公報(以下、「引用文献」という。)には、以下の事項が記載されている。

a「【請求項1】(1)水素シルセスキオキサン樹脂及び溶剤から成る溶液で、支持体をコーティングすること;(2)前記溶剤を蒸発させて、前記支持体上に水素シルセスキオキサン樹脂コーティングを付着させること;(3)前記水素シルセスキオキサン樹脂コーティングのシリカコーティングへの転化を促進するよう十分に前記コーティングした支持体を加熱するため、可視光、赤外、紫外、及びこれらの組合せから成る群より選択されるスペクトル領域のインコヒーレント光を含む高強度輻射線に、前記支持体を暴露すること、から成ることを特徴とする、シリカコーティングを支持体にコーティングする方法。」

b「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、急速熱処理(RTP)により水素シルセスキオキサン樹脂コーティングをセラミックシリカコーティングに転化することができるという発見に基づくものである。」

c「【0005】急速熱処理法(RTP)は、支持体が高温状態にある時間を削減することにより、支持体の熱束を減小させる技術である。この技術は高強度の輻射線を使用して、所望の物理または化学処理は完成させるが支持体に悪影響を及ぼすことを許さない時間で、薄いコーティングを高温へ急速に加熱する(50?300℃/秒)。」

d「【0009】
【課題を解決するための手段、作用、及び効果】本発明は、シリカコーティングを支持体に塗工する方法に関する。本方法は、支持体を、水素シルセスキオキサン及び溶剤から成る溶液でコーティングすることから成る。溶剤を蒸発させて水素シルセスキオキサン樹脂コーティングを付着させる。次いで、前記水素シルセスキオキサン樹脂コーティングのシリカコーティングへの転化を促進するために、コーティングした支持体を十分に加熱する目的で、可視光線、赤外線、紫外線、及びこれらの組合せから成る群より選択されるスペクトル領域のインコヒーレント光を含む高強度の輻射線に、前記コーティングした支持体を暴露する。」

e「【0015】上述の方法及び生成物に関する利点のため、本発明の方法は、電子装置、電子回路、または例えばポリイミド、エポキシド、ポリテトラフルオロエチレン及びこれらの共重合体、ポリカーボネート、アクリル樹脂、及びポリエステル、を含むプラスチック、の上に保護または誘電体コーティングを付着させるのに特に有益である。」

f「【0029】RTP装置に用いられる加熱源は、約0.1?約4.0マイクロメートルの波長で輻射線を放出し、そしてこのように紫外、赤外、及び可視光領域にわたる。この輻射線は、コーティングを急速に、好ましくは少なくとも約30?500℃/秒の速度で、加熱するのに十分な強度であるべきである。通常のこのような輻射線源は、一般にタングステンハロゲンランプ、アークランプ、またはグラファイトヒーターのいずれかであるが、同様に機能する他の源もまた本発明の範囲内にあると考えられる。」

g「【0033】グラファイト発熱体もまたRTP用の加熱源として使用できる。典型的なグラファイト装置では、通常発熱体を(発熱体の酸化を防ぐために減圧下で)約1000?約1400℃に予備加熱し、そしてそれから放射される輻射線を一連の反射体を利用して増強する。次いで、シャッター手段により加熱源と隔離された熱分解室の中に、コーティングした支持体を置く。シャッターを開けて輻射線への急速な暴露を行い、そしてシャッターを閉じて冷却する。この加熱源の輻射線は主に赤外領域にあり、それゆえ輻射線の結合は、主に自由キャリアー吸収によるものである。」

h「【0041】上述の温度に暴露する時間は、シリカへの転化には十分であるが、支持体に悪影響を及ぼさない程度のものである。上述のように、より高温はより短時間の暴露を通常必要とする。一般に、約1秒?約1時間までの範囲の暴露時間は、上述の温度範囲に対して十分であり、そして約1秒?約15分までの範囲の暴露時間が好ましい。」

上記記載bより、引用文献には、急速熱処理(RTP)により水素シルセスキオキサン樹脂コーティングをセラミックシリカコーティングに転化する方法が記載されているといえる。そして、記載f、gに、RTP用の加熱源としてグラファイト発熱体を使用し、主に赤外領域にある輻射線にコーティングした支持体を暴露することが記載され、記載hに、暴露時間の下限値として「約1秒」が記載されていることに留意すれば、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「約1秒の暴露時間、主に赤外領域にある輻射線にコーティングした支持体を暴露する急速熱処理(RTP)により、水素シルセスキオキサン樹脂コーティングをセラミックシリカコーティングに転化する方法。」

第4 対比
引用発明の「赤外領域にある輻射線」、「支持体」、「急速熱処理(RTP)」は、それぞれ、本願発明の「赤外線」、「基材」、「加熱方法」に相当する。
引用発明の「主に赤外領域にある輻射線にコーティングした支持体を暴露する」ことは、本願発明の「赤外線を」「照射する」ことに相当する。
引用発明の「セラミックシリカコーティング」と、本願発明の「無機物成分組成比率の高い皮膜」とは、少なくとも「皮膜」との限度で一致する。そして、引用発明の「水素シルセスキオキサン樹脂コーティングをセラミックシリカコーティングに転化する方法」によって、皮膜をコーティングすることになるのは明らかであるから、引用発明の「水素シルセスキオキサン樹脂コーティングをセラミックシリカコーティングに転化する方法」と、本願発明の「無機物成分組成比率の高い皮膜をコーティングする方法」とは、少なくとも「皮膜をコーティングする方法」との限度で一致する。

よって、本願発明と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「赤外線を照射する加熱方法により、皮膜をコーティングする方法」

[相違点1]
本願発明は、赤外線を「フラッシュまたはパルスで」照射すると特定されているのに対し、引用発明は、「フラッシュまたはパルスで」照射するとは特定されていない点。

[相違点2]
本願発明は、「基材温度の上昇を少なく抑えて」との特定がなされているのに対し、引用発明は、このような特定がなされていない点。

[相違点3]
皮膜が、本願発明は、「無機物成分組成比率の高い皮膜」であるのに対し、引用発明は、「セラミックシリカコーティング」である点。

第5 判断
(1)相違点1について
本願発明の「フラッシュまたはパルス」につき、本願明細書において定義がなされているわけではなく、一方、広辞苑(第六版)によれば、パルスは「極めて短い時間だけ継続する変化。」であり、フラッシュは「フラッシュライトの略。」であり、フラッシュライトは「閃光電球・ストロボなどの写真撮影用の光。」であり、閃光は「瞬間的に発する光。」である。
そして、本願発明が赤外線をフラッシュまたはパルスで照射することに関し、請求項1に、照射時間は具体的に特定されておらず、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、具体的な照射時間についての記載は無い。もっとも、発明の詳細な説明の段落【0038】に、「厚さ1mmのガラス基材に6kWの赤外線照射装置を用いて直接加熱を行うと約1分の加熱で基材が破損する。本発明のフラッシュまたはパルスによる照射では、基材試料自体の温度上昇がほとんど無く、この様な加熱による破損を防ぐことができる。」と記載されているから、照射時間として1分に比べて短い時間が想定されていることが窺われる。
そうすると、本願発明の「赤外線をフラッシュまたはパルスで照射する」とは、赤外線を極めて短い時間照射することを意味し、具体的な照射時間について、1分に比べて極めて短いという以上の限定はなされていないと解するのが相当である。
これに対し、引用発明における、主に赤外領域にある輻射線への暴露時間、すなわち、赤外線の照射時間は、「約1秒」であり、1分に比べても極めて短い時間であるといえる。
したがって、引用発明も、赤外線を極めて短い時間照射するものであり、本願発明と同じく、「赤外線をフラッシュまたはパルスで照射する」ものといえる。すなわち、相違点1は、実質的な相違点ではない。
仮に実質的な相違点であるとしても、前記記載c、hによれば、引用発明における照射時間は、薄いコーティングを高温へ急速に加熱してシリカへ転化するには十分であり、かつ、支持体に悪影響を及ぼさない時間だけ赤外線を照射すべきものであって、本願発明と同様であるから、そのような時間として、本願発明と同程度の照射時間を設定し、赤外線をフラッシュまたはパルスで照射するようになすこと、すなわち、相違点1に係る本願発明の事項となすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
引用発明の赤外線照射時間である「約1秒」は、支持体が高温状態にある時間を削減し、支持体の熱束を減小させ、支持体に悪影響を及ぼさないように設定されたものである(前記記載c、h)から、当該照射時間において、引用発明の支持体は、温度の上昇が少なく抑えられるといえる。
また、本願発明の「基材温度の上昇を少なく抑えて」は、「赤外線をフラッシュまたはパルスで照射する」加熱方法により、結果的に達せられる事項であるともいえるが、「赤外線をフラッシュまたはパルスで照射する」ことは、上記(1)で検討したように、引用発明と同じ、あるいは、引用発明から当業者が容易に想到し得た事項であるから、その結果として達せられる「基材温度の上昇を少なく抑えて」との事項も、引用発明と同じ、あるいは、引用発明から当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって、相違点2は、実質的な相違点ではない、あるいは、相違点2に係る本願発明の事項は、引用発明に基いて当業者が容易に想到し得たものである。

(3)相違点3について
本願発明の「無機物成分組成比率の高い皮膜」について、本願明細書には、無機物成分組成比率の範囲を具体的に示す記載は見当たらないが、「無機物成分組成比率の高いセラミックス等のコーティング」(【0008】、【0009】、【0023】等)との記載に照らせば、セラミックスのコーティングは「無機物成分組成比率の高い皮膜」の一例であると認められるから、引用発明の「セラミックシリカコーティング」は、本願発明の「無機物成分組成比率の高い皮膜」に相当する。また、引用発明において、水素シルセスキオキサン樹脂コーティングをセラミックシリカコーティングに転化するに際し、無機物成分以外の成分が皮膜に混入することがあるとしても、その比率が高くならないようにすることは普通のことである。
したがって、相違点3は、実質的な相違点ではない、あるいは、相違点3に係る本願発明の事項は、引用発明に基いて当業者が容易に想到し得たものである。

そして、本願発明の効果も、引用発明から予測できる範囲内のものであって格別顕著なものとはいえない。

(4)請求人の主張について
請求人は、引用発明は皮膜焼付温度が基材耐熱温度を大きく上回る材料構成を考慮したものではない旨を主張する。しかし、請求項1の記載によれば、本願発明は、基材の材料を限定するものではなく、水素シルセスキオキサン樹脂コーティングをセラミックシリカコーティングに転化することによって形成される皮膜を除外するものでもないから、請求人が主張する上記材料構成は、本願発明と引用発明との相違点とは認められない。上記請求人の主張は、請求項1の記載に基づかない主張であり、失当である。なお、引用文献には、プラスチックの上にコーティングを形成する旨の記載も有るから(前記記載e)、引用発明は、プラスチック基材上にセラミックシリカコーティングすることも考慮しているといえ、この点からも、上記請求人の主張は失当である。
また、請求人は、引用発明は、比較的短い連続照射を明示しているに過ぎない旨主張する。しかし、前記(1)で述べたように、引用発明も、「赤外線をフラッシュまたはパルスで照射する」ものといえ、あるいは、引用発明において赤外線をフラッシュまたはパルスで照射するようになすことは、当業者が容易に想到し得たことである。よって、上記請求人の主張は失当である。
さらに、請求人は、回答書において、本発明の請求項には必要に応じて「膜焼付温度及び基材耐熱温度」を類推できる事項が含まれている旨を主張するが、請求項1に特定されていない事項は、本願発明と引用発明との相違点とならないことは当然であるから、上記請求人の主張は失当である。

第6 むすび
したがって、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-25 
結審通知日 2013-02-19 
審決日 2013-04-11 
出願番号 特願2007-246975(P2007-246975)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B05D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 昌広  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 紀本 孝
河原 英雄
発明の名称 基材温度上昇の少ない加熱コーティング方法  

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