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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11D |
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管理番号 | 1275726 |
審判番号 | 不服2009-20626 |
総通号数 | 164 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-08-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-10-26 |
確定日 | 2013-06-19 |
事件の表示 | 特願2006-517712「非水性布地処理システムにおける布地ケア活性物質の均一な付着のためのデリバリーシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 1月13日国際公開、WO2005/003281、平成18年12月 7日国内公表、特表2006-527787〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2004年6月28日(パリ条約による優先権主張:2003年6月27日、2004年2月24日 米国)を国際出願日とする国際出願による特許出願であって、平成20年12月5日付けで拒絶理由が通知され、平成21年3月9日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月26日に拒絶査定不服審判請求がなされると同時に手続補正書が提出され、同年11月18日に審判請求書の手続補正書が提出され、当審において平成23年4月28日付けで審尋がされ、同年11月7日に回答書が提出され、平成24年5月11日付けで拒絶理由が通知され、同年11月15日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 特許請求の範囲の記載 平成24年11月15日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1には、以下のとおり記載されている。 「非水性布地処理プロセスにおいて、布地物品上へ布地ケア活性物質を均一及び効率的に付着させるための組成物であって、 i)環状シロキサン溶媒を含んでなる親油性流体を含む第1の相と、 ii)水キャリア及び布地ケア活性物質を含む第2の相と、 前記布地ケア活性物質が、1000?100,000の分子量を有する硬化性アミノシリコーン汚れ放出ポリマーであり、 iii)前記第2の相が液滴を形成するように、前記組成物を乳化するために十分な有効量の乳化剤と、及び iv)香料を装填したシクロデキストリンを含んでなるものであり、 前記第2の相が、 1000μm未満のメジアン粒径(χ_(50))を有する液滴の形態であるか、又は、 前記組成物の1mLの試料の中で、0.95重量分率を超える前記第1の相が液滴の形態であり、各液滴が前記組成物の前記1mLの試料中の前記第1の相の合計質量の1重量%未満の個々の重量を有するものであり、 前記液滴が、前記第1の相に均質に分散されてなるものであり、かつ、布地上に均一に付着するものであり、 前記液滴が、優先的に布地を濡らし及び/又は布地の中に吸収され、前記布地ケア活性物質が布地の中に浸透し、布地処理を行うものである、組成物。」 第3 原査定における拒絶理由 拒絶査定における拒絶理由(平成20年12月5日付けの拒絶理由通知の「理由」「2.」)の概要は、本願の請求項1?19に記載の発明は、その出願前に頒布された引用文献1?4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 また、引用文献4として、以下の文献が挙げられている。 国際公開第2003/006733号 第4 当審の判断 当審は、本願は、上記原査定における拒絶理由によって拒絶をすべきものと判断する。 (なお、当審において平成24年5月11日付けで拒絶理由を通知しており、その概要は、「特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。」あるいは「特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。」というものであるが、併せて、同通知の「第3 備考」において記載したとおり、平成21年6月24日付けの拒絶査定の理由が解消されていることを意味するものではない旨を通知している。) 以下、詳述する。 1.本願発明の認定 本願特許請求の範囲の請求項1の記載は、上記「第2」において記載したとおりのものであるが、その記載のうち、 「前記第2の相が、 ・・・、又は、 前記組成物の1mLの試料の中で、0.95重量分率を超える前記第1の相が液滴の形態であり、各液滴が前記組成物の前記1mLの試料中の前記第1の相の合計質量の1重量%未満の個々の重量を有するものであり、」 との記載事項は、特に、「前記第1の相が液滴の形態であり」との事項が以下のとおり明瞭でないために、その記載のみからはその内容を明確に特定できない。 すなわち、上記「前記第1の相が液滴の形態であり」との事項は、本願明細書には記載されていない。そして、例えば同段落【0023】の「第2の相が連続的な第1の相の中に離散液滴を形成する」との記載、及び同段落【0033】の「小さい離散液滴を形成するために水相は十分に乳化され、これは連続的な第1の相中に実質的に均質に分散される。」との、液滴を形成するのは第2の相のみであり、第1の相は連続的な相を有している旨の記載と整合しないのでその内容が明瞭でない。 また、上記「液滴の形態であり」との主語が「第1の相」であると解すると、上記記載事項には「前記第2の相が」に対応する述語が存在しないことになるので、文章の構成上からも、明瞭でない。 なお、請求人は、意見書において、本補正は、本願明細書段落【0009】、【0024】、【0025】及び【0033】の記載を根拠に補正したことを主張しているが、このうち、液滴の重量に関しては、上記段落【0025】にのみ、以下の記載がある。 「あるいは第2の相の離散液滴は、同じ試験方法ISO13320-1:1999により特徴付けられることができ、その際デリバリーシステムの1mLの試料の中に、液滴中に含有される約0.95重量分画を超える第1の相を有し、各液滴がデリバリーシステムの1mLの試料中の第1の相の合計質量の1重量%未満、好ましくは0.5重量%未満、及びより好ましくは0.1重量%未満の個々の重量を有する。」 そして、本国際特許出願の国際出願日における明細書(国際公開第2005/3281号,第5頁10?14行を参照)には、上記段落【0025】に対応する記載として、 「Alternatively, the discrete droplets of the second phase can be characterized by the same test method ISO 13320-1:1999, wherein in a 1 mL sample of the delivery system, has greater than about 0.95 weight fraction of the first phase contained in droplets, each droplet having an individual weight of less than 1 wt%, preferably less than 0.5 wt%, and more preferably less than 0.1 wt% of the total mass of the first phase in the 1 mL sample of the delivery system.」 と記載されている。この記載から見て、上記段落【0025】の下線部は、「液滴が含有される約0.95重量分画を超える第1の相を有し」と訳されるべきもの、すなわち第1の相は、第2の相の液滴が含有されるものであると解すべきものと認められる。 したがって、特許請求の範囲における上記「前記第1の相が液滴の形態であり」との事項は、「第1の相に含有される液滴の形態であり」と解すべきものと認められる。 よって、上記特許請求の範囲の請求項1に記載の発明は、 「非水性布地処理プロセスにおいて、布地物品上へ布地ケア活性物質を均一及び効率的に付着させるための組成物であって、 i)環状シロキサン溶媒を含んでなる親油性流体を含む第1の相と、 ii)水キャリア及び布地ケア活性物質を含む第2の相と、 前記布地ケア活性物質が、1000?100,000の分子量を有する硬化性アミノシリコーン汚れ放出ポリマーであり、 iii)前記第2の相が液滴を形成するように、前記組成物を乳化するために十分な有効量の乳化剤と、及び iv)香料を装填したシクロデキストリンを含んでなるものであり、 前記第2の相が、 1000μm未満のメジアン粒径(χ_(50))を有する液滴の形態であるか、又は、 前記組成物の1mLの試料の中で、0.95重量分率を超える前記第1の相に含有される液滴の形態であり、各液滴が前記組成物の前記1mLの試料中の前記第1の相の合計質量の1重量%未満の個々の重量を有するものであり、 前記液滴が、前記第1の相に均質に分散されてなるものであり、かつ、布地上に均一に付着するものであり、 前記液滴が、優先的に布地を濡らし及び/又は布地の中に吸収され、前記布地ケア活性物質が布地の中に浸透し、布地処理を行うものである、組成物。」(以下、「本願発明」という。) であると認定すべきものであり、以下、同認定に基づき検討する。 2.刊行物及び周知例、及びそれらに記載された事項 ア 刊行物及び周知例 刊行物:国際公開第2003/006733号(原査定における「引用文献4」。) 周知例1:特表2003-508549号公報 周知例2:英国特許出願公開第1175120号明細書 周知例3:特表2001-506324号公報 イ.刊行物及び周知例に記載された事項 (ア)刊行物1について 上記刊行物1には、以下の事項が記載されている。(翻訳は刊行物1のパテントファミリーである特表2004-535496号公報に基づく。) 1a:「【特許請求の範囲】 【請求項1】 布帛物品から偶発的な汚れを除去するための組成物であって、 a)親油性流体と、 1.前記親油性流体が、好ましくは直鎖、分枝状、及び環状揮発性シリコーン、並びにこれらの混合物を含む群から選択され、 2.前記親油性流体が、好ましくは前記洗浄組成物の60重量%?99.95重量%で含まれてなり、 b)親油性流体の汚れ除去効果を向上させ/又は親油性流体中に水を懸濁することが可能な界面活性剤成分と、 1.前記界面活性剤成分が、好ましくはシロキサンをベースにした界面活性剤、オルガノスルホサクシネート界面活性剤、及びこれらの混合物からなる群より選択される界面活性剤を含んでなり、 2.前記界面活性剤成分が好ましくは前記洗浄組成物の0.01重量%?10重量%で含まれてなり、 c)極性溶媒と、 1.前記極性溶媒が好ましくは水であり、 2.前記極性溶媒が好ましくは前記洗浄組成物の2重量%?25重量%で含まれてなり、 d)少なくとも一種の追加の非溶媒洗浄補助剤とを含んでなり、 前記非溶媒洗浄補助剤が、好ましくは、ビルダー、界面活性剤、乳化剤、酵素、漂白活性化剤、漂白触媒、漂白促進剤、漂白剤、アルカリ性供給源、抗菌剤、着色剤、香料、石灰石鹸分散剤、賦香剤、臭気中和剤、ポリマー移染抑制剤、結晶成長阻害剤、光漂白剤、重金属イオン封鎖剤、変色防止剤、抗微生物剤、酸化防止剤、再付着防止剤、汚れ放出ポリマー、電解質、pH調整剤、増粘剤、研磨剤、二価イオン、金属イオン塩、酵素安定化剤、腐食防止剤、ジアミン、泡安定化ポリマー、溶媒、加工助剤、糊剤、蛍光増白剤、ヒドロトロープ、及びこれらの混合物からなる群から選択されるものであり、より好ましくは前記非溶媒洗浄補助剤が窒素含有物質である、組成物。 ・・・ 【請求項8】 偶発的な汚れを布帛物品から除去するための組成物であって、 a)前記洗浄組成物の60重量%?99.95重量%のデカメチルシクロペンタシロキサンと、 b)前記洗浄組成物の0.01重量%?10重量%の、親油性流体の汚れ除去効果を向上させ及び/又は親油性流体中に水を懸濁することが可能な界面活性剤成分と、 c)前記洗浄組成物の2重量%?25重量%の水と、 d)前記洗浄組成物の0.01重量%?10重量%のアミノ官能シロキサン洗浄補助剤とを含んでなる、組成物。」 (イ)周知例1について 上記周知例1には、以下の事項が記載されている。 2a:「【特許請求の範囲】 【請求項1】泡の容積を増やし且つ泡の保持力を上げる泡形成組成物および/または泡状物質形成組成物において、前記泡形成組成物および泡状物質形成組成物の10%水溶液のpHが約4?約12であり、前記組成物に、 a)有効量の双性イオンポリマー性泡安定剤、 b)有効量の洗浄力のある界面活性剤、および c)残部のキャリアーとその他の付随成分、 が含まれている前記組成物。 ・・・ 【請求項8】請求項1に記載の組成物において、前記その他の付随成分を、汚れ放出ポリマー、・・・からなる群から選択する前記組成物。」 2b:「【0140】 洗濯洗剤用組成物および使用方法 汚れ遊離剤として使われたこの発明の双性イオンポリマー性泡安定剤の他に、この発明の洗濯用洗剤には付随成分が含まれている。洗濯用洗剤の種々の付随成分は、全体がこの明細書の引用文献の一つであるPCTによる国際的刊行物であるWO98/39401により開示されている。 【0141】 一般に、洗濯用洗剤組成物は固体粒子,液体またはゲルであり、大量の洗剤とこの発明の少量の汚れ放出ポリマーが含まれている。また、一般に、この発明の織物洗浄方法には、大量の水と少量の洗剤および汚れ放出ポリマーを含む洗浄媒体における織物製品の洗浄が含まれている。少量の付随成分も存在する。 【0142】 I.アミノアルキルおよびアルコキシシラン-シリコーン化合物 この発明の組成物と方法の付随成分の一つは、アミノシリコーン化合物であり、通常この化合物の化学式は下記の通りであり: ・・・ 【0145】 シリコーン化合物の製造と特性については、・・・で一般的に述べられている。これらの文献の内容はこの明細書の引用文献である。好適なアミノシリコーン化合物は、たとえば、JP-047547(J57161170)(信越化学工業KK)で開示されている。 ・・・ 【0146】 アミノシリコーン化合物は、通常、室温で液体または粘性のあるオイルの形態をしている。 【0147】 可溶性粉末洗剤組成物の文脈において下で述べたアミノシリコーンは、上で述べたアミノシリコーンの代わりになりうる。 【0148】 II.不溶性キャリアー アミノシリコーンは、単独または水性エマルジョンとして、この発明の特定の組成物および方法において使用することができるが、アミノシリコーンは水不溶性の固体キャリアー、・・・とともに用いるのが好ましい。」 (ウ)周知例2について 上記周知例2には、以下の事項が記載されている。(翻訳は当審による。) 3a:「特許請求の範囲 1.式 RSiO_(3/2)(ここで、Rで示される基の5?100%は置換された炭素数1?7の炭化水素基であり、置換基は、アミノ、メルカプト・・・あるいはカルボキシ基であり、Rで示される基の95%までは炭素数1?7の一価の炭化水素基又はハロゲン化誘導体である。) にて示されるユニットを有する固体のシルセスキオキサンのコロイド分散液を繊維材料に適用すること、 シルセスキオキサンは、粒径10?1000Åであり、 及び次に繊維材料を乾燥すること を含む繊維材料の処理方法。 ・・・ 4.シルセスキオキサンがCH_(3)SiO_(3/2)とH_(2)NCH_(2)CH_(2)NH(CH_(2))_(3)SiO_(3/2)ユニットの共重合体である請求項1の方法。」(第7頁2?26行) 3b:「本発明の方法は、天然あるいは合成材料の如何なる繊維材料の処理にも使用できる。 現在利用可能な如何なる処理と同様、本発明の方法及び種々のシルセスキオキサンはいくつかの繊維材料について他のものよりうまく実施できる。それにもかかわらず、本発明の方法に従ってなされた処理は、全ての繊維材料に、改善された、耐滑り、くすみ、及び/又は乾燥汚れに対する抵抗性を与える。」(第1頁40?50行) 3c:「本発明で使用されるコロイド分散液は、水-界面活性剤混合液に、酸性あるいは塩基性の条件下で攪拌しながら、式・・・の構造を有するシランを加えて調製される。」(第2頁35?44行) (エ)周知例3について 上記周知例3には、以下の事項が記載されている。 4a:「【特許請求の範囲】 ・・・ 6.A)組成物に対して0.01?15重量%の、親香料アルコールの混合 物のノニオン性またはアニオン性プロフレグランスエステル(前記エステルは下記式を有するものである。 ・・・と、そして B)10?95%重量%の、下記式を有する四級アンモニウム化合物 または下記式を有するアミン前駆体 ・・・とを含んでなる、乾燥機活性化布帛コンディショニング組成物。 ・・・ 7.C) i)汚れ放出ポリマー0?10重量%、 ii)シクロデキストリン/香料包接複合体および/または遊離香料0?60重量%、そして iii)・・・安定剤0?2重量% から選択される補助成分を更に含んでなる、請求項6に記載の組成物。」 3.刊行物1に記載された発明 刊行物1には、摘示1aの 「布帛物品から偶発的な汚れを除去するための組成物であって、 a)親油性流体と、 1.前記親油性流体が、・・・及び環状揮発性シリコーン、・・・から選択され、 2.前記親油性流体が、好ましくは前記洗浄組成物の60重量%?99.95重量%で含まれてなり、 b)親油性流体の汚れ除去効果を向上させ/又は親油性流体中に水を懸濁することが可能な界面活性剤成分と、・・・ 2.前記界面活性剤成分が好ましくは前記洗浄組成物の0.01重量%?10重量%で含まれてなり、 c)極性溶媒と、 1.前記極性溶媒が好ましくは水であり、 2.前記極性溶媒が好ましくは前記洗浄組成物の2重量%?25重量%で含まれてなり、 d)少なくとも一種の追加の非溶媒洗浄補助剤とを含んでなり、 前記非溶媒洗浄補助剤が、好ましくは、・・・、汚れ放出ポリマー、・・・から選択されるもの・・・である、組成物。」 との記載から見て、 「布帛物品から偶発的な汚れを除去するための組成物であって、 a)前記洗浄組成物の60重量%?99.95重量%の、親油性流体である環状揮発性シリコーンと、 b)前記洗浄組成物の0.01重量%?10重量%の、親油性流体の汚れ除去効果を向上させ及び/又は親油性流体中に水を懸濁することが可能な界面活性剤成分と、 c)前記洗浄組成物の2重量%?25重量%の水と、 d)洗浄補助剤として汚れ放出ポリマーを、 含んでなる、組成物。」 の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 4.検討 ア 対比 (a)引用発明の「組成物」が、「布帛物品から偶発的な汚れを除去するための」ものであること、及び当該組成物が「親油性流体」を多く含む非水性のものであること、さらに、当該組成物中に「洗浄補助剤として汚れ放出ポリマー」を含むことは、上記「汚れ放出ポリマー」は、「布地ケア活性物質」の一種といえ、また、布帛物品から汚れを除去する過程で均一かつ効率的に布帛物品に付着するものと認められることからみて、本願発明の「組成物」が「非水性布地処理プロセスにおいて、布地物品上へ布地ケア活性物質を均一及び効率的に付着させるための」ものであることに相当する。 (b)引用発明の「洗浄組成物の60重量%?99.95重量%の、親油性流体である環状揮発性シリコーン」は、本願発明の「環状シロキサン溶媒を含んでなる親油性流体を含む第1の相」に相当することは明らかである。 (c)引用発明の「2重量%?25重量%の水」は、大部分を占める親油性流体中において相溶せずに、「親油性流体」中で均一に液滴を形成し、処理の過程で布帛物品に付着して吸収されると認められるので、本願発明の「水キャリアを含む」「第2の相」、「前記液滴が、前記第1の相に均質に分散されてなるものであり、かつ、布地上に均一に付着する」こと、及び「液滴が、優先的に布地を濡らし及び/又は布地の中に吸収され」ることに相当する。 (d)引用発明の「前記洗浄組成物の0.01重量%?10重量%の、親油性流体の汚れ除去効果を向上させ及び/又は親油性流体中に水を懸濁することが可能な界面活性剤成分」は、本願発明の「第2の相が液滴を形成するように、前記組成物を乳化するために十分な有効量の乳化剤」に相当する。 (e)引用発明の「洗浄補助剤」も、処理の過程で布帛物品に浸透すると認められるので、引用発明は、本願発明の「記前記布地ケア活性物質が布地の中に浸透し、布地処理を行うものである」ことにも相当する。 よって、本願発明と引用発明は、 「非水性布地処理プロセスにおいて、布地物品上へ布地ケア活性物質を均一及び効率的に付着させるための組成物であって、 i)環状シロキサン溶媒を含んでなる親油性流体を含む第1の相と、 ii)水キャリアを含む第2の相と、 iii)前記第2の相が液滴を形成するように、前記組成物を乳化するために十分な有効量の乳化剤と、及び 前記液滴が、前記第1の相に均質に分散されてなるものであり、かつ、布地上に均一に付着するものであり、 前記液滴が、優先的に布地を濡らし及び/又は布地の中に吸収され、前記布地ケア活性物質が布地の中に浸透し、布地処理を行うものである、組成物。」 の点で一致し、次の点で相違する。 相違点1:第2の相が、本願発明は「1000?100,000の分子量を有する硬化性アミノシリコーン汚れ放出ポリマー」である「布地ケア活性物質」を含むのに対し、引用発明は、そのような特定がなされていない点 相違点2:第2の相が、本願発明は、「1000μm未満のメジアン粒径(χ_(50))を有する液滴の形態であるか、又は、前記組成物の1mLの試料の中で、0.95重量分率を超える前記第1の相に含有される液滴の形態であり、各液滴が前記組成物の前記1mLの試料中の前記第1の相の合計質量の1重量%未満の個々の重量を有するもの」であるのに対し、引用発明はそのような特定がなされていない点 相違点3:本願発明は「香料を装填したシクロデキストリンを含んでなるもの」であるのに対し、引用発明はそのような特定がなされていない点 イ 相違点の判断 (ア)相違点1,2について ここで、周知例1の摘示2bの【0141】には、「洗濯用洗剤」に「汚れ放出ポリマー」を添加することが記載されており、そしてその直後に【0142】?【0147】には、ポリマー構造を有する「アミノシリコーン化合物」が記載され、また、【0148】には、「アミノシリコーンは、・・・水性エマルジョンとして」使用することが記載されているので、上記摘示2bには、「汚れ放出ポリマー」として「アミノシリコーン」からなる「水性エマルジョン」が記載されていると認められる。 また、周知例2の摘示3aには、「H_(2)NCH_(2)CH_(2)NH(CH_(2))_(3)SiO_(3/2)ユニット」を有する「シルセスキオキサン」すなわち「アミノシリコーン」「ポリマー」の「コロイド分散体」が記載されている。そして、摘示3cには、「分散体」は、「水-界面活性剤」において製造されることから水性の分散体であり、さらに、摘示3bには、上記「シルセスキオキサン」すなわち「アミノシリコーン」が、「汚れ抵抗性」であることが記載されている。 ここで、本願明細書段落【0058】において、 「(a)汚れ放出ポリマー 本明細書で使用する時、用語「汚れ放出」は、洗浄される、又は別の方法で処理される布地物品が、布地物品と接触した汚れを除去する能力を指す。本発明は、汚れの布地物品への付着を完全に防止しないが、こうした付着を妨げ及び布地物品の洗浄を改善する。本明細書で使用するのに適した汚れ放出ポリマーの非限定例としては、フッ素含有汚れ放出ポリマー及びシリコーン含有汚れ放出ポリマーが挙げられる。」 と記載されていることから、「汚れ抵抗性」であることは、汚れの付着を妨げることを意味するので、本願発明でいうところの、「汚れ放出」性であることと同じことであると認められる。 よって、周知例2にも、汚れ放出性のポリマーとして、アミノシリコーンからなる水性の分散体が記載されていると認められる。 すなわち、上記周知例1及び2に示されるとおり、汚れ放出ポリマーとして、水に分散されたアミノシリコーンを用いることは周知である。また、通常、それらのアミノシリコーンが、乾燥や架橋により硬化すること、及び分子量が1000?100000程度に設計されることも技術常識である。 そして、引用発明は、「洗浄補助剤として汚れ放出ポリマー」を含むものである。 また、刊行物1の摘示1aの【請求項8】には、洗浄補助剤として「アミノ官能シロキサン」すなわち「アミノシリコーン」を用いることも記載されており、上記のとおり汚れ放出ポリマーとして、水に分散されたアミノシリコーンを用いることは周知である。 よって、上記のとおり、引用発明の汚れ放出ポリマーとして、特に水に分散された1000?100,000の分子量を有する硬化性アミノシリコーンを採用して、含有される水とともに、第2相の液滴を形成させることは当業者が容易になし得るものである。 さらに、引用発明には、界面活性剤、すなわち乳化剤が含有されているものである。 そして、界面活性剤が分散質である液滴の分散性を向上させて液滴のサイズを小さくできることは技術常識であるから、上記のとおり、水と周知の汚れ放出ポリマーから形成された第2相の液滴の大きさを、特に「1000μm未満のメジアン粒径(χ_(50))を有する液滴の形態である」又は、「前記組成物の1mLの試料の中で」「各液滴が前記組成物の前記1mLの試料中の前記第1の相の合計質量の1重量%未満の個々の重量を有するもの」となるように小さいものとすることも当業者が適宜なし得るものである。 (イ)相違点3について 刊行物1の摘示1aには、洗浄補助剤として、「香料」も用いうることが記載されている。 そして、周知例3の摘示4aに「シクロデキストリン/香料包接複合体」と記載されるとおり、香料としてシクロデキストリンに包接されている、すなわち装填されているものは周知である。 よって、引用発明において、香料として、特に「香料を装填したシクロデキストリンを含んでなるもの」を採用することは当業者が容易になし得るものである。 (ウ)本願発明の効果について 本願発明の効果は、本願明細書段落【0008】の「ドライクリーニング方法において、洗浄剤及び/又は布地ケア活性物質が実質的に均一に分散し、その結果これらの構成成分が布地物品上に均一に付着する」ことであると認められる。 これに関して、本願明細書の【実施例】においては、親油性流体、フッ素汚れ放出ポリマー及び乳化剤を含む「第2のバイアル瓶」中の試料と乳化剤を含まない同様の「第3のバイアル瓶」中の試料(対照試料)によって、布帛の処理を行って、その処理の油忌避性の均一性を比較して、乳化剤を含む「第2のバイアル瓶」中の試料の方が均一である結果を示しているが、これは、乳化剤の存在によって、組成物中の布地ケア物質を含む水性成分が均一に分散して均一に布帛を処理できたということが示されているにすぎない。 そして、引用発明の界面活性剤も、「水を懸濁する」ために添加されていることからみて、上記効果は、当業者ならば予測しうるものである。 また、本願発明において、液滴の大きさが特定の範囲以下であることが規定されていることや、布地ケア活性物質として「1000?100,000の分子量を有する硬化性アミノシリコーン汚れ放出ポリマー」を採用したことによる効果については、発明の詳細な説明において具体的な実験結果が示されているものではなく、格別の効果があるものとは認められない。 よって、本願発明の効果は、刊行物1の記載及び周知技術から当業者が予測し得たものであると認められる。 (エ)小括 よって、本願発明は刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.まとめ したがって、本願発明は刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではない。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本願は、その余につき検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-01-15 |
結審通知日 | 2013-01-18 |
審決日 | 2013-02-07 |
出願番号 | 特願2006-517712(P2006-517712) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C11D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中島 庸子、門前 浩一、服部 智 |
特許庁審判長 |
松浦 新司 |
特許庁審判官 |
小石 真弓 橋本 栄和 |
発明の名称 | 非水性布地処理システムにおける布地ケア活性物質の均一な付着のためのデリバリーシステム |
代理人 | 吉武 賢次 |
代理人 | 中村 行孝 |
代理人 | 紺野 昭男 |
代理人 | 勝沼 宏仁 |
代理人 | 堅田 健史 |
代理人 | 横田 修孝 |