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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1275743
審判番号 不服2011-19482  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-09 
確定日 2013-06-19 
事件の表示 特願2008-328226「4-ヒドロキシ酸を含むポリヒドロキシアルカノエートポリマー製造のための生物学的システム」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 4月23日出願公開、特開2009- 82147〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成10(1998)年9月18日(パリ条約による優先権主張 1997年9月19日、米国)を国際出願日とする特願2000-511853号の一部を特許法第44条第1項の規定により平成15年5月9日に新たな特許出願とした特願2003-132325号のさらに一部を平成20年12月24日に新たな特許出願としたものであって、平成23年4月26日付で拒絶査定がなされたところ、平成23年9月9日付で拒絶査定不服審判が請求され、同日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。

第2 平成23年9月9日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年9月9日付の手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
上記補正により特許請求の範囲の請求項1は、補正前の
「【請求項1】
ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼおよび4HB-CoAトランスフェラーゼからなる群より選択される異種酵素をコードする遺伝子をゲノムに安定に取り込んだ、組換え宿主であって、該遺伝子の発現が増強されている、組換え宿主であって、該4HB-CoAトランスフェラーゼは、内因性の野生型4HB-CoAトランスフェラーゼに比べ、高酸素条件下でポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼである組換え宿主。」
から、
「【請求項1】
ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼおよび4HB-CoAトランスフェラーゼからなる群より選択される異種酵素をコードする遺伝子をゲノムに安定に取り込んだ、組換え宿主であって、該遺伝子の発現が増強されている、組換え宿主であって、該4HB-CoAトランスフェラーゼは、内因性の野生型4HB-CoAトランスフェラーゼに比べ、高酸素条件下でポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼである組換え宿主であって、かつ該組換え宿主は、高酸素条件、化学的突然変異源及び紫外線照射からなる群から選択される条件下で組換え宿主を生育させる工程、及びポリヒドロキシアルカノエートの蓄積に関してスクリーニングする工程により得られたものである組換え宿主。」
へと補正された。

2.補正の目的要件について
この補正は、補正前の請求項1の発明特定事項である「組換え宿主」が「高酸素条件、化学的突然変異源及び紫外線照射からなる群から選択される条件下で組換え宿主を生育させる工程、及びポリヒドロキシアルカノエートの蓄積に関してスクリーニングする工程により得られたものである」ことを追加するものである。
しかしながら、この補正は、補正前の請求項1において何ら言及していない組換え宿主の製造方法を追加するものであって、発明特定事項を概念的により下位の発明特定事項とする補正ではないから、発明を特定するための事項の限定であるとはいえない。
よって、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものには該当しない。
さらに、この補正は、請求項の削除、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)のいずれに該当するものでもない。

以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項各号のいずれを目的とするものに該当せず、同法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.独立特許要件について
上記2.のとおり、本件補正は平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるが、仮に、本件補正が平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号および第4号を目的とする補正に該当するとし、補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下検討する。

(1)本願補正発明1
本願補正発明1は、平成23年9月9日付の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼおよび4HB-CoAトランスフェラーゼからなる群より選択される異種酵素をコードする遺伝子をゲノムに安定に取り込んだ、組換え宿主であって、該遺伝子の発現が増強されている、組換え宿主であって、該4HB-CoAトランスフェラーゼは、内因性の野生型4HB-CoAトランスフェラーゼに比べ、高酸素条件下でポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼである組換え宿主であって、かつ該組換え宿主は、高酸素条件、化学的突然変異源及び紫外線照射からなる群から選択される条件下で組換え宿主を生育させる工程、及びポリヒドロキシアルカノエートの蓄積に関してスクリーニングする工程により得られたものである組換え宿主。」

(2)特許法第36条第6項第1号及び同条第4項について
ア.本願明細書の記載
本願明細書には、高酸素条件下でのPHA産生に関して以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審で付与した。

(ア)「(実施例8:空気非感受性4-ヒドロキシブチリルCoAトランスフェラーゼのスクリーニング方法)
C.kluyveri由来の4-ヒドロキシブチリル-CoAトランスフェラーゼは空気、おそらく酸素によって阻害されるようである。高酸素条件下でP4HBを合成するために、4-ヒドロキシブチリル-CoAトランスフェラーゼをコードするhbcT遺伝子をプラスミド上に有し、そしてPHAシンターゼ遺伝子を染色体上に有するE.coli株の変異体を増殖させ、そして細胞群の大多数が灰色のコロニーを形成する場合に、白色のコロニー(PHAの蓄積を示す)を探索することによって、酸素非感受性変異体をスクリーニングし得る。酸素非感受性細胞株MBX240[pFS16]、MBX379[pFS16]およびMBX830[pFS16]をこの方法を用いて同定した。変異体の集団は、インビボでもとの株をN-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジンまたはエチルメタンスルホン酸のような化学的突然変異原、または紫外線照射で処理することにより産生し得る。あるいは、hbcTを含むプラスミドに、インビトロでヒドロキシルアミンを用いて突然変異を誘発し得る。次に機能的な4-ヒドロキシブチリル-CoAトランスフェラーゼを発現している変異体を、固形培地または高度に酸素添加した液体培地中で、4-ヒドロキシ酪酸からのP4HB形成に関してスクリーニングする。」(段落【0081】)

イ.当審の判断
上記記載事項(ア)によれば、本願の発明の詳細な説明には、高酸素条件下でPHAを蓄積する酸素非感受性変異体3株を得たことが記載されているが、これらの変異体は、具体的にどのような変異が起きたことにより高酸素条件下でPHAを蓄積することができるようになったのかについて確認されていない。
上記記載事項(ア)には、突然変異体は化学的変異原や紫外線照射で処理を行うことにより取得し得ることが記載されているが、PHAの生合成には種々の酵素等の因子が関与しているところ、これらの処理により菌類に生じる突然変異はランダムに誘発されるものであるから、当該3株は、具体的にどのような変異により、高酸素条件下でPHAの蓄積を示す性質を獲得したのか全く不明であるというべきであり、4HB-CoAトランスフェラーゼ以外のPHAの産生経路に関与する因子の変異により、高酸素条件下でのPHAの蓄積を示す性質を獲得したことも考えられる。
そうすると、本願明細書の記載からは、当該3株それぞれが有する4HB-CoAトランスフェラーゼ自体が、「内因性の野生型4HB-CoAトランスフェラーゼに比べ、高酸素条件下でポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼ」であるかどうかは不明である。
よって、本願出願時の技術常識を考慮しても、「4HB-CoAトランスフェラーゼは、内因性の野生型4HB-CoAトランスフェラーゼに比べ、高酸素条件下でポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼ」を有する組換え宿主を提供するという発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように発明の詳細な説明が記載されているとはいえない。
したがって、本願補正発明1は、本願の発明の詳細な説明に記載されたものではなく、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

また、上記のとおり、「内因性の野生型4HB-CoAトランスフェラーゼに比べ、高酸素条件下でポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼ」を有する組換え宿主は、発明の詳細な説明に記載された方法により実際に得られているとはいえない。
また、本願補正発明1の「内因性の野生型4HB-CoAトランスフェラーゼに比べ、高酸素条件下でポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼ」を有する組換え宿主を取得するためには、突然変異処理を施した組換え宿主をPHAの蓄積に関してスクリーニングし、さらに、スクリーニングにより得られた突然変異体が保持する4HB-CoAトランスフェラーゼの高酸素条件下における活性について確認し、「内因性の野生型4HB-CoAトランスフェラーゼに比べ、高酸素条件下でポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼ」を有する組換え宿主を選択する必要があり、通常当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤を行なう必要がある。
よって、本願補正発明1について、本願出願時の技術常識を考慮しても、本願の発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。

ウ.請求人の主張について
(ア)請求人の主張
請求人は、平成24年6月22日付回答書において、実施可能要件違反の拒絶理由に関して以下の点を主張する。
[主張]本願補正発明1の組換え宿主は、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの形式で記載された組換え宿主であり、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの形式で記載された物の発明を実施するにあたり明細書に記載されるべきはそのプロセスである。本願補正発明1に記載の製造方法に包含される工程はいずれも当業者が本願出願時の技術常識を考慮して、本願明細書の記載に基づき実施することができるものである。
具体的には、「高酸素条件、化学的突然変異源及び紫外線照射からなる群から選択される条件下で組換え宿主を生育させる工程」は、本願明細書の実施例8に具体的に記載された工程であり、当業者の実施を妨げるような事項は包含されておらず、請求項1に記載された文言のとおり実施することが可能である。
また、「ポリヒドロキシアルカノエートの蓄積に関してスクリーニングする工程」についても同様である。当該工程も本願明細書の実施例8に記載された工程であり、当業者であれば本願出願時の技術常識を考慮して、本願明細書の記載に基づいて実施可能な工程である。

(イ)主張に対する判断
請求人は、本願補正発明1の組換え宿主を取得するプロセスが本願明細書の記載に基づいて実施可能に記載されていることを主張する。
しかしながら、「内因性の野生型4HB-CoAトランスフェラーゼに比べ、高酸素条件下でポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼ」を有する組換え宿主は、発明の詳細な説明に記載された方法により実際に得られているとはいえない。
また、発明の詳細な説明には、突然変異体は化学的変異原や紫外線照射で処理を行うことにより取得し得ることが記載されているが、これらの処理により、菌類にどのような突然変異が起きるか不明であるから、本願補正発明1の「内因性の野生型4HB-CoAトランスフェラーゼに比べ、高酸素条件下でポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼ」を有する組換え宿主を取得するためには、突然変異処理を施した組換え宿主をPHAの蓄積に関してスクリーニングし、さらに、スクリーニングにより得られた突然変異体が保持する4HB-CoAトランスフェラーゼの高酸素条件下における活性について確認し、「内因性の野生型4HB-CoAトランスフェラーゼに比べ、高酸素条件下でポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼ」を有する組換え宿主を選択する必要があり、通常当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤を行なう必要がある。
よって、請求人の主張は採用できない。

エ.小括
したがって、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第6項第1号及び第4項に規定する要件を満たしていないので、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しないものであるが、仮に、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものであっても、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである

第3 本願発明
1.本願発明について
平成23年9月9日付手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は、平成22年9月29日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されたとおりのものであるところ、そのうち請求項1に係る発明は次のとおりである(以下、「本願発明1」という。)。
「【請求項1】
ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼおよび4HB-CoAトランスフェラーゼからなる群より選択される異種酵素をコードする遺伝子をゲノムに安定に取り込んだ、組換え宿主であって、該遺伝子の発現が増強されている、組換え宿主であって、該4HB-CoAトランスフェラーゼは、内因性の野生型4HB-CoAトランスフェラーゼに比べ、高酸素条件下でポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼである組換え宿主。」

2.原査定の理由
原査定の理由は、本願が特許法第36条第6項第1号及び第36条第4項に規定する要件を満たさず、特許を受けることができないというものである。

3.特許法第36条第6項第1号及び同条第4項に規定する要件についての判断
(1)本願明細書の記載
上記「第2 3.(2)ア.」に記載したとおりである。

(2)当審の判断
上記「第2 3.(2)イ.」で述べたように、「内因性の野生型4HB-CoAトランスフェラーゼに比べ、高酸素条件下でポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼ」を有する組換え宿主は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
また、本願発明1の「内因性の野生型4HB-CoAトランスフェラーゼに比べ、高酸素条件下でポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼ」を有する組換え宿主を取得するためには、突然変異処理を施した組換え宿主をPHAの蓄積に関してスクリーニングし、さらに、スクリーニングにより得られた突然変異体が保持する4HB-CoAトランスフェラーゼの高酸素条件下における活性について確認し、「内因性の野生型4HB-CoAトランスフェラーゼに比べ、高酸素条件下でポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼ」を有する組換え宿主を選択する必要があり、通常当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤を行なう必要がある。
よって、本願発明1について、本願出願時の技術常識を考慮しても、本願の発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に記載の発明について、本願は、特許法第36条第6項第1号及び同条第4項に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2013-01-16 
結審通知日 2013-01-22 
審決日 2013-02-04 
出願番号 特願2008-328226(P2008-328226)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C12N)
P 1 8・ 572- Z (C12N)
P 1 8・ 536- Z (C12N)
P 1 8・ 575- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 濱田 光浩  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 冨永 みどり
六笠 紀子
発明の名称 4-ヒドロキシ酸を含むポリヒドロキシアルカノエートポリマー製造のための生物学的システム  
代理人 川口 義雄  
代理人 大崎 勝真  
代理人 渡邉 千尋  

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