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審決分類 |
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C12N 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C12N 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N |
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管理番号 | 1275744 |
審判番号 | 不服2011-19483 |
総通号数 | 164 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-08-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-09-09 |
確定日 | 2013-06-19 |
事件の表示 | 特願2008-328227「4-ヒドロキシ酸を含むポリヒドロキシアルカノエートポリマー製造のための生物学的システム」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 8月 6日出願公開、特開2009-171960〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成10(1998)年9月18日(パリ条約による優先権主張 1997年9月19日、米国)を国際出願日とする特願2000-511853号の一部を特許法第44条第1項の規定により平成15年5月9日に新たな特許出願とした特願2003-132325号のさらに一部を平成20年12月24日に新たな特許出願としたものであって平成22年2月4日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたが、平成23年4月26日付で拒絶査定がなされ、これに対して、平成23年9月9日付で拒絶査定不服審判が請求され、同日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。 第2 平成23年9月9日付の手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成23年9月9日付の手続補正を却下する。 [理由] 1.補正の内容 上記補正により特許請求の範囲の請求項1は、補正前の 「【請求項1】 宿主において4HBを含むポリマーの生成を増強するための方法であって、該方法は、以下の工程: ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼおよび4HB-CoAトランスフェラーゼからなる群より選択される異種酵素をコードする遺伝子を、該宿主のゲノムに安定に取り込む工程、ならびに 該異種酵素の発現を増強する工程、 を包含する、方法であって、当該4HB-CoAトランスフェラーゼが、酸素非感受性の4HB-CoAトランスフェラーゼ又は、野生型の4HB-CoAトランスフェラーゼと比較しポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼである方法。」 から、 「【請求項1】 宿主において4HBを含むポリマーの生成を増強するための方法であって、該方法は、以下の工程: ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼおよび4HB-CoAトランスフェラーゼからなる群より選択される異種酵素をコードする遺伝子を、該宿主のゲノムに安定に取り込む工程、ならびに 該異種酵素の発現を増強する工程、 を包含する、方法であって、該異種酵素の発現を増強する工程は、高酸素条件、化学的突然変異源及び紫外線照射からなる群から選択される条件下で組換え宿主を生育させること、及びポリヒドロキシアルカノエートの蓄積に関してスクリーニングすることによるものであって、当該4HB-CoAトランスフェラーゼが、酸素非感受性の4HB-CoAトランスフェラーゼ又は、野生型の4HB-CoAトランスフェラーゼと比較しポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼである方法。」 へと補正された。 2.補正の目的要件について この補正は、補正前の請求項1の発明特定事項である「該異種酵素の発現を増強する工程」が「該異種酵素の発現を増強する工程は、高酸素条件、化学的突然変異源及び紫外線照射からなる群から選択される条件下で組換え宿主を生育させること、及びポリヒドロキシアルカノエートの蓄積に関してスクリーニングすることによるものである」ことを追加するものである。 しかしながら、この補正は、どのようにして異種酵素の発現を増強させるのか具体的に言及していない補正前の請求項1において、特定条件下で組換え宿主を生育させ、PHAの蓄積に関してスクリーニングすることにより行われる工程であることを追加するものであって、発明特定事項を概念的により下位の発明特定事項とする補正ではないから、発明を特定するための事項の限定であるとはいえない。 よって、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものには該当しない。 さらに、この補正は、請求項の削除、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)のいずれに該当するものでもない。 以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項各号のいずれを目的とするものに該当せず、同法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.独立特許要件について 上記2.のとおり、本件補正は平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるが、念のため、仮に、本件補正が平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号および第4号を目的とする補正に該当するとした場合に、補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下検討する。 (1)本願補正発明1 本願補正発明1は、平成23年9月9日付の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 宿主において4HBを含むポリマーの生成を増強するための方法であって、該方法は、以下の工程: ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼおよび4HB-CoAトランスフェラーゼからなる群より選択される異種酵素をコードする遺伝子を、該宿主のゲノムに安定に取り込む工程、ならびに 該異種酵素の発現を増強する工程、 を包含する、方法であって、該異種酵素の発現を増強する工程は、高酸素条件、化学的突然変異源及び紫外線照射からなる群から選択される条件下で組換え宿主を生育させること、及びポリヒドロキシアルカノエートの蓄積に関してスクリーニングすることによるものであって、 当該4HB-CoAトランスフェラーゼが、酸素非感受性の4HB-CoAトランスフェラーゼ又は、野生型の4HB-CoAトランスフェラーゼと比較しポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼである方法。」 (2)特許法第36条第6項第1号及び同条第4項について ア.本願明細書の記載 本願明細書には、高酸素条件下でのPHA産生に関して以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審で付与した。 (ア)「(実施例8:空気非感受性4-ヒドロキシブチリルCoAトランスフェラーゼのスクリーニング方法) C.kluyveri由来の4-ヒドロキシブチリル-CoAトランスフェラーゼは空気、おそらく酸素によって阻害されるようである。高酸素条件下でP4HBを合成するために、4-ヒドロキシブチリル-CoAトランスフェラーゼをコードするhbcT遺伝子をプラスミド上に有し、そしてPHAシンターゼ遺伝子を染色体上に有するE.coli株の変異体を増殖させ、そして細胞群の大多数が灰色のコロニーを形成する場合に、白色のコロニー(PHAの蓄積を示す)を探索することによって、酸素非感受性変異体をスクリーニングし得る。酸素非感受性細胞株MBX240[pFS16]、MBX379[pFS16]およびMBX830[pFS16]をこの方法を用いて同定した。変異体の集団は、インビボでもとの株をN-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジンまたはエチルメタンスルホン酸のような化学的突然変異原、または紫外線照射で処理することにより産生し得る。あるいは、hbcTを含むプラスミドに、インビトロでヒドロキシルアミンを用いて突然変異を誘発し得る。次に機能的な4-ヒドロキシブチリル-CoAトランスフェラーゼを発現している変異体を、固形培地または高度に酸素添加した液体培地中で、4-ヒドロキシ酪酸からのP4HB形成に関してスクリーニングする。」(段落【0081】) イ.当審の判断 (ア)本願補正発明1 本願補正発明1には、「当該4HB-CoAトランスフェラーゼが、酸素非感受性の4HB-CoAトランスフェラーゼ又は、野生型の4HB-CoAトランスフェラーゼと比較しポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼである方法」と記載されており、「4HB-CoAトランスフェラーゼ」の性質が選択肢で記載されている。 ここで、前者の性質を選択した場合の態様は、以下のとおりである(以下、「本願補正発明1a」という。)。なお、下線は当審で付与した。 「宿主において4HBを含むポリマーの生成を増強するための方法であって、該方法は、以下の工程: ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼおよび4HB-CoAトランスフェラーゼからなる群より選択される異種酵素をコードする遺伝子を、該宿主のゲノムに安定に取り込む工程、ならびに 該異種酵素の発現を増強する工程、 を包含する、方法であって、該異種酵素の発現を増強する工程は、高酸素条件、化学的突然変異源及び紫外線照射からなる群から選択される条件下で組換え宿主を生育させること、及びポリヒドロキシアルカノエートの蓄積に関してスクリーニングすることによるものであって、 当該4HB-CoAトランスフェラーゼが、酸素非感受性の4HB-CoAトランスフェラーゼである方法。」 (イ)判断 a.上記記載事項(ア)によれば、本願の発明の詳細な説明には、高酸素条件下でPHAを蓄積する酸素非感受性変異体3株を得たことが記載されているが、これらの変異体は、具体的にどのような変異が起きたことにより高酸素条件下でPHAを蓄積することができるようになったのかについて確認されていない。 上記記載事項(ア)には、突然変異体は化学的変異原や紫外線照射で処理を行うことにより取得し得ることが記載されているが、PHAの生合成には種々の酵素等の因子が関与しているところ、これらの処理により菌類に生じる突然変異はランダムに誘発されるものであるから、当該3株は、具体的にどのような変異により、高酸素条件下でPHAの蓄積を示す性質を獲得したのか全く不明であるというべきであり、4HB-CoAトランスフェラーゼ以外のPHAの産生経路に関与する因子の変異により、高酸素条件下でのPHAの蓄積を示す性質を獲得したことも考えられる。 そうすると、本願明細書の記載からは、当該3株それぞれが有する4HB-CoAトランスフェラーゼ自体が「酸素非感受性の4HB-CoAトランスフェラーゼ」であるかどうかは不明である。 よって、本願出願時の技術常識を考慮しても、「酸素非感受性の4HB-CoAトランスフェラーゼ」を有する「宿主において4HBを含むポリマーの生成を増強するための方法」を提供するという発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように発明の詳細な説明が記載されているとはいえない。 したがって、本願補正発明1aは、本願の発明の詳細な説明に記載されたものではなく、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 b.上記のとおり、「酸素非感受性の4HB-CoAトランスフェラーゼ」を有する宿主は、発明の詳細な説明に記載された方法により実際に得られているとはいえない。 また、本願補正発明1aの「酸素非感受性の4HB-CoAトランスフェラーゼ」を有する宿主を取得するためには、突然変異処理を施した組換え宿主をPHAの蓄積に関してスクリーニングし、さらに、スクリーニングにより得られた突然変異体が保持する4HB-CoAトランスフェラーゼの酸素感受性について確認し、「酸素非感受性の4HB-CoAトランスフェラーゼ」を有する組換え宿主を選択する必要があり、通常当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤を行なう必要がある。 よって、本願補正発明1aについて、本願出願時の技術常識を考慮しても、本願の発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められず、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 c.以上のとおりであるから、本願補正発明1aをその態様として包含する本願補正発明1についても同様に、本願は、特許法第36条第6項第1号及び同条第4項に規定する要件を満たしていない。 (ウ)請求人の主張について a.請求人の主張 請求人は、平成24年11月8日付回答書において、実施可能要件違反の拒絶理由に関して以下の点を主張する。 [主張] 本願補正発明1の方法のうち、「該異種酵素の発現を増強する工程」は、「高酸素条件、化学的突然変異原及び紫外線照射からなる群から選択される条件下で組換え宿主を生育させること」及び「ポリヒドロキシアルカノエートの蓄積に関してスクリーニングすること」により行われる工程である。当該工程について、「高酸素条件、化学的突然変異原及び紫外線照射からなる群から選択される条件下で組換え宿主を生育されること」も「ポリヒドロキシアルカノエートの蓄積に関してスクリーニングすること」も、本願明細書実施例8に具体的に記載された方法であり、本願補正発明1の方法におけるいずれの工程も当業者であれば本願明細書の記載及び本願出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤をすることなく実施することができるのである。 b.主張に対する判断 しかしながら、上記のように「酸素非感受性の4HB-CoAトランスフェラーゼ」を有する宿主は、発明の詳細な説明に記載された方法により実際に得られているとはいえない。 また、発明の詳細な説明には、突然変異体は化学的変異原や紫外線照射で処理を行うことにより取得し得ることが記載されているが、これらの処理により、菌類にどのような突然変異が起きるか不明であるから、本願補正発明1aの「酸素非感受性の4HB-CoAトランスフェラーゼ」を有する宿主を取得するためには、突然変異処理を施した組換え宿主をPHAの蓄積に関してスクリーニングし、さらに、スクリーニングにより得られた突然変異体が保持する4HB-CoAトランスフェラーゼの酸素感受性について確認し、「酸素非感受性の4HB-CoAトランスフェラーゼ」を有する組換え宿主を選択する必要があり、通常当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤を行なう必要がある。 よって、請求人の主張は採用できない。 ウ.小括 したがって、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第6項第1号及び第4項に規定する要件を満たしていないので、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。 (3)特許法第29条第2項 ア.引用例 原審の平成21年7月31日付の拒絶理由通知書において、引用例1として引用された本願の優先日前に頒布された刊行物であるFEMS Microbiol Lett 153 p.411-418 (Aug. 1997)(以下、「引用例1」という。)は「大腸菌の組換え株によるポリ(4-ヒドロキシ酪酸)の生合成」と題する論文であって、以下の事項が記載されている。 (i)「A.eutroplus由来の全PHAシンターゼ構造遺伝子(phaCAc)とβケトチオラーゼ構造遺伝子の5’領域の1179塩基のうちの878塩基(phaA’Ac)を含む3.5kbのSmaI/ApaI制限断片(SA35と呼ばれる)が以前クローニングされたハイブリッドプラスミドpSK2665から単離された。加えて、C.Kluyveri由来の全orfZCkを含む1.8kbのApaI/EcoRI制限断片(AE18と呼ばれる)が以前クローニングされたハイブリッドプラスミドpCK3pSKから単離された。」(413頁左欄5-14行) (ii)「3.2 大腸菌の形質転換株における4-ヒドロキシブチル酸からのポリ(4HB)の生合成 (略) phaCAc,phaA’Ac、orfZCkを含むハイブリッドプラスミドpKSSE5.3とpSKSE5.3は、大腸菌がPHAを合成および蓄積できるようにした。」(413頁右欄下から3行-414頁左欄第10行) (iii) 「これらの実験の結果から、orfZCkは4HBを4HB-CoAに変換できる酵素をコードすることが明らかに結論づけられる。」(414頁右欄第3-6行)。 上記記載からみて、引用例1には、A.eutroplus由来の全PHAシンターゼ構造遺伝子と、βケトチオラーゼ構造遺伝子の5’領域の1179塩基のうち878塩基を含む断片と、4HBを4HB-CoAに変換できる酵素をコードする遺伝子であるC.Kluyveri由来の全orfZCkを含む断片を含むハイブリッドプラスミドを用いた大腸菌の形質転換株において、ポリ(4HB)を合成したことが記載されている。 イ.周知技術について (ア)原審の平成21年7月31日付の拒絶理由通知において、周知技術を示すために参考文献3として提示された、J Bacteriol 172(11) p.6557-6567 (1990)(以下、「参考文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。 (i)「染色体にクローニングされた遺伝子を挿入することは、いくつかの状況下においてしばしば好ましく、そのような状況下では、遺伝子が低レベル、しばしば天然のコピー数で保持され、過剰発現されず、少なくとも理論的には染色体遺伝子と同じ程度に安定である。」(6557頁右欄第9-13行)、 (ii)「図9 トランスポゾンベクターによる、S.antibioticus由来のメラニン遺伝子の挿入と発現 (略)メラニン産生における変化は、新規に挿入されたmel構造遺伝子(originallyには、三角形で示されるplacプロモーターから読まれる)の上流に位置する、異なる染色体プロモーターに由来する。」(6565頁図9の説明) (イ)同じく、原審の平成21年7月31日付の拒絶理由通知において、周知技術を示すために参考文献2として提示された、本願優先日前の1997年8月14日に頒布された刊行物である国際公開第97/29123号(以下、「参考文献2」という。)には、以下の記載がなされている。 (i)「また、本発明は提供する配列のうちのいずれか1つを備えた核酸を含む核酸構築物またはベクター、好ましくは核酸配列がコードするポリペプチドを発現し得る構築物またはベクターを提供する。構築物またはベクターは、植物細胞の形質転換に好適である。本発明はさらに、このような構築物またはベクターで形質転換された宿主細胞、特に植物細胞を含む。従って、本発明による核酸を含む植物細胞などの宿主細胞が提供される。この細胞内で、核酸を染色体内に組み込んでもよい。半数ゲノムにつき1つを超える異種ヌクレオチド配列があってよい。後で論じるように、これによると、例えば内因性レベルと比較して高い遺伝子生成物の発現が可能になる。 特にゲノムの組換えのために細胞へ核酸を導入するためにベクターを使用する場合、本発明による核酸を含む構築物またはベクターにプロモーター配列または他の調節配列を含める必要はない。しかしながら一態様では、本発明は、発現を調節するための調節配列と連結した、GAIまたはgaiのコード配列(略)を含む核酸構築物であって、調節配列がコード配列と自然に融合したもの以外であり、あるいは好ましくは別の遺伝子に由来したものである核酸構築物を提供する。」(7頁第15行-8頁15行)、 (ii)「遺伝子はゲノム外のベクター上にあるか、またはゲノムへ好ましくは安定して組み込まれる。(略)非相同の遺伝子の導入の利点は、遺伝子発現に影響を及ぼすこと、それ故好みの植物の成長および/または開発を可能とするために、選択されたプロモーターの調節下で遺伝子の発現が可能であることである。」(21頁3行-同頁14行)、 (iii)「実施例4 発現構築物および植物の形質転換 (a)内因性のプロモーターを使用した通常の発現レベル 適切なゲノムクローンからサブクローンを作ることによって、GAIおよびgai遺伝子を5kbのEcoRI/EcoRV断片(略)として単離した。これらの断片をBluescriptベクターにクローン化し、EcoRI/XbaI断片として再度単離し、アグロバクテリウム-ツメファシエンスC58C1に導入するためにバイナリー・ベクターへ連結し、このときT-DNAをValvekens等によって記載されたアラビドプシスおよびタバコ植物に導入したか、あるいはより新しい真空浸潤法によって、Moloney等の論文に記載されている高効率アグロバクテリウム形質転換技術を使用してBrassica napusに導入した。 (b)外因性プロモーターを使用した過剰発現 単独の35Sプロモーターを含むpJIT60の変更形の、二重の35Sプロモーター35およびpJIT62を含むpJIT60ベクター由来のDNAを使用して構築物を作製した。(略)」(44頁17行-45頁20行) (ウ)これらの参考文献の記載からみても、外来遺伝子をゲノムに安定に挿入した組換え宿主において、遺伝子を発現させることは、本願優先日前における周知技術である。 ウ.対比 (ア)本願補正発明1について 本願補正発明1には、「当該4HB-CoAトランスフェラーゼが、酸素非感受性の4HB-CoAトランスフェラーゼ又は、野生型の4HB-CoAトランスフェラーゼと比較しポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼである方法」と記載されており、「4HB-CoAトランスフェラーゼ」の性質が選択肢で記載されている。 ここで、後者の性質を選択した場合の態様は、以下のとおりである(以下、「本願補正発明1b」という。)。なお、下線は当審で付与した。 「宿主において4HBを含むポリマーの生成を増強するための方法であって、該方法は、以下の工程: ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼおよび4HB-CoAトランスフェラーゼからなる群より選択される異種酵素をコードする遺伝子を、該宿主のゲノムに安定に取り込む工程、ならびに 該異種酵素の発現を増強する工程、 を包含する、方法であって、該異種酵素の発現を増強する工程は、高酸素条件、化学的突然変異源及び紫外線照射からなる群から選択される条件下で組換え宿主を生育させること、及びポリヒドロキシアルカノエートの蓄積に関してスクリーニングすることによるものであって、 当該4HB-CoAトランスフェラーゼが、野生型の4HB-CoAトランスフェラーゼと比較しポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼである方法。」 (イ)対比 本願補正発明1bと引用例1に記載された発明を対比すると、引用例1に記載の「PHAシンターゼ」および「4HBを4HBCoAに変換できる酵素」は、本願補正発明1bの「ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼ」及び「4HB-CoAトランスフェラーゼ」にそれぞれ相当する。また、上記「ア.(ii)」の、形質転換された大腸菌が「PHAを合成および蓄積できるようにした」との記載は、そのPHA合成機構からみて、大腸菌において「PHAシンターゼ」遺伝子および「4HBを4HBCoAに変換できる酵素」をコードする遺伝子の発現が増強され、ひいては、ポリ(4HB)の生成が増強されたことを示すものであることは明らかである。すると両者は、 「宿主において4HBを含むポリマーの生成を増強するための方法であって、該方法は、以下の工程: ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼおよび4HB-CoAトランスフェラーゼからなる群より選択される異種酵素をコードする遺伝子を、該宿主に取り込む工程、ならびに該異種酵素の発現を増強する工程、を包含する方法」である点で一致しており、以下の点で相違する。 相違点1:本願補正発明1bは当該遺伝子がゲノムに安定に取り込まれているのに対して、引用例1では当該遺伝子がプラスミドで組み込まれている点。 相違点2:本願補正発明1bでは、「該異種酵素の発現を増強する工程」は、「高酸素条件、化学的突然変異源及び紫外線照射からなる群から選択される条件下で組換え宿主を生育させること、及びポリヒドロキシアルカノエートの蓄積に関してスクリーニングすること」によるものであって、宿主が有する4HB-CoAトランスフェラーゼが、「野生型の4HB-CoAトランスフェラーゼと比較しポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼである」のに対し、引用例1では、特にそのようなことは記載されていない点。 エ.判断 (ア)相違点1について 上記「イ.」で指摘のとおり、外来遺伝子をゲノムに安定に挿入した組換え宿主において、遺伝子を発現させることは、本願優先日前に当該分野における周知技術であるから、引用例1に記載された発明において遺伝子をプラスミドで組み込むことに代えて、ゲノムに安定に取り込んで遺伝子を発現させることは、当業者が容易に想到し得ることである。 (イ)相違点2について 細胞に目的物質を産生させる方法において、目的物質を高発現させることは当該技術分野における周知の課題であり、そのために、化学的突然変異源や紫外線照射により突然変異を誘発して、目的物質をより多く生産する突然変異体を取得することは本願優先日前における周知技術である(要すれば、例えば、特開平6-90742号公報、特開平6-209763号公報及び特開平5-501955号公報参照)。 そうすると、引用例1に記載された組換え宿主を、本願補正発明1bにおけるスクリーニングの際の選択肢の一つである化学的突然変異源又は紫外線照射条件下で生育させ、PHAの蓄積に関してスクリーニングを行ことにより、野生型の4HB-CoAトランスフェラーゼと比較しポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼを有する突然変異体を取得することは、当業者が容易に想到し得ることである。 そして、本願補正発明1bにより、引用例1に記載された発明および周知技術から予測し得ない有利な効果が奏されたとはいえない。 オ.小括 以上の理由により、本願補正発明1bは、引用例1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本願補正発明1bをその態様として包含する本願補正発明1も同様であるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 4.むすび したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しないものであるが、仮に、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものであっても、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである 第3 本願発明 1.本願発明 (1)本願発明1 平成23年9月9日付手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は、平成22年2月4日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されたとおりのものであるところ、そのうち請求項1に係る発明は次のとおりである(以下、「本願発明1」という。)。 「【請求項1】 宿主において4HBを含むポリマーの生成を増強するための方法であって、該方法は、以下の工程: ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼおよび4HB-CoAトランスフェラーゼからなる群より選択される異種酵素をコードする遺伝子を、該宿主のゲノムに安定に取り込む工程、ならびに 該異種酵素の発現を増強する工程、 を包含する、方法であって、当該4HB-CoAトランスフェラーゼが、酸素非感受性の4HB-CoAトランスフェラーゼ又は、野生型の4HB-CoAトランスフェラーゼと比較しポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼである方法。」 (2)本願発明1a 本願発明1は、「4HB-CoAトランスフェラーゼ」の性質が「酸素非感受性の4HB-CoAトランスフェラーゼ又は、野生型の4HB-CoAトランスフェラーゼと比較しポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼである」と選択肢で記載されている。 ここで、前者の性質を選択した場合の態様は、以下のとおりである(以下、「本願発明1a」という。)。 「宿主において4HBを含むポリマーの生成を増強するための方法であって、該方法は、以下の工程: ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼおよび4HB-CoAトランスフェラーゼからなる群より選択される異種酵素をコードする遺伝子を、該宿主のゲノムに安定に取り込む工程、ならびに 該異種酵素の発現を増強する工程、 を包含する、方法であって、当該4HB-CoAトランスフェラーゼが、酸素非感受性の4HB-CoAトランスフェラーゼである方法。」 (3)本願発明1b また、後者の性質を選択した場合の態様は、以下のとおりである(以下、「本願発明1b」という。)。 「宿主において4HBを含むポリマーの生成を増強するための方法であって、該方法は、以下の工程: ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼおよび4HB-CoAトランスフェラーゼからなる群より選択される異種酵素をコードする遺伝子を、該宿主のゲノムに安定に取り込む工程、ならびに 該異種酵素の発現を増強する工程、 を包含する、方法であって、当該4HB-CoAトランスフェラーゼが、野生型の4HB-CoAトランスフェラーゼと比較しポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼである方法。」 2.原査定の理由 原査定の理由は、本願が特許法第36条第6項第1号及び第36条第4項に規定する要件を満たさず、特許を受けることができないというものである。 3.特許法第36条第6項第1号及び同条第4項 (1)本願明細書の記載 上記「第2 3.(2)ア.」に記載したとおりである。 (2)当審の判断 上記「第2 3.(2)イ.」で述べたように、本願発明1aの「酸素非感受性の4HB-CoAトランスフェラーゼ」を有する宿主は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。 また、本願発明1aの「酸素非感受性の4HB-CoAトランスフェラーゼ」を有する宿主を取得するためには、突然変異処理を施した組換え宿主をPHAの蓄積に関してスクリーニングし、さらに、スクリーニングにより得られた突然変異体が保持する4HB-CoAトランスフェラーゼの高酸素条件下における活性について確認し、「内因性の野生型4HB-CoAトランスフェラーゼに比べ、高酸素条件下でポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼ」を有する組換え宿主を選択する必要があり、通常当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤を行なう必要がある。 よって、本願発明1aについて、本願出願時の技術常識を考慮しても、本願の発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。 以上のとおりであるから、本願発明1aをその態様として包含する本願発明1について、本願は特許法第36条第6項第1号及び第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 4.特許法第29条第2項 (1)原審における拒絶理由 原審において、平成21年7月31日付け拒絶理由通知書で以下の内容を含む拒絶理由が通知された。 「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用例等については引用例等一覧参照) ・請求項1-5について引用例1 引用例1には、ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼと4HB-CoAトランスフェラーゼをコードする遺伝子が挿入されたプラスミドを用いて形質転換された大腸菌においてポリ-4-ヒドロキシ酪酸を合成したことが記載されている。 一般に外来遺伝子がゲノムに組み込まれると安定化することは本願優先日前周知の事項であり(要すれば下記参考文献1,2参照)、また大腸菌のゲノムに遺伝子を挿入する手法も本願優先日前に確立された手法である(要すれば下記参考文献3参照)。 さらに、外来遺伝子を高発現させることは当業界における自明の課題であり、その方法として高発現プロモーターを用いることや、その変異を誘発してより高発現のものを得ることは周知の手法である。 したがって、引用例1に記載の発明において、高発現プロモーターの制御下でポリヒドロキシアルカノエートシンターゼと4HB-CoAトランスフェラーゼをコードする遺伝子を大腸菌のゲノムに導入し、ポリ-4-ヒドロキシ酪酸を合成することや、発現が増強された組換え大腸菌を選択することは当業者が容易に想到し得たことである。 また、大腸菌はグルタミン酸-コハク酸セミアルデヒドトランスアミナーゼや4-ヒドロキシブチリルCoAトランスフェラーゼやγアミノ酪酸を生成する酵素を発現する宿主であると認められる。 そして、本願請求項1-5に係る発明特定事項により格別の効果が奏されるものであるとも認められない。 引 用 例 等 一 覧 引用例1.FEMS Microbiology Letters (Aug. 1997),Vol.153, No.2,p.411-41 8 参考文献1.国際公開第96/40952号(第8頁第24-29行参照) 参考文献2.国際公開第97/29123号(第21頁第3-5行参照) 参考文献3.J. Bacteriol. 1990, Vol.172, p.6557-6567」 (2)引用例 平成21年7月31日付拒絶理由で通知された引用例1および周知技術を示すために提示された参考文献2及び3の記載は上記「第2 3.(3)ア.」で指摘のとおりである。 (3)対比 本願発明1bは、本願補正発明1bにおいて、「該異種酵素の発現を増強する工程は、高酸素条件、化学的突然変異源及び紫外線照射からなる群から選択される条件下で組換え宿主を生育させること、及びポリヒドロキシアルカノエートの蓄積に関してスクリーニングすることによるものである」という発明特定事項が除かれたものである。 本願発明1bと引用例1に記載された発明を対比すると、両者は、 「宿主において4HBを含むポリマーの生成を増強するための方法であって、該方法は、以下の工程: ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼおよび4HB-CoAトランスフェラーゼからなる群より選択される異種酵素をコードする遺伝子を、該宿主に取り込む工程、ならびに該異種酵素の発現を増強する工程、を包含する方法」である点で一致しており、以下の点で相違する。 相違点1:本願発明1bは当該遺伝子がゲノムに安定に取り込まれているのに対して、引用例1では当該遺伝子がプラスミドで組み込まれている点。 相違点2:本願発明1bでは、宿主が有する4HB-CoAトランスフェラーゼが、「野生型の4HB-CoAトランスフェラーゼと比較しポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼである」のに対し、引用例1では、特にそのようなことは記載されていない点。 (4)判断 ア.相違点1について 外来遺伝子をゲノムに安定に組み込むことは、上記「第2 3.(3)エ.(ア)相違点1について」で指摘のとおり、当該分野における周知技術であるから、引用例1に記載された発明において、遺伝子をプラスミドで組み込むことにかえて、ゲノムに挿入することは当業者が容易に想到し得るものである。 イ.相違点2について 上記「第2 3.(3)エ.(イ)相違点2について」で指摘のとおり、細胞に目的物質を産生させる方法において、目的物質を高発現させることは周知の課題であり、そのために、突然変異誘発により目的物質を高発現する突然変異体を取得することは周知技術であるから、引用例1に記載された組換え宿主に突然変異を誘発することにより、野生型の4HB-CoAトランスフェラーゼと比較してポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼを有する突然変異体を取得することは、当業者が容易に想到し得ることである。 そして、本願発明1bにより、引用例1に記載された発明および周知技術から予測し得ない有利な効果が奏されたとはいえない。 ウ.請求人の主張 請求人は、平成22年2月4日付意見書において、引用例1には、PHAの産生量を増すために、4HB-CoAトランスフェラーゼに変異を入れることについて教示がないことを主張する。 しかしながら、上記「イ.」で述べたように、細胞に目的物質を産生させる方法において、目的物質を高発現させることは周知の課題であり、そのために、突然変異誘発により目的物質を高発現する突然変異体を取得することは周知技術であるから、引用例1に記載された組換え宿主に突然変異を誘発することにより、野生型の4HB-CoAトランスフェラーゼと比較してポリヒドロキシアルカノエートをより多く生産する4HB-CoAトランスフェラーゼを有する突然変異体を取得することは、当業者が容易に想到し得ることである。 エ.小括 したがって、本願発明1bは、引用例1に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得たものであり、本願発明1bをその態様として包含する本願発明1も同様である 第4 むすび 以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明について、本願は、特許法第36条第6項第1号及び同条第4項に規定する要件を満たしておらず、また、本願請求項1に係る発明は、特許法29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-01-21 |
結審通知日 | 2013-01-22 |
審決日 | 2013-02-04 |
出願番号 | 特願2008-328227(P2008-328227) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
Z
(C12N)
P 1 8・ 536- Z (C12N) P 1 8・ 121- Z (C12N) P 1 8・ 572- Z (C12N) P 1 8・ 575- Z (C12N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 濱田 光浩 |
特許庁審判長 |
鵜飼 健 |
特許庁審判官 |
冨永 みどり 六笠 紀子 |
発明の名称 | 4-ヒドロキシ酸を含むポリヒドロキシアルカノエートポリマー製造のための生物学的システム |
代理人 | 渡邉 千尋 |
代理人 | 大崎 勝真 |
代理人 | 川口 義雄 |