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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09K |
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管理番号 | 1275752 |
審判番号 | 不服2011-27849 |
総通号数 | 164 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-08-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-12-26 |
確定日 | 2013-06-19 |
事件の表示 | 特願2004- 37045「ネマチック液晶混合物およびそれを含むディスプレイ」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 9月 2日出願公開、特開2004-244637〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成16年2月13日(パリ条約による優先権主張 2003年2月15日 ドイツ)の出願であって、平成22年7月23日付けで拒絶理由が通知され、同年12月28日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成23年8月19日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、これに対して、同年12月26日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 第2.本願発明 本願の請求項1?11に係る発明は、平成22年12月28日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりものであると認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。 「下記式Iの少なくとも1種の化合物と、下記式IIIcの少なくとも1種の化合物と、を含むことを特徴とする液晶混合物。 【化1】 [式I中、 R^(11)は、CH_(2)=CH-またはCH_(3)-CH=CH-であり、 R^(12)は、CH_(2)=CH-またはCH_(3)-CH=CH-である。]、 【化2】 [式IIIc中、 Rは、炭素原子1から12個を有するアルキルまたはアルコキシ基か、炭素原子2から12個を有するアルケニル基かであり、さらに、これらの基の中の1個または複数のCH_(2)基は、ヘテロ原子(-O-および-S-)が互いに直接連結しないように-O-、-S-、-C≡C-、-CO-、-OCO-または-COO-で置換されていてもよく、L^(1)、L^(2)、およびL^(3)は、それぞれ互いに独立にHまたはFである。]。」 なお、式IIIc中にL^(3)は存在しないので、L^(3) に関する定義は明らかな誤記と認める。 第3.原査定の拒絶理由の概要 原査定の拒絶の理由は、平成22年7月23日付け拒絶理由通知書に記載した理由3、すなわち、「本願に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない」というものであり、併せて以下の文献が引用されている。 1.特開平9-52851号公報 第4.当審の判断 4-1.引用文献 引用刊行物1:特開平9-52851号公報 (原査定における引用文献1) 4-2.引用刊行物1の記載事項 引用刊行物1には次の事項が記載されている。下線は当審にて付与した。 摘示A. 「【特許請求の範囲】 【請求項1】一般式(1) 【化1】 (式中、R_(1) は炭素数1?15のアルキル基、炭素数2?15のアルケニル基、それらの基中の隣接しない1つ以上のメチレン基(-CH_(2)-)が-O-、-S-、-C≡C-によって置き換えられた基のいずれかを示し、R_(2) は水素原子または炭素数1?10のアルキル基を示し、mは0?5を示し、mが2以上の場合-(CH_(2))m-中の1つのメチレン基(-CH_(2)-)が-O-で置き換わっていてもよく、環A_(1),A_(2),A_(3) はそれぞれ独立して1, 4-シクロヘキシレン、シクロヘキセン-1,4-ジイル、該6員環上の1つまたは2つの-CH_(2)-が-O-または-S-で置換された環のいずれかを示す。)で表されるアルケニルシクロヘキサン誘導体。」 【請求項2】一般式(1)においてm=0で表される請求項(1)に記載のアルケニルシクロヘキサン誘導体。」 摘示B. 「【請求項4】一般式(1)においてR_(1) がアルケニル基で表される請求項2に記載のアルケニルシクロヘキサン誘導体。」 摘示C. 「【請求項8】第一成分として、請求項1?5のいずれかに記載のアルケニルシクロヘキサン誘導体を少なくとも1種類含有し、第二成分として、一般式(5)、(6)、(7)、(8)および(9) 【化3】 (式中、R_(4)はF、炭素数1?10のアルキル基または炭素数2?10のアルケニル基を示す。該アルキル基またはアルケニル基中の任意のメチレン基(-CH_(2)-)は酸素原子(-O-)によって置換されていてもよいが、2つ以上のメチレン基が連続して酸素原子に置換されることはない。環Aはトランス-1,4-シクロヘキシレン基、1,4-フェニレン基、ピリミジン-2,5-ジイル基または1,3-ジオキサン-2,5-ジイル基を示し、環Bはトランス-1,4-シクロヘキシレン基、1,4-フェニレン基またはピリミジン-2,5-ジイル基を示し、環Cはトランス-1,4-シクロヘキシレン基または1,4-フェニレン基を示し、Z_(3)は-(CH_(2))_(2)-、-COO-または共有結合を示し、L_(5)およびL_(6)は相互に独立してHまたはFを示し、bおよびcは相互に独立して0または1を示す。) 【化4】(略) 【化5】 (式中、R_(6)は炭素数1?10のアルキル基を示し、環Dおよび環Eは相互に独立してトランス-1,4-シクロヘキシレン基または1,4-フェニレン基を示し、Z_(4)およびZ_(5)は相互に独立して-COO-または共有結合を示し、Z_(6)は-COO-または-C≡C-を示し、L_(8)およびL_(9)は相互に独立してHまたはFを示し、X_(2)はF、OCF_(3)、OCF_(2)H、CF_(3)、CF_(2)HまたはCFH_(2)を示すが、X_(2)がOCF_(3)、OCF_(2)H、CF_(3)、CF_(2)HまたはCFH_(2)を示す場合はL_(8)およびL_(9)は共にHを示す。e、fおよびgは相互に独立して0または1を示す。) 【化6】?【化7】(略) からなる群から選択される化合物を少なくとも1種類含有することを特徴とする液晶組成物。」 摘示D. 「【0004】液晶組成物は、表示素子が使用される条件下で通常存在する水分、光、熱、空気に対して極めて安定で、また電場や電磁放射に対しても安定である上、混合される化合物に対し化学的にも安定であることが必要である。さらに、液晶組成物には、その屈折率異方性値(△n)、誘電率異方性値(△ε)、粘度(η)および弾性定数比K_(33)/K_(11)(K_(33):ベンド弾性定数、K_(11):スプレイ弾性定数)等の諸物性値が表示方式や表示素子の形状に依存して適当な値を取ることが必要とされる。さらに液晶組成物中の各成分は、相互に良好な溶解性を持つことが重要である。現在ディスプレイのカラー化やディスプレイの使用環境の多様化が進む状況において、特に必要とされている諸物性は、ネマチック相の広範囲の温度領域、大きな弾性定数比K_(33)/K_(11)、低粘性および相互に良好な溶解性である。弾性定数比K_(33)/K_(11) が大きくなるとしきい値電圧付近で透過率の変化が急峻になり、高いコントラストの表示素子が得られる。また、粘性が低くなると応答速度の速い表示素子が得られる。これら2つの物性の必要性はディスプレイのカラー化から、またネマチック相の広範囲の温度領域の必要性はディスプレイの使用環境の多様化からそれぞれ近年特に課題となってきた。 【0005】従来の高いNI点をもち、低粘性である三環系化合物として下記の化合物が開示されている。 【化8】 (a)は特開昭57-165328号に記載の化合物 (b)は特開平05-286873号に記載の化合物 (c)は J.Phys.(Paris).Suppl.,36,C1,379(1975).に記載の化合物 (上記化合物においてR、R’はアルキル基を表す。) 【0006】化合物(a)、(b)とも両末端にアルキル基を有する三環系の化合物であるが、化合物(a)はNI点が低く、粘度が大きく、弾性定数比K_(33)/K_(11)も小さく、また低温相溶性が良好とは言えない。さらに化合物(b)についても比較的低粘性ではあるが共役のジエンを側鎖内に有するため安定性に非常に乏しい。(c)は(a)と同様に弾性定数比K_(33)/K_(11)も小さく、また低温相溶性が特に良好とは言えない。また、弾性定数比の大きいアルケニル基を持った液晶性化合物は、特開昭59-176221、特開昭61-56137、特開昭61-83136、特表昭63-502284に開示されているが、いずれも低粘度、低温相溶性、高いNI点という特性を合わせて満足するものではない。これらの課題を克服すべく改善された特性を有する液晶性化合物の開発が期待されている。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、従来技術の課題を克服するため、特に広範囲な温度領域でネマチック相を示し、大きな弾性定数比K_(33)/K_(11)を有し、かつ低粘性の液晶性化合物を提供し、これを含む液晶組成物および該液晶組成物を用いて構成した液晶表示素子を提供することである。」 摘示E. 「【0019】本発明の一般式(1)で示す液晶性化合物は、分子内にアルケニル基を有する三環系の誘導体であることを特徴とする。これらの液晶性化合物は、表示素子が使用される条件下において物理的および化学的にも極めて安定であることは勿論のこと、高いNI点をもつため高温側の使用限界温度を上げることが可能である。さらに、大きな弾性定数比K_(11)/K_(33)、低粘性、低温下でも液晶組成物への溶解性が良いといった特徴についても特記すべきことである。また、分子構成要素のうち置換基または側鎖の構造を適当に選ぶことで所望の物性値を任意に調整することが可能である。よって、本発明の化合物を液晶組成物の成分として用いた場合、良好な特性を有する新規な液晶組成物を提供し得る。 【0020】以下、式(1)で表される化合物のうち好ましい態様として、下記一般式(1a)?(1p)に類別される化合物を挙げることができる。ただし、一般式(1a)?(1p)において、R_(11)は下記に示される基、 【化16】 (mは0?5を表し、mが2以上のとき-(CH_(2))_(m)-中の1つのメチレン基(-CH_(2)-)が-O-に置き換わっても良い)を表し、Cycはトランス-1,4-シクロヘキシレン基・・・(略)・・・を表すものとする。一般式(1)においてA_(1)、A_(2)、A_(3) はCyc、・・・(略)・・・よりなる群から選ばれる環である場合が好ましい・・・(略)・・・。 【0021】 R_(1)-Cyc-Cyc-Cyc-R_(11)-R_(2) (1a) (以下略) 」 摘示F. 「【0025】前記した化合物のうち、特に式(1a)、(1b)、(1c)、(1d)、(1f)および(1g)で示される化合物が本発明の目的を達成する上で好適例といえ、下記の式(1-1)から(1-13)で表される化合物を挙げることができる。 【0026】 【化17】 (以下略)」 摘示G. 「【0028】本発明により提供される液晶組成物は、一般式(1)で示される液晶性化合物を少なくとも1種類含む第一成分でもよいが、これに加え、第二成分として既述の一般式(2)、(3)および(4)からなる群から選ばれる少なくとも1種類の化合物(以下第二A成分と称する)および/または一般式(5)、(6)、(7)、(8)および(9)からなる群から選ばれる少なくとも1種類の化合物(以下第二B成分と称する)を混合したものが好ましく、さらに、しきい値電圧、液晶相温度範囲、屈折率異方性値、誘電率異方性値および粘度等を調整する目的で、公知の化合物を第三成分として混合することもできる。」 摘示H. 「【0034】次に、前記第二B成分のうち、一般式(5)、(6)および(7)に含まれる化合物の好適例として、それぞれ(5-1)?(5-24)、(6-1)?(6-3)および(7-1)?(7-17)を挙げることができる。 【0035】 【化28】 ・・・(略)・・・ ・・・(略)・・・ 【0037】 【化31】 ・・・(略)・・・ ・・・(略)・・・」 摘示J. 「【0038】これらの一般式(5)?(7)で示される化合物は、誘電率異方性値が正でその値が大きく、組成物成分として特にしきい値電圧を小さくする目的で使用される。また、粘度の調整、屈折率異方性値の調整および液晶相温度範囲を広げる等の目的や、さらに急峻性を改良する目的にも使用される。」 摘示K. 「【0042】一般式(5)?(9)の化合物は、特にSTN表示方式および通常のTN表示方式用の液晶組成物を調製する場合には、不可欠な化合物である。一般式(5)?(9)の化合物の使用量は、通常のTN表示方式およびSTN表示方式用の液晶組成物を調製する場合には1?99重量%の範囲で任意に使用できるが、10?97重量%が、より好ましくは40?95重量%が好適である。また、その際には(2)?(4)の化合物を一部使用しても良い。 【0043】本発明に係る液晶組成物をTFT液晶表示素子に用いることによって、急峻性、視野角の改善ができる。また(1)式の化合物は低粘性化合物であるので、これを用いた液晶表示素子の応答速度は改善され極めて大きい。本発明に従い使用される液晶組成物は、それ自体慣用な方法で調製される。一般には、種々の成分を高い温度で互いに溶解させる方法がとられている。しかし、液晶が溶解する有機溶媒に溶かし混合したのち、減圧下溶媒を留去しても良い。」 摘示M. 「【0045】この様に調製される、本発明化合物を含有するネマチック液晶組成物として以下に示すような組成例を示すことができる。 ・・・(略)・・・ 【0047】組成例2 【化36】 ・・・(略)・・・ ・・・(略)・・・ 【0049】組成例4 【化38】 ・・・(略)・・・ ・・・(略)・・・ 【0050】組成例5 【化39】 ・・・(略)・・・ ・・・(略)・・・ 【0052】組成例7 【化42】 ・・・(略)・・・ ・・・(略)・・・ 【0056】組成例11 【化47】 ・・・(略)・・・ ・・・(略)・・・」 摘示N. 「【0095】実施例1?8の方法に準じ次の化合物が製造できる。 ・・・(略)・・・ 【0115】【化74】 」 4-3.引用刊行物1に記載された発明 引用刊行物1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。(引用刊行物1 摘示M.における組成例4を中心に認定した。) 「式 で表される化合物と、 式 で表される化合物を含有する液晶組成物。」 4-4.対比 本願発明1と引用発明1とを対比する。 引用発明1における「 」は、 本願発明1における「式Iの少なくとも1種の化合物 【化1】 [式I中、 R^(11)は、CH_(2)=CH-またはCH_(3)-CH=CH-であり、 R^(12)は、CH_(2)=CH-またはCH_(3)-CH=CH-である。]」に相当する。 よって、本願発明1と引用発明1とは、 「式Iの少なくとも1種の化合物を含む液晶混合物」の点で一致し、次の点で相違している。 相違点: 本願発明1においては、式IIIcの少なくとも1種の化合物を含有する構成を有しているのに対して、引用発明1においては、「 」を含有しており、式Iの化合物と組み合わせる成分が異なっている点。 4-5.相違点に対する判断 上記相違点について検討する。 引用刊行物1(摘示C.)には、 「 」のような一般式(1)化合物と組み合わせて、 一般式(5)化合物 「 」 又は、 一般式(7)化合物 「 」を液晶混合物に使用することが記載されている。 ここで、引用発明1の「 」 は、引用刊行物1における 一般式(7) で規定される範囲の化合物であり、引用刊行物1において、好適には 一般式(7-8) と表される化合物の例である。 引用刊行物1には、 引用発明1が「特に広範囲な温度領域でネマチック相を有し、大きな弾性定数比K_(33)/K_(11)を有し、かつ低粘度の液晶化合物を提供」(摘示D.)することを目的としており、 本願発明の式I化合物に相当する一般式(1)で示す液晶性化合物に関して、「一般式(1)で示す液晶性化合物は、分子内にアルケニル基を有する三環系の誘導体であることを特徴とする。これらの液晶性化合物は、表示素子が使用される条件下において物理的および化学的にも極めて安定であることは勿論のこと、高いNI点をもつため高温側の使用限界温度を上げることが可能である。さらに、大きな弾性定数比K_(11)/K_(33)、低粘性、低温下でも液晶組成物への溶解性が良い」(摘示E.)成分であることが記載され、 「本発明に係る液晶組成物をTFT液晶表示素子に用いることによって、急峻性、視野角の改善ができる。また(1)式の化合物は低粘性化合物であるので、これを用いた液晶表示素子の応答速度は改善され極めて大きい」(摘示K.)といった、式Iの化合物が有する物理的及び化学的安定性、高いNI点、高い弾性定数比、低粘性による応答速度の改善が記載されている。 そして、このような式Iの化合物と組み合わせる他の液晶性化合物として「一般式(5)、」「(7)」「からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(以下第二B成分と称する)」(摘示G.)が記載されており、 「これらの一般式(5)?(7)で示される化合物は、誘電率異方性が正でその値が大きく、組成物成分としては特にしきい値電圧を小さくする目的で使用される」(摘示J.)点について指摘され、 「一般式(5)?(9)の化合物は、特にSTN表示方式および通常のTN表示方式用の液晶組成物を調整する場合には、不可欠な化合物である」(摘示K.)とされている。 このような一般式(5)化合物の具体例として、一般式(5-12)、(5-13)を挙げるとともに、引用刊行物1(摘示M.)の組成例では、次の化合物が使用されている。 上記の化合物は、請求項1に係る発明における「式IIIc」「の化合物」に相当している。 そうすると、引用刊行物1に接した当業者であれば、引用発明1において、式Iの化合物と組み合わせて使用する一般式(7)(一般式(7-8))で規定される範囲の化合物である「 に代えて、引用刊行物1に一般式(7)(一般式(7-8))と同じ目的で使用されることが記載されている一般式(5-12)、(5-13)、ないしは、上記の化合物を液晶組成物に適用し、請求項1に係る発明の構成とすることは、容易に想到し得たものである。 次に、本願発明1において、「式Iの」「化合物」と「式IIIcの」「化合物」とを組み合わせたことによる効果について検討する。 本願明細書の発明の詳細な説明には次のとおりの記載がある。 「【請求項10】・・・(略)・・・-a)誘電異方性が+1.5より大きい1種または複数の化合物からなる液晶成分A」 「【0050】 成分Aは、以下の式の1種または複数のシアノ化合物を含むことが好ましい。」 「【0057】 式IIIbおよび/またはIIIc、さらにIIIfの1種または複数の化合物、特にL_(1)および/またはL_(2)がFであるものを含む混合物が特に好ましい。 【0058】 Rは炭素原子2から7個を有するアルケニルであり、L_(1)およびL_(2)はHまたはFであり、特に両方がHである1種または複数の式IIIbの化合物、ならびに/あるいはRは炭素原子1から7個を有するアルキルまたは炭素原子2から7個を有するアルケニルであり、L_(1)およびL_(2)は互いに独立にHまたはF、特に置換基L1およびL2の少なくとも一方はFである式IIIcの化合物を含む混合物が特に好ましい。・・・(略)・・・」 「【0075】 好ましい液晶混合物は、好ましくは15質量%から80質量%、特に好ましくは20質量%から70質量%の割合で成分Aの1種または複数の化合物を含む。これらの化合物は、Δε≧+3、特にΔε≧+8、特に好ましくはΔε≧+12の誘電異方性を有する。」 これらの記載事項から、式IIIcの化合物は、誘電異方性Δεが+1.5より大きい化合物よりなる液晶成分Aを構成することができる化合物群の一部であることが判り、誘電異方性Δεの大きい成分Aを液晶混合物に20質量%から70質量%の割合で添加することにより、液晶混合物の誘電異方性を調整することができることが理解される。 しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明からは、式Iの化合物と式IIIcの化合物の組み合わせによる特有の効果や顕著な効果を見出すことはできず、本願明細書の比較例1、実施例1、参考例を比較対照させてみても、比較例1、実施例1、参考例にて式IIIcの化合物として使用されているME2N.F?ME5N.Fと、式Iの化合物との組合せによる特有の効果、ないしは、顕著な効果は現れていない。 以上の検討事項を踏まえると、本願発明1は引用刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 4-6.請求人の主張について 請求人は審判請求書の請求の理由において、以下の主張をしている。 「【本願発明が特許されるべき理由】 (1)(当審注:略) (2)本願各発明と各引用文献との対比 平成22年12月28日付で提出した意見書に記載したとおり、引用文献1は、アルケニルシクロヘキサン誘導体を含む液晶組成物に関する発明を開示しており、その第64頁には化合物419として本願実施例1で用いられているCCC-V-Vが記載されております。引用文献1の第28頁(段落0049)の組成例4、第32頁(段落0052)の組成例7において、この化合物419を含む液晶混合物が開示されております。 しかしながら、引用文献1には、かかる化合物419を本願請求項1に記載される式IIIcの化合物と組み合わせることによって上述した効果が得られる点についての記載や示唆は全くありません。更に、特性を検証している段落0126以降の液晶組成物としての使用例2?18において用いられているアルケニルシクロヘキサン誘導体は、今回の補正にかかる式Iの範囲には含まれないものであり、しかも、これらの使用例2?18には、本願請求項1に記載される式Iの化合物と式IIIcの化合物の組合せが上述した本願各発明における効果を奏する点を示唆する記載や分析データは全くありません。 なお、引用文献1の0046?0056の組成例1?11についても同様であります。 従って、本願各発明は引用文献1に記載された発明でも、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないとことは明らかであります。」 請求人の主張するとおり、引用刊行物1には、式Iの化合物と式IIIcの化合物を組み合わせた組成例は直接記載されていないが、前記4-5.にて検討したとおり、引用刊行物1には式Iの化合物と式IIIcの化合物を併用することを示唆する記載があり、引用刊行物1の記載に接した当業者であれば、式Iの化合物と式IIIcの化合物を含有する液晶組成物を容易に想起し得る。 また、前記4-5.にて記載したとおり、引用刊行物1には、式Iの化合物と式IIIcの化合物によって奏される機能や効果がそれぞれ記載されている。 本願発明1においても、式Iの化合物と式IIIcの化合物を組み合わせることによって生じる特有の効果、ないしは、顕著な効果は認められないから、本願発明1の効果は引用刊行物1に記載された事項から予測を超えるものではない。 第5.まとめ 上記のとおり、本願の請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-12-14 |
結審通知日 | 2012-12-18 |
審決日 | 2013-02-01 |
出願番号 | 特願2004-37045(P2004-37045) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C09K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 仁科 努 |
特許庁審判長 |
松浦 新司 |
特許庁審判官 |
新居田 知生 磯貝 香苗 |
発明の名称 | ネマチック液晶混合物およびそれを含むディスプレイ |
復代理人 | 太田 顕学 |
代理人 | 石橋 政幸 |
代理人 | 緒方 雅昭 |
代理人 | 宮崎 昭夫 |