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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16L
管理番号 1275768
審判番号 不服2012-20632  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-19 
確定日 2013-06-19 
事件の表示 特願2006-274009「圧力導管」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 4月19日出願公開、特開2007-100960〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成18年10月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年10月6日,ドイツ)の出願であって,平成24年6月15日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年10月19日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

第2.原査定
原査定における拒絶の理由は,以下のとおりのものと認める。
「この出願の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
1.実願昭57-124122号(実開昭58-161283号)の
マイクロフィルム
2.米国特許第6116290号明細書」

第3.当審の判断
1.本願発明
本願の請求項1に係る発明は,平成24年5月24日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである(以下「本願発明」という)。
「被搬送流体を導く圧力管(1)と,この圧力管(1)のまわりに嵌合結合で同軸に配置されている外被管(2)とを備え,高圧力状態の燃料を搬送するための圧力導管であって,圧力管(1)がその外面に実質的に長手方向に延びる複数の溝(3)を有している圧力導管において,
少なくともこの圧力管(1)の材料として鋼材が使用され,
溝(3)の間に残る細条部(4)の幅が2mmよりも大きいか又は2mmに等しく,
溝(3)の幅が45゜よりも小さな角度範囲または45゜に等しい角度範囲に及んでいることを特徴とする圧力導管。」

2.刊行物記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先日前に頒布された刊行物である実願昭57-124122号(実開昭58-161283号)のマイクロフィルム(以下「引用例1」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
・「内側の圧力管とこの圧力管を外側で取り囲む直径が大きくしかも間接的に半径方向の間隔をおいて保持された外套管とから成る燃料圧力導管であつて,前記圧力管と外套管との間の中間室が漏れ燃料を排出するため又は別の媒体を継送するために用いられている形式のものにおいて,圧力管(2)と外套管(3)との間の円環状の中間室内にセクタ状の横断面を有する長手方向にのびる多数のスペーサ(4)が周方向で均一に分配されて配置されており,それぞれ2つの隣接するスペーサ(4)の間に貫通通路(5)が残されていることを特徴とする燃料圧力導管。」(請求項1)
・「スペーサ(4)が外套管(3)のほぼ全長に亘つてのびている実用新案登録請求の範囲第1項記載の燃料圧力導管。」(請求項2)
・「スペーサ(4)が圧力管(2)に固定的に接着されている実用新案登録請求の範囲第1項乃至第3項のいずれか1つ記載の燃料圧力導管。」(請求項4)
・「スペーサ(4)が薄板管切断片又はプラスチツク管切断片から又はセクタ状に彎曲した薄板状片又はプラスチツク状片から形成されている実用新案登録請求の範囲第1項乃至第4項のいずれか1つ記載の燃料圧力導管。」(請求項5)
・「周方向で分配された3つのスペーサ(4)が設けられている実用新案登録請求の範囲第1項乃至第5項のいずれか1つ記載の燃料圧力導管。」(請求項6)
・「スペーサ4は該スペーサを位置固定するために圧力管に有利には固定的に接着されている。」(第5頁末行?第6頁第2行)
・「圧力管2と外套管3との間の結合度が大きいことによつて並びにスペーサ4に対する圧力管2および外套管3の固定的な接触によつて更に彎曲後の個々の燃料圧力導管構成部材間の相対運動,特に燃料圧力導管構成部材相互の擦過が効果的に回避され,更にこれによつて燃料圧力導管の強度が著しく高められる。」(第6頁第15行?第7頁第1行)
・第2図を参照すると,外套管3は圧力管2と同軸に配置されること,隣接するスペーサ4の間に形成される各貫通通路5は円周方向全体の8分の1(45度)よりも小さい領域に存在することが看取できる。

上記記載事項及び図面の記載によれば,引用例1には次の発明が記載されているといえる(以下「引用発明」という。)。
「内側の圧力管2及びこれと同軸に配置される外套管3からなる燃料圧力導管であって,圧力管2と外套管3との間の円環状の中間室内にセクタ状の横断面を有し長手方向にのびる3つのスペーサ4が周方向で均一に配置され,隣接するスペーサ4の間に貫通通路5が形成されて漏れ燃料を排出することができるようになっており,スペーサ4は圧力管2の外面に接着固定され,各貫通通路5は円周方向全体の8分の1(45度)よりも小さい領域に存在する燃料圧力導管。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先日前に頒布された刊行物である米国特許第6116290号明細書(以下「引用例2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている(和訳は当審による)。
・「The invention addresses the above need. What is provided is an internally insulated, corrosion resistant pipeline. The fluid barrier is preferably a polymer material. The outer pipe may be a steel pipe. The annulus between the fluid barrier and steel pipe is provided with a plurality of passages. The passages in the liner are filled with an insulation material.」
(第1欄第66行?第2欄第4行;本発明は上記要望に応えるものである。本発明は,内部が断熱され,耐食性のあるパイプラインを提供する。流体区画壁は,好ましくはポリマー材料である。外側の管は鋼管でよい。流体区画壁と鋼管との間の環状空間には多数の通路が設けられる。ライナーにおける複数の通路は断熱材料によって満たされる。)
・「Referring to the drawings, it is seen in FIG. 1 that the invention is generally indicated by the numeral 10. Pipeline 10 is generally comprised of a liner 14 and an outer pipe 16.
The liner 14 is preferably a polymeric material to act as the carrier for the produced hydrocarbon or corrosive/erosive fluid. 」
(第2欄第29?34行;図面を参照すると,図1に示されるように,本発明は一般に数字10で示されている。パイプライン10は,一般に,ライナー14と外側の管16とで構成される。ライナー14は,製造された炭化水素または耐食性流体を搬送するため,好ましくはポリマー材料である。)
・「In the preferred embodiment, the liner 14 is provided with a plurality passages 18 around the outer perimeter of the liner. The passages 18 may be longitudinal or helical.
FIG. 1 illustrates passages 18 that are essentially U-shaped in cross section.」
(第2欄第38?42行;好ましい実施形態では,ライナー14はその外周面に複数の通路18を備える。通路18は直線状か螺旋状である。図1によれば,通路18は断面が実質的にU字形である。)
・図1を参照すると,ライナー14の外面に溝が形成されていることが看取できる。

(3)原査定において周知技術の例として提示され,本願の優先日前に頒布された刊行物である特許第2575624号公報(以下「引用例3」という。)には,次の事項が記載されている。
・「本発明は,ディーゼルエンジンなどの燃料供給用の高圧燃料噴射管に使用される外径が30mm程度以下の,特に外管と内管が相互に冶金的に重合された厚肉細径の金属管とその製造方法に関するものである。」(第2欄第2?5行)
・「従来,この種のディーゼル内燃機関用などの燃料噴射管に供される重合金属管としては,例えば,予め重合周面に銅のメッキ膜を有する大径及び小径の高圧配管用炭素鋼鋼管(JIS G 3455 STS 38)を相互に圧嵌重合せしめ,更にその後に加熱処理して重合周面に介在する銅メッキ膜をろう材として相互にろう接合させて構成するか,あるいは単に径の異なる二本の素管を他方の素管に挿入,引き抜き加工等により相互に圧嵌重合させて構成している。」(第2欄第13行?第3欄第6行)

(4)原査定において周知技術の例として提示され,本願の優先日前に頒布された刊行物である実公昭55-22299号公報(以下「引用例4」という。)には,次の事項が記載されている。
・「この考案は,例えば,ヂーゼル機関の高圧燃料噴射管の如く,管径6mm?20mm,肉厚2.3mm?8mm程度の比較的厚肉細径鋼管を使用した挫屈成形された突面状接続頭部の内側に整形構造を有する厚肉細径鋼管に係るもので,」(第1欄第31?35行)

(5)本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-280864号公報(以下「引用例5」という。)には,次の事項が記載されている。
・「【0008】なお,図1に示す本実施例では,圧縮機の吸気として熱交換器70に導かれた空気は,ノズル11aから二重管33が設置された胴30内部を蛇行する過程で,二重管33の内管23内を流通するLNGの冷熱と熱交換した後,ノズル11bより圧縮機に供給される。また,ノズル12aからヘッダ26aに導かれたLNGは,内管23を流通して空気との熱交換で加熱された後,ヘッダ26b及びノズル12bを経由して外部に供給される。また,ノズル13aから導かれる不活性ガスは,内管23と外管24との間に形成された間隙流路を通過した後,ノズル13bから外部に導かれる構造となっている。」
・「【0010】この熱交換器の製造方法は,まず,図3(A)に示すように,内面に溝加工が施してある銅製の外管24の内部に,その外径が外管24の最小内径よりも小さい内管23を挿入する。内管の材質は,ヘッダへの溶接性を考慮して,ステンレス鋼とした。次に,外管24の外表面から,圧延機などにより内向きの機械力を作用させ,外管24の外径を縮径する。これにより,内管23の外面と外管24の内面の凸部は,機械的,熱的に接触し,内管23の管内と,外管24の管外とで,つまり空気とLNGとを熱交換することが可能となる。また,内管23と,外管24に挟まれた領域には,間隙が形成され,不活性ガスなどを流動させることが可能となる。」
・「【0030】本実施例では,二重管を構成する際に,内面に溝加工あるいは突起加工がなされた外管を用い,図3(A)のような二重管を得たが,前記実施例でも記載したように,図3(B)や,図3(C),図3(D)に示した二重管を得る場合も,同様に実現可能であり,その場合の特有の性質などは,それぞれ前記実施例と同様であることはいうまでもない。」
・図3(B)を参照すると,外面に溝加工が施された内管23が外管24の内部に挿入されていることが看取できる。

(6)本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平1-249953号公報(以下「引用例6」という。)には,次の事項が記載されている。
・「加熱器5は伝熱管20を主体として構成されている。この伝熱管20は内部通路に作動流体を流動させ,燃焼室14内の燃焼ガスとの熱交換により作動流体を加熱するもので,第2図及び第3図のように構成されている。すなわち,伝熱管20は外管21と,内管22とからなり,外管21は一端21aが閉塞状態に形成され,外周面に複数の伝熱フィン23が設けられている。内管22は両端22a,22bが開口され,第3図に示すようにその外径r_(1)が外管21の内径r_(2)に対して若干小さく形成されている。この内管22が外管21内に挿入され,両者間に作動流体の第1流路24が形成されている。また,この挿入状態で,内管22の一端開口22aと外管21の一端21aとの間に,第1流路24及び内管22の内側の第2流路25に連通する空間部26が形成され,さらに内管22の他端開口22bが外管21の他端開口21bから突出している。
そして,内管22の外周には流体の流れ方向に沿って突条27が周方向に複数本(図では6本)形成され,各突条27の先端が外管21の内周面に接触している。」(第3頁左上欄第12行?右上欄第13行)

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「燃料」,「圧力管2」,「外套管3」及び「燃料圧力導管」は,それぞれ本願発明の「被搬送流体」,「圧力管」,「外被管」及び「圧力導管」に相当する。
引用発明の「貫通通路5」は,漏れ燃料を排出するため,圧力管2と外套管3との間で長手方向(軸方向)に延びるように設けられた通路であり,この限りにおいて,本願発明の「溝」と共通する。また,引用発明の「スペーサ4」は,隣り合う貫通通路5の間に存在して,隣り合う貫通通路5の円周方向の隔たりを決める部分であり,この限りにおいて,本願発明の「細条部」と共通する。
したがって,本願発明と引用発明は,本願発明の表記にできるだけしたがえば,
「被搬送流体を導く圧力管と,この圧力管のまわりに同軸に配置されている外被管とを備え,高圧力状態の燃料を搬送するための圧力導管であって,圧力管がその外面に実質的に長手方向に延びる複数の通路を有している圧力導管において,通路の幅が45゜よりも小さな角度範囲または45゜に等しい角度範囲に及んでいる圧力導管。」
の点で一致し,次の点で一応相違する。

[相違点1]
本願発明の通路は,圧力管の外面に形成される溝であるのに対して,引用発明の通路は,圧力管2の外面に円周方向に間隔をおいて接着固定された複数のスペーサ4の相互間に形成される空間である点。
[相違点2]
本願発明では,外被管が圧力管のまわりに嵌合結合されるのに対して,引用発明では,外套管3が圧力管2のまわりに嵌合結合されるか否か(外套管3が圧力管2に接着固定されたスペーサ4に嵌合結合されるか否か)明らかでない点。
[相違点3]
本願発明では,圧力管の材料として鋼材が使用されるのに対して,引用発明では,圧力管2の材料として鋼材が使用されるか否か明らかでない点。
[相違点4]
本願発明では,隣り合う通路の間に存在する部分の幅が2mmよりも大きいか又は2mmに等しいのに対して,引用発明では,隣り合う通路の間に存在する部分(スペーサ4)の幅は不明である点。

相違点1について検討する。内管と外管との間に円周方向に並ぶ複数の空間を配置した二重管構造であって,該空間を内管の外面に形成した溝から構成することは,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である引用例2に示されるほか,引用例5及び引用例6に示されるように,本願の優先日前において周知技術であることが認められる。引用発明において,圧力管2と外套管3の間に円周方向に並ぶ複数の空間を形成する手段として,スペーサ4を介在させる代わりに圧力管2の外面に溝を設けるように変更することは,この周知技術を参酌することにより,当業者が容易に想到し得たことである。
相違点2について検討する。引用例1には,「スペーサ4に対する圧力管2および外套管3の固定的な接触によつて更に彎曲後の個々の燃料圧力導管構成部材間の相対運動,特に燃料圧力導管構成部材相互の擦過が効果的に回避され」と記載されているから,引用発明の外套管3とスペーサ4は相互に固定されていることが明らかであり,両者は,その形状からして,嵌合結合されているとみるのが相当である。引用発明において,スペーサ4を介在させる代わりに圧力管2の外面に溝を設けるように変更する場合,隣り合う通路の間に存在する部分は,スペーサ4から圧力管2の一部に移行するから,外套管3とスペーサ4との結合関係は,外套管3と圧力管2との結合関係に引き継がれる。したがって,相違点2に係る本願発明の構成は,当業者が容易に想到し得たことである。なお,二重構造の金属管において内管と外管を嵌合により結合することは,例えば引用例3に示されるように,本願の優先日前において周知慣用手段である。
相違点3について検討する。燃料供給管の材料として鋼材を使用することは,引用例3及び引用例4に示されるように,本願の優先日前において周知技術である。相違点3に係る本願発明の構成は,この周知技術を参酌することにより,当業者が容易に想到し得たことである。
相違点4について検討する。引用例1の図2を参照すると,隣り合う通路の間に存在する部分(スペーサ4)の幅は,燃料圧力導管の外径の半分程度であることが看取できる。ここで,引用例3及び引用例4を参照すると,燃料圧力管の外径を20mmないし30mm程度の値とすることは,当業者が通常採用し得る設計事項であることが認められる。引用発明において,燃料圧力導管の外径を20mmないし30mm程度の値とすれば,隣り合う通路の間に存在する部分の幅は,その半分程度であって,2mmを大きく上回る。したがって,相違点4に係る本願発明の構成は,当業者が適宜なし得た設計事項に過ぎない。
以上のことから,本願発明は,その優先日前に,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり,本願発明は,その優先日前に,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
したがって,原査定は妥当であり,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-16 
結審通知日 2013-01-22 
審決日 2013-02-04 
出願番号 特願2006-274009(P2006-274009)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邉 洋  
特許庁審判長 千馬 隆之
特許庁審判官 杉浦 貴之
小関 峰夫
発明の名称 圧力導管  
代理人 山口 巖  

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