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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08J
管理番号 1275785
審判番号 不服2011-17558  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-12 
確定日 2013-06-20 
事件の表示 特願2006-115837「金属板被覆用樹脂フィルムおよび樹脂フィルム被覆金属板とその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月1日出願公開、特開2007-284616〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成18年4月19日の出願であって、平成23年2月18日付けで拒絶理由が通知され、同年4月22日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月11日付けで拒絶査定がなされた。これに対して、同年8月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、同年10月21日付けで前置報告がなされ、当審において平成24年10月22日付けで審尋がなされ、同年12月13日に回答書が提出され、平成25年2月5日付けで拒絶理由が通知され、同年3月28日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?12に係る発明は、平成25年3月28日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「絞りおよび絞りしごき加工後に巻締め加工を行う缶用の金属板被覆用樹脂フィルムであって,
固有粘度が0.7?1.4dl/gであるポリエステル樹脂(A)と,ゴム状弾性体樹脂(B)と,エポキシ基含有ユニットを10質量%以下含有するポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の少なくとも3種の熱可塑性樹脂を含み,
前記ポリエステル樹脂(A)中に前記ゴム状弾性体樹脂(B)が分散された構造を有し,
金属板被覆用樹脂フィルムが被覆する金属板に接する当該金属板被覆用樹脂フィルム内部における前記金属板表面に平行な断面の少なくとも一部における前記ゴム状弾性体(B)および/または前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の露出面積率が9%以上20%以下であり,
意図的に一軸または二軸延伸処理をしないフィルムであることを特徴とする,金属板被覆用樹脂フィルム。」

第3 当審における拒絶理由の概要
当審が、平成25年2月5日付けで通知した拒絶理由の概要は、「本願発明1?5及び本願発明7?11は、引用例1(特開2005-307141号公報)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。」との理由を含むものである。

第4 当審の判断
1.刊行物:特開2005-307141号公報(平成25年2月5日付け拒絶理由通知書における引用例1。以下、単に「引用例」という。)

2.引用例の記載事項
ア 「【請求項1】
ポリエステル樹脂(A)、ゴム状弾性体樹脂(B)、およびポリエステルと水分子を副成せず共有結合可能な官能基含有ユニットを有するポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の少なくとも3種の樹脂からなり、溶融混練によりポリエステル樹脂(A)中にゴム状弾性体樹脂(B)を微細分散させた構造を有する樹脂組成物であって、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対してゴム状弾性体樹脂(B)が1?30質量部であり、ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)が0.1?10質量部であり、さらにゴム状弾性体樹脂(B)と前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の混合比が10:1?10:5の範囲であることを特徴とする耐衝撃性に優れる金属被覆フィルム用樹脂組成物。
【請求項2】
ポリエステル樹脂(A)100質量部に対してゴム状弾性体樹脂(B)が1?30質量部であり、ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)が0.1?10質量部であり、さらにゴム状弾性体樹脂(B)と前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の混合比が10:1?10:5の範囲である樹脂組成を溶融混練して樹脂組成物を製造するに際し、樹脂温度をポリエステル樹脂(A)の融点+5℃?+50℃の範囲とし、少なくとも80sec^(-1)以上の剪断速度を加えることを特徴とする耐衝撃性に優れる金属被覆フィルム用樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)をポリエステルと共有結合可能な官能基ユニットとして、エポキシ基含有ユニットを10質量%以下含有するポリオレフィン系共重合体樹脂とすることを特徴とする請求項2記載の耐衝撃性に優れる金属被覆フィルム用樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂の固有粘度が0.5?1.5dl/gの範囲、含有水分値が200ppm以下、かつポリエステル鎖末端がカルボン酸残基(-COOH)及び/又は水酸基(-OH)とすることを特徴とする請求項2,3記載の耐衝撃性に優れる金属被覆フィルム用樹脂組成物の製造方法。」(特許請求の範囲)

イ 「本発明は、耐衝撃性に優れる金属被覆フィルム用樹脂組成物およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、絞り、および、絞りしごき加工して用いられる缶用ラミネート鋼板の被覆フィルムを形成するためのラミネート金属缶用フィルム等に用いる耐衝撃性に優れるフィルム用樹脂組成物およびその製造方法に関する。」(段落【0001】)

ウ 「本発明者らは、前記問題点を解決するため鋭意検討を行った結果、適正な原料樹脂の組成条件、および適性な製造条件で混練押出しを行うことで、安定的にゴム状弾性体樹脂を微細分散化させ耐衝撃性を有するフィルム用樹脂組成物を製造できることを見出し本発明を完成した。」(段落【0010】)

3.引用例に記載の発明
引用例には、摘示イより、「絞り、および、絞りしごき加工して用いられる缶用ラミネート鋼板の被覆フィルムを形成するためのラミネート金属缶用フィルム等に用いる耐衝撃性に優れるフィルム用樹脂組成物およびその製造方法」が記載されており、上記「絞り、および、絞りしごき加工して用いられる缶」として、2ピース缶は通常に採用される周知の缶であるから、引用例には、2ピース缶用のラミネート鋼板被覆用樹脂フィルム及び樹脂フィルム被覆ラミネート鋼板に関する技術的事項が記載されているといえる。
摘示ア及びウより、固有粘度が0.5?1.5dl/gのポリエステル樹脂(A)100質量部に対してゴム状弾性体樹脂(B)が1?30質量部であり、エポキシ基含有ユニットを10質量%以下含有するポリオレフィン系共重合体樹脂(C)が0.1?10質量部であり、さらに、前記ゴム状弾性体樹脂(B)100質量部に対して前記エポキシ基含有ユニットを10質量%以下含有するポリオレフィン系共重合体樹脂(C)が10?50質量部である樹脂組成を、樹脂温度を前記ポリエステル樹脂(A)の融点+5℃?+50℃の範囲とし、かつ、80sec^(-1)以上の剪断速度を加える条件で、溶融混練して、ポリエステル樹脂(A)中にゴム状弾性体樹脂(B)を微細分散化させた構造を有する「金属被覆フィルム用樹脂組成物」を製造することが記載されている。
したがって、引用例には、次のとおりの発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されている。
「絞り、および、絞りしごき加工して用いられる2ピース缶用ラミネート鋼板被覆用樹脂フィルムであって、
固有粘度が0.5?1.5dl/gのポリエステル樹脂(A)と、前記ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して1?30質量部のゴム状弾性体樹脂(B)と、前記ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して0.1?10質量部であり、かつ、前記ゴム状弾性体樹脂(B)100質量部に対して10?50質量部の、エポキシ基含有ユニットを10質量%以下含有するポリオレフィン系共重合体樹脂(C)とからなる樹脂組成を、
樹脂温度をポリエステル樹脂(A)の融点+5℃?+50℃の範囲とし、80sec^(-1)以上の剪断速度を加えることによって溶融混練して得た、ポリエステル樹(A)中に微細分散化された溶融押出樹脂ペレットを用いて押出製膜したラミネート鋼板被覆用樹脂フィルム。」

4.対比・判断
「2ピース缶」は、その製造に際して「巻締め加工」を行うことは技術常識であるから、引用例発明の「2ピース缶」は、本願発明の「絞りおよび絞りしごき加工後に巻締め加工を行う缶」に相当する。
引用例発明の「鋼板」、「ポリエステル樹脂(A)」、「ゴム状弾性体樹脂(B)」及び「ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)」は、それぞれ本願発明の「金属板」、「ポリエステル樹脂(A)」、「ゴム状弾性体樹脂(B)」及び「ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)」に相当し、固有粘度、エポキシ基の含有割合についても重複一致している。
してみると、本願発明と引用例発明は、
「絞りおよび絞りしごき加工後に巻締め加工を行う缶用の金属板被覆用樹脂フィルムであって,
固有粘度が0.7?1.4dl/gであるポリエステル樹脂(A)と,ゴム状弾性体樹脂(B)と,エポキシ基含有ユニットを10質量%以下含有するポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の少なくとも3種の熱可塑性樹脂を含み,
前記ポリエステル樹脂(A)中に前記ゴム状弾性体樹脂(B)が分散された構造を有する金属板被覆用樹脂フィルム。」
の点で一致し、以下の点で一応相違する。

相違点1:本願発明は、「金属板被覆用樹脂フィルムが被覆する金属板に接する当該金属板被覆用樹脂フィルム内部における前記金属板表面に平行な断面の少なくとも一部における前記ゴム状弾性体(B)および/または前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の露出面積率が9%以上20%以下」であると特定(以下、「特定事項X」という。)しているのに対し、引用例発明ではそのような特定がなされていない点。

相違点2:本願発明は、「意図的に一軸または二軸延伸処理をしないフィルム」と特定しているのに対し、引用例発明ではそのような特定がなされていない点。

記述の都合上、まず相違点2について検討するに、引用例にはフィルムの製造に関して延伸処理を行う旨の記載はなく、また、当該分野において、延伸処理を行うことが技術常識とも認められないので、引用例発明のフィルムの製造に際して「意図的に一軸または二軸延伸処理」を施すものとは認められない。
したがって、相違点2は実質的な相違点とはいえない。

次に、相違点1について検討する。
本願明細書には、フィルムの製造方法に関し、「(フィルム製造方法) 本発明でのフィルムの製造方法について述べる。本発明では,公知の押出し機およびTダイを具備した製膜装置と,Tダイから押出された溶融状態のフィルムを冷却する冷却ロールを具備したフィルム巻き取り装置によって製造することができる。」(段落【0056】)及び「本発明のフィルムを,押出し機で加熱溶融により製造する条件として,加熱溶融時の樹脂温度がポリエステル樹脂(A)の融点よりも5?50℃高い範囲内で,少なくとも剪断速度は80sec^(-1)以上であることが好ましい。」(段落【0058】)と記載され、装置並びに樹脂温度及び剪断速度で製造方法が特定されている。
一方、引用例発明に係るフィルムの製造方法は、上記(A)?(C)成分からなる樹脂組成を、樹脂温度をポリエステル樹脂(A)の融点+5℃?+50℃の範囲とし、80sec^(-1)以上の剪断速度を加えることによって溶融混練して得た、ポリエステル樹脂(A)中に微細分散化された溶融押出樹脂ペレットを用いて押出製膜するものである。
ここで、本願発明に係る製造方法に含まれる具体的態様としての装置並びに樹脂温度及び剪断速度について、引用例発明に係るものとを検討すると、使用される装置については、本願明細書の記載及び引用例の記載からは、特に特徴があるものを採用するとは認められず、さらに、樹脂温度及び剪断速度に関しても両者に差異はないから、本願発明に係る製造方法と引用例発明に係る製造方法とは同様の態様を含むものがあると解される。
また、原料については、上述したとおり物性及び配合割合ともに本願発明のものと引用例発明のものに差異はない。
化学の技術分野において、原料と製造方法が同じであれれば、同様の物性のものが製造される蓋然性が高いことから、引用例発明に係るフィルムは、本願発明に係る特定事項Xを具備するものと解される。
したがって、相違点1は実質的な相違点とはいえない。

よって、本願発明は、実質的に引用例発明と同一である。

第5 審判請求人の主張について
1.審判請求人の主張
審判請求人は、平成25年3月28日に提出した意見書において、次のとおり主張している。
『(4)本願発明が特許されるべき理由
(4-1)本願発明について
・・・
以上をまとめますと、本願発明の技術的思想は、製缶加工時の巻締め加工時の耐疵付き性向上を課題とし、露出面積率の範囲(特に上限)を規定することで、樹脂の配合成分の凝集を抑制し、かつ樹脂の密着性を向上させることで、上記課題を解決する技術的思想となっております。
このような技術的思想を有する本願請求項1及び本願請求項7は、以下の構成P、構成Q、構成R及び構成Sを主要なポイントとしております。・・・
・構成S:巻締め加工も行う缶用の金属板被覆用樹脂フィルムが発明の対象
・・・
・構成R:金属板に接するフィルムの前記(B)および/または前記(C)の露出面積率が9%以上20%以下

(4-2)本願発明と引用例との対比
(4-2-1)引用例1に記載の発明について
・・・
ここで、引用例1では、フィルムを前提とした樹脂との記載はあり、詳細を記載しないフィルム製造の後の耐衝撃性の評価の記載はありますが、樹脂をフィルム状に製造した後のフィルムの性状(例えば露出面積率)と耐衝撃性に言及する課題は、記載されておりません。また、引用例1では、本願発明で着目しているような巻締め加工時の課題については記載されておらず、巻締め加工より加工の程度が緩やかな加工である、缶形状を製造する際の絞り加工等を記載するのみです(例えば、引用例1段落[0001])。すなわち、引用例1では、缶形状とした後の蓋を巻き締める加工までを想定した課題を記載しておりません。
引用例1に記載の発明は、本願発明と同様なポリエステル樹脂に配合する樹脂種を記載し(例えば引用例1請求項1)、樹脂の混合方法を記載しております(例えば引用例1段落[0056])。しかしながら、上記記載は、フィルム用樹脂を製造する構成を記載することに留まり、フィルムの製造(例えば、キャスティングロールに押し出した、フィルム製造後の露出面積率、等)について記載するものでは無く、引用例1の記載は「25μm厚みの単層フィルムを得た」(引用例1段落[0056])程度に留まるのみです。
すなわち、上記引用例1記載の発明は、フィルム製造や金属板に圧着させたフィルムに関する構成を記載しないものであり、引用例1課題が樹脂の提供であることから、当然のことと思量いたします。
また、引用例1は、引用例1記載の構成により、フィルム製造前の樹脂混合の際に配合樹脂が均一に分散できる作用効果を記載しておりますが、フィルムの製造から金属板へ圧着する過程での配合樹脂の分散(凝集)の作用については、記載しておりません。当該状況も、引用例1で着目している課題が樹脂の提供であることから、当然のことと思量いたします。
以上をまとめますと、審判官殿がご指摘になられた引用例1の技術的思想は、耐衝撃性を有するフィルム用樹脂組成物の提供を課題とし、配合や混合の状況を規定することで、フィルム製造前の樹脂における配合成分の微細分散性を向上させることで、上記課題を解決するというものです。
一方、上記のような引用例1の技術的思想に対し、本願発明の技術的思想は、課題を缶形状の成形時のみに留めず、缶成形よりも耐疵付き性に関する課題の大きい、缶形状の成形後の缶蓋巻締め加工にまで新規に広げております。また、このような課題解決の手段についても、樹脂提供に留まらず、フィルム製造後の樹脂性状にまで広げて、上記の新規課題を解決するものです。このように、引用例1と本願発明とは、その課題とするところが異なり、また、着目する課題を解決するための技術的思想も異なるものです。

(4-2-2)引用例1に記載の構成との対比
先に示した、本願発明の構成P、構成Q、構成R及び構成Sについて、引用例1との対比を行いますと、以下のようになると思量いたします。
すなわち、構成S(巻締め加工)については、審判官殿がご指摘になられた引用例1には、記載がありません。
・・・
構成R(金属板に接するフィルムの露出面積率が9%以上20%以下)については、文言上は引用例1には記載がありません。また、引用例1には、金属板に接した後のフィルムの性状については、露出面積率を含めて何ら記載されておりません。
審判官殿は、拒絶理由通知書において、本願発明1?5及び本願発明7?11について、実質上引用例1記載の発明と同一であるとご指摘になりました。かかるご指摘は、少なくとも構成Rは実質的に引用例1に記載があるとのご指摘ですので、平成24年12月18日提出の回答書に記載した露出面積率に影響を及ぼす4因子について、以下のイ?ニにご説明いたします。
・・・
(ロ)樹脂の混合状況について
標記に関して、審判官殿ご指摘の論点では、引用例1に記載の比率と本願の比率とは実質的な相違が無く、引用例1に記載の樹脂フィルムの露出面積率は、本願における実施例に比べて特段に相違は発生しないものと推察されたものと思量いたします。
しかしながら、本願では、樹脂の混合について、本願明細書段落[0072]において「2軸押出機で・・・スクリュ形状を種々変えて加熱溶融」と記載した通り、フィルムの露出面積率を好適なものとするためにスクリュ形状を変える必要があることを記載し、混合におけるスクリュ形状が露出面積率に影響を与える旨を示唆しております。かかる記載に基づいて、引用例1に記載されている樹脂を金属板に圧着した後に露出面積率を測定したと仮定した場合に、本願発明1等の露出面積率が、引用例1に比べて小さいものと断言できませんが、引用例1に比べて本願は、露出面積率を低減する手段を開示しているものと思量いたします。
すなわち、本願では、構成Rで示した露出面積率を制御する手段として、樹脂の混合の際にスクリュ形状を変える(換言すれば、露出面積率が、樹脂を混合する際のスクリュ形状と関係がある)という、引用例1には記載も示唆もされていない新たな技術的思想を開示しております。
・・・
このように、樹脂を2軸混合する際にスクリュ形状を変えるという技術自体は公知ではありますが、スクリュ形状が露出面積率に影響を与えるという技術的な観点については、本願において初めて示唆されたものであるといえます。引用例1には、例えば段落[0056]等に2軸押出し機を用いた旨の記載はありますが、スクリュ形状を変えるという技術が公知であるにも関わらずスクリュ形状を変えた旨については記載も示唆もされていないことからも、混合の際のスクリュ形状が露出面積率に影響を与えるという技術的な観点については引用例1の出願時には想到していないことを示唆するものであると思量いたします。

(ハ)フィルムの金属板への被覆方法、延伸作用、について
標記に関して、本願は、キャスティングロールを用いたフィルムの熱圧着、直接押出の2方法を例示しております。これらの方法は、フィルム巻き取り等による延伸作用を極めて抑制でき、フィルムを金属板へ被覆するにあたって露出面積率低減に極めて有効な方法です。
引用例1には、被覆方法に関する記載はありませんので、引用例1出願時(平成18年4月19日)に公知の被覆方法を利用したものと思量いたします。すなわち、例えば引用例2(公開日は平成15年4月18日)記載の被覆方法であると見做すことができ、平成24年12月18日提出の回答書に記載した通り、引用例1の記載内容は、本願記載の被覆方法に比べて露出面積率が高いものと思量いたします。
・・・
(ニ)まとめ
以上をまとめますと、露出面積率を低減する手段であるゴム状弾性体樹脂(B)等の樹脂比率の観点では、引用例1と本願実施例とは露出面積率に相違が無いと考えられるものの、樹脂の混合状況や、金属板への被覆方法・延伸作用の観点においては、引用例1は、本願の実施例よりも高い露出面積率となります。従って、樹脂の混合状況や、金属板への被覆方法・延伸作用に伴う影響が複合的に作用することによって、引用例1に記載の樹脂フィルムは、露出面積率が本願実施例よりも高いものと推定されます。

(4-2-3)引用例1との対比についてのまとめ
以上説明致しましたように、審判官殿がご指摘になられた引用例1には、本願発明1等における構成S及び構成Rについては、記載されておりません。従いまして、本願発明は、審判官殿がご指摘になられた引用例1とは同一ではなく、特許法第29条第1項第3号には該当しないと思量いたします。
・・・
(4-3)本願発明1等における構成Sについて
本願発明1等における構成S(巻締め加工も行う缶用の金属板被覆用樹脂フィルムが発明の対象である旨)については、先述のように引用例1には記載されておりませんし、審判官殿がご指摘になられた引用例2にも記載がありません。
本願発明1等における構成Sは、以下でご説明するように、引用例1及び引用例2に対する著しい相違点であると思量いたします。
まず、本願発明の構成Sにおける「巻締め加工」ですが、引用例1に記載の「絞り、および、絞りしごき加工」(例えば引用例1段落[0001])とは大きく異なります。
すなわち、上記した引用例1における絞り加工等は、平板状の金属板から垂直壁を持つ容器形状を加工するものであり、金属板は90°程度を曲げる加工を受け、しごき加工を受けます。
一方、本願発明1等における巻締め加工は、上記絞り加工等の後に、容器の蓋を取り付ける際に行われる加工であり、上記絞り加工等を受けた金属板を更に180°曲げて巻締める加工です。・・・
以上より、本願発明1等に記載の構成Sにおける「巻締め加工」は、引用例1に記載の絞り加工等が施された後に、更に180°曲げて締める加工(合計270°曲げる加工)であり、実質的に異なる用途と言えます。
また、本願で着目する巻締め加工は、上記より、「用途限定が意味する構造等が相違する」といえるものとも思量いたします。』

2.審判請求人の主張に対して
(1)適用用途について
審判請求人は、上述のとおり「構成S:巻締め加工も行う缶用の金属板被覆用樹脂フィルムが発明の対象」の点が、本願発明と引用例発明との相違点であり、「引用例1における絞り加工等は、平板状の金属板から垂直壁を持つ容器形状を加工するものであり、金属板は90°程度を曲げる加工を受け、しごき加工を受けます。」と指摘する。
しかしながら、引用例発明は、上記第4_3.で検討したとおり、「絞り、および、絞りしごき加工して用いられる2ピース缶用ラミネート鋼板被覆用樹脂フィルム」であり、2ピース缶とは、缶胴と缶蓋の2部材からなり、飲料等の内容物を缶胴に充填した後に、缶胴に缶蓋を被せて巻締め加工を行い密封した製品となすものであるから、前記「90°程度を曲げる加工」及び「しごき加工」による缶胴の成形のみならず、巻締め加工を伴うものといえる。

(2)露出面積率について
ア 樹脂の混合状況について
審判請求人は、「スクリュ形状が露出面積率に影響を与える」旨、主張している。
しかしながら、本願明細書にはスクリュ形状と関連し、「一層フィルムの調整にあたっては,樹脂組成物の各成分(A),(B),(C)を表2の配合でV型ブレンダーを使用してドライブレンドし,2軸押出機で270℃の温度で,混練時間,スクリュ形状を種々変えて加熱溶融し,混合樹脂とした。その後,Tダイスに送り込み,ダイスノズルからキャスティングロールに押し出し,冷却固化して25μm厚みのフィルムを得た。」(段落【0072】)と記載されているのみであり、どのようなスクリュ形状を採用すべきなのかを特定するわけでもなく、また、スクリュ形状として特殊なものを採用しているとも認められないから、スクリュ形状の変更によって、「露出面積率」が多少影響を受けるとしても、通常採用するスクリュ形状であれば、本願発明の露出面積率を達成できると解するのが相当である。
そして、本願明細書において具体的に製造する条件として、「本発明のフィルムを,押出し機で加熱溶融により製造する条件として,加熱溶融時の樹脂温度がポリエステル樹脂(A)の融点よりも5?50℃高い範囲内で,少なくとも剪断速度は80sec^(-1)以上であることが好ましい。」(段落【0058】)と記載されていることからすれば、「剪断速度」を「80sec^(-1)以上」とすれば、スクリュ形状による変更の要因があるとしても、露出面積率を本願発明で特定する範囲内にできると解するのが相当である。
したがって、上記発明特定事項Xに関し、「剪断速度」を「80sec^(-1)以上」とする限りにおいて、スクリュ形状の変更は考慮すべきものとはいえない。

(なお、審判請求人は、2011年10月21日付けの「特願2006-115837号に関する参考資料につきまして」と題する資料において、「(1)剪断速度と樹脂(B)、(C)の露出面積率との関係を示す表」及び「(2)剪断速度と樹脂(B)、(C)の露出面積率との関係を示すグラフ」を示して、「上記(2)のグラフに示すように、剪断速度80sec^(-1)以上の場合に露出面積率が20%以下となり、かつ、剪断速度80sec^(-1)未満となると、露出面積率が急激に上昇することは明らかです。従いまして、剪断速度80sec^(-1)以上という点に臨界的意義が認められることは明白であります」と主張している。)

イ フィルムの金属板への被覆方法、延伸作用、について
審判請求人は、「金属板への被覆方法・延伸作用の観点においては、引用例1は、本願の実施例よりも高い露出面積率となります。」と主張している。
しかし、上記第4_4.において検討したとおり、引用例発明は原料と製造方法が本願発明と同じであり、さらに、フィルムの製膜方法・手段に関しても、引用例発明に係るものと本願発明に係るものとは同等であり、そして、本願発明はフィルムの製膜方法・手段を特定のものに限定しているわけではない。
したがって、仮に引用例発明に係る「フィルム」が、「本願の実施例よりも高い露出面積率」のものであるとしても、引用例発明に係る「フィルム」が本願発明で特定する露出面積率の範囲外であるとはいえない。

3.まとめ
審判請求人の主張にかかる適用用途及び露出面積率ついては、上記2.(1)及び(2)で検討したとおりであるので、審判請求人の主張はいずれも採用することができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は、当審が通知した拒絶理由により拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-19 
結審通知日 2013-04-23 
審決日 2013-05-08 
出願番号 特願2006-115837(P2006-115837)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡▲崎▼ 忠  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 加賀 直人
大島 祥吾
発明の名称 金属板被覆用樹脂フィルムおよび樹脂フィルム被覆金属板とその製造方法  
代理人 亀谷 美明  

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