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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1275812
審判番号 不服2012-17580  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-10 
確定日 2013-06-20 
事件の表示 特願2005-328552「電極材料及び電極並びにリチウムイオン電池」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 5月31日出願公開、特開2007-134274〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年11月14日の出願であって、平成23年7月15日付けで拒絶理由が通知され、同年9月14日付けで手続補正がされ、平成24年6月5日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年9月10日に拒絶査定不服審判が請求されると共に手続補正がされ、同年10月16日付けで前置報告がなされ、これに基づく審尋が同年11月2日付けで発せられ、同年12月27日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成24年9月10日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正の却下の決定

結論
本件補正を却下する。

理由
1.本件補正後の本願発明
本件補正により、補正された特許請求の範囲の請求項1は、以下のとおりである。
「【請求項1】
LiFePO_(4)からなる化合物を主成分とする電極材料を用いた電極を正電極として備えてなるリチウムイオン電池であって、
前記電極材料の吸着水分が1.5重量%以下であり、かつ55℃における鉄溶出量が100ppm以下であり、
電池充放電試験にてカットオフ電圧を2.5?4.0Vとし、充放電の電流をCレートで1Cとした場合の、55℃における100サイクル後の放電容量維持率が80%以上であることを特徴とするリチウムイオン電池。」

2.本件補正前の本願発明
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1?3は、以下のとおりである。
「【請求項1】
LiFePO_(4)からなる化合物を主成分とする電極材料であって、
吸着水分が1.5重量%以下であり、かつ55℃における鉄溶出量が100ppm以下であることを特徴とする電極材料。
【請求項2】
請求項1記載の電極材料を用いてなることを特徴とする電極。
【請求項3】
請求項2記載の電極を正電極として備え、
電池充放電試験における55℃100サイクル後の放電容量維持率が80%以上であることを特徴とするリチウムイオン電池。」

3.当審の判断
(1)本件補正は、本件補正前の請求項3に係る発明の限定的減縮を目的とするものであって、補正後の本願の請求項1に係る発明(以下、「本願補正後発明」という。)は、独立して特許を受けることができるものでなければならないが(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法特許法第126条第5項)、本願補正後発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。


1.特開2003-292309号公報

(2)刊行物1の記載事項
(以下、審決中の「・・・」は、記載事項の省略を意味する。)

1-1
「【請求項1】 ・・・LiFePO_(4)の粒子表面を炭素質物質で被覆してなるリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体・・・。」
1-2
「【請求項5】 水分含有量が2000ppm以下である請求項1乃至4記載のリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体。」
1-3
「【請求項11】 請求項1乃至5のいずれか1項記載のリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体を含むことを特徴とするリチウム二次電池正極活物質。
【請求項12】 請求項11記載のリチウム二次電池正極活物質を用いることを特徴とするリチウム二次電池。」
1-4
「【0050】本発明に係るリチウム二次電池正極活物質は、上記リチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体が用いられる。・・・」
1-5
「【0057】負極材料としては、特に制限されるものではないが、例えば、炭素質材料・・・が挙げられる。」

(3)刊行物1に記載された発明
刊行物1には、水分含有量が2000ppm以下であるLiFePO_(4)の粒子表面を炭素質物質で被覆してなるリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体を含む正極活物質と、炭素質材料を負極材料として用いるリチウム二次電池の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている(1-1?1-5)。

(4)対比
引用発明1の「LiFePO_(4)の粒子表面を炭素質物質で被覆してなるリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体を含む正極活物質」、「水分含有量が2000ppm以下である」、「炭素質材料を負極材料として用いるリチウム二次電池」は、本願補正後発明の「LiFePO_(4)からなる化合物を主成分とする電極材料」、「電極材料の吸着水分が1.5重量%以下であり」、「リチウムイオン電池」に相当するから、引用発明1と本願補正後発明とを対比すると、両者は、
「LiFePO_(4)からなる化合物を主成分とする電極材料を用いた電極を正電極として備えてなるリチウムイオン電池であって、
前記電極材料の吸着水分が2000ppm以下であるリチウムイオン電池」の点で一致し、本願発明は、「55℃における鉄溶出量が100ppm以下」であるのに対して、引用発明1は、55℃における鉄溶出量が不明である点(相違点1)、本願発明は、「電池充放電試験にてカットオフ電圧を2.5?4.0Vとし、充放電の電流をCレートで1Cとした場合の、55℃における100サイクル後の放電容量維持率が80%以上であるのに対して、引用発明1は、そのような放電容量維持率であるか不明である点(相違点2)で一応相違する。

(5)判断
そこで、上記相違点1、2について検討する。
相違点1について
「正極活物質の粒子表面にわずかに吸着した水分が比表面積の減少に伴い減少したため、水分に起因する電池内でのフッ酸(HF)の発生量を低下させ、これらの酸によるMnの溶解反応が起こりにくくなった」(国際公開第02/073718号の明細書第7頁)、「HFは、・・・正極活物質を溶解して遷移金属を溶出させる。」(特開2001-118600号公報【0006】)、「電極活物質に吸着した水分は、電池を組み立てた際に非水電解液へ移動し、電解質と反応してHFを生成する原因となる。」(同【0013】)、「正極に存在する水の状態として、吸着水、結晶水が挙げられるが、他に活物質表面に存在する水酸基等も脱水反応により水を放出することが考えられる。つまり、この種の水分を除去することにより正極においてはマンガン等の溶出や活物質の分解を抑制することが可能」(特開平11-213986号公報【0011】)、「正極活物質表面には吸着水のほかに通常の乾燥では除去しにくい結晶水、あるは水酸基のようなプロトンソースを有している。」(同【0041】)の記載にてらせば、遷移金属元素を構成元素とする正極活物質の表面吸着水に起因して、正極活物質からの遷移金属元素の溶出が生じることは周知の技術的事項であるから(他にも、特表2002-535807号公報の【0016】、国際公開第03/019713号の第11頁、特開2002-334696号公報の【0010】)、遷移金属であるFeの溶出を引き起こす水分の含有量が2000ppm以下と極めて少ない引用発明も、55℃における鉄溶出量は、優に100ppm以下であると解するのが相当である。
よって、上記相違点1は実質的な相違点ではないというべきである。

相違点2について
上記のように、引用発明1の55℃における鉄溶出量が100ppm以下と解するのが相当であるから、その余の要件も充足する引用発明において、電池充放電試験にてカットオフ電圧を2.5?4.0Vとし、充放電の電流をCレートで1Cとした場合の、55℃における100サイクル後の放電容量維持率を測定すれば、80%以上であると解するのが相当である。
よって、上記相違点2は実質的な相違点ではないというべきである。
そうすると、本願補正後発明は、引用発明1と実質的に同一であるというべきである。

なお、請求人は、平成24年12月27日付けの回答書(第5頁第1行?5行)で、引用発明の水分含有量には、化学吸着により吸着された水分量は含まれていないと主張するが、そのような根拠はなく、むしろ本願補正後発明の吸着水分は、単に「水分」とし、吸着の種類によって区別していないから、上記請求人の主張は採用できない。

(6)結論
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
本件補正は、上記のとおり、却下されることとなる。
したがって、本願の請求項1に係る発明は、平成23年9月14日付け手続補正で補正された特許請求の範囲1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
LiFePO_(4)からなる化合物を主成分とする電極材料であって、
吸着水分が1.5重量%以下であり、かつ55℃における鉄溶出量が100ppm以下であることを特徴とする電極材料。」
(以下、本願の請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

第4 原査定の理由の概要
原査定の理由とされた平成23年7月15日付けの拒絶理由通知書に記載した理由は、次のとおりである。

「本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

2.特開2003-292307号公報」

第5 当審の判断
1.刊行物2の記載事項

1-1
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は・・・特に、リチウム二次電池の正極活物質で用いるLiFePO_(4)・・・に関するものである。」
1-2
「【0049】・・・リチウム鉄リン系複合酸化物を正極活物質とするリチウム二次電池は、放電容量及び充電サイクル特性を向上させることができる。・・・」
1-3
「【0052】・・・リチウム鉄リン系複合酸化物は大気中で粉砕等を行うと得られるリチウム鉄リン系複合酸化物には、3000ppm以上の水分が含有されているため、正極活物質として用いる前に真空乾燥等の操作を施して該リチウム鉄リン系複合酸化物の水分含有量を2000ppm以下、好ましくは1500ppm以下として用いることが好ましい。」

2.刊行物2に記載された発明
刊行物2には、水分含有量を2000ppm以下としたLiFePO_(4)を用いた正極活物質の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている(1-1?1-3)。

3.対比
引用発明2の「水分含有量を2000ppm以下とした」、「LiFePO_(4)を用いた正極活物質」は、本願発明の「吸着水分が1.5重量%以下であり」、「LiFePO_(4)からなる化合物を主成分とする電極材料」に相当するから、引用発明2と本願発明とを対比すると、両者は、
「LiFePO_(4)からなる化合物を主成分とする電極材料であって、
吸着水分が2000ppm以下である電極材料」の点で一致し、本願発明が「55℃における鉄溶出量が100ppm以下」であるのに対して、引用発明2が、55℃における鉄溶出量が不明である点で一応相違する。

4.判断
そこで、上記相違点について検討するに、第2、3.(5)の「相違点1について」で説示したように、遷移金属であるFeの溶出を引き起こす水分の含有量が2000ppm以下と極めて少ない引用発明も、55℃における鉄溶出量は、優に100ppm以下であると解するのが相当である。
よって、上記相違点は実質的な相違点ではないというべきである。
また、そうでないとしても、遷移金属元素を構成元素とする正極活物質の表面吸着水に起因して、正極活物質からの遷移金属元素の溶出が生じることは周知の技術的事項であるから、鉄溶出量を100ppm以下とすることは、当業者が容易に推考できることである。
そうすると、本願発明は、引用発明2と実質的に同一であるというべきであるし、そうでないとしても、引用発明2及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に成し得たというべきである。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、又は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は、原査定の理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-17 
結審通知日 2013-04-23 
審決日 2013-05-09 
出願番号 特願2005-328552(P2005-328552)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01M)
P 1 8・ 113- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤樫 祐樹青木 千歌子  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 小川 進
大橋 賢一
発明の名称 リチウムイオン電池  
代理人 村山 靖彦  
代理人 高橋 詔男  
代理人 渡邊 隆  
代理人 鈴木 三義  
代理人 志賀 正武  

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