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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 C07D
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1275843
審判番号 不服2011-15495  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-19 
確定日 2013-06-18 
事件の表示 特願2006-509898「置換キノベンゾオキサジン類似体」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月28日国際公開、WO2004/091504、平成18年10月 5日国内公表、特表2006-522827〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2004年 4月 7日(優先権主張 外国庁受理 2003年 4月 7日、同月15日、同年11月12日及び同年12月23日 アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は概略以下のとおりである。
平成17年12月 1日 翻訳文提出書
平成19年 4月 3日 手続補正書
平成22年 6月17日付け 拒絶理由通知書
平成23年 3月11日付け 拒絶査定
平成23年 7月19日 審判請求書・手続補正書
平成24年 5月30日付け 審尋
なお、審尋について指定した期間内に請求人からは何ら回答がなかった。

第2 平成23年 7月19日付けの手続補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成23年 7月19日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成23年 7月19日付けの手続補正は、平成19年 4月 3日付けの手続補正後の特許請求の範囲の請求項1である、

「 式1を有する化合物、または薬学的に許容されるその塩:


式中、Vは、H、ハロ、またはNR^(1)R^(2):NH_(2)、またはNR^(1)-(CR^(1)_(2))n-NR^(3)R^(4)、
Aは、H、フルオロ、またはNR^(1)_(2)、
Zは、O、S、NR^(1)またはCH_(2)、
Uは、NR^(1)R^(2)、
Xは、OR^(2)、NR^(1)R^(2)、ハロ、アジド、またはSR^(2)、
nは、1?6で、
NR^(1)R^(2)でのR^(1)およびR^(2)は、置換されていてもよい5?14員環を形成し、
R^(1)は、HまたはC_(1-6)アルキルで、
R^(2)は、N、O、およびSの中から選択される1個以上の非隣接ヘテロ原子を任意に有するC_(1-10)アルキルであり、それぞれ置換されていてもよい炭素環式もしくは複素環式の環で置換されていてもよく、またはR^(2)は、複素環、アリールまたはヘテロアリールで置換されていてもよく、
R^(3)は、HまたはC_(1-6)アルキルで、
R^(4)は、H、炭素環式もしくは複素環式の環で置換されていてもよいC_(1-6)アルキル、またはアリールであり、R^(3)およびR^(4)は置換されていてもよい環を形成し得、
Wは、下記の群から選択され、

式中、Q、Q^(1)、Q^(2)およびQ^(3)は、独立的にCHまたはNで、
Yは、独立的にO、CH、=OまたはNR^(1)であり、
R^(5)は、縮合環の任意の位置での置換基であり、H、OR^(2)、C_(1-6)アルキル、C_(2-6)アルケニルであり、これはそれぞれハロ、=Oまたは1個以上のヘテロ原子により置換されていてもよく、またはR^(5)は、無機置換基であるか、または置換したもしくは置換されていない炭素環式もしくは複素環式の5?6員環を得るために隣接する2個のR^(5)が結合したもので、別の置換されたもしくは置換されていない炭素環式もしくは複素環式の環と任意に縮合でき、
XがFまたはピロリジニルのとき、Uはモルホリニルまたは2,4-ジフルオロアニリンではなく、AはF、ZはO、およびWはフェニレンである。」

を、

「式1を有する化合物、または薬学的に許容されるその塩:


式中、
Vは、H、またはNH_(2)、
Aは、H、またはフルオロ、
Zは、O、
UおよびXは、独立してNR^(1)R^(2)、
NR^(1)R^(2)でのR^(1)およびR^(2)は、置換されていてもよい5?14員環を形成し、
R^(1)は、HまたはC_(1-6)アルキルで、
R^(2)は、N、O、およびSの中から選択される1個以上の非隣接ヘテロ原子を任意に有するC_(1-10)アルキルであり、それぞれ置換されていてもよい炭素環式もしくは複素環式の環で置換されていてもよく、またはR^(2)は、置換されていてもよい複素環で、
Wは、下記の群から選択され、

式中、
Qは、CHで、
Yは、独立的にO、CH_(2)、またはC=Oであり、
R^(5)は、Hであり、および
前記式1において、置換されていてもよい部分とは、それぞれ、1以上のハロ、OR^(2)、NR^(1)R^(2)、カルバメート、C_(1 10)アルキル、またはC_(2 10)アルケニルで置換されていてもよい部分を意味し、且つ前記置換基はさらにそれぞれ、ハロ、=O、アリール、炭素環、または複素環で置換されていてもよい。」

とする補正を含むものである。

この請求項1についての補正は、補正前の請求項1に記載された式1の定義に、それぞれ以下の変更をする補正を含むものである(それぞれ「補正(1)」などという。)。
(1)「V」の定義を「Vは、H、ハロ、またはNR^(1)R^(2):NH_(2)、またはNR^(1)-(CR^(1)_(2))n-NR^(3)R^(4)」から「Vは、H、またはNH_(2)」へと変更する補正
(2)「A」の定義を「Aは、H、フルオロ、またはNR^(1)_(2)」から「Aは、H、またはフルオロ」へと変更する補正
(3)「Z」の定義を「Zは、O、S、NR^(1)またはCH_(2)」から「Zは、O」へと変更する補正
(4)「U」及び「X」の定義を「Uは、NR^(1)R^(2)」及び「Xは、OR^(2)、NR^(1)R^(2)、ハロ、アジド、またはSR^(2)、」から「UおよびXは、独立してNR^(1)R^(2)」へと変更する補正
(5)「R^(2)」の定義を「R^(2)は、N、O、およびSの中から選択される1個以上の非隣接ヘテロ原子を任意に有するC_(1-10)アルキルであり、それぞれ置換されていてもよい炭素環式もしくは複素環式の環で置換されていてもよく、またはR^(2)は、複素環、アリールまたはヘテロアリールで置換されていてもよく、」から「R^(2)は、N、O、およびSの中から選択される1個以上の非隣接ヘテロ原子を任意に有するC_(1-10)アルキルであり、それぞれ置換されていてもよい炭素環式もしくは複素環式の環で置換されていてもよく、またはR^(2)は、置換されていてもよい複素環で、」へと変更する補正
(6)「W」の選択肢を補正前の請求項1に記載されたもののうち

のみとし、残りは削除する補正
(7)「Q」の定義を「Qは、CHまたはN」から「CH」へと変更する補正
(8)「Y」の定義を「Yは、独立的にO、CH、=OまたはNR^(1)であり」から「Yは、独立的にO、CH_(2)、またはC=Oであり」へと変更する補正
(9)「R^(5)」の定義を「縮合環の任意の位置での置換基であり、H、OR^(2)、C_(1-6)アルキル、C_(2-6)アルケニルであり、これはそれぞれハロ、=Oまたは1個以上のヘテロ原子により置換されていてもよく、またはR^(5)は、無機置換基であるか、または置換したもしくは置換されていない炭素環式もしくは複素環式の5?6員環を得るために隣接する2個のR^(5)が結合したもので、別の置換されたもしくは置換されていない炭素環式もしくは複素環式の環と任意に縮合でき、」から「R^(5)は、Hであり、」へと変更する補正
(10)n、R^(3)、R^(4)、Q^(1)、Q^(2)、Q^(3)の定義を削除する補正
(11)「XがFまたはピロリジニルのとき、Uはモルホリニルまたは2,4-ジフルオロアニリンではなく、AはF、ZはO、およびWはフェニレンである。」との記載を削除する補正
(12)式1中の「置換されていてもよい部分」について「前記式1において、置換されていてもよい部分とは、それぞれ、1以上のハロ、OR^(2)、NR^(1)R^(2)、カルバメート、C_(1-10)アルキル、またはC_(2-10)アルケニルで置換されていてもよい部分を意味し、且つ前記置換基はさらにそれぞれ、ハロ、=O、アリール、炭素環、または複素環で置換されていてもよい。」という記載を追加する補正(ただし、手続補正書には「C_(1 10)アルキル、またはC_(2 10)アルケニル」と記載されているが、これが「C_(1-10)アルキル、またはC_(2-10)アルケニル」の誤記であることは明らかであるので、このように解する。)
を含むものである。

2 補正の適否
(1)新規事項の追加の有無
まず、補正(12)が、国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の翻訳文、国際出願日における国際特許出願の特許請求の範囲の翻訳文又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く。)(以下、「翻訳文等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものであるかについて検討する。
補正(12)によれば、「前記式1において、置換されていてもよい部分とは、それぞれ、1以上のハロ、OR^(2)、NR^(1)R^(2)、カルバメート、C_(1-10)アルキル、またはC_(2-10)アルケニルで置換されていてもよい部分を意味し、且つ前記置換基はさらにそれぞれ、ハロ、=O、アリール、炭素環、または複素環で置換されていてもよい。」ものであるから、補正後の請求項1に記載された発明における上記「置換されてよい部分」に挙げられた置換基である「ハロ、OR^(2)、NR^(1)R^(2)、カルバメート、C_(1-10)アルキル、またはC_(2-10)アルケニル」は、「さらにそれぞれ、ハロ、=O、アリール、炭素環、または複素環で置換されていてもよい。」ものであると認められる。このように、補正(12)は、式1における置換されていてもよい部分の置換基として、「ハロ、OR^(2)、NR^(1)R^(2)、カルバメート、C_(1-10)アルキル、またはC_(2-10)アルケニル」について、これら置換基がさらに「炭素環、または複素環」で置換された場合を含むようにするものである。
上記の補正(12)に対し、翻訳文等には、式1中の「置換されていてもよい部分」の置換基のさらなる置換基について、以下の事項が記載されている。 そして、翻訳文等には、この他に、式1中の「置換されていてもよい部分」の置換基のさらなる置換基について記載した箇所は見あたらない。

a「 式1を有する化合物、または薬学的に許容されるその化合物の塩、ならびに薬学的に許容される、その化合物の塩、エステルおよびプロドラッグ:

[式中、Vは、H、ハロ、またはNR^(1)R^(2)、
Aは、H、フルオロ、またはNR^(1)_(2)、
Zは、O、S、NR^(1)またはCH_(2)、
Uは、OR^(2)またはNR^(1)R^(2)、
Xは、OR^(2)、NR^(1)R^(2)、ハロ、アジド、またはSR^(2)、
nは、1?3で、
NR^(1)R^(2)でのR^(1)およびR^(2)は、二重結合または環を形成し、いずれも任意に置換され、
R^(1)は、HまたはC_(1-6)アルキルで、
R^(2)は、H、またはN、O、およびSの中から選択される1個以上の非隣接ヘテロ原子を任意に有するC_(1-10)アルキルもしくはC_(2-10)アルケニルで、炭素環式もしくは複素環式の環で任意に置換されるもの、またはR^(2)は、複素環、アリールまたはヘテロアリールで任意に置換されるものであり、
Wは、下記の群から選択され、

式中、Q、Q^(1)、Q^(2)およびQ^(3)は、独立的にCHまたはNで、
Yは、独立的にO、CH、=OまたはNR^(1)であり、
R^(5)は、縮合環の任意の位置での置換基であり、H、OR^(2)、C_(1-6)アルキル、C_(2-6)アルケニルであり、これはそれぞれハロ、=Oまたは1個以上のヘテロ原子により任意に置換されるもの、またはR^(5)は、無機置換基であるか、または置換したもしくは置換されていない炭素環式もしくは複素環式の5?6員環を得るために隣接する2個のR^(5)が結合したもので、任意に別の置換されたもしくは置換されていない炭素環式もしくは複素環式の環と縮合でき、
Xがピロリジニルであるときに、UがOR^(1)でなければ、AはF、ZはO、Wはナフタレニルまたはフェニレンである。
XがFまたはピロリジニルのとき、Uはモルホリニルや2,4-ジフルオロアニリンではなく、AはF、ZはO、およびWはフェニレンで、
さらに、UがOHの場合には、Wは複数の縮合芳香環を表し、Xはハロではなく、XはNH_(2)、または、Nを含まない1つの部分または、6個を超える炭素を含む。]。
・・・
【請求項26】
それぞれの任意に置換される部分が、1個以上のハロ、OR^(2)、NR^(1)R^(2)、カルバミン酸塩、C_(1-10)アルキル、C_(2-10)アルケニル、(それぞれハロ、=O、アリールまたは1個以上のヘテロ原子で任意に置換)、無機置換基、アリール、炭素環式もしくは複素環式の環で置換される、請求項1記載の化合物。」

b「【0017】
上の式1で、それぞれの任意に置換される部分は、1個以上のハロ、OR^(2)、NR^(1)R^(2)、カルバミン酸塩、C_(1-10)アルキル、C_(2-10)アルケニル、(それぞれハロ、=O、アリールまたは1個以上のヘテロ原子で任意に置換)、無機置換基、アリール、炭素環式もしくは複素環式の環で置換される。」

翻訳文等の特許請求の範囲の請求項1の「任意に置換」とは、「置換されていてもよい」と同義であると認められる。そして、請求項1を引用してさらに特定して記載する請求項26の記載は、()の外にある「ハロ、OR^(2)、NR^(1)R^(2)、カルバミン酸塩、C_(1-10)アルキル、C_(2-10)アルケニル、無機置換基、アリール、炭素環式もしくは複素環式の環」を「それぞれの任意に置換される部分は、」における置換基として記載したものであると認められ、()内の「それぞれハロ、=O、アリールまたは1個以上のヘテロ原子で任意に置換」という記載は、その直前に記載されている「任意に置換される部分」における置換基である「ハロ、OR^(2)、NR^(1)R^(2)、カルバミン酸塩、C_(1-10)アルキル、C_(2-10)アルケニル」にさらに置換し得る基を記載したものと認められる。【0017】の記載も、同様である。
そうすると、翻訳文等には、式1において、任意に置換される部分における置換基としては、「ハロ、OR^(2)、NR^(1)R^(2)、カルバミン酸塩、C_(1-10)アルキル、C_(2-10)アルケニル、無機置換基、アリール、炭素環式もしくは複素環式の環」であることが記載され、そのうちの「OR^(2)、NR^(1)R^(2)、カルバミン酸塩、C_(1-10)アルキル、C_(2-10)アルケニル」が、さらに「それぞれハロ、=O、アリールまたは1個以上のヘテロ原子で任意に置換」され得るものとして記載されていたと認められる。
これに対し、翻訳文等には、式1において、置換されていてもよい部分における置換基が、さらに炭素環式もしくは複素環式の環で置換され得ることは記載されていない。
そして、式1において、置換されていてもよい部分における置換基が、さらに炭素環式もしくは複素環式の環で置換され得ることが、翻訳文等に記載されていなくても、技術常識から当業者に自明であるともいえない。
そうすると、補正(12)は、翻訳文等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである、ということはできないから、翻訳文等に記載した事項の範囲内においてするものではない。

(2)まとめ
したがって、補正(12)は、特許法第184条の12第2項の規定により読み替えて適用する特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、補正(12)を含むものである23年 7月19日付けの手続補正は、その余を検討するまでもなく、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり、決定する。

第3 本願の特許請求の範囲の記載
平成23年 7月19日付けの手続補正は上記のとおり却下されたから、本件出願において特許を受けようとする発明は、平成19年 4月 3日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1乃至18に記載されたものであると認められ、その請求項1には、上記第2の1に示したとおりの、

「 式1を有する化合物、または薬学的に許容されるその塩:


式中、Vは、H、ハロ、またはNR^(1)R^(2):NH_(2)、またはNR^(1)-(CR^(1)_(2))n-NR^(3)R^(4)、
Aは、H、フルオロ、またはNR^(1)_(2)、
Zは、O、S、NR^(1)またはCH_(2)、
Uは、NR^(1)R^(2)、
Xは、OR^(2)、NR^(1)R^(2)、ハロ、アジド、またはSR^(2)、
nは、1?6で、
NR^(1)R^(2)でのR^(1)およびR^(2)は、置換されていてもよい5?14員環を形成し、
R^(1)は、HまたはC_(1-6)アルキルで、
R^(2)は、N、O、およびSの中から選択される1個以上の非隣接ヘテロ原子を任意に有するC_(1-10)アルキルであり、それぞれ置換されていてもよい炭素環式もしくは複素環式の環で置換されていてもよく、またはR^(2)は、複素環、アリールまたはヘテロアリールで置換されていてもよく、
R^(3)は、HまたはC_(1-6)アルキルで、
R^(4)は、H、炭素環式もしくは複素環式の環で置換されていてもよいC_(1-6)アルキル、またはアリールであり、R^(3)およびR^(4)は置換されていてもよい環を形成し得、
Wは、下記の群から選択され、

式中、Q、Q^(1)、Q^(2)およびQ^(3)は、独立的にCHまたはNで、
Yは、独立的にO、CH、=OまたはNR^(1)であり、
R^(5)は、縮合環の任意の位置での置換基であり、H、OR^(2)、C_(1-6)アルキル、C_(2-6)アルケニルであり、これはそれぞれハロ、=Oまたは1個以上のヘテロ原子により置換されていてもよく、またはR^(5)は、無機置換基であるか、または置換したもしくは置換されていない炭素環式もしくは複素環式の5?6員環を得るために隣接する2個のR^(5)が結合したもので、別の置換されたもしくは置換されていない炭素環式もしくは複素環式の環と任意に縮合でき、
XがFまたはピロリジニルのとき、Uはモルホリニルまたは2,4-ジフルオロアニリンではなく、AはF、ZはO、およびWはフェニレンである。」
との記載がある(以下、上記請求項1に記載された事項により特定される発明を「本願発明」という。)。

第4 原査定の理由の概要
原査定は、「この出願については、平成22年 6月17日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。」というものである。
原査定における平成21年5月26日付け拒絶理由通知書の「理由」の欄に「1)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。」と記載され、「記」として
「理由1について
・ 請求項 1-5、8、10、11、24-25、27-32、44
・ 引用文献等 1
・ 備考 引用文献1には、実施例29、30の化合物及びその抗腫瘍活性が開示されている(第33頁 右下欄-第34頁 左下欄、第42頁 左上欄 表2)。
また、その製造中間体化合物(段階1で製造される化合物)も開示されている。
したがって、請求項1-5、8、10、11、24-25、27-32、44に係る発明は引用文献1に記載された発明である。」
と記載されている。また、「引 用 文 献 等 一 覧」に「1.特表平7-500611号公報」が記載されている。
以上のことから、原査定における「平成22年 6月17日付け拒絶理由通知書に記載した理由」とは、「本願発明は、特許出願(優先日)の前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。」という理由を含むと認められる。

第5 当審の判断
当審は、原査定の理由のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである、と判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 刊行物及び刊行物の記載
原査定における引用文献1は、本願の出願(優先日)の前に頒布されたことが明らかな刊行物であって、以下のものである(以下、これを「刊行物1」という。)。
刊行物1:特表平7-500611号公報

刊行物1には、以下の記載がある。

1a「発明の要約
本発明の一実施態様では、治療に有効な量の式I:


(式中、R^(1)は水素及びカルボキシ保護基の中から選択される)で表される化合物、又はその医薬的に許容できる塩、エステル、アミド若しくはプロドラッグを腫瘍疾患の治療を必要とする宿主動物に投与することからなる治療方法を提供する。このような化合物は予期に反して、in vitro及びin vivoいずれの測定でも高度の抗腫瘍活性を有することが判明した。
式IのR^(2)は、水素、1?6個の炭素原子を有するアルキル、1?6個の炭素原子を有するアルコキシ及び1?6個の炭素原子を有するスルフヒドロアルキルの中から選択される。
式IのR^(3)は独立して、水素、ハロゲン、ニトロ、1?6個の炭素原子を有するアルキル、カルボキシル、メチレンジオキシ、シアノ、1?6個の炭素原子を有するハロ置換アルキル、1?6個の炭素原子を有するヒドロキシ置換アルキル、アルキルスルホニル、メチレンジオキシ、式-YR^(4)(式中、YはO又はSであり、R^(4)は水素又は1?6個の炭素原子を有するアルキルである)で表される基、及び式-NR^(5)R^(6)(式中のR^(5)及びR^(6)は独立して、水素又は1?6個の炭素原子を有するアルキルの中から選択される)で表されるアミンの中から選択される1個以上の基である。
式IのWは、水素、アルコキシ、ヒドロキシル、1?6個の炭素原子を有するアルキル、アミノ、アルキルアミノ、ハロゲン及びハロ置換アルキルの中から選択される。
式IのXはハロゲン、水素、1?6個の炭素原子を有するアルキル及び1?6個の炭素原子を有するハロ置換アルキルの中から選択される。
式IのXは(a)ハロゲン、(b)ピリジル又は置換ピリジル基、(c)式-NR^(12)R^(13)(式中、R^(12)は水素又は1?10個の炭素原子を有するアルキルであり、R^(13)は1?10個の炭素原子を有するアルキル、1?10個の炭素原子を有するヒドロキシ置換アルキル、アミノ基、1?6個の炭素原子を有するアルキルアミノ及び1?6個の炭素原子を有するジアルキルアミノの中から選択される)で表されるアミノ基、並びに(d)式:

[式中、R^(7)は-CH_(2)-、-CH_(2)CH_(2)-、-CH_(2)CH_(2)CH_(2)-、-CH_(2)CH_(2)NHCH_(2)-又は式-CH_(2)R^(9)CH_(2)-(式中のR^(9)はS、-O又はNHの中から選択される)で表される基の中から選択され、式IaのR^(3)は独立して、水素、1?6個の炭素原子を有するアルキル、1?6個の炭素原子を有するハロ置換アルキル、1?6個の炭素原子を有するアミノ置換アルキル、1?6個の炭素原子を有するヒドロキシ置換アルキル、1?6個の炭素原子を有するアルキルアミノアルキル、ヒドロキシ、1?6個の炭素原子を有するアルカノイル、スピロシクロアルキル基及び式-NR^(10)R^(11)(式中、R^(10)及びR^(11)はこの場合独立して、水素及び1?6個の炭素原子を有するアルキルの中から選択され得るか又はR^(10)及びR^(11)の一方は水素で、他方はアルカノイル基若しくはアミド結合で窒素に結合した1?5個のα-アミノ酸を有するペプチジル基である)で表されるアミンの中から選択される1個又は2個の基である]で表される窒素含有複素環の中から選択される。あるいは、X及びZは一緒になって、-OCH_(2)-又は-OCH_(2)CH_(2)O-を形成し得る。式IのAはO、S及びCH_(2)の中から選択される。」(4頁左下欄6行-5頁右上欄12行)

1b 刊行物1の7頁右下欄下から5行-10頁左上欄10行に「本発明の好ましい典型例」として挙げられた化合物名の中に「1-(3-アミノピロリジン-1-イル)-2-フルオロ-4H-キノ[2,3,4-i、j][1,4]ベンゾオキサジン-5-(N-2,4-ジフルオロフェニル)カルボキサミド塩酸塩」が記載されている(9頁左下欄8-11行)。

1c「以下に示す式II(式中、Xはハロゲンであり、R^(2)及びZの意味は先に説明した通りである)で表される化合物で開始する反応(Chuが米国特許第4,607,032号に記載)か又は図式IV若しくはVに示す反応で本発明の化合物を製造することができる。式IIで表される化合物の製造方法を以下の図式I、II、IIIに示す。

適切な有機極性溶媒(例えばジメチルスルホキシド、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1-メチル-2-ピロリドン又は水)の存在下、式IIで表される化合物を式IIIで表されるアミンと共に20℃?200℃の温度で、好ましくは70℃?150℃の温度で加熱して反応させ得る。酸受容体(例えばトリエチルアミン、炭酸カリウム等)の存在下、酸受容体対式IIの化合物のモル比を1.0?1.02モルとして反応を生起することが望ましい。アミン類は、この試薬を2倍以上のモル過剰として使用し、それ自体を酸受容体として利用することもできる。
図式I

」(12頁右下欄下から2行-13頁左下欄)

1d「実施例3
エチル 1,2-ジフルオロ-4-オキソ-4H-キノ[2,3,4-i,j][1,4]ベンゾオキサジン-5-カルボキシレート塩酸塩
エチル-3-(2-ヒドロキシアニリノ)-2-(2,3,4,5-テトラフルオロベンゾイル)アクリレート(19.92g、0.052mol)を200mlのジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、重炭酸ナトリウム粉末(13.1g、0.156mol)を加えた。懸濁液を100℃に予熱した油浴に浸積させて、2時間加熱した。次いで、混合物を少し冷却し、クロロホルムで希釈し、濾過した。濾液を蒸発させてDMF溶液とし、室温で一晩放置した。放置後、溶液をトルエンと共に蒸留させて、淡黄色固体を得た。固体を脱水し、クロロホルムに溶解し、1N塩酸及び5%炭酸カリウム溶液で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水し、濾過し、蒸発させて、淡黄色固体を得た。固体にジエチルエーテルを加え、この混合物を数時間放置した。次いで、濾過して固体を除去し、新しいジエチルエーテルで洗浄し、70℃で一晩脱水して、16.00gのエチル 1,2-ジフルオロ-4-オキソ-4H-キノ[2,3,4-i,j][1,4]ベンゾオキサジン-5-カルボキシレートを得た。」(16頁頁右下欄下から6行-17頁左上欄下から6行)

1e「実施例30
1-(3-アミノピロリジン-1-イル)-2-フルオロ-4-オキソ-4H-キノ[2,3,4-i,j][1,4]ベンゾオキサジン-5-(N-2,4-ジフルオロフェニル)カルボキサミド塩酸塩
段階1:1,2-ジフルオロ-4-オキソ-4H-キノ[2,3,4-i,j][1,4]ベンゾオキサジン-5-(N-2,4-ジフルオロフェニル)カルボキサミド塩酸塩
乾燥窒素下、室温で2,4-ジフルオロアニリン(0.34ml、3.2mmol)を10mlの塩化メチレンに溶解した。次いで、1.6ml(3.2mmol)のトリメチルアルミニウムを滴下し、この混合物を30分間攪拌した。実施例3のエチル 1,2-ジフルオロ-4-オキソ-4H-キノ[2,3,4-i,j][1,4]ベンゾオキサジン-5-カルボキシレートの試料1g(2.9mmol)を25mlの塩化メチレンに溶解し、これを第1の溶液に加え、室温で20時間攪拌した。沈殿した生成物を採取し、塩化メチレン及びエタノールで洗浄し、脱水して、0.56gの表題化合物を淡黄色固体として得た。
段階2:1-(3-アミノピロリジン-1-イル)-2-フルオロ-4-オキソ-4H-キノ[2,3,4-i,j][1,4]ベンゾオキサジン-5-(N-2,4-ジフルオロフェニル)カルボキサミド塩酸塩
J.Heterocyclic Chem. 24:453-456(1987)に記載の手順に従い、前記反応のエチル 1,2-ジフルオロ-4-オキソ-4H-キノ[2,3,4-i,j][1,4]ベンゾオキサジン-5-カルボキシレートの代わりに前記段階1のアミドを用いて表題化合物を製造した。生成物を塩酸に溶解し、過剰溶媒を除去して黄色固体として表題化合物の塩を得た。融点>270℃。MS M/Z: 493(M+H)。IR(KBR):1520,1620,1680cm^(-1).NMR(DMSO)d:2.04(m,1H),2.26(m,1H),3.22(m,1H),3.41(m,1H),3.72(m,1H),3.86(m,2H),7.10(m,1H),7.23(m,1H),7.32(m,1H),7.37(m,1H),7.46(d,1H),7.84(d,1H),8.48(m,1H),8.57(s,1H),9.08(s,1H)。」(34頁右上欄3行-右下欄1行)

1f「


」(42頁左上欄)

2 刊行物1に記載された発明
刊行物1の実施例30には、実施例3の化合物の化合物から出発して、1-(3-アミノピロリジン-1-イル)-2-フルオロ-4-オキソ-4H-キノ[2,3,4-i,j][1,4]ベンゾオキサジン-5-(N-2,4-ジフルオロフェニル)カルボキサミド塩酸塩を製造したことが記載されている(1e)。ここで出発原料として用いられた化合物に関して言及された実施例3には、「エチル-3-(2-ヒドロキシアニリノ)-2-(2,3,4,5-テトラフルオロベンゾイル)アクリレート(19.92g、0.052mol)を200mlのジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、重炭酸ナトリウム粉末(13.1g、0.156mol)を加え」て行う反応により、「エチル 1,2-ジフルオロ-4-オキソ-4H-キノ[2,3,4-i,j][1,4]ベンゾオキサジン-5-カルボキシレート塩酸塩」を製造したことが記載されている(1d)。この反応は、刊行物1に図式Iとして記載された(1c)環形成反応であると認められる。そして、実施例30の工程2は、刊行物1の上記1cに記載された式IIの化合物にZHを反応させて式IIIの化合物を製造する工程であると認められる。
刊行物1の上記1aには、「本発明の一実施態様では、治療に有効な量の式I: (審決注 ここでは式は省略する。)
(式中、R^(1)は水素及びカルボキシ保護基の中から選択される)で表される化合物、又はその医薬的に許容できる塩、エステル、アミド若しくはプロドラッグを腫瘍疾患の治療を必要とする宿主動物に投与することからなる治療方法を提供する。」(1a)と記載されていることから、式Iのカルボン酸のアミドを包含するものと認められる。このような理解は、刊行物1には、式Iのカルボン酸のアミドに該当する化合物である1-(3-アミノピロリジン-1-イル)-2-フルオロ-4-オキソ-4H-キノ[2,3,4-i,j][1,4]ベンゾオキサジン-5-(N-2,4-ジフルオロフェニル)カルボキサミド塩酸塩の名称が例示されていること(1b)、この化合物の製造が実施例30に具体的に記載され(1e)、腫瘍細胞系での細胞毒性についてのIC_(50)を調べた結果が記載されている(1f)こととも整合する。
そうすると、刊行物1には、その実施例30の化合物である
「1-(3-アミノピロリジン-1-イル)-2-フルオロ-4-オキソ-4H-キノ[2,3,4-i,j][1,4]ベンゾオキサジン-5-(N-2,4-ジフルオロフェニル)カルボキサミド塩酸塩」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

3 対比
(1)本願の請求項1の記載について
本願の請求項1には不明瞭な記載があるので、本願発明と引用発明の対比に先立って、まず、請求項1の記載をみておく。

ア Vについて
本願の請求項1には、Vの定義中に「NR^(1)R^(2):NH_(2)、またはNR^(1)-(CR^(1)_(2))n-NR^(3)R^(4)」という記載がある。たとえば、R^(2)の選択肢はHが含まれていないことからみて、NH_(2)がNR^(1)R^(2)に含まれる基の例示として記載されているとはいえず、「NR^(1)R^(2):NH_(2)、またはNR^(1)-(CR^(1)_(2))n-NR^(3)R^(4)」という記載は、「NR^(1)R^(2)、NH_(2)、またはNR^(1)-(CR^(1)_(2))n-NR^(3)R^(4)、」の意味であるのか、単なる誤記として付け加わったものであるのかが明らかではない。しかし、この記載部分より前の「Vは、H、ハロ、または」という記載からみて、Vの選択肢がHを含むことは明らかである。そこで、引用発明との対比に際しては、本願発明においてVがH又はハロである場合について検討することとする。

イ R^(2)について
請求項1には、R^(2)の定義として「R^(2)は、N、O、およびSの中から選択される1個以上の非隣接ヘテロ原子を任意に有するC_(1-10)アルキルであり、それぞれ置換されていてもよい炭素環式もしくは複素環式の環で置換されていてもよく、またはR^(2)は、複素環、アリールまたはヘテロアリールで置換されていてもよく」と記載されている。この記載を日本語の文言どおりに読むと、R^(2)がとり得る唯一の基である「N、O、およびSの中から選択される1個以上の非隣接ヘテロ原子を任意に有するC_(1-10)アルキル」が有していてもよい置換基について、「それぞれ置換されていてもよい炭素環式もしくは複素環式の環で置換されていてもよく、」と説明した後に、「またはR^(2)は、複素環、アリールまたはヘテロアリールで置換されていてもよく、」と記載していることになり、R^(2)が表す基である「N、O、およびSの中から選択される1個以上の非隣接ヘテロ原子を任意に有するC_(1-10)アルキル」が有していてもよい置換基として、「複素環」が前後で2回重複して記載され、また、「炭素環式の環」と「アリール」のように一部重複するものが前後で記載されており、これらの記載の意味が明瞭でない。
そこで、平成19年 4月 3日付けで手続補正がされた明細書(以下、「本願明細書」という。)を参照すると、【0006】には、「R^(2)は、H、またはN、O、およびSの中から選択される1個以上の非隣接ヘテロ原子を任意に有するC_(1-10)アルキルもしくはC_(2-10)アルケニルで、炭素環式もしくは複素環式の環で置換されていてもよく、またはR^(2)は、置換されていてもよい複素環、アリールまたはヘテロアリールである。」と記載されている。
この記載と、請求項1におけるR^(2)についての記載を較べると、請求項1の記載において、「R^(2)は、N、O、およびSの中から選択される1個以上の非隣接ヘテロ原子を任意に有するC_(1-10)アルキルであり、それぞれ置換されていてもよい炭素環式もしくは複素環式の環で置換されていてもよく、またはR^(2)は、複素環、アリールまたはヘテロアリールで(あり)、置換されていてもよく、」のように、下線の部分の「、」あるいは、「あり、」という記載を補うと、両者が同じ意味になることがわかる。
このような理解は、本願明細書【0009】の「一例において、R^(1)はHで、R^(2)は、任意に1個以上のヘテロ原子を含みうるC_(1-10)アルキルで、C_(3-6)シクロアルキル、アリール、または1個以上のN、OまたはSを含む5?14員複素環で置換されていてもよい。 別の例において、R^(1)はHで、R^(2)はアリールまたは1個以上のN、OまたはSを含み、それぞれアミノまたは別の複素環と置換されていてもよい5?14員複素環である。」と記載されていることとも整合する。
さらに進んで、本願の国際公開時の特許請求の範囲及び明細書の翻訳文を見ると、「R^(2)は、H、またはN、O、およびSの中から選択される1個以上の非隣接ヘテロ原子を任意に有するC_(1-10)アルキルもしくはC_(2-10)アルケニルで、炭素環式もしくは複素環式の環で任意に置換されるもの、またはR^(2)は、任意に置換される複素環、アリールまたはヘテロアリールである。」と記載されているから、上記補正の前後では、【0006】には「任意に置換される」という記載を、「置換されていてもよい」と言い回しを替えただけで、R^(2)について同じ意味の記載がされている。また、本願の国際出願時における明細書及び特許請求の範囲を見ると、[0006]及び本願の国際出願時における特許請求の範囲請求項1の原文にも、同じ意味の記載がされていると認められる。
これらのことからみて、請求項1の「R^(2)は、N、O、およびSの中から選択される1個以上の非隣接ヘテロ原子を任意に有するC_(1-10)アルキルであり、それぞれ置換されていてもよい炭素環式もしくは複素環式の環で置換されていてもよく、またはR^(2)は、複素環、アリールまたはヘテロアリールで置換されていてもよく、」という記載は、「R^(2)は、N、O、およびSの中から選択される1個以上の非隣接ヘテロ原子を任意に有するC_(1-10)アルキルであり、それぞれ置換されていてもよい炭素環式もしくは複素環式の環で置換されていてもよく、またはR^(2)は、複素環、アリールまたはヘテロアリールであり、置換されていてもよく、」あるいは、「R^(2)は、N、O、およびSの中から選択される1個以上の非隣接ヘテロ原子を任意に有するC_(1-10)アルキルであり、それぞれ置換されていてもよい炭素環式もしくは複素環式の環で置換されていてもよく、またはR^(2)は、複素環、アリールまたはヘテロアリールで、置換されていてもよく、」のいずれかの誤記であるといえ、いずれであるとしても意味が異なるものではない。

ウ 本願の請求項1の記載についてのまとめ
以上のことから、本願発明は、少なくとも、以下の発明(以下、これを「本願発明A」という。)を含むものであると認められる。
「 式1を有する化合物、または薬学的に許容されるその塩:


式中、Vは、H、ハロ、
Aは、H、フルオロ、またはNR^(1)_(2)、
Zは、O、S、NR^(1)またはCH_(2)、
Uは、NR^(1)R^(2)、
Xは、OR^(2)、NR^(1)R^(2)、ハロ、アジド、またはSR^(2)、
nは、1?6で、
NR^(1)R^(2)でのR^(1)およびR^(2)は、置換されていてもよい5?14員環を形成し、
R^(1)は、HまたはC_(1-6)アルキルで、
R^(2)は、N、O、およびSの中から選択される1個以上の非隣接ヘテロ原子を任意に有するC_(1-10)アルキルであり、それぞれ置換されていてもよい炭素環式もしくは複素環式の環で置換されていてもよく、またはR^(2)は、複素環、アリールまたはヘテロアリールであり、置換されていてもよく、
R^(3)は、HまたはC_(1-6)アルキルで、
R^(4)は、H、炭素環式もしくは複素環式の環で置換されていてもよいC_(1-6)アルキル、またはアリールであり、R^(3)およびR^(4)は置換されていてもよい環を形成し得、
Wは、下記の群から選択され、

式中、Q、Q^(1)、Q^(2)およびQ^(3)は、独立的にCHまたはNで、
Yは、独立的にO、CH、=OまたはNR^(1)であり、
R^(5)は、縮合環の任意の位置での置換基であり、H、OR^(2)、C_(1-6)アルキル、C_(2-6)アルケニルであり、これはそれぞれハロ、=Oまたは1個以上のヘテロ原子により置換されていてもよく、またはR^(5)は、無機置換基であるか、または置換したもしくは置換されていない炭素環式もしくは複素環式の5?6員環を得るために隣接する2個のR^(5)が結合したもので、別の置換されたもしくは置換されていない炭素環式もしくは複素環式の環と任意に縮合でき、
XがFまたはピロリジニルのとき、Uはモルホリニルまたは2,4-ジフルオロアニリンではなく、AはF、ZはO、およびWはフェニレンである。」

(2)本願発明Aと引用発明の一致点及び相違点について
ア 引用発明の一般式1への該当性
上記(1)を踏まえ、本願発明Aと引用発明を対比する。
引用発明の化合物である「1-(3-アミノピロリジン-1-イル)-2-フルオロ-4-オキソ-4H-キノ[2,3,4-i,j][1,4]ベンゾオキサジン-5-(N-2,4-ジフルオロフェニル)カルボキサミド塩酸塩」の構造中、「4H-キノ[2,3,4-i,j][1,4]ベンゾオキサジン」は、本願発明Aを表現した式1において、ZがOであり、Wが、

である場合の環構造と同じ環構造を表す。そして、この環構造に対して「4H-キノ[2,3,4-i,j][1,4]ベンゾオキサジン」という名称を用いた場合の式1中の各基の位置番号は、Xが1位、Aが2位、Vが3位、=Oが4位、-C(=O)-Uが5位となる。そして、引用発明における1位置換基の「3-アミノ-ピロリジン-1-イル」は、式1における「X」である「NR^(1)R^(2)」が3位にアミノ基が結合した5員環の場合の置換基に該当する。引用発明における2位置換基の「フルオロ」は、式1における「A」の選択肢である「フルオロ」に該当する。引用発明における4位置換基の「オキソ」は、式1の環に直接結合して記載されている「=O」に該当する。引用発明における5位置換基の「N-2,4-ジフルオロフェニル)カルボキサミド」は、式1における「-C(=O)-U」の「U」である「NR^(1)R^(2)」の「R^(1)」がHであって、「R^(2)」が「アリール」に含まれるフェニルであって、そのフェニルは2,4-位がフルオロで置換されたものである場合に該当する。また、「塩酸塩」は「薬学的に許容される塩」に該当する。
そうすると、引用発明は、本願発明Aにおいて
「式1において、
Vは、H、
Aは、フルオロ、
Zは、O、
Uは、NR^(1)R^(2) であって、そのR^(1) がH、R^(2) が2,4-ジフルオロフェニル、
Xは、NR^(1)R^(2)であって、NR^(1)R^(2)が3位にアミノ基が結合した5員環である3-アミノ-ピロリジン-1-イル、
Wは、

R^(5)は、H、である場合の化合物の塩酸塩」に該当する。

イ 本願発明から除外される化合物について
本願発明Aは、「XがFまたはピロリジニルのとき、Uはモルホリニルまたは2,4-ジフルオロアニリンではなく、AはF、ZはO、およびWはフェニレンである。」との条件を満たすものであるので、引用発明がこの条件を満たすものであるかを検討する。
請求項1には、「XがFまたはピロリジニルのとき、Uはモルホリニルまたは2,4-ジフルオロアニリンではなく、AはF、ZはO、およびWはフェニレンである。」という上記記載における「ピロリジニル」の置換基について特に記載していない。「ピロリジニル」とは、N原子が1個の飽和5員環を意味し、通常は、置換基を含まないものを指す。そして、請求項1においては、Xの選択肢に含まれているNR^(1)R^(2)については、「NR^(1)R^(2)でのR^(1)およびR^(2)は、置換されていてもよい5?14員環を形成し、」と5?14員環が置換されていてもよい場合については、明示的に記載していることからみると、本願の特許請求の範囲では、置換されている場合については、無置換のものと区別して記載していると認められるかた、置換されているかどうかについて記載されていない「ピロリジニル」という記載は、通常の意味のとおりに無置換のピロリジニルを意味すると理解できる。
そうすると、引用発明の化合物において、式1のXに対応する部分の基である3-アミノ-ピロリジン-1-イルは、3位にアミノ基が置換したピロリジニルであるから、「ピロリジニル」とは別の基であり、引用発明の化合物は「XがFまたはピロリジニルのとき、Uはモルホリニルまたは2,4-ジフルオロアニリンではなく、AはF、ZはO、およびWはフェニレンである。」によって本願発明Aの範囲から除外される化合物ではないことが明らかである。

ウ 本願発明Aと引用発明の一致点及び相違点についてのまとめ
本願発明Aと引用発明は、
「式1を有する化合物、または薬学的に許容されるその塩:

Vは、H、
Aは、フルオロ、
Zは、O、
Uは、NR^(1)R^(2) であって、このR^(1) がH、R^(2) が2,4-ジフルオロフェニル、
Xは、NR^(1)R^(2)、であって、NR^(1)R^(2)が3位にアミノ基が結合した5員環である3-アミノ-ピロリジン-1-イル、
Wは、


R^(5)は、H、
XがFまたはピロリジニルのとき、Uはモルホリニルまたは2,4-ジフルオロアニリンではなく、AはF、ZはO、およびWはフェニレンである。」
に該当する化合物である点で一致し、両者に相違点はない。

4 判断
上記3で検討したように、本願発明Aの化合物と引用発明の化合物には相違点がないから、引用発明は本願発明Aに該当するものである。そして、本願発明は本願発明Aを包含するものであるから、引用発明は本願発明にも該当するといえる。そうすると、本願発明は刊行物1に記載された発明である。

5 まとめ
以上によれば、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、特許法第49条第2号に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-18 
結審通知日 2013-01-21 
審決日 2013-02-04 
出願番号 特願2006-509898(P2006-509898)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (C07D)
P 1 8・ 113- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 福代  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 齋藤 恵
東 裕子
発明の名称 置換キノベンゾオキサジン類似体  
代理人 刑部 俊  
代理人 川本 和弥  
代理人 清水 初志  
代理人 新見 浩一  

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