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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1276033
審判番号 不服2012-13637  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-17 
確定日 2013-06-27 
事件の表示 特願2009-219329「光学ヘッド並びに記録及び/又は再生装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年12月17日出願公開、特開2009-295279〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成10年12月4日(優先権主張平成10年1月9日)に出願した特願平10-345949号の一部を平成20年1月28日に新たな特許出願とした特願2008-16737号の一部を平成21年9月24日に新たな特許出願としたものであって、平成23年3月23日付けで拒絶理由が通知され、同年5月30日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ、同年11月2日付けで拒絶理由が通知され、同年12月26日付けで意見書が提出されたが、平成24年4月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月17日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がされ、同年11月29日付けで審尋がなされ、平成25年1月25日に回答書が提出されたものである。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年7月17日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は補正前の平成23年5月30日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された

「情報信号が記録される記録層上に厚さ0.21mm以下の光透過層を有する情報記録媒体用の光学ヘッドであって、
光を出射する光源と、
上記光源からの光を上記光透過層を介して上記記録層上に集光させる開口数NAが0.85以上の対物レンズと、
上記光源と上記対物レンズとの間に配され、所定の屈折力を有するコリメータレンズと、
上記光透過層の少なくとも±0.0074mm以上、±0.03mm以下の厚さ誤差により発生する球面収差を打ち消すように、上記コリメータレンズを光軸方向に移動させる移動手段とを備える光学ヘッド。」

という発明(以下、「本願発明」という。)を、

「情報信号が記録される記録層上に厚さ0.21mm以下の光透過層を有する情報記録媒体用の光学ヘッドであって、
光を出射する光源と、
上記光源からの光を上記光透過層を介して上記記録層上に集光させる開口数NAが0.85以上の対物レンズと、
上記光源と上記対物レンズとの間に配され、所定の屈折力を有する開口数NAが0.3以下のコリメータレンズと、
上記光透過層の少なくとも±0.0074mm以上、±0.03mm以下の厚さ誤差により発生する球面収差を打ち消すように、上記コリメータレンズを光軸方向に移動させる移動手段とを備える光学ヘッド。」

という発明(以下、「補正後の発明」という。)に変更することを含むものである。

2.新規事項の有無、補正の目的要件について
本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された、「コリメータレンズ」に関し、「開口数NAが0.3以下の」と限定して、特許請求の範囲を減縮するものであるから、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項(新規事項)及び平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号(補正の目的)の規定に適合している。

3.独立特許要件について
本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

(1)補正後の発明
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で補正後の発明として認定したとおりである。

(2)引用発明
原審の平成23年11月2日付け拒絶理由に引用された特開平9-17023号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、レーザ光などの光ビームを光ディスク等の光情報記録媒体上に照射することにより、光情報を再生する光情報記録媒体の情報ピックアップ装置及び光ディスク装置に関する。
【0002】
【従来の技術】本発明に係わる従来の技術を説明する。
【0003】図18に於いて、レーザ光源1から出射した光束はビームスプリッタ2を通過してコリメータレンズ3に入射し平行光束となり絞り5で所定の光束に制限されて対物レンズ6へ入射する。この対物レンズ6は平行光束が入射したときにある所定の厚みの基板7(ここではt=0.6mm)を通して無収差の光スポットを情報記録面8上へ結像させる。
【0004】この情報記録面8で情報ピットにより変調されて反射した光束は、対物レンズ6、コリメータレンズ3を介してビームスプリッタ2に戻り、ここでレーザ光源1からの光路から分離され、受光手段9へ入射する。この受光手段9は多分割されたPINフォトダイオードであり、各素子より、入射した光束の強度に比例した電流を出力し、この電流を図には示さない検出回路系に送りここで情報信号、フォーカスエラー信号、トラックエラー信号を生成する。このフォーカスエラー信号、トラックエラー信号に基づき磁気回路とコイル等で構成される2次元アクチュエータ(図示せず)で対物レンズ6を制御し、常に情報トラック上に光スポット位置を合わせる。
【0005】このような情報ピックアップでは対物レンズ6で集光される光スポットを小さくする為大NA(例えばNA0.6)であるので、このような集光光束中に置かれる基板7の厚みが所定の厚みからずれると大きな球面収差が発生する。」(4頁5欄)

ロ.「【0030】実施例1
図5は基板厚み0.6mmの光情報記録媒体の再生に対応するときの構成を示す。
【0031】レーザ光源1から出射した光束は、ホログラムビームスプリッタ2を通過して光軸方向に移動可能な枠20で保持されたレンズ3を通ってほぼ平行光束となり、絞り5で所定の光束に制限されて対物レンズ6に入射する。対物レンズ6に入射した光束は対物レンズ6で集光され基板7を通して情報記録面8上に集光される。この情報記録面8で情報ピットにより変調されて反射した光束は、対物レンズ6、レンズ3を介してホログラムビームスプリッタ2に戻り、ここでレーザー光源1の光路から分離され、受光手段9へ入射する。この受光手段9は多分割されたPINフォトダイオードで構成され、各素子より、入射した光束の強度に比例した電流を出力し、この電流を図には示さない検出回路系に送りここで情報信号、フォーカスエラー信号、トラックエラー信号を生成する。このフォーカスエラー信号、トラックエラー信号に基づき磁気回路とコイル等で構成される2次元アクチュエータ(図示せず)で一体的に設けられている対物レンズ6と絞り5を制御し、常に情報トラック上に光スポット位置を合わせるように構成されている。
【0032】次にこの図5に示した例における数値例を示す。
【0033】
(中略)
上記数値例において、非球面係数の数値をe-2,e-3等を用いて表しているが、このe-2,e-3は×10-2,×10-3を表している。これは後述する数値例においても同様である。
【0034】本例では対物レンズ6に入射する光束の発散度は若干の収斂光であり、軸上での波面収差は情報記録面側NA0.6のとき0.001λrms、対物レンズがトラッキングにより0.1mmシフトしたとき0.006λrmsである。
【0035】又、レンズ3と対物レンズ6のトータルでのレーザー光源1と情報記録面8間の倍率は-0.123倍、レーザー光源側NAは0.074である。
【0036】若干の収斂光としたのは、レンズ3により発生する球面収差を対物レンズで打ち消す為である。
【0037】レーザー光源としては波長635nmの半導体レーザーでありその発散光は7°,30°程度の楕円状である。本実施例では前述のようにレーザー光源側NA0.074であり、中心部の4.3°の発散角分の光束を使用するのでほぼ一様な強度とみなせる。
【0038】又、半導体レーザーには通常5?10μm程度の非点隔差があるが、この実施例では上記の通り倍率が-0.123倍であるので、情報記録面上での非点隔差は0.08?0.15μm程度と充分に小さな値となり無視できる。
【0039】次に、より厚い第2の厚みt=1.2mmの光情報記録媒体71の読み取り時は、レンズ移動手段21によりレンズ3を光軸方向レーザ光源側の所定位置へ移動させる。及びNAを調整する為、絞り手段22で第2の絞り4を光路中に挿入する。この例においては、レンズ移動手段21とレンズ3で発散度変更手段を構成している。
【0040】図6にこのときの構成を示す。
【0041】図6に示した例における数値例は以下の通りである。
【0042】
(中略)
r6,r7の非球面係数は先に示した図5の例と同じである。
【0043】レンズ3と対物レンズ6トータルでのレーザ光源1と情報記録面8間の倍率は-0.16倍,情報記録面側NAは0.52,光源側NAは0.083である。軸上での波面収差0.003λrms,対物レンズがトラッキングにより0.1mmシフトしたとき0.016λrmsである。なお、第2の絞り4は対物レンズ6のトラッキング時も移動しない。
【0044】このように、レンズ3を光軸上で移動させることで対物レンズで基板の厚みの違いによる球面収差を打ち消すことができ、基板厚みの異なる光情報記録媒体の情報を読み出すことができる。
【0045】基板厚みの異なる2種類(例えば0.6mm,1.2mm)の光情報記録媒体のみに対応する場合は、このレンズ移動手段21はモータやソレノイドを用いて構成し、レンズ3を保持している枠20を機械的に2点突き当て固定されるようにすれば良く、構成が簡単である。
【0046】3種以上に対応する場合は、レンズ3の光軸方向位置を検出する位置センサーを設け、このセンサーからの出力によりレンズ移動手段21を制御すれば良い。
【0047】又、絞り手段22はこのレンズ移動手段21と連動させることができ、レンズ移動手段に使用する1つのモータもしくはソレノイドで駆動させることにより小型に構成することができる。
【0048】更にこのレンズ移動手段21でレンズ3の光軸方向位置を微調整してやることにより個々の基板の厚みバラツキを補正してやることもできる。
【0049】NA0.60のとき基板厚みが0.60mmでなく0.57mm、もしくは0.63mmであると0.03λrmsの収差が発生する。基板厚み0.57mmのときはレンズ3を0.9mm対物レンズ側に移動させ、より収斂光を対物レンズ6に入射させることにより0.001λrmsまで補正される。基板厚み0.63mmのときは0.85mmレーザ光源側に移動させて発散光入射とし0.001λrmsまで補正できる。
【0050】又、この方式においては、厚み方向に複数の情報記録面を有する光情報記録媒体の夫々の面に対し最適な収差補正を行うことができる。
【0051】例えば厚み0.57mmの基板に更に厚み方向について0.03mmおきに2層記録層があるときは0.6±0.03mmに相当する収差補正を行えば良く、これは前記±0.03mmの誤差補正と同じ量のレンズ移動を行えばよい。
【0052】基板厚みのバラツキを補正するには、光情報記録媒体の情報記録面に少なくともフォーカシングサーボをかけた後、再生される信号の振幅が大きくなるように、もしくはジッターが小さくなるようにレンズ3の位置を光軸方向に移動させる。又、再生中もしくは少なくともフォーカシングサーボがかかった状態で待機中に前記動作を行うことにより、情報ピックアップ系内や光情報記録媒体の温湿度による球面収差発生を補正してやることができる。」(6頁10欄?8頁13欄)

上記引用例の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記イ.の【0001】の記載、上記ロ.の【0030】の記載、及び図5によれば、情報ピックアップ装置は、光情報記録媒体の再生用のものである。ここで、光情報記録媒体は、情報信号が記録される情報記録面(8)上に光透過層を有することは自明である。
また、上記ロ.の【0031】における「レーザ光源1から出射した光束は、ホログラムビームスプリッタ2を通過して光軸方向に移動可能な枠20で保持されたレンズ3を通ってほぼ平行光束となり、絞り5で所定の光束に制限されて対物レンズ6に入射する。対物レンズ6に入射した光束は対物レンズ6で集光され基板7を通して情報記録面8上に集光される。」との記載、及び図5によれば、情報ピックアップ装置は、レーザ光源(1)と、対物レンズ(6)、レンズ(3)を備えている。ここで、対物レンズ(6)は、レーザ光源(1)からの光を前述の光透過層を介して前述の情報記録面(8)上に集光させるものである。そして、同ロ.の【0049】における「NA0.60」との記載によれば、対物レンズのNAは0.60である。また、レンズ(3)は、レーザ光源(1)と対物レンズ(6)との間に配され、所定の屈折力を有することは明らかである。
また、上記ロ.の【0039】における「レンズ移動手段21によりレンズ3を光軸方向レーザ光源側の所定位置へ移動させる。」との記載、同ロ.の【0049】における「NA0.60のとき基板厚みが0.60mmでなく0.57mm、もしくは0.63mmであると0.03λrmsの収差が発生する。基板厚み0.57mmのときはレンズ3を0.9mm対物レンズ側に移動させ、より収斂光を対物レンズ6に入射させることにより0.001λrmsまで補正される。基板厚み0.63mmのときは0.85mmレーザ光源側に移動させて発散光入射とし0.001λrmsまで補正できる。」との記載、同ロ.の【0051】における「例えば厚み0.57mmの基板に更に厚み方向について0.03mmおきに2層記録層があるときは0.6±0.03mmに相当する収差補正を行えば良く、これは前記±0.03mmの誤差補正と同じ量のレンズ移動を行えばよい。」との記載、及び図5によれば、情報ピックアップ装置は、レンズ(3)を光軸方向に移動させるレンズ移動手段(21)を備えている。そして、レンズ移動手段(21)が「±0.03mmの誤差補正と同じ量のレンズ移動を行う」ことは、±0.03mmの球面収差を補正をするように、レンズ(3)を光軸方向に移動させることということができる。

したがって、上記引用例には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「情報信号が記録される情報記録面(8)上に厚さ0.60mmの光透過層を有する光情報記録媒体の再生用の情報ピックアップ装置であって、
レーザ光源(1)と、
上記レーザ光源(1)からの光を上記光透過層を介して上記情報記録面(8)上に集光させるNAが0.60の対物レンズ(6)と、
上記レーザ光源(1)と上記対物レンズ(6)との間に配され、所定の屈折力を有するレンズ(3)と、
±0.03mmの球面収差を補正するように、上記レンズ(3)を光軸方向に移動させるレンズ移動手段(21)とを備える情報ピックアップ装置。」

(3)対比・判断
補正後の発明と引用発明とを対比する。
a.引用発明の「情報記録面(8)」、「レーザ光源(1)」及び「レンズ移動手段(21)」は、補正後の発明の「記録層」、「光を出射する光源」及び「移動手段」にそれぞれ相当する。
b.引用発明の「厚さ0.60mm」と、補正後の発明の「厚さ0.21mm以下」とは、いずれも、「厚さが特定の値」という点で一致する。
c.引用発明の「NAが0.60」と、補正後の発明の「開口数NAが0.85以上」とは、いずれも、「開口数NAが特定の値」という点で一致する。
d.引用発明の「レンズ(3)」は、上記引用例の上記イ.の【0003】における「コリメータレンズ3」との記載によれば、「コリメータレンズ」である。
e.引用発明の「±0.03mmの球面収差を補正するように」と、補正後の発明の「上記光透過層の少なくとも±0.0074mm以上、±0.03mm以下の厚さ誤差により発生する球面収差を打ち消すように」とは、いずれも、「±0.03mmの球面収差を打ち消すように」という点で一致する。
f.引用発明の「光情報記録媒体の再生用の情報ピックアップ装置」は、レーザ光源(1)と、対物レンズ(6)と、レンズ(3)と、レンズ(3)を光軸方向に移動させるレンズ移動手段(21)を備えるものであって光学的に情報を再生するものであるから、「光学ヘッド」である点で共通する。

したがって、補正後の発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違している。

(一致点)
「情報信号が記録される記録層上に厚さが特定の値の光透過層を有する情報記録媒体用の光学ヘッドであって、
光を出射する光源と、
上記光源からの光を上記光透過層を介して上記記録層上に集光させる開口数NAが特定の値の対物レンズと、
上記光源と上記対物レンズとの間に配され、所定の屈折力を有するコリメータレンズと、
±0.03mmの球面収差を打ち消すように、上記コリメータレンズを光軸方向に移動させる移動手段とを備える光学ヘッド。」

(相違点1)
「光透過層」の「厚さが特定の値」に関し、
補正後の発明は、「厚さ0.21mm以下」であるのに対し、引用発明は、「厚さ0.60mm」である点。

(相違点2)
「対物レンズ」の「開口数NAが特定の値」に関し、
補正後の発明は、「開口数NAが0.85以上」であるのに対し、引用発明は、「NAが0.60」である点。

(相違点3)
「コリメータレンズ」に関し、
補正後の発明は、「開口数NAが0.3以下の」ものであるのに対し、引用発明は、当該「開口数NAが0.3以下の」との特定がない点。

(相違点4)
「±0.03mmの球面収差を打ち消すように」に関し、
補正後の発明は、「上記光透過層の少なくとも±0.0074mm以上、±0.03mm以下の厚さ誤差により発生する球面収差を打ち消すように」であるのに対し、引用発明は、「±0.03mmの収差補正をするように」である点。

そこで、まず、上記相違点1について検討する。
情報記録媒体において、光透過層を厚さ0.21mm以下のものとすることは、例えば、特開平3-62321号公報(5頁左下欄18行?同頁右下欄8行)に「保護層の厚さを・・・望ましくは100ミクロンメートル以下にすること、理想的には10ミクロンメートル以下にすること」と開示されているように周知である。
そして、一定の課題を解決するために数値範囲を最適化又は好適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮である。
そうすると、引用発明に周知技術を採用するにあたり、数値範囲の上限を「厚さ0.21mm以下」と定めることは当業者が適宜なし得ることである。
したがって、補正後の発明のように「厚さ0.21mm以下」とすることは格別なことではない。

次に、上記相違点2について検討する。
光学ヘッドにおいて、対物レンズの開口数NAを0.85以上とすることは、例えば、平成23年11月2日付け拒絶理由に引用された特開平9-311271号公報(段落【0166】)に「開口数を0.9まで上げた」、前述の特開平3-62321号公報(6頁左上欄4?7行)に「?0.9程度NAの大きい対物レンズを用いる」と開示されているように周知である。
そして、一定の課題を解決するために数値範囲を最適化又は好適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮である。
そうすると、引用発明に周知技術を採用するにあたり、数値範囲の下限を「開口数NAが0.85以上」と定めることは当業者が適宜なし得ることである。
したがって、補正後の発明のように「開口数NAが0.85以上」とすることは格別なことではない。

次に、上記相違点3について検討する。
光学ヘッドにおいて、コリメータレンズの開口数NAを0.3以下とすることは、例えば、特開平9-259458号公報(段落【0017】)に「比較的開口数NAの小さい、例えば0.13NA程度」と、特開平8-249708号公報(段落【0052】)に「開口数0.1」と、特開平8-180492号公報(段落【0041】)に「開口数0.15」と開示されているように周知である。
そして、一定の課題を解決するために数値範囲を最適化又は好適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮である。
そうすると、引用発明に周知技術を採用するにあたり、数値範囲の上限を「開口数NAが0.3以下」と定めることは当業者が適宜なし得ることである。
したがって、補正後の発明のように「開口数NAが0.3以下の」ものとすることは格別なことではない。

次に、上記相違点4について検討する。
光学ヘッドの技術分野において、球面収差のうち、3次の球面収差W_(40)は、Δtは光透過層の厚み誤差、nは光透過層の屈折率、NAは対物レンズの開口数とすると、下式で表される。(例えば、特開平8-263886号公報(段落【0023】、【0024】)、特開平9-161341号公報(段落【0022】、【0023】)参照。)
W_(40)={Δt(n^(2)-1)/(8n^(3))}NA^(4)
そうすると、光透過層の厚さの公差±0.03mmと同程度に球面収差を抑えるためには、-0.00388/NA^(4)≦Δt(光透過層の厚み誤差)≦+0.00388/NA^(4)を満たす範囲内にすればよいことは自明である。ここで、対物レンズの開口数NAを0.85とすれば、-0.0074mm≦Δt(光透過層の厚み誤差)≦+0.0074mmであることが導き出せる。
そして、一定の課題を解決するために数値範囲を最適化又は好適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮である。
そうすると、引用発明は、「±0.03mmの球面収差を補正するように」であるところ、球面収差を抑えるために、下限を±0.0074mmとし、かつ上限を±0.03mmと定めることは当業者が適宜なし得ることである。
したがって、補正後の発明のように「上記光透過層の少なくとも±0.0074mm以上、±0.03mm以下の厚さ誤差により発生する球面収差を打ち消すように」とすることは格別なことではない。

そして、補正後の発明の作用効果も、引用発明及び周知技術から当業者が容易に予測できる範囲のものである。

以上のとおり、補正後の発明は引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.結語
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成24年7月17日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、上記「第2 補正却下の決定 1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明
引用発明は、上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項中の「(2)引用発明」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は上記補正後の発明から当該本件補正に係る限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に当該本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2 補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり、引用発明1、2及び周知技術に基づいて容易に発明できたものであるから、本願発明も同様の理由により、容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-04-23 
結審通知日 2013-04-30 
審決日 2013-05-14 
出願番号 特願2009-219329(P2009-219329)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
P 1 8・ 575- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中野 和彦原田 貴志  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 萩原 義則
関谷 隆一
発明の名称 光学ヘッド並びに記録及び/又は再生装置  
代理人 小池 晃  
代理人 祐成 篤哉  
代理人 藤井 稔也  
代理人 伊賀 誠司  

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