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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1276072
審判番号 不服2011-17960  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-19 
確定日 2013-06-26 
事件の表示 特願2007-536718「エラストマー性反応ブレンド組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成18年4月27日国際公開、WO2006/044149、平成20年5月15日国内公表、特表2008-516068〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年9月28日(パリ条約による優先権主張 2004年10月13日、2005年1月20日 いずれもアメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成22年12月7日付けで拒絶の理由が通知され、平成23年3月14日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年4月15日付けで拒絶の査定がなされ、これに対して、同年8月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、同年10月4日付けで前置報告がなされ、当審において平成24年7月30日付けで審尋がなされ、同年10月31日に回答書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?26に係る発明は、平成23年8月19日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?26にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「16乃至180のムーニー粘度(ML(1+4)@125℃)を有するエラストマー組成物を製造する連続方法であって、
前記組成物が第一及び第二ポリマーを含み、
以下の工程、すなわち、
1)第一重合ゾーンの中の第一触媒組成物を用いて、プロピレンと、任意でエチレンとを含む第一モノマーを溶媒中で重合して、アイソタクチックに配列されたプロピレン誘導配列を含み、及び更に54J/g未満の溶融熱、又は105℃未満の融点、又は両者、並びに1乃至45のムーニー粘度(ML(1+4)@125℃)を有する、60重量%以上のプロピレンからの誘導単位を有する第一ポリマーを提供する工程と、
2)第二重合ゾーンの中で第二触媒組成物を用いて、エチレンと、任意でアルファ-オレフィンとを含む第二モノマーを溶媒中で重合して、30重量%以上のエチレンからの誘導単位を含み、非結晶性であるか又はエチレン誘導結晶性を有するエラストマー性ポリマーである第二ポリマーを提供する工程と、
3)溶媒と未反応モノマーを含む混合物中で前記第一ポリマーと前記第二ポリマーを結合させる工程と、
4)前記混合物から溶媒と未反応モノマーを除去して、前記第一重合ゾーン、又は前記第二重合ゾーン、又は両者への再利用流れを形成し、エチレンモノマー、及び任意でアルファ-オレフィンモノマー、及び溶媒を重合に再利用し、且つ16乃至180のムーニー粘度(ML(1+4)@125℃)を有するエラストマー組成物を提供する工程とを含み、
再利用から第一及び第二重合へ供給される溶媒の量を分割して、更に各反応ゾーンの流量及び熱除去能力を、別々に変化させるように追加的な新しい原料を供給することにより、
第一重合の温度が第一ポリマーの融点以下であり、第二重合の温度が第一重合の温度よりも20℃乃至200℃高くなるように制御し、
第一重合が第二ポリマーを製造するのに好ましいレベルより低いレベルになるまで、プロピレンモノマーを消費するために行われ、
第二重合及び再利用が、第一ポリマーを製造するのに好ましいレベルより低いレベルになるまでエチレンを減らすために行われ、及び
第一重合のために補充される追加的なプロピレンモノマーと第二重合のために補充される追加的なエチレンモノマーを添加する、ことを特徴とする方法。」

第3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由とされた、平成22年12月7日付け拒絶理由通知書に記載した理由1の概要は、以下のとおりである。
「この出願の請求項1?27に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物1及び2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
刊行物1:特表2002-505357号公報
刊行物2:特表2000-514857号公報」

第4 当審の判断
1.刊行物
(1)特表2002-505357号公報(以下、「引用例1」という。平成22年12月7日付け拒絶理由通知書に記載の引用文献1に同じ。)
(2)特表2000-514857号公報(以下、「引用例2」という。平成22年12月7日付け拒絶理由通知書に記載の引用文献2に同じ。)

2.刊行物の記載事項
(1)引用例1
ア 「溶液重合によってポリマーブレンドを製造する方法であって、
a)第一組のモノマー類と溶媒とを所定の比率で第一反応器に供給し
b)メタロセン触媒を前記第一反応器に加え
c)第一反応器を作動させて、前記第一の組のモノマー類を重合して第一のポリマーを含む流出液を生成し
d)前記c)の流出液を第二反応器に供給し
e)所定の比率の第二組のモノマー類を第二反応器に供給し、任意に追加的溶媒も供給し
f)第二反応器を作動させて、前記第二組のモノマー類を重合して第二のポリマーを生成する
諸工程を含んでなり、
その際第一および第二組のモノマー類はエチレン、比較的高次のアルファ-オレフィンおよび非共役ジエンからなる群から選択され、第一反応器および第二反応器におけるモノマー比率を調節して第一のポリマーが0?85重量%エチレンを有し、第二のポリマーが0?85重量%エチレンを含み、ポリマーブレンドが6?85重量%エチレンを有するようにし;
全反応器に加える触媒の総量の50?100重量%が第一反応器に加えられる前記方法。」(特許請求の範囲、請求項1)

イ 「第一反応器および第二反応器におけるモノマー比率が、第一のポリマーまたは第二のポリマーから選択されるポリマー類の一つが0?20重量%エチレンを含み、アイソタクチックプロピレン配列の存在のために半晶質であり、40?160℃の融点を有し、一方他のポリマーは非晶質であるようにコントロールされる請求項1記載の方法。」(特許請求の範囲、請求項12)

ウ 「【請求項13】 非晶質ポリマーが1?10重量%ジエンを含むターポリマーである請求項12記載の方法。
【請求項14】 第一反応器および第二反応器におけるモノマー比率が、第一のポリマーまたは第二のポリマーから選択されるポリマーの一つが0?20重量%エチレンを含み、アイソタクチックプロピレン配列の存在のため半晶質であり、40?160℃の融点を有し、他のポリマーが60?85重量%エチレン、1?10重量%ジエンを含むターポリマーであり、エチレン結晶化度の存在のために半晶質であるようにコントロールされる請求項1記載の方法。」(特許請求の範囲、請求項13及び14)

エ 「非共役ジエンが5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)、……から選択される請求項1記載の方法。」(特許請求の範囲、請求項16)

オ 「第一反応器が温度0?100℃、好適には10?90℃、より好適には20?70℃で作動し、第二反応器が温度40?140℃、好適には50?120℃、より好適には60?110℃で作動する請求項1記載の方法。」(特許請求の範囲、請求項20)

カ 「(発明の背景)
本発明は一連(series)反応器およびメタロセン触媒を用いてポリマーブレンドを製造する方法に関する。本発明において使用するモノマー類はエチレン、比較的高次のアルファ(α)-オレフィン(プロピレンが最も好ましい)、および任意に、非共役ジエン類(エチリデンノルボルネン、すなわちENB、が最も好ましい)。より詳細に述べれば、本発明はEP(エチレン-プロピレン)コポリマーのブレンドであって、そのブレンドの成分類が次の特性、すなわち1)組成、2)分子量、および3)結晶化度のいずれかにおいて異なる上記ブレンドの製法に関する。我々が用語EPコポリマーを用いる場合、種々の量の非共役ジエンを含むターポリマーも含める。このようなターポリマーは、一般にはEPDMとして知られている。」(段落【0001】)

キ 「・・・コポリマー/ターポリマーブレンドを本発明の方法によって作ることができる。例えば、もしジエンを第二反応器のみに加えるならば、エチレンおよびプロピレンのコポリマーを第一反応器で作ることができ、一方エチレン、プロピレンおよびジエンのターポリマーを第二反応器で作ることができる。」(段落【0014】)

ク 「ポリマー組成はその系列の各反応器に供給されるモノマー類の量によってコントロールされる。一連二反応器では、第一反応器からの未反応モノマー類は第二反応器に流れ、そのため第二反応器に加えられるモノマー類は、モノマーのキャリーオーバーを考慮し、その供給原料の組成を所望レベルに調節するのに丁度十分な量である。」(段落【0034】)

ケ 「(実施例)
重合を2個の1リットル撹拌一連反応器で行い、装置に原料を連続的に供給し、生成物を連続的に取り出した。……溶媒(ヘキサン)およびモノマー類(エチレン、プロピレン、およびENB)をアルミナ床および分子篩で精製した。・・・反応器温度は反応器冷却ジャケットを通る循環水によって調節した。反応器を反応体混合物の蒸気圧を超える圧力に維持し、反応体を液相に保持した。反応器は液体を充満させて作動させた。
エチレンおよびプロピレン原料を合流し、それから少なくとも0℃に冷やした予備冷却ヘキサン流と混合した。ENBを用いた場合は、それもその他のモノマーより上流のヘキサン流に供給した。・・・第一反応器を出たポリマー溶液は第二反応器に入れた。モノマー類のヘキサン溶液を別の口を介して第二反応器に供給した。第二反応器からの生成物は、圧力を大気圧まで減らす圧調節バルブを通して出した。この結果、溶液中の過剰モノマー類はぱっと放出され、蒸気相になり、気液分離器の頂上から排出された。液相は分離器の底から流出し、ポリマーを回収するために集められた。ポリマーは、水蒸気ストリッピング後、加熱および真空下における乾燥または溶媒蒸発によって溶液から回収した。」(段落【0067】?【0068】)

コ 「一連の重合を行って本発明の方法および生成物を具体的に説明した。全ての反応器条件、反応器1(R-1)について示されるポリマー、および総生成物は、反応器1のポリマーおよび反応器2から出るポリマー混合物で実際に行った測定値に基づく。反応器2(R-2)単独の結果は、これらのデータから上記の式によって計算した。」(段落【0073】)

サ 「実施例1(121C)
一連反応器重合を、活性剤であるN、N-ジメチルアニリニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素(DMPFB)と混合したジメチルシリルビスインデニル ハフニウム二塩化物(catA)触媒を用いて行った。……エチレンとプロピレンとの混合物を第一反応器に供給したが、第二反応器にはエチレンのみを供給した。……
実施例2(125A)
重合は実施例1に近い条件でcatAで行われた。ただし、ジエン(ENB)を第二反応器に供給してターポリマーを生成した。第一反応器ポリマーは、29.6?99℃までの範囲で融解する、17重量%エチレンを含む半晶質コポリマーであった。第二反応器ポリマーはエチレン50.6重量%およびENB3.29重量%を含む非晶質ターポリマーであった。反応器条件および重合結果を表1に示す。」(段落【0074】?【0075】)

シ 「【表1】

」(段落【0086】)

(2)引用例2
ス 「エチレン/α-オレフィン単量体から作られた重合体およびエチレン/α-オレフィン/ジエン単量体から作られた重合体を製造する方法であって、下記の段階:
A.第一反応槽内で(1)エチレン、(2)少なくとも1種のC_(3)-C_(20)脂肪族α-オレフィン、(3)任意に少なくとも1種のC_(4)-C_(20)ジエン、(4)(a)メタロセン錯体と(b)少なくとも1種の活性化剤を含む触媒、および(5)溶媒を接触させて、この第一反応槽を、第一生成物が該第一反応槽内の反応マスの重量を基準にして1から15重量パーセントの固体濃度で生じるように操作し、
B.第二反応槽内で(1)エチレン、(2)少なくとも1種のC_(3)-C_(20)脂肪族α-オレフィン、(3)任意に少なくとも1種のC_(4)-C_(20)ジエン、(4)(a)メタロセン錯体と(b)少なくとも1種の活性化剤を含む触媒、(5)溶媒、および(6)第一反応槽から来る生成物流れを接触させて、この第二反応槽を、第二生成物が該第二反応槽内の反応マスの重量を基準にして2から30重量パーセントの固体濃度で生じるように操作し、
C.該第二反応槽から生成物流れを取り出し、
D.第一段階の無水溶媒回収操作において、該生成物流れの固体濃度が少なくとも100パーセント高くなるように該第二反応槽の生成物流れから溶媒を除去し、そして
E.第二段階の無水溶媒回収操作において、該生成物流れの固体濃度が65重量パーセントを越えるように該第一段階の溶媒回収操作の生成物から追加的に溶媒を除去する、
段階を用いることを特徴とする方法。」(特許請求の範囲、請求項1)

セ 「図1では、本方法を、2つの主要ゾーンまたは段階、即ち(1)重合体生成および(2)重合体回収と、溶媒および未反応単量体の回収および再利用または処分を含むとして例示する。第一ゾーン内で工程試薬(process reagents)を所望重合体が生じるに適切な比率および適切な条件下で混合する一方で、第二ゾーン内で所望重合体を未反応の単量体および溶媒から分離する。この重合体を回収して貯蔵および/または使用し、溶媒を再利用し、そして未反応の単量体を再利用するか或は処分する(この選択はいろいろな要因、例えば単量体の濃度および単量体の価格などに依存する)。」(76頁14?21行)

ソ 「図3に、2基の反応槽を直列配列で運転する、即ち一方の反応槽の産出物を2番目の反応槽に送り込む、図1に示したゾーンIの好適な態様を示す。」(77頁8?9行)

タ 「通常の任意手段を用いてエチレンとα-オレフィンとジエン(もしあれば)と溶媒と任意に水素を所望比率でブレンドした後、このブレンド物を第一反応槽、即ちもう一方の反応槽、即ち第二反応槽の供給材料として用いる産出物をもたらす反応槽に導入する。触媒を典型的には他の試薬とは別に第一反応槽に導入する。この第一反応槽と第二反応槽の操作を、好適には、この第一反応槽の産出物を第二反応槽の供給材料として取り出す時に追加的試薬を第一反応槽に反応マスが定常状態に維持される、即ちエチレン、α-オレフィン、ジエン(もしあれば)、溶媒、触媒および分子量調整剤(もしあれば)の相対濃度が比較的一定に維持される量で添加するような連続様式を基礎に行う。
この第一反応槽と第二反応槽を典型的には1つ以上の導管で連結させて互いに流体伝達状態にする。・・・
第一反応槽で便利な任意手段を用いてエチレンとα-オレフィンとジエン(もしあれば)と溶媒と任意に水素を所望比率でブレンドした後、このブレンド物を第二反応槽、即ちもう一方の反応槽、即ち第一反応槽の産出物を供給材料として受け取る反応槽に導入する。この第二反応槽にも同様に触媒(上記第一反応槽で用いた触媒と同じか或は異なる)を典型的には他の試薬とは別に導入する。上記第一反応槽の産出物は固体(即ち重合体)を典型的に1から30重量パーセントの量で含有してお
り、これを他の試薬とは別に第二反応槽に送り込んでもよいか、或はこれを最初に他の試薬の1つ以上と一緒にブレンドした後に第二反応槽に導入することも可能である。この第二反応槽の産出物は固体を典型的に8から30重量パーセント含有しており、これをゾーンIIに移して、このゾーンII内で所望重合体生成物を溶媒および未反応の単量体から分離して、この後者(即ち溶媒および未反応の単量体)を個別にゾーンIに再循環させるか或は安全かつ環境的に受け入れられる様式で処分する。」(77頁26行?78頁23行)

チ 【図1】

(87頁)

ツ 【図3】

(89頁)

3.引用例1に記載の発明
引用例1には、摘示カのとおり、「本発明は一連(series)反応器およびメタロセン触媒を用いてポリマーブレンドを製造する方法に関する。」と記載されている。
また、摘示アにおける「第一および第二組のモノマー類はエチレン、比較的高次のアルファ-オレフィンおよび非共役ジエンからなる群から選択され、第一反応器および第二反応器におけるモノマー比率を調節して第一のポリマーが0?85重量%エチレンを有し、第二のポリマーが0?85重量%エチレンを含み」との記載に関連し、摘示ウには、「第一反応器および第二反応器におけるモノマー比率が、第一のポリマーまたは第二のポリマーから選択されるポリマーの一つが0?20重量%エチレンを含み、アイソタクチックプロピレン配列の存在のため半晶質であり、40?160℃の融点を有し、他のポリマーが60?85重量%エチレン、1?10重量%ジエンを含むターポリマー」と記載され、さらに、「非晶質ポリマーが1?10重量%ジエンを含むターポリマー」と記載されていることから、第一のポリマーを「0?20重量%エチレンを含み、アイソタクチックプロピレン配列の存在のため半晶質であり、40?160℃の融点を有」するものとし、第二のポリマーを「60?85重量%エチレン、1?10重量%ジエンを含む非晶質のターポリマー」とすることが記載されているといえる。
さらに、摘示オから、第一反応器が温度0?100℃で作動し、また、第二反応器が温度40?140℃で作動する旨記載されている。
してみると、引用例1には次のとおりの発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているといえる。

「一連(series)反応器を用いて溶液重合によってポリマーブレンドを製造する方法であって、
a)第一組のモノマー類と溶媒とを所定の比率で第一反応器に供給し
b)メタロセン触媒を前記第一反応器に加え
c)第一反応器を作動させて、前記第一の組のモノマー類を重合して第一のポリマーを含む流出液を生成し
d)前記c)の流出液を第二反応器に供給し
e)所定の比率の第二組のモノマー類を第二反応器に供給し、任意に追加的溶媒も供給し
f)第二反応器を作動させて、前記第二組のモノマー類を重合して第二のポリマーを生成する
諸工程を含んでなり、
その際第一および第二組のモノマー類はエチレン、比較的高次のアルファーオレフィンおよび非共役ジエンからなる群から選択され、第一反応器および第二反応器におけるモノマー比率を調節して第一のポリマーが0?20重量%エチレンを含み、アイソタクチックプロピレン配列の存在のため半晶質であり、40?160℃の融点を有し、第二のポリマーが60?85重量%エチレン、1?10重量%ジエンを含む非晶質のターポリマーであり、ポリマーブレンドが6?85重量%エチレンを有するようにし;
全反応器に加える触媒の総量の50?100重量%が第一反応器に加えられ、第一反応器が温度0?100℃で作動し、また、第二反応器が温度40?140℃で作動する前記方法。」

4.対比
本願発明と引用例1発明とを対比する。
引用例1発明の「方法」は、一連(series)反応器を用いていることから、「連続方法」であることは自明である。
引用例1発明の「第一のポリマー」は、本願発明の「第一ポリマー」に相当し、そして、引用例1発明の「a)」?「c)」の工程は、本願発明の工程1)の第一ポリマーを提供する工程に対応する。
引用例1発明の「第二のポリマー」は、本願発明の「第二ポリマー」に相当し、そして、引用例1発明の「d)」?「f)」の工程は、本願発明の工程2)及び3)の第二ポリマーを提供する工程と第一ポリマーと第二ポリマーを結合させる工程に対応する。
引用例1発明の「a)」?「c)」の工程では、メタロセン触媒を加えており、これは、本願発明の第一触媒組成物に相当する。
引用例1発明の第一のポリマーは、そのプロピレン含量に関し、本願発明の第一ポリマーのプロピレン含量と重複一致し、また、融点も本願発明の第一ポリマーと重複一致し、さらに、アイソタクチックに配列されたプロピレン誘導配列を含んでいる点でも一致している。
引用例1発明は、「d)」?「f)」の工程に関し、「全反応器に加える触媒の総量の50?100重量%が第一反応器に加えられる」のであるから、当然に第一反応器に加えた触媒の分の残りの分を第二反応器に触媒を加える態様が含まれ、この残りの分の触媒は本願発明の第二触媒組成物に相当する。
引用例1発明の第二のポリマーは、「60?85重量%エチレン、1?10重量%ジエンを含む非晶質のターポリマー」であるから、本願発明の第二ポリマーのエチレンからの誘導体単位の重量%と重複一致しており、また、このターポリマーは、摘示カ及びキから、エチレンモノマー、プロピレンモノマーおよび非共役ジエンを共重合させて得られ、「このようなターポリマーは、一般にはEPDMとして知られている」(摘示カ)のであり、そして、EPDMがエラストマー性ポリマーであることは自明であり、この点でも本願発明の第二ポリマーと一致している。さらに、第二のポリマーがエラストマー性ポリマーであれば、第一のポリマーと第二のポリマーからなるものは、エラストマーであるといえるから、引用例1発明の「ポリマーブレンド」は、本願発明の「エラストマー組成物」に相当する。
引用例1発明の反応の際の温度条件は、第一反応器の温度が0?100℃であって、得られるポリマーの融点は40?160℃であるから、本願発明の「第一重合の温度が第一ポリマーの融点以下」と重複一致し、また、第二反応器の温度が40?140℃であるから、本願発明の「第二重合の温度が第一重合の温度よりも20℃乃至200℃高くなる」と重複一致し、実際、実施例2(摘示サ及びシ)では、第一反応器の温度を20℃、第二反応器の温度を40℃とし、第一反応器ポリマーは29.6?99℃までの範囲で融解するから、本願発明の上記各条件を共に満足している。

してみると、本願発明と引用例1発明は、
「エラストマー組成物を製造する連続方法であって、
前記組成物が第一及び第二ポリマーを含み、
以下の工程、すなわち、
1)第一重合ゾーンの中の第一触媒組成物を用いて、プロピレンと、任意でエチレンとを含む第一モノマーを溶媒中で重合して、アイソタクチックに配列されたプロピレン誘導配列を含み、及び更に54J/g未満の溶融熱、又は105℃未満の融点、又は両者を有する、60重量%以上のプロピレンからの誘導単位を有する第一ポリマーを提供する工程と、
2)第二重合ゾーンの中で第二触媒組成物を用いて、エチレンと、任意でアルファ-オレフィンとを含む第二モノマーを溶媒中で重合して、30重量%以上のエチレンからの誘導単位を含み、非結晶性であるか又はエチレン誘導結晶性を有するエラストマー性ポリマーである第二ポリマーを提供する工程と、
3)溶媒と未反応モノマーを含む混合物中で前記第一ポリマーと前記第二ポリマーを結合させる工程とを含み、
第一重合の温度が第一ポリマーの融点以下であり、第二重合の温度が第一重合の温度よりも20℃乃至200℃高くなるように制御する、ことを特徴とする方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本願発明では、エラストマー組成物のムーニー粘度を、「16乃至180のムーニー粘度(ML(1+4)@125℃)」と特定しているが、引用例1発明では、そのような特定をしていない点。

(相違点2)
本願発明では、第一ポリマーのムーニー粘度を、「1乃至45のムーニー粘度(ML(1+4)@125℃)」と特定しているが、引用例1発明では、そのような特定をしていない点。

(相違点3)
本願発明では、「前記混合物から溶媒と未反応モノマーを除去して、前記第一重合ゾーン、又は前記第二重合ゾーン、又は両者への再利用流れを形成し、エチレンモノマー、及び任意でアルファ-オレフィンモノマー、及び溶媒を重合に再利用」し、「再利用から第一及び第二重合へ供給される溶媒の量を分割して、更に各反応ゾーンの流量及び熱除去能力を、別々に変化させるように追加的な新しい原料を供給する」ことを特定しているが、引用例1発明では、そのような特定をしていない点。

(相違点4)
本願発明では、「第一重合が第二ポリマーを製造するのに好ましいレベルより低いレベルになるまで、プロピレンモノマーを消費するために行われ、第二重合及び再利用が、第一ポリマーを製造するのに好ましいレベルより低いレベルになるまでエチレンを減らすために行われ、及び第一重合のために補充される追加的なプロピレンモノマーと第二重合のために補充される追加的なエチレンモノマーを添加する」ことを特定しているが、引用例1発明では、そのような特定をしていない点。

5.相違点について
(1)相違点1について
引用例1発明のポリマーブレンド(エラストマー組成物)は、本願発明のエラストマー組成物と、原料となるモノマー、反応温度、及び融点が重複一致しており、粘度に影響を与えるポリマーの組成等が重複一致している以上、具体的な製造方法とは関係なく、該ポリマーブレンド(エラストマー組成物)のムーニー粘度についても、「16乃至180のムーニー粘度(ML(1+4)@125℃)」との範囲を満たしている蓋然性が高く、実際、引用例1には、摘示ケより、実施例として、「重合を2個の1リットル撹拌一連反応器で行い、装置に原料を連続的に供給し、生成物を連続的に取り出した」こと、「溶媒(ヘキサン)およびモノマー類(エチレン、プロピレン、およびENB)」を用いたことが記載され、特に、摘示コ?シより、「実施例2(125A)」には、「第一反応器」(20℃)にエチレン(9.6g/hr)及びプロピレン(240g/hr)を供給し、「第二反応器」(40℃)にエチレン(120g/hr)及びENB(9.98g/hr)を供給して、「29.6?99℃までの範囲で融解する、17重量%エチレンを含む半晶質コポリマー」及び「エチレン50.6重量%およびENB3.29重量%を含む非晶質ターポリマー」の組成物を得たことが記載され、かかる組成物の「ML(1+4)125℃」は「67.4」であって、相違点1にかかる本願発明のムーニー粘度の数値範囲内のものが記載されており、相違点1は、本願発明と引用例1発明との実質的な相違点であるとはいえない。

(2)相違点2について
引用例1発明の「第一のポリマー」と本願発明の「第一ポリマー」とは、上記4.で述べたように、原料モノマーが重複一致し、アイソタクチックに配列されたプロピレン誘導配列を含み、融点が重複一致し、さらにプロピレンからの誘導単位の重量%も重複一致し、粘度に影響する組成が重複一致していることからみて、引用例1発明のものも「1乃至45のムーニー粘度(ML(1+4)@125℃)」を有する蓋然性が高く、相違点2は、本願発明と引用例1発明との実質的な相違点であるとはいえない。
(なお、上記相違点2に係る「第一ポリマー」のムーニー粘度について、本願明細書の発明の詳細な説明には裏付けとなる具体的開示がない。)

(3)相違点3について
引用例2には、摘示スより、エチレン/α-オレフィン単量体から作られた重合体およびエチレン/α-オレフィン/ジエン単量体から作られた重合体を製造する方法であって、摘示ソより、前記重合体を、「第一反応槽」及び「第二反応槽」を直列的に配列して連続して製造する方法が記載されていると認められる。
そして、引用例1発明にかかる「第一反応器」及び「第二反応器」は、それぞれ、前記「第一反応槽」及び「第二反応槽」に対応し、両者の方法は、その技術分野を共通のものとするのみならず軌を一にするものと解されることから、該引用例2に記載の技術的事項を引用例1発明に適用することに何らの阻害要因はないものである。
引用例2には、摘示チ(図1)より、重合体生成(ゾーンIまたは第二ゾーン)の後に、重合体の回収そして溶媒および未反応単量体の回収再利用または処分(ゾーンIIまたは第二ゾーン)を行うことが示され、「第二ゾーン内で所望重合体を未反応の単量体および溶媒から分離する。この重合体を回収して貯蔵および/または使用し、溶媒を再利用し、そして未反応の単量体を再利用するか或は処分する」(摘示セ)と記載され、さらに、摘示ソ、タ及びツ(図3)より、「2基の反応槽を直列配列で運転する、即ち一方の反応槽の産出物を2番目の反応槽に送り込む、図1に示したゾーンIの好適な態様」が記載され、「第一反応槽」→「第二反応槽」→「ゾーンII」の経路が示され、また、「この第二反応槽の産出物は固体を典型的に8から30重量パーセント含有しており、これをゾーンIIに移して、このゾーンII内で所望重合体生成物を溶媒および未反応の単量体から分離して、この後者(即ち溶媒および未反応の単量体)を個別にゾーンIに再循環させるか或は安全かつ環境的に受け入れられる様式で処分する」と記載されているから、「ゾーンII」で、重合体を溶媒および未反応の単量体から分離し、分離された溶媒および未反応の単量体を「ゾーンI」、すなわち、「第一反応槽」及び「第二反応槽」に再循環させて重合反応原料として再利用する態様が記載されているといえる。
すると、引用例1発明において、「第二反応器」で「第二のポリマー」を重合により生成させた後に、引用例2に記載の上記態様と同様に、重合体(組成物)を分離・回収する段階において、溶媒および未反応の単量体(エチレン、プロピレン等)を分離し、「第一反応器」及び「第二反応器」に再循環させる「再利用流れ」を形成させることは、化学工業において、原料等を再利用することは周知の技術事項であることからも、当業者が格別の創意を必要とすることなく想到し得ることに過ぎない。
また、「第一反応器」及び「第二反応器」への溶媒等の再循環量を分割して割り当てること、及び、「第一反応器」及び「第二反応器」への単量体の供給量(供給速度)の設定については摘示クにも記載されているように、当業者が所望する重合体特性等に基づいて、適宜設定し得る製造上の設計事項に過ぎない。
したがって、相違点3は、引用例2に記載の技術的事項を引用例1発明に適用することにより、当業者が容易になし得たことであり、また、このことにより格別予期し難い優れた効果が奏されるとも認められない。

(4)相違点4について
相違点4にかかる「第一重合が第二ポリマーを製造するのに好ましいレベルより低いレベルになるまで、プロピレンモノマーを消費するために行われ、第二重合及び再利用が、第一ポリマーを製造するのに好ましいレベルより低いレベルになるまでエチレンを減らすために行われ、及び第一重合のために補充される追加的なプロピレンモノマーと第二重合のために補充される追加的なエチレンモノマーを添加する」ことについては、具体的条件等が明らかであるとはいえないが、引用例1発明においても、所望する重合体の特性等に応じて、当業者であれば「第一反応器」及び「第二反応器」の運転条件をそれぞれ調整し、また、原料添加の条件等を設定・調整するものと認められるから、相違点4に係る事項は、当業者であれば適宜なし得る製造上の設計事項であり、また、このことにより、格別予期し難い優れた効果が奏されるとも認められない。

6.まとめ
上記相違点1?4については、上記5.(1)?(4)に記載のとおりである。
したがって、本願発明は、引用例1及び2に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、原査定の拒絶の理由とされた、上記理由1は妥当なものであるので、他の請求項について検討するまでもなく、本件出願は、原査定の拒絶理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-24 
結審通知日 2013-01-29 
審決日 2013-02-12 
出願番号 特願2007-536718(P2007-536718)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 牧野 晃久  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 小野寺 務
富永 久子
発明の名称 エラストマー性反応ブレンド組成物  
代理人 山崎 行造  

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