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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03F |
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管理番号 | 1276092 |
審判番号 | 不服2012-4481 |
総通号数 | 164 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-08-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-03-08 |
確定日 | 2013-06-26 |
事件の表示 | 特願2010-523137「無線周波デバイスのための差動シングルエンド変換」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 3月 5日国際公開、WO2009/029721、平成22年12月 9日国内公表、特表2010-538545〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続きの経緯・本願発明 本願は、2008年8月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2007年8月29日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その特許請求の範囲の請求項3に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、平成24年3月8日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項3に記載された次のとおりのものと認める。 「 【請求項3】 異なる入力において受信される複数の差動周波数波形入力電圧波形を受信する手段と、 前記複数の入力電圧波形の各差動入力電圧波形をバッファする手段と、 前記複数のバッファされた差動入力電圧波形の各々を増幅する手段と、 前記複数の差動入力電圧波形のうちの一つの波形を非反転差動入力電圧波形とほぼ同じ位相に反転させる手段と、 ここにおいて、プログラマブル利得を有する回路の一つまたは複数の構成要素により、上記受信および反転が行われ、 前記反転させられた入力電圧波形および非反転入力電圧波形を出力電圧波形に組み合わせる手段と、 を具備する回路。」 2.引用例記載発明 原査定の拒絶の理由に引用された特開2005-229459号公報(以下、「引用例」という。)には、次の記載がある。 「【請求項1】 1対の平衡信号のうちの一方の信号が供給される反転アンプと、 この反転アンプの出力信号と、上記平衡信号のうちの他方の信号とを加算する別のアンプと を有し、 この別のアンプから上記1対の平衡信号を不平衡信号に変換した出力信号を得る ようにした平衡/不平衡変換回路。」 「【0023】 図1において、符号15はこの発明による平衡/不平衡変換回路の一例を示す。この変換回路15は、例えば図4におけるミキサ回路13の出力端に接続されて1対の平衡な中間周波信号±Siが供給されるが、このとき、一方の中間周波信号+Siは抵抗器R11を通じて第1の反転アンプQ11の入力端に供給され、他方の中間周波信号-Siは抵抗器R13を通じて第2の反転アンプQ12の入力端に供給される。 【0024】 そして、このとき、反転アンプQ11の出力端と入力端との間に抵抗器R12が接続されるとともに、 R11=R12 ・・・ (2) とされて反転アンプQ11は利得は1倍とされる。そして、反転アンプQ11の出力信号が、 抵抗器R14を通じて反転アンプQ12の入力端に供給される。なお、このとき、 R13=R14 ・・・ (3) とされる。 【0025】 また、反転アンプQ12の出力端と入力端との間に可変抵抗回路R15が接続されるとともに、図4における形成回路17から出力されるAGC電圧VAGCが、可変抵抗回路R15にその制御信号として供給される。 【0026】 なお、反転アンプQ11、Q12として、例えば図3に示すようなものを使用することができる。また、この変換回路15を1チップIC化する場合には、可変抵抗回路R15は、複数の抵抗器と、これを選択するスイッチ回路とにより構成し、そのスイッチ回路をAGC電圧VAGCにより制御することができる。 【0027】 このような構成によれば、反転アンプQ11からは、これに供給された中間周波信号+Siが逆相同レベルの中間周波信号-Siに変換されて取り出され、この中間周波信号-Siと、ミキサ回路13からの中間周波信号-Siとが、抵抗器R14、R13を通じて反転アンプQ12に供給されて加算される。そして、このとき、抵抗器R13、R14が(3)式の関係とされているので、2つに中間周波信号-Si、-Siは、互いに等しい割り合いで加算されて反転アンプQ12に供給される。 【0028】 したがって、反転アンプQ12からは不平衡な中間周波信号Si(=+Si)が取り出され、この不平衡な中間周波信号Siが中間周波フィルタ16に供給される。 【0029】 そして、このとき、反転アンプQ12における加算により2倍の利得が得られるとともに、反転アンプQ12の利得はR15/R14〔倍〕であるから、この変換回路15の全体の利得AVは、 AV=2・R15/R14〔倍〕 となる。そして、AGC電圧VAGCにより可変抵抗回路R15の値が制御されるので、AGC電圧VAGCにより反転アンプQ12の利得AVが変化して中間周波フィルタ16に供給される中間周波信号Siのレベルが制御されることになり、すなわち、AGCが行われる。 【0030】 こうして、この変換回路15によれば、1対の平衡な中間周波信号±Siを不平衡な中間周波信号Siに変換することができるとともに、その中間周波信号Siのレベルを制御することができる。 【0031】 そして、その場合、平衡な中間周波信号±Siにコモンモード成分が含まれていても、中間周波信号+Siに含まれるコモンモード成分は反転アンプQ11により位相反転されるので、反転アンプQ12により2つの中間周波信号-Si、-Siが加算されるとき、これらに含まれるコモンモード成分は相殺されることになる。したがって、反転アンプQ12から出力される中間周波信号Siには、コモンモード成分が含まれないことになる。 【0032】 また、コモンモード成分の相殺の割り合いは抵抗器R14、R15の精度で決まるが、ICにおいては、2つの抵抗器の相対的なばらつきは抑えることができるので、コモンモード成分を確実に相殺することができる。さらに、反転アンプQ12の利得を変更することにより中間周波信号Siのレベルを変更するようにしているので、AGC電圧VAGCによる制御対象は可変抵抗回路R15の1つだけでよく、したがって、中間周波信号Siのレベルを変更してもコモンモード特性の悪化することがない。 【0033】 さらに、反転アンプQ11、Q12には大きな負帰還がかかるので、実際に反転アンプQ11、Q12に加わる中間周波信号±Siは、ミキサ回路13から出力される中間周波信号±Si に比べてレベルがきわめて小さくなり、したがって、入力信号による反転アンプQ11、Q12の動作限界が解消されるので、低電圧における動作が可能となる。 【0034】 また、反転アンプQ11、Q12はシングル入力なので、対応できる構成のアンプが多く、例えば図3に示すような構成のアンプを使用することにより、低い電源電圧でも使用するできる。あるいは入力される中間周波信号±Siの最大レベルを電源電圧近くまでとすることができる。 【0035】 さらに、ミキサ回路13の出力インピーダンスと反転アンプQ11の出力インピーダンスとの不一致などにより抵抗器R13およびR14を通じて反転アンプQ12に供給される2つの中間周波信号-Si、-Siのレベルに誤差を生じても抵抗器R13、R14の比を変更することによりそのレベル差を補正することができ、コモンモード成分を確実に除去することができる。 【0036】 また、デジタル受信回路においては、コモンモード成分として混入する不要なノイズ成分を小さくすることができるので、アナログ受信部とデジタル信号処理部とを同一の半導体チップに形成した場合でも、ノイズを軽減することができ、システムオンチップが実現しやすくなる。 【0037】 図2は、抵抗器R11に、コンデンサCpおよび抵抗器Rpの直列回路を並列接続して反転アンプQ11から出力される中間周波信号-Siの位相およびレベルを補正するようにした場合である。 【0038】 すなわち、反転アンプQ11が周波数特性を持っていると、抵抗器R14、R13を通じて加算される2つの中間周波信号-Si、-Siにおけるコモンモード成分のレベルや位相が異なってしまい、コモンモード成分が残留するようになるが、そのレベルや位相の違いをコンデンサCpおよび抵抗器Rpにより補正することができるので、コモンモード成分をより確実に除去することができる。」 そして、以上の記載事項を引用例の関連図面と技術常識に照らせば、以下のことがいえる。 (1)引用例の図1に示される「平衡/不平衡変換回路15」において、+Siと-Siで示される各信号を受信することは、「異なる入力において受信される複数の差動周波数波形入力電圧波形を受信する」ことに他ならず、上記「平衡/不平衡変換回路15」は、当然に、「異なる入力において受信される複数の差動周波数波形入力電圧波形を受信する手段」といい得る手段を有している。 (2)上記「平衡/不平衡変換回路15」中の「Q11、R11、R12からなる部分」は、「複数の差動入力電圧波形のうちの一つの波形を非反転差動入力電圧波形とほぼ同じ位相に反転させる」機能を有しており、該「Q11、R11、R12からなる部分」は、「複数の差動入力電圧波形のうちの一つの波形を非反転差動入力電圧波形とほぼ同じ位相に反転させる手段」といい得る。 (3)上記「平衡/不平衡変換回路15」中の「Q12、R13、R14、R15からなる部分」は、「反転させられた入力電圧波形および非反転入力電圧波形を出力電圧波形に組み合わせる」機能を有しており、該「Q12、R13、R14、R15からなる部分」は、「反転させられた入力電圧波形および非反転入力電圧波形を出力電圧波形に組み合わせる手段」といい得る。 したがって、引用例には以下の発明(以下、「引用例記載発明」という。)が記載されているといえる。 「異なる入力において受信される複数の差動周波数波形入力電圧波形を受信する手段と、 前記複数の差動入力電圧波形のうちの一つの波形を非反転差動入力電圧波形とほぼ同じ位相に反転させる手段と、 前記反転させられた入力電圧波形および非反転入力電圧波形を出力電圧波形に組み合わせる手段と、 を具備する回路。」 3.対比 本願発明と引用例記載発明を対比すると、両発明の間には、以下の一致点、相違点があるといえる。 (一致点) 「異なる入力において受信される複数の差動周波数波形入力電圧波形を受信する手段と、 前記複数の差動入力電圧波形のうちの一つの波形を非反転差動入力電圧波形とほぼ同じ位相に反転させる手段と、 前記反転させられた入力電圧波形および非反転入力電圧波形を出力電圧波形に組み合わせる手段と、 を具備する回路。」である点。 (相違点1) 本願発明は、「前記複数の入力電圧波形の各差動入力電圧波形をバッファする手段」と「前記複数のバッファされた差動入力電圧波形の各々を増幅する手段」とを有するのに対し、引用例記載発明は、それらに対応する手段を有しない点。 (相違点2) 本願発明は、「プログラマブル利得を有する回路の一つまたは複数の構成要素により、上記受信および反転が行われる」ものであるのに対し、引用例記載発明はそのようなものではない点。 4.当審の判断 (1)(相違点1)について 以下の事情を勘案すると、引用例記載発明を「前記複数の入力電圧波形の各差動入力電圧波形をバッファする手段」と「前記複数のバッファされた差動入力電圧波形の各々を増幅する手段」とを有するものとすることは、当業者が容易に推考し得たことというべきである。 ア.相互に縦続接続する2つの回路の間に、当該2つの回路が相互に及ぼし得る悪影響を防止すること等を目的として「バッファする手段」を設けることや、前段の回路の出力レベルと後段の回路が必要とする入力レベルの間に相違がある場合に、前段の回路と後段の回路の間に「増幅する手段」を設けることは、いずれも、電子回路の技術分野全般においてごく普通に行われていることである。 イ.一方、引用例の【請求項1】に、「平衡/不平衡変換回路」の前段や後段に接続される回路についての限定がないことや、「反転アンプ」(引用例記載発明でいう「反転させる手段」に相当するものと認められる。)や「別のアンプ」(引用例記載発明でいう「組み合わせる手段」に相当するものと認められる。)の具体的構成についての限定もないこと等から明らかなように、引用例記載発明の回路は、様々な構成の回路に接続され得るものであり、また、様々な構成の「反転アンプ」や「別のアンプ」を使用し得るものである。そして、それら前段に接続される回路や「反転アンプ」、「別のアンプ」等の構成によっては、当該前段に接続される回路との間に「バッファする手段」を設けたり、「別のアンプ」の前段に「増幅する手段」を設けたりすることが望ましい場合があり得ることは、当業者に自明のことである。 ウ.以上のことは、引用例記載発明を「前記複数の入力電圧波形の各差動入力電圧波形をバッファする手段」と「前記複数のバッファされた差動入力電圧波形の各々を増幅する手段」とを有するものとすべき場合が当業者に容易に想到されることを意味し、引用例記載発明を「前記複数の入力電圧波形の各差動入力電圧波形をバッファする手段」と「前記複数のバッファされた差動入力電圧波形の各々を増幅する手段」とを有するものとすることが当業者にとって容易であったことを推認させる。 エ.引用例記載発明を「前記複数の入力電圧波形の各差動入力電圧波形をバッファする手段」と「前記複数のバッファされた差動入力電圧波形の各々を増幅する手段」とを有するものとすることにより、引用例の記載や技術常識からは当業者が予期し得ないような格別の効果が得られる、といったような事情が認められる場合には、そのような事情の存在を、上記ウ.の推認を覆し得る事情として考慮する余地があるが、本願の発明の詳細な説明の記載や、請求人が提出する意見書、審判請求書、回答書の記載を総合しても、そのような事情は認められない。 (2)(相違点2)について 以下の事情を勘案すると、引用例記載発明を「プログラマブル利得を有する回路の一つまたは複数の構成要素により、上記受信および反転が行われる」ものとすることも、当業者が容易に推考し得たことというべきである。 ア.「プログラマブル利得を有する回路」自体は、拒絶査定において周知技術を示すものとして例示された、特開昭57-125506号公報や特開昭58-148508号公報にも示されるように周知であり、そのような回路は、出力レベルを調整する必要が予見されるような回路全般において使用され得るものである。 イ.一方、引用例の段落【0035】、【0037】、【0038】の記載からも明らかなように、引用例記載発明においても、「組み合わせる手段」の前段の回路の出力レベルの調整が必要な場合は容易に予見される。 ウ.以上のことは、引用例記載発明を「プログラマブル利得を有する回路の一つまたは複数の構成要素により、上記受信および反転が行われる」ものとすべき場合が当業者に容易に想到されることを意味し、引用例記載発明を「プログラマブル利得を有する回路の一つまたは複数の構成要素により、上記受信および反転が行われる」ものとすることが当業者にとって容易であったことを推認させる。 エ.引用例記載発明を「プログラマブル利得を有する回路の一つまたは複数の構成要素により、上記受信および反転が行われる」ものとすることにより、引用例の記載や技術常識からは当業者が予期し得ないような格別の効果が得られる、といったような事情が認められる場合には、そのような事情の存在を、上記ウ.の推認を覆し得る事情として考慮する余地があるが、本願の発明の詳細な説明の記載や、請求人が提出する意見書、審判請求書、回答書の記載を総合しても、そのような事情は認められない。 (3)本願発明の効果について 本願発明の構成全体によってもたらされる効果も、引用例の記載事項および技術常識から当業者が予測し得る程度のものであり、本願発明の進歩性を根拠付けるに足りるものではない。 (4)まとめ よって、本願発明は、引用例記載発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用例記載発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-01-24 |
結審通知日 | 2013-01-29 |
審決日 | 2013-02-13 |
出願番号 | 特願2010-523137(P2010-523137) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H03F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 高橋 義昭 |
特許庁審判長 |
小曳 満昭 |
特許庁審判官 |
江口 能弘 飯田 清司 |
発明の名称 | 無線周波デバイスのための差動シングルエンド変換 |
代理人 | 砂川 克 |
代理人 | 堀内 美保子 |
代理人 | 河野 哲 |
代理人 | 蔵田 昌俊 |
代理人 | 高倉 成男 |
代理人 | 竹内 将訓 |
代理人 | 幸長 保次郎 |
代理人 | 白根 俊郎 |
代理人 | 中村 誠 |
代理人 | 福原 淑弘 |
代理人 | 峰 隆司 |
代理人 | 村松 貞男 |
代理人 | 井関 守三 |
代理人 | 岡田 貴志 |
代理人 | 河野 直樹 |
代理人 | 佐藤 立志 |
代理人 | 野河 信久 |