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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1276151
審判番号 不服2011-25634  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-11-28 
確定日 2013-07-04 
事件の表示 特願2001-194751「超音波トランスデューサから超音波パルスを患者に送波する方法及び超音波送波システム」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 2月 5日出願公開,特開2002- 34978〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成13年6月27日(パリ条約による優先権主張日 平成12年6月27日,米国)の出願であって,平成23年7月22日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年11月28日に拒絶査定に対する不服の審判請求がなされるとともに,同日付けで手続補正(以下「本件補正」という)がなされたものである。さらに,平成24年3月28日付けで審尋がなされ,回答書が同年6月29日付けで請求人より提出されたものである。

第2 本件補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

本件補正を却下する。

[理由]

1 補正後の請求項7に係る発明

本件補正により,補正前の特許請求の範囲の請求項7は,次のとおりに補正された。(下線は補正箇所を示す)

「【請求項7】 電気信号をアコースティック・エネルギーに,その逆にアコースティック・エネルギーを電気信号に変換する多数のトランスデューサ素子を有している超音波トランスデューサと,
各トランスデューサ素子から送波されるようにデジタル化された波形を発生する各トランスデューサ素子に関連付けられている波形発生器と,
を備え,
各波形は送波パルスの可変の割合を有し,
前記波形発生器には正及び負の基準電圧が供給され,出力を0,正の基準電圧,および,負の基準電圧のいずれにするかが指定され,
前記トランスデューサ素子すべてが1つの電圧調整器に接続されており,該電圧調整器によって,波形の伝達に関連するトランスデューサ素子の各々が同じ電圧を送出することを特徴とする, 超音波伝送システム。」

上記補正は,「前記トランスデューサ素子すべてが1つの電圧調整器に接続されており,該電圧調整器によって,波形の伝達に関連するトランスデューサ素子の各々が同じ電圧を送出する」との限定事項を付加するものであるといえる。

そうすると,前記補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下「平成18年法改正前」という)の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで,補正後の請求項7に係る発明(以下「補正発明」という)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 引用刊行物およびその記載事項

(1)本願優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平4-300530号公報(以下「刊行物1」という)には,「超音波診断装置」に関して,図面とともに,次の事項が記載されている。なお,以下において,下線は当審にて付与したものである。

(1-ア)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 超音波探触子と,パルサとを有しており,超音波探触子は,所定方向に連続配列された複数の微小振動子からなり,かつ,所定数の微小振動子を振動子ブロックとして,前記方向に微小振動子の所定数毎にその振動子ブロックをずらしながら,駆動パルスで各振動子ブロック内の微小振動子が実質的に同時駆動されるものであり,パルサは,前記振動子ブロック内の各微小振動子のそれぞれに駆動電圧レベルが同一の駆動パルスを出力するものであって,該振動子ブロック内の微小振動子の配列位置に応じて,該駆動パルスに対する波連数(前記同時駆動としての同じ周期で印加する駆動パルスの数)とパルス幅との組み合わせを可変させるものであることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】 前記パルサが,前記振動子ブロック内の各微小振動子のそれぞれに駆動電圧レベルが同一の駆動パルスを出力するものであって,該振動子ブロック内の微小振動子の配列位置に応じて,該駆動パルスの周波数を可変させるものであることを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。」

(1-イ)
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,超音波診断装置に関する。
【0002】
【従来の技術】超音波診断装置には,図4のように超音波探触子2,この超音波探触子2内の個々の微小振動子毎に対応して設けられたプリアンプ4,パルサ6,およびディレイ8とを有するとともに,各ディレイ8出力を加算する加算回路10と,加算回路10出力に基づいて処理回路12でフィルタとかログ圧縮とか検波等の必要な信号処理を施し,ついでデジダルスキャンコンバータ14に出力して,図示していないCRT画面に超音波の断層像を映し出すように構成されたものがある。
【0003】このような超音波診断装置に備えられている超音波探触子2と,パルサ6とにおいて,超音波探触子2については,これを所定方向に連続配列された複数の微小振動子で構成するとともに,所定数の微小振動子を振動子ブロックとして,前記方向に微小振動子の所定数毎にその振動子ブロックをずらしながら,パルサ6からの駆動パルスで各振動子ブロック内の微小振動子を実質的に同時駆動して超音波を発射させ,パルサ6については前記微小振動子にそのブロック内での配列位置に応じて駆動パルスを印加してこれを駆動するようにしたものがある。」

(1-ウ)
「【0007】
【発明が解決しようとする課題】図6(a)の第1の印加方式では振動子ブロック内のすべての微小振動子A1?A9に対して,その配列位置とは無関係に駆動電圧レベルが同一の駆動パルスを印加するために,発射超音波にメインローブの両側にサイドローブが生じる。そして,メインローブの超音波はサイドローブのそれよりもレベル的に大であるから,メインローブの反射超音波のみの受波レベルにまで感度を調整することでサイドローブの反射超音波は超音波診断のための断層像としてCRT画面上には映し出されないが,感度を上げるとサイドローブの反射超音波も受波される結果,CRT画面上にはメインローブの反射超音波による患部の断層像のみならず,患部の断層像とは無関係のサイドローブによる虚像もCRT画面上に映し出されるという不具合がこの第1の印加方式にはある。」

(1-エ)
「【0017】
【実施例】以下,本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【0018】本実施例の超音波診断装置は基本的には図4の構成であり,図5と同様にして超音波探触子を駆動パルスで駆動するようになっている。すなわち,超音波探触子は従来と同様に,所定方向に連続配列された複数の微小振動子からなるものであって,図5のように所定数,この実施例では9個,の微小振動子A1?A9を1つの振動子ブロックとして,前記方向に微小振動子の所定数,例えば1個毎にその振動子ブロックをずらしながら,駆動パルスで各振動子ブロック内の微小振動子が実質的に同時駆動されるものである。
【0019】本実施例ではパルサの構成に特徴がある。
すなわち,パルサは,微小振動子の数に対応して設けられており,いずれも図1のように構成されている。すなわち,図5の各パルサPC1?PC9は,それぞれ,図1のように波連数設定回路S1と,パルス幅設定回路S2と,駆動パルス出力回路S3とを有している。波連数設定回路S1は,波連数を設定するものであり,パルス幅設定回路S2は駆動パルスのパルス幅を設定するものであり,駆動パルス出力回路S3は駆動パルスを出力するものである。実施例ではこれらをハードウエア的に示しているが,マイクロコンピュータでソウトウエアで構成することができる。
(中略)
【0022】なお,図2では駆動パルスが単極性であったが,それを双極性として図3のように中央側の微小振動子A5に対する駆動パルスの周波数(周期でT1)を該微小振動子A5の固有振動周波数に合わせ込み,該中央の微小振動子より端側の微小振動子に対してはその周波数を高く,すなわち周期をそれぞれ順次に短く,つまりT1>T2>T3>T4>T5の関係に制御することで実質的に図2と同様の作用効果のあるものとしてもよく,あるいはそれらの組み合わせであってもよい。
【0023】
【発明の効果】以上説明したことから明らかなように,本発明によれば,超音波探触子内の所定数の微小振動子を振動子ブロックとして,前記方向に微小振動子の所定数毎にその振動子ブロックをずらしながら,駆動パルスで各振動子ブロック内の微小振動子を実質的に同時駆動するときに,パルサからの駆動パルスを前記振動子ブロック内の各微小振動子のそれぞれに出力するとともに,該振動子ブロック内の微小振動子の配列位置に応じて,請求項1では,該駆動パルスに対する波連数とパルス幅との組み合わせを可変させ,請求項2では周波数を可変させ,請求項3ではそれらの組み合わせで可変させるようにしたから,波連数としては中央側の微小振動子に対して3つであっても端側の微小振動子から中央側のそれに向かうに従って駆動パルスのパルス幅とか,周波数とか波連数とか調整をすることで容易に超音波のサイドローブの影響を軽減することができる結果,電力消費を抑えながら断層像の感度を十分に上げることが可能で,しかも距離分解能に優れた駆動パルス印加方式を備えたものにすることができる。」

(1-オ)図3には,駆動パルスの例として,0,正の電圧,および,負の電圧で構成される矩形波が記載されている。また,中央の微小振動子P5としたP1?P9の微小振動子において,P5からP1に向かって順々に,その波長をT1?T5としたときに,T1>T2>T3>T4>T5であることが記載されている。

上記記載事項(1-ア)?(1-オ)ならびに図3?5を総合すると,刊行物1には次の発明(以下「引用発明」という)が記載されていると認められる。
「超音波探触子と,パルサとを有しており,超音波探触子は,所定方向に連続配列された複数の微小振動子からなり,かつ,所定数の微小振動子を振動子ブロックとして,前記方向に微小振動子の所定数毎にその振動子ブロックをずらしながら,駆動パルスで各振動子ブロック内の微小振動子が実質的に同時駆動されるものであり,パルサは,前記振動子ブロック内の各微小振動子のそれぞれに,駆動電圧レベルが同一であり,0,正の電圧,および,負の電圧で構成される矩形波である駆動パルスを出力するものであって,該振動子ブロック内の微小振動子の配列位置に応じて,該駆動パルスの周波数を可変させるものである超音波診断装置。」

(2)本願優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平11-221217号公報(以下「刊行物2」という)には,「超音波診断装置」に関して,図面とともに,次の事項が記載されている。

(2-ア)
「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,被検体に超音波を送信し,その反射波を受波して超音波診断画像を得る,いわゆる超音波診断装置に関するものであり,特に,単位時間内の走査回数を増加させることによってリアルタイム性と血流検出能の大幅な向上を図った超音波診断装置に関する。」

(2-イ)
「【0073】図11は発熱対策を講じた場合の構成を示すブロック図である。同図に示すように,かかる構成は検波回路9に対しゲート回路25が接続され,このゲート回路25に対し積分回路26,比較器27,電圧制御回路28が直列に接続されて成る。」

(2-ウ)図11には,複数のパルサ3に対して,一つの電圧制御回路が信号を送ることが記載されている。

3 対比・判断

(1)対比

補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明における「超音波診断装置」は,その内容からみて,超音波を伝送する構成を含むものであるから,補正発明における「超音波伝送システム」に相当することは明らかである。

イ 引用発明において,「超音波探触子は,所定方向に連続配列された複数の微小振動子からな」るものである。また,前記摘記事項(1-エ)には,「本実施例の超音波診断装置は基本的には図4の構成であり…」とあり,この「図4の構成」については,前記摘記事項(1-イ)に,「超音波診断装置には,図4のように超音波探触子2,この超音波探触子2内の個々の微小振動子毎に対応して設けられたプリアンプ4,パルサ6,およびディレイ8とを有するとともに,各ディレイ8出力を加算する加算回路10と,加算回路10出力に基づいて処理回路12でフィルタとかログ圧縮とか検波等の必要な信号処理を施し,ついでデジダルスキャンコンバータ14に出力して,図示していないCRT画面に超音波の断層像を映し出すように構成されたものがある。【0003】このような超音波診断装置に備えられている超音波探触子2と,パルサ6とにおいて,超音波探触子2については,これを所定方向に連続配列された複数の微小振動子で構成するとともに,所定数の微小振動子を振動子ブロックとして,前記方向に微小振動子の所定数毎にその振動子ブロックをずらしながら,パルサ6からの駆動パルスで各振動子ブロック内の微小振動子を実質的に同時駆動して超音波を発射させ…」と記載されていることから,引用発明における超音波診断装置においても,同じ微小振動子によって超音波の送受信が行われていることは明らかである。
したがって,引用発明における「所定方向に連続配列された複数の微小振動子」,および「超音波探触子」は,それぞれ,補正発明における「電気信号をアコースティック・エネルギーに,その逆にアコースティック・エネルギーを電気信号に変換する多数のトランスデューサ素子」,および「超音波トランスデューサ」に相当する。

ウ 引用発明における「パルサ」は,「前記振動子ブロック内の各微小振動子のそれぞれに,駆動電圧レベルが同一であり,0,正の電圧,および,負の電圧で構成される矩形波である駆動パルスを出力するもの」であるから,引用発明における「パルサ」は,「各微小振動子」に対して,デジタル化された波形を発生させるものといえる。
したがって,引用発明における「パルサ」は,補正発明における「各トランスデューサ素子から送波されるようにデジタル化された波形を発生する各トランスデューサ素子に関連付けられている波形発生器」に相当する。

エ 引用発明では,「パルサ」が,「該振動子ブロック内の微小振動子の配列位置に応じて,該駆動パルスの周波数を可変させ」ており,これは具体的には前記摘記事項(1-エ)の「【0022】…図3のように中央側の微小振動子A5に対する駆動パルスの周波数(周期でT1)を該微小振動子A5の固有振動周波数に合わせ込み,該中央の微小振動子より端側の微小振動子に対してはその周波数を高く,すなわち周期をそれぞれ順次に短く,つまりT1>T2>T3>T4>T5の関係に制御する…」ことであり,ここで,「T1」,「T2」,「T3」,「T4」,「T5」は,前記摘記事項(1-オ)のとおり,中央の微小振動子P5から端側の微小振動子P1にそれぞれ与えられる駆動パルスの波長T1?T5のことである。また,駆動パルスの周波数が変化すれば,微小振動子から送信されるパルスも,駆動パルスに応じて変化するものであることは明らかである。
したがって,引用発明においても,「パルサ」が発生する「波形」は,「送波パルスの可変の割合を有」しているといえる。

オ 引用発明における「パルサ」は,「前記振動子ブロック内の各微小振動子のそれぞれに,駆動電圧レベルが同一であり,0,正の電圧,および,負の電圧で構成される矩形波である駆動パルスを出力するもの」であるから,引用発明と補正発明とは,「波形発生器」が「0,正の基準電圧,および,負の基準電圧のいずれ」かからなる波形を出力する点で共通する。

カ 補正発明には,「波形の伝達に関連するトランスデューサ素子の各々が同じ電圧を送出する」とあるが,本願の明細書を参照すると,「【0014】…すべてのトランスデューサ素子は同じ電圧調整器88に接続されているために,パルスを送波する各トランスデューサ素子は実質的に同じ電圧でパルスを送波する。」とあり,また,トランスデューサ素子は「電圧を送出する」ものではないことは,技術常識から明らかであるから,以下,補正発明における「波形の伝達に関連するトランスデューサ素子の各々が同じ電圧を送出する」とは,「波形の伝達に関連するトランスデューサ素子の各々が同じ電圧のパルスを送出する」であるものとして検討する。
引用発明では,「パルサ」が,「前記振動子ブロック内の各微小振動子のそれぞれに,駆動電圧レベルが同一であり,0,正の電圧,および,負の電圧で構成される矩形波である駆動パルスを出力するもの」であるから,「各微小振動子」が同じ電圧のパルスを送出することは明らかであるといえる。
したがって,引用発明と補正発明とは,「波形の伝達に関連するトランスデューサ素子の各々が同じ電圧のパルスを送出する」点で共通する。

そうすると,両者は,

(一致点)
「電気信号をアコースティック・エネルギーに,その逆にアコースティック・エネルギーを電気信号に変換する多数のトランスデューサ素子を有している超音波トランスデューサと,
各トランスデューサ素子から送波されるようにデジタル化された波形を発生する各トランスデューサ素子に関連付けられている波形発生器と,
を備え,
各波形は送波パルスの可変の割合を有し,
前記波形発生器は,0,正の基準電圧,および,負の基準電圧のいずれかからなる波形を出力し,
波形の伝達に関連するトランスデューサ素子の各々が同じ電圧を送出する,
超音波伝送システム。」

である点で一致し,次の点で相違する。

(相違点1)
補正発明では,「波形発生器」に「正及び負の基準電圧が供給され」ることにより,「出力を0,正の基準電圧,および,負の基準電圧のいずれにするかが指定され」るものであるのに対し,引用発明は,「波形発生器」に「正及び負の基準電圧が供給され」るかどうか不明である点。

(相違点2)
補正発明では,「トランスデューサ素子すべてが1つの電圧調整器に接続されており,該電圧調整器によって,波形の伝達に関連するトランスデューサ素子の各々が同じ電圧を送出する」のに対し,引用発明では,電圧調整器が記載されておらず,トランスデューサ素子と電圧調整器との関係が不明である点。

(2)判断

上記相違点について検討する。

(相違点1について)
「正及び負の基準電圧が供給され」ることにより,「出力を0,正の基準電圧,および,負の基準電圧のいずれにするか」を指定し,矩形波を作成することは,超音波診断装置の分野においてよく知られた常套手段である。例えば拒絶査定で引用された特開2000-152930号公報には,「【0010】また,図11に示すように,送信パルサのスイッチング部にあっては,トリガコントローラ1からの図11に示すトリガ信号Trig1,Trig2によりオン・オフするMOSFET2a,2bにより電源電圧Vp,Vnをスイッチングする。該スイッチングされた出力を,トリガコントローラ1からのトリガ信号Trig3により動作するMOSFET2cによりオンオフすることにより,図12に示す出力が得られ,振動子3に与えられる。」と記載され,図12には,負の電圧であるTrig1,正の電圧であるTrig2,および正の電圧であるTrig3により,出力が,0,正の電圧Vp,および,負の電圧Vnのいずれかに指定され,矩形波が出力されることが記載されている。
そして,引用発明に上記常套手段を適用し,前記波形発生器が,0,正の基準電圧,および,負の基準電圧のいずれかからなる波形を出力するように為すことは,当業者であれば適宜為し得る設計的事項である。

(相違点2について)
補正発明には,「トランスデューサ素子すべてが1つの電圧調整器に接続されており」とあるが,本願の図面第4B図を参照すると,1つの電圧調整器に接続されているのは各トランスデューサ素子にそれぞれ接続された複数の波形発生器であるから,以下,補正発明において,トランスデューサ素子に接続された波形発生器すべてが1つの電圧調整器に接続されているものとして検討する。
刊行物2には,前記摘記事項(2-ウ)のとおり,超音波診断装置における複数のパルサに対して,一つの電圧制御回路が信号を送ることが記載されている。
そして,引用発明では,パルサが,同一の駆動電圧レベルの駆動パルスを出力するものであるから,各パルサ毎に異なる電圧調整器を設ける必要性はないことは当業者には明らかであり,また,無用のコスト増大や大型化を回避することは,この分野における当業者が当然考慮する課題であることから,引用発明および刊行物2に記載の技術事項に接した当業者が,コスト増大及び大型化回避を目的として,引用発明において,すべてのパルサを1つの電圧調整器に接続するように為すことは,当業者であれば当然為し得ることである。

してみると,補正発明は,引用発明,刊行物2に記載された技術事項,および前記常套手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきである。

また,本願明細書に記載された相違点により奏する作用・効果も,刊行物1に記載された事項から予測し得る範囲のものであり,格別顕著なものとはいえない。上記記載事項(1-ウ)のとおり,引用発明においても,発射超音波のメインローブの両側にサイドローブが生じるとの課題は認識されており,引用発明により解決されている。

ゆえに,補正発明は,引用発明,刊行物2に記載された技術事項,および前記常套手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきであり,特許法第29条第2項の規定により,独立して特許を受けることができないものである。

4 まとめ

以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年法改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により,却下すべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明

本件補正は上記のとおり却下されることとなったので,本願の請求項1?10に係る発明は,平成23年6月3日付け手続補正書に補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるものと認められ,その請求項7は次のとおりのものである。

「【請求項7】 電気信号をアコースティック・エネルギーに,その逆にアコースティック・エネルギーを電気信号に変換する多数のトランスデューサ素子を有している超音波トランスデューサと,
各トランスデューサ素子から送波されるようにデジタル化された波形を発生する各トランスデューサ素子に関連付けられている波形発生器と,
を備え,
各波形は送波パルスの可変の割合を有し,
前記波形発生器には正及び負の基準電圧が供給され,出力を0,正の基準電圧,および,負の基準電圧のいずれにするかが指定される
超音波伝送システム。」(以下「本願発明」という)

2 引用刊行物の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用した刊行物1およびその記載事項は,上記「第2 2(1)」に記載したとおりである。

3 判断

本願発明は,補正発明において,「前記トランスデューサ素子すべてが1つの電圧調整器に接続されており,該電圧調整器によって,波形の伝達に関連するトランスデューサ素子の各々が同じ電圧を送出する」との限定事項を省くものである。

そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,さらに他の構成要件を付加し限定したたものに相当する補正発明が,前記「第2 3(2)」にて述べたとおり,引用発明,刊行物2に記載された技術事項,および前記常套手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,引用発明,および前記常套手段に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 請求人の主張および回答書補正案について

請求人は,上記回答書において,「これらの特徴に加え本願発明によれば,波形の伝達に関連するトランスデューサ素子の各々は,すべてのトランスデューサ素子が接続されている1つの電圧調整器によって,同じ電力でパルスを送出することを特徴としています。」と主張している。
しかしながら,上記したとおり,本願の明細書には,「【0014】…すべてのトランスデューサ素子は同じ電圧調整器88に接続されているために,パルスを送波する各トランスデューサ素子は実質的に同じ電圧でパルスを送波する。」と記載されているものの,同じ電力でパルスを送出することは記載されていない。また,この点については,明細書中の他の箇所にも記載されておらず,示唆もされていない。
したがって,請求人の主張は採用できない。

また,請求人は,同回答書において,平成23年11月28日付けの手続補正書における特許請求の範囲の請求項7に係る発明において,「前記トランスデューサの側方部のトランスデューサ素子が低い割合のパルスを送波し,前記トランスデューサの中央部付近のトランスデューサ素子が高い割合のパルスを送波し」との限定事項を付加する補正案を提示している。

しかしながら,引用発明においても,超音波探触子の端側の微小振動子が低い割合のパルスを送波し,前記超音波探触子の中央付近の微小振動子が高い割合のパルスを送波しているから(上記摘記事項(1-エ)および(1-オ)参照),上記補正案は採用できない。

5 まとめ

以上のとおり,本願発明は,引用発明,および前記常套手段に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきである。

第4 むすび

以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-04 
結審通知日 2013-02-08 
審決日 2013-02-19 
出願番号 特願2001-194751(P2001-194751)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮澤 浩  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 小野寺 麻美子
三崎 仁
発明の名称 超音波トランスデューサから超音波パルスを患者に送波する方法及び超音波送波システム  
代理人 久野 琢也  
代理人 二宮 浩康  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 星 公弘  
代理人 高橋 佳大  
代理人 篠 良一  

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