ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B |
---|---|
管理番号 | 1276167 |
審判番号 | 不服2012-15101 |
総通号数 | 164 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-08-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-08-03 |
確定日 | 2013-07-04 |
事件の表示 | 特願2007-295772「光記録媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 6月 4日出願公開、特開2009-123278〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成19年11月14日に出願したものであって、手続きの概要は以下のとおりである。 拒絶理由通知 :平成23年12月15日(起案日) 意見書 :平成24年 2月17日 手続補正 :平成24年 2月17日 拒絶査定 :平成24年 4月24日(起案日) 拒絶査定不服審判請求 :平成24年 8月 3日 手続補正 :平成24年 8月 3日 審尋 :平成24年11月29日(起案日) 回答書 :平成25年 1月 9日 拒絶理由通知(当審) :平成25年 2月 6日(起案日) 意見書 :平成25年 4月11日 手続補正 :平成25年 4月11日 本願の請求項1、2に係る発明は、平成25年4月11日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「 【請求項1】 波長λが400?410nmとなるレーザー光を、開口数NAが0.8?0.9となる光学系を介して情報記録層に照射することで、PRML識別方式によって記録再生が可能な光記録媒体であって、 前記情報記録層として、予めスタンパを利用して立体的な記録マークが記録された再生専用情報記録層と、前記再生専用情報記録層とは別の層であって追記型又は書換型による情報記録が可能な情報記録層と、を少なくとも備え、 前記再生専用情報記録層は、基板よりも前記レーザー光の光入射面側であって、前記光入射面から最も近い位置に配置されており、 情報記録が可能な前記情報記録層は、基板よりも前記光入射面側であって、前記光入射面から70μmより離れた位置且つ前記光入射面から110μm以内に配置されており、 前記再生専用情報記録層は、前記光入射面から60μmより離れた位置且つ前記光入射面から75μm以内(ただし前記光入射面から75μmの位置を除く)に配置されている ことを特徴とする光記録媒体。」 2.引用例 当審の平成25年2月6日付け拒絶理由通知に引用した特表2007-519128号公報(平成19年7月12日公表、以下「引用例1」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。) (1)「【技術分野】 【0001】 本発明は、第1の入射面を介してマルチ(multi,多層)スタック光データ記憶媒体に入射する集束放射ビームにより記録及び読み取りを行うための該マルチスタック光データ記憶媒体であって、当該媒体が、少なくとも第1の基板をもつと共に、この第1の基板の少なくとも一方の側面上に、 第1の情報層を有する第1の層スタックと、 第2の情報層を有し、第1の層のスタックよりも第1の入射面に近い位置に存在し、第1の透明スペーサ層により第1の層スタックから隔てられる第2の層スタックと、を有し、 第1の層スタック及び第2の層スタックの各々が、0.04から0.08の間の有効放射ビーム反射率をもつ、マルチスタック光データ記憶媒体に関する。」 (2)「【背景技術】 【0003】 冒頭段落に説明されたような光データ記憶媒体は、ブルーレイディスク(BD)として知られる。 【0004】 光データ記憶媒体のこの新たなフォーマットは最近導入されており、デジタルバーサタイルディスク(DVD)フォーマットと比較して拡張された記憶容量及びデータレートをもつ。BDは、青色、即ち、約405nmの放射ビーム波長及び集束放射ビームの比較的高い開口数(NA)を使用する。このフォーマットについては、リードオンリー(ROM,読み取り専用)、ライトワンス(R,追記型)及びリライタブル(RW,再書き込み可能)バージョンが既にもたらされており又は今後もたらされる。 【0005】 デュアルスタックBD媒体が存在し、この媒体内では、2つの情報スタックが約25μm厚さの透明スペーサ層によって隔てられて存在する。それゆえ、この媒体の容量は、シングル(single,一層)スタックバージョンと比較して2倍にされる。BD標準仕様によれば、各々のスタックの有効反射率は、約405nmの放射ビーム波長において0.04から0.08の間にあるべきである。一般に、ダブル(double,二重)スタック媒体に対して一つ又は複数のスタックを加えることは、各層の有効反射率レベルに悪影響を及ぼすことが認識されている。例えば、これらのスタックでリライタブル層として使用される相変化材料は、上記の放射ビーム波長において低い透過率値及び反射率値を示し、このことは、追加のスタックを加えることだけでなく、当該規格の反射率値に準拠することをも不可能にする。 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 しかしながら、より容量の大きい媒体の需要があることは予知され得る。 【0007】 本発明の目的は、増大されたデータ容量をもつと共に、デュアルスタックBD標準仕様との互換性がある反射率値をもつ冒頭段落に説明されたタイプのマルチスタック光データ記憶媒体を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0008】 この目的は、第3の情報層を有する第3の層スタックが、第1の入射面に最も近い位置に存在し、第2の透明スペーサ層によって第2の層スタックから隔てられており、第3の層スタックが0.70より大きい放射ビーム透過率T3をもち、第3の情報層がリードオンリー層及びライトワンス層からなるグループから選択されるタイプである本発明によるマルチスタック光データ記憶媒体によって達成される。」 (3)「【発明を実施するための最良の形態】 【0018】 図1Aでは、集束放射ビーム10により記録及び読み取りを行うための知られるBDマルチスタック光データ記憶媒体15、即ち、ディスクが示される。放射ビーム10は、第1の放射ビームの入射面11を介して媒体15に入射する。この媒体は、少なくとも第1の基板1をもつと共に、この第1の基板1の少なくとも一方の側面上に、第1の情報層を有する第1の層スタック2と、第2の情報層を有する第2の層スタック4と、を具える。第2の層スタック4は、第1の層スタック2よりも第1の放射ビームの入射面に近い位置に存在する。第2の層スタックは、第1の透明スペーサ層3によって第1の層スタックから隔てられている。第1の情報層及び第2の情報層はリライタブル層である。第1の層スタック及び第2の層スタックは、各々が0.04から0.08の間の有効放射ビーム反射率をもつ。 【0019】 図1Bでは、本発明によれば、第3の情報層を有する第3の層スタック6が、第1の入射面に最も近い位置に存在する。この図の第1の層スタック及び第2の層スタックは、図1Aで説明された各スタックと同じものである。第3の層スタックは、第2の透明スペーサ層5によって第2の層スタックから隔てられており、0.70より大きい放射ビーム透過率をもつ。第3の情報層は、リードオンリー層及びライトワンス層からなるタイプのグループから選択されるタイプである。図1Bの実施形態は以下により詳細に説明される。 【0020】 基板1は、第1の層スタック2の側面においてその表面にサーボプリグルーブ即ち案内溝のパターンをもち、ポリカーボネート(n=1.6)から製作され、1.1mmの厚さをもつ。サーボプリグルーブは、記録時及び/又は読出し時に集束放射ビーム10を案内するために使用される。第1の層スタック2はリライタブルスタックであり、スパッタリングにより堆積され厚さ43nmをもつ(ZnS)80(SiO2)20(n=2.3)でできている第1の誘電層と、スパッタリングにより堆積され厚さ11nmをもつ相変化型GeInSbTe合金でできているリライタブル記録層と、スパッタリングにより堆積され厚さ9nmをもつ(ZnS)80(SiO2)20(n=2.3)でできている第2の誘電層と、スパッタリングで堆積され厚さ120nmをもつ銀(Ag)でできている反射層と、をこの順序で有している。レーザビームは、ディスク基板1に隣り合うスタック側面とは対向する第1の誘電層の側面からリライタブルスタック2に入射する。第1の透明スペーサ層3は、20乃至30μmの範囲の厚さ、この場合25μmをもつ感圧性接着剤(PSA)又はUV硬化可能な樹脂でできている。第2の層スタック4は、スパッタリングにより堆積され厚さ42nmをもつ(ZnS)80(SiO2)20でできている第1の誘電層と、スパッタリングにより堆積され厚さ6nmをもつ相変化型GeInSbTe合金(結晶体:n=1.5;k=3.45)でできているリライタブル記録層と、スパッタリングにより堆積され厚さ9nmをもつ(ZnS)80(SiO2)20でできている第2の誘電層と、スパッタリングにより堆積され厚さ10nmをもつ銀(Ag)でできている半透明反射層と、スパッタリングにより堆積され厚さ25nmをもつ(ZnS)80(SiO2)20でできている第3の誘電層と、をこの順序で有している。レーザビームは、第1の透明スペーサ層3に隣り合うスタック側面とは対向する第1の誘電層の側面からリライタブルスタック4に入射する。スペーサ層3は、第2の層スタック4の側面においてその表面にサーボプリグルーブ即ち案内溝をもつ。 【0021】 第3の層スタックは、第3の情報層に隣り合う厚さ27nmをもつ(ZnS)80(SiO2)20でできている誘電反射層を有し、この場合、スペーサ層5の表面に複数のエンボス加工されたピットを有している。」 上記摘示事項及び図面の記載から以下のことがいえる。 (a)引用例1には、「マルチ(multi,多層)スタック光データ記憶媒体」(【0001】)の一種として、「ブルーレイディスク(BD)」(【0003】)として知られる「BDマルチスタック光データ記憶媒体」(【0018】)の記載がある。 (b)BDは、青色、即ち、約405nmの放射ビーム波長及び集束放射ビームの比較的高い開口数(NA)を使用する(【0004】)。 (c)「BDマルチスタック光データ記憶媒体」は、第1の情報層を有する第1の層スタックと、第2の情報層を有する第2の層スタックと、を具える。第1の情報層及び第2の情報層はリライタブル層である(【0018】)。 (d)第3の情報層を有する第3の層スタックが、放射ビームの入射面に最も近い位置に存在する。第3の情報層は、リードオンリー層である(【0019】)。第3の層スタックは、スペーサ層の表面に複数のエンボス加工されたピットを有している(【0021】)。 以上を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。 「青色、即ち、約405nmの放射ビーム波長及び集束放射ビームの比較的高い開口数(NA)を使用するBDマルチスタック光データ記憶媒体であって、 第1の情報層を有する第1の層スタックと、第2の情報層を有する第2の層スタックと、第3の情報層を有する第3の層スタックと、を具え、第1の情報層及び第2の情報層はリライタブル層であり、第3の情報層は、リードオンリー層であり、 第3の層スタックが、放射ビームの入射面に最も近い位置に存在し、スペーサ層の表面に複数のエンボス加工されたピットを有しているBDマルチスタック光データ記憶媒体。」 同じく、当審の平成25年2月6日付け拒絶理由通知に引用した特開2006-155859号公報(平成18年6月15日公開、以下「引用例2」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。) (4)「【技術分野】 【0001】 本発明は、回転する円盤状の情報担体(以下、「光ディスク」と称する。)に対するデータの記録、および光ディスクに記録されたデータの再生の少なくとも一方を行う光ディスク装置に関する。」 (5)「【発明が解決しようとする課題】 【0010】 BDの記録密度は、DVDの記録密度の5倍であり、BDのトラックピッチおよびビーム径は、それぞれ、約1/2および約1/5に縮小している。このため、フォーカスサーボおよびトラッキングサーボにおけるゲインを高め、光ディスクの面振れや偏心による残差を低減しなければ、品質のよいRF信号を得ることが難しい。 【0011】 また、2層以上の情報記録層を備える光ディスク(以下、「多層ディスク」と称する。)では、各情報記録層の反射率が1層の情報記録層を備える光ディスク(以下、「単層ディスク」と称する。)における情報記録層の反射率に比べて低い。このため、多層ディスクでは、RF信号の振幅が小さくなり、その結果、SN(信号対ノイズ比)が低下してしまう。特に、BDのようにディスク表面(光入射側表面)に近い位置に情報記録層が存在する多層光ディスクの場合、ディスク表面に傷やダストが存在すると、後に詳しく説明するように、信号品質が特に劣化しやすいという問題がある。このことは、特にディスクカートリッジなどのケースを用いずに、ベア状態のBDを使用する場合に顕著である。 【0012】 本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ディスク表面上の傷や汚れに強く、品質の良いRF信号を得ることのできる光ディスク装置を提供することを主たる目的としている。」 (6)「【発明を実施するための最良の形態】 【0025】 本発明の実施形態を説明する前に、情報記録層の深さとディスク表面の傷との関係を説明する。 【0026】 まず、図1(a)?(c)を参照する。図1(a)?(c)は、いずれも、光ディスク102の断面構成と光ビームの集束点との位置関係を示している。図示されている光ディスク(厚さ:1.2mm)102は、基板(厚さ:1.1mm)180と、基板180に支持される情報記録層L0、L1、L2と、情報記録層L2を覆う保護膜188とを備えている。情報記録層L0、L1の間、および情報記録層L1、L2の間には、いずれも、薄い透明層が介在している。図1(a)、(b)、および(c)は、それぞれ、光ビームの焦点が情報記録層L0、L1、L2上に位置する状態を示している。 【0027】 3層の情報記録層L0?L2は、厚さ100μmの範囲内において25μmの間隔で積層されている。すなわち、情報記録層L0、L1、L2は、それぞれ、保護膜(厚さ:約50μm)188の表面(ディスク表面)から100μm、75μm、50μmの深さに配置されている。保護膜188は、集束レンズ126で集束された光ビームを透過させるように透明の材料から形成されており、各情報記録層L0?L2には、保護膜188を介して光学的にアクセスされる。3層の情報記録層L0?L2のうちのいずれの情報記録層にアクセスするかは、集束レンズ126の光軸方向(ディスク表面に垂直な方向)における位置を調節し、アクセスすべき目標の情報記録層上に光ビームの集束点(焦点)を位置させればよい。」 (7)「【0044】 図5は、深さの異なる情報記録層L0層、L1層のそれぞれについて、フォーカスずれ(defocus)やディスクチルトと再生信号品質との関係を示すグラフである。ここで、再生信号品質は「MLSE」で示されている。MLSEは、PRML(パーシャル・レスポンス・マキシマム・ライクリフッド)信号処理方式における波形等価後の補償の確からしさの分布を規定する指標であり、ジッタと同様に信号品質指標として用いることができる。MLSEの詳細は、例えば、Harumitsu Miyashita, et.al.による「Signal Qualification Method for Partial-Response Maximum-Likelihood Read/Write Channel」(Japanese Journal of Applied Physics Vol. 43, No. 7B, 2004, pp. 4850-4851)に開示されており、この文献の全体を本願明細書に援用する。なお、ディスクチルトは、ラジアルチルト(R-tilt)、およびタンジェンシャルチルト(T-tilt)の2つに分けて評価を行っている。」 (8)「【0052】 なお、DVDの情報記録層からデータを読み出し、あるいはデータを書き込むには、赤色レーザ(波長:660nm)を集束し、その焦点が情報記録層上に位置するように制御する必要がある。この場合のレーザ光の集束に用いる対物レンズの開口度(NA)は、約0.6である。一方、BDの情報記録層からデータを読み出すには、青紫レーザ(波長:405nm)を集束し、その焦点が情報記録層上に位置するように制御する必要がある。この場合のレーザ光の集束に用いる対物レンズの開口度(NA)は、0.85である。」 (9)「【0102】 (実施形態3) 図8を参照して説明したように、ディスク表面の傷に起因するRF信号の振幅が減衰する割合は、情報記録層の位置がディスク表面に近いほど大きい。このことは、PLL(Phase Locked Loop:フェーズロックトループ)にも影響を与える。PLLは、入力信号や基準周波数と、出力信号との周波数を一致させる公知の回路である。入力信号と出力信号との位相差を検出し、電圧制御発信器(VCO:Voltage Controlled Oscillator)により、基準周波数に正確に同期した信号を発生させることができる。」 3.対比 そこで、本願発明と引用発明とを対比する。 (1)光記録媒体 引用発明は「BDマルチスタック光データ記憶媒体」であり、「光記録媒体」といえる。引用発明は「青色、即ち、約405nmの放射ビーム波長」を使用するものであり、「波長λが400?410nmとなるレーザー光」を、「情報記録層に照射する」ものに含まれる。BDは、通常、レーザー光を、開口数NAが0.85となる光学系を介して情報記録層に照射するものである(例えば、引用例2【0052】参照)から、引用発明は「レーザー光を、開口数NAが0.8?0.9となる光学系を介して情報記録層に照射する」ものに含まれる。BDは、通常、「PRML識別方式によって」「再生」される(例えば、引用例2【0044】参照)から、引用発明は「PRML識別方式によって」「再生」されるといえる。 したがって、本願発明と引用発明とは、「波長λが405nmとなるレーザー光を、開口数NAが0.85となる光学系を介して情報記録層に照射することで、PRML識別方式によって記録再生が可能な光記録媒体」である点で一致する。 (2)情報記録層 引用発明の「第3の層スタック」が有する「スペーサ層の表面に複数のエンボス加工されたピット」は、「立体的な記録マーク」といえ、通常、スタンパを利用して形成される。「第3の層スタック」が有する「第3の情報層」は「リードオンリー層」であるから、「第3の層スタック」は「再生専用情報記録層」といえる。引用発明の「第1の層スタック」が有する「第1の情報層」及び「第2の層スタック」が有する「第2の情報層」は「リライタブル層」であるから、「第1の層スタック」及び「第2の層スタック」は「書換型による情報記録が可能な情報記録層」といえる。 したがって、本願発明と引用発明とは、「前記情報記録層として、予めスタンパを利用して立体的な記録マークが記録された再生専用情報記録層と、前記再生専用情報記録層とは別の層であって書換型による情報記録が可能な情報記録層と、を少なくとも備え」る点で一致する。 (3)再生専用情報記録層 BDは、基板よりも光入射面側に情報記録層が配置されるものである。引用発明の「第3の層スタック」は放射ビームの入射面に最も近い位置に存在する。 したがって、本願発明と引用発明とは、「前記再生専用情報記録層は、基板よりも前記レーザー光の光入射面側であって、前記光入射面から最も近い位置に配置されて」いる点で一致し、引用発明は「前記再生専用情報記録層は、前記光入射面から60μmより離れた位置且つ前記光入射面から75μm以内(ただし前記光入射面から75μmの位置を除く)に配置されている」とはしていない点で本願発明と相違する。 (4)情報記録が可能な情報記録層 本願発明と引用発明とは、「情報記録が可能な前記情報記録層は、基板よりも前記光入射面側」「配置されて」いる点で一致し、引用発明は「前記光入射面から70μmより離れた位置且つ前記光入射面から110μm以内に配置されて」いるとはしていない点で本願発明と相違する。 そうすると、本願発明と引用発明とは、次の点で一致する。 <一致点> 「波長λが(405)nmとなるレーザー光を、開口数NAが(0.85)となる光学系を介して情報記録層に照射することで、PRML識別方式によって記録再生が可能な光記録媒体であって、 前記情報記録層として、予めスタンパを利用して立体的な記録マークが記録された再生専用情報記録層と、前記再生専用情報記録層とは別の層であって書換型による情報記録が可能な情報記録層と、を少なくとも備え、 前記再生専用情報記録層は、基板よりも前記レーザー光の光入射面側であって、前記光入射面から最も近い位置に配置されており、 情報記録が可能な前記情報記録層は、基板よりも前記光入射面側に配置されている 光記録媒体。」の点。 そして、次の点で相違する。 <相違点> (1)「情報記録が可能な情報記録層」が、本願発明では、「前記光入射面から70μmより離れた位置且つ前記光入射面から110μm以内に配置されて」いるのに対して、引用発明では、そのようにしていない点。 (2)「再生専用情報記録層」が、本願発明では、「前記光入射面から60μmより離れた位置且つ前記光入射面から75μm以内(ただし前記光入射面から75μmの位置を除く)に配置されている」のに対して、引用発明では、そのようにしていない点。 4.判断 そこで、上記相違点について検討する。 相違点(1)、(2)について 引用例2には、3層の情報記録層を有するBDについて、ディスク表面から100μm、75μm、50μmの深さに配置することが記載されている(【0027】)。引用例2に接した当業者であれば、まず、係る配置を引用発明のBDマルチスタック光データ記憶媒体に適用しようと普通に想起するものであり、このとき、「情報記録が可能な情報記録層」を、光入射面からおおよそ100μm離れた位置とおおよそ75μm離れた位置とに配置し、「再生専用情報記録層」を、光入射面からおおよそ50μm離れた位置に配置することとなる。 ただ、引用例2には、「ディスク表面の傷に起因するRF信号の振幅が減衰する割合は、情報記録層の位置がディスク表面に近いほど大きい」(【0102】)とされていて、これによれば、引用発明において、情報記録層の位置がディスク表面に最も近い「再生専用情報記録層」がディスク表面の傷の影響を最も大きく受けるものと理解される。この点を考慮すれば、引用例2の配置をそのまま引用発明に適用するのではなく、情報記録層の位置がディスク表面に最も近い「再生専用情報記録層」について、(引用例2の配置をそのまま引用発明に適用するのではなく)配置を幾分深くして、光入射面から60μmよりやや離れた位置に配置する程度のことも当業者であれば、容易に想到し得る範囲内というべきである。 そして、上記構成の変更により、相違点(1)、(2)に係る限定を満たすことになる。 効果についてみても、上記構成の変更に伴って当然に予測される程度のことに過ぎず、格別顕著なものがあるとは認められない。 5.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-05-02 |
結審通知日 | 2013-05-07 |
審決日 | 2013-05-21 |
出願番号 | 特願2007-295772(P2007-295772) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G11B)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | ▲吉▼澤 雅博 |
特許庁審判長 |
石井 研一 |
特許庁審判官 |
乾 雅浩 関谷 隆一 |
発明の名称 | 光記録媒体 |
代理人 | 横田 一樹 |
代理人 | 佐原 雅史 |