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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02J |
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管理番号 | 1276228 |
審判番号 | 不服2012-20282 |
総通号数 | 164 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-08-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-10-15 |
確定日 | 2013-07-03 |
事件の表示 | 特願2009-553275「リン酸鉄リチウム超急速電池充電器」拒絶査定不服審判事件〔平成20年10月 2日国際公開、WO2008/117238、平成22年 6月24日国内公表、特表2010-521950〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願の発明 本願は、2008年3月25日(パリ条約による優先権主張2007年3月26日、米国)を国際出願日とする出願であって、その請求項10に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年9月28日付の手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項10に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。 「1つ以上の充電式電池の各端子に結合するように構成された電気接点と、 前記電池内の既存充電量を測定し、充電電流を印加する期間を割り出し、充電動作が開始されたら、割り出された前記充電期間にわたって、前記1つ以上の充電式電池に充電電流を印加することによって、前記1つ以上の電池を充電する回路であって、前記期間が、部分的に、前記電池の既存充電量のレベルによって決定される、回路と、 を備える充電装置。」 2.引用文献 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-353037号公報(以下、「引用例」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。 ・「【0001】 本発明は充電方法及び充電装置に係り、特に、超急速充電が可能とされた電池に充電を行なうための充電方法及び充電装置に関する。」 ・「【0006】 従来の充電装置では、数Cレート充電が主流であり、充電電流レート10C、50Cなど超急速充電に対応するものはなく、充電電流レート10C、50Cなど超急速充電に対応する充電装置が求められている。 【0007】 本発明は上記の点に鑑みてなされたもので、超急速充電に対応できる充電方法及び充電装置を提供することを目的とする。」 ・「【0025】 本発明によれば、超急速充電が可能とされた電池に充電を行なう充電装置であって、電池の電気量を測定し、測定された電気量に応じて超急速充電又は急速充電を行なうことにより、超急速充電が可能な充電池に超急速充電を行なうことが可能となる。」 ・「【0026】 〔第1実施例〕 図1は本発明の第1実施例のブロック構成図を示す。 【0027】 本実施例の充電システム100は、電源装置111、充電装置112、電池113から構成されている。 【0028】 電源装置111は、例えば、商用電源114から直流電源Vccを生成する。電源装置111で生成された直流電源Vccは、充電装置112に供給される。充電装置112は、電池113の電気量を測定して、測定された電気量に応じて電池113を電源装置111から供給された直流電源Vccを用いて充電する。なお、電池113は、いわゆる、電池本体と保護ICなどをケースに収納した電池パックであってもよい。また、このとき、電池パックには、温度保護を行なうためのサーミスタを内蔵してもよい。 【0029】 図2は充電装置112のブロック構成図を示す。 【0030】 充電装置112は、充電制御IC121及び超急速充電電流設定部122、並びに、サーミスタ123から構成されている。 【0031】 充電制御IC121は、電源装置111から供給される直流電源Vccにより電池113を充電するためのICである。充電制御IC121は、充電部131、測定部132、制御部133から構成されており、端子P11、P12に電源装置111から直流電源Vccが印加され、端子P13、P14に電池113が接続され、端子P15、P16に超急速充電電流設定部122が接続され、端子P17、P18にサーミスタ123が接続されている。 【0032】 超急速充電電流設定部122は、例えば、抵抗から構成されており、抵抗を変えることにより、超急速充電時の充電電流レートを設定可能できる。また、サーミスタ123は、周囲温度に応じて抵抗が変化する。」 ・「【0037】 充電部131は、端子P11、P12に接続されており、直流電源Vccが供給されている。充電部131は、制御部133により直流電源Vccを制御して、端子P13、P14に供給する。 【0038】 測定部132は、端子P13、P14に接続されており、電池113の電圧及び電池113に供給される電流など電池113の電気量を測定する。測定部132で測定された測定データは、制御部133に供給される。 【0039】 制御部133は、測定部132から供給された測定データに基づいて充電部131を制御する。」 ・「【0054】 〔第2実施例〕 本実施例は、制御部133の充電処理が第1実施例とは相違する。よって、構成についてはその説明を省略する。 【0055】 図4は本発明の第2実施例の制御部133の充電処理フローチャートを示す。 【0056】 制御部133は、ステップS2-1で測定部132による端子P13、P14間の電圧測定結果により電池113の有無を判断する。制御部133はステップS2-1で電池113が端子TP13、P14との間に接続されると、ステップS2-2で測定部132から測定データを取り込む。 【0057】 制御部133はステップS2-3で測定部132から取り込んだ測定データにより、電池113の測定電圧XVが第1の電圧NVより小さいか否かを判断する。制御部133は、ステップS2-3で、電池113の測定電圧XVが第1の電圧NVより小さい場合には、電池113に十分に電力が蓄積されていないと判断して、ステップS2-4で充電部131を制御して超急速充電を開始する。 【0058】 本実施例の超急速充電は、充電電流レートが50Cレートで、電池113が略満充電の略80%となるまで行なわれる。このときの、充電時間は、電池113の電圧及び充電電流レートから算出される。このとき、充電電流レートは超急速充電電流設定部122、及び、サーミスタ123によって決定されている。 【0059】 制御部133は、ステップS2-4で超急速充電が開始されると、ステップS2-5でサーミスタ123の印加電圧を検出することにより周囲温度を検出する。制御部133は、ステップS2-6でサーミスタ123により検出した周囲温度が規定範囲内にあるか否かを判定する。 【0060】 制御部133は、ステップS2-6で周囲温度が規定範囲内にあるときには、ステップS1-7で充電時間が終了したか否かを判定する。制御部133は、ステップS2-7で充電時間が終了していなければ、ステップS2-4に戻って超急速充電を続行する。 【0061】 また、制御部133は、ステップS2-6で周囲温度が規定範囲を超えている場合には、ステップS2-8で超急速充電の充電電流レートを、例えば、1ステップ、低減する。充電電流レートが低減することにより、周囲温度の低下が期待できる。 【0062】 制御部133は、充電電流レートの低減後、ステップS2-7で充電時間が終了したか否かを判定し、充電時間が終了していなければ、ステップS2-4に戻って、低減された充電電流レートで超急速充電を続行する。なお、このとき、周囲温度が規定範囲内となるまで、ステップS2-8で充電電流レートが1ステップずつ低減される。なお、ここでは、周囲温度が規定範囲を超えたときに、充電電流レートを低減するようにしたが、即座に停止するようにしてもよい。 【0063】 制御部133は、ステップS2-7で所定の充電時間が経過すると、電池113の満充電の略80%の充電が完了する。制御部133は、次に、電池113を略満充電となるようにステップS2-9で急速充電を行なう。このとき、急速充電は、充電電流レートが1C程度で、電池113が略満充電となるまで行なわれる。充電時間は、電池113の電圧及び充電電流レートから算出される。 【0064】 制御部133は、ステップS2-9で急速充電の充電時間が終了すると、ステップS2-10でトリクル充電を開始する。なお、トリクル充電とは、微小電流により電池113の自己放電を補う充電である。 【0065】 また、制御部133は、ステップS2-3で電池113の測定電圧XVが第1の電圧NVより大きければ、ステップS2-11で電池113の測定電圧XVが第2の電圧MVより大きいか否かを判断する。制御部133は、ステップS1-10で電池113の測定電圧XVが第2の電圧MVより大きい場合にはステップS2-9で急速充電を開始する。 【0066】 さらに、制御部133は、ステップS2-11で電池113の測定電圧XVが第2の電圧MVより小さい場合には電池113は略満充電であると判断できるため、ステップS2-10でトリクル充電を開始する。なお、ステップS2-9の急速充電及びステップS2-10のトリクル充電時にも超急速充電時のステップS2-5?S2-8と同様に周囲温度が規定範囲を超えたときに、充電電流レートを低減、あるいは、充電を停止するようにしてもよい。 【0067】 このように、本実施例によれば、電池113の充電量が少ない場合には、電流レート10Cの超急速充電により略満充電となるまで充電を行なうことにより、電池113を高速に充電することができる。」 ・図1及び図2には、電池113の正負極に接続されるように構成された端子P13,P14を備えた充電装置112が示されている。 これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「超急速充電が可能とされた電池113の正負極に接続されるように構成された端子P13,P14と、 前記電池113の測定電圧XVを測定し、設定されたレートの充電電流による超急速充電時間を算出し、充電動作が開始されたら、算出された前記超急速充電時間が経過するまで、前記超急速充電が可能とされた電池113に充電電流を印加することによって、前記超急速充電が可能とされた電池113を充電する充電制御IC121であって、前記超急速充電時間が、略満充電の略80%となるまで行われるように、前記電池113の測定電圧XV及び超急速充電電流設定部122によって設定された充電電流レートに応じて算出される、充電制御IC121と、 を備える充電装置112。」 3.対比 そこで、本願発明と引用発明とを対比する。 まず、後者の「超急速充電が可能とされた電池113」は前者の「1つ以上の充電式電池」に、後者の「正負極」は前者の「各端子」に、後者の「接続される」態様は前者の「結合する」態様に、後者の「端子P13,P14」は前者の「電気接点」にそれぞれ相当するから、結局、後者の「超急速充電が可能とされた電池113の正負極に接続されるように構成された端子P13,P14」は前者の「1つ以上の充電式電池の各端子に結合するように構成された電気接点」に相当している。 次に、後者の「電池113の測定電圧XV」と前者の「電池内の既存充電量」とは、「電池内の既存電気量」との概念で共通し、後者の「設定されたレートの充電電流による超急速充電時間を算出し」ている態様は前者の「充電電流を印加する期間を割り出し」ている態様に、後者の「算出された超急速充電時間が経過するまで、超急速充電が可能とされた電池113に充電電流を印加する」態様は前者の「割り出された充電期間にわたって、1つ以上の充電式電池に充電電流を印加する」態様に、後者の「超急速充電が可能とされた電池113を充電する充電制御IC121」は前者の「1つ以上の電池を充電する回路」にそれぞれ相当するから、結局、後者の「電池113の測定電圧XVを測定し、設定されたレートの充電電流による超急速充電時間を算出し、充電動作が開始されたら、算出された前記超急速充電時間が経過するまで、前記超急速充電が可能とされた電池113に充電電流を印加することによって、前記超急速充電が可能とされた電池113を充電する充電制御IC121」と前者の「電池内の既存充電量を測定し、充電電流を印加する期間を割り出し、充電動作が開始されたら、割り出された前記充電期間にわたって、1つ以上の充電式電池に充電電流を印加することによって、前記1つ以上の電池を充電する回路」とは、「電池内の既存電気量を測定し、充電電流を印加する期間を割り出し、充電動作が開始されたら、割り出された前記充電期間にわたって、1つ以上の充電式電池に充電電流を印加することによって、前記1つ以上の電池を充電する回路」との概念で共通している。 そして、前者の「部分的」とは、いかなる技術的意味であるのか明確ではないが、請求人からの平成25年2月2日付けのファックスに記載されているように、期間を決定するファクターが「少なくとも電池の既存充電量のレベル」によることを意味するものとすると、後者の「超急速充電時間」が「電池113の測定電圧XV及び超急速充電電流設定部122によって設定された充電電流レートに応じて算出される」態様は、超急速充電時間を決定するファクターが「少なくとも電池113の測定電圧XV」によることを意味するため、結局、後者の「超急速充電時間が、略満充電の略80%となるまで行われるように、電池113の測定電圧XV及び超急速充電電流設定部122によって設定された充電電流レートに応じて算出される」態様と前者の「期間が、部分的に、電池の既存充電量のレベルによって決定される」態様とは、「期間が、部分的に、電池の既存電気量のレベルによって決定される」との概念で共通している。 また、前者の「部分的」が、仮に、「充電期間の一部」を意味するものとすると、後者の「超急速充電時間が、略満充電の略80%となるまで行われる」態様は前者の「期間が、部分的」である態様に相当し、後者の「電池113の測定電圧XV及び超急速充電電流設定部122によって設定された充電電流レートに応じて算出される」態様と前者の「電池の既存充電量のレベルによって決定される」態様とは、「電池の既存電気量のレベルによって決定される」との概念で共通するから、結局、後者の「超急速充電時間が、略満充電の略80%となるまで行われるように、電池113の測定電圧XV及び超急速充電電流設定部122によって設定された充電電流レートに応じて算出される」態様と前者の「期間が、部分的に、電池の既存充電量のレベルによって決定される」態様とは、「期間が、部分的に、電池の既存電気量のレベルによって決定される」との概念で共通している。 したがって、両者は、 「1つ以上の充電式電池の各端子に結合するように構成された電気接点と、 前記電池内の既存電気量を測定し、充電電流を印加する期間を割り出し、充電動作が開始されたら、割り出された前記充電期間にわたって、前記1つ以上の充電式電池に充電電流を印加することによって、前記1つ以上の電池を充電する回路であって、前記期間が、部分的に、前記電池の既存電気量のレベルによって決定される、回路と、 を備える充電装置。」 である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点] 充電電流を印加する期間を決定する電池の「既存電気量」に関し、本願発明は、「既存充電量」であるのに対し、引用発明は、「測定電圧」としている点。 4.判断 上記相違点について以下検討する。 引用例の【0057】には「制御部133は、ステップS2-3で、電池113の測定電圧XVが第1の電圧NVより小さい場合には、電池113に十分に電力が蓄積されていないと判断して、ステップS2-4で充電部131を制御して超急速充電を開始する。」と記載され、同【0067】には「本実施例によれば、電池113の充電量が少ない場合には、電流レート10Cの超急速充電により略満充電となるまで充電を行なうことにより、電池113を高速に充電することができる。」と記載されている。 これらの記載によれば、引用発明において、電池の測定電圧XVは、電池の充電量(即ち、既存充電レベル)の目安を得るためのものであるといえる。 一方、本願明細書の段落【0028】の「コントローラ30は、(例えば電池の電圧を測定することによって)電池12のおおよその既存充電レベルを割り出し(51)」なる記載によれば、本願発明における電池の既存充電レベルは、電池の電圧から割り出されるものであることが明らかであり、また、電池の既存充電レベルが、電池の電圧から割り出されることは技術常識でもある。 そうすると、引用発明において、電池の既存充電レベルの目安を得る上で、電池の測定電圧XVの代わりに、該測定電圧XVから割り出される既存充電レベルを用いるように改変することは、当業者が必要に応じて適宜設定し得る設計的事項にすぎないものというべきである。 そして、本願発明の全体構成により奏される効果も、引用発明及び上記技術常識から当業者が予測し得る範囲内のものである。 したがって、本願発明は、引用発明及び上記技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 なお、請求人は、審判請求理由を補充した平成24年11月21日付け手続補正書(「3.本願発明が特許されるべき理由」の項参照)において、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1、引用文献2及び引用文献3の各々と独立請求項1,8,9及び10に係る発明とを対比しており、特に、引用発明(「引用文献3に記載の発明」が相当)と本願発明(「独立請求項10に係る発明」が相当)との対比に関して、引用発明は、所望の充電期間に基づいて電流レートを割り出すものではない旨主張している。 しかしながら、所望の充電期間に基づいて電流レートを割り出すことは、本願発明の発明特定事項とされていないものであるから、請求人のかかる主張は、特許請求の範囲の記載に基づかないものとして採用できない。 5.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び上記技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないため、本願は、同法第49条第2号の規定に該当し、拒絶をされるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-02-05 |
結審通知日 | 2013-02-08 |
審決日 | 2013-02-19 |
出願番号 | 特願2009-553275(P2009-553275) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H02J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 高野 誠治 |
特許庁審判長 |
仁木 浩 |
特許庁審判官 |
藤井 昇 槙原 進 |
発明の名称 | リン酸鉄リチウム超急速電池充電器 |
代理人 | 永井 浩之 |
代理人 | 岡村 和郎 |
代理人 | 森 秀行 |
代理人 | 堀田 幸裕 |
代理人 | 磯貝 克臣 |
代理人 | 勝沼 宏仁 |