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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1276290
審判番号 不服2010-18999  
総通号数 164 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-08-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-08-23 
確定日 2013-07-01 
事件の表示 特願2001-514976「中間および高グレードの非ホジキンリンパ腫の抗-CD20抗体による治療」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 2月15日国際公開、WO01/10460、平成15年 2月18日国内公表、特表2003-506413〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2000年8月2日(パリ条約による優先権主張1999年8月11日及び2000年7月28日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成22年4月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対し平成22年8月23日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成22年8月23日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。)
「 びまん性大細胞リンパ腫を有する患者を治療するための、リツキシマブを含む薬剤であって、
前記患者は化学療法を施した後に再発しているか、または化学療法に対して抗療性であり、
前記リツキシマブは化学療法レジメと共に施される、上記薬剤。」

3.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布されたことの明らかな「COIFFIER, B., et al.,Rituximab (Anti-CD20 Monoclonal Antibody) for the Treatment of Patients With Relapsing or Refractory Aggressive Lymphoma: A Multicenter Phase II Study,BLOOD,1998年9月15日,Vol.92,No.6,p.1927-1932」(以下、「引用例A」という。)には、以下の事項が記載されている(原文は英語なので、翻訳文で示す。)。

a-1.「再発性又は抗療性の進行性リンパ腫に罹患している患者の治療のためのリツキシマブ(抗-CD20モノクローナル抗体):多中心フェーズIIの研究

CD20抗原に特異的に結合するキメラモノクローナル抗体であるリツキシマブは、低グレードの、または濾胞性のB細胞リンパ腫を有する患者の50%において客観的な奏効を引き起こした。ほとんどの非濾胞性のB細胞リンパ腫もCD20抗原を発現しているので、われわれは、この新規な薬剤を、より進行性のリンパ腫における効果及び耐性を評価するためにフェーズII研究を行った。びまん性大B細胞リンパ腫(DLCL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)または他の中グレード又は高グレードのB細胞リンパ腫(ワーキングフォーミュレーションにしたがった)に罹患している患者で、1回目または2回目の再発をした患者、初期治療で抗療性の患者、初期治療に対して部分的な奏効を示した後に進行した患者、及び老齢(60歳を超えている)で以前に治療されたことのない患者、がこの前向きな無作為フェーズIIの研究に包含された。A群の患者らは、1週1回で8回のリツキシマブを1回あたり375mg/m^(2)の用量で点滴し、またB群の患者らは1回375mg/m^(2)の用量で点滴し続いて1週1回で7回のリツキシマブを1回あたり500mg/m^(2)の用量で点滴した。これらの患者らは、最後のリツキシマブ点滴の2カ月後に評価された。ヨーロッパ及びオーストラリアにおける9箇所のセンターからの54人の患者を無作為化した(28人はA群に、26人はB群に)。登録された54人の患者のなかで全部で5人の完全な奏効(CR)及び12人の部分的な奏効(PR)が観察された。上記2種類の用量間で全く差違はなかった。治療する意図に基づく解析において、総奏効割合は31%(CI_(95%)、20-46%)で、CR比は9%(CI_(95%),3-20%)及びPR比(CI_(95%),12-36%)は22%であった。予後の要因を分析した結果、抗療性疾病を有する患者、DLCLに分類されない患者及び5cm以上の大きさの腫瘍を有する患者においては、奏効の割合はより低レベルであった。DLCL及びMCLの患者らは、それぞれ37%及び33%の奏効割合であった。17人の奏効を示した患者においては進行への平均時間は246日を超えた。最もしばしば報告された副作用は、点滴に関連する症状で、緩和なものであった。19%の患者はグレード3の副作用を被り、B群について若干多く、またA群ではただ一人の患者がグレード4の副作用を被った。2人(3.7%)の患者は、重篤な副作用のため治療をやめた。A群及びB群についてそれぞれひとりづつだった。DLCL及びMCL(の患者)におけるこのはじめてのリツキシマブの試行において、患者らは低い毒性で有意の臨床活性を経験した。リツキシマブはDLCL及びMCLの患者において有意の活性を有しており、そのような患者について化学療法と組み合わせた試験を行うべきである(should be tested)。」(下線は合議体が付与、以下同じ)(表題及び要約)

a-2.「リツキシマブは、ヒトIgG1及びk定常領域とマウスの可変領域を含有する抗CD20モノクローナルキメラ抗体である。リツキシマブの抗リンパ腫効果はおそらくは、補体及び抗体依存性の細胞介在性細胞毒、細胞増殖阻害、及びアポトーシスの誘導によるものである。フェーズIの研究において、リツキシマブはCD20^(+)の正常B細胞およびリンパ腫細胞の急激な枯渇を引き起こした。500mg/m^(2)までの単回投与及び1週間に1回375mg/m^(2)の用量であわせて4回の投与をおこなったフェーズIの試験では、低グレード又は濾胞性のリンパ腫患者において、用量を制限するような毒性を示すことなく臨床的な奏効をしめした。フェーズII試験においては、1週間に1回、計4回、375mg/m^(2)の点滴で34人の評価しうる低グレード又は濾胞性リンパ腫患者のうち、17人(50%)に奏効があった。進行の平均期間は10.2カ月であった。副作用は・・・。
最近報告された、低グレード又は濾胞性のリンパ腫を有する166人の患者らを対象とした大規模で中心的なフェーズII研究では、151人の評価しうる患者のうち76人(50%)に客観的な奏効が示された。副作用については、上記したものと同じであった。大細胞リンパ腫の患者についてのリツキシマブの以前の経験は非常に限られたものであり、フェーズI-IIの研究においては、12人よりも少ない患者が扱われていた。しかしながら、非濾胞性B細胞リンパ腫は濾胞性又は小さなリンパ球性のリンパ腫細胞と標的CD20抗原の発現において類似しており、したがって、同様にリツキシマブ療法に応答する可能性がある。
われわれは、進行性B-細胞リンパ腫、すなわちワーキングフォーミュレーションに従えば中間-及び高-グレードのリンパ腫を有する患者について、これら患者におけるリツキシマブの臨床的な効果及び毒性を評価するフェーズIIの試験を企画した。」(冒頭に続く部分)

a-3.「材料及び方法
患者:
この研究において点滴に適切な患者は、中間-又は高-グレードの非ホジキンリンパ腫(NHL)でワーキングフォーミュレーションにしたがった分類でD?Hを有するものである。患者らは進行性の病態を有し、1または2つの化学療法を先行して施されているか、またはいかなる先行する治療も施されていない60歳を超えた年齢であることが要求された。・・・。以下の患者は含まれなかった:他のNHLサブタイプを有する患者;合計で400mg/m^(2)を超えた用量のドキソルビシンを投与された患者;このリンパ腫に対してすでに放射免疫療法を施された患者;他の腫瘍履歴を有する患者;本研究の4週間まえに大きな外科手術を受けた患者;・・・。

研究デザイン:
本研究は、非盲検の、無作為化されたフェーズIIの試験であり、リツキシマブの奏効割合で定義される臨床的な効果及び安全性を評価するためのものである。患者らは無作為化され、一週間に1回の点滴を受ける。(療法A:375mg/m^(2)の用量を週一回で8週間;療法B:375mg/m^(2)の用量を1日目に投与し、8日目には500mg/m^(2)で、それ以降週一回7週間続ける)。これら2種類の用量を選択した理由は、無痛性のNHLを有する患者について375mg/m^(2)の用量が効果があり、十分に耐性があるものと判明しており、一方、500mg/m^(2)の用量はフェーズI試験においてテストされた最高用量であるからである。患者らは、中央無作為化によって治療群に振り分けられた。無作為化はすでに治療を受けたものとまだ治療を受けていないものに階層化(stratified)された。リツキシマブは・・・静脈を経由して投与された。点滴は初期速度50mg/hで開始した。最初の1時間で毒性がなにも観察されなければ、用量を30分ごとに50mg/hの割合で増加させ、最高値を300mg/hとした。・・・。重篤な発熱、・・・又は何等かの重篤な副作用が生じた場合には点滴を中止した。・・・。治療の間、用量は修正されなかった。・・・・。
腫瘍量及び罹患部位の評価を治療の前、5週間目(5回目のリツキシマブ投与の前)、9週目(治療後)、12週目、及び16週目におこない、効果及びその治療終了の2カ月後の持続性を評価した。治療期間中又は治療後に進行病態(PD)にある患者は研究から除外した。治療終了時(9週目)において、安定病態(SD)の患者も同様に研究から除外され、患者の現地の医者の処方での代わりの治療を受けた。患者らのうち、部分的な奏効(PR)又は完全な奏効(CR)を達成した患者は16週目まで継続し、その後研究から開放され、彼らの現地での医者の処方による治療を受けた。安全性の評価は全ての患者について、最後の点適から最低限8週間行われた。副作用はWHOスコアにしたがって段階づけされた。

評価項目:
効果についての第一の評価項目は客観的な奏効割合、すなわちCRまたはPRを試験期間中の任意の時点で達成した患者の割合である。奏効は研究者によりWHOの標準の基準を用いて評価され、スポンサーによってそれぞれの評価における報告された腫瘍の大きさに基づいて確認された。PRはそれぞれの標的病変についての垂直の直径の合計(SPD)の50%に等しいか大きい減少として定義される。CRは、すべての病変の消失として定義される。・・・。PDは、なんらかの新規な病変の発生あるいは25%又はそれ以上の標的病変の増加として定義された。SDは、SPDに何らの変化がないものとして定義された。第二の評価パラメーターは、奏効への時間及び進行への時間であった。奏効への時間は、初めての点滴から最大の奏効の日までの期間として定義された。進行への時間(TTP)は、初めての点滴から病気の進行の日までの期間として定義された。本研究の終点において、他のいかなる治療でも受けた患者は、この分析の目的にとっては、この新規な療法の時点ではPDであったものとして扱われた。・・・。この研究は、短期間(治療後8週間で、全部で16週間)のフォローアップを有するものとして企画され、全ての患者らに、奏効状態に拘わらず、さらなる治療を現地での医者の処方にしたがって受けることができるものである。かくして、この試験は、時間依存性の変数、たとえばTTP又は奏効期間、よりもむしろ腫瘍の奏効を評価するものとしてのみ企画されたものである。しかしながら、TTP及び奏効期間について入手しうるデータを、リツキシマブ療法から得られる患者利益の程度の評価を提供するために、ここに載せる。
信頼区間(CI)(confidence intervals)95%の奏効割合を治療する意図に基づく解析(intent-to-treat)として報告する。」(1927頁左欄下から6行?1928頁右欄12行)

a-4.「結果
患者の特徴:
54人の患者らが9つのセンターから登録された(1996年9月から1997年の3月までの6カ月間)。B群に振り分けられた一人の患者は治療Aを受け、したがってA群の一部として分析された。その結果28人の患者らがA群(350mg/m^(2)で、26人の患者らがB群(350mg/m^(2)、次いで500mg/m^(2))となった。本研究開始時のこれら患者の特徴を以前のリンパ腫歴とともに表1に示す。30人の患者ら(56%)が、REAL分類法によるびまん性大細胞B細胞リンパ腫(DLCL)を有していた。また、13人の患者ら(24%)がマントル細胞リンパ腫(MCL)を有していた。一人の患者は濾胞性の大細胞リンパ腫を有していた。他の10人については、REAL分類法では正確に分類できなかった。しかしながら、これらの患者らは作業フォーミュレーションにおいては中間グレードとして分類された(6人の患者はサブタイプB,4人の患者はサブタイプH)。」(1298頁右欄19行?34行)

a-5.「進行性リンパ腫におけるリツキシマブ
9人の患者ら(17%)だけが以前に治療を受けていなかった。17人(31%)は1回目の再発で、5人(9%)が2回目の再発で、23人(43%)が最初の化学療法で失敗したか部分的な奏効を示した後の進行病態の患者であった。9人(17%)の登録された患者らは集中的な治療および自家の幹細胞移植(ABMT)処置を受けてきた。・・・。

治療法及び奏効割合:
18人(33%)の患者は8週間の治療コースを終えることができなかった(A群の10人とB群の8人)。その理由は、14人(26%)がPD(8人がA群、6人がB群);2人(4%)が副作用(それぞれの群にひとり);一人は個人的理由;及び一人は研究者の判断であった。36人(67%)の患者らが8週間の治療を終え、その内の14人(7人がA群、7人がB群)が最後に計画された16週目の訪問をしなかった。これら14人のうち、8人(5人がA群、3人がB群)がPDを有していた;4人(それぞれの群で2人)は安定した病態を有していた;一人の患者は研究者の判断であり、一人はフォローアップの欠如であった。この最後の患者はその後、16週間目にPDを有するに至った。これら患者における進行までの平均時間は4週間(範囲:4?56日)であった。22人(41%)の患者ら(11人(39%)がA群、11人(42%)がB群)が16週間目における研究を終えた。
腫瘍奏効を研究者が評価し、スポンサーが再評価した。・・・。
スポンサーの確認的評価によれば、5人がCR(4人がA群で、1人がB群)で、12人がPR(5人がA群で、7人がB群)であった。A群にはB群よりもすこし多くのCRが存在したが、全体での奏効割合はこれら群の間では十分に有意の差があるとはいえなかった(治療意図に基づく解析では、A群とB群で、それぞれ32%と31%)。したがってプール解析を行った。全体の奏効割合は治療意図にもとづいた解析では31%(CI_(95%)、20%-46%)、52人の評価可能な患者に対しては33%(CI_(95%)、20-47%)(表2)であった。
初期の劇的な腫瘍縮小にもかかわらず、何人かの患者らは研究の後半で最良の奏効を達成した(図1)。奏効の平均時間は56日であり、その範囲は18日から115日に亘った。この奏効平均時間はB群ではA群よりも若干短かった。・・・。

奏効に関連したパラメーター:
好適な奏効と関連するファクターを同定する目的で、奏効割合と本研究時の患者の特徴との相関関係及び先行するリンパ腫歴との相関関係の分析を行った(表3)。DLCLを有する患者は37%の奏効割合を示し、MCLを有する患者は33%の奏効割合を示した。・・・。以前のリンパ腫歴が奏効に影響を及ぼした:以前治療されたことのない患者ら及び1回目又は2回目の再発を有する患者らはリツキシマブに対してより奏効を示しそう(more likely)であり、その奏効割合はそれぞれ、33%、41%及び80%である。完全な奏効を達成したすべての患者らは1回目又は2回目の再発を有するものであり、そのCR割合及び再発患者に対する全体での奏効割合は、それぞれ23%および50%であった。これとは対照的に、1回目の抗療性病態を有する患者らでは、この奏効割合は22%であり、初期の処置に対してPR後に進行した患者らでは8%であった。」(1929頁左欄1行?右欄17行)

a-6.「しかしながら、これらのより低い奏効割合は、再発性の患者らのそれと比較して統計学的に有意に相違するものではない。その理由はおそらく、本研究における患者数の少なさにあるものと思われる。興味深いことに、集中的な治療及びABMTを以前受けた患者らはより低い奏効割合を有さなかった。リツキシマブ治療時の腫瘍量(最大の病変の最大径として定義される)は奏効割合に影響した:最大腫瘍が5cmよりも小さい患者らのほうが、5cmより大きな最大腫瘍を有する患者らよりも奏効が大きそうであった(前者は46%で、後者は17%)。最大腫瘍が直径10cmを超える患者らでは奏効は認められなかった。」(1930頁左欄1行?11行)

a-7.「考察
本研究は、進行性のリンパ腫(ワーキングフォーミュレーションにおいては中間グレード及び高グレードのサブタイプとして定義される)を有する患者らにおいて、抗CD20モノクローナル抗体治療の効果及び安全性を評価するために意図された最初の試験である。この研究はリツキシマブの2種類の用量レジメンの安全性を評価し、真の奏効割合が30%に等しいかそれ以上であるかどうかを決定するために企画された。
患者らのベースラインは両グループ間でよくバランスがとれていた。これら患者の優性な特徴は、刊行された文献と比較して相対的に老齢であることであり、以前に治療を受けた患者の割合が高いことである。これらの特徴は、抗療性又は再発性の病態段階にある若い患者は通常、集中的な治療及びABMTを受けていることから期待された。かくして、この試験においては、辞退していたもの、または高用量の療法には年をとりすぎている患者だけが、包含された。
二つの治療群の間では、奏効割合において大きな相違はなかった。全体の奏効割合は、54人の患者の治療意図にもとづいた解析においては31%であり、評価しうる患者(n=52)においては10%のCRだった。この奏効割合は、このプロトコールにより決められる最小の望ましい閾値を超えるものであり、この患者群において単剤治療で期待されるものと同等であった。対照的に、それは、DHAP,ESHAP,またはVLMレジメ等の併用化学療法で通常得られる奏効割合よりも低かった。これらのタイプのレジメは、通常、若い患者に用いられるもので、はるかに高い毒性、とくに血液学的な毒性、と関連する。したがって、リツキシマブの単独療法対併用化学療法の長所を直接比較することは適切でない。加えて、そのような併用は、老齢の患者は通常排除され、あるいは刊行された試験において過小評価されるという事実によって制限されるだろう。さらに、いかなるものであっても8週間の単剤投与と数ヶ月にわたる集中的な、高用量での化学療法レジメとの比較は適切ではない。
推定された進行までの時間は、患者全体で105日を超え、奏効を示した患者では246日だった。この研究における患者らが抗療性又は再発性であること、及びこれらの結果が生物学的療法によって達成されたことを考慮すると、これらのデータは少なくとも励みになる(encouraging)ものとみなされるべきである。患者の何人かは長期間持続する、進行しない11カ月以上の間隔を達成した。本研究のこれらの結果が示唆するのは、奏効のより高い可能性と関連する要因は再発した、又は未治療の病態、DLCLの組織診断(histology)、低い腫瘍量、および良好な活動状態(performance status)である。興味深いことに、適度に高い奏効は、化学療法に対して抗療性であるMCLと関連している。
重要なことは、これらの結果は、併合化学療法レジメの特徴的な毒性なしで、しかもより短い治療期間で得られたということである。・・・。
結論として、この研究の結果によれば、リツキシマブ療法はDLCL及びMCLを有する患者らにおいて、併合化学療法レジメで通常みられる毒性なしに、有意の抗リンパ腫活性を有することが示された。前記二つの用量レジメの間では、効果において顕著な差違はなかった。しかしながら、高用量(500mg/m^(2))での安全性のプロファイルは標準用量レジメ(375mg/m^(2))と比較すると、より好ましくはなかった。このレジメは、進行性のB細胞リンパ腫を有する患者に対して、標準的な化学療法と併用して評価されるべきである。」(1931頁右欄8行?1932頁右欄12行)

また、同じく原審の拒絶の理由に引用した、本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった「LINK, B.K., et al.,PHASE II PILOT STUDY OF THE SAFETY AND EFFICACY OF RITUXIMAB IN COMBINATION WITH CHOP CHEMOTHERAPY IN PATIENTS WITH PREVIOUSLY UNTREATED INTERMEDIATE- OR HIGH-GRADE NHL,1998 ASCO Annual Meeting,1998年,Abstract No.7,[online]、[平成21年9月17日検索]、インターネット(以下、「引用例B」という。)には、以下の事項が記載されている(原文は英語なので、翻訳文で示す)。

b-1.「未治療の中グレード又は高グレードのNHLに罹患している患者らにおける、CHOP化学療法と組み合わせたリツキシマブの安全性と有効性についてのフェーズIIのパイロット研究

要約:リツキサン(登録商標)(リツキシマブ、IDEC-C2B8)は、マウス/ヒトキメラモノクローナル抗CD20抗体であって、正常なB細胞及び悪性B細胞上および95%を超える割合のB-NHL上に発現しているCD20抗原を標的とする。再発した低グレードのB-NHLに罹患している患者らのリツキシマブを用いた臨床試行の結果、50%の奏効を実証した。その際の毒性プロファイルは組み合わせ化学療法のそれと重ならないものであった。インビトロの研究では、リツキシマブと化学療法との間に相乗的な細胞毒性が示唆された。資格のある患者は、以前に未治療の中グレード又は高グレードのB-NHL(IWF D-H)を有しており、測定しうる病気を有する患者であった。全ての患者について、SGOT(血清グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ)は正常値の2倍以上であり、Cr≦2.0であり、ANC(骨髄有核細胞)≧1500であった。患者らは、21日サイクルの最初の日に375mg/m^(2)の用量のリツキシマブを投与後、48時間経ってからCHOP(750mg/m^(2)のシクロフォスファミド d3;50mg/m^(2)のドキソルビシン d3;1.4mg/m^(2)のビンクリスチン d3;および100mgのプレドニゾロン d3-7)を行った。31人の患者を治療した(19人は女性、12人は男性;平均年齢:49歳)。全ての患者は6サイクルの治療を受けた。診断時のステージは以下のものを包含した。I-1,II-7,III-6,IV-17。病理はIWF”D”-6,”G”-21,”H”-2,T細胞に富んだB-NHL-1,単球のB-細胞-1。安全性についてのデータは156/186サイクルから入手可能である。毒性は、13人の患者(17サイクル)でグレード4の好中球減少症を包含した。グレード3の毒性には、好中球減少症(16サイクル)、脱水(4サイクル/2患者)、無力症(3人の患者)、腹部痛/背中痛(それぞれ2人の患者)、腸閉塞(一人の患者)、過敏症(一人の患者)、関節痛/関節炎(それぞれ患者ひとり)、食欲不振(一人の患者)、下痢(一人の患者)、吐き気/嘔吐(それぞれ患者ひとり)、貧血(一人の患者)がある。他のグレードI/IIの毒性は、CHOP又はリツキシマブから予測されるものであった。研究において、死亡者はいなかった。30人の患者らのうち、19人がCR(63%)の奏効、10人がPR(33%)の奏効であり、一人が進行中、として評価可能であった。このレジメンは、許容できる治療法であることが示され、その際の重篤な副作用が、従来のCHOP療法単独でみられるものと類似した頻度で現れ、より高い奏効を提供する可能性がある(may)。」(表題及び「要約」の項)

4.対比
引用例Aには、「びまん性大B細胞リンパ腫を有する患者を治療するための、リツキシマブを含む薬剤であって、化学療法を施された後に1回目または2回目の再発をした患者、初期治療では抗療性の患者、などに対して施される、上記薬剤」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる.(上記a-1.、a-3.?a-6.)
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「びまん性大B細胞リンパ腫」が「びまん性大細胞リンパ腫」であることは明らかであるから、両者は 「びまん性大細胞リンパ腫を有する患者を治療するための、リツキシマブを含む薬剤であって、
前記患者は化学療法を施した後に再発しているか、または化学療法に対して抗療性である、上記薬剤。」である点で一致するが、次の点で相違する。
[相違点]
本願発明では、上記薬剤は、化学療法レジメと共に施されるものであるのに対し、引用発明では化学療法レジメと共に施されるものではない点。

そこで、上記の相違点について検討する。
引用例Aは、上記患者に対してリツキシマブを単剤投与した場合の効果および安全性について行ったフェーズIIの研究結果を記載するものであるが、上記a-1.の末尾部分に「DLCL及びMCL(の患者)におけるこのはじめてのリツキシマブの試行において、患者らは低い毒性で有意の臨床活性を経験した。リツキシマブはDLCL及びMCLの患者において有意の活性を有しており、そのような患者について化学療法と組み合わせた試験を行うべきである(should be tested)。」と記載され、また、上記a-7.の末尾部分においても「結論として、この研究の結果によれば、リツキシマブ療法はDLCL及びMCLを有する患者らにおいて、併合化学療法レジメで通常みられる毒性なしに、有意の抗リンパ腫活性を有することが示された。・・・このレジメは、進行性のB細胞リンパ腫を有する患者に対して、標準的な化学療法と併用して評価されるべきである。」と記載されているように、リツキシマブと化学療法との組合せが推奨されている。 そして、このような併用の示唆が、単なる可能性を記載したというレベルのものではないことは、引用例Aに、リツキシマブが、通常の化学療法とは異なる生物学的療法によってその奏効を達成するものであること(上記a-7.、第3段落)から、それらの治療効果がそれぞれ発揮されることが期待できること、及び、低毒性であること(上記a-1.など)、特に、化学療法を併用した際に通常見られる毒性がないこと(上記a-7.)を確認した上で、上記のような併用の示唆がされていることから明らかであり、これらの記載から、当業者が、引用例Aに示唆された化学療法との併用が、十分に検討に値すると認識できるものといえる。また、これに加えて、本願明細書の段落番号[0046]にも引用されている引用例Bには、「化学療法を施した後に再発しているか、または化学療法に対して抗療性である、びまん性大細胞リンパ腫を有する患者」でないものの、「中間又は高グレードNHLを有する患者」に対してのリツキシマブとCHOP化学療法との併用の安全性及び効力のフェーズIIパイロット研究の結果が記載され、それが「許容できる治療法であることが示され」、「より高い奏効を提供する可能性がある(may)」と記載されており(上記b-1.)、このことからも、引用例Aに示唆された化学療法との併用が、十分に検討に値すると認識できるものであることが理解できる。

してみると、引用例A,Bの記載に接した当業者は、引用例Aにおいて推奨されている、リツキシマブと化学療法との併用の示唆に基づいて、引用発明における治療対象患者である「化学療法を施した後に再発しているか、または化学療法に対して抗療性である、びまん性大細胞リンパ腫を有する患者」に対して、リツキシマブを、化学療法と共に施すことを容易に想到し得るものと認められる。

そして、本願発明が奏する効果については、本願明細書には、わずかに段落番号[0016]において、「他の通常後療法と共に投与されるならば、再発の可能性を減らすに当たって相乗効果があるだろう。」と記載されるのみであり、顕著な作用効果を奏することを示すような実験結果等が記載されているわけではない。(なお、段落番号[0046]には、「このレジメは十分許容されると考えられたし、またリツキシマブ単独またはCHOP単独によるよりも高い反応率をもたらす可能性がある。」との記載もあるが、これは段落番号[0046]において紹介された文献(引用例B)の記載事項そのものであり、本願発明の効果を述べたものではない。)
そうすると、本願発明は、リツキシマブを、化学療法と共に施したことにより、当業者にとって予想できない顕著な効果を奏したものとは認められない。

なお、この点に関し、請求人は、本願発明の効果を証するものとして、平成22年10月14日受付けの手続補正書(方式)と共に提出した参考文献1及び2を提示し、そこには、リツキシマブと化学療法との併用により、CHOP化学療法単独よりも優れた効果が得られることが示されていること、等を主張しているが、上述のとおり、リツキシマブと化学療法を併用することにより、高い奏功が得られる可能性があることは、引用例Aや引用例Bにも記載されている事項であり、請求人の主張にある「リツキシマブと化学療法との併用により、CHOP化学療法単独よりも優れた効果が得られること」が示されたとしても、本願発明の効果の顕著性が示されることにはならない。また仮に、参考文献1,2に記載された実験結果の内容が、(上記の引用例Aや引用例Bの記載から予期できる範囲を上回るような)当業者にとって予想外の知見が含まれているとすれば、それは、そもそも本願明細書の記載の範囲外のものということになり、参酌できないものである。
請求人はまた、平成24年5月1日付けで提出した回答書において、本願発明について当審からなされた審尋における、本願発明の進歩性に対する特許査定できない理由に対しては、何らの反論をしていない。

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物A及びBに記載された事項に基づいて当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-06 
結審通知日 2013-02-08 
審決日 2013-02-19 
出願番号 特願2001-514976(P2001-514976)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横井 宏理  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 中村 浩
大久保 元浩
発明の名称 中間および高グレードの非ホジキンリンパ腫の抗-CD20抗体による治療  
代理人 浅村 皓  
代理人 浅村 肇  
代理人 長瀬 裕子  
代理人 池田 幸弘  

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