• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C23C
審判 全部無効 2項進歩性  C23C
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C23C
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C23C
管理番号 1276575
審判番号 無効2010-800193  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-10-22 
確定日 2013-07-19 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3547028号発明「銅及び銅合金の表面処理剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3547028号(以下、「本件特許」という。)についての手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成 8年 9月19日 特許出願(特願平8-271722号)
平成16年 4月23日 特許権の設定登録
平成22年10月22日 無効審判請求
平成23年 1月11日 訂正請求書及び答弁書提出(被請求人)
平成23年 1月31日 上申書提出(被請求人)
平成23年 2月28日 弁駁書提出(請求人)
平成23年 3月11日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成23年 3月17日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成23年 3月25日 上申書提出(被請求人)
平成23年 3月25日 口頭審理
平成23年 4月15日 上申書提出(請求人)
平成23年 4月15日 上申書提出(被請求人)

第2 訂正の請求
1.訂正の内容
被請求人は平成23年1月11日付けの訂正請求書により明細書の訂正を求めた。当該訂正の内容は、本件特許の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものである。すなわち、
(1)「【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の実施に適するイミダゾール化合物及びベンズイミダゾール化合物の代表的なものとしては、2-ペンチルイミダゾール、2-ウンデシル-4-メチルイミダゾール、2,4-ジメチルイミダゾール等の2-アルキルイミダゾール化合物、2-フェニルイミダゾール、2-トルイルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-ベンジルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ベンジルイミダゾール、2,4-ジフェニルイミダゾール、2,4,5-トリフェニルイミダゾール等の2-アリールイミダゾール化合物、2-ベンジルイミダゾール、2-ベンジル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルエチルイミダゾール、2-(2-フェニルエチル)イミダゾール、2-(2-フェニルペンチル)イミダゾール等の2-アラルキルイミダゾール化合物、2-プロピルベンズイミダゾール、2-ペンチルベンズイミダゾール、2-オクチルベンズイミダゾール、2-ノニルベンズイミダゾール、2-ヘキシル-5-メチルベンズイミダゾール、2-(2-メチルプロピル)ベンズイミダゾール、2-(1-エチルプロピル)ベンズイミダゾール、2-(1-エチルペンチル)ベンズイミダゾール等のアルキルベンズイミダゾール化合物、2-シクロヘキシルベンズイミダゾール、2-(2-シクロヘキシルエチル)ベンズイミダゾール、2-(5-シクロヘキシルペンチル)等の2-(シクロヘキシルアルキル)ベンズイミダゾール化合物、2-フェニルベンズイミダゾール、2-フェニル-5-メチルベンズイミダゾール等の2-アリールベンズイミダゾール化合物、2-ベンジルベンズイミダゾール、2-(2-フェニルエチル)ベンズイミダゾール、2-(5-フェニルペンチル)ベンズイミダゾール、2-(3-フェニルプロピル)-5-メチルベンズイミダゾール、2-(4-クロロベンジル)ベンズイミダゾール、2-(3,4-ジクロロベンジル)ベンズイミダゾール、2-(2,4-ジクロロベンジル)ベンズイミダゾール等の2-アラルキルベンズイミダゾール化合物、2-(メルカプトメチル)ベンズイミダゾール、2-(2-アミノエチル)ベンズイミダゾール、2,2’-エチレンジベンズイミダゾール、2-(1-ナフチルメチル)ベンズイミダゾール、2-(2-ピリジル)ベンズイミダゾール、2-(2-フェニルビニル)ベンズイミダゾール、2-(フェノキシメチル)ベンズイミダゾール、2-(フェノキシメチル)-5-メチルベンズイミダゾール等が挙げられる。」(下線は当審で付した。)
において、
「2-(5-シクロヘキシルペンチル)等の2-(シクロヘキシルアルキル)ベンズイミダゾール化合物」

「2-(5-シクロヘキシルペンチル)ベンズイミダゾール等の2-(シクロヘキシルアルキル)ベンズイミダゾール化合物」
と訂正する(訂正事項1)
(2)「【0015】
本発明の実施において使用されるコンプレクサン化合物の代表的なものとしては、イミノ二酢酸(IDA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、1,2-ジアミノシクロヘキサン四酢酸(CyDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)、N,N-ビス(2-ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン二酢酸(HBED)、エチレンジアミン二プロピオン酸(EDDP)、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)、ジアミノプロパノール四酢酸(DPTA-OH)、ヘキサメチレンジアミン四酢酸(HDTA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、ジアミノプロパン四酢酸(Methyl-EDTA)、ニトリロ三プロピオン酸(NTP)、エチレンジアミンテトラキスメチレンホスホン酸(EDTPO)、ニトリロトリスメチレンホスホン酸(NTPO)等とこれらの塩類が挙げられる。」(下線は当審で付した。)
において、
「、エチレンジアミンテトラキスメチレンホスホン酸(EDTPO)、ニトリロトリスメチレンホスホン酸(NTPO)」
を削除する(訂正事項2)
の2点を訂正しようとするものである。

2.訂正の可否に対する判断
上記訂正について検討する。
(1)訂正事項1について
訂正前の本件特許明細書の【0014】には、「2-フェニルベンズイミダゾール、2-フェニル-5-メチルベンズイミダゾール等の2-アリールベンズイミダゾール化合物」のように、化合物名を複数個列挙した上で「等の……ベンズイミダゾール化合物」と該複数個の化合物の総称を記載する形式で具体的な化合物名が例示されている。一方、訂正前の【0014】には「2-シクロヘキシルベンズイミダゾール、2-(2-シクロヘキシルエチル)ベンズイミダゾール、2-(5-シクロヘキシルペンチル)等の2-(シクロヘキシルアルキル)ベンズイミダゾール化合物」との記載があり、他の化合物に関する例示の記載形式からすれば、「2-(5-シクロヘキシルペンチル)」は「2-(シクロヘキシルアルキル)ベンズイミダゾール化合物」の具体的な化合物名を示していることは明らかである。してみると、「2-(シクロヘキシルアルキル)ベンズイミダゾール化合物」の具体的な化合物名として、「2-(5-シクロヘキシルペンチル)」は明らかに「2-(5-シクロヘキシルペンチル)ベンズイミダゾール」の誤記であると認められる。
したがって、訂正事項1は、「2-(5-シクロヘキシルペンチル)」という誤った化合物名を「2-(5-シクロヘキシルペンチル)ベンズイミダゾール」と訂正するものであるから、この訂正は誤記の訂正を目的とするものである。
また、この訂正は願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされており、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2について、本件無効審判の被請求人は訂正請求書において下記の主張をしている。
「(4-2)訂正事項2
訂正事項2は、基準明細書の段落【0015】において、例示列挙された化合物の中から、「エチレンジアミンテトラキスメチレンホスホン酸(EDTPO)」及び「ニトリロトリスメチレンホスホン酸(NTPO)」を削除するものである。
用語「コンプレクサン」とは、アミノポリカルボン酸類の総称をいい、少なくとも1つの-N(CH_(2)COOH)_(2)を持ち、多くの金属イオンと極めて安定的な化合物を作るキレート剤を意味する(例えば、無効審判答弁書に添付した乙第1号証、乙第3?6号証を参照)。
訂正により削除された「エチレンジアミンテトラキスメチレンホスホン酸(EDTPO)」及び「ニトリロトリスメチレンホスホン酸(NTPO)」は、いずれも「-N(CH_(2)COOH)_(2)」を有していないため、用語「コンプレクサン」の意味内容とは合致しない。そのため、特許請求の範囲と明細書との整合性をとるために今回の訂正をおこなった。
従って、この訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるから、特許法第134条の2第1項但し書第3号の要件に適合する。また、基準明細書に記載された事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第134条の2第5項で準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合する。」

ここで、乙第1号証、乙第3?6号証にはそれぞれ以下の記載がある。
ア 乙第1号証(玉虫文一他編、「岩波理化学辞典」、第3版、株式会社岩波書店、1971年5月20日、483頁)
「コンプレクソン[英仏complexon 独Komplexon 露комплексон]アミノポリカルボン酸類の総称.コンプレクサン(complexan)ともいう.すくなくとも1つの-N(CH_(2)COOH)_(2)をもち,多くの金属イオンときわめて安定なキレート化合物をつくる*キレート剤である.エチレンジアミン四酢酸(EDTA),ニトリロ三酢酸(NTA)などをはじめとしてきわめて多くのものが開発されている.さらに広く,ポリアミン類,ポリオキシカルボン酸類などをも含めた可溶性キレート化合物生成試薬はキロン(chelon)ということもある.」(第483頁右欄第47-56行)

イ 乙第3号証(上野景平著、「入門キレート化学」、株式会社南江堂、1969年12月15日、219-223頁)
乙3a:「しかしながらEDTAに関して,さらに定量的な研究を行ない,今日のコンプレクサン化学の基礎をつくったのは,G. Schwarzenbach教授であろう.当時スイスのチューリッヒ大学の教授であったSchwarzenbach博士は,EDTAおよび類似化合物のキレート生成能を系統的に研究し,Komplexoneという表題のもとに1945年以来,今日にいたるまで,30報を超える研究論文を,主としてスイス化学会誌Helv. Chem. Actaに発表している.」(第221頁第16-21行)

乙3b:「閑話休題,EDTAやNTAの発見以来,数多くの類似体が合成されている.これらはすべてアミノカルボン酸(アミノ酢酸あるいはアミノプロピオン酸類)の誘導体と考えることができ,今日ではコンプレクサン型配位子(complexane type ligands)と総称されている.主なコンプレクサンを,その構造式とともに表6・1に示した.これらのコンプレクサンは,それぞれ特色をそなえているのであるが,合成の容易な点,および応用面の広い点で,EDTAおよびNTAにまさるコンプレクサンはないようである.」(第223頁第3-9行)

乙3c:表6・1には「主なコンプレクサン」としてイミノジ酢酸(IDA)、ニトリロトリ酢酸(NTA)、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTAP)、トリエチレントリアミンヘキサ酢酸(TTHA)、1,2-ジアミノシクロヘキサンテトラ酢酸(CyDTA)、N-ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸(HEDTA)、エチレングリコールジエチルエーテルジアミンテトラ酢酸(GEDTA)、エチレンジアミンテトラプロピオン酸(EDTP)の構造式が記載されており、これらはいずれも-N(CH_(2)COOH)_(2)又は-N(C_(2)H_(4)COOH)_(2)を備えている。(第222頁)

ウ 乙第4号証(化学大辞典編集委員会編、「化学大辞典」、第3巻、共立出版株式会社、1963年9月15日、第768頁)
「コンプレクソン [英Complexon 独Komplexon] EDTA類似化合物の総称として,1945年G. Schwarzenbachが与えた名称.この種の化合物はカルボキシメチル基が窒素原子と結合しているα-アミノ酸で,少なくとも1個の-N(CH_(2)COOH)_(2)を含んでいるため,アミンの窒素の配位能の強力性とカルボキシル基の酸素の配位能の普遍性を具備している.したがって強力で普遍的なキレート試薬として各方面に利用されている.この名称はスイスのChemische Fabrik Uetikonの登録商標となっているため,学術用語としてキロン*なることばが提出されている.これはコンプレクソンより更に広い意味をもつものである.」(第768頁左欄第19-32行)

エ 乙第5号証(化学用語辞典編集委員会編、「化学用語辞典」、第3版、技報堂出版株式会社、1992年5月16日、302頁)
「コンプレキソン complexon エチレンジアミン四酢酸(EDTA)に代表される金属イオンに強い配位能力をもつポリアミノポリカルボン酸の総称.商品名との混同を避けるため,現在ではコンプレクサン(complexan)という.」(第302頁右欄第7-12行)

オ 乙第6号証(社団法人日本化学会編、「標準化学用語辞典」、丸善株式会社、1991年3月30日、230頁)
「コンプレキソン(文)[complexon] ポリアミン-N-ポリカルボン酸類の総称.たとえばエチレンジアミン四酢酸^(*)(EDTA).ニトリロ三酢酸^(*)(NTA)もこの部類に加えられる.分子内に-N(CH_(2)COOH)_(2)の構造をもち,多くの金属イオンときわめて安定なキレート化合物をつくる.分析用試薬などとしての用途が広い.」(第230頁左欄第15-21行)

一方、無効審判請求人は平成23年2月28日付け弁駁書において、訂正請求書に対する以下の弁駁を行なっている。
「(1)本件訂正請求は認められない。
(2)被請求人は、訂正請求書の「6.(2)訂正の事由」及び「(3)訂正事項」の欄において、誤記又は誤訳の訂正を訂正の事由とする訂正事項1、及び、明りょうでない記載の釈明を訂正の事由とする訂正事項2について訂正を請求している。しかしながら、以下に述べるように、少なくとも訂正事項2は特許法第134条の2第1項ただし書き第3号の要件に適合せず、特許法第134条の2第5項で準用する特許法第126条第3項乃至第5項の規定にも適合しないので、認められるものではない。
(3)訂正事項2について
…(略)…
本件訂正後の明細書の段落【0015】には、-N(CH_(2)COOH)_(2)を有しない化合物である「N,N-ビス(2-ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン二酢酸(HBED)」が依然として記載されており、被請求人が主張する「コンプレクサン」とは一致しない。そうすると、訂正事項2は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものということはできず、また、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものともいえない。そして、訂正事項2が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものでなく、コンプレクサンの概念を変更するものであることは明らかである。したがって、訂正事項2は、特許法第134条の2第1項ただし書各号を目的としていない訂正であるので、認められるべきでない。
…(略)…
基準明細書において「コンプレクサン」として段落0015に例示されたものが、「コンプレクサン」であるとも解釈され得る。この場合、被請求人の主張するとおり、「コンプレクサン」が、「アミノポリカルボン酸の総称をいい、少なくとも1つの-N(CH_(2)COOH)_(2)を持ち、多くの金属イオンと極めて安定的な化合物を作るキレート剤」であるという前提で、基準明細書の段落0015に記載された化合物のうち、「アミノポリカルボン酸の総称をいい、少なくとも1つの-N(CH_(2)COOH)_(2)を持ち、多くの金属イオンと極めて安定的な化合物を作るキレート剤」に該当しないものを削除すると、基準明細書に記載されない上記キレート剤も「コンプレクサン」に含まれることとなり、当該訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を変更するものに該当する。よって、訂正事項2は、特許法第134条の2第5項で準用する特許法第126条第4項の規定に適合せず、認められるべきではない。」

そこで、訂正事項2の内容について検討する。
まず、被請求人の提出した乙第1号証、乙第3?6号証の上記記載事項を検討してみるに、乙第3号証では、「コンプレクサン」とは「アミノカルボン酸(アミノ酢酸あるいはアミノプロピオン酸類)の誘導体」であり、-N(CH_(2)COOH)_(2)及びエチレンジアミンテトラプロピオン酸(EDTP)のように-N(C_(2)H_(4)COOH)_(2)を持つものが例示されている。
乙第5号証では、「コンプレクサン」とは「ポリアミノポリカルボン酸」の総称であると記載されており、「アミノ」基も「ポリ」すなわち複数個持つものであり、例示もアミノ基が複数あるEDTAのみが挙げられている。
乙第6号証では、「コンプレクサン」とは「ポリアミン-N-ポリカルボン酸類」の総称であると記載されており、「アミン」すなわちアミノ基も「ポリ」すなわち複数個持つものである旨説明しているものの、ニトリロ三酢酸のように分子内に-N(CH_(2)COOH)_(2)の構造を持ち、ポリアミンではないものも例示されている。
よって、乙第1号証、乙第3?6号証のうち、「コンプレクサン」とは「アミノポリカルボン酸類の総称をいい、少なくとも1つの-N(CH_(2)COOH)_(2)を持ち、多くの金属イオンと極めて安定的な化合物を作るキレート剤」である旨の記載があるのは乙第1号証、乙第4号証及び乙第6号証である。乙第3号証には、「コンプレクサン」とは「アミノポリカルボン酸類の総称をいい、少なくとも1つの-N(CH_(2)COOH)_(2)を持ち、多くの金属イオンと極めて安定的な化合物を作るキレート剤」の他に「-N(C_(2)H_(4)COOH)_(2)」を持つキレート剤も挙げられている。

したがって、「コンプレクサン」の意味は乙第1号証、乙第3?6号証で全て同じとは認められず、乙第1号証、乙第3?6号証からは、被請求人が主張するように用語「コンプレクサン」が「アミノポリカルボン酸類の総称をいい、少なくとも1つの-N(CH_(2)COOH)_(2)を持ち、多くの金属イオンと極めて安定的な化合物を作るキレート剤」のことであると一義的には認められない。

次に、本件特許明細書の記載を見てみると、【0015】には
「【0015】
本発明の実施において使用されるコンプレクサン化合物の代表的なものとしては、
…(略)…
N,N-ビス(2-ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン二酢酸(HBED)、エチレンジアミン二プロピオン酸(EDDP)、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)、
…(略)…
ニトリロ三プロピオン酸(NTP)、エチレンジアミンテトラキスメチレンホスホン酸(EDTPO)、ニトリロトリスメチレンホスホン酸(NTPO)等とこれらの塩類が挙げられる。」
と記載されており、-N(CH_(2)COOH)_(2)を持っていないものが6個挙げられている。すなわち、エチレンジアミン二プロピオン酸(EDDP)とニトリロ三プロピオン酸(NTP)はプロピオン酸であり、エチレンジアミンテトラキスメチレンホスホン酸(EDTPO)とニトリロトリスメチレンホスホン酸(NTPO)はホスホン酸である。また、N,N-ビス(2-ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン二酢酸(HBED)とエチレンジアミン二酢酸(EDDA)は>N(CH_(2)COOH)を2つ持つものである。
訂正事項2ではこのうち2つのホスホン酸を削除しようとするものであるが、2つのホスホン酸を削除したとしても-N(CH_(2)COOH)_(2)を持っていないものが4個残ることになる。してみると、たとえ一般的に用語「コンプレクサン」が本件無効審判の被請求人が主張する「アミノポリカルボン酸類の総称をいい、少なくとも1つの-N(CH_(2)COOH)_(2)を持ち、多くの金属イオンと極めて安定的な化合物を作るキレート剤」のことを意味すると認識されているとしても、訂正事項2は本件特許明細書の記載をこの一般的な「コンプレクサン」の意味に基づいて訂正するものではない。

よって、本件特許の請求項1に係る発明の「コンプレクサン化合物」は、本件特許明細書には、その具体的な定義が記載されておらず、単に物質名が列挙されているにすぎないところ、被請求人が提出した乙第1号証、乙第3?6号証を参酌しても「コンプレクサン化合物」を一義的に定義することはできず、また、本件特許明細書の【0015】に列挙された「コンプレクサン化合物」の各化合物の一部を削除した残りの化合物自体も被請求人が主張する定義とも異なっている。そして、一般的な特許明細書においては、種々の定義がある場合、明細書中において、当該特許発明における文言を一義的に定義したり、具体名を列挙する手法もよく行なわれているところであるから、「コンプレクサン化合物」が前記のように一般的に一義的な定義がなされていないことに鑑みれば、本件特許明細書における「コンプレクサン化合物」の定義は本件特許明細書の【0015】に列挙された物質として特定されるべきものである。
そして、訂正前の本件特許明細書の【0015】には「コンプレクサン化合物」として
「イミノ二酢酸(IDA)、
…(略)…
ニトリロトリスメチレンホスホン酸(NTPO)等」
と「これらの塩類」と記載されており、前記「等」に何が含まれるのか明確でないから、本件特許発明における「コンプレクサン化合物」とは本件特許明細書の【0015】に挙げられた
「イミノ二酢酸(IDA)、
…(略)…
ニトリロトリスメチレンホスホン酸(NTPO)」
と「これらの塩類」を意味するものと認められる。

してみると、訂正事項2は本件特許明細書の【0015】に「コンプレクサン化合物」として列挙されている化合物の一部を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、この訂正は願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされており、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかである。

(3)訂正の可否のまとめ
したがって、平成23年1月11日付けの訂正は、特許法第134条の2第1項及び第5項の規定によって準用する特許法第126条第3項並びに第4項の規定に適合するので、適法な訂正と認める。

第3 本件発明
上記被請求人による訂正請求は、適法なものでありこれを認めるものであるが、当該訂正事項は、本件特許明細書の発明の詳細な説明中の記載の訂正であるところ、本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】イミダゾール化合物あるいはベンズイミダゾール化合物、コンプレクサン化合物及び鉄イオンを必須成分として含有する水溶液からなる銅及び銅合金の表面処理剤。」

第4 請求人が主張する無効理由
請求人は、「特許第3547028号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」として、下記の甲第1号証乃至甲第10号証を挙げた上で、請求の理由として以下のように述べている。

「(4-1) 本件発明
本件発明は、本件特許公報の特許請求の範囲に記載されたとおりであり、構成要件毎に分説すると以下のとおりである。
A.イミダゾール化合物あるいはベンズイミダゾール化合物、
B.コンプレクサン化合物及び
C.鉄イオン
D.を必須成分として含有する水溶液からなる
E.銅及び銅合金の表面処理剤。
本件発明は、「銅あるいは銅合金の表面にのみ化成被膜を形成し、金やはんだ等の異種金属の表面には化成皮膜を形成しないという選択性を有し、且つ化成皮膜の造膜性が良好で表面処理時間が短く作業性に優れた水溶性の表面処理剤を提供するもの」であり(本件特許明細書段落【0007】)、上記A乃至Eで述べた構成要件を備えることにより、「銅あるいは銅合金の表面にのみ選択的に化成被膜を形成し、金メッキ、はんだメッキ等、銅以外の異種金属に対してはほとんど化成被膜を生じないので、銅パターン上に金メッキ、はんだメッキなどの異種金属を施したプリント配線板などの表面処理を為し得るものであり、また銅金属に対する造膜性が良好でしかも処理液が安定しているため、この種のプリント配線板などの生産性を飛躍的に高めることが出来る」という所期の作用効果を奏するものである(本件特許明細書【0048】)。

…(略)…

(4-3) 本件発明と甲第1号証との対比
(ア) 構成要件Aについて
構成要件Aは、「イミダゾール化合物あるいはベンズイミダゾール化合物」である。
…(略)…
甲第1号証に記載されている「2位にアルキル基を有するイミダゾール化合物」は、本件特許明細書の「2-アルキルイミダゾール化合物」に相当し、
…(略)…
甲第1号証に記載されている「2位に芳香族基を有するベンズイミダゾール化合物」は、本件特許明細書の「2-アリールベンズイミダゾール化合物」及び「2-アラルキルベンズイミダゾール化合物」に相当する。
したがって、甲第1号証には、本件発明の構成要件Aが開示されている。

(イ) 構成要件Bについて
構成要件Bは、「コンプレクサン化合物」である。
本件特許明細書には、「本発明の実施において使用されるコンプレクサン化合物の代表的なものとしては、イミノ二酢酸(IDA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、・・・ニトリロ三プロピオン酸(NTP)、エチレンジアミンテトラキスメチレンホスホン酸(EDTPO)、ニトリロトリスメチレンホスホン酸(NTPO)等とこれらの塩類が挙げられる。」(段落【0015】)と記載されており、「いずれのコンプレクサン化合物を使用した場合でも、コンプレクサン化合物は鉄イオンと安定なキレート化合物を形成するために、必要最低限の濃度よりも過剰の濃度となるように添加することが好ましい。」(段落【0017】)と記載されているものの、コンプレクサン化合物がどのような化合物の総称であるのかについては、一切記載されていない。
ここで、「コンプレクサン」は「岩波 理化学辞典(株式会社岩波書店、第4版、1987年10月12日発行)」には、該当項目がないが(なお、最新版である第5版にもない)、甲第2号証の「コンプレクサン」の項には、「エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのキレート試薬の総称。金属イオンをとらえる目的でも広く用いられる。」と定義されている。
そして、甲第3号証の「キレート剤」の項には「金属イオンに配位してキレート化合物をつくる多座配位子をいう。キレート試薬ともよぶ。・・・たとえば、・・・アセチルアセトン・・・など」と記載されている。
すなわち、アセチルアセトンは、コンプレクサン化合物である。
甲第1号証には、表面処理剤が「銅イオンよりもイオン化傾向の大きい金属とβ-ジケトン類との錯体」を含有することが記載されており(段落【0008】、【0014】、【特許請求の範囲】)、「β-ジケトン類」の具体例について、「例えば、アセチルアセトン・・・等があげられる。」(段落【0014】)と記載されている。
したがって、甲第1号証には、本件発明の構成要件Bが開示されている。

(ウ) 構成要件Cについて
構成要件Cは「鉄イオン」である。
…(略)…
甲第1号証には、「銅よりもイオン化傾向の大きい金属とβ-ジケトン類との錯体」中の「銅よりもイオン化傾向の大きい金属としては、例えば鉄、・・・等があげられる。」と記載されている(段落【0014】)。
…(略)…
したがって、甲第1号証には、本件発明の構成要件Cが開示されている。

(エ) 構成要件Dについて
構成要件Dは「を必須成分として含有する水溶液からなる」である。
甲第1号証には、「本発明の表面処理剤は、イミダゾール類を皮膜形成成分とする水溶液タイプのものであり、」と記載されており(段落【0009】)、水溶液であることは明らかであり、また、構成要件A乃至Cに記載の物質を含有することは、上記(ア)乃至(ウ)にて述べたとおりである。
したがって、甲第1号証には、本件発明の構成要件Dが開示されている。

(オ) 構成要件Eについて
構成要件Eは「銅及び銅合金の表面処理剤」である。
甲第1号証には、「本発明はプリント配線板の防錆剤等として有用な銅および銅合金の表面処理剤に関する。」(段落【0001】)と記載されている。
したがって、甲第1号証には、本件発明の構成要件Eが開示されている。

(カ) 小括
以上のとおり、甲第1号証には、本件発明の構成要件A乃至Eの全てが開示されている。したがって、本件発明は、本件特許の優先日前に公開された甲第1号証に記載された発明と同一であるから、本件特許の出願日に施行されていた特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。

(4-4) 本件発明と甲第4号証乃至甲第9号証との対比
ア 甲第4号証
(ア) 構成要件Aについて
甲第4号証には、「ベンゾイミダゾール化合物」として、種々の化合物が記載されており、例えば、2-フェニルベンゾイミダゾール、2-プロピルベンゾイミダゾール及び2-(ナフチルメチル)ベンゾイミダゾールが記載されている(段落【0012】)。
…(略)…
したがって、甲第4号証には、本件発明の構成要件Aの「イミダゾール化合物あるいはベンズイミダゾール化合物」が開示されている。

(イ) 構成要件Cについて
甲第4号証には、「本発明の表面処理剤には、皮膜形成性、皮膜の耐熱性等を向上させるために、例えば・・・塩化鉄、酸化鉄、・・・等の金属化合物等を添加してもよく、さらに従来から表面処理剤に使用されている種々の添加剤を、必要に応じて添加してもよい。」と記載されている(段落【0024】)。
…(略)…
上記金属化合物を含む水溶液において、金属化合物の金属成分がイオン化することは技術常識であることから、甲第4号証の表面処理剤において「塩化鉄」や「酸化鉄」は水溶液または水分散液中に「鉄イオン」として存在していることは明らかである。
したがって、甲第4号証には、本件発明の構成要件Cの「鉄イオン」が開示されている。

(ウ) 構成要件Dについて
甲第4号証には、「本発明の表面処理剤を調製する方法に限定はなく、・・・溶液または分散液を調製してもよい」と記載されている(段落【0025】)。
…(略)…
したがって、甲第4号証には、本件発明の構成要件Dの「を必須成分として含有する水溶液からなる」が開示されている。

(エ) 構成要件Eについて
甲第4号証には「銅および銅合金の表面処理剤」(発明の名称、特許請求の範囲)に係る発明が記載されており、「本発明はプリント配線板の防錆剤等として有用な銅および銅合金の表面処理剤に関する。」(段落【0001】)、「本発明は、・・・ことを特徴とする銅および銅合金の表面処理剤に関する。」(段落【0011】)と記載されている。
したがって、甲第4号証には、本件発明の構成要件Eの「銅及び銅合金の表面処理剤」が開示されている。

イ 甲第5号証
(ア) 構成要件Aについて
甲第5号証には、「2-アルキルベンズイミダゾール系プリフラックス」に含有せしめる2-アルキルベンズイミダゾール化合物として、下記一般式で示される「2-アルキルベンズイミダゾール誘導体」が記載されている(段落【0011】乃至【0014】、特許請求の範囲)。

(但し、式中R1及びR2は同一または異なって水素原子、低級アルキル基またはハロゲン原子、R3は炭素数3以上のアルキル基を表す。)
…(略)…
したがって、甲第5号証には、本件発明の構成要件Aの「イミダゾール化合物あるいはベンズイミダゾール化合物」が開示されている。

(イ) 構成要件Bについて
上記「(4-3)(イ)構成要件Bについて」の項で述べたように、本件発明の「コンプレクサン化合物」は「キレート剤」に相当する。甲第5号証には、「銅イオンと反応するキレート剤」として、「エチレンジアミン三酢酸、…(略)…」(段落【0015】)が記載されている。
…(略)…
したがって、甲第5号証には、本件発明の構成要件Bの「コンプレクサン化合物」が開示されている。

(ウ) 構成要件Dについて
甲第5号証には、「本発明の実施に当たっては、水に対して2-アルキルベンズイミダゾール系化合物を0.01?5%の範囲、好ましくは0.1?2%の割合で添加すればよい。本発明の実施においては、2-アルキルベンズイミダゾール誘導体を有機酸と反応させて、水に可溶な塩とすれば良い。」(段落【0014】)と記載されている。
…(略)…
したがって、甲第5号証には、本件発明の構成要件Dの「を必須成分として含有する水溶液からなる」が開示されている。

(エ) 構成要件Eについて
甲第5号証には「銅及び銅合金の表面処理剤」(発明の名称、特許請求の範囲)に係る発明が記載されている。
…(略)…
したがって、甲第5号証には、本件発明の構成要件Eの「銅及び銅合金の表面処理剤」が開示されている。

ウ 甲第4号証から本件発明を想到することは極めて容易であること
(ア)甲第4号証について
…(略)…
すなわち、甲第4号証には、本件発明の構成要件A、C、D及びEを備える表面処理剤とすることで、耐熱性に優れ、高温にさらされた後でもはんだ付け性が非常に良好な皮膜を形成できるという効果を発揮することができ、必要に応じて、従来、表面処理材に使用されている種々の添加剤も更に添加して使用できることが開示されている。

(イ)甲第5号証について
…(略)…
すなわち、甲第5号証によれば、本件発明の構成要件A、D及びEを備える表面処理剤に更に構成要件Bのコンプレクサン化合物を添加することで、銅及び銅合金の表面にのみ選択的に化成被膜を形成でき、その被膜の膜厚を適正なものに制御できることが開示されている。

(ウ)甲第5号証と同様の周知技術
甲第5号証以外にも、構成要件A、D及びEを備える表面処理剤にコンプレクサン化合物を加えることを記載している文献は多々存在する。
甲第6号証には、
…(略)…
本件発明の構成要件A、B、D及びEが開示されている。
甲第7号証には、
…(略)…
本件発明の構成要件A、B、D及びEが開示されている。

(エ)想到容易性
(1)甲第4号証及び周知技術
(イ)及び(ウ)に述べたとおり、本件発明の構成要件A、D及びEを備える表面処理剤にコンプレクサン化合物(構成要件B)を加えることは周知技術に過ぎない。
したがって、本件発明の構成要件A、D及びEを備え、更に本件発明の構成要件Cをも備える甲第4号証に記載の表面処理剤に、本件発明の構成要件Bである周知技術のコンプレクサン化合物を更に添加して本件発明の構成をなすことは、これを妨げる特段の事情も窺えず、当業者であれば極めて容易になし得たことである。
(2)甲第4号証及び甲第5号証
仮に、上述のようにコンプレクサン化合物を添加することが周知技術でないとしても、甲第5号証と同様に本件発明の構成要件A、D及びEを備え、更に本件発明の構成要件Cをも備える甲第4号証に記載の表面処理剤に、銅及び銅合金の表面にのみ選択的に化成被膜を形成しようとしたり、その被膜の膜厚を適正なものにしようとしたり、耐熱性を十分なものにしようとしたりして、本件発明の構成要件Bであるコンプレクサン化合物を更に添加して本件発明の構成をなすことは当業者であれば容易になし得たことである。
そして、甲第4号証に記載の表面処理剤に甲第5号証記載のコンプレクサン化合物を加えることに特別な阻害要因も存在しない。
したがって、甲第4号証に記載の表面処理剤に、甲第5号証記載のコンプレクサン化合物を更に添加することにより本件発明の全構成要件を備える表面処理剤とすることは当業者であれば極めて容易に想到することができる。

エ 甲第5号証から本件発明を想到することも極めて容易であること
…(略)…

(ウ)甲第4号証と同様の周知技術について
甲第4号証以外にも、構成要件A、D及びEを備える表面処理剤に鉄イオンを加えることを記載している文献は多々存在する。
甲第8号証には、
…(略)…
本件発明の構成要件A、C、D、及びEが開示されている。さらに、従来、表面処理剤に使用されている種々の添加剤を、必要に応じて添加してもよいことが開示されている(段落【0069】)。
甲第9号証には、
…(略)…
本件発明の構成要件A、C、D、及びEが開示されている。

(エ)想到容易性
(1)甲第5号証及び周知技術
本件発明の構成要件A、D及びEを備え、更に本件発明の構成要件Bをも備える甲第5号証に記載の表面処理剤に、本件発明の構成要件Cである周知技術の鉄イオンを更に添加して本件発明の構成をなすことは当業者であれば極めて容易になし得たことである。
(2)甲第5号証及び甲第4号証
仮に、上述のように鉄イオンを添加することが周知技術でないとしても、甲第4号証と同様に本件発明の構成要件A、D及びEを備え、更に本件発明の構成要件Bをも備える甲第5号証に記載の表面処理剤に、皮膜形成性及び皮膜の耐熱性等を向上させようとして、本件発明の構成要件Cである鉄イオンを更に添加して本件発明の構成をなすことは当業者であれば容易になし得たことである。
そして、甲第5号証には、コンプレクサン化合物に相当するものとしてジエチレントリアミン五酢酸等の金属塩が開示されており、その金属塩として鉄塩が知られていることから鑑みても、甲第5号証に記載の表面処理剤に鉄イオンを加えることに特別な阻害要因も存在しない。
したがって、甲第5号証に記載の表面処理剤に、甲第4号証を適用して、鉄イオンを更に添加することにより本件発明の全構成要件を備える表面処理剤とすることは当業者であれば極めて容易に想到することができる。

オ 小括
以上のとおり、甲第4号証及び甲第5号証は、いずれも技術分野が表面処理剤に関するものであり、甲第4号証に記載された発明に、甲第5号証等に記載された周知技術を適用して本件発明を想到することは極めて容易である。仮に、甲第5号証等に記載された技術が周知技術でないとしても、甲第4号証に記載された発明に、甲第5号証に記載された技術を適用して本件発明を想到することは極めて容易である。
また、甲第5号証に記載された発明に、甲第4号証等に記載された周知技術を適用して本件発明を想到することも極めて容易である。仮に、甲第4号証等に記載された技術が周知技術でないとしても、甲第5号証に記載された発明に、甲第4号証に記載された技術を適用して本件発明を想到することは極めて容易である。
したがって、本件発明は、当業者が本件特許の優先日前に公開された甲第4号証及び甲第5号証に記載された発明に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

(4-5) 実施可能要件違反(記載要件)について
ア 特許法第36条第4項の趣旨
…(略)…
そして、本件発明のように特定の用途(銅及び銅合金の表面処理剤)に使用される物であって、特定の公知物質からなるものに係る発明においては、用いられる物質の名称が「イミダゾール化合物」、「ベンズイミダゾール化合物」、「コンプレクサン化合物」等の総称として示されたとしても、それのみによっては各総称に含まれる具体的な化合物を選択した際に、当業者が当該用途の有用性を予測することは困難であり、当該組成物を当該用途に容易に実施することができないから、そのような発明について実施可能要件を満たすといい得るには、発明の詳細な説明に、当該用途の有用性、すなわち発明が所期する作用効果を奏することを裏付ける程度の記載がされていることを要すると解するのが相当である。(知財高裁平成21年8月18日判決(平成20年(行ケ)第10304号)参照)

イ 本件発明について
(ア) 本件発明は、構成要件A乃至Eを備える「銅及び銅合金の表面処理剤」であり、所期する作用効果は、「銅あるいは銅合金の表面にのみ選択的に化成被膜を形成し、金メッキ、はんだメッキ等、銅以外の異種金属に対してはほとんど化成被膜を生じ」ず、「銅金属に対する造膜性が良好でしかも処理液が安定している」(段落【0048】)ことである。
したがって、本件発明について実施可能要件を満たすといい得るには、本件特許明細書に、本件発明の「銅及び銅合金の表面処理剤」の全体について実施できるとの判断が可能な程度に、「銅あるいは銅合金の表面にのみ選択的に化成被膜を形成し、金メッキ、はんだメッキ等、銅以外の異種金属に対してはほとんど化成被膜を生じ」ず、「銅金属に対する造膜性が良好でしかも処理液が安定している」という所期の作用効果を奏する実験上乃至理論上の根拠が記載されていなければならない。
(イ) しかしながら、甲第10号証の実験成績証明書における「第5.実験の内容」の「本件特許明細書の実施例6の表面処理剤に含まれる成分において、その配合比を変更した表面処理剤が、本件特許発明の効果を奏するか否かを確認する実験(実験3)」、「本件特許明細書の実施例6の表面処理剤において、イミダゾール化合物の種類を変更した表面処理剤が、本件特許発明の効果を奏するか否かを確認する実験(実験4)」及び「本件特許発明に相当する表面処理剤(酸をギ酸、鉄イオン供給化合物を塩化鉄(III)・六水和物、コンプレクサン化合物をEDTA・2Naとし、種々のイミダゾール化合物を用いる)が、本件特許発明の効果を奏するか否かを確認する実験(実験5)」に示すように、本件特許発明に相当する表面処理剤であっても、以下のとおり、本件特許明細書における比較例程度の効果しか奏されておらず、中には銅表面に化成被膜が全く形成されないものも多数存在する。
(1) 本件特許発明は、各成分の成分比を特定していないものであるが、実施例6の表面処理剤に含まれる各成分を全て用い、配合比のみを異ならせただけでも本件特許明細書における比較例程度の効果しか奏していない(甲第10号証、実験3-1乃至3-5)。
(2) 実施例6の表面処理剤に含まれるベンズイミダゾール化合物を、同量の本件特許明細書に記載された他のイミダゾール化合物又はベンズイミダゾール化合物に変更したものであっても、本件特許明細書における比較例程度の効果しか奏されておらず、銅表面に化成被膜が全く形成されないものが多数存在する上に、結晶が析出し溶液とならないものまで生じた(甲第10号証、実験4-1乃至4-11)。
(3) その他のイミダゾール化合物又はベンズイミダゾール化合物を用いた実験においても本件特許明細書における比較例程度の効果しか奏しておらず、銅表面に化成被膜が全く形成されないものが多数存在する上に、結晶が析出し溶液とならないものまで生じた(甲第10号証、実験5-1乃至5-7)。
このように、本件特許の構成要件A乃至Eを備える表面処理剤でありながら、その所期の作用効果である「銅あるいは銅合金の表面にのみ選択的に化成被膜を形成」することができず、「銅合金に対する造膜性が良好」ではないものが多数存在することが認められるにも関わらず、本件特許明細書には、所期の作用効果が得られない場合に、表面処理剤における各成分の配合比や種類をどのように調整すれば所期の作用効果が得られるかについて、指針となる記載は一切認められない。
そうすると、本件特許明細書には、本件発明の「銅及び銅合金の表面処理剤」の全体について、実施できるとの判断が可能な程度の記載はされておらず、理論上の根拠も一切開示されていないといえる。

ウ 小括
以上のとおり、発明の詳細な説明に具体的に記載された表面処理剤以外については、当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を強いるものであり、本件特許における発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないから、本件特許の出願日に施行されていた特許法第36条第4項に規定された要件を満たしていない。

(4-6) サポート要件違反(記載要件)について
ア 特許法第36条第6項第1号の趣旨
…(略)…

イ 本件発明について
…(略)…
しかしながら、本件発明が、構成要件Aとして「イミダゾール化合物あるいはベンズイミダゾール化合物」、構成要件Bとして「コンプレクサン化合物」を備えており、これらの化合物に属する化合物は世の中に多数存在し、その組み合わせも極めて多数に及ぶのに対して、本件特許明細書の実施例では、そのごく限られた一部の化合物を含有する表面処理剤を特定の分量比で配合した場合についてのみ具体的に課題を解決できることを確認しているに過ぎない。
また、実施例において具体的に課題を解決できることを確認した以外の表面処理剤であっても、本件発明の構成を充足すれば本件発明の課題を解決できることを発明の詳細な説明に当業者が認識できる程度に記載も示唆もされておらず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもない。
…(略)…
すなわち、甲第10号証によれば、本件発明の構成を充足する表面処理剤であっても、本件発明の課題を解決できないものが多数存在する。
したがって、当業者が本件特許明細書の記載内容及び出願時の技術常識を考慮しても、当該特定の内容を特許請求の範囲の全範囲に拡張乃至一般化できるものではない。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明は、本件特許明細書における発明の詳細な説明に、その課題が解決されるものと当業者が認識し得る程度の十分な記載乃至示唆があるということはできず、また、特許出願時の技術常識に照らし、当業者において当該課題が解決されるものと認識し得るものとは認められない。したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないので、本件特許の出願日に施行されていた特許法第36条第6項第1号に規定された要件を満たしていない。」



甲第1号証 特開平7-166381号公報
甲第2号証 小学館『大辞泉』編集部編、「大辞泉」、株式会社小学館、1995年12月1日、1027頁
甲第3号証 久保亮五他編、「岩波 理化学辞典」、第4版、株式会社岩波書店、1987年10月12日、322頁
甲第4号証 特開平7-79061号公報
甲第5号証 特開平6-81161号公報
甲第6号証 特公昭56-18077号公報
甲第7号証 特開昭61-41775号公報
甲第8号証 特開平7-54169号公報
甲第9号証 特開平6-2176号公報
甲第10号証 実験成績証明書

さらに、平成23年2月28日付け弁駁書において、上記訂正請求書に対する弁駁理由に加え、被請求人の平成23年1月11日付け答弁書に対する弁駁を以下のように行なっている。

「(4)新規性について
…(略)…
(4-2) 被請求人は、答弁書の7、7-2、(3)(3-2)(12頁)において、β-ジケトン類が「コンプレクサン化合物」の一種であることを前提とする請求人の主張は誤っている旨主張し、いくつかの辞書の定義等を記載している。
しかしながら、被請求人が「コンプレクサン」の定義として引用する岩波理化学辞典(乙第1号証)は、昭和46年に出版された第3版であり、本件特許出願の優先日である平成8年より10年も前の昭和62年に出版された第4版においてさえ、既に、「コンプレクサン」または、第3版にはあった「コンプレクソン」の項はなく、平成10年に出版された現行版である第5版においても、「コンプレクサン」または「コンプレクソン」の項はない。すなわち、本件特許出願当時において、被請求人が引用する岩波理化学辞典第3版の定義は一般的に用いられていないことが明らかである。
…(略)…
それに対して、請求人が無効審判請求書において引用した「大辞泉」(甲第2号証)は、本件特許出願の優先日の前年である平成7年に出版されたものであるから、甲第2号証の「コンプレクサン」の定義こそ、本件特許出願の優先日において一般的に通用している定義であり、かつ、本件特許明細書に「コンプレクサン化合物の代表的なもの」として記載されている化合物は、全てその定義に含まれるのであるから、本件特許発明における「コンプレクサン化合物」の理解として正しいことは疑いない。」(9-11頁)

「(5)進歩性について
(5-1) 被請求人は、答弁書の7、7-2、(4)、(4-1)(14頁)において、本件特許発明は、「格別顕著な効果を奏するものであるところ、甲第4号証乃至甲第9号証には、当業者が本件特許発明の構成に容易に想到し得る動機付けとなる記載は皆無であるし、さらに本件特許発明が奏する格別顕著な作用効果を予測できる教示は全くない」と主張しているが(14頁11行乃至14行)、そもそも、銅及び銅合金の表面処理剤において、金等の表面での被膜形成を抑えるという、選択性を持たせることは、従来技術であるから、本件特許発明に「格別顕著な作用効果」などない。また、後述のとおり、甲第4号証乃至甲第9号証には、本件特許発明が奏する作用効果を予測できる教示は明らかに存在し、また、被請求人の主張に沿ったとしても、甲第4号証乃至甲第9号証に動機付けとなる記載が皆無であるという結論には至らないから、被請求人の上記主張は明らかに失当である。」(12頁)

「(7)実施可能要件について
(7-1) 本件特許明細書及び図面の記載について
被請求人は、答弁書の7、7-2、(6)、(6-3)(30頁)において、「段落【0014】には、本発明の実施に適するイミダゾール化合物等の代表的なものが具体的に示されている。もちろん、イミダゾール化合物等は、ここに列挙された化合物以外の表面処理剤に適したイミダゾール化合物等を包含することは明らかである」と主張する(30頁19行乃至22行)。しかしながら、イミダゾール化合物等であればどんなものであっても本件特許発明による作用効果が奏される、ということを示す具体的なデータや論理的な説明が本件特許明細書には全く記載されていないから、かかる被請求人の主張には根拠がない。
…(略)…
したがって、少なくとも以上述べた点において、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、その課題が解決されるものと当業者が認識し得る程度の十分な記載乃至示唆があるということはできない。」(30-31頁)

「(8)サポート要件について
…(略)…
(8-2) 本件特許発明のサポート要件について
…(略)…
したがって、たとえ、被請求人が主張する技術常識(1)及び(2)を考慮したとしても、任意のイミダゾール化合物等と任意のコンプレクサンと鉄イオンとを配合した本件特許発明の表面処理剤が、本件特許発明の、銅あるいは銅合金の表面にのみ化成被膜を形成し、金やはんだ等の異種金属の表面には化成被膜を形成しないという選択性を有し、且つ化成被膜の造膜性が良好である、という所期の課題の一部を解決できるとは到底認められないから、被請求人の主張は甚だ失当である。」(40-42頁)

なお、甲第11号証により甲第10号証の誤記の訂正を行なっている。
加えて、口頭審理を踏まえて、平成23年4月15日付け上申書により以下の主張の補完を行なっている。

「プリント配線板の銅パターンから溶解した銅イオン濃度がある程度高まる以前に、銅上に一定の厚さの被膜を形成し、金上に被膜を形成しないようにすることは従来から可能であったものであるから、銅上に一定厚の被膜を形成しつつも、処理液を長期間使用した場合にも金上に一定以上被膜形成しない組成及び配合量を容易に見いだすことができなければ、本発明の実施は困難といわざるを得ないのである。」(3-4頁)

「本件特許発明には、銅上に一定以上の膜厚を得るのみではなく、金やはんだ等の異種金属の表面には化成被膜を形成せず、かつ、長時間使用しても液に沈殿物が生じる等の変質が生じたり、はんだを変色させたりしない、という課題も存するのであるから、仮に、イミダゾール量を増やすことで銅上の膜厚が増加するという知見があったとしても、本件特許発明を実施する上で、効果が生じなければ、イミダゾールの量を増やせばよいなどという技術常識は存せず、また、当業者もそのような調整は行わない。
さらに、pH調整について一切記載のない本件特許明細書をみた当業者はpH調整など行わない。すなわち、本件特許明細書には、pH調整を行う旨の記載は一切なく、また、実施例においてもpH調整は行っていない。すなわち、そもそもpH調整の不要な組み合わせにおいてしか効果は確認されていない。このような明細書をみた当業者はpH調整が必要であるとは考えない。pH調整が必要であれば、その旨記載するのが常識であり、本件特許の出願人も他の出願においてpH調整が必要な場合にはその旨記載している。」(4-5頁)

「コンプレクサンの定義に関する被請求人の主張は誤っており、被請求人の訂正請求は認められるべきではない。そして、アセチルアセトンはコンプレクサン化合物であるから、甲第1号証は、本件発明の新規性を否定する引例として十分である。」(7頁)

第5 被請求人の反論の要点
被請求人は上記第2のように訂正請求を行なうと共に、平成23年1月11日付け答弁書、平成23年1月31日付け上申書及び平成23年3月11日付け口頭審理陳述要領書によって下記乙第1号証乃至乙第18号証及び参考資料1並びに2を挙げた上で、以下のように請求人の主張する無効理由1乃至4はいずれも理由がないと主張している。
加えて、口頭審理を踏まえて、平成23年4月15日付け上申書により、主張の補完を行なっている。

「請求人の主張は、本件特許発明の構成要件Bである「コンプレクサン化合物」の用語の意義を曲解したことを前提とした明らかに不合理な主張である。
そもそも、甲第1号証に記載の発明は、本件特許明細書の段落【0012】に従来技術として明示されていたものであり、この点から見ても、本件特許発明と相違することは明白である。
…(略)…
「コンプレクサン」とは、アミノポリカルボン酸類の総称をいい、少なくとも1つの-N(CH_(2)COOH)_(2)を有し、多くの金属イオンと極めて安定的な化合物を作るキレート剤を意味する語である(岩波書店発行「岩波理化学辞典」第3版483頁)【乙第1号証】
…(略)…
よって、甲第1号証に記載される「β-ジケトン類」は、少なくとも1つの-N(CH_(2)COOH)_(2)を有するアミノポリカルボン酸類ではないから、本件特許発明の構成要件Bの「コンプレクサン化合物」とは明確に相違する。」(答弁書11-12頁)

「本件特許発明は、上記「(2-3)本件発明の特徴」の項でも述べたように、(A)イミダゾール化合物あるいはベンズイミダゾール化合物、(B)コンプレクサン化合物、及び(C)鉄イオンを必須成分として含む水溶液からなる銅及び銅合金の表面処理剤であり、これにより上記格別な作用効果を奏するものであるところ、甲第4号証乃至甲第9号証には、当業者が本件特許発明の構成に容易に想到し得る動機付けとなる記載は皆無であるし、さらに本件特許発明が奏する格別顕著な作用効果を予測できる教示は全くない。ゆえに、本件特許発明は、甲第4号証乃至甲第9号証から当業者が容易に発明できないものであることは明らかである。」(答弁書14頁)

「明細書及び図面に記載した事項と出願時の技術常識とに基づき、当業者が本件特許発明を過度の試行錯誤なく実施できることは明らかであり、請求人が条件を設定し実施不可能と判断した各実験についても当該技術常識をもとに適宜設定条件を変更すれば本件特許発明を実施できることは明らかである。」(答弁書45頁)

「本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識(1)及び(2)を考慮すると、「イミダゾール化合物等」は表面処理剤に用い得るものであれば広く選択することができ、「コンプレクサン化合物」はその特徴的なポリアミノカルボン酸構造を有するもの(乙第1号証等を参照)であれば広く選択することができ、本件特許発明の所期の課題を解決できることは明らかである。もちろん、本件特許明細書の実施例以外の表面処理剤であっても当該課題が解決できることは明らかである。」(答弁書46頁)



乙第1号証 玉虫文一他編、「岩波理化学辞典」、第3版、株式会社岩波書店、1971年5月20日、483頁
乙第2号証 大木道則他編、「化学大辞典」、株式会社東京化学同人、1989年10月20日、977-978頁
乙第3号証 上野景平著、「入門キレート化学」、株式会社南江堂、1969年12月15日、219-223頁
乙第4号証 化学大辞典編集委員会編、「化学大辞典」、第3巻、共立出版株式会社、1963年9月15日、第768頁
乙第5号証 化学用語辞典編集委員会編、「化学用語辞典」、第3版、技報堂出版株式会社、1992年5月16日、302頁
乙第6号証 社団法人日本化学会編、「標準化学用語辞典」、丸善株式会社、1991年3月30日、230頁
乙第7号証 四国化成工業株式会社、「耐熱型水溶性プレフラックス タフエースE1」、四国化成工業株式会社、1991年6月
乙第8号証 森村商事株式会社他、「ドーコートH 技術資料」、株式会社ムラタ、1991年9月
乙第9号証 「メックシール CL-5706」、1991年10月1日
乙第10号証 株式会社タムラ製作所他、「水溶性耐熱プリフラックス ソルダーライト WPF-106A」、株式会社タムラ製作所、1992年2月
乙第11号証 「メックシール CL-5708」、1992年2月
乙第12号証 特開平4-173983号公報
乙第13号証 特開平5-186888号公報
乙第14号証 特開平5-263275号公報
乙第15号証 特開平6-299375号公報
乙第16号証 実験報告書1
乙第17号証 実験報告書2
乙第18号証 特開平8-148811号公報
参考資料1 社団法人日本化学会編、「化学便覧 基礎編 II」、改訂4版、丸善株式会社、1993年9月30日、317、318、321頁
参考資料2 本件特許(第3547028号)の明細書に例示されたコンプレクサン化合物の化学構造式

第6 甲各号証の記載事項
請求人の提示した甲各号証にはそれぞれ以下の事項が記載されている。

1.甲第1号証(特開平7-166381号公報)
甲1a:「【請求項1】 皮膜形成成分としてイミダゾール類を用いた銅および銅合金の表面処理剤において、銅よりもイオン化傾向の大きい金属とβ-ジケトン類との錯体を含有させたことを特徴とする銅および銅合金の表面処理剤。」

甲1b:「【0001】
【産業上の利用分野】 本発明はプリント配線板の防錆剤等として有用な銅および銅合金の表面処理剤に関する。」

甲1c:「【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記アルキルイミダゾール系プレフラックスは、耐熱性において充分に満足できるものが得られていないのが現状である。本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、作業環境や安全面に優れ、耐熱性が改良された銅および銅合金の表面処理剤を提供することを目的とする。」

甲1d:「【0014】本発明の表面処理剤に用いる銅よりもイオン化傾向の大きい金属とβ-ジケトン類との錯体は、イミダゾール類の皮膜の耐熱性を向上させるために使用される成分である。前記銅よりもイオン化傾向の大きい金属としては、例えば鉄、
…(略)…
等があげられる。前記β-ジケトン類としては、例えばアセチルアセトン、
…(略)…
等があげられる。」

甲1e:「【0021】実施例3
2-ウンデシルイミダゾール1.0gを、酢酸0.6gに加え、均一に混合した。これを水100gに加え、さらにアセチルアセトン鉄錯体0.05gを加えてよく撹拌し、処理液を調製した。得られた処理液を用いて実施例1と同様に試験片を処理すると、銅表面に撥水性皮膜が形成された。得られた試験片を150℃で15分間加熱したが、銅表面にはほとんど変色が見られなかった。また、はんだ付け合格率は88.7%であった。」

2.甲第2号証(小学館『大辞泉』編集部編、「大辞泉」、株式会社小学館、1995年12月1日、1027頁)
「コンプレクサン[complexan]エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのキレート試薬の総称。金属イオンをとらえる目的でも広く用いられる。」(第1027頁第3欄第13-15行)

3.甲第3号証(久保亮五他編、「岩波 理化学辞典」、第4版、株式会社岩波書店、1987年10月12日、322頁)
「キレート剤[chelating agent]金属イオンに配位してキレート化合物をつくる多座配位子をいう.キレート試薬ともよぶ.とくに2座配位子のうち1価の酸に相当する形式のものは沈殿試薬その他としてきわめて重要なものが多い(たとえば,ジメチルグリオキシム,ジチゾン,オキシン,アセチルアセトン,グリシンなど).そのほかEDTA,NTAをはじめ各種のものが金属塩の分離,精製,分析などに用いられ,洗浄剤,安定剤,マスキング剤としての用途も広い.とくに,特定の金属イオンに選択的に作用するキレート剤を用いて金属イオンを分別定量することもある.⇒配位子.」(第332頁右欄第8-18行)

4.甲第4号証(特開平7-79061号公報)
甲4a:「【請求項1】 (A)ベンゾイミダゾール化合物、ナフトイミダゾール化合物およびプリン化合物のうちの少なくとも一種、(B)水溶性有機酸、水溶性無機酸および水溶性有機溶剤のうちの少なくとも一種ならびに(C)5個以上の炭素原子を含むモノカルボン酸、6個以上の炭素原子を含むジカルボン酸および4個以上の炭素原子を含むハロゲン化カルボン酸のうちの少なくとも一種を含有することを特徴とする銅および銅合金の表面処理剤。」

甲4b:「【0001】
【産業上の利用分野】本発明はプリント配線板の防錆剤等として有用な銅および銅合金の表面処理剤に関する。」

甲4c:「【発明が解決しようとする課題】
【0008】 前記公報に記載のように、アルキルイミダゾール系プレフラックスの耐熱性を改善する努力がなされているが、満足し得るような性能が得られていないのが実情である。
【0009】本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、作業環境や安全面に優れ、耐熱性がさらに改良された銅および銅合金の表面処理剤を提供することを目的とする。」

甲4d:「【0024】本発明の表面処理剤には、皮膜形成性、皮膜の耐熱性等を向上させるために、例えば酢酸亜鉛、水酸化亜鉛、硫化亜鉛、リン酸亜鉛、酸化亜鉛、塩化亜鉛、酢酸鉛、水酸化鉛、塩化鉄、酸化鉄、塩化銅、酸化銅、水酸化銅、臭化銅、リン酸銅、炭酸銅、酢酸銅、硫酸銅、シュウ酸銅、ギ酸銅、酢酸ニッケル、硫化ニッケル等の金属化合物等を添加してもよく、さらに従来から表面処理剤に使用されている種々の添加剤を、必要に応じて添加してもよい。」

甲4e:「【0028】実施例1
2-フェニルベンゾイミダゾール0.5gを酢酸3gに加え、均一に混合した。これを塩化第二銅0.05gを添加した水100gに加え、さらにカプロン酸0.1gを加えてよく撹拌し、処理液を調製した。」

甲4f:「【0036】
【発明の効果】本発明の表面処理剤は、耐熱性に優れ、高温にさらされた後でもはんだ付け性が非常に良好な皮膜を銅または銅合金の表面に形成しうるため、プリント配線板に電子部品を表面実装する際に、特に顕著な効果を奏する。」

5.甲第5号証(特開平6-81161号公報)
甲5a:「【請求項1】下記一般式で示される2-アルキルベンズイミダゾール誘導体を主成分としたプリフラックスに銅イオンと反応するキレート剤として、エチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ニトリロ三酢酸、イミノ二酢酸、1,2-シクロヘキサンジアミン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸などのようなアミノカルボン酸及びこれらの金属塩のうち一種類以上の化合物を添加したことを特徴とした銅及び銅合金の表面処理剤。
【化1】

(但し、式中R1及びR2は同一または異なって水素原子、低級アルキル基またはハロゲン原子、R3は炭素数3以上のアルキル基を表す。)」

甲5b:「【0007】また、亜鉛化合物または同化合物の添加により、更に耐熱性を向上させることができる。この従来発明では、プリフラックス中の2-アルキルベンズイミダゾール誘導体がプリント配線板の銅及び銅合金パターンと反応して還元され、銅及び銅合金パターン上にのみアルキルベンズイミダゾール系化合物の被膜が形成される。この時、銅及び銅合金パターン表面は2-アルキルベンズイミダゾール誘導体によって酸化されて銅がプリフラックス中に銅イオンとして溶解する。ところがプリフラックス中の銅イオン濃度が10ppm以上になると、2-アルキルベンズイミダゾール誘導体の還元反応が著しく容易となり、金、白金、銀、スズ、ロジウムなどで出来ている接栓部及び金、銀、アルミニウム、スズ、はんだなどで出来ている表面実装部品の接続端子表面にもアルキルベンズイミダゾール系化合物の被膜が形成され、接続信頼性を低下させるという欠点があった。」(第7-8頁【0007】)

甲5c:「【0017】また、銅イオンと反応するキレート剤を含む2-アルキルベンズイミダゾール系プリフラックスは、プリフラックス処理中にプリント配線板より溶解した銅イオンが銅イオンと反応するキレート剤と銅錯化物となり除去されるので、プリフラックス溶液中に存在する銅イオンと同等またはそれ以上のモル濃度のキレート剤を添加すれば、金、白金、銀、スズ、ロジウムなどで出来ている接栓部及び金、銀、アルミニウム、スズ、はんだなどで出来ている表面実装部品の接続端子部を有するプリント配線板にプリフラックス処理を行う場合、接栓部及び接続端子部にマスキングを施すことなく、銅及び銅合金パターン部のみに2-アルキルベンズイミダゾール系化合物の被膜を容易に形成させ接栓部および接続端子部の表面を清浄に保つことができる。更にこのキレート剤の添加により、プリフラックス溶液中の銅イオン濃度の増加に伴うプリフラックス被膜析出スピードの増大を抑えることができるため、プリフラックス被膜の析出の安定化が可能になる。」(第9頁【0017】)

甲5d:「【0020】
【実施例】図1は、2-アルキルベンズイミダゾール系プリフラックス(四国化成工業KK製、タフエースE1)において、プリフラックス水溶液中の銅イオン量とジエチレントリアミン五酢酸(以下DTPAと略記)の添加量を種々変化させてプリント配線板の銅パターン上に0.2μmのプリフラックス被膜を形成した場合の、プリント配線板金接栓部の接触抵抗1及びプリフラックス処理時間2を示す。銅イオン0ppmではプリフラックス処理前の清浄な金接栓部と同等の接触抵抗を示し、金接栓部におけるプリフラックス被膜の析出はまったくない。しかし、銅イオン量が0ppmより大きくなると接触抵抗が増大し、金接栓部上にプリフラックス被膜が形成される。しかし、銅イオン量が140ppmとなってもその銅イオンと等しいモル濃度のDTPAを添加すれば金接栓部にプリフラックスの析出はなく、清浄な金接栓部と同等の接触抵抗を示した。また、銅イオンのモル濃度がDTPAのモル濃度より大きくなると接触抵抗は増大する。」(第9頁【0020】)

甲5e:「また、上記のDTPA添加2-アルキルベンズイミダゾール系プリフラックスは、長期間にわたって使用する場合プリフラックス水溶液中にプリント配線板の銅パターンから溶解した銅イオン濃度が65ppmとなるまで金接栓部にプリフラックス被膜を形成することなく、銅パターン部にのみプリフラックス処理を行うことができる。」(第10頁右欄最終行-第11頁左欄第6行)

甲5f:上記甲5dの記載事項に関連して、5頁の図1には、プリフラックス中の銅イオン量とDTPAの添加量を種々変化させてプリント配線板の銅パターン上に0.2μmのプリフラックス被膜を形成した場合の、プリント配線板金接栓部の接触抵抗1及びプリフラックス処理時間2が示されている。プリフラックス中にDTPAを添加せずに銅イオン量(ppm)を0、30、60、140と増加させた場合、その増加量にしたがって、処理時間は短縮されるものの金接栓部の接触抵抗は増加していくこと、また、プリフラックス中の銅イオン量を140と一定にした状態でDTPAの添加量(g/l)を0、0.17、0.35、0.51、0.69、0.87と増加させた場合、その増加量にしたがって、処理時間は長くなるものの金接栓部の接触抵抗は減少していくことが見て取れる。

6.甲第6号証(特公昭56-18077号公報)
甲6a:「1 イミダゾール誘導体を主成分としたプレフラツクスに銅イオンと反応するキレート剤として、エチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸のようなエチレンジアミン誘導体、ニトリロ三酢酸、イミノ二酢酸、1,2-シクロヘキサンジアミン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸およびこれらの金属塩のうちの一種類の化合物が最高1.2×10^(-3)mol/l添加されていることを特徴とした銅の表面処理剤。」(第1頁左欄第22-30行)

甲6b:「本発明はイミダゾール系プレフラツクスの作業性、性能向上に係り、特に可使時間延長に関するものである。
プリント回路板の銅および銅合金パターン部を防錆し、はんだ付け性を向上させる目的で用いられるプレフラツクスは
(1)単にプリント回路板全体をコーテイングするロジン系プレフラツクス。
(2)選択的に銅および銅合金と反応して、その部分のみ処理効果を発揮するイミダゾール系プレフラツクス。
の二系統に大別することができる。
…(略)…
一方後者は主にイミダゾール誘導体を水に溶解させたものである。したがつてイミダゾール系プレフラツクスで接栓部を有するプリント回路板上の銅および銅合金パターンに防錆被膜を形成させるためには、上記プレフラツクスに上記回路板を浸漬させるのが良い。すなわち上記プレフラツクス中のイミダゾール誘導体が上記回路板上の銅および銅合金パターンと反応して還元され、銅および銅合金パターン上にのみイミダゾール系化合物の防錆被膜が形成される。その時銅および銅合金パターン表面はイミダゾール誘導体によつて酸化されて銅が上記プレフラツクス中に銅イオンとして溶解する。ところが上記プレフラツクス中の銅イオン濃度が10ppm以上になると、イミダゾール誘導体の還元反応が著しく容易となり金、白金、銀、スズ、ロジウムなどで出来ている接栓部表面にもイミダゾール系化合物の防錆被膜が形成され接栓の機能が失なわれるようになる。したがつてイミダゾール系プレフラツクスを長期間にわたつて使用する場合は、イミダゾール系プレフラツクス中に溶解した銅イオン濃度管理が必要となり、濃度管理をしない場合はプリント回路板の接栓部をマスキングする必要があり、防錆処理に手間がかかると共に防錆処理費が高くなつてしまう。
本発明の目的とする所は上記したイミダゾール系プレフラツクスの欠点をなくし、金、白金、銀、スズ、ロジウムなどで出来ている接栓部を有するプリント回路板上の銅および銅合金パターンを防錆する場合、接栓部にマスキングをほどこすことなく長期間にわたつて銅および銅合金パターン部にのみイミダゾール系化合物の防錆被膜を容易に形成させることが出来るイミダゾール系プレフラツクスを提供するにある。
上記目的を達成させるために発明者はイミダゾール系プレフラツクスを種々検討した結果、イミダゾール系プレフラツクスに銅イオンと反応するキレート剤として、エチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸のようなエチレンジアミン誘導体、ニトリロ三酢酸、イミノ二酢酸、1,2-シクロヘキサンジアミン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸およびこれらの金属塩のうちの一種類の化合物を最高1.2×10^(-3)mol/l加えればよいことを明らかにした。すなわち銅イオンと反応するキレート剤を含むイミダゾール系プレフラツクスは、使用中に溶解した銅イオンが銅イオンと反応するキレート剤と反応して銅錯化合物となり除去されるので、金、白金、銀、スズ、ロジウムなどで出来ている接栓部を有するプリント回路板上の銅および銅合金パターンを防錆処理する場合接栓部にマスキングをほどこすことなく長期間にわたつて銅および銅合金パターン部にのみイミダゾール系化合物の防錆被膜を容易に形成させることが出来る。」(第1頁左欄第32行-第2頁左欄第40行)

7.甲第7号証(特開昭61-41775号公報)
甲7a:「1.銅を、銅イオン、銅イオンの錯化剤、還元剤、水酸イオン、並びに、ジルコニウム、ビスマス及びこれらの化合物の中から選ばれる少なくとも一種を含む水溶液で処理することを特徴とする銅の表面処理法。
2.水溶液に、窒素を含む複素環式化合物を添加することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の銅の表面処理法。」(第1頁左下欄第5-12行)

甲7b:「(発明の目的)
本発明の目的は、プリプレグ等の樹脂層との接着性に優れた銅の表面処理法を提供するものである。」(第1頁右下欄第15-18行)

甲7c:「錯化剤としてはエチレンジアミン四酢酸
…(略)…
などの銅イオンと錯体を形成し、なおかつアルカリ水溶液に可溶なものがよい。」(第2頁左上欄第18行-同頁右上欄第2行)

甲7d:「本発明の組成に添加剤としてさらに窒素を有する複素環式化合物を加えた場合さらに効果は良好なものになる。これらの主な化合物としては
…(略)…
2,4-ジメチルイミダゾールなどがある。」(第2頁右上欄第16行-同頁左下欄第2行)

甲7e:「本発明の処理液組成はいわゆる無電解めっき液に属するものである為本処理によって時には異常な銅の析出や不純物の付着の発生することがある。」(第2頁左下欄第5-8行)

8.甲第8号証(特開平7-54169号公報)
甲8a:「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は特定のイミダゾール系化合物を有効成分として含有する銅および銅合金の表面処理剤に関する。本発明の表面処理剤は、特にプリント配線板の防錆剤として有用である。」

甲8b:「【0069】本発明の表面処理剤には、皮膜形成性、皮膜の耐熱性等を向上させるために、例えば酢酸亜鉛、水酸化亜鉛、硫化亜鉛、リン酸亜鉛、酸化亜鉛、塩化亜鉛、酢酸鉛、水酸化鉛、塩化鉄、酸化鉄、塩化銅、酸化銅、水酸化銅、臭化銅、リン酸銅、炭酸銅、酢酸銅、硫酸銅、シュウ酸銅、ギ酸銅、酢酸ニッケル、硫化ニッケル等の金属化合物等を添加してもよく、さらに従来から表面処理剤に使用されている種々の添加剤を、必要に応じて添加してもよい。また、皮膜形成性は、酸濃度を調整することによっても向上させることができる。」

9.甲第9号証(特開平6-2176号公報)
甲9a:「【請求項1】 臭素および(または)よう素を含む化合物と、分子中に少なくとも一個の窒素原子を含む防錆剤とを含有することを特徴とする銅および銅合金の表面処理剤。」

甲9b:「【0008】前記分子中に少なくとも一個の窒素原子を含む防錆剤(以下、特定の防錆剤という)の具体例としては、例えば、イミダゾール、
…(略)…
ベンズイミダゾール、
…(略)…
などの単環式または多環式のアゾール類、
…(略)…
などがあげられる。」

甲9c:「【0010】本発明の表面処理剤には、更に必要に応じて、酢酸ニッケル、硫化ニッケル、燐酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸鉛、塩化鉄、塩化銅、燐酸銅、炭酸銅、酢酸銅、硫酸銅などの金属化合物の一種、または二種以上を添加しても良い。」

10.甲第10号証(実験成績証明書)
甲第10号証には、
「本件特許明細書の実施例6の表面処理剤に含まれる成分において、その配合比を変更した表面処理剤が、本件特許発明の効果を奏するか否かを確認する実験(実験3)」、
「本件特許明細書の実施例6の表面処理剤において、イミダゾール化合物の種類を変更した表面処理剤が、本件特許発明の効果を奏するか否かを確認する実験(実験4)」、
「本件特許発明に相当する表面処理剤(酸をギ酸、鉄イオン供給化合物を塩化鉄(III)・六水和物、コンプレクサン化合物をEDTA・2Naとし、種々のイミダゾール化合物を用いる)が、本件特許発明の効果を奏するか否かを確認する実験(実験5)」
を行なって、いずれの実験においても銅表面に被膜が形成されなかったか若しくは形成されても使用に耐える厚みに達しなかった、又は水溶液中に結晶が生成されて表面処理剤の調製ができなかったことが示されている。

第7 乙各号証の記載事項
乙第1号証、乙第3?6号証に記載された事項は上記「第2 2.(2)」に摘記したとおりである。
また、乙第2号証には以下の記載がある。

1.乙第2号証(大木道則他編、「化学大辞典」、株式会社東京化学同人、1989年10月20日、977-978頁)
「ジケトン[diketone] 分子内に2個のカルボニル基>C=Oを有するケトンの総称.ジオン(dione)ともいう.カルボニル基の相対位置により隣接したものから順に1,2-(またはα-),1,3-(またはβ-),1,4-(またはγ-)ジケトンなどと称す.
…(略)…
2)1,3-ジケトン(1,3-diketone)はメチルケトンとカルボン酸エステルのクライゼン(Claisen)縮合^(*),三フッ化ホウ素存在下ケトンの酸無水物によるアシル化などで生成する.いかなる状態においてもケト-エノール互変異性を示し,他のジケトンには見られない性質をもつ.エノール形のため酸性を示し,金属と塩をつくり,特に重金属とは特有の色をもつ安定なキレートを形成する.銅(青色),鉄(III)(赤色),クロム(紫色)などの塩が知られている.…(略)…」(第977頁右欄第51行-第978頁左欄第13行)

さらに、乙第16号証及び乙第17号証にはそれぞれ以下の記載がある。
2.乙第16号証(実験報告書1)
乙16a:「第5.実験内容
甲第10号証の実験3に記載の組成を有する表面処理剤の場合において、各成分の含有割合等を変更すれば、本件特許発明の作用効果を奏することを確認する実験(実験A)」(第1頁)

乙16b:実験結果として以下の表が記載されている。(第4頁)
表1-2
実験A-1a 実験A-1b 実験A-2 実験A-3a
銅表面(μm) 0.188 0.597 0.336 0.440
金表面(μm) 0.010 0.010 0.030 0.022

実験A-3b 実験A-4a 実験A4-b 実験A-5
銅表面(μm) 0.312 0.245 0.315 0.372
金表面(μm) 0.013 0.009 0.015 0.010

3.乙第17号証(実験報告書2)
乙17a:「第5.実験内容
1.甲第10号証の実験4に記載のイミダゾール化合物等を使用した表面処理剤の場合において、各成分の含有割合等を変更すれば、本件特許発明の作用効果を奏することを確認する実験(実験B)。」(第1頁)

乙17b:「いずれの実験においても、金の表面には被膜が形成されないか又は形成されても極めて僅かであり、一方、銅の表面には十分な厚みの被膜が形成されたことが確認された。」(第9頁)

乙17c:「2.甲第10号証の実験5に記載のイミダゾール化合物等を使用した表面処理剤の場合において、各成分の含有割合等を変更すれば、本件特許発明の作用効果を奏することを確認する実験(実験C)。」(第11頁)

乙17d:「いずれの実験においても、金の表面には被膜が形成されないか又は形成されても極めて僅かであり、一方、銅の表面には十分な厚みの被膜が形成されたことが確認された。」(第16頁)

第8 当審の判断
1.特許法第29条第1項第3号について
(1)甲第1号証
甲第1号証には、上記甲第1号証の記載事項甲1a乃至甲1eを総合すると、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「皮膜形成成分のイミダゾール類として2-ウンデシルイミダゾールを酢酸に加えて混合した上で水に加え、さらに銅よりもイオン化傾向の大きい金属とβ-ジケトン類との錯体としてアセチルアセトン鉄錯体を加えて調製した銅および銅合金の表面処理剤。」

(2)対比
本件発明と甲1発明を対比する。
ア 甲1発明では、「皮膜形成成分のイミダゾール類」及び「銅よりもイオン化傾向の大きい金属とβ-ジケトン類との錯体」は必須成分であることは明らかである。
イ また、甲1発明の「2-ウンデシルイミダゾール」はイミダゾールの2位にウンデシル基を有する化合物であるから、これは本件発明の「イミダゾール化合物」に相当する。
ウ そして、甲1発明では水に不溶性である2-ウンデシルイミダゾールを水中に安定に溶解又は分散させるために酢酸に加えて混合した上で水に加えているから、甲1発明は水溶液からなることは明らかである。
エ また、甲1発明の「アセチルアセトン鉄錯体」のうちの一部は水溶液中でアセチルチセトン又はその共役塩基であるアセチルアセトナートと鉄イオンに分離しているものと認められるから、甲1発明は鉄イオンを含有していることは明らかである。
オ 次に、上記エにおける「アセチルチセトン又はその共役塩基であるアセチルアセトナート」が本件発明の「コンプレクサン化合物」に相当するか検討する。
上記のように訂正された本件特許明細書(以下、「本件特許明細書」という。)には以下の記載がある。
本a:「【0010】
特公昭56-18077号公報及び特開平6-81161号公報によれば、イミダゾール化合物あるいはベンズイミダゾール化合物と、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸などのコンプレクサン化合物を含む表面処理剤を使用することにより、金メッキ等の異種金属の表面に化成被膜を形成させず、銅の表面にのみ化成被膜を形成する選択性があることが報告されている。」

本b:「【0012】
特開平7-166381号公報においては、イミダゾール化合物あるいはベンズイミダゾール化合物、銅よりもイオン化傾向の大きな金属及びβ-ジケトン類との錯体を含む処理剤を使用する方法が記載されているが、この方法においてもプリント配線板上の金メッキ部分などへの化成被膜の形成を抑えることはできない。」

本c:「【0015】
本発明の実施において使用されるコンプレクサン化合物の代表的なものとしては、
…(略)…
エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、
…(略)…
等とこれらの塩類が挙げられる。」

ここで、上記記載事項本bにおける「特開平7-166381号公報」は甲第1号証である。
そして、本件特許明細書の上記記載事項本aによれば、本件特許明細書では「エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸など」のことは「コンプレクサン化合物」と称しているが、上記記載事項本bにおける「β-ジケトン類」のことは「コンプレクサン化合物」とは称しておらず、また、上記記載事項本bの特開平7-166381号公報は本件発明の従来技術として挙げられているものである。
さらに、上記記載事項本cには「コンプレクサン化合物」の具体例が例示されているが、「β-ジケトン類」やその具体例である「アセチルチセトン又はその共役塩基であるアセチルアセトナート」は挙げられておらず、他に「コンプレクサン化合物」を一義的に定義している記載も認められない。
加えて、本件特許明細書には、「アセチルチセトン又はその共役塩基であるアセチルアセトナート」が「コンプレクサン化合物」に相当することを示唆する記載はない。
したがって、上記第2、2-2訂正事項2でも検討したように、本件特許明細書の請求項1に係る発明の「コンプレクサン化合物」は、本件特許明細書で訂正された【0015】に列挙された化合物であり、甲1発明の「アセチルチセトン又はその共役塩基であるアセチルアセトナート」は、本件発明の「コンプレクサン化合物」とは異なるものであるから、両発明は
「イミダゾール化合物及び鉄イオンを必須成分として含有する水溶液からなる銅及び銅合金の表面処理剤。」
で一致し、以下の点で相違する。
相違点:本件発明では「コンプレクサン化合物」を含有するのに対して、甲1発明では「コンプレクサン化合物」を含有していない点。

(3)むすび
したがって、本件発明は甲第1号証には記載されていないから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものとはいえず、本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当するとはいえない。

2.特許法第29条第2項について
(1)甲第4号証を主引用文献とした場合
ア 甲第4号証
甲第4号証には、上記甲第4号証の記載事項甲4a乃至甲4fを総合すると、以下の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されている。
「2-フェニルベンゾイミダゾールを酢酸に加え、均一に混合し、これを塩化第二銅を添加した水に加え、さらにカプロン酸を加えてよく撹拌した銅及び銅合金の表面処理剤。」

イ 対比
(ア)甲4発明は2-フェニルベンゾイミダゾール及び塩化第二銅は水に溶けた状態の水溶液であることは明らかである。
(イ)そして、本件発明と甲4発明を対比すると、甲4発明における「2-フェニルベンゾイミダゾール」はその名前から明らかなとおり、本件発明の「ベンズイミダゾール化合物」に相当する。
(ウ)また、甲4発明では塩化第二銅は水溶液中では銅イオンを分離していることは明らかであるから、本件発明と甲4発明とは、「金属イオン」を必須成分として含有する点において一致している。
したがって、両発明は
「ベンズイミダゾール化合物及び金属イオンを必須成分として含有する水溶液からなる銅及び銅合金の表面処理剤。」
で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:本件発明では金属イオンとして鉄イオンを含有しているのに対して、甲4発明では金属イオンとして銅イオンを含有している点。
相違点2:本件発明では必須成分としてコンプレクサン化合物を含有しているのに対して、甲4発明では必須成分としてコンプレクサン化合物を含有していない点。

ウ 判断
上記相違点について検討する。

(ア)相違点1について
甲4発明では皮膜形成性を向上させるために塩化第二銅を添加しており、甲第4号証の上記記載事項4dによれば、皮膜形成性を向上させるための金属化合物として塩化銅と並んで塩化鉄及び酸化鉄が例示されている。
したがって、甲4発明において塩化第二銅に換えて塩化鉄又は酸化鉄を添加することにより表面処理剤中に鉄イオンを添加することは甲4発明として記載されている事項か、少なくとも当業者が容易になし得たことである。

(イ)相違点2について
a 甲第5号証及び甲第6号証に関して
甲第5号証及び甲第6号証には、上記記載事項甲5c、甲5d及び甲6bによれば、表面処理剤を長期間使用することにより表面処理剤に蓄積される銅イオンを除去するために、ジエチレントリアミン五酢酸などのキレート剤を表面処理剤に添加する点が記載されている。これは、表面処理剤中の銅イオン濃度が上がると金接栓部などの銅表面以外の部分にも被膜が形成されてしまうため、キレート剤を添加して銅イオンを除去可能とすることにより金接栓部などに被膜が形成されることを防止する目的で添加されるものである。そして、甲第5号証及び甲第6号証の上記ジエチレントリアミン五酢酸は本件特許明細書で「コンプレクサン化合物」として例示されているものである。
このキレート剤を添加する点を甲4発明に適用できるか検討する。
甲4発明は皮膜形成性を向上させるために積極的に銅イオンを添加するものであるのに対して、甲第5号証及び甲第6号証では、銅以外の金接栓部などに被膜が形成されてしまうことを防止するために積極的に銅イオンを除去するためにキレート剤を添加するものであるから、銅イオンの加除において甲4発明と甲第5号証及び甲第6号証に記載された技術手段とは相反するものである。
また、たとえ甲4発明が含有する金属イオンとして、上記「(ア)相違点1について」で検討したように銅イオンに換えて鉄イオンが選択されていたとしても、キレート剤は水溶液中の金属イオンと錯体を作って除去するものであるから、鉄イオンを添加することとキレート剤を添加することは鉄イオンの加除において相反するものである。
したがって、甲4発明に甲第5号証及び甲第6号証に記載された本件特許明細書における「コンプレクサン化合物」に相当するキレート剤を加えることには阻害要因があることになるから、甲4発明に甲第5号証及び甲第6号証のキレート剤を適用することはできない。

b 甲第7号証に関して
甲第7号証には、内層印刷回路の銅からなる内層パターンとプリプレグ等の樹脂層との接着性向上のために、銅表面に無電解めっきするための銅の表面処理剤において、銅イオンの錯化剤としてエチレンジアミン四酢酸を添加する点が記載されている。しかしながら、甲4発明は銅及び銅合金の表面に耐熱性に優れ、はんだ付けに良好な、防錆剤としての被膜を形成する表面処理剤であって、銅からなる内層パターンとプリプレグ等の樹脂層との接着性を向上するという課題は有していないから、甲第7号証に記載されたエチレンジアミン四酢酸を甲4発明の表面処理剤に添加することの動機付けはない。

c 作用効果について
本件特許明細書の【0024】、【0025】及び図3によれば、本件発明では、イミダゾール化合物と鉄イオンを含有する水溶液からなる表面処理剤にコンプレクサン化合物を添加すると、イミダゾール化合物と鉄イオンを含有する水溶液からなる表面処理剤よりも被膜の形成性が向上するという作用効果を奏しており、このような作用効果は甲第4号証乃至甲第7号証の記載からは予測し得ない。

d むすび
したがって、甲4発明に甲第5号証乃至甲第7号証に記載された技術に基づいてコンプレクサン化合物を添加することは当業者が容易になし得たことではない。

(2)甲第5号証を主引用文献とした場合
ア 甲第5号証
甲第5号証には、上記甲第5号証の記載事項甲5a乃至甲5fを総合すると、以下の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されている。
「2-アルキルベンズイミダゾール誘導体を主成分としたプリフラックスに銅イオンと反応するキレート剤としてエチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ニトリロ三酢酸、イミノ二酢酸、1,2-シクロヘキサンジアミン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸などのようなアミノカルボン酸及びこれらの金属塩のうち一種類以上の化合物を添加した銅及び銅合金の表面処理剤。」

イ 対比
(ア)本件発明と甲5発明を対比すると、甲5発明の「2-アルキルベンズイミダゾール誘導体」はその名前から明らかなとおり、本件発明の「ベンズイミダゾール化合物」に相当する。
(イ)また、甲5発明の「エチレンジアミン三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ニトリロ三酢酸、イミノ二酢酸、1,2-シクロヘキサンジアミン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸などのようなアミノカルボン酸及びこれらの金属塩」は、本件特許明細書の【0015】に「コンプレクサン化合物」として各種のアミノカルボン酸が例示されていることから、本件発明の「コンプレクサン化合物」に相当する。
(ウ)さらに、甲5発明の「プリフラックス」とは水溶液からなる表面処理剤である。
したがって、両発明は
「ベンズイミダゾール化合物及びコンプレクサン化合物を必須成分として含有する水溶液からなる銅及び銅合金の表面処理剤。」
で一致し、以下の点で相違する。
相違点3:本件発明では必須成分として鉄イオンを含有しているのに対して、甲5発明では必須成分として鉄イオンを含有していない点。

ウ 判断
上記相違点について検討する。
甲第4号証、甲第8号証及び甲第9号証には、上記記載事項甲4d、甲8b及び甲9cのように、被膜の形成性を向上する目的で表面処理剤に金属化合物を添加する点が記載されている。そして、金属化合物の例として塩化銅等の金属化合物と並んで塩化鉄又は酸化鉄の鉄化合物が挙げられており、この鉄化合物には表面処理剤中では鉄イオンを分離するものも含まれる。
そこで、上記鉄化合物を添加する点を甲5発明に適用できるか検討する。
甲5発明では、表面処理剤を長期間使用することにより表面処理剤に蓄積される銅イオンを除去するために、キレート剤としてコンプレクサン化合物を表面処理剤に添加している。そして、キレート剤は銅イオンに限らず金属イオン全般と錯体を作って金属イオンを除去するものであるから、甲5発明でキレート剤であるコンプレクサン化合物を添加することと、甲第4号証、甲第8号証及び甲第9号証において鉄イオンを添加することは金属イオンの加除において相反するものである。
また、本件特許明細書の【0021】、【0022】、【0024】、【0025】及び図1乃至4によれば、本件発明では、イミダゾール化合物とコンプレクサン化合物を含有する水溶液からなる表面処理剤に鉄イオンを添加すると、イミダゾール化合物とコンプレクサン化合物又は鉄イオンのいずれか一方のみを含有する水溶液からなる表面処理剤よりも被膜の形成性が向上するという作用効果を奏しており、このような作用効果は甲第5号証、甲第4号証、甲第8号証及び甲第9号証の記載からは予測し得ないものである。
したがって、甲5発明に鉄イオンを添加することは当業者が容易になし得たことではない。

(3)むすび
したがって、本件発明は甲第4号証乃至甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に該当し特許を受けることができないものとはいえず、本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当するとはいえない。

3.特許法第36条第4項について
(1)本件特許明細書には以下の事項が記載されている。

本d:「【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、銅及び銅合金の表面に化成被膜を形成する水溶液系表面処理剤に関するものであり、特に金メッキ、はんだメッキ等の銅及び銅合金以外の異種金属部を有する硬質プリント配線板及びフレキシブルプリント配線板における銅回路部の表面処理剤として好適なものである。」

本e:「【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の実施に適するイミダゾール化合物及びベンズイミダゾール化合物の代表的なものとしては、2-ペンチルイミダゾール、2-ウンデシル-4-メチルイミダゾール、2,4-ジメチルイミダゾール等の2-アルキルイミダゾール化合物、
…(略)…
2-(フェノキシメチル)-5-メチルベンズイミダゾール等が挙げられる。
【0015】
本発明の実施において使用されるコンプレクサン化合物の代表的なものとしては、イミノ二酢酸(IDA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、
…(略)…
ジアミノプロパン四酢酸(Methyl-EDTA)、ニトリロ三プロピオン酸(NTP)等とこれらの塩類が挙げられる。
【0016】
本発明の実施において不可欠な鉄イオンを供給するのに好適な鉄化合物の代表的なものとしては、塩化鉄(II)、同(III) 、
…(略)…
蓚酸鉄(II)等が挙げられる。
【0017】
本発明の実施においては、有効成分としてイミダゾール化合物あるいはベンズイミダゾール化合物を0.01?10重量%の割合、好ましくは0.1?5重量%の割合とし、鉄化合物は水溶液に対して0.0001?5重量%の割合、好ましくは0.001?1重量%の割合とし、コンプレクサン化合物は鉄イオン(モル濃度)に対して1?10倍モルの割合、好ましくは1?5倍モルの割合として添加すれば良い。
いずれのコンプレクサン化合物を使用した場合でも、コンプレクサン化合物は鉄イオンと安定なキレート化合物を形成するために、必要な最低限の濃度よりも過剰の濃度となるように添加することが好ましい。
【0018】
本発明の実施においては、イミダゾール化合物あるいはベンズイミダゾール化合物を水溶液化するために、有機酸もしくは無機酸を用いたり、少量の有機溶媒を併用することができる。この際に用いられる有機酸としては、ギ酸、酢酸、
…(略)…
アジピン酸等であり、無機酸としては、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸等である。これらの酸は、水溶液に対し0.01?40重量%の割合、好ましくは0.2?20重量%の割合になるように添加すれば良い。
【0019】
…(略)…
本発明の表面処理剤を用いて銅あるいは銅合金の表面を処理する際の条件としては、処理剤の液温を約20℃?60℃、接触時間を1秒ないし10分間の範囲が適当である。接触方法は、浸漬、噴霧、塗布などである。」

本f:「【0021】
〔実施例1〕
2-オクチルベンズイミダゾール0.4%、酢酸5.0%及びエチレンジアミン四酢酸を0.063%(2.15mM)を含む水溶液に鉄イオン濃度が10ppm(0.18mM)、30ppm(0.54mM)、50ppm(0.89mM)及び70ppmとなるように塩化鉄(III) ・六水和物を加えて表面処理液を調製した。前記鉄イオン濃度が異なる表面処理液を用いて、プリント配線板(テストパターン1)を40℃/30,60秒浸漬処理を行い、銅表面及び金表面に形成された化成被膜の膜厚を測定した。
【0022】
これらの試験結果に基づき、表面処理液中の鉄イオン濃度と銅表面及び金表面における成膜速度の関係を図1及び図2に示した。
この結果によれば、コンプレクサンを含有する表面処理液に鉄イオンを微量加えることにより、金メッキ上にほとんど化成被膜が形成されず、銅表面に選択的に化成被膜が形成され、また銅表面における化成被膜が短期のうちに形成されることが判った。
…(略)…
【0039】
〔実施例9〕
2-ウンデシル-4-メチルイミダゾール1.0%、酢酸1.0%、塩化鉄(III)・六水和物0.029%(Feイオン=60ppm)及びエチレンジアミン四酢酸0.16%を含む水溶液からなる表面処理剤を調製した。
前記表面処理剤を40℃の温度に維持し、これにプリント配線板(テストパターン1)を60秒間浸漬したのち、銅及び金の表面に形成された化成被膜の膜厚を測定したところ、銅表面は0.44μm、金表面は0.006μmであった。
【0040】
また、前記表面処理液にはんだ-銅混載基板を40℃の温度で60秒間浸漬し、はんだの変色、処理液の変質及び銅表面の造膜性を調べた結果は、表1に示したとおりであった。」

本g:「【発明の効果】
本発明の表面処理剤によれば、銅あるいは銅合金の表面にのみ選択的に化成被膜を形成し、金メッキ、はんだメッキ等、銅以外の異種金属に対してはほとんど化成被膜を生じないので、銅パターン上に金メッキ、はんだメッキなどの異種金属を施したプリント配線板などの表面処理において、これら異種金属をマスキングすることなく、直かに銅回路部の表面処理を為し得るものであり、また銅金属に対する造膜性が良好でしかも処理液が安定しているため、この種のプリント配線板などの生産性を飛躍的に高めることが出来るなど実践面の効果は多大である。」

(2)これらの記載事項によると、本件特許明細書には、イミダゾール化合物あるいはベンズイミダゾール化合物、コンプレクサン化合物及び鉄イオンについて具体的な物質名が列挙されており、これらの好ましい配合量及び配合割合、水溶液化する方法、並びに本件発明の表面処理剤の使用方法が実施例と共に具体的に記載されている。
これらの「イミダゾール化合物あるいはベンズイミダゾール化合物」、「コンプレクサン化合物」及び「鉄イオン」についてそれぞれ具体的に各化合物の物質を選択して表面処理剤を調製する際に、この表面処理剤が所期の作用効果を奏するように各成分の配合量及び配合割合を適宜調整することは当業者が通常試みる事項であるから、当業者であれば、本件特許明細書に記載された「イミダゾール化合物あるいはベンズイミダゾール化合物」、「コンプレクサン化合物」及び「鉄イオン」についてそれぞれ具体的に各化合物の物質を選択し、それらを「水溶液」化するように水に溶かし、銅及び銅合金の表面に化成被膜を形成し得るように各成分の配合量や配合割合を調整して、本件発明の表面処理剤を得ることは、過度の試行錯誤を要することなく実施できるものと認められる。

(3)請求人は甲第10号証に示された各実験を根拠として、本件発明の全構成要件を充足する表面処理剤でも、本件発明の所期の作用効果を奏しないものが多数存在するとして、本件特許明細書には本件発明を実施するためには当業者に過度の試行錯誤が要求される程度にしか記載されていないと主張している。
しかしながら、甲第10号証には各実験で各成分の配合量や配合割合をどのように試行錯誤して調製を試みたのかは記載されておらず、単に本件発明の所期の作用効果を奏しない例が挙げられているのみであるから、この各実験の結果から直ちに本件発明を実施するためには当業者に過度の試行錯誤が要求されるとは認められない。
また、被請求人が乙第16号証及び乙第17号証で示しているように、甲第10号証で示された各実験の水溶液について各成分の配合量及び配合割合を調整することによって本件発明の所期の作用効果を奏するように調製することは可能であると認められる。
よって、請求人の主張は採用できない。

(4)したがって、本件特許明細書には当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているから、本件特許は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではなく、特許法第123条第1項第4号に該当するものではない。

4.特許法第36条第6項第1号について
(1)本件発明の「……を必須成分として含有する水溶液」における「水溶液」とは、一般にある物質を水に溶解させた液をいうから、当該「水溶液」は、必須成分を水に溶解させた液のことであると認められる。また、本件特許明細書の「【発明の属する技術分野】この発明は、銅及び銅合金の表面に化成被膜を形成する水溶液系表面処理剤に関するものであり、……」との記載によると、本件発明の「銅及び銅合金の表面処理剤」とは、銅及び銅合金の表面に化成被膜を形成する処理剤のことであると認められる。
そうすると、本件発明は、「……を必須成分として含有する水溶液からなる銅及び銅合金の表面処理剤」である以上、銅及び銅合金の表面に化成被膜を形成するように必須成分を含有する水溶液からなることは明らかである。

一方、本件発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書の【0007】に「銅あるいは銅合金の表面にのみ化成被膜を形成し、金やはんだ等の異種金属の表面には化成被膜を形成しないという選択性を有し、且つ化成被膜の造膜性が良好で表面処理時間が短く作業性に優れた水溶性の表面処理剤を提供する」ことであると記載され、前記課題を解決するための手段は、本件特許明細書の【0013】に「銅及び銅合金の表面処理剤としてイミダゾール化合物あるいはベンズイミダゾール化合物、コンプレクサン化合物及び水溶性鉄化合物を必須成分として含有させた水溶液を使用すること」であると記載されている。
さらに、本件特許明細書には、本件発明の実施の形態として、上記本eで摘記したとおり、イミダゾール化合物、ベンズイミダゾール化合物、コンプレクサン化合物及び鉄イオンを供給する鉄化合物が具体的に種々列挙されており、上記本fの摘記によれば、イミダゾール化合物あるいはベンズイミダゾール化合物、コンプレクサン化合物及び鉄イオンを供給する鉄化合物を具体的に選択して水溶液を調製し、プリント配線板の銅表面に化成被膜を形成する実施例が9つ挙げられている。

以上によれば、本件発明の「イミダゾール化合物あるいはベンズイミダゾール化合物、コンプレクサン化合物及び鉄イオンを必須成分として含有する水溶液からなる銅及び銅合金の表面処理剤」は、当業者が上記課題を解決すると認識できるように記載されているから、本件発明は本件特許明細書に記載されていると認められる。

(2)請求人は、甲第10号証を提示して、「本件特許明細書の実施例6の表面処理剤に含まれる成分において、その配合比を変更した表面処理剤が、本件特許発明の効果を奏するか否かを確認する実験(実験3)」、「本件特許明細書の実施例6の表面処理剤において、イミダゾール化合物の種類を変更した表面処理剤が、本件特許発明の効果を奏するか否かを確認する実験(実験4)」及び「本件特許発明に相当する表面処理剤(酸をギ酸、鉄イオン供給化合物を塩化鉄(III)・六水和物、コンプレクサン化合物をEDTA・2Naとし、種々のイミダゾール化合物を用いる)が、本件特許発明の効果を奏するか否かを確認する実験(実験5)」を行なって、いずれの実験においても銅表面に被膜が形成されなかったか若しくは形成されても使用に耐える厚みに達しなかった、又は溶液中に結晶が発生して水溶液からなる表面処理剤を作製することができなかったので、本件発明に該当する表面処理剤であっても本件発明の課題を解決できないものが多数存在し、本件発明が特許法第36条第6項第1号の要件に適合しない旨主張する。
しかし、上記(1)のとおり、本件発明は、銅及び銅合金の表面に化成被膜を形成するように請求項1記載の各成分を含有する水溶液からなる表面処理剤であるところ、甲第10号証における各実験の水溶液は、いずれも銅及び銅合金の表面に化成被膜を形成しないものであるから、甲第10号証は、本件発明の表面処理剤に該当する水溶液を用いた実験結果であるとはいえない。そうすると、甲第10号証により、本件発明が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。
よって、請求人の主張は採用できない。

(3)したがって、本件発明は本件特許明細書に記載されたものであるから、本件特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではなく、特許法第123条第1項第4号に該当するものではない。

第9 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
銅及び銅合金の表面処理剤
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イミダゾール化合物あるいはベンズイミダゾール化合物、コンプレクサン化合物及び鉄イオンを必須成分として含有する水溶液からなる銅及び銅合金の表面処理剤。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、銅及び銅合金の表面に化成被膜を形成する水溶液系表面処理剤に関するものであり、特に金メッキ、はんだメッキ等の銅及び銅合金以外の異種金属部を有する硬質プリント配線板及びフレキシブルプリント配線板における銅回路部の表面処理剤として好適なものである。
【0002】
【従来の技術】
銅あるいは銅合金の表面に、2位長鎖アルキルイミダゾール化合物の被膜を形成する表面処理方法としては、特公昭46-17046号、同48-11454号、同48-25621号、同49-1983号、同49-26183号、同58-22545号、同61-41988号及び特開昭61-90492号公報に記載されている。また銅あるいは銅合金の表面に、2位アリール基置換イミダゾール化合物の被膜を形成する処理方法としては、特開平4-202780号及び同4-206681号公報に記載されている。
【0003】
他に銅あるいは銅合金の表面にベンズイミダゾール系化合物の化成被膜を形成する方法としては、5-メチルベンズイミダゾールを用いる処理方法が特開昭58-501281号公報に、2-アルキルベンズイミダゾール化合物、2-アリールベンズイミダゾール化合物、2-アラルキルベンズイミダゾール化合物あるいは2-メルカプトアルキルベンズイミダゾール化合物を用いる処理方法が、特開平3-124395号、同3-236478号、同4-72072号、同4-80375号、同4-99285号、同4-157174号、同4-165083号、同4-173983号、同4-183874号、同4-202780号、同4-206681号、同4-218679号、同5-25407号、同5-93280号、同5-93281号、同5-156475号、同5-163585号、同5-175643号、同5-186880号、同5-186888号、同5-202492号、同5-230674号、同5-237688号、同5-263275号、同5-287562号、同5-291729号、同5-287563号及び同5-291729号、同6-2158号、同6-2176号、同6-173021号、同6-173022号及び同6-173023号公報に記載されている。
【0004】
これらの他に、2-メルカプトベンズイミダゾールを用いる銅あるいは銅合金の防錆方法が、特開昭55-83157号、同62-77600号及び同63-118598号公報に開示されている。
また、銅と反応するキレート剤を含有する銅及び銅合金の表面処理方法が、特公昭56-18077号、特開平6-81161号及び同7-166381号公報に記載されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
近年プリント配線板は、高密度実装のために表面実装部品の多端子化及び端子ピッチの微細化が進んでおり、TAB(Tape Automated Bording)、COB(Chip On Board)、Flip Chipなどの表面実装部品の採用が増加する傾向にある。
【0006】
このような表面実装部品では、接続するプリント配線板の銅パターン上に金、銀、アルミニウム、錫、はんだなどのメッキ処理を行ったプリント配線板が採用されており、この種のプリント配線板における銅回路の表面処理が、ますます重要な課題となっている。
【0007】
本発明は、このような状況に対応して銅あるいは銅合金の表面にのみ化成被膜を形成し、金やはんだ等の異種金属の表面には化成被膜を形成しないという選択性を有し、且つ化成被膜の造膜性が良好で表面処理時間が短く作業性に優れた水溶性の表面処理剤を提供するものである。
【0008】
特公昭46-17046号公報等に開示されている2位長鎖アルキルイミダゾール化合物を用いた表面処理方法、特開平4-202780号公報等に開示されている2位アリール基置換イミダゾール化合物を用いた表面処理方法及び特開平3-124395号公報等に開示されている各種のベンズイミダゾール化合物を用いた表面処理方法は、いずれも金やはんだ等の銅以外の異種金属の表面を変色させたり、異種金属の表面上にも化成被膜を形成する難点を有していた。
【0009】
従って、これらの表面処理方法において、金、銀、アルミニウム、錫、はんだ等のメッキ処理を行ったプリント配線板を表面処理する場合には、あらかじめ金やはんだ等の異種金属の表面をマスキングテープによって保護して異種金属の変色や化成被膜の形成を防止するか、金メッキ上に形成された化成被膜を後工程においてアルコール等を用いて除去する方法がとられており、多大な労力と費用を必要としていた。
【0010】
特公昭56-18077号公報及び特開平6-81161号公報によれば、イミダゾール化合物あるいはベンズイミダゾール化合物と、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸などのコンプレクサン化合物を含む表面処理剤を使用することにより、金メッキ等の異種金属の表面に化成被膜を形成させず、銅の表面にのみ化成被膜を形成する選択性があることが報告されている。
【0011】
これらの表面処理方法においては、金メッキ表面に対する造膜性を抑制するために表面処理液中の銅イオンを捕捉し、安定化させるためにコンプレクサン化合物を使用する手段がとられている。
しかしながら、表面処理液中の銅イオンは銅表面における化成被膜の造膜性を向上させるのに非常に有効な手段である。これらの表面処理方法においては、銅イオンを含まないため銅表面の化成被膜の造膜性が著しく劣り、その表面処理時間は銅イオンを含む場合の10?30秒に比べて、2?3分掛かけることを余儀なくされ、このような表面処理方法では、銅以外の異種金属に化成被膜を形成しない選択性を得た代償として、生産性を極度に低下させる難点があった。
【0012】
特開平7-166381号公報においては、イミダゾール化合物あるいはベンズイミダゾール化合物、銅よりもイオン化傾向の大きな金属及びβ-ジケトン類との錯体を含む処理剤を使用する方法が記載されているが、この方法においてもプリント配線板上の金メッキ部分などへの化成被膜の形成を抑えることはできない。上述したように、高密度実装方法に有効な銅表面上にのみ化成被膜を形成する選択性を有し、且つ生産性に優れた表面処理方法が望まれている。
また、最近狭ピッチのQFPを実装するために、QFP登載部の銅上に予めはんだを供給しているはんだ-銅混載基板の重要が高まっている。従来であればQFP登載部の銅上にクリームはんだを印刷し、QFPを装着してリフロー加熱をすることにより接合していたが、近年の狭ピッチQFPに対してはクリームはんだの印刷が甚だ困難となっており、このため、スーパーソルダーやはんだメッキ等によりQFP登載部の銅上に予めはんだを供給したはんだ-銅混載基板が使用されている。
しかし、従来知られている種々のイミダゾール化合物あるいはベンズイミダゾール化合物と銅イオンを含む表面処理液を用いて、このようなはんだ-銅混載基板を処理するとはんだの変色と表面処理液の変質が起こり、長時間の連続運転を行うことが出来ない。
はんだの変色とは、はんだ-銅混載基板を表面処理液に浸漬した際、光沢のあった銀色のはんだ表面が汚ない茶色ないし黒色に変色する現象であり、表面処理液の変質とは、はんだ-銅混載基板を処理していくと、徐々に表面処理液の組成が変化し、時として沈殿物を発生する現象を意味する。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、このような事情に鑑み、種々の試験を行った結果、銅及び銅合金の表面処理剤としてイミダゾール化合物あるいはベンズイミダゾール化合物、コンプレクサン化合物及び水溶性鉄化合物を必須成分として含有させた水溶液を使用することにより、所期の目的を達成しうることを知見し、本発明を完遂するに至った。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の実施に適するイミダゾール化合物及びベンズイミダゾール化合物の代表的なものとしては、2-ペンチルイミダゾール、2-ウンデシル-4-メチルイミダゾール、2,4-ジメチルイミダゾール等の2-アルキルイミダゾール化合物、2-フェニルイミダゾール、2-トルイルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-ベンジルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ベンジルイミダゾール、2,4-ジフェニルイミダゾール、2,4,5-トリフェニルイミダゾール等の2-アリールイミダゾール化合物、2-ベンジルイミダゾール、2-ベンジル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルエチルイミダゾール、2-(2-フェニルエチル)イミダゾール、2-(2-フェニルペンチル)イミダゾール等の2-アラルキルイミダゾール化合物、2-プロピルベンズイミダゾール、2-ペンチルベンズイミダゾール、2-オクチルベンズイミダゾール、2-ノニルベンズイミダゾール、2-ヘキシル-5-メチルベンズイミダゾール、2-(2-メチルプロピル)ベンズイミダゾール、2-(1-エチルプロピル)ベンズイミダゾール、2-(1-エチルペンチル)ベンズイミダゾール等のアルキルベンズイミダゾール化合物、2-シクロヘキシルベンズイミダゾール、2-(2-シクロヘキシルエチル)ベンズイミダゾール、2-(5-シクロヘキシルペンチル)ベンズイミダゾール等の2-(シクロヘキシルアルキル)ベンズイミダゾール化合物、2-フェニルベンズイミダゾール、2-フェニル-5-メチルベンズイミダゾール等の2-アリールベンズイミダゾール化合物、2-ベンジルベンズイミダゾール、2-(2-フェニルエチル)ベンズイミダゾール、2-(5-フェニルペンチル)ベンズイミダゾール、2-(3-フェニルプロピル)-5-メチルベンズイミダゾール、2-(4-クロロベンジル)ベンズイミダゾール、2-(3,4-ジクロロベンジル)ベンズイミダゾール、2-(2,4-ジクロロベンジル)ベンズイミダゾール等の2-アラルキルベンズイミダゾール化合物、2-(メルカプトメチル)ベンズイミダゾール、2-(2-アミノエチル)ベンズイミダゾール、2,2’-エチレンジベンズイミダゾール、2-(1-ナフチルメチル)ベンズイミダゾール、2-(2-ピリジル)ベンズイミダゾール、2-(2-フェニルビニル)ベンズイミダゾール、2-(フェノキシメチル)ベンズイミダゾール、2-(フェノキシメチル)-5-メチルベンズイミダゾール等が挙げられる。
【0015】
本発明の実施において使用されるコンプレクサン化合物の代表的なものとしては、イミノ二酢酸(IDA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、1,2-ジアミノシクロヘキサン四酢酸(CyDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)、N,N-ビス(2-ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン二酢酸(HBED)、エチレンジアミン二プロピオン酸(EDDP)、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)、ジアミノプロパノール四酢酸(DPTA-OH)、ヘキサメチレンジアミン四酢酸(HDTA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、ジアミノプロパン四酢酸(Methyl-EDTA)、ニトリロ三プロピオン酸(NTP)等とこれらの塩類が挙げられる。
【0016】
本発明の実施において不可欠な鉄イオンを供給するのに好適な鉄化合物の代表的なものとしては、塩化鉄(II)、同(III)、臭化鉄(II)、同(III)、硝酸鉄(II)、同(III)、硫酸鉄(II)、同(III)、過塩素酸鉄(II)、同(III)、硫酸アンモニウム鉄(II)、硫酸アンモニウム鉄(III)、クエン酸鉄(III)アンモニウム、蓚酸鉄(III)アンモニウム、クエン酸鉄(III)、2-エチルヘキサン鉄(III)、フマル酸鉄(II)、乳酸鉄(II)、蓚酸鉄(II)等が挙げられる。
【0017】
本発明の実施においては、有効成分としてイミダゾール化合物あるいはベンズイミダゾール化合物を0.01?10重量%の割合、好ましくは0.1?5重量%の割合とし、鉄化合物は水溶液に対して0.0001?5重量%の割合、好ましくは0.001?1重量%の割合とし、コンプレクサン化合物は鉄イオン(モル濃度)に対して1?10倍モルの割合、好ましくは1?5倍モルの割合として添加すれば良い。
いずれのコンプレクサン化合物を使用した場合でも、コンプレクサン化合物は鉄イオンと安定なキレート化合物を形成するために、必要な最低限の濃度よりも過剰の濃度となるように添加することが好ましい。
【0018】
本発明の実施においては、イミダゾール化合物あるいはベンズイミダゾール化合物を水溶液化するために、有機酸もしくは無機酸を用いたり、少量の有機溶媒を併用することができる。この際に用いられる有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ヘプタン酸、カプリル酸、カプリン酸、ウラリル酸、グリコール酸、乳酸、アクリル酸、安息香酸、パラニトロ安息香酸、パラトルエンスルホン酸、サリチル酸、ピクリン酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、フマール酸、酒石酸、アジピン酸等であり、無機酸としては、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸等である。これらの酸は、水溶液に対し0.01?40重量%の割合、好ましくは0.2?20重量%の割合になるように添加すれば良い。
【0019】
また、この際に用いられる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコール類あるいはアセトン、N,N-ジメチルホルムアミドなどの水と混和させることのできるものである。
本発明の表面処理剤を用いて銅あるいは銅合金の表面を処理する際の条件としては、処理剤の液温を約20℃?60℃、接触時間を1秒ないし10分間の範囲が適当である。接触方法は、浸漬、噴霧、塗布などである。
【0020】
【実施例】
以下実施例及び比較例によって、本発明を具体的に説明する。なお、これらの試験において銅表面あるいは金メッキ表面などの金属表面における化成被膜の厚さは、次の方法によって測定した。
即ち、銅部分及び金メッキ部分を有するプリント配線板のテストパターン(以下「テストパターン1」と略す)を表面処理液に浸漬処理を行い、銅部分及び金メッキ部分に化成被膜を形成させたのち、銅部分及び金メッキ部分をそれぞれ所定の大きさに切り出し、0.5%の塩酸水溶液に浸漬して化成被膜を溶解させ、この塩酸水溶液中の有効成分の濃度を紫外分光光度計を用いて測定し、化成被膜の厚さに換算したものである。
また、化合物の配合比は、重量比率によって表したものである。
【0021】
〔実施例1〕
2-オクチルベンズイミダゾール0.4%、酢酸5.0%及びエチレンジアミン四酢酸を0.063%(2.15mM)を含む水溶液に鉄イオン濃度が10ppm(0.18mM)、30ppm(0.54mM)、50ppm(0.89mM)及び70ppmとなるように塩化鉄(III)・六水和物を加えて表面処理液を調製した。前記鉄イオン濃度が異なる表面処理液を用いて、プリント配線板(テストパターン1)を40℃/30,60秒浸漬処理を行い、銅表面及び金表面に形成された化成被膜の膜厚を測定した。
【0022】
これらの試験結果に基づき、表面処理液中の鉄イオン濃度と銅表面及び金表面における成膜速度の関係を図1及び図2に示した。
この結果によれば、コンプレクサンを含有する表面処理液に鉄イオンを微量加えることにより、金メッキ上にほとんど化成被膜が形成されず、銅表面に選択的に化成被膜が形成され、また銅表面における化成被膜が短期のうちに形成されることが判った。
【0023】
また、2-オクチルベンズイミダゾール0.4%、酢酸5.0%、塩化鉄(III)・六水和物0.024%(Feイオン=50ppm)及びエチレンジアミン四酢酸0.063%を含む水溶液からなる表面処理液を用いて、はんだ-銅混載基板を40℃の温度で60秒間浸漬処理を行い、はんだの変色、表面処理液の変質及び銅表面に対する造膜性を調べた結果は、表1に示したとおりであった。
【0024】
〔実施例2〕
2-オクチルベンズイミダゾール0.4%、酢酸5.0%及び鉄イオン濃度が30ppm(0.54mM)となるよう塩化鉄(II)・四水和物を加えた水溶液に、エチレンジアミン四酢酸を0.54mM、1.07mM、1.61mM及び2.15mM加えた表面処理液を調製した。前記エチレンジアミン四酢酸濃度が異なる各表面処理液を用いて、プリント配線板(テストパターン1)を40℃の温度で30秒及び60秒間浸漬処理を行い、銅表面及び金表面に形成された被膜の膜厚を測定した。表面処理液中のエチレンジアミン四酢酸の濃度と銅及び金表面の成膜速度の関係を図3及び図4に示した。
【0025】
これらの試験結果から、エチレンジアミン四酢酸の濃度が0ppmの場合では成膜速度が非常に遅く、40℃/60秒処理後でも銅表面の防錆に必要な膜厚が得られず、エチレンジアミン四酢酸の濃度が0.54mM以上であれば、銅表面の造膜性が顕著に向上していることが認められた。
実施例1,2の結果より、イミダゾールやベンズイミダゾールを含む表面処理液に鉄イオンとコンプレクサンを併用させることにより初めて、金メッキ上への化成被膜の形成を抑え、かつ銅上への化成被膜の造膜速度を著しく向上させることが判る。
【0026】
また、2-オクチルベンズイミダゾール0.4%、酢酸5.0%、塩化鉄(II)・四水和物0.0145%(Feイオン=30ppm)及びエチレンジアミン四酢酸0.032%(1.07mM)を含む水溶液からなる表面処理剤を用いて、はんだ-銅混載基板を40℃の温度で60秒間浸漬処理を行い、はんだの変色、表面処理液の変質及び銅表面に対する造膜性を調べた結果は、表1に示したとおりであった。
【0027】
〔実施例3〕
2-(4-シクロヘキシルブチル)ベンズイミダゾール0.50%、ギ酸4.5%、塩化鉄(II)・四水和物0.058%(Feイオン=120ppm)及びニトリロ三酢酸0.20%を含む水溶液からなる表面処理剤を調製した。
前記表面処理剤を40℃の温度に維持し、これにプリント配線板(テストパターン1)60秒間浸漬したのち、銅及び金の表面に形成された化成被膜の膜厚を測定したところ、銅表面は0.25μm、金表面は0.005μmであった。
【0028】
また、前記表面処理液にはんだ-銅混載基板を40℃の温度で60秒間浸漬し、はんだの変色、処理液の変質及び銅表面の造膜性を調べた結果は、表1に示したとおりであった。
【0029】
〔実施例4〕
2-(5-フェニルペンチル)ベンズイミダゾール0.25%、酢酸5.0%、硫酸鉄(III)0.043%(Feイオン=60ppm)及びジエチレントリアミン五酢酸0.20%を含む水溶液からなる表面処理剤を調製した。
前記表面処理剤を40℃の温度に維持し、これにプリント配線板(テストパターン1)を60秒間浸漬したのち、銅及び金の表面に形成された化成被膜の膜厚を測定したところ、銅表面は0.31μm、金表面は0.003μmであった。
【0030】
また、前記表面処理液にはんだ-銅混載基板を40℃の温度で60秒間浸漬し、はんだの変色、処理液の変質及び銅表面の造膜性を調べた結果は、表1に示したとおりであった。
【0031】
〔実施例5〕
2-(1-プロピルブチル)ベンズイミダゾール0.25%、ギ酸5.0%、塩化鉄(III)・六水和物0.043%(Feイオン=90ppm)及びトリエチレンテトラミン六酢酸0.40%を含む水溶液からなる表面処理剤を調製した。
前記表面処理剤を40℃の温度に維持し、これにプリント配線板(テストパターン1)を60秒間浸漬したのち、銅及び金の表面に形成された化成被膜の膜厚を測定したところ、銅表面は0.28μm、金表面は0.004μmであった。
【0032】
また、前記表面処理液にはんだ-銅混載基板を40℃の温度で60秒間浸漬し、はんだの変色、処理液の変質及び銅表面の造膜性を調べた結果は、表1に示したとおりであった。
【0033】
〔実施例6〕
2-ノニルベンズイミダゾール0.30%、酢酸6.0%塩化鉄(III)・六水和物0.005%(Feイオン=10ppm)及びグリコールエーテルジアミン四酢酸0.034%を含む水溶液からなる表面処理剤を調製した。
前記表面処理剤を40℃の温度に維持し、これにプリント配線板(テストパターン1)を60秒間浸漬したのち、銅及び金の表面に形成された化成被膜の膜厚を測定したところ、銅表面は0.35μm、金表面は0.003μmであった。
【0034】
また、前記表面処理液にはんだ-銅混載基板を40℃の温度で60秒間浸漬し、はんだの変色、処理液の変質及び銅表面の造膜性を調べた結果は、表1に示したとおりであった。
【0035】
〔実施例7〕
2-フェニル-4-ベンジルイミダゾール0.25%、酢酸5.0%、塩化鉄(III)・六水和物0.043%(Feイオン=150ppm)及び1,2-ジアミノシクロヘキサン四酢酸0.50%を含む水溶液からなる表面処理剤を調製した。
前記表面処理剤を40℃の温度に維持し、これにプリント配線板(テストパターン1)を60秒間浸漬したのち、銅及び金の表面に形成された化成被膜の膜厚を測定したところ、銅表面は0.24μm、金表面は0.003μmであった。
【0036】
また、前記表面処理液にはんだ-銅混載基板を40℃の温度で60秒間浸漬し、はんだの変色、処理液の変質及び銅表面の造膜性を調べた結果は、表1に示したとおりであった。
【0037】
〔実施例8〕
2,4-ジフェニル-5-メチルイミダゾール1.0%、酢酸5.0%、クエン酸鉄0.039%(Feイオン=150ppm)及びエチレンジアミン四酢酸0.24%を含む水溶液からなる表面処理剤を調製した。
前記表面処理剤を40℃の温度に維持し、これにプリント配線板(テストパターン1)を60秒間浸漬したのち、銅及び金の表面に形成された化成被膜の膜厚を測定したところ、銅表面は0.23μm、金表面は0.005μmであった。
【0038】
また、前記表面処理液にはんだ-銅混載基板を40℃の温度で60秒間浸漬し、はんだの変色、処理液の変質及び銅表面の造膜性を調べた結果は、表1に示したとおりであった。
【0039】
〔実施例9〕
2-ウンデシル-4-メチルイミダゾール1.0%、酢酸1.0%、塩化鉄(III)・六水和物0.029%(Feイオン=60ppm)及びエチレンジアミン四酢酸0.16%を含む水溶液からなる表面処理剤を調製した。
前記表面処理剤を40℃の温度に維持し、これにプリント配線板(テストパターン1)を60秒間浸漬したのち、銅及び金の表面に形成された化成被膜の膜厚を測定したところ、銅表面は0.44μm、金表面は0.006μmであった。
【0040】
また、前記表面処理液にはんだ-銅混載基板を40℃の温度で60秒間浸漬し、はんだの変色、処理液の変質及び銅表面の造膜性を調べた結果は、表1に示したとおりであった。
【0041】
〔比較例1〕
2-オクチルベンズイミダゾール0.4%、酢酸5.0%を含む水溶液からなる表面処理剤を調製し、40℃の温度に維持し、これにプリント配線板(テストパターン1)を60秒間浸漬したのち、銅及び金の表面に形成された化成被膜の膜厚を測定したところ、銅表面は0.12μm、金表面は0.006μmであった。この試験においては、処理液に金属イオンが含まれていないので、銅表面の被膜が使用に耐える厚みに達していない。
【0042】
また、前記表面処理液にはんだ-銅混載基板を40℃の温度で60秒間浸漬し、はんだの変色、処理液の変質及び銅表面の造膜性を調べた結果は、表1に示したとおりであった。
【0043】
〔比較例2〕
2-オクチルベンズイミダゾール0.4%、酢酸5.0%及び塩化第二銅・二水和物0.008%(銅イオン濃度=30ppm)を含む水溶液からなる表面処理剤を調製し、比較例1と同様にしてプリント配線板の表面処理を行ったところ、銅表面の化成被膜は0.20μm、金表面は0.12μmであり、銅上への造膜性は向上しているが、同時に金属面にも化成被膜が厚く形成されていた。
【0044】
また、前記表面処理液にはんだ-銅混載基板を40℃の温度で60秒間浸漬し、はんだの変色、処理液の変質及び銅表面の造膜性を調べた結果は、表1に示したとおりであった。
【0045】
〔比較例3〕
2-オクチルベンズイミダゾール0.4%、酢酸5.0%、塩化第二銅・二水和物0.008%(銅イオン濃度=30ppm)及びエチレンジアミン四酢酸0.155%(5.30mM)を含む表面処理剤を調製し、比較例1と同様にしてプリント配線板の表面処理を行った結果、銅表面の膜厚は0.11μm、金表面の膜厚は0.03μmであり、銅イオンがコンプレクサンに捕捉され、銅表面に対する造膜性は良くなかった。
【0046】
また、前記表面処理液にはんだ-銅混載基板を40℃の温度で60秒間浸漬し、はんだの変色、処理液の変質及び銅表面の造膜性を調べた結果は、表1に示したとおりであった。
【0047】
【表1】

【0048】
【発明の効果】
本発明の表面処理剤によれば、銅あるいは銅合金の表面にのみ選択的に化成被膜を形成し、金メッキ、はんだメッキ等、銅以外の異種金属に対してはほとんど化成被膜を生じないので、銅パターン上に金メッキ、はんだメッキなどの異種金属を施したプリント配線板などの表面処理において、これら異種金属をマスキングすることなく、直かに銅回路部の表面処理を為し得るものであり、また銅金属に対する造膜性が良好でしかも処理液が安定しているため、この種のプリント配線板などの生産性を飛躍的に高めることが出来るなど実践面の効果は多大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1における本発明表面処理剤の処理時間と銅表面の造膜性の関係を示すグラフ。
【図2】実施例1における本発明表面処理剤の処理時間と金表面の造膜性の関係を示すグラフ。
【図3】実施例2における本発明表面処理剤の処理時間と銅表面の造膜性の関係を示すグラフ。
【図4】実施例2における本発明表面処理剤の処理時間と金表面の造膜性の関係を示すグラフ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2011-05-30 
結審通知日 2011-06-01 
審決日 2011-07-01 
出願番号 特願平8-271722
審決分類 P 1 113・ 121- YA (C23C)
P 1 113・ 536- YA (C23C)
P 1 113・ 113- YA (C23C)
P 1 113・ 537- YA (C23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 正紀  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 川村 健一
川端 修
登録日 2004-04-23 
登録番号 特許第3547028号(P3547028)
発明の名称 銅及び銅合金の表面処理剤  
代理人 赤堀 龍吾  
代理人 山田 威一郎  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 森田 秀彦  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 森崎 博之  
代理人 山田 威一郎  
代理人 赤堀 龍吾  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 森田 秀彦  
代理人 平林 拓人  
代理人 森崎 博之  
代理人 加藤 幸江  
代理人 加藤 幸江  
代理人 平林 拓人  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ