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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  A61M
管理番号 1276577
審判番号 無効2012-800046  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-04-05 
確定日 2013-07-12 
事件の表示 上記当事者間の特許第2588375号発明「医療器具を挿入しその後保護する安全装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
(1)本件特許第2588375号に係る発明(以下、単に「本件発明」という。)は、平成6年11月15日(パリ条約による優先権主張 1993年11月15日(以下「優先日」という。) 米国)に特許出願され、平成8年12月5日にその発明について特許の設定登録がなされたものである。
(2)本件審判は、平成24年4月5日に、メディキット株式会社外1名が特許請求の範囲の請求項7及び8に係る発明(以下、それぞれを「本件特許発明7」及び「本件特許発明8という。)についての特許を無効とするとの審決を求めて請求した無効審判事件である。
(3)これに対し、被請求人は、平成24年7月30日付けで答弁書を提出した。
(4)その後、請求人は平成24年10月16日付けで口頭審理陳述要領書を提出し、被請求人は、平成24年10月16日付けで口頭審理陳述要領書を提出し、平成24年10月30日に口頭審理が実施された。
(5)さらに、請求人は平成24年11月9日付けで上申書を提出した。

II.本件特許発明7,8
(1)本件特許について、被請求人は、本件特許に係る無効2009-800190号において、平成21年12月24日付けで請求項8について訂正請求を行い、該訂正請求は平成22年8月3日付け審決によって認容され、当該審決は平成24年2月27日に確定登録された。
(2)したがって、本件特許発明7,8は、上記平成21年12月24日付け訂正請求書に添付した特許請求の範囲の請求項7,8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、本件特許のうち、特許請求の範囲の請求項1,3,5に係る発明について、それらの特許を無効とする確定登録が平成23年11月30日にされているが、請求項7は請求項1を引用して記載するものであって、請求項8は、当該請求項7を引用して記載するものであるので、請求項1についても同時に示す。
「【請求項1】 カニューレの如き医療器具を患者の体内へ挿入し且つその後患者の体内にあった該装置の部分に人が接触しないように保護するための安全装置において、
患者を穿刺し、前記医療器具を患者の体内の適所へ案内して搬送する中空針であって、少なくとも1つの鋭利な端部を有する軸を具備する中空針と、
人の指が届かないように、少なくとも前記針の鋭利な端部を包囲するようになされた中空のハンドルと、
前記鋭利な端部を前記ハンドルから突出させた状態で前記軸を前記ハンドルに固定する固定手段と、
前記固定手段を解除し、前記針の鋭利な端部を人の指が届かないように前記ハンドルの中へ実質的に永続的に後退させる解除/後退手段であって、前記針の軸よりも実質的に短い距離だけ簡単且つ単一の動作によって手操作で作動可能な解除/後退手段と、
前記後退のエネルギの一部を吸収するためのエネルギ吸収手段とを備えることを特徴とする安全装置。
【請求項7】 請求項1の安全装置において、
前記中空針の中からの血液を収容する共に、前記後退によって生ずる力に抗して、前記針が後退する間に及び該後退の後に、前記血液を確実に保持するための収容/保持手段とを更に備えることを特徴とする安全装置。
【請求項8】 請求項7の安全装置において、
前記収容/保持手段が、前記針と共に運動するように固定された室を備え、前記後退によって生ずる力から前記室の内部を隔離するための隔離手段を更に備えることを特徴とする安全装置。 」

III.当事者の主張(概要)
1.請求人の主張(概要)
請求人は、「特許第2588375号の特許請求の範囲の請求項7及び8に係る発明を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」(請求の趣旨)との審決を求め、証拠方法として以下の甲第1号証?甲第52号証を提出し、無効とすべき理由を次のように主張している。
(1)無効理由
本件特許発明7および本件特許発明8は、甲第1号証の1、甲第2号証に記載された発明および甲第3号証ないし甲第33号証(甲第12号証を除く。)に記載された周知技術ならびに甲12号証に記載された発明および甲第34号証ないし甲第52号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許発明7及び本件特許発明8に係る特許は特許法第123条第1項第2号の規定により、無効とされるべきである。
(当審注:以下に示すとおり甲号証があるが、一部欠番となっている。)

[証拠方法]
甲第1号証の1 特開平3-15481号公報
甲第1号証の2 米国特許第4747831号明細書
甲第2号証 特表平5-500621号公報
甲第3号証 特表平3-502421号公報
甲第4号証 米国特許第5211629号明細書
甲第5号証 米国特許第4927414号明細書
甲第6号証 国際公開第92/018187号
甲第7号証 米国特許第4828548号明細書
甲第8号証 米国特許第4900307号明細書
甲第9号証 特開昭63-315063号公報
甲第10号証 特表昭61-502869号公報
甲第11号証 特表昭62-502874号公報
甲第11号証の2 米国特許第3882863号明細書
甲第11号証の3 米国特許第1434381号明細書
甲第12号証 米国特許第5135505号明細書
甲第13号証 実公昭61-31558号公報
甲第14号証 特公昭60-538号公報
甲第15号証 特公昭58-33123号公報
甲第16号証 実公昭60-10738号公報
甲第17号証 実公昭58-48065号公報
甲第18号証 特開平4-90398号公報
甲第19号証 特公昭58-15721号公報
甲第20号証 実公昭61-40864号公報
甲第21号証 特開平1-279128号公報
甲第22号証 特開平2-300479号公報
甲第23号証 特開平3-157530号公報
甲第24号証 欠番
甲第25号証 特開昭63-143182号公報
甲第26号証 実願昭63-14341(実開平1-120118)のマイクロフィルム
甲第27号証 欠番
甲第28号証 機械設計および機構ハンドブック 第2版, 1985年(初版は1964年)
甲第29号証 特公昭55-17742号ほかについての報告書
甲第30号証 駐退機・複座機について
http://sus3041.web.infoseek.co.jp/contents/gun_meca/recoi_runout.htm
甲第31号証 銃の構造の話 第二章 小型オートマチック(自動)拳 銃
http://www2.odn.ne.jp/~cdh17500/Untiku/Kouzou_02_00.htm
甲第32号証 審決(無効2010-800147)
甲第33号証の1 書簡
甲第33号証の2 封筒
甲第34号証 米国特許第5102394号明細書
甲第35号証 特開平4-295373号公報
甲第36号証 特開平4-224768号公報
甲第37号証 特開平3-4875号公報
甲第38号証 テルモサーフロー留置針C型のパンフレット, 1985年8月27日発行
甲第39号証 ニプロセーフレットキャスのパンフレット, 1987年4月発行
甲第40号証 米国特許第5205829号明細書
甲第41号証 特公昭62-13025号公報
甲第42号証?甲第45号証 欠番
甲第46号証 被請求人の平成20年(ワ)第33536号の準備書面
甲第47号証 報告書
甲第48号証 別冊・医学のあゆみ 各科に役立つ緊急処置・処方マニュアル
甲第49号証 救急マニュアル-救急初療から救命処置まで
甲第50号証 標準 透析療法
甲第51号証 輸液療法入門
甲第52号証 米国特許第5013304号明細書

2.被請求人の主張(概要)
被請求人は、請求人が主張する無効理由によっては、本件特許発明7及び8を無効にすることはできず、本件審判請求は成り立たない旨を主張し、証拠方法として以下の乙第1号証及び乙第2号証を提出している。
[証拠方法]
(1)乙第1号証 平成22年(行ケ)第10295号判決
(2)乙第2号証 無効2011-800061審決

IV.甲第1号証の1ないし甲第52号証
(1)-1 甲第1号証の1の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証の1(特開平3-15481号公報)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(ア)「カニューレを患者の中に挿入しその後で患者内にあった装置部分との接触から人々を保護するに当たって使用される安全装置であって、
前記患者に突き刺し前記カニューレを前記患者内の定位置に案内し運ぶための針であって、少なくとも1つの鋭い端を備えた軸を有する針と、
前記人々の指が届かないように前記針の少なくとも鋭い端を封包するようになされた中空ハンドルと、
前記鋭い端がハンドルから突出した状態で前記軸をハンドルに固着するための手段と、
前記固着手段を解除し且つ前記人々の指が届かないように前記針の鋭い端をハンドル内へ実質的に永久的に後退させるための手段とから成り、
前記解除および後退手段は針の軸よりも実質的に短い振幅の単純な一体運動により手動で作動可能であることを特徴とする安全装置。」(特許請求の範囲、請求項1)
(イ)「ハンドル10は好ましくはポリカーボネート等のプラスチックから射出成形されたものだが、必ずしもそうでなくてもよい。」(10頁左下欄7行?9行)
(ウ)「孔12の後端の近くには、内方に円錐台状のストッパ表面14が形成されて孔12を僅かに挟めている。孔12の極端には、ハンドル10の後端にて開口する短い端部13がある。」(11頁左上欄12行?16行)
(エ)「キャリヤブロック30はきわめて狭い中心穴を有し、この穴の中に針50がきっちりと把持されている。同じくデルリン製のブロック30は針上に圧嵌、縮嵌および/または接合するか、あるいは定位置に成形してよい。キャリヤブロック30の外側は円形的に対称である。それは真円筒形でもよい突出筒31を有する。この筒31の後端には前端が筒31に対して半径方向に拡大された円錐台状のストッパ部分32がある。このストッパ部分はブロック30の後端に向けて内方にテーパしている。
ストッパ部分の円錐台状の後面は針を完全に後退させた時にハンドル10の前述した内側円錐台状ストッパ部分13に対して着座するようになされている。」(11頁左下欄16行?右下欄11行)
(オ)「多分明瞭には図示されていないこの好ましい実施例のもう1つの望ましい特徴を次に挙げておく。トリガーが作動されていない時にハンドル10の内側孔12に対して流体密封を与えるように、キャリヤブロックの円錐台状ストッパ部分32の大きな端の直径を僅かに増大させることが好ましい。
この配置は、ストッパ部分32の前方にあるばね、内部空洞等の多くの複雑な表面における衛生の維持への信頼を最小限に抑えることにより中空針を介しての効果的な流体連通を容易にする。」(14頁左下欄9行?20行)

(1)-2 甲第1号証の1に記載された発明の認定
上記記載事項及び図示事項を総合すると、甲第1号証の1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「a:カニューレを患者の中に挿入しその後で患者内にあった装置部分との接触から人々を保護するに当たって使用される安全装置であって、
b:前記患者に突き刺し前記カニューレを前記患者内の定位置に案内し運ぶための針であって、少なくとも1つの鋭い端を備えた軸を有する針と、
c:前記人々の指が届かないように前記針の少なくとも鋭い端を封包するようになされた中空ハンドルと、
d:前記鋭い端がハンドルから突出した状態で前記軸をハンドルに固着するための手段と、
e:前記固着手段を解除し且つ前記人々の指が届かないように前記針の鋭い端をハンドル内へ実質的に永久的に後退させるための手段とから成り、前記解除および後退手段は針の軸よりも実質的に短い振幅の単純な一体運動により手動で作動可能であり、
f’:針を保持するキャリヤブロックの外面とハンドルの内面とは、トリガーが作動されていない時に流体密封しており、針を保持するキャリヤブロックの後面はデルリン製であり、完全に後退したときにハンドルの内側ストッパ部分に着座する
h:ことを特徴とする安全装置。」

(2)-1 甲第2号証(特表平5-500621号公報)の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証には以下の記載がある。
(カ)「本体と、この本体内に取付けたプランジヤと、針ホルダと、前記プランジヤの注射ストロークの後の再後退によって針を前記本体内の遮蔽位置に引込むよう注射ストーロクの終わりに前記針ホルダに前記プランジヤを連結する手段と、注射ストロークの後に挿入ストロークによって付勢され前記プランジヤと前記針とを後退させるエネルギ貯蔵手段とを具え、前記本体と前記プランジヤとの間に画成した空間内に弾性制動手段を配置し、前記本体と前記プランジヤとの一方に前記弾性制動手段を配置し、注射ストローク後前記プランジヤと前記針との後退を遅らせるのに十分であるが停止させない程度に前記本体と前記プランジヤとの他方に前記弾性制動手段を圧着することを特徴とする注射器。」(請求の範囲、請求項3)
(キ)「プランジヤを自動的に後退させる上記の先行技術では、プランジヤを押込んだ状態に保持する手の圧力を除くと、ばねが伸長した状態になろうとして直ちにプランジヤの復帰を開始し、同時に注射針の注射器の本体内への後退が開始される欠点がある。このため、注射器が患者の身体から完全に去るまで、操作者が押込まれたプランジヤを意識して保持しない限り、患者の組織が傷つき、希望しないのに不随意に注射器内に患者の血液が吸引される恐れがある。本発明の第2の要旨では注射針の注射器本体内への後退の少なくとも最初の段階で、その後退早さを遅らせる制動手段を設ける。」(2頁右下欄10行?19行)

(2)-2 甲第2号証に記載された発明
上記甲第2号証の記載によれば、甲第2号証には、「注射後に、針ホルダに連結したプランジヤを自動的に後退させると、患者の組織が傷ついたり患者の血液が吸引される恐れがあることを防止するため、注射器本体とプランジヤとの一方に弾性制動手段を配置し、プランジヤと針との後退速度を遅らせる注射器。」の発明が記載されている。

(甲第3号証?甲第33号証については、甲第12号証を除き、省略)

(3)-1 甲第12号証(米国特許第5135505号明細書)の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第12号証には、以下の記載がある。(「」内の翻訳は甲第12号証に対応するパテントファミリーの特開平6-277284号公報によっている。)
(ク)「The present invention relates to protective catheter devices. More particularly, the present invention relates to catheter devices which provide for the insertion of a needle and for the protection of the user thereof. Still more particularly, the present invention relates to such protective catheter devices of the angiocath type useful for the implantation of plastic cannulae. Still more particularly, the present invention also relates to IV catheter devices of various types. 」「本発明は、保護カテーテル装置、より詳細には、針の挿入とカテーテル装置の使用者の保護とを行なうカテーテル装置に関する。更に詳細に述べると、本発明は、プラスチック製カニューレの挿入に有用な血管カテーテル(angiocath)タイプの保護カテーテル装置に関する。更に詳細には、本発明はまた、種々のタイプのIVカテーテル装置に関する。」(1欄3行目?11行目)
(ケ)「The number of devices which have recently been developed for use in connection with various catheters and which are specifically intended to prevent accidents from occurring upon removal of the needles employed therewith has grown dramatically. This has primarily been the result of concern among nurses and other medical personnel for the onset of infectious diseases, including the problem of AIDS, which has resulted from the handling of needles, catheters, cannulas and the like. Thus, the disease of AIDS and other such infectious diseases have been known to occur upon accidental pricking of such personnel from such needles after they have been removed from patients.」「種々のカテーテルに関して使用するために開発され、かつ、針を除去するときに事故が起きないように特に意図されている装置の数が急激に増えている。これは、主として、針、カテーテル、カニューレなどを取り扱う際に生ずるエイズの問題をはじめとする伝染病の感染に対して看護婦その他の医療従事者の間での関心の高まりによるものである。エイズその他の伝染病の感染は、かかる医療従事者が針を患者から外した後に針が不意に刺さったときに生ずることが知られている。」(1欄13行目?25行目)
(コ)「Reference to catheters throughout this application is intended to relate to the large number of variations of needle-containing devices of this type. These not only include intravenous catheters, which include a combination of elements for passing fluid to or from a fluid-carrying conduit or blood vessel in a patient, as well as angiocath-type devices, which employ a needle for the implantation of a plastic cannula or the like which can remain within the patient even after removal of the steel or other metallic needle used therewith. 」「本明細書全体を通じて使用されているカテーテルなる語は、かかるタイプの針を含む数多くの種々の装置を示すのに使用されている。カテーテルには、流体を患者の流体移送導管または血管に対して通す素子の組合わせを備える静脈カテーテルだけでなく、鋼その他の金属製の使用済の針を取り出した後においても、患者内に留まることができるプラスチック製カニューレなどを挿入するための針を使用する血管カテーテルタイプの装置がある。」(1欄26行目?35行目)
(サ)「Thus, in the case of the various intravenous-type catheters, a tubular conduit is generally employed with a connector at one end in order to connect the tubular conduit into a source of enteral fluid for delivery to the patient or to a reservoir for receiving fluid from the patient, and a second connector at the opposite end from the first connector which is fixedly or removably connectable to the needle. 」「かくして、種々の静脈タイプのカテーテルの場合には、管状導管が一般に使用され、この管状導管は患者給送用の腸内流体源または患者からの流体をうける溜めに接続するように一端にコネクタを有するとともに、第1のコネクタとは反対側の端部には針に固定したまたは取り外し自在に接続可能な第2のコネクタを備えている。」(1欄36行目?43行目)
(シ)「On the other hand, in the case of angiocath-type devices, these can include a chamber for the removal of a small amount of bodily fluid or blood upon implantation, primarily to determine that the device is in proper working order and that the plastic cannula has been properly implanted, but which is then removed along with the needle so that the plastic cannula can serve various purposes, including subsequent use for the removal or insertion of fluids, etc.」「これに対して、血管カテーテルタイプの装置の場合には、装置が適正な作業順序にあるかおよびプラスチックカニューレが適正に挿入されたかを主としてみるために、挿入したときに少量の体液または血液を取り出すための室を備えているが、カニューレは、流体の取出しまたは注入などのためのその後の使用をはじめとする種々の目的に使用することができるように針とともに取り外される。」(1欄44行目?52行目)
(ス)「In each of these cases, the problems of exposure to the needles, whether they are used solely for implantation of plastic cannulae or for intravenous applications themselves, have been considerable.」「いずれの場合においても、カテーテルがプラスチックカニューレの挿入のためにのみ使用されるか、あるいはそれ自体を静脈内で使用するかどうかに拘らず、針に触れてしまうという問題はかなりのものとなる。」(1欄53行目?56行目)
(セ)「A recent significant advance in this field is represented by U.S. Pat. No. 4,966,589 ・・・ to the present applicant, in which composite catheter assemblies are disclosed for this purpose. These include an embodiment in which, after removal, the needle can be readily withdrawn into a closed chamber so that it is no longer exposed and no longer presents a danger to medical personnel. In the devices shown in the '589 patent, retraction of a contaminated needle into the barrel is effected by depressing manual button 42 to release ratchet 36 and thus permit spring 28 to expand and move the carrier 26 to its retracted position within chamber 19. 」「本技術分野における最近の有意の進歩が,上記した目的のために使用する複合カテーテルアセンブリを開示する米国特許第4,966,589号・・・において見られる。このアセンブリの実施例として、針を取り外した後は、医療従事者が針に触れることはなく、しかも医療従事者に危険を及ぼさないように針を密閉室に容易に引っ込めることができる実施例がある。上記米国特許に記載の装置においては、汚染された針は筒に引っ込められるが、これは手動ボタンを押してラチェット36を解放することによりばね28を伸ばし、キャリヤ26を室19内の引っ込み位置へ移動させることにより行なわれる。」(1欄57行目?2欄5行目。)
(ソ)「While this device has thus provided a rather significant improvement in this field, the search has continued for additional improvements, and, in particular, for such protective catheter devices which include extension and retraction mechanisms with fixed positions for controlling the various placements of the needle itself within and without these devices. 」「この装置は、本技術分野においてむしろ有意の改良を提供しているが、更に改良を求める研究、特に、これらの装置の内外での針自体の種々の位置を制御するため所定の位置を有する伸長および引っ込み機構を備えた保護カテーテル装置に対する研究が続けられている。」(2欄6行目?12行目)
(タ)「In accordance with the present invention, these and other objects have now been realized by the invention of a protective catheter device which comprises needle means, barrel means for housing the needle means, with the needle means being slidably retained within the barrel means for slidable movement from a protected position entirely within the barrel means to an extended position with the needle means extending from the barrel means, whereby the needle means may be inserted into a patient, and positionable locking means for controlling that position of the needle means within the barrel means, the positionable locking means having at least two positions including a first position in which the needle means is freely slidable within the barrel means, and a second position in which the needle means is locked in the protected position within the barrel means whereby the needle means cannot be displaced from that protected position without repositioning the positionable locking means. 」「上記のように、本発明の保護カテーテル装置は、針手段と、該針手段を収容するバレル手段とを備え、前記針手段は前記バレル手段内全体の保護位置から前記針手段が前記バレル手段から延びる伸長位置まで摺動することができるように前記バレル手段内に摺動自在に保持され、前記針手段を患者に挿入することができるようになっている保護カテーテル装置に向けられている。このカテーテル装置は、前記バレル手段内の前記針手段の前記位置を制御する位置決め自在のロック手段を備えている。この位置決め自在のロック手段は、前記針手段が前記バレル手段の中で自由に摺動することができる第1の位置と前記針手段が前記バレル手段内の前記保護位置においてロックされる第2の位置とを含む少なくとも2つの位置を有することにより、前記針手段が前記位置決め自在のロック手段を再配置せずには前記保護位置から変位することができないようにしている。」(2欄14行目?32行目)
(チ)「In accordance with another embodiment of the protective catheter device of the present invention, the positionable locking means has a third position in which the needle means is locked in the extended position whereby the needle means cannot be displaced from the extended position without repositioning the positionable locking means. 」「位置決め自在のロック手段は,針手段が伸長位置においてロックされる第3の位置を有することができ,これにより,針手段は位置決め自在のロック手段を再配置せずには伸長位置から変位することができないようにしている。」(3欄1行目?7行目)
(ツ)「In accordance with another embodiment of the protective catheter device of the present invention, when the positionable locking means is in the second position, the needle means can be locked in either the protected position or the extended position.」「位置決め自在のロック手段が第2の位置にあるときには、針手段は保護位置または伸長位置にロックすることができる。」(3欄8行目?12行目)
「In accordance with another embodiment of the protective catheter device of the present invention, the positionable locking means has a third position in which the needle means is slidable from the protected position towards the extended position but is prevented from slidable movement from the extended position towards the protected position.」「あるいは、位置決め自在のロック手段は、針手段が保護位置から伸長位置へ向けて摺勤するが、伸長位置から保護位置へ向けて摺勤しないようにする第3の位置を有することができる。」(3欄13行目?19行目)
(テ)「In accordance with a preferred embodiment of the protective catheter device of the present invention, implantable cannula means are provided mounted on the barrel means whereby when the needle means is in the extended position, the needle means projects through the implantable cannula means and the implantable cannula means may be implanted in the patient when the needle means is inserted into the patient. In a preferred embodiment, the implantable cannula means comprises plastic.」「更に、挿入自在のカニューレ手段をバレル手段に配設することにより、針手段が伸長位置にあるときに針手段が挿入自在のカニューレ手段を介して突出することができ、かつ、針手段が患者に挿入されたときに挿入自在のカニューレ手段が患者に挿入することができるようにしている。挿入自在のカニューレ手段はプラスチック材料から形成することができる。」(4欄6行目?15行目)
(ト)「In accordance with a preferred embodiment of the protective catheter device of the present invention, the first and second positions of the positionable locking means are fixed first and second positions. 」「位置決め自在のロック手段は、固定された第1および第2の位置とすることができる。」(4欄16行目?19行目)
(ナ)「The rear face of catheter body 107 includes a rear wall portion 108. This rear wall portion portion 108 can be more clearly seen in FIG. 22, and includes two depending lip members 108a and 108b which can be affixed to the walls of the catheter body 107, or which can fit into a groove 99 therein. The center of wall portion 108 includes an aperture 108c, which is sealed by a membrane 108d extending thereacross. This membrane 108d is intended to permit air within the inner chamber 117 of the catheter body 107 to exit therefrom, while, at the same time, preventing any liquid therein from passing therethrough. This membrane 108d seals off central opening 117 into which the distal end of hollow needle 103 enters. Thus, blood or other fluid entering needle 103 can flow into the aperture 117 within the catheter body 107 and fill same. The presence of membrane 108d permits this to occur by permitting air to exit through the membrane 108d so that the liquid enters cavity 117. 」「カテーテル本体107の後面は、後壁部108を有する。この後壁部は、図22に明瞭に示されるように、カテーテル本体107の壁に固着することができ、あるいはカテーテル本体107の溝99に挿着することができる2つの突出するリップ部材108aと108bとを備えている。壁部108の中心には開口108cが形成され、該開口は該開口を横切って延びる膜108dによりシールされている。この膜108dにより、カテーテル本体107の内部室内の空気が内部室から出ることができると同時に、内部室内の液体が膜を通過するのを防止することができる。この膜108dは、中空の針103の先端が入る中央開口117を封止する。かくして、針103に入る血液その他の流体はカテーテル本体107内のキャビティ117に流れ込んで、開口を満たすことができる。これが達成されるのは、膜108dを配設したことにより、空気が膜108dを介して出ることができるので、液体がキヤビティ117に入ることができるからである。(10欄33行目?50行目)
(ニ)「In the configuration of this catheter device as is shown in FIGS. 16 and 20, the needle 103 is partially surrounded by a plastic cannula 119. In the embodiment shown, this plastic cannula 119 is produced from flexible plastic such as Teflon, or from silicone rubber and the like, and includes an elongated cylindrical section which covers a substantial portion of needle 103, but whose cylindrical end portion terminates a short distance from the tip of needle 103. In this manner, needle 103 can be used to insert the cannula 119 into the patient simultaneously with the needle 103. In the embodiment shown, however, the distal end of the plastic cannula 119, to which the elongated cylindrical section is attached, includes a cover portion 121 extending therefrom. Cover portion 121 has an essentially conical configuration, the inner end 121a thereof surrounding the opening into the interior of barrel member 105. The forward end of cover portion 121 includes a collar portion 122, which leads to the elongated cylindrical portion of cannula 119, which is intended to enter the patient. Thus, needle 103 can be inserted along with plastic cannula 119. Upon subsequent removal of needle 103, the plastic cannula 119, including attached cover portion 121, will remain in the patient. This can be more particularly seen in FIG. 25, and will be discussed in more detail below. 」「図16および図20に示すかかるカテーテル装置の構成においては、針103は、一部がプラスチックカニューレにより囲まれている。図示の実施例においては、このプラスチックカニューレ119は、テフロンのような可撓性のあるプラスチックまたはシリコーンゴムなどから形成され、針103の実質的な部分を覆う細長い円筒部を備えているが、その円筒端部は針103の先端から短い距離のところで終端している。かくして、針103は、カニューレ119を針103と同時に患者に挿入するのに使用することができる。しかしながら、図示の実施例においては、細長い円筒部が取着されるプラスチックカニューレ119の先端は、該先端から延びるカバー部121を有している。カバー部121は実質上円錐形をなし、内側端部121aはバレル部材105の内部へ通じる開口を囲んでいる。カバー部121の前端には、患者に挿入されるように構成されたカニューレ119の細長い円筒部に通じるカラー部122が配設されている。かくして、針103は、プラスチツクカニューレ119とともに挿入することができる。針をその後取り外すと、カバー部121を有するプラスチツクカニューレ119は、患者内に留まる。これは、図25により詳細に示されており、一層詳細に後述する。」(10欄51行目?11欄8行目)
(ヌ)「Forward of the reservoir 117 in the catheter body 107, there is a reduced diameter portion 107a of catheter body 107. In this manner, between the wall portion 117a of the rear expanded portion of the catheter body 107 forming chamber 117, and the inner face of front wall portion 105a of the barrel member 105, an elongated, resilient, coiled spring member 142 is located. This spring member 142 is in its compressed state as shown in FIG. 20, and is compressed between these two wall portions 105a and 117a, thus exerting considerable force which tends to urge the catheter body 107 rearwardly. However, because of the location of handle 109 in the locked position shown in FIG. 20, such that inwardly projecting elbows 113a and 113b are projecting inwardly into the inner surface of the barrel member 105, so as to block rear wall 108 thereof, the catheter 107 remains in its fully extended position. 」「カテーテル本体107内の溜め117の前方には、カテーテル本体107の縮径部107aが形成されている。このようにして、室117を形成するカテーテル本体107の後部拡大部の壁部107aとバレル部材105の前壁部105aの内面との間には、弾性のある細長いコイルばね部材142が配置されている。このばね部材142は図20に示すように圧縮状態にあり、これら2つの壁部105aと117aとの間で圧縮されることにより、カテーテル本体107を後方へ付勢するかなりの力を発生させる。しかしながら、ハンドル109は図20に示すロック位置に配置され、内方へ突出するエルボ113aと113bは、バレル部材105の内面へ内方へ突出して後壁108をブロックしているので、カテーテル107は完全に伸長した状態に保持される。」(11欄9行目?25行目)
(ネ)「An inner guide bar 143 is located within the coiled spring 142 and is affixed to the wall member 117a of the catheter body 107, preferably by glue or the like. The purpose of guide bar 143 is to maintain the coiled spring 142 in an essentially cylindrical configuration around the guide bar 143 so that it can exert appropriate force when the handle 109 is released from its locked position. Thus, when the handle 109 has been released from its locked position, and when the catheter body 107 is moved into its retracted position, such as shown in FIG. 21, the guide bar 143 remains affixed to the wall portion 117a of the catheter body 107 and projects therefrom. In this embodiment, however, with the spring member 142 in its fully extended position, there is no need for a guide bar along its entire length to prevent it form maintaining a cylindrical configuration.. 」「内側ガイドバー143がコイルばね142内に配置され、かつ、好ましくは接着剤などにより、カテーテル本体107の壁部材117aに固着される。ガイドバー143は、コイルばね142をガイドバー143の周囲に略円筒状に保持することにより、ハンドルがロック状態から解放されたときにばねが適宜の力を発揮することができるようにしている。かくして、ハンドル109がロック状態から解放され、かつ、カテーテル本体107が図21に示すように引っ込み位置へ動かされると、ガイドバー143は、カテーテル本体107の壁部117aへ固着された状態に保持され、該壁部から突出する。しかしながら、この実施例においては、ばね部材142は完全に伸長した状態にあるので、コイルばねが円筒形を保持するのようにその全長に亘ってガイドバーを配設する必要はない。」(11欄26行目?41行目)
(ノ)「Since prior to use the angiocath device of FIGS. 16 et seq. is in its fully extended position as shown in FIGS. 16 and 20, in order to protect medical personnel and the like prior to use, a cap member 145, as shown in FIG. 17 is employed. This cap member 145 includes a forward extended portion 146 covering the full extent of the needle 103 and the plastic cannula 119, and clamping over the rim 147 at the front portion of the barrel means 105 to again fully cover both the needle 103 and the plastic cannula 119. Upon removal of cover 145, the device is ready for use in the configuration shown in FIGS. 16 and 20. 」「図16その他に示す血管カテーテル装置は、使用前に医療従事者を保護するため、使用前は図16および図20に示すように完全に伸長した状態にあるので、図17に示すようなキャップ部材145が使用される。このキャップ部材145は、針103とプラスチックカニューレ119の全長を覆うとともに、バレル手段105の前部でリム147をクランプして針103とプラスチックカニューレ119とを再び完全に覆う前方延長部146を備えている。カバー145を取り外すと、装置は図16および図20に示す状態で使用に供することができる。」(11欄42行目?53行目)
(ハ)「Use of the angiocath device of FIGS. 16 et seq. is specifically illustrated in FIGS. 24-26. Thus, the device as shown in FIGS. 16 and 20 is initially inserted into a vein 150 in a patient's arm 152, the vein being more fully revealed by placement of a tourniquet 154 or the like. Upon placement of the needle 103 in the vein 150, the plastic cannula 119 will also extend into the vein along with the needle 103. Subsequent to such placement, a supply of blood can enter hollow needle 103 to fill cavity 117 within the catheter body 107. Subsequently, the needle 103 along with the catheter body 107, which is still in its forward locked position shown in FIG. 20, is removed, along with barrel member 105. This leaves the plastic cannula 119, including the cover portion 121, within the vein 150, in the configuration shown in FIG. 25. Since this is a plastic cannula, it will thus collapse within the vein so as to prevent any further blood from exiting through the cannula 119. In this manner, the device can be subsequently used, such as for injections by hypodermic syringe 160, as shown in FIG. 26. The needle on the front end of hypodermic syringe 160 can thus slide easily within the plastic cannula 119 and enter the vein for the insertion of drugs or other medication, or for the removal of blood, as is required for any particular medical procedure. The cannula 119 can also be used for the hook-up of a conventional intravenous device, or other such known devices. This can thus be done without the need to continuously create new entrance apertures during each such procedure, etc.」「図16その他に示されている血管カテーテル装置は、図24乃至図26に示すようにして使用することができる。即ち、図16および図20に示す装置は、まづ、患者の腕52の静脈150に挿入されるが、止血帯154などを使用して静脈をより十分に見えるようにする。針103を静脈150に挿入すると、プラスチックカニューレ119もまた針103とともに静脈内に延びる。これにより、血液が中空の針103に入ってカテーテル本体107内のキャビティを満たす。次に、図20に示す前方ロック位置にまだある針103とカテーテル本体107が、バレル部材105とともに取り出される。これにより、カバー部121を含むプラスチックカニューレ119が、図25に示すように静脈150内に残される。これはプラスチックカニューレであるので、余分の血液がカニューレ119を介して出るのを防止するように、静脈内で変形する(collapse)ことができる。このようにして、装置は、その後、図26に示すように皮下注射器160による注射を行なうのに使用することができる。皮下注射器160の前端部の針は、特定の医学処置により必要とされる場合には、プラスチックカニューレ119内で容易に摺動し、薬その他の薬剤を注射するために静脈に挿入することができる。カニューレ119はまた、通常の静脈装置またはこのような種類の公知の装置の組立て(hook-up)に使用することができる。かくして、これは、かかる処置の際に新たな入口開口を連続して形成することを必要とすることなく行なうことができる。」(11欄54行目?12欄14行目)
(ヒ)「Although the invention herein has been described with reference to particular embodiments, it is to be understood that these embodiments are merely illustrative of the principles and applications of the present invention. It is therefore to be understood that numerous modifications may be made to the illustrative embodiments and that other arrangements may be devised without departing from the spirit and scope of the present invention as defined by the appended claims. 」「本発明を特定の実施例に関して説明したが、これらの実施例は、本発明を単に例示するものである。従って、例示した実施例に対して種々の修正を行なうことができるとともに、特許請求の範囲に記載されている本発明の精神と範囲とから逸脱することなく他の構成を想到することができるものである。」(12欄15行目?23行目)

(3)-2 甲第12号証に記載された発明
以上の記載事項及び図示内容を総合すると、甲第12号証には、本件発明7の構成要件ごとに対応させて分説すると、が記載されている。
「a:カニューレ119を患者の中に挿入しその後で患者内にあった装置部分との接触から人々を保護するに当たって使用される保護カテーテル装置であって、
b:前記患者に突き刺し前記カニューレ119を前記患者内の定位置に案内し運ぶための針103であって,少なくとも1つの鋭い端を備えた軸を有する針103と、
c:前記人々の指が届かないように前記針103の少なくとも鋭い端を封包するようになされたバレル部材105と、
d:ばね部材142の力によって後方へ付勢されつつ、前記鋭い端がバレル部材105から突出した状態で前記軸をバレル部材105に固着するためのエルボ113aおよびエルボ113bと、
e:前記エルボ113aおよびエルボ113bによる固着が解除されると、ばね部材142の力によって溜め117を有するカテーテル本体107が後方に付勢されるとともに、前記人々の指が届かないように前記針の鋭い端をバレル部材内へ実質的に永久的に後退させるためのハンドル109とから成り、前記ハンドル109は針103の軸よりも実質的に短い振幅の単純な一体運動により手動で作動可能であり、
g:前記溜め117は、前記針103の中からの血液を収容するために、
h:ことを特徴とする保護カテーテル装置。」

(4)甲第34号証(米国特許第5102394号明細書)の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第34号証には以下の記載(請求人の提出した翻訳文を示す。)がある。
(フ)「発明の概要
本発明の原理を具体化するカテーテル組立体は、医療従事者が静脈療法のために選択的に除去可能に位置できる保護シールドを含む。このシールドは、カテーテル組立体の針部材の操作を許容するように、またその後に不注意な受傷の危険性を減ずるよう針部材を囲い込むように、構成されている。」(第1頁「ABSTRACT」の欄)
(ヘ)「カテーテル組立体10は静脈療法のために構成されており、基部14と、前記基部14から伸び、それにより規定される内部容積と連通する概して細長い管状部16と、を備えたカテーテル部材12を含む。カテーテル部材5の管状部16の自由ないし遠位端は,療法のために患者の血管中に位置しうる。
カテーテル組立体10は更に、当初は概してカテーテル部材10の中に位置しうる針部材20を含む。特に、針部材20は、ハブ部22と、ハブ部から伸びた細長い管状部24とを含む。例示されるように、針部材の管状部24の自由ないし遠位端は、針の管状部が望遠鏡式に中に位置するときには、カテーテル部材の管状部16の自由ないし遠位端を丁度越えている。この取り合わせにより、針の管状部の自由端は、患者の血管中への外側カテーテル部材の挿入を容易とするように、適切に構成され鋭利にされている。
典型的には、針部材の細長い筒部24は、ハブ部22により規定される内部容積と連通している。カテーテル挿入の間、毛管力及び/又は血圧は,血液を管状部24を通してハブ部22の内部26へと流させうる。ハブ部は、典型的には透明なポリマー材料より形成され、医療従事者がこの血液の流れないし「フラッシュバック」を観察できるようになっている。空気抜きフィルタ28は、好適にはハブ部22に固定されて針部材の中からの空気の抜け出しを許容するが、フィルタを通した液体の流れは防止する。
患者にカテーテル組立体を挿入した後、針部材22は外側カテーテル部材の中から引き抜かれる。」(第3欄16行?51行)

(5)甲第35号証(特開平4-295373号公報)の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第35号証には以下の記載がある。
(ホ)「【請求項1】軸線に沿って且つ軸線の周りにポリマー材料によって成形され針ハブの流れ込みチャンバと流体連通状態で係合する先端と、針ハブの流れ込みチャンバから延びるための基端とを有する逆流プラグ本体と、前記軸線に沿って基端から先端まで前記逆流プラグ本体を貫通して延び、その中に流れを許容する通路と、疎水性のフィルタ媒質で作られ且つ前記通路を横切る通気膜であって、前記逆流本体内にインサート成形され且つ当該逆流本体によって保持された基端方向に延びる外周部を含み、先端近くの通路内の液体は基端に到達することができないが,通路内の気体は当該通気膜を通過することによって先端と基端との間を自由に流通することができるようになされた前記通気膜と、前記通路の内壁内に長手方向に形成され、前記通気膜から基端まで延びて前記通路の基端内に篏合部材が配置された後にそれを通る流れを許容する溝手段と、からなる静脈オーバー・ザ・ニードル・カテーテル・チューブのための逆流プラグ。」
(マ)「【産業上の利用分野】本発明は、静脈オーバー・ザ・ニードル・カテーテル(針を挿入した後カテーテルを挿入し、その後,針を抜く方式のカテーテル)の針ハブのための血液無漏洩逆流プラグに関する。この逆流プラグは、該プラグ内に嵌合されたときにプラグ内を貫通する通路の基端から空気を排気するための溝へ空気は通過させるけれども血液は通過させない一体化されたフィルタ材料を含む。」(段落【0001】)
(ミ)「特に、カテーテルがオーバー・ザ・ニードル方法によって挿入され血液の逆流が確認された後に、カテーテルは血管内へと更に進められ及び/又は針は抜き取られる。カテーテルが所望通りに血管内に挿入され針が抜き取られ且つ捨てられた後、患者の血液から医者を守ることが望まれている。典型的には、流れ込みチャンバには、針とカテーテルとが血管内に正しく位置決めされたときにチャンバから空気を追い出すために先端に通気装置が設けられている。病原菌、エイズの伝染、肝炎及びこれらと同様の不治の血液病に関連して、血液の漏れを防止する方法及び器具は極めて重要となり切望されている。」(段落【0003】)
(ム)「米国特許4,193,399は、空気は通過させるが血液の流れは空孔が小さいので阻止される多孔質のポリマー材料によって作られた流れ込みチャンバを有する。ここで使用される材料は、焼結方法によって作られた超高分子ポリエチレンである。このようなプラグは、流れ込みチャンバ内に圧入され且つ摩擦だけによってチャンバ内に保持されるように設計されている。焼結成形された材料は本来弾力性が比較的低く、プラグはそれ自体では流れ込みチャンバ内にしっかりと保持されず、実際に定位置から落ちる。米国特許4,046,144は、空気は逃がすが血液は逃がさないために、針ハブのキャップ内の基端に配置された膜を有する。米国特許4,917,671は、基端から流れ制御プラグの内側の位置に圧入され且つ摩擦による以外は両方向において保持されない多孔質を有する。従って、容易に接続することができる改良された流れ込みハブが必要とされている。」(段落【0005】)

(6)甲第36号証(特開平4-224768号公報)の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第36号証には以下の記載がある。
(メ)「血流がカテーテルが適正に位置決めされたことを示し、皮膚穿通スタイレットを除去したならば、静脈血管をカテーテルに接続し、静脈内流体を患者に投与することが出来る。」(段落【0003】)
(モ)「本発明の別の目的は、上述の目的を達成する一方、血液が誤って漏洩するのを防止しかつ医者等が感染する虞れのある血液に触れるのを防止する閉システム静脈カテーテルを提供することである。」(段落【0012】)
(ヤ)「スタイレット組立体32は、皮膚穿通スタイレット37に加えて、発火点キャビティ76を画成する観察チャンバ74を備えている。発火点キャビティ76は皮膚穿通スタイレット37の流体流れ穴78と流体連通し、穴78を介して皮膚貫通スタイレット37を通る血流は、発火点キャビティ76内で観察することが出来る。通気組立体80が観察チャンバ74に接続されかつ該チャンバにより支持され、発火点キャビティ76内への血液の流れは該キャビティ内で観察可能であるのみならず、通気組立体80により効果的に制御することも出来る。」(段落【0026】)
(ユ)「血液が観察チャンバ74の発火点キャビティ76内への流動を許容されるとき、通気スタイレット94、及びフリット部材82を介して観察チャンバ74から空気を排除することが出来る。このように、フリット部材82は、通気スタイレット94及びエラストマーカバー部材100と協働し、血液は、皮膚穿通スタイレット37及びカテーテル22を血管内に適正に位置決めしたとき、皮膚穿通スタイレット37を介して観察チャンバ74の発火点キャビティ76内に流動することが出来る。」(段落【0028】)
(ヨ)「退却可能なシース130の本体部材132には、皮膚穿通スタイレット37が伸長位置(図9を参照)にあるとき、皮膚穿通スタイレット37よりも長い長さ寸法を備え、皮膚穿通スタイレット37の穿刺先端38、及び皮膚穿通スタイレット37が退却可能なシース130の本体部材132により完全に囲繞されるようにする。」(段落【0036】)

(7)甲第37号証(特開平3-4875号公報)の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第37号証には以下の記載がある。
(ワ)「米国特許第4,762,561号(Luther等)および米国特許出願第335,472号(出願日:1989年4月10日)には、カテーテル針の使用に伴って針の突き刺しによって起こる偶然の外傷から医療従事者を防護するように設計された針ガード付きの静脈内カテーテルについて記述している。患者の血管系から引き抜かれた針による突き刺しが偶然に起きた場合、この患者の血液が担持する病気の感染が起り得る。上記の特許および特許出願に記載されたカテーテルは、針を患者の身体から引き抜く時に、針のハブから延びる針ガードで針の先端をカバーすることによって、偶然の針突刺しを防止するものである。
医療従事者を偶然の針による突刺しの危険を防止することのみならず、患者の血液とのいかかる接触からも防護することである。針ガードを有する上述のカテーテルの一つを使用する場合でさへ、カテーテルから血液の望ましくない漏れのために、医療従事者が患者の血液と接触する可能性がある。」(1頁右下欄末行?2頁左上欄18行)
(ガ)「第1図は、針ガードを備えたカテーテル-針アセンブリを示すもので、その構成は、先に挙げた特許および特許出願に記載したと同様のもので良い。このアセンブリは、カテーテルハブ12に接続されるカテーテルカニューレ10を備える。ルアーロック14が、カテーテルハブ12の基端にて形成されている。カニューレは、米国特許第4,1,91,185号(Lemieux)に記載されるように、その基端内部の漏斗形に開いた金属スリーブ16をハブ12内に押し嵌め込むことによって、ハブ12に取り付けられる。
中空の金属挿入針20は、尖った先端26を有する。針20の基端は、フラッシュ・チャンバ22の先端開口に接着剤によって取り付けられ、このチャンバは針のハブ、すなわち、ハウジング30の内部に配置取り付けられている。このフラッシュ・チャンバのハウジングヘの取付手段は、図示されていないけれども、ハウジングの内面からフラッシュ・チャンバの外面に延びる長手方向のレール状体からなっている。フラッシュ・チャンバの基端は、米国特許出願221,579号(1988年7月20日出願)に記載された多孔質の栓が施されている。チャンバが血液で満たされつつある時、この多孔質の栓を通して、空気が外部に追い出されるが、この孔のサイズは、血液がそこを通るには不十分なものである。」(2頁右下欄9行?3頁左上欄7行)
(ギ)「血液は、動脈圧または静脈圧の下に、40aにて指示される中空の針を通って、40bにて指示されるフラッシュ・チャンバ22内に流入する。・・・ガードのブッシュオフ・タブが臨床医により先端方向に押されると、これによって、針ガード34が延長される。この操作で、針の先端26は、カテーテル10の先端より内部に、すなわち、第2図に図示する位置に引っ込む。・・・針先端26がフッドされると、血液は、42aにて指示されるカテーテルの先端部に流入し、そこを満たす。しかし、第1図に示すような中空針を通る所要の血流に加えて、血液はまた、針の外面とカテーテル・カニューレの内面との間における環状間隙(42bによって指示される)を通って流入し得る。・・・本発明の目的は、血液の逆流および針ガードのノーズを周る血液の滞留を防止することである。」(3頁左上欄22行?右上欄21行)

(8)甲第38号証(サーフロー留置針C型に係るカタログ)の記載事項
テルモ株式会社の「サーフロー留置針」に係るカタログ(1985年8月27日発行)には、以下の記載がある。
2頁目の写真に、「内針」、「内針ハブ」、「フィルター付きキャップ」として示されるとともに、2頁目の使用方法の4項には、「留置針の先端が血管内に入ると、内針ハブ内に血液のフラッシュバックが認められます。」と記載されている。

(9)甲第39号証(ニプロセーフレットキャスに係るカタログ)の記載事項
ニプロ株式会社の「セーフレットキャス」に係るカタログ(1987年4月発行)には、以下の記載がある。
「フラッシュルームは、血液の逆流を確認でき、血管内に正しくカテーテルが挿入されたことを示します。」
「メンブランフィルターは撥水性で血液の漏出を防ぎます。」
「カテーテル針基は、半透明でカラーコード表示し、血液の逆流も容易に確認できます。」と記載されている。

(10)甲第40号証(米国特許第5205829号明細書)の記載事項
甲第40号証には、以下の記載がある。(「」内の翻訳は、請求人の提出した翻訳文によっている。)
(ゲ)「When the flash-back of blood is noted in the flashback well 10,preferably comprising a magnifying means 12 on the sidewall of the needle assembly 19, this signals that the needle 6 has entered the vein. 」「フラッシュバック血液が、フラッシュバックウェル10に認められたとき、ニードルアセンブリ19の側面部には拡大してみせる手段12を有するのが好ましいのであるが、針6が血管に入っていることを知らせる。」(4欄18行?22行)
(ゴ)「Alternatively, the locking device may comprise any latch type lock known to those skilled in the art or a friction lock which comprises a protective housing means 18 having slightly smaller diameter at the end of the housing whereby the needle assembly base is held in place by friction.」「その代わり、係止機構として、当業者によく知られた技法であるラッチ形式で構成してもよいし、または,摩擦による係止すなわちハウジングの終端部の直径が若干小さくなっている保護ハウジング部材18からなり、これにより、針基部材は摩擦により適当な場所に保持されるように構成してもよい。」(4欄65行?5欄2行)

(11)甲第34号証ないし甲第40号証に記載された周知技術
上記甲第34号証ないし甲第40号証に記載されているように、カテーテルを挿入する医療器具において、針基(ハブ)内部にフラッシュバック室を設けることが周知技術である。

(甲第41号証?甲第52号証については、省略)

V.請求人の主張(詳細)
無効理由1 本件発明7について
(1)審判請求書の請求人の主張
(1)-1 本件特許発明7と引用発明との対比(一致点および相違点について)
(1)-1.1 一致点について
本件特許発明7と引用発明とを対比すると、本件特許発明7のA,B,C,D,E及びHは,引用発明のa,b,c,d,e及びhに相当することは明らかであり、
A:カニューレの如き医療器具を患者の体内へ挿入し且つその後患者の体内にあった該装置の部分に人が接触しないように保護するための安全装置において,
B:患者を穿刺し,前記医療器具を患者の体内の適所へ案内して搬送する中空針であって,少なくとも1つの鋭利な端部を有する軸を具備する中空針と,
C:人の指が届かないように,少なくとも前記針の鋭利な端部を包囲するようになされた中空のハンドルと,
D:前記鋭利な端部を前記ハンドルから突出させた状態で前記軸を前記ハンドルに固定する固定手段と,
E:前記固定手段を解除し,前記針の鋭利な端部を人の指が届かないように前記ハンドルの中へ実質的に永続的に後退させる解除/後退手段であって,前記針の軸よりも実質的に短い距離だけ簡単且つ単一の動作によって手操作で作動可能な解除/後退手段と,
H:ことを特徴とする安全装置。
である点で一致している。

(1)-1.2 相違点について
(1)-1.2.1 相違点1
本件特許発明7は、構成要件Fの、「前記後退のエネルギの一部を吸収するためのエネルギ吸収手段と,」を有するのに対し、引用発明はこのような「エネルギ吸収手段」を備えていない点で相違する。
(1)-1.2.2 相違点2
本件特許発明7は構成要件Gの、「前記中空針の中からの血液を収容する共に,前記後退によって生ずる力に抗して,前記針が後退する間に及び該後退の後に,前記血液を確実に保持するための収容/保持手段とを更に備える」を有するのに対し、引用発明はこのような「収容/保持手段」を備えていない点で相違する。
本件特許発明7の構成要件Fおよび構成要件Gが引用発明との相違点であるとしても、本件特許発明7は、以下に示すとおり当業者が容易に発明をすることができたものである。
(1)-2 相違点1(構成要件F)についての相違点の判断
引用発明も甲第2号証に記載された発明も、医療関係者が針を患者に穿刺する操作を行うものであり、使用後の針が後退手段により自動的に後退し、ハンドル内に収まる機構である点で共通する。そして、引用発明は、針が患者の体内にある間にラッチ操作をした場合、患者の組織が傷ついたり、不随意に注射器内に患者の血液を吸引したりするという危険性のあることを前提としている。引用発明は、甲第2号証に記載された従来技術と同様に、後退手段を用いた患者からの急速な針の引抜きにより、患者の組織が傷ついたり、不随意に注射器内に患者の血液を吸引したりするのを防止することを解決課題としていると解するのが自然である。
以上によれば、引用発明においても、患者を保護するという解決課題を実現するため、甲第2号証に記載された弾性制動手段を用いることによって、針の後退速度を減少させるとの構成を適用することが困難であるという理由はない。
したがって、引用発明において、甲第2号証に記載された技術を適用して、相違点である構成要件Fの構成とすることは、当業者が容易に想到できることである。

(1)-3 相違点2(構成要件G)についての判断
(1)-3.1 甲第12号証について
(a) 本件明細書の記載について
本件特許発明7の構成要件Gの、「前記中空針の中からの血液を収容する共に、前記後退によって生ずる力に抗して、前記針が後退する間に及び該後退の後に,前記血液を確実に保持するための収容/保持手段とを更に備える」については、本件明細書の記載(段落【0038】、段落【0040】?【0042】、段落【0069】?【0071】、段落【0086】)、を参酌すれば、フラッシュバック室をハンドルの中に配置すると、ハンドルの中の血液と移動する針ブロツクとの間の相対的な連動により、血液の前方への急激な排出を生ずるので、本件特許発明の収容/保持手段は、針と共に運動するように固定された室とすることにより、血液と針との間に相対的な運動を生じないようにして上述の問題を解消したこと、また、収容/保持手段は上記室を針の後退によって生ずる力から隔離するための何等かの手段を備えるのが好ましく、隔離手段としては、空気を比較的ゆっくりと透過させるフィルタの形態を取ることができることが記載されている。
よって、少なくとも、針と共に運動するように固定することにより、血液と針との間に相対的な運動を生じないようにして血液を保持する手段は、本件発明7における、「前記後退によって生ずる力に抗して、前記針が後退する間に及び該後退の後に、前記血液を確実に保持するためのための収容/保持手段」に該当するものである。

(b) 甲第12号証の明細書の記載
甲第12号証の「溜め117」に関する記載について、甲第12号証の上記記載事項によれば、溜め117を構成しているカテーテル本体107は、ばね部材142の力により、後方へ付勢される。そして、溜め117は、カテーテル本体107にあり、また、後部の開口部も膜108dによりシールされているため、ばね部材142の力によって、カテーテル本体107が後方に付勢される際も、血液と針との間に相対的な運動を生じさせず、溜め117内部の血液等は収容・保持された状態を維持する。
したがって、甲第12号証の「溜め117」が、本件発明7の「前記後退によって生ずる力に抗して、前記針が後退する間に及び該後退の後に、前記血液を確実に保持するための収容/保持手段」に相当する。
(c) 周知技術の斟酌
また、そもそも、カテーテルを挿入する医療器具において、針基(ハブ)内部にフラッシュバックを設けることが周知技術であった(甲第34号証ないし甲第40号証に記載された周知技術の認定)。
甲第34号証ないし甲第40号証の記載によれば、カテーテルを体内に挿入するための挿入針を使用後に後退させる方式のカテーテルにおいて、挿入針の中からの血液を収容保持するフラッシュバック室を針のハブ内部に設け、フラッシュバック室のプラグとして、空気は透過するが、血液は透過しない多孔質の材料とすることは周知の技術である。
このような周知技術ないし技術常識に照らしても、甲第12号証における「溜め117」は、針基にフラッシュ血液が流入するように設けられたフラッシュバック室にあたることが理解できる。
そして、この周知の技術を構成するフラッシュバック室が、「後退によって生ずる力に抗して」「血液を確実に保持する」ことの技術的意義を充足するのであるから、甲第12号証の溜め117が、本件発明7の「前記後退によって生ずる力に抗して,前記針が後退する間に及び該後退の後に,前記血液を確実に保持するための収容/保持手段」に相当する。

(d) 小括
以上より、甲第12号証における「g:前記針103の中からの血液を収容すると共に、前記後退の際および後退の後にも、針103と固定されており、血液を包囲し続ける溜め117とを更に備える」において、「溜め117」は、針103と固定されており、針103の後退に際しては針103と共に運動することから血液と針との間に相対的な運動を生じないものであるから、「前記後退によって生ずる力に抗して,前記針が後退する間に及び該後退の後に,前記血液を確実に保持するためのための収容/保持手段」に該当する。

(e) 甲第1号証の1および甲第12号証のばねの力により針を引き込む型のカニューレ挿入装置における「溜め117」の組み合わせにより、本件発明7に至ることが当業者にとって容易であったこと
(e)-1 甲第1号証の1と本件発明7との相違点2について、甲第12号証の後部に「膜108d」を有する「溜め117」を、甲第1号証の1における針のキャリヤブロツクに採用することは、無効2011-800061号にかかる審決の解釈を採用したとしても、以下に述べるとおり、当業者において容易であった。

(e)-2 組み合わせの容易性
(あ) 課題の共通性(同一性)
甲第1号証の1において、「人々の間での身体物質の交換により伝わる後天性免疫不全症候群(「エイズ」)や肝炎等」の感染に関し、「医療関係者自体にとっては感染した患者から引き抜いた後で針先端に不用意に触れることにおいて難しい危険が残る」(3頁左下欄下から3行目以下)とされ、甲第12号証において、「種々のカテーテルに関して使用するために開発され,かつ,針を除去するときに事故が起きないように特に意図されている装置の数が急激に増えている。これは,主として,針,カテーテル,カニューレなどを取り扱う際に生ずるエイズの問題をはじめとする伝染病の感染に対して看護婦その他の医療従事者の間での関心の高まりによるものである。エイズその他の伝染病の感染は,かかる医療従事者が針を患者から外した後に針が不意に刺さったときに生ずることが知られている。」(1欄13行目?25行目)、「いずれの場合においても,カテーテルがプラスチックカニューレの挿入のためにのみ使用されるか,あるいはそれ自体を静脈内で使用するかどうかに拘らず,針に触れてしまうという問題はかなりのものとなる。」(1欄53行目?56行目)と記載されているとおり、甲第1号証の1および甲第12号証の前提とする課題は共通(同一)である。

(い) 構成の同一性(技術分野の同一性)
引用発明と甲第12号証に記載された発明については、本件特許発明7および本件特許発明8に関し、上記の相違点1および相違点2を除く構成についてまったく同じであり、使用後に、ばねの力を用いて針を装置内に引き込むカニューレ挿入装置である本件特許発明7および本件特許発明8とのかかわりにおいて,技術分野が完全に同一である(構成の同一性(技術分野の同一性))。

(う) 組み合わせについての示唆等
現に、甲第12号証の1頁左欄下から8行目以下には、「4,747,8315/1988Kulli」として、引用発明に対応する米国特許明細書(甲第1号証の2)が参照されるものであることが明記されており、引用発明の構成と甲第12号証発明の構成を組み合わせる可能性について、重要な示唆かあるといえる(組み合わせについての示唆)。
したがって、フラッシュバック室の存在しない甲第1号証の1において、使用後に、ばねの力を用いて針を装置内に引き込むカニューレ挿入装置として構成をまったく同じくする甲第12号証の「膜108d」を有する「溜め117」を採用することは、当業者が容易に成し得たものである。
(1)-3 結論
以上のとおりであるから、本件特許発明7は、甲第1号証の1、甲第2号証に記載された発明および甲第3号証ないし甲第33号証(甲第12号証を除く。)に記載された周知技術ならびに甲第12号証に記載された発明および甲第34号証ないし甲第40号証(甲第52号証)に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許発明7に係る特許は特許法第123条第1項第2号の規定により,無効とされるべきである。

(2)口頭陳述要領書の請求人の主張
(2)-1 甲第12号証の「溜め117」は、「後退によって生じる力に抗して、針が後退する間に及び該後退の後に、血液を確実に保持する」について
甲第12号証の「溜め117」は、その名称のとおり、「溜め」(cavity)という収容部材なのであるから、針の後退時に血液が全く漏れないことの明示まではされていなくても、血液を溜めていられるものであることは明示されており,これから血液が漏れないことが示されている。
被請求人自身が、本件特許発明7の「後退によって生ずる力に抗して」とは、後退の際に生じる血液と針との相対的な運動による影響を受けることを阻止して、という意味であり、甲第12号証のようなものを本件特許発明7および本件特許発明8の技術的範囲に属すると主張している。
本件特許発明7の「収容/保持手段」について、本件明細書の格子86のような後端部の開口が必要であるという記載は一切ない。
また,当業者でなくとも容易に理解するとおり、甲第12号証においても、「溜め117」に血液が流入するのであるから、本件明細書の【0115】に記載された「前方への空気漏洩路」が存在することは証拠上明らかである。
そして,そのような無抵抗の空気漏洩路が存在する以上、針の後退に際しては、そうした無抵抗の空気漏洩路から空気が前方へ流出するものであり、そうである以上、液体を通過させないほどに空気を流す能力が限定された抵抗の高い膜108dを通じて溜め117に対して空気が急速かつ大量に流入するようなことはなく、少なくともそれによって溜め117内の血液が針先から漏洩するようなことは考えられない。
以上のとおりであるから,甲第12号証の溜め117は、「前記針103の中からの血液を収容保持すると共に、前記後退の際および後退の後にも、」「血液を包囲し続ける」ものである。

(2)-2 甲第1号証の1のハンドル10をフラッシュバック室とすることについて
甲第1号証の1のハンドル10をフラッシュバック室とすると、以下に示すように、ハンドル10内に逆流した血液は、そのまま外部に流れ出てしまうのであり、「好ましい」態様として、甲1号証の1のハンドル10をフラッシュバック室として機能させることはあり得ないことである。
本件明細書の段落【0027】、【0028】に記載されているように、クーリー特許は、フラッシュバック室を設けることについては何も記載されていないが、後方のオリフィス等に適宜なフィルタを取り付けることなどにより、ハンドル内にフラッシュ血液が入るようにすることが考えられるとして、同段落【0029】?【0034】に、その際の血液漏洩のプロセスが記載されているのであって、クーリー特許(甲第1号証の1)にフラッシュバック室を設ける場合に、ハンドル10をフラッシュバック室とすることが好ましいとすべき理由はない。むしろ、ハンドル10をフラッシュバック室とすれば、血液が漏洩するというのであるから、ハンドル10をフラッシュバック室とすべきではなく、他にフラッシュバック室を設けようとすることは当然である。

(2)-3 引用発明と甲第12号証に記載された発明の組み合わせの容易性について
甲第1号証の1において、ただ後端部をシールすれば済むのでもないことは、この甲第12号証の記載からも容易に理解される。つまり、甲第12号証の構成において膜108dがない場合に、後端から血液が漏れることはないとしても、前端から血液が漏れるので問題があり、それを防止するために「膜108d」を有する「溜め117」を採用しているということである。同様に、後端部のシールさえ存在しない甲第1号証の1においても、実用上内部に、甲第12号証の「溜め117」が必要であるということである。
上記記載とともに、甲第12号証には、その表紙において甲第1号証の1の対応米国公報である甲第1号証の2(米国特許4、747、831号 Kulli)が参照されているのであり、甲第12号証には、後端部にシールのない甲第1号証の1の内部に、甲第12号証のフラッシュバック室を設けるための重要な示唆がある。
引用発明において、カニューレを適切な位置に穿刺できたかどうかを、血液が逆流することにより確認しようとすると、血液が装置の外部に漏れてしまう。そこで、引用発明に「後退によって生じる力に抗して、針が後退する間に及び該後退の後に、血液を確実に保持する」ように、甲第12号証に記載された発明および周知技術を適用する点については、審判請求書の「組み合わせの容易性」に詳述したとおりである。

(本件特許発明8の無効理由については省略)

VI.当審の判断
(1)-1 無効理由1 本件特許発明7について
本件特許発明7と引用発明とを対比すると、後者における「カニューレを患者の中に挿入しその後で患者内にあった装置部分との接触から人々を保護するに当たって使用される安全装置」が、その機能・作用等からみて前者における「カニューレの如き医療器具を患者の体内へ挿入し且つその後患者の体内にあった該装置の部分に人が接触しないように保護するための安全装置」に相当し、同様に、「患者に突き刺し前記カニューレを前記患者内の定位置に案内し運ぶための針であって、少なくとも1つの鋭い端を備えた軸を有する針」が「患者を穿刺し、前記医療器具を患者の体内の適所へ案内して搬送する中空針であって、少なくとも1つの鋭利な端部を有する軸を具備する中空針」に、「人々の指が届かないように前記針の少なくとも鋭い端を封包するようになされた中空ハンドル」が「人の指が届かないように、少なくとも前記針の鋭利な端部を包囲するようになされた中空のハンドル」に、「前記鋭い端がハンドルから突出した状態で前記軸をハンドルに固着するための手段」が「前記鋭利な端部を前記ハンドルから突出させた状態で前記軸を前記ハンドルに固定する固定手段」に、及び「前記固着手段を解除し且つ前記人々の指が届かないように前記針の鋭い端をハンドル内へ実質的に永久的に後退させるための手段とから成り、前記解除および後退手段は針の軸よりも実質的に短い振幅の単純な一体運動により手動で作動可能であり」が「前記固定手段を解除し、前記針の鋭利な端部を人の指が届かないように前記ハンドルの中へ実質的に永続的に後退させる解除/後退手段であって、前記針の軸よりも実質的に短い距離だけ簡単且つ単一の動作によって手操作で作動可能な解除/後退手段」に、それぞれ相当している。

したがって、両者は、
「 カニューレの如き医療器具を患者の体内へ挿入し且つその後患者の体内にあった該装置の部分に人が接触しないように保護するための安全装置において、
患者を穿刺し、前記医療器具を患者の体内の適所へ案内して搬送する中空針であって、少なくとも1つの鋭利な端部を有する軸を具備する中空針と、
人の指が届かないように、少なくとも前記針の鋭利な端部を包囲するようになされた中空のハンドルと、
前記鋭利な端部を前記ハンドルから突出させた状態で前記軸を前記ハンドルに固定する固定手段と、
前記固定手段を解除し、前記針の鋭利な端部を人の指が届かないように前記ハンドルの中へ実質的に永続的に後退させる解除/後退手段であって、前記針の軸よりも実質的に短い距離だけ簡単且つ単一の動作によって手操作で作動可能な解除/後退手段と、を備える安全装置。」の点で一致し、以下の点で相違している。

相違点1:本件特許発明7では、前記後退のエネルギの一部を吸収するためのエネルギ吸収手段を備えるのに対し、引用発明では、そのような構成を備えていない点。
相違点2:本件特許発明7は、前記中空針の中からの血液を収容する共に、前記後退によって生ずる力に抗して、前記針が後退する間に及び該後退の後に、前記血液を確実に保持するための収容/保持手段とを更に備えるのに対し、引用発明はそのような収容/保持手段を備えていない点。

(1)-2 相違点1について
相違点1について検討する。
引用発明は、カニューレを挿入する装置であり、医療関係者が針先端に触れることによる感染等からの保護を解決課題とする発明である。
これに対して、甲第2号証に記載された発明は、使用後の注射針による汚染等の防止のため、注射後の針を本体内の遮蔽位置に引き込むよう構成している装置において、急速に針の後退を行うと、患者の組織が傷ついたり,不随意に注射器内に患者の血液を吸引したりするのを防止することを解決課題として、弾性制動手段で針の後退速度を減速するよう構成した発明である。このように、甲第2号証に記載された発明において、弾性制動手段を設けることよって実現しようとする解決課題は、患者の組織が傷ついたり、不随意に注射器内に患者の血液を吸引したりするのを防止することであると認められる。
しかし、引用発明も甲第2号証に記載された発明も、医療関係者が針を患者に穿刺する操作を行うものであり、使用後の針が後退手段により自動的に後退し、ハンドル内に収まる機構である点で共通する。そして、引用発明は、針が患者の体内にある間にラッチ操作をした場合、患者の組織が傷ついたり,不随意に注射器内に患者の血液を吸引したりするという危険性のあることを前提としていると認められるから、引用発明は、甲第2号証に記載された従来技術と同様に、後退手段を用いた患者からの急速な針の引抜きにより、患者の組織が傷ついたり、不随意に注射器内に患者の血液を吸引したりするのを防止することを解決課題としていると解するのが自然である。
以上によれば、引用発明においても、患者を保護するという解決課題を実現するため、甲第2号証に記載された弾性制動手段を用いることによって、針の後退速度を減少させるとの構成を適用することが困難であるという理由はない。したがって、引用発明に甲第2号証に記載された弾性制動手段を用いることにより、本件特許発明7の上記相違点1に係る構成に想到することは容易といえるから、上記相違点1に係る構成は引用発明及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に想到し得たものであるといえる。

(1)-3 相違点2について
相違点2を検討する。
(1)-3-1
最初に、引用発明に、更にフラッシュバック室を付加することの動機付けの有無について検討する。甲第1号証の1には、カニューレ(チューブ)と針を静脈に挿入した際に、針の静脈への挿入を確認する手段について、何ら記載されていない。しかし、カニューレ(チューブ)挿入に関し、針の静脈への挿入を確認することは当該技術分野における技術常識であるから、引用発明においても、針の静脈への挿入を確認する何らかの手段を設けているといえる。針の静脈への挿入を確認する手段としては、静脈の血液の色を観察できる手段、いわゆるフラッシュバック室を具備せしめることが技術常識である。引用発明として、甲第1号証の1のFIG.1に示されるものを考えると、針が中空の場合、血液はハンドル10内に入ることになるから、フラッシュバック室として機能するものはハンドル10であると考えられる。すなわち、当該ハンドルの後端開口部に何らかの血液漏洩防止手段を設ける等の工夫が必要であるとしても、引用発明は、既にフラッシュバック室を具備する装置であって、その構造を前提としつつ、針をハンドル内に後退させるものであるから、ハンドル自体をフラッシュバック室として用いる構成に代えて、針と一緒に移動するフラッシュバック室をハンドル内に更に追加しようとする動機付けを見いだすことはできない。
(1)-3-2
引用発明のハンドル内にフラシュバック室を更に付加することが動機付けられないことは上述のとおりであるが、甲第12号証に記載された発明が、上記相違点2の要件を具備するか否かについて、さらに検討する。
甲第12号証には、「g:前記針103の中からの血液を収容する溜め117とを更に備える」点が記載されており、「溜め117」は針103の中からの血液を収容するのであるから、前記「溜め117」は、中空針の中からの血液を収容する収容/保持手段といえる。したがって、甲第12号証に記載された発明は、「前記中空針の中からの血液を収容する収容/保持手段とを更に備える」といえる。
ここで、甲第12号証について摘記した、(ナ)「カテーテル本体107の後面は、後壁部108を有する。この後壁部は、図22に明瞭に示されるように、カテーテル本体107の壁に固着することができ、あるいはカテーテル本体107の溝99に挿着することができる2つの突出するリップ部材108aと108bとを備えている。壁部108の中心には開口108cが形成され、該開口は該開口を横切って延びる膜108dによりシールされている。この膜108dにより、カテーテル本体107の内部室内の空気が内部室から出ることができると同時に、内部室内の液体が膜を通過するのを防止することができる。この膜108dは、中空の針103の先端が入る中央開口117を封止する。かくして、針103に入る血液その他の流体はカテーテル本体107内のキャビティ117に流れ込んで、開口を満たすことができる。これが達成されるのは、膜108dを配設したことにより、空気が膜108dを介して出ることができるので、液体がキヤビティ117に入ることができるからである。」(10欄33行目?50行目) 、(ヌ)「カテーテル本体107内の溜め117の前方には、カテーテル本体107の縮径部107aが形成されている。このようにして、室117を形成するカテーテル本体107の後部拡大部の壁部107aとバレル部材105の前壁部105aの内面との間には、弾性のある細長いコイルばね部材142が配置されている。このばね部材142は図20に示すように圧縮状態にあり、これら2つの壁部105aと117aとの間で圧縮されることにより、カテーテル本体107を後方へ付勢するかなりの力を発生させる。しかしながら、ハンドル109は図20に示すロック位置に配置され、内方へ突出するエルボ113aと113bは、バレル部材105の内面へ内方へ突出して後壁108をブロックしているので、カテーテル107は完全に伸長した状態に保持される。」(11欄9行目?25行目)という記載、及び、FIG.18?FIG.23を参照すると、「溜め117」は後端bの開口を「膜108d」によってシールされており、「膜108d」により「カテーテル本体107の内部室内の空気が内部室から出ることができると同時に、内部室内の液体が膜を通過するのを防止することができる」ものであるといえる。そして、「針103に入る血液その他の流体はカテーテル本体107内のキャビティ117(溜め117)に流れ込んで、開口を満たすことができる。」ものである。そうすると、「溜め117」を、いわゆる「フラッシュバック室」として機能せしめる点は、甲第12号証に記載されているといえる。
しかるに、甲第12号証の上記記載(ク)?(ヒ)及びFIG.18?FIG.23を参照しても、ハンドル109の操作によりばね部材142の作用で針103が後退する際の、「膜108d」を有する「溜め117」の動作・作用について甲12号証に充分な記載がなされていない。
この点について、請求人は口頭陳述要領書で次のとおり主張する。
「甲12の「溜め117」は、その名称のとおり、「溜め」(cavity)という収容部材なのであるから、針の後退時に血液が全く漏れないことの明示まではされていなくても、血液を溜めていられるものであることは明示されており、これから血液が漏れないことが示されている。
・・・
また、当業者でなくとも容易に理解するとおり、甲12においても、「溜め117」に血液が流入するのであるから、本件明細書の【0115】に記載された「前方への空気漏洩路」が存在することは証拠上明らかである。
そして、そのような無抵抗の空気漏洩路が存在する以上、針の後退に際しては、そうした無抵抗の空気漏洩路から空気が前方へ流出するものであり、そうである以上、液体を通過させないほどに空気を流す能力が限定された抵抗の高い膜108dを通じて溜め117に対して空気が急速かつ大量に流入するようなことはなく、少なくともそれによって溜め117内の血液が針先から漏洩するようなことは考えられない。
以上のとおりであるから、甲12の溜め117は、「前記針103の中からの血液を収容保持すると共に、前記後退の際および後退の後にも、」「血液を包囲し続ける」ものである。」
この主張について検討するに、「溜め117」は、「後端部が、空気を通過させるが液体を通過する膜108dでシールされている溜め117」であるので、ハンドル109の操作によるばね部材142の作用で針103が後退する際に、バレル部材105内の空気が「膜108d」を通して流入することにより「溜め117」の血液に何らかの圧力がかかるのは自明である。そして、その圧力により「溜め117」の血液が針の前方から漏れる虞がある。請求人は「無抵抗の空気漏洩路が存在する以上、針の後退に際しては、そうした無抵抗の空気漏洩路から空気が前方へ流出するものであり、そうである以上、液体を通過させないほどに空気を流す能力が限定された抵抗の高い膜108dを通じて溜め117に対して空気が急速かつ大量に流入するようなことはなく、少なくともそれによって溜め117内の血液が針先から漏洩するようなことは考えられない。」とも主張するが、「溜め117」内に空気が大量に流入しなくても血液に何らかの圧力が伝われば、「溜め117」の血液が針の前方から漏れる虞があることは明らかである。すなわち、針の前方に通じる「空気漏洩路」が形成されていても、その空気漏洩路が無抵抗でない限り、ハンドル109の操作によるばね部材142の作用で、針103が後退する際には、圧縮された空気が膜108dを通して流入することにより「溜め117」の血液に何らかの圧力がかかるといえるから、「溜め117」の血液が針の前方から漏れるのを確実に防止することができるとはいえない。なお、請求人は、口頭陳述要領書において、甲第12号証の「FIG.18?FIG.23」に記載された図面の形状や寸法から、前記「空気漏洩路」が無抵抗である旨の主張を行うが、特許公報の図面は、各部材を位置関係や寸法を正確に示すものではないから、その主張は採用の限りではない。
よって、甲第12号証に記載された発明の「溜め117」が、「前記後退によって生ずる力に抗して、前記針が後退する間に及び該後退の後に、前記血液を確実に保持するための収容/保持手段」にあたるものであるということはできない。
(1)-3-3
一方、本件特許の願書に最初に添付した明細書には、「【0030】1つの漏洩通路は、針及びそのキャリアブロックを通って前方へ向かう通路である。換言すれば、そのような装置においては、後退ボタンが作動されると、血液が、針の前方端から外方へ噴出する。これは、単に乱雑になるというだけではなく、付近にいる人が患者の血液に露呈されるというより重大な事態を生ずるので、許容できない結果である。血液に露呈されるということは特に問題であり、その理由は、後退型の針を提供する重要な目的が、そのような露呈を極力少なくすることであるからである。
【0031】針キャリアブロックが、極めて小さな半径方向の空隙を有するその最初の位置すなわち前方でロックされた休止位置から後退した後の他の通路は、針及びブロックの周囲で前方へ向かう通路である。この場合には、血液は、クーリーのハンドル又はハウジングの前方の開口を通って出ることにより、アセンブリから漏洩する。
・・・
【0036】ユニットの後方開口にフィルタを設けるか、あるいは、他の方法で上記開口を閉じて通気口を設けることにより、クーリーの装置に実質的に通常のフラッシュ室のケーシングを設けるという見かけ上簡単な最初の手段は、フラッシュを包囲するという最初の望みに少なくとも等しい程度の血液の噴出又は漏洩をもたらすことがある。」と記載されているように、本件特許発明7の目的は、装置からの血液の漏洩、特に針の後退時の針の前方端からの漏洩を防止することであって、単に装置の後方のオリフィス等にフィルタあるいは小さな通気口を設けるだけでは、針の後退時に血液の漏洩を防げないことが記載されている。
そして、本件特許発明7の発明特定事項である「前記後退によって生ずる力に抗して、前記針が後退する間に及び該後退の後に、前記血液を確実に保持するための収容/保持手段」に対応する実施例としては、本件明細書の【0128】?【0136】及び図1?図9に記載されているように、運動可能な内部室及びフィルタ(図1)、可撓性の管(図6)、バルーン(図7)、破壊可能なダクト(図8)、フラッパ弁(図9)等さまざま形態をとるものであり、例えば図1のフィルタを用いる実施例の場合は、フィルタは「血液が中空針を通って入ることができるように上記室の内部から空気を比較的ゆっくりと逃がすための手段と、後退の際に生ずる力によって中空針を通って血液が排出されるのを阻止するために、上記室の内部へ空気が比較的急速に入るのを阻止するための手段とを備える」もので、具体的には、本件特許の願書に添付した明細書に「【0038】漏洩に関する基本的な問題、すなわち、針を通る血液の前方への急激な排出を生ずるのは、上記相対的な運動、特に、血液を通って移動するキャリアブロックの運動である。従って、この問題に対する解決策は、運動可能な針に効果的に固定された点におけるフラッシュ血液を包囲あるいは阻害することとは別の方法に見い出すことができ、これにより、血液と運動する針ブロックとの間の効果的な相対運動を排除することができる。
【0039】「効果的に」及び「効果的な」という用語を使用する理由は、フラッシュ血液に後退力が与えられるのを阻止する何等かの構造が、ケーシングをハンドルに固定することができる場合でも、血液のケーシングが移動する針と空圧的に連携するからである。
【0040】上記着目点の変更は、フラッシュ血液が針の後部から流れることができるようにケーシングから空気を逃がし、次に、針の後退時においても、その血液を安全に包囲した状態で保持するようにするための種々の可能性をもたらす。特に、そのような構造においては、フィルタ又は通気口を移動する針に関連して設けることができる。
【0041】上記関連により、有益な結果がもたらされ、空気を流す能力が限定された(後退時のピストン効果によって動かされる空気に比較して)フィルタ又は通気口が、漏洩のない好ましい作用をもたらす。空気流が限定されたフィルタ又は通気口は、後退の際に形成される空気圧の増大から室の中のフラッシュ血液を隔離することにより上述の如き作用を行う。
【0042】従って、移動する針、キャリアブロック、室、フィルタ又は通気口、並びに、フラッシュ血液は総て、中空のハンドルの中の空気に作用する複合ピストンを形成してそのように作用する。また、ハンドル自身は、フィルタ又は細かい通気口によってシールする必要はなく、複合ピンによって動かされる空気は、周囲に迅速に解放される。」及び
「【0115】本発明に関して重要なことは、針が後方へ急速に後退させることにより、中空のハンドル20の通路24の中へ空気を迅速に移動させることである。しかしながら、格子86の開口、並びに、針担持ブロックの周囲前方の空気漏洩路によって、上記後退により、通路24の中には比較的小さな空気圧の上昇が生ずる。
【0116】上記後退が通路24の中に短時間の圧力パルスを生ずる限り、上記フィルタは実質的に空気不透過性の壁部すなわちピストンの役割を果たし、フラッシュ室61の内部をそのような圧力から隔離する傾向がある。その結果、上記後退の間に生ずるどのようなピストン効果を有する圧力もフラッシュ室61の中の血液に与えられず、従って、上記血液は、中空針を介して前方且つ外方へ排出されず、上記室の中に安全に保持される。」と記載されているように、当該実施例は、フィルタを格子86の開口と組み合わせることによって、「前記後退によって生ずる力に抗して、前記針が後退する間に及び該後退の後に、前記血液を確実に保持するための」手段を構成しているものである。
してみれば、請求人の主張のように、甲第34号証ないし甲第52号証の記載より「カテーテルを挿入する医療器具において、針基(ハブ)内部にフラッシュバック室を設けることは周知の技術である」としても、相違点2に係る「前記後退によって生ずる力に抗して、前記針が後退する間に及び該後退の後に、前記血液を確実に保持するための収容/保持手段」という発明特定事項が甲第12号証に記載ないし示唆されているとはいえない。また、甲第2号証や甲第34号証ないし甲第52号証を精査しても、上記発明特定事項に係る記載ないし示唆を見いだすことはできない。また、他の周知技術に関連して提示された甲第3号証ないし甲第31号証(甲第12号証除く)にも、この点についての記載及び示唆はない。
そして、本件特許発明7は、上記相違点2に係る「前記後退によって生ずる力に抗して、前記針が後退する間に及び該後退の後に、前記血液を確実に保持するための収容/保持手段」を備えることにより、「すなわち、収容/保持手段は、後退力を受けた場合でも血液を受け入れて保持することができ、クーリー型の装置に選択的なフィルタを取り付けた場合に時々観察されるフラッシュ血液の排出を防止することができる。」等の本件特許の願書に添付した明細書に記載された(段落【0067】参照)作用効果を奏するものである。
そうすると、当業者といえども、引用発明、甲第2号証に記載された発明、甲第12号証に記載された発明、甲第3号証ないし甲第31号証(甲第12号証除く)に記載された周知技術、及び甲第34号証ないし甲第52号証に記載された周知技術に基いて、相違点2の構成に想到することが容易であるとはいうことはできない。

(1)-4 まとめ
よって、本件特許発明7は、引用発明、甲第2号証に記載された発明、甲第12号証に記載された発明、甲第3号証ないし甲第31号証(甲第12号証除く)に記載された周知技術、及び甲第34号証ないし甲第52号証に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

したがって、本件特許発明7は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第123条第1項第2号に該当せず、請求人の主張する無効理由によって無効とすることはできない。

(2)-1 本件特許発明8について
本件特許発明8は、本件特許発明7の発明特定事項を全て含んだものである。そうすると、本件特許発明7が、甲第1号証の1に記載された発明並びに甲第12号証に記載された発明及び甲第3号証ないし甲第31号証(甲第12号証除く)に記載された周知技術、及び甲第34号証ないし甲第52号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができない以上、それを限定した本件特許発明8も、同様に、甲第1号証の1に記載された発明並びに甲第12号証、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証ないし甲第31号証(甲第12号証除く)に記載された周知技術、及び甲第34号証ないし甲第52号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

したがって、本件特許発明8は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第123条第1項第2号に該当せず、請求人の主張する無効理由によって無効とすることはできない。

VII.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明7及び本件特許発明8の特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-01-28 
結審通知日 2013-02-01 
審決日 2013-03-04 
出願番号 特願平6-280754
審決分類 P 1 123・ 121- Y (A61M)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 蓮井 雅之
松下 聡
登録日 1996-12-05 
登録番号 特許第2588375号(P2588375)
発明の名称 医療器具を挿入しその後保護する安全装置  
代理人 山田 徹  
代理人 高松 俊雄  
代理人 豊岡 静男  
代理人 櫻井 義宏  
代理人 平出 貴和  
代理人 黒川 恵  
代理人 田中 成志  
代理人 杉山 共永  
代理人 日野 真美  
代理人 片山 英二  
代理人 森 修一郎  
代理人 森 修一郎  
代理人 櫻井 義宏  
代理人 豊岡 静男  
代理人 山田 徹  
代理人 平出 貴和  
代理人 田中 成志  
代理人 本多 広和  
代理人 高松 俊雄  

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