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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C30B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C30B
管理番号 1276605
審判番号 不服2011-12608  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-06-14 
確定日 2013-07-11 
事件の表示 特願2006-246440号「溶融液からの引き抜きによる高均質低応力単結晶の製造方法及び装置、及び同単結晶の利用法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年3月29日出願公開、特開2007-77013号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成18年9月12日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2005年9月13日 (DE)独国)の出願であって、平成21年10月9日付けの拒絶理由の通知に対して、平成22年4月6日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年6月3日付けの拒絶理由<最後>の通知に対して、同年12月9日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成23年2月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成23年6月14日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同日付けで手続補正書が提出され、その後、特許法第164条第3項に基づく報告を引用した平成24年3月19日付けの審尋を通知したものの回答書が提出されなかったものである。

2.平成23年6月14日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年6月14日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(2-1)補正事項
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を補正するものであり、補正前後の請求項1の記載は次のとおりである。
(補正前)
「【請求項1】
a)結晶原材料の融点以下の温度に保持された単結晶を溶融液中に浸漬して固体・液体相境界面を形成し、
b)前記単結晶が所定の結晶方位へ生長するように、工程a)において前記溶融液中に浸漬された前記単結晶を前記溶融液からその液面に対して垂直に引き抜き、
c)工程b)において結晶を引き抜きながら熱を取り除き、
d)工程b)において結晶を引き抜きながら、制御可能な回転速度で、結晶及び溶融液を互いに対して回転させ、
e)結晶が引き抜かれる溶融液を含むるつぼ内部において溶融液表面及び又はこの溶融液表面に近い単結晶の結晶表面の温度変動を、そこから放射される熱エネルギーから検出し、
f)前記少なくとも1つの特徴的表面温度の温度変動が検出された時、前記回転速度を増減して前記少なくとも1つの特徴的表面温度を制御し、かつ結晶と溶融液との間の前記相境界面が平面状となるように調節する各工程から構成される、溶融液表面をもち、かつ溶融された結晶原材料から成る溶融液からの、所定方位をもつ高均質低応力単結晶の製造方法。」

(補正後)
「【請求項1】
a)結晶原材料の融点以下の温度に保持された単結晶を溶融液中に浸漬して固体・液体相境界面を形成し、
b)前記単結晶が所定の結晶方位へ生長するように、工程a)において前記溶融液中に浸漬された前記単結晶を前記溶融液からその液面に対して垂直に引き抜き、
c)工程b)において結晶を引き抜きながら熱を取り除き、
d)工程b)において結晶を引き抜きながら、制御可能な回転速度で、結晶及び溶融液を互いに対して回転させ、
e)結晶が引き抜かれる溶融液を含むるつぼ内部において溶融液表面の温度変動を、そこから放射される熱エネルギーから検出し、
f)前記少なくとも1つの特徴的表面温度の温度変動が検出された時、前記回転速度を増減して前記少なくとも1つの特徴的表面温度を制御し、かつ結晶と溶融液との間の前記相境界面が平面状となるように調節する各工程から構成される、溶融液表面をもち、かつ溶融された結晶原材料から成る溶融液からの、所定方位をもつ高均質低応力単結晶の製造方法。」

(2-2)補正の適否
請求項1の補正事項は、同項に記載された発明を特定するために必要な事項である補正前の「溶融液表面及び又はこの溶融液表面に近い単結晶の結晶表面の温度変動」を、補正後の「溶融液表面の温度変動」とするものである。
これは、補正前には、「溶融液表面の温度変動」、「溶融液表面に近い単結晶の結晶表面の温度変動」、「溶融液表面及びこの溶融液表面に近い単結晶の結晶表面の温度変動」の3形態であるのを、補正後には、「溶融液表面の温度変動」の1形態のみに特定(限定)するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、請求項1に係る補正は、平成18年法律第55条改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的にするものである。
そして、願書の最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)には、「【0044】
本発明に従った前記改良された単結晶の製造装置の一実施態様を図5に示す。溶融液を収容する生長るつぼ1の上方へ後加熱装置、例えば後加熱ポット2が配置される。この生長るつぼ1は好ましくは貴金属から成る。好ましくは、生長過程を外側から観察できるように、るつぼ1あるいはポット2に側部開口3が設けられる。るつぼ1及びポット2の周囲は断熱材13で囲まれ、誘導及び/または抵抗ヒーター15によって加熱される。特に繊維マットに形状化されたセラミック材は好ましい断熱材である。岩綿も使用可能である。溶融るつぼには、その下端部あるいは側部11に取り付けられたスペーサピン4が備えられ、このスペーサピンは好ましくはるつぼ1と同一材料から作製され、またるつぼ1から間隔を空けて、溶融液中における温度及び温度変化を正確に追跡できる測定素子及び温度センサ5を備えている。ある種の形式のスペーサピン4は、溶融液中に自由対流を起こし、従って十分な混合を与える温度シンクとして機能する。本発明に従った配置には、後加熱ヒーター2の上側に、溶融液表面から放射される熱輻射を検出する熱センサ6が備えられている。使用可能な熱センサとしては、例えば熱ビード6であってもよい。この種の熱ビードはポット上側が受ける輻射熱を検出する。熱ビード等の熱電対は輻射受けとして適する。しかしながら、前記熱センサは、溶融液表面の温度変動を検出する赤外線センサ等の熱レジスタあるいは高温計であってもよい。」との記載があり、これからして、請求項1の補正は、当初明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであるので、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定を満足するものである。

(2-3)独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2-3-1)引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用した特開2000-63196号(以下、「引用例」という。)には、以下の記載がある。
(i)「【請求項1】 チョクラルスキー法による酸化物単結晶の製造方法において、
育成単結晶からの熱放射の強度変動を温度センサで検出し、前記熱放射の強度変動が小さくなるように単結晶育成環境をフィードバック制御する、酸化物単結晶の製造方法。
【請求項2】 単結晶育成保温筒に覗き穴を設けて、前記覗き穴から放射温度計で育成単結晶の温度を測定することにより前記熱放射の強度変動を求める、請求項1に記載の酸化物単結晶の製造方法。
【請求項3】 前記熱放射の強度変動を小さくするために、ヒーターの位置、ヒーターの出力、および育成単結晶の回転数のうち少なくとも1つを調整しながら単結晶を育成する、請求項1または請求項2に記載の酸化物単結晶の製造方法。」

(ii)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、貴金属るつぼや耐火物は、単結晶作製回数によって経時変化による変形などを起こす。そして、それが単結晶作製に最適な温度環境の再現性に影響を与えることが知られている。このような単結晶作製環境の経時変化により、良質な単結晶の作製が困難となり、しばしば、育成単結晶にクラックが発生したり、セル成長等により単結晶中に欠陥が発生したりする。また、単結晶を高品質化するためには、フラットな結晶成長界面(固液界面)を安定に継続させながら単結晶育成を行う必要がある。しかし、結晶化による融液量の変化を原因として温度環境が変化するので、結晶定径部全域においてフラットな界面を得るのは難しく、結晶成長界面が結晶側に凸形状となり単結晶が融液から離れたり、転移などの問題が発生する。また、対象とする材料によって異なるが、直径50mm以上の酸化物単結晶育成には、一般に、40時間から100時間を要する。さらに、単結晶を融液から切り離した後、単結晶および融液を室温まで冷却するのに10時間から20時間を要する。そのため、上記のような単結晶内部のクラックや欠陥の発生が、冷却後保温筒を形成していた耐火物を解体した後に判明すると、約1週間にわたる単結晶育成工程が無駄となり、効率や歩留まりに大きく影響するという問題が生じていた。さらに、従来、単結晶の高品質化を目的として結晶成長界面の制御が行われていた。この制御は、結晶回転数や貴金属るつぼ位置に対するワークコイル位置を単結晶育成中に調整することにより行われていた。しかし、結晶回転数や貴金属るつぼ位置に対するワークコイル位置は、多数回の実験結果から経験的に得られたものであった。そのため、上述の温度環境の変化などにより単結晶育成途中から結晶成長界面が大きく変動し、気泡の混入や曲がりなどが生じ、歩留まりに大きく影響するという問題が生じていた。」

(iii)「【0014】
【発明の実施の形態】図1に示す単結晶育成炉10は、単結晶育成保温筒12を含む。単結晶育成保温筒12内には、原料融液を保持するための貴金属るつぼ14が配置される。貴金属るつぼ14の周囲には、高周波誘導加熱法により原料融液を加熱するためのコイル16が単結晶育成保温筒12の外側に配置される。また、単結晶育成保温筒12内の貴金属るつぼ14上には、下端に種結晶を取り付けた支持棒18が配置される。支持棒18は、種結晶を原料融液面に接触させた後、所定の速度で引き上げられる。支持棒18の種結晶とは反対側の端部には重量センサとしてのロードセル20が取り付けられる。ロードセル20からの信号はデジタルボルトメータ22を介してパーソナルコンピュータ24に入力される。パーソナルコピュータ24はセットポイントコントローラ26に接続され、セットポイントコントローラ26は、高周波発振器28に接続され、高周波発振器28は、ヒータとしてのコイル16に接続される。また、単結晶育成保温筒12の上部には覗き穴30が形成される。覗き穴30の外側には、育成中の単結晶の温度を測定するための温度センサとしての放射温度計32が配置される。また、単結晶育成保温筒12には、雰囲気ガス流入口34と排出口36が形成される。
【0015】(実施例1)酸化物単結晶(以下、単に単結晶という)材料としてLa_(3)Ga_(5)SiO_(14)(ランガサイト)を選択した。出発原料としてLa_(2)O_(3)、Ga_(2)O_(3)、およびSiO_(2)をそれぞれ1537.12g、1473.90g、および188.98g秤量した後、十分乾式混合した。混合物をプレス成形後、外形100mm、高さ100mm、肉圧2mmのPtRh貴金属るつぼ14に充填し、図1に示す単結晶育成炉10を用いてチョクラルスキー法により単結晶引き上げを試みた。育成条件は、結晶回転数10rpm、結晶引き上げ速度1?3mm/時間、〈001〉方位とした。また、育成雰囲気として、N_(2)ガスに2vol%O_(2)を混入させたガスを育成雰囲気内に3リットル/分で育成中絶えず流入させた。種付け後、高周波誘導加熱出力を調節しながら約2時間程度で直径5mm程度の結晶を引き上げた。その後、徐々に直径を大きくして目標径である50mmに到達させた。つぎに、目標径のまま約150mmの長さになるまで高周波誘導加熱出力を調整しながら育成した。さらにその後、高周波出力を徐々に上げながら結晶径を細くし融液から切り離した。切り離した後約20時間程度かけて育成された単結晶を冷却した。結晶切り離し後、冷却時に、覗き穴30から熱放射温度計32で単結晶側面の温度を監視したところ、計測温度の変動幅は図2に示すように2℃以内で安定していた。冷却終了後、単結晶育成保温筒12を解体し、単結晶を取り出して調べたところ、クラック等のない単結晶が育成されていることがわかった。熱放射温度計32としては、赤外線放射温度計(株式会社チノー製IR-AP,測定波長0.96μm)を用いた。」

(iv)「【0017】(実施例3)実施例1と同様の方法にて調合された原料を用いて、結晶成長界面形状を制御する実験を試みた。実施例1と同一の結晶育成条件にて育成し、直径50mmとなった時点から、結晶回転数を徐々に増加させた。結晶回転数25rpmとなった時点で、ロードセルから出力される結晶重量信号の増加量が低下し、結晶成長界面が原料融液に対して下方に突出した下凸状から平坦の状態に急激に変化した。この時、単結晶側面の温度を単結晶育成保温筒12の上部から監視したところ、図4に示すように、原料融液の対流変化による温度分布の変化に対応する計測温度の上昇が確認された。その後、この変動の変動幅が2℃以内となるよう結晶回転速度を調整するフィードバック制御を繰り返した。そして、約150mmの長さになるまで引き上げた後、高周波出力を調整して融液から単結晶インゴットを切り離した。切り離した後、実施例1と同一の条件にて育成された単結晶を冷却した。冷却終了後、単結晶育成保温筒12を解体し、単結晶を取り出したところ、結晶成長界面の平坦な高品質な単結晶が育成されていることがわかった。」

上記(i)ないし(iv)の記載事項より、引用例には、
「a)結晶原材料の融点以下の温度に保持された単結晶を原料融液中に浸漬して固液界面を形成し、
b)前記単結晶が所定の結晶方位へ生長するように、工程a)において前記原料融液中に浸漬された前記単結晶を前記原料融液からその液面に対して垂直に引き抜き、
c)工程b)において結晶を引き抜きながら熱を取り除き、
d)工程b)において結晶を引き抜きながら、制御可能な単結晶の回転速度で、結晶及び原料融液を互いに対して回転させ、
e)結晶が引き抜かれる原料融液を含むるつぼ内部において、育成単結晶側面温度の温度変動を単結晶から放射される熱エネルギーから検出し、
f)前記単結晶側面温度の温度変動が検出された時、前記回転速度を増減して前記単結晶側面温度を制御し、かつ結晶と原料融液との間の前記固液界面が平面状となるように調節する各工程から構成される、原料融液表面をもち、かつ溶融された結晶原材料から成る原料融液からの、所定方位をもつ高品質単結晶の製造方法。」の発明(以下、「引用例記載の発明」という。)が記載されているものと認める。
なお、上記「a)」ないし「f)」については、当審において便宜上付与した。

(2-3-2)対比・判断
本願補正発明と引用例記載の発明とを対比する。
○引用例記載の発明の「原料融液」、「固液界面」、「単結晶の回転速度」、「高品質単結晶」は、本願補正発明の「溶融液」、「固体・液体相境界面」、「回転速度」、「高均質低応力単結晶」にそれぞれ相当する。

○引用例記載の発明の「育成単結晶側面温度の温度変動」と、本願補正発明の「溶融液表面の温度変動」及び「少なくとも1つの特徴的表面温度の温度変動」とは、「部位表面温度の温度変動」という点で共通する。

上記より、本願補正発明と引用例記載の発明とは、
「a)単結晶材料の融点以下の温度に保持された単結晶を融液中に浸漬して固体・液体相境界面を形成し、
b)前記単結晶が所定の結晶方位へ生長するように、工程a)において前記溶融液中に浸漬された前記単結晶を前記溶融液からその液面に対して垂直に引き抜き、
c)工程b)において結晶を引き抜きながら熱を取り除き、
d)工程b)において結晶を引き抜きながら、制御可能な回転速度で、結晶及び溶融液を互いに対して回転させ、
e)結晶が引き抜かれる溶融液を含むるつぼ内部において部位表面温度の温度変動を、そこから放射される熱エネルギーから検出し、
f)前記部位表面温度の温度変動が検出された時、前記回転速度を増減して前記部位表面温度を制御し、かつ結晶と溶融液との間の前記相境界面が平面状となるように調節する各工程から構成される、溶融液表面をもち、かつ溶融された結晶原材料から成る溶融液からの、所定方位をもつ高均質低応力単結晶の製造方法。」という点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点>
本願補正発明では、「溶融液表面の温度変動(少なくとも1つの特徴的表面温度の温度変動)」を検出するのに対して、引用例記載の発明では、「育成単結晶側面温度の温度変動」を検出する点。

<相違点>について検討する。
(α)一般に、溶融液中に浸漬された単結晶を溶融液からその液面に対して垂直に引き抜きながら、制御可能な単結晶の回転速度で、結晶及び溶融液を互いに対して回転させ、高品質単結晶を製造する(結晶と溶融液との間の相境界面が平面状となるように調節する)ことにおいて、溶融液表面の温度変動を検出し、これに基いて単結晶の回転速度を増減させることは、本願優先権主張日前に周知の事項(例えば、特開平9-263485号公報の特に以下で示す【0009】【0010】【0029】【0036】【0047】参照)であり、そして、引用例記載の発明と上記周知の事項とは、「溶融液中に浸漬された単結晶を溶融液からその液面に対して垂直に引き抜きながら、制御可能な単結晶の回転速度で、結晶及び溶融液を互いに対して回転させ、高品質単結晶を製造する(結晶と溶融液との間の相境界面が平面状となるように調節する)ことにおいて、部位表面の温度変動を検出し、これに基いて単結晶の回転速度を増減させる」という点で共通し、
(β)引用例には、上記(iv)で示したように、「【0017】・・・この時、単結晶側面の温度を単結晶育成保温筒12の上部から監視したところ、図4に示すように、原料融液の対流変化による温度分布の変化に対応する計測温度の上昇が確認された。・・・」との記載があり、これからして、原料融液(溶融液)表面温度に影響を与える融液対流の変化により育成単結晶側面温度が変化すること、つまり、溶融液表面温度と育成単結晶側面温度との間には相互関係があるということができる。
上記(α)(β)を勘案すると、引用例記載の発明の「育成単結晶側面温度の温度変動」を検出することについて、これを上記周知の事項の「溶融液表面の温度変動(少なくとも1つの特徴的表面温度の温度変動)」に代えて検出し、これに基いて単結晶の回転速度を増減させて、結晶と溶融液との間の相境界面が平面状となるように調節することは、当業者であれば容易に想起し得ることである。
そして、「高均質低応力単結晶を製造することができる」等の本願補正発明の作用効果は、引用例記載の発明及び本願優先権主張日前に周知の事項から当業者であれば十分に予測し得るものである。
したがって、本願補正発明は、引用例記載の発明及び本願優先権主張日前に周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

特開平9-263485号公報の【0009】【0010】【0029】【0036】【0047】の記載は、以下のとおりである。
「【0009】もし結晶成長界面近傍の融液の温度変動が大きい場合は、結晶が多結晶化したり、結晶に取り込まれる不純物にムラが生じたり、結晶内の欠陥濃度が増大したりする。この温度変動の大きさは測定する融液の位置によって異なる。すなわち、これまでのように融液表面のある1点のみを測定していたのでは本当に安定な結晶成長環境を知ることはできない。
【0010】さらに、融液表面における径方向の温度勾配も重要な制御すべき条件である。結晶の肩広げの時に融液表面における半径方向の温度勾配が極端に小さい場合、結晶径が急に大きくなり多結晶化する場合がある。また、結晶の直胴部の成長時に半径方向の温度勾配が極端に小さい場合、結晶が大きく変形する可能性があり、結晶の歩留まりや生産性が損なわれる。この融液表面における径方向の温度勾配は従来の融液表面の1点の測定では観測不可能であった。」
「【0029】また、本発明は、回転するルツボ内にあって、ヒーターによって溶融された結晶部材融液から単結晶を引き上げる単結晶製造方法であって、該単結晶の種結晶を該融液表面に接触した時点もしくは単結晶引き上げ中に該結晶部材融液表面の二次元的な温度分布およびその時間変動を測定することにより、該単結晶の成長環境を知り、これを基に該ルツボの回転速度、該単結晶回転速度、該ルツボと該ヒーターとの相対的位置、該ヒーターの加熱条件を調節することにより、該単結晶の単結晶引き上げ成功率が高くかつ該単結晶が高品質となる該融液表面温度分布、およびまたは表面温度の時間変動に近づけることを特徴とする単結晶製造方法である。」
「【0036】これらを連続的に観察することで融液表面温度の時間変動を二次元的に知ることができる。この融液表面の二次元温度は融液流動を反映しているため、二次元温度分布から融液全体の流れを知ることができる。そして、ルツボ回転速度、結晶回転速度、ルツボとヒーターの加熱条件を変化させることで融液流動が変化し、この融液表面温度分布や温度変動を変化させることができる。したがってこれらの融液表面データーは、結晶成長に最適な操業条件を得るためのオペレーションガイドとなる。」
「【0047】本発明では、融液表面から発せられる放射エネルギーの二次元分布をCCDカメラ等の撮像デバイスで観察して電気信号に変換し、それを温度に変換することにより融液表面における二次元温度分布を得る。この二次元温度分布をディスプレーに映しだしながら、操業中に、ルツボ回転速度、結晶回転速度、ルツボ位置、ヒーター加熱条件等の操業条件を変更して、結晶引き上げに最適な状態を容易に得ることができる。」

(2-3-3)まとめ
上記からして、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(3-1)本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年12月9日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、上記2.(2-1)の(補正前)で示したものである。

(3-2)引用例の記載事項
原査定の拒絶理由において引用した引用例の記載事項は、上記2.(2-3-1)で示したとおりである。

(3-3)対比・判断
上記2.(2-2)で示したように、本件補正における請求項1の補正事項は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであることから、本願発明は、本願補正発明を包含している。
そうすると、本願補正発明が、上記2.(2-3-2)で示したように、引用例記載の発明及び本願優先権主張日前に周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本願補正発明を包含する本願発明も同じく、引用例記載の発明及び本願優先権主張日前に周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということができる。

(3-4)むすび
したがって、本願発明は、引用例記載の発明及び本願優先権主張日前に周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
それゆえ、本願は、特許請求の範囲の請求項2ないし9に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-08 
結審通知日 2013-02-13 
審決日 2013-02-26 
出願番号 特願2006-246440(P2006-246440)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C30B)
P 1 8・ 575- Z (C30B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 要田中 則充  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 中澤 登
真々田 忠博
発明の名称 溶融液からの引き抜きによる高均質低応力単結晶の製造方法及び装置、及び同単結晶の利用法  
代理人 佐藤 嘉明  

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