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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 B60T
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60T
管理番号 1276633
審判番号 不服2012-17195  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-05 
確定日 2013-07-11 
事件の表示 特願2007-332789「衝突被害軽減制動制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 7月16日出願公開、特開2009-154607〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成19年12月25日の出願であって、平成24年5月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年9月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

2.平成24年9月5日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年9月5日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】
レーダにより得られる車両前方の障害物との車間距離及び相対速度が、制動回避限界を越えるか否か判断する制動回避限界判断手段と、
ナビゲーションシステムにより得られる自車位置及び地図情報に基づいて、走行中の道路の車線数を判別する車線数判別手段と、
前記レーダによる車間距離及び相対速度が、操舵回避限界及び前記制動回避限界のうちのより限界値の小さい方を越えるか否か判断する衝突判断手段と、
前記車線数判別手段が片側2車線以上無いと判別したとき、前記制動回避限界判断手段が制動回避限界を越えると判断すると制動を実行する一方、前記車線判別手段が片側2車線以上有ると判別したとき、前記衝突判断手段が小さい方を越えると判断すると制動を実行する制動制御手段と、
を含んで構成されたことを特徴とする衝突被害軽減制動制御装置。
【請求項2】
レーダにより得られる車両前方の障害物との車間距離及び相対速度が、制動回避限界を越えるか否か判断する制動回避限界判断手段と、
ナビゲーションシステムにより得られる自車位置及び地図情報に基づいて、走行中の道路の車線数を判別する車線数判別手段と、
前記レーダによる車間距離及び相対速度が、操舵回避限界及び前記制動回避限界のうちのより限界値の小さい方を越えるか否か判断する衝突判断手段と、
前記衝突判断手段が小さい方を越えると判断したとき、前記車線数判別手段にかかわらず制動を実行する一方、前記衝突判断手段が小さい方を越えないと判断したとき、前記車線数判別手段が片側2車線以上無いと判別し、且つ、前記制動回避限界判断手段が制動回避限界を越えると判断すると制動を実行する制動制御手段と、
を含んで構成されたことを特徴とする衝突被害軽減制動制御装置。」に補正された。
本件補正について、請求人は、審判請求の理由の「2.補正の根拠の明示」において、「平成24年9月5日付けの手続補正書における補正事項は、…制動実行条件を明確にした、特許請求の範囲の限定的減縮を目的としたものである。」と主張している。しかし、請求項1についてみると、本件補正により、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記車線数判別手段が片側2車線以上有ると判別したときは、前記衝突判断手段が小さい方を越えると判断したときに制動を実行し、前記衝突判断手段が小さい方を越えないと判断したときに制動を実行しない、」という事項が、「前記車線判別手段が片側2車線以上有ると判別したとき、前記衝突判断手段が小さい方を越えると判断すると制動を実行する」に補正されており、したがって、車線数判別手段が片側2車線以上有ると判別したときに、衝突判断手段が小さい方を越えないと判断したときに制動を実行しないという事項が削除されて、請求項1に記載された発明特定事項が拡張されている。これは、特許法第17条の2第5項各号に規定されたいずれの事項を目的とするものでもない。
したがって、本件補正は、他の補正事項について検討するまでもなく、同法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

本件補正が却下すべきものであることは上述のとおりであるが、本件補正が、請求人の上記の主張のとおり、「特許請求の範囲の限定的減縮を目的としたもの」であったとしても、下記「3.1」のとおり、本件補正による補正前の請求項1に係る発明は引用例1に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件補正後の請求項1に係る発明は、実質的に同様の理由により、引用例1に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に基づいて特許を受けることができない。したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、やはり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明
平成24年9月5日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1、2に係る発明は、平成24年5月9日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
レーダにより得られる車両前方の障害物との車間距離及び相対速度が、制動回避限界を越えるか否か判断する制動回避限界判断手段と、
ナビゲーションシステムにより得られる自車位置及び地図情報に基づいて、走行中の道路の車線数を判別する車線数判別手段と、
該車線数判別手段が片側2車線以上無いと判別し且つ前記制動回避限界判断手段が制動回避限界を超えると判断したときに、制動を実行する制動制御手段と、
を含んで構成され、
前記レーダによる車間距離及び相対速度が、操舵回避限界及び前記制動回避限界のうちのより限界値の小さい方を越えるか否か判断する衝突判断手段をさらに含み、
前記制動制御手段は、
前記車線数判別手段が片側2車線以上有ると判別したときは、前記衝突判断手段が小さい方を越えると判断したときに制動を実行し、前記衝突判断手段が小さい方を越えないと判断したときに制動を実行しない、
ことを特徴とする衝突被害軽減制動制御装置。
【請求項2】
レーダにより得られる車両前方の障害物との車間距離及び相対速度が、制動回避限界を越えるか否か判断する制動回避限界判断手段と、
ナビゲーションシステムにより得られる自車位置及び地図情報に基づいて、走行中の道路の車線数を判別する車線数判別手段と、
該車線数判別手段が片側2車線以上無いと判別し且つ前記制動回避限界判断手段が制動回避限界を超えると判断したときに、制動を実行する制動制御手段と、
を含んで構成され、
前記レーダによる車間距離及び相対速度が、操舵回避限界及び前記制動回避限界のうちのより限界値の小さい方を越えるか否か判断する衝突判断手段をさらに含み、
前記制動制御手段は、
前記衝突判断手段が小さい方を越えると判断したときには前記車線数判別手段にかかわらず制動を実行し、
前記衝突判断手段が小さい方を越えないと判断したときには、前記車線数判別手段が片側2車線以上有ると判別したときに制動を実行しない、
ことを特徴とする衝突被害軽減制動制御装置。」

3-1.本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)について
(1)本願発明1
本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
(2-1)引用例1
特開2004-237813号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自車進路に障害物が存在するときに、自動的に制動制御を行う車両用制動制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、この種の車両用制動制御装置として、例えば、自車進路に存在する前方物体を検出して、この前方物体との接触を、操舵操作で回避可能な操舵回避距離、及び制動操作で回避可能な制動回避距離を夫々算出し、算出した何れの回避距離よりも前方物体との距離が短くなるときに、自動ブレーキ装置を駆動して制動制御を行うように構成された車両用衝突防止装置がある(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】
特開平6-298022号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来例にあっては、前方物体との接触を操舵回避できる方向を考慮していないので、ガードレールや壁等の道路構造物が存在する、或いは隣接車線を走行中の並走車両が存在する等して横移動ができないようなときには、適切な制動制御を行うことができないという未解決の課題がある。
そこで、本発明は上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、実際の走行環境に適した制動制御を行うことができる車両用制動制御装置を提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明に係る車両用制動制御装置は、自車進路に存在する物体を検出し、自車両が車線変更可能であるか否かを含め、検出された物体との接触を操舵で回避できる可能性と、検出された物体との接触を制動で回避できる可能性とを夫々判断し、両者の判断結果に基づいて自車両に制動力を発生させて制動制御を行うことを特徴としている。
【0006】
【発明の効果】
本発明に係る車両用制動制御装置によれば、自車進路に存在する物体を検出し、自車両が車線変更可能であるか否かを含め、検出された物体との接触を操舵で回避できる可能性と、検出された物体との接触を制動で回避できる可能性とを夫々判断し、両者の判断結果に基づいて自車両に制動力を発生させて制動制御を行うように構成されるので、例えば、ガードレールや壁等の道路構造物が存在する、或いは隣接車線を走行中の並走車両が存在する等して横移動ができないときにも、適切な制動制御を行うことができるという効果が得られる。」
(い)「【0032】
次に、上記一実施形態の動作について説明する。
今、自車両が走行状態にあるとすると、コントローラ6は、ナビゲーションシステム2から供給される走行車線情報及び白線認識装置3から供給される白線情報に基づいて隣接車線の有無を検出すると共に、側方監視装置5により自車両の側方を走行する並走車両の有無を検出することにより、実際に車線変更可能な方向を判断する。
【0033】
このとき、隣接車線の有無に応じて車線変更可能であるか否かの判断結果Aを、左右夫々に対して可能を示す“1”と不可能を示す“0”との2値で表し(ステップS2)、また並走車両の有無に応じて車線変更可能であるか否かの判断結果Bも、左右夫々に対して可能を示す“1”と不可能を示す“0”との2値で表す(ステップS3)。そして、これらの判断結果A及びBが、共に“1”となる方向のみに、車線変更可能であると判断する(ステップS4、S6及びS8)。
【0034】
したがって、片側1車線しかない道路を走行しているときや、車線が複数あっても最も端の車線を走行しているとき等、隣接車線のない方向へは車線変更不可能であると判断する。また隣接車線があってもそこに並走車両が存在する方向には車線変更不可能であると判断する。このように、車線変更が不可能であると判断されたときには、前方物体との接触を操舵では回避できないと判断する。
【0035】
一方、左右の何れかに車線変更可能であると判断されたときには、前方物体との接触を回避するのに必要な横移動量Yを算出する。このとき、車線変更可能であると判断された方向が左右両側である場合には、前方物体における左右エッジのスキャニング角の小さい方を選択して横移動量Yを算出する(ステップS5)。また、車線変更可能であると判断された方向が左右の一方であるときには、その方向への横移動量Yを算出する(ステップS7又はS9)。
【0036】
次に、横移動所要時間算出制御マップを参照して、Yだけ横移動する所要時間Tyを横移動量Y及び車速Vに基づいて算出し(ステップS14)、この横移動量Yと、前方物体との距離Dと、相対速度Vrとの関係がD/Vr>Tyであるか否かを判断し、前方物体との接触を操舵で回避できる可能性を判断する(ステップS15)。
【0037】
続いて、前方物体との距離Dと相対速度Vrとの関係が前記(7)式を満たすか否かを判断し、前方物体との接触を制動で回避できる可能性を判断する(ステップS18)。
そして、操舵及び制動の何れでも前方物体との接触を回避できると判断されたときには、この前方物体に対する自車両の制動は不要であると判断して、制動装置7に対する制動指令と警報装置8に対する警報指令の出力を夫々停止状態に制御する(ステップS22及びS23)。
【0038】
この状態から、前方物体との距離Dが減少したり、相対速度Vrが接近方向に増加したりすることにより、操舵又は制動の何れか一方で前方物体との接触を回避できる可能性が残されてはいるが、接触する可能性もあると判断されると、自車両に所定の制動力F1を所要時間T1で発生させるような制動指令を制動装置7に出力し(ステップS25)、警報指令を警報装置8に出力する(ステップS26)。こうして、自車両に発生した制動力F1と警報とに応じて、運転者が直ちに車線変更可能な方向への操舵操作を行ったり、制動操作を行ったりして前方物体との接触を回避できると、再び制動装置7に対する制動指令、及び警報装置8に対する警報指令の出力が停止状態に制御される。
【0039】
しかし、運転者の回避動作が遅れる等して、操舵及び制動の何れでも前方物体を回避できずに接触する可能性が高いと判断されると、自車両に発生させる制動力Fが、制動力F1よりも大きな制動力F2に達するまで所定の速度で増加するように制動装置7に対する制動指令を出力し(ステップS27)、警報指令も継続して警報装置8に出力する(ステップS28)。因みに、制動力F1を発生させる所要時間T1は、前方物体との接触を操舵又は制動のいずれか一方で回避できないと判断されてから、次に他方でも回避できないと判断されるまでの推定時間に設定されているので、この制動力F2を発生させるときには、既に制動力F1が発生している状態にある。したがって、より大きな制動力F2を発生させることで運転者に与える違和感を軽減できるだけではなく、制動力Fが既に発生しているF1から増加することで、0(零)の状態から制動を開始する場合に比べて制動力F2の達成が早い。こうして、自車両に制動力F2が発生することにより自車両が十分に減速して、前方物体との接触を回避できると、再び制動装置7に対する制動指令、及び警報装置8に対する警報指令の出力が停止状態に制御される。
【0040】
なお、上記一実施形態においては、前方物体をレーザレーダ装置1で検出する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、CCDカメラやCMOSカメラ等による画像処理で検出してもよい。
また、上記一実施形態においては、ナビゲーションシステム2から供給される走行車線情報と、白線認識装置3から供給される白線情報とに基づいて走行車線における隣接車線を検出する場合について説明したが、これに限定されるものではない。すなわち、ナビゲーションシステム2から供給される走行車線情報のみに基づいて、或いは白線認識装置3から供給される白線情報のみに基づいて隣接車線の有無を検出してもよい。
【0041】
さらに、上記一実施形態においては、操舵及び制動の何れでも前方物体との接触を回避できると判断されると、単に制動装置7に対する制動指令の出力が停止状態に制御される場合について説明したが、これに限定されるものではない。すなわち、制動力を発生させている状態から急に制動力が解除されると運転者に違和感を与えてしまうので、制動力を徐々に減少させて解除してもよい。
【0042】
さらにまた、上記一実施形態においては、前方物体と接触する可能性があると判断されたときに、自車両に制動力を発生させると共に、単に警報を報知する場合について説明したが、これに限定されるものではない。すなわち、前方物体と接触する可能の高さに応じて、報知する警報音の大きさや種類を換えてもよい。
以上のように、上記一実施形態によれば、レーザレーダ装置1で自車進路に存在する前方物体を検出し、検出した前方物体との接触を操舵で回避できる可能性と、検出した前方物体との接触を制動で回避できる可能性とを夫々判断し、これら2つの判断結果に基づいて自車両に制動力を発生させて制動制御を行っており、操舵で回避できる可能性を判断する際に、車線変更可能であるか否かも判断するように構成されているので、例えば、ガードレールや壁等の道路構造物が存在する、或いは隣接車線を走行中の並走車両が存在する等して横移動できないときにも、適切な制動制御を行うことができるという効果が得られる。」
以上の記載事項及び図面からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「レーザレーダ装置1により得られる自車両前方の前方物体との車間距離及び相対速度から前方物体との接触を制動で回避できる可能性を判断する手段と、
ナビゲーションシステム2により、自車両が走行している道路の車線数及び走行車線位置を示す情報を出力する手段と、
片側1車線しかない道路を走行していること、あるいは、片側複数の車線があっても並行車両等が存在することによって車線変更不可能であると判断され、かつ、前方物体との接触を制動により回避できる可能性がないと判断したときに、所定値F2の制動力を発生させる制動制御手段と、
を含んで構成され、
レーザレーダ装置1による車間距離及び相対速度から、前方物体との接触を操舵により回避できる可能性がなく、かつ前方物体との接触を制動により回避できる可能性がないか否かを判断する手段をさらに含み、
制動制御手段は、
車線数が片側2車線以上有って並行車両等がなく車線変更可能と判断された場合、前方物体との接触を操舵により回避できる可能性がなく、かつ前方物体との接触を制動により回避できる可能性がないと判断したときは所定値F2の制動力を発生させ、前方物体との接触を操舵により回避できる可能性があり、又は前方物体との接触を制動により回避できる可能性があると判断したときは所定値F2より小さい所定値F1の制動力を発生させる制動制御装置。」
(3)対比
本願発明1と引用例1発明とを比較すると、
後者の「レーザレーダ装置1」は前者の「レーダ」に相当し、以下同様に、「自車両前方の前方物体との車間距離及び相対速度から前方物体との接触を制動で回避できる可能性を判断する手段」は「車両前方の障害物との車間距離及び相対速度が、制動回避限界を越えるか否か判断する制動回避限界判断手段」に、「ナビゲーションシステム2により、自車両が走行している道路の車線数及び走行車線位置を示す情報を出力する手段」は「ナビゲーションシステムにより得られる自車位置及び地図情報に基づいて、走行中の道路の車線数を判別する車線数判別手段」に、「前方物体との接触を制動により回避できる可能性がないと判断したときに、」は「前記制動回避限界判断手段が制動回避限界を超えると判断したときに、」に、「所定値F2の制動力を発生させる制動制御手段」は「制動を実行する制動制御手段」に、「レーザレーダ装置1による車間距離及び相対速度から、前方物体との接触を操舵により回避できる可能性がなく、かつ前方物体との接触を制動により回避できる可能性がないか否かを判断する手段」は「前記レーダによる車間距離及び相対速度が、操舵回避限界及び前記制動回避限界のうちのより限界値の小さい方を越えるか否か判断する衝突判断手段」に、「前方物体との接触を操舵により回避できる可能性がなく、かつ前方物体との接触を制動により回避できる可能性がないと判断したときは所定値F2の制動力を発生させ、」は「前記衝突判断手段が小さい方を越えると判断したときに制動を実行し、」に、「制動制御装置」は「衝突被害軽減制動制御装置」に、それぞれ相当する。
後者の「片側1車線しかない道路を走行していること、あるいは、片側複数の車線があっても並行車両等が存在することによって車線変更不可能であると判断され、」と、前者の「該車線数判別手段が片側2車線以上無いと判別し」は、本願明細書の【0014】の「なお、片側2車線以上無い場合とは、片側1車線及び中央線のない道路で操舵回避の余地がないと判断できる場合である。」という記載等を参酌すると、「操舵回避の余地がないと判別し」という点で一致する。
後者の「車線数が片側2車線以上有って並行車両等がなく車線変更可能と判断された場合」と、前者の「前記車線数判別手段が片側2車線以上有ると判別したときは」は、「操舵回避の余地があると判別したときは」という点で一致する。
したがって、本願補正発明の用語に倣って整理すると、両者は、
「レーダにより得られる車両前方の障害物との車間距離及び相対速度が、制動回避限界を越えるか否か判断する制動回避限界判断手段と、
ナビゲーションシステムにより得られる自車位置及び地図情報に基づいて、走行中の道路の車線数を判別する車線数判別手段と、
該車線数判別手段が操舵回避の余地がないと判別し且つ前記制動回避限界判断手段が制動回避限界を超えると判断したときに、制動を実行する制動制御手段と、
を含んで構成され、
前記レーダによる車間距離及び相対速度が、操舵回避限界及び前記制動回避限界のうちのより限界値の小さい方を越えるか否か判断する衝突判断手段をさらに含み、
前記制動制御手段は、
前記車線数判別手段が操舵回避の余地があると判別したときは、前記衝突判断手段が小さい方を越えると判断したときに制動を実行する、
衝突被害軽減制動制御装置。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本願発明1の「制動制御手段」は、
「該車線数判別手段が片側2車線以上無いと判別し且つ前記制動回避限界判断手段が制動回避限界を超えると判断したときに、制動を実行する」のに対し、
引用例1発明の「制動制御手段」は、
「片側1車線しかない道路を走行していること、あるいは、片側複数の車線があっても並行車両等が存在することによって車線変更不可能であると判断され、かつ、前方物体との接触を制動により回避できる可能性がないと判断したときに、所定値F2の制動力を発生させる」ものである点。
[相違点2]
本願発明1の「制動制御手段」は、
「前記車線数判別手段が片側2車線以上有ると判別したときは、前記衝突判断手段が小さい方を越えると判断したときに制動を実行し、前記衝突判断手段が小さい方を越えないと判断したときに制動を実行しない、」のに対し、
引用例1発明の「制動制御手段」は
「車線数が片側2車線以上有って並行車両等がなく車線変更可能と判断された場合、前方物体との接触を操舵により回避できる可能性がなく、かつ前方物体との接触を制動により回避できる可能性がないと判断したときは所定値F2の制動力を発生させ、前方物体との接触を操舵により回避できる可能性があり、又は前方物体との接触を制動により回避できる可能性があると判断したときは所定値F2より小さい所定値F1の制動力を発生させる」ものである点。
(4)判断
(4-1)相違点1について
上記したとおり、本願明細書の【0014】には、「なお、片側2車線以上無い場合とは、片側1車線及び中央線のない道路で操舵回避の余地がないと判断できる場合である。」と記載されている。本願発明1が、片側2車線以上有っても、隣接車線に並走車両等があってそもそも車線変更不可能である場合に、片側2車線以上無い場合と同様に「制動回避限界判断手段が制動回避限界を超えると判断したときに、制動を実行する」のか、それとも、片側2車線以上有ると判別した以上、「前記衝突判断手段が小さい方を越えると判断したときに制動を実行し、前記衝突判断手段が小さい方を越えないと判断したときに制動を実行しない」のか、必ずしも明らかではないが、片側2車線以上であっても、隣接車線に並走車両等の物体があって車線変更不可能である場合は、操舵回避の余地がないとする方が、技術的にみて理に適っていることは明らかである。そして、本願明細書の【0005】、【0006】に記載されている「課題」の趣旨、【0008】の特に「片側2車線以上無ければ操舵回避の余地はないものとして、」の記載、【0014】の「操舵回避の余地がないと判断できる場合」の記載等からすると、本願発明1の「片側2車線以上無い場合」とは、操舵回避の余地があり得る片側2車線以上の車線が無い場合という意味、すなわち、片側1車線の場合のほか、片側2車線以上有っても、並行車両等の存在により車線変更不可能であり、車線変更して操舵回避する余地がそもそもない場合を含む趣旨であると解するのが合理的であり、当業者の通常の理解に適合するといえる。以上からすれば、引用例1発明の「片側1車線しかない道路を走行しているときや複数の車線があっても車線変更不可能と判断され」という事項は、実質的に、本願発明1の「該車線数判別手段が片側2車線以上無いと判別し」という事項に相当するということができる。
本願発明1の「片側2車線以上無い」については以上のとおり理解したが、もし、本願発明1が、隣接車線に並走車両等の物体があるかどうかを考慮することなく、単に車線数のみをみて、片側2車線以上有る場合は常に操舵回避の余地があるとの前提・推定に立つものとすると、引用例1発明は、「片側2車線」であっても直ちに操舵回避の余地があるとは判断せず、並行車両等の存否をみて現実に操舵回避の余地があるかどうかを検討しているという点で、本願発明1をさらに限定し、本願発明1よりも精緻な制御を行なっている発明であるといえる。このような関係に留意しつつ、片側2車線であれば、通常、操舵回避の余地があり得るという自明な事項ないし技術常識にかんがみれば、引用例1発明において、上記の検討を省いて、単に車線数だけをみて操舵回避の余地があるとすることは、例えば、制御装置・機能の簡単化・簡素化の観点から、適宜なし得る設計的事項にすぎないといえる。
(4-2)相違点2について
本願発明1の「前記車線数判別手段が片側2車線以上有ると判別したときは、」の意義については、「(4-1)」で述べたように、「操舵回避の余地があり得る片側2車線以上の車線が有る場合」と理解される。
引用例1発明は、「前方物体との接触を操舵により回避できる可能性があり、又は前方物体との接触を制動により回避できる可能性があると判断したときは所定値F2より小さい所定値F1の制動力を発生させる」ものであるが、これは、引用例1(特に【0037】?【0039】)に記載されているように、前方物体との距離が減少したり、相対速度が接近方向に増加したりすることにより、操舵又は制動の何れか一方で前方物体との接触を回避できる可能性が残されてはいるが、前方物体と接触する可能性もあると判断された場合に、その後に、操舵及び制動の何れでも前方物体を回避できずに接触する可能性が高いと判断されたときに発生させる所定値F2の制動力よりも小さい所定値F1の制動力を発生させておき、これにより、運転者に与える違和感のを軽減し、また、所定値F2の制動力を早く達成して自車両の十分な減速を図ろうとするものである。一方、このような「前方物体との接触を操舵により回避できる可能性があり、又は前方物体との接触を制動により回避できる可能性があると判断したとき」に、単純に、制動力を発生させないように構成することは、例えば、特開平6-298022号公報(特に【0020】)、特開2006-273252号公報(特に【0003】?【0006】)、特開2004-224258号公報(特に【0015】?【0017】)に示されているように周知である。以上からすると、引用例1発明において、「前方物体との接触を操舵により回避できる可能性があり、又は前方物体との接触を制動により回避できる可能性があると判断したとき」に、上記のような事情を考慮して所定値F1の制動力を発生させるか、それとも、上記のような事情に配慮することなく、制動力を発生させないという単純な措置にとどめるかは、所要の走行安全性、制動制御装置・機能の簡単化・簡素化の要請、道路状況に応じた制動の適否等を考慮して適宜なし得る設計的事項にすぎず、単に制動しないように構成することは格別困難なことではない。
本願発明1の「片側2車線以上有る」については以上のとおり理解したが、もし、本願発明1が、隣接車線に並走車両等の物体があるかどうかを考慮することなく、文言のとおり車線数のみをみるとした場合、引用例1発明において、そのように構成することが適宜なし得る設計的事項にすぎないことは、上記の(4-1)で述べたとおりである。
そして、本願発明1の作用効果は、引用例1に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が予測し得た程度のものである。

なお、平成25年3月25日付け回答書において、補正案が提示されているが、本審決の結論を左右する程度のものではない。

(5)むすび
以上のとおり、本願発明1は引用例1に記載された発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に基づいて特許を受けることができない。

4.結語
上述のように、本願発明1が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-02 
結審通知日 2013-05-07 
審決日 2013-05-27 
出願番号 特願2007-332789(P2007-332789)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60T)
P 1 8・ 57- Z (B60T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小野田 達志  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 島田 信一
中屋 裕一郎
発明の名称 衝突被害軽減制動制御装置  
代理人 笹島 富二雄  

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