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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16J 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16J |
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管理番号 | 1276635 |
審判番号 | 不服2012-17764 |
総通号数 | 165 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-09-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-09-12 |
確定日 | 2013-07-11 |
事件の表示 | 特願2006-238984「往復動用オイルシール」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 3月13日出願公開、特開2008- 57756〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
I.手続の経緯 本願は、平成18年9月4日の出願であって、平成24年6月6日付け(平成24年6月12日:発送日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年9月12日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、その請求と同時に特許請求の範囲及び明細書を補正する手続補正がなされたものである。なお、平成24年5月1日付けの手続補正は、原審において、平成24年6月6日付けで、決定をもって却下されている。 II.平成24年9月12日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成24年9月12日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.補正後の本願発明 本件補正は、平成24年2月15日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項2についてみると、 「【請求項2】 往復動軸に摺接可能とされたシールリップを具備するシール本体と、 前記シールリップの耐圧性を確保するために、前記シールリップを大気側から支持するように配置されるとともに、前記往復動軸と対向する内周面には、潤滑部材を保持可能な少なくとも1つの環状溝が設けられている樹脂により形成されたバックアップリングと、 前記シール本体との間で前記バックアップリングを挟み込むように保持する保持部材と、 を有している往復動用オイルシールにおいて、 前記バックアップリングの内周面には、複数の環状突起が軸方向に沿って配列されており、 前記環状溝が、前記複数の環状突起の隣位の環状突起の間の谷部により形成されており、 前記複数の環状突起の頂部を軸方向に沿って直線状に結ぶ母線により形成される仮想内周面が、軸方向に沿って密封側から大気側に向かって拡径するテーパをなすように形成されており、 前記テーパ状の仮想内周面の最小径部の内径寸法が前記往復動軸の外径寸法よりも大きく形成され、 密封側からの圧力が2MPa未満の定常の状態においては、前記テーパ状の内周面の最小径部と前記往復動軸の外周面との間に隙間があり、 密封側からの圧力が2MPa以上の高圧下で使用する場合でも、前記テーパ状の内周面のうちの少なくとも大気側の部位が前記往復動軸に対して非接触状態となるように保持されることを特徴とする往復動用オイルシール。」 とあったものを 「【請求項1】 往復動軸に摺接可能とされたシールリップを具備するシール本体と、 前記シールリップの耐圧性を確保するために、前記シールリップを大気側から支持するように配置されるとともに、前記往復動軸と対向する内周面には、潤滑部材を保持可能な少なくとも1つの環状溝が形成されている樹脂により形成されたバックアップリングと、 前記シール本体との間で前記バックアップリングを挟み込むように保持する保持部材と、 を有している往復動用オイルシールにおいて、 前記バックアップリングの内周面には、断面山形をなす少なくとも3個の複数の環状突起が軸方向に沿って配列されており、 前記環状溝が、断面山形をなす前記複数の環状突起の隣位の環状突起の間の谷部により形成されており、 断面山形をなす前記複数の環状突起の頂部を軸方向に沿って直線状に結ぶ母線により形成される仮想内周面が、軸方向に沿って密封側から大気側に向かって拡径するテーパをなすように形成されており、 前記内周面の最小径部は前記仮想内周面の最小径部であり、当該仮想内周面の最小径部の内径寸法が前記往復動軸の外径寸法よりも大きく形成されており、 前記環状突起の頂角が120?160°であり、 前記テーパの角度が1?15°であり、 密封側からの圧力が2MPa未満の定常の状態においては、前記仮想内周面の最小径部と前記往復動軸の外周面との間に隙間があり、 密封側からの圧力が2?9MPaの高圧下で使用する場合においては、前記仮想内周面のうちの少なくとも大気側の部位が前記往復動軸に対して非接触状態となるように保持されることを特徴とする往復動用オイルシール。」 と補正するものである。 上記補正は、補正前の請求項2に記載された発明を特定するために必要な事項としての ・「環状溝が設けられている」を「環状溝が形成されている」と減縮し、 ・「前記バックアップリングの内周面には、複数の環状突起が軸方向に沿って配列されており、 前記環状溝が、前記複数の環状突起の隣位の環状突起の間の谷部により形成されており、 前記複数の環状突起の頂部を軸方向に沿って直線状に結ぶ母線により形成される仮想内周面が、軸方向に沿って密封側から大気側に向かって拡径するテーパをなすように形成されており、」を 「前記バックアップリングの内周面には、断面山形をなす少なくとも3個の複数の環状突起が軸方向に沿って配列されており、 前記環状溝が、断面山形をなす前記複数の環状突起の隣位の環状突起の間の谷部により形成されており、 断面山形をなす前記複数の環状突起の頂部を軸方向に沿って直線状に結ぶ母線により形成される仮想内周面が、軸方向に沿って密封側から大気側に向かって拡径するテーパをなすように形成されており、」と減縮し、 ・「前記テーパ状の仮想内周面の最小径部の内径寸法が前記往復動軸の外径寸法よりも大きく形成され、」を 「前記内周面の最小径部は前記仮想内周面の最小径部であり、当該仮想内周面の最小径部の内径寸法が前記往復動軸の外径寸法よりも大きく形成されており、」と減縮し、 ・「前記環状突起の頂角が120?160°であり、 前記テーパの角度が1?15°であり、」との限定を付加し、 ・「密封側からの圧力が2MPa未満の定常の状態においては、前記テーパ状の内周面の最小径部と前記往復動軸の外周面との間に隙間があり、 密封側からの圧力が2MPa以上の高圧下で使用する場合でも、前記テーパ状の内周面のうちの少なくとも大気側の部位が前記往復動軸に対して非接触状態となるように保持される」を「密封側からの圧力が2MPa未満の定常の状態においては、前記仮想内周面の最小径部と前記往復動軸の外周面との間に隙間があり、 密封側からの圧力が2?9MPaの高圧下で使用する場合においては、前記仮想内周面のうちの少なくとも大気側の部位が前記往復動軸に対して非接触状態となるように保持される」と減縮するものである。 また、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項2に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 2.引用文献の記載事項 (1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-349716号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。 ア.「【請求項1】筒体とそれに内挿される軸との間に配設される密封装置であって、 筒体の内周に取り付けられ、内周部に軸の外周面に圧接されるシールリップを有するシール部材と、 シールリップの空気側傾斜面にあてがわれシールリップの反転を防止するバックアップリングとを備え、 圧力を印加しないときのバックアップリングの内周と軸の外周との最小隙間を0.2?0.5mmに設定すると共に、バックアップリングの曲げ弾性率を3?15GPaに設定してあることを特徴とする密封装置。 【請求項2】請求項1において、バックアップリングの内周部は円筒部と、円筒部に隣接し大気側に向けて漸次に拡径するテーパ部とを有し、円筒部の軸方向長さは0.2?0.3mmであることを特徴とする密封装置。 【請求項3】請求項1又は2において、バックアップリングの内周面に多数の独立した微小な凹部を分散配置してあり、凹部は周方向に長い長円形状をなすことを特徴とする密封装置。」 イ.「【0002】 【従来の技術と発明が解決しようとする課題】この種の密封装置は、通例、芯金により補強された環状のゴム製のシール部材を筒体の内周に固定しており、このシール部材の内周部には軸に接触するシールリップが設けられている。また、シール部材の内周部には、シールリップの反転を防止するためのバックアップリングが配置されている。従来、バックアップリングとして、曲げ弾性率が1.5GPa程度の比較的柔らかい合成樹脂(例えばナイロン11やナイロン12等)が用いられており、また、油圧が負荷されないときのバックアップリングと軸の外周との間の隙間量も、0.1mm未満に設定されていた。 【0003】このため、油圧の増加によりバックアップリングが径方向内向きに圧縮されると、小径となったバックアップリングの内周面が軸の外周面に抱きつき、その結果、バックアップリングと軸との摺動抵抗が増大し、発熱し易くなって寿命の低下につながる。本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は高圧時の摺動抵抗が少なくて寿命の長い密封装置を提供することである。」 ウ.「【0009】ラック軸2は、車体の左右方向に延設されるシリンダチューブ3およびこのシリンダチューブ3の一端に連なるギヤハウジング4の内部に、軸長方向に摺動自在に支持されている。(略)」 エ.「【0012】(略)パワーシリンダ9の要部の拡大断面図である図2を参照して、ロッドシール8は、環状のゴム製のシール部材22と、環状にて断面略L字型をなす芯金23とを備えている。この芯金23はシール部材22に加硫接着されることにより、シール部材22を補強する。 【0013】シール部材22は、ロッド7に接触するシールリップ24を形成する内周部25と、シリンダ9aの内周面9bに圧入される外周部26とを備えている。シール部材22の内周部25においてシールリップ24の付け根側の部分にあてがわれるようにして、バックアップリング27が配置されている。シール部材22のシールリップ24の背面28には、引っ張りコイルばねからなる締付けリング29が巻回され、内圧が低いときのシールリップ24のロッド7に対する締め付け力を付与している。」 オ.「【0015】バックアップリング27の材料としては、ガラス繊維にて補強された6-6ナイロンを例示することができる。(中略)上記の合成樹脂の他、例えばPBT(ポリブチレンテレフタレート)等を用いることもできる。」 カ.「【0016】バックアップリング27の内周面33は、ロッド7と同心の円筒部34と、円筒部34に隣接し大気側に向けて漸次に拡径するテーパ部35とを有している。円筒部34がバックアップリング27の内周面33の最小径部分を構成している。図3を参照して、圧力を印加しないときの円筒部34の内周とロッド7の外周面7aとの隙間量Aは0.2?0.5mmに設定されることが好ましい。圧力を印加しないきときの隙間量Aが0.2mm未満では、高圧印加時にバックアップリング27がロッド7に接触するおそれがあり、隙間量Aが0.5mmを超えると、シールリップ24をバックアップできなくなるという欠点があるので、隙間量Aを上記の範囲に設定した。また、上記の隙間量Aのより好ましい範囲としては、0.25?0.45mmである。 【0017】(略)テーパ部35の傾斜角度Cは3?15度に設定されることが好ましい。テーパ部の傾斜角度Cが3度未満では、万一、テーパ部35がロッド7に接触する場合に、接触面積が広くなって摺動抵抗が大きくなるおそれがあり、傾斜角度Cが15度を超えると、バックアップリング27の剛性が小さくなり、強度が低下するという欠点がある。そこで、傾斜角度Cを上記の範囲に設定することが好ましい。 【0018】また、バックアップリング27の内周面33には、多数の独立した微小な凹部36が複数の列37,38,39をなして配置されている。各列37,38,39の凹部36は周方向に長い長円形状をなしている。(略)」 キ.「【0019】本実施の形態によれば、圧力を印加しない状態において、バックアップリング27の最小径部分である円筒部34とロッド7の外周面7aとの隙間量Aが0.2?0.5mmに設定してあり、しかも、バックアップリング27の曲げ弾性率を3?15GPaに設定してあるので、高圧負荷時においてもバックアップリング27とロッド7との接触を概ね回避することができる。また、仮にバックアップリング27とロッド7とが接触するとしても、接触し始めるときの圧力を高くすることができる。 【0020】したがって、高圧時においてバックアップリング27による摺動抵抗を除去又は大幅に削減できる。その結果、ロッドシール8全体としての摺動抵抗を低減することができるので、寿命を長くすることができる。 また、高圧負荷時に、仮に、バックアップリング27の内周がロッド7の外周面7aに接触することがあっても、摺動抵抗の増加を最小限に抑えることができる。 【0021】というのは、バックアップリング27が0.2?0.3mmという狭い幅の円筒部34で接触することになり、接触面積の低減により摺動抵抗を格段に小さくすることができるからである。また、このときのバックアップリング27のロッド7への接触は線接触とまではいかないので、ロッド7を傷つけるおそれがない。 さらに、万一、非常な高圧の負荷により、テーパ部35の一部がロッド7の外周面7aに接触することになっても、バックアップリング27の内周面33に互いに独立する微小な凹部36を設けてあるので、この凹部36に蓄えられる油により、バックアップリング27の内周面33とロッド7の外周面7aとの間に良好な潤滑状態を得ることができ、摺動抵抗の増加を最小限に抑えることができるからである。」 ク.記載事項エ(段落【0012】)と【図2】を参酌すると、バックアップリング27は芯金23とシール部材22との間で挟み込むように保持されていることが示されている。 ケ.記載事項カ(段落【0018】)と【図2】及び【図3】を参酌すると、周方向に長い長円形状をなしている微小な凹部36が周方向に複数配置されていることが示されている。 これら記載事項、図示内容及び認定事項を総合し、本願補正発明の記載ぶりに倣って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「軸長方向に摺動自在に支持されているロッド7に接触するシールリップ24を具備するシール部材22と、 前記シールリップ24の反転を防止するために、前記シールリップ24の大気側にあてがわれるように配置されるとともに、前記ロッド7の外周面7aと対向する内周面33には、油を蓄えられる周方向に長い長円形状をなしている微小な凹部36が周方向に複数配置されている合成樹脂により形成されたバックアップリング27と、 前記シール部材22との間で前記バックアップリング27を挟み込むように保持する芯金23と、 を有している密封装置において、 前記バックアップリング27の内周面33には、前記周方向に長い長円形状をなしている微小な凹部36が、周方向に複数配置され、かつ複数の列37,38,39をなして配置されており、 前記内周面33が、ロッド7と同心の円筒部34と、該円筒部34に隣接し大気側に向けて漸次に拡径するテーパ部35とを有しており、 前記内周面33の最小径部分は円筒部34であり、当該内周面33の円筒部34の内周とロッド7の外周面7aとには隙間量Aが設定されており、 前記テーパ部35の傾斜角度Cが3?15°であり、 油側から圧力を印加しない状態において、内周面33の最小径部分である円筒部34とロッド7の外周面7aとの間に隙間量Aがあり、 油側からの圧力が高圧負荷時においても内周面33とロッド7の外周面7aとの接触を概ね回避するように保持される密封装置。」 3.対比 本願補正発明と引用発明とを対比すると、その意味、機能または構造からみて、後者の「軸長方向に摺動自在に支持されているロッド7に接触するシールリップ24を具備するシール部材22」は、前者の「往復動軸に摺接可能とされたシールリップを具備するシール本体」に相当する。以下同様に、「前記シールリップ24の反転を防止するために、前記シールリップ24の大気側にあてがわれるように配置され」は「前記シールリップの耐圧性を確保するために、前記シールリップを大気側から支持するように配置され」に、「油」は「潤滑部材」に、「合成樹脂」は「樹脂」に、「バックアップリング27」は「バックアップリング」に、「芯金23」は「保持部材」に、「密封装置」は「往復動用オイルシール」に、「傾斜角度C」は「角度」に、それぞれ相当し、前者の「テーパ部35の傾斜角度Cが3?15°」は後者の「テーパの角度が1?15°」に含まれる。 引用発明の「前記ロッド7の外周面7aと対向する内周面33には、油を蓄えられる周方向に長い長円形状をなしている微小な凹部36が周方向に複数配置されている」と、本願補正発明の「前記往復動軸と対向する内周面には、潤滑部材を保持可能な少なくとも1つの環状溝が形成されている」とは、「前記往復動軸と対向する内周面には、潤滑部材を保持可能な少なくとも1つの凹部が形成されている」点で共通している。 引用発明の「前記内周面33が、ロッド7と同心の円筒部34と、該円筒部34に隣接し大気側に向けて漸次に拡径するテーパ部35とを有しており、」と、本願補正発明の「断面山形をなす前記複数の環状突起の頂部を軸方向に沿って直線状に結ぶ母線により形成される仮想内周面が、軸方向に沿って密封側から大気側に向かって拡径するテーパをなすように形成されており、」とは、「内周面が、軸方向に沿って密封側から大気側に向かって拡径するテーパをなすように形成されており、」の点で共通している。 引用発明の「前記内周面33の最小径部分は円筒部34であり、当該内周面33の円筒部34の内周とロッド7の外周面7aとには隙間量Aが設定されており、」と、本願補正発明の「前記内周面の最小径部は前記仮想内周面の最小径部であり、当該仮想内周面の最小径部の内径寸法が前記往復動軸の外径寸法よりも大きく形成されており、」とは、「前記内周面の最小径部は、当該内周面の最小径部の内径寸法が前記往復動軸の外径寸法よりも大きく形成されており、」の点で共通している。 そこで、両者は、本願補正発明の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。 [一致点] 「往復動軸に摺接可能とされたシールリップを具備するシール本体と、 前記シールリップの耐圧性を確保するために、前記シールリップを大気側から支持するように配置されるとともに、前記往復動軸と対向する内周面には、潤滑部材を保持可能な少なくとも1つの凹部が形成されている樹脂により形成されたバックアップリングと、 前記シール本体との間で前記バックアップリングを挟み込むように保持する保持部材と、 を有している往復動用オイルシールにおいて、 内周面が、軸方向に沿って密封側から大気側に向かって拡径するテーパをなすように形成されており、 前記内周面の最小径部は、当該内周面の最小径部の内径寸法が前記往復動軸の外径寸法よりも大きく形成されており、 前記テーパの角度が1?15°である往復動用オイルシール。」 そして、両者は次の点で相違する。 [相違点1] 本願補正発明は、「前記往復動軸と対向する内周面には、潤滑部材を保持可能な少なくとも1つの環状溝が形成され、 前記バックアップリングの内周面には、断面山形をなす少なくとも3個の複数の環状突起が軸方向に沿って配列されており、前記環状溝が、断面山形をなす前記複数の環状突起の隣位の環状突起の間の谷部により形成されており、断面山形をなす前記複数の環状突起の頂部を軸方向に沿って直線状に結ぶ母線により形成される仮想内周面が、軸方向に沿って密封側から大気側に向かって拡径するテーパをなすように形成されており、 前記内周面の最小径部は前記仮想内周面の最小径部であり、当該仮想内周面の最小径部の内径寸法が前記往復動軸の外径寸法よりも大きく形成されており、 前記環状突起の頂角が120?160°であ」るのに対して、 引用発明は、「前記ロッド7の外周面7aと対向する内周面33には、油を蓄えられる周方向に長い長円形状をなしている微小な凹部36が周方向に複数配置され、 バックアップリング27の内周面33には、前記周方向に長い長円形状をなしている微小な凹部36が周方向に複数配置され、かつ複数の列37,38,39をなして配置されており、 前記内周面33が、ロッド7と同心の円筒部34と、該円筒部34に隣接し大気側に向けて漸次に拡径するテーパ部35とを有しており、 前記内周面33の最小径部分は円筒部34であり、当該円筒部34の内周とロッド7の外周面7aとには、隙間量Aが設定されて」いる点。 [相違点2] 本願補正発明は、「密封側からの圧力が2MPa未満の定常の状態においては、前記仮想内周面の最小径部と前記往復動軸の外周面との間に隙間があり、 密封側からの圧力が2?9MPaの高圧下で使用する場合においては、前記仮想内周面のうちの少なくとも大気側の部位が前記往復動軸に対して非接触状態となるように保持される」のに対して、 引用発明は、「油側から圧力を印加しない状態において、内周面33の最小径部分である円筒部34とロッド7の外周面7aとの間に隙間量Aがあり、 油側からの圧力が高圧負荷時においても内周面33とロッド7の外周面7aとの接触を概ね回避するように保持される」点。 4.判断 (1)上記相違点1について検討する。 引用発明の「周方向に長い長円形状をなしている微小な凹部36が周方向に複数配置され、かつ複数の列37,38,39をなして配置されており、」の技術的意義は、記載事項キの段落【0021】に記載されているように、「凹部36に蓄えられる油により、バックアップリング27の内周面33とロッド7の外周面7aとの間に良好な潤滑状態を得ることができ、摺動抵抗の増加を最小限に抑えること」である。 また、密封装置の分野において、バックアップリングの内周面と軸の外周面との間に良好な潤滑状態を得るために、バックアップリングの内周面に、断面山形をなす3個以上の複数の環状突起を軸方向に沿って配列させ、環状溝を断面山形をなす前記複数の環状突起の隣位の環状突起の間の谷部により形成する構造とすることは、従来周知の技術(実願昭63-32643号(実開平1-136770号)のマイクロフィルムの第1図、及び実願昭63-138453号(実開平2-59363号)のマイクロフィルムの第1図を参照。)である。 そして、バックアップリングの内周面と軸の外周面との間の潤滑性能については、密封装置が用いられる油圧機器における油室側で発生する圧力の程度、バックアップリング及び軸の材質等を考慮して当業者が適宜に設定するものであるところ、引用発明の微小な凹部36も、周方向に長い長円形状をなし周方向に複数配置ているので、環状溝に近い構造となっているが、微小な凹部36が周方向に間隔をあけて配置されているので、蓄えられる油の総量が不足し、密封装置が用いられる油圧機器の油室側で発生する圧力が大きい場合やロッド7が潤滑性の悪い材料である場合等には、潤滑不良が発生する可能性も十分考えられることから、良好な潤滑状態を得るために引用発明の「周方向に長い長円形状をなしている微小な凹部36が周方向に複数配置され、かつ複数の列37,38,39をなして配置されており、」の構造に代えて従来周知の技術を適用し、断面山形をなす3個以上の複数の環状突起をロッド7方向に沿って配列させ、環状溝を断面山形をなす前記複数の環状突起の隣位の環状突起の間の谷部により形成する構造を採用することは当業者であれば適宜になし得ることである。また、その際に環状突起の頂角を120?160°程度にすることも、潤滑性能の効果を確認しながら当業者であれば適宜に設定し得ることである。 ところで、引用発明の「前記内周面33が、ロッド7と同心の円筒部34と、該円筒部34に隣接し大気側に向けて漸次に拡径するテーパ部35とを有しており、」との構成は、記載事項カの段落【0017】に「テーパ部の傾斜角度Cが3度未満では、万一、テーパ部35がロッド7に接触する場合に、接触面積が広くなって摺動抵抗が大きくなるおそれがあり、」と記載されているように、テーパ部を設けることにより内周面33とロッド7との摺動抵抗を低減するものであるから、この技術思想に照らせば、上述のとおり内周面33の「周方向に長い長円形状をなしている微小な凹部36が周方向に複数配置され、かつ複数の列37,38,39をなして配置されており」の構造を「断面山形をなす3個以上の複数の環状突起がロッド7方向に沿って配列させ、環状溝を断面山形をなす前記複数の環状突起の隣位の環状突起の間の谷部により形成する」構造に変更した場合には、高圧負荷時にロッド軸7に接する可能性がある複数の環状突起の頂部を基準に内周面を規定することは合理的かつ自然な発想であるから、引用発明の内周面33を「複数の環状突起の頂部を軸方向に沿って直線状に結ぶ母線により形成される仮想内周面」に見立てて考えることは当業者であれば容易に導きだせる程度のものである。 よって、引用発明1において、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 (2)上記相違点2について検討する。 本願補正発明の「圧力が2MPa未満の定常の状態」及び「圧力が2?9MPaの高圧下」の技術的意味を考察する。 前者に関しては本願明細書に特に技術的意味の記載がなく、後者に関しては本願明細書の段落【0041】及び【0054】に「例えば、圧力2?9MPaと高圧下で使用する場合であっても、」と記載されているように、「2?9MPa」の数値限定には格別な技術的意味はなく、「高圧下」の圧力範囲を例示しているものにすぎない。また、高圧下に満たない「2MPa未満」の範囲を単に「定常の状態」としているものと解釈できる。 他方、引用文献1の記載事項キの段落【0019】には「本実施の形態によれば、圧力を印加しない状態において、バックアップリング27の最小径部分である円筒部34とロッド7の外周面7aとの隙間量Aが0.2?0.5mmに設定してあり、しかも、バックアップリング27の曲げ弾性率を3?15GPaに設定してあるので、高圧負荷時においてもバックアップリング27とロッド7との接触を概ね回避することができる。また、仮にバックアップリング27とロッド7とが接触するとしても、接触し始めるときの圧力を高くすることができる。」と記載されているように、高圧負荷時においてもバックアップリング27とロッド7との接触を概ね回避することができるものであるから、高圧負荷時にバックアップリング27の一番大気側の部位まで全てロッド7に対して接触する可能性は低く、また、引用発明に上記周知技術を適用した密封装置は、本願補正発明と比較して構造の差異はないものであるから同様の作用効果を発揮し得ることを考え合わせれば、引用発明において、高圧負荷時にバックアップリング27の少なくとも大気側の部位がロッド7に対して非接触状態となるように構成することは当業者であれば適宜なし得る設計的事項である。そして同様に、引用発明は高圧負荷時においてもバックアップリング27とロッド7との接触を概ね回避するものであるから、高圧負荷時よりも圧力の低い定常の状態において、バックアップリング27の一部を形成する最小径部分である円筒部34とロッド7の外周面7aとの間にも隙間を有るように設計することも当業者であれば適宜になし得ることである。 よって、引用発明において、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 (3)格別な効果について 本願補正発明による効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものとはいえない。 したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 5.むすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 III.本願発明について 1.本願発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成24年2月15日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記「II.1.」に記載したとおりである。 2.引用文献の記載事項 引用文献1の記載事項は、前記「II.2.」に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明は、本願補正発明から、前記「前記II.1.」に記載した各限定事項を省くものであり、その結果、「密封側からの圧力が2?9MPaの高圧下で使用する場合」を「密封側からの圧力が2MPa以上の高圧下で使用する場合」と圧力の数値範囲を拡張するものであるが、前記「II.4.(2)」に記載したように、数値限定には格別な技術的意味はなく、「高圧下」の圧力範囲を例示しているものにすぎない。そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに、前記「前記II.1.」の限定事項により減縮したものに相当する本願補正発明が、前記「II.3.及び4.」に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 なお、平成25年3月27日付け回答書の補正案では、請求項1において「断面山形」を「断面三角形」に限定し、「さらに、前記仮想内周面が前記複数の環状突起の頂部のみを含有する面で形成され、前記複数の環状突起の頂部以外の部位は、前記仮想内周面より径方向外側に配置されており、」との限定を付加しているが、前者については前記周知例(実願昭63-138453号(実開平3-59363号)のマイクロフィルム)に断面三角形の環状凸部が記載され、後者については前置審査時に提示した特開平11-141688号公報(図4、図5)に、バックアップリングの内周面を円筒部とテーパ部とで形成する実施形態の変形例として、バックアップリングの内周面をテーパ部のみで形成することも記載されていることから、依然として特許性は認められない。 4.むすび 以上のとおり、本願発明(請求項2に係る発明)は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 そうすると、本願発明が特許を受けることができないものである以上、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-05-01 |
結審通知日 | 2013-05-07 |
審決日 | 2013-05-30 |
出願番号 | 特願2006-238984(P2006-238984) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F16J)
P 1 8・ 575- Z (F16J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鶴江 陽介、塩澤 正和 |
特許庁審判長 |
島田 信一 |
特許庁審判官 |
山岸 利治 中屋 裕一郎 |
発明の名称 | 往復動用オイルシール |
代理人 | 畑中 芳実 |
代理人 | 大倉 奈緒子 |
代理人 | 畑中 芳実 |
代理人 | 鈴木 健之 |
代理人 | 中尾 俊輔 |
代理人 | 玉利 房枝 |
代理人 | 玉利 房枝 |
代理人 | 大倉 奈緒子 |
代理人 | 中尾 俊輔 |
代理人 | 伊藤 高英 |
代理人 | 鈴木 健之 |
代理人 | 伊藤 高英 |