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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1276681
審判番号 不服2010-27139  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-01 
確定日 2013-07-10 
事件の表示 特願2000-227798「発毛、毛包及び毛茎の寸法、及び毛色素沈着の減少」拒絶査定不服審判事件〔平成13年3月21日出願公開、特開2001-72555〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年7月27日(パリ条約による優先権主張1999年7月27日、米国(US)、2000年7月21日、米国(US))の出願であって、平成22年1月7日付けで拒絶理由が通知され、同年7月9日付けで手続補正がなされるとともに意見書が提出されたが、同年7月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月1日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正がなされ(以下、当該手続補正を「平成22年12月1日付けの手続補正」ともいう。)、平成24年1月18日付けで前置報告書を用いた審尋が通知され、同年7月20日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成22年12月1日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年12月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、
補正前(平成22年7月9日付けの手続補正によるもの)の
「【請求項1】哺乳動物の毛の外観、発毛、毛色素沈着、ならびに毛包及び毛茎の寸法に変化を生じさせる方法であって、
哺乳動物の皮膚に対して、マメ科植物、ナス科植物、イネ科植物、及びウリ科植物の1種類以上に由来するプロテアーゼ阻害活性を有する1種類以上の化合物を含む、有効量の局所活性組成物を局所適用することを含む、方法。」から、
補正後の
「【請求項1】哺乳動物の毛色素沈着、ならびに毛包及び毛茎の寸法に変化を生じさせる方法であって、
哺乳動物の皮膚に対して、マメ科植物、ナス科植物、イネ科植物、及びウリ科植物の1種類以上に由来するプロテアーゼ阻害活性を有する1種類以上の化合物を含む、有効量の局所活性組成物を局所適用することを含む、方法。」(下線は、原文のとおり)
とする補正を含むものである。

2 本件補正についての検討
(1)本件補正における上記請求項1の補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「哺乳動物の毛の外観、発毛、毛色素沈着、ならびに毛包及び毛茎の寸法に変化を生じさせる方法」から、「毛の外観」及び「発毛」を削除したものである。
本件補正前の請求項1に係る発明は、その文言上、哺乳動物の「毛の外観」、「発毛」、「毛色素沈着」、「毛包の寸法」、及び「毛茎の寸法」という5種類の変化を同時に生じさせる方法であると認められるところ、本件補正により、そのうちの2種類の変化を削除して3種類の変化のみを特定することに変更されたから、発明特定事項の一部を削除して特許請求の範囲を拡張又は実質的に変更するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的としたものではない。
そして、本件補正は、請求項の削除、誤記の訂正及び明瞭でない記載の釈明を目的としたものでもない。

よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

(2)ところで、審判請求人は、本件補正について、平成22年12月1日付けの審判請求書において、「請求項1における『毛の外観、発毛、』を削除する補正および、請求項7における『発毛の遅れ、』を削除する補正は、先行技術に開示された範囲を除外するものです。すなわち、引用文献1,2,4?6,7における『発毛抑制』に相当する『毛の外観、発毛の変化』や『発毛の遅れ』を除外したもので、発明の範囲を拡大したものではありません。」と釈明している。
また、同審判請求書には、「なお、審査官殿は、組成物の構成が同様であって、『発毛抑制』効果が得られるのであれば、本願発明に係る『毛色素沈着ならびに毛包及び毛茎の寸法の変化』効果も実現されると考えられるかも知れませんが、例えば、本願明細書の実施例に見られるように、必ずしも、同時にこれらの効果が発揮されるわけではありませんので、そのように推論することはできません。」との記載があり、平成24年7月20日付け回答書にも、「しかしながら、例えば、実施例7のように、色素沈着に関する記載のみを含む実施例もあります。従って、『「発毛抑制」効果が得られるのであれば、本願発明に係る「毛色素沈着ならびに毛包及び毛茎の寸法の変化」効果も実現される』ことが常に成り立つとは言えません。」のように記載されている。
これらのことからすると、本件補正前後の請求項1に係る発明は、「毛の外観」、「発毛」、及び「毛色素沈着」、「毛包の寸法」、「毛茎の寸法」の、少なくとも一つについて「変化を生じさせる方法」と解される可能性もある。

これを考慮すると、本件補正における上記請求項1の補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「哺乳動物の毛の外観、発毛、毛色素沈着、ならびに毛包及び毛茎の寸法に変化を生じさせる方法」から、選択肢のうちの「毛の外観」及び「発毛」を削除して、「哺乳動物の毛色素沈着、ならびに毛包及び毛茎の寸法に変化を生じさせる方法」と、変化を生じさせる対象を減縮するものといえる(この場合、「ならびに」は、「又は」の意味と解することになる。)。
そして、その補正前の請求項1に記載された発明とその補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
そうすると、上記請求項1の補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するということもできる。

そのような、減縮と解される場合については、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)についても検討する必要があるので、以下に検討する。

3 引用出願の記載事項及び引用出願に記載の発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前の出願であって、その出願後に出願公開された「特願平10-151954号(特開平11-322548号)」の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下、「先願明細書等」という。)には、次の事項が記載されている。なお、以下、下線は当審で付した。

(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】イチハツ、オノニス、ダイズ、クズ、ニオイイリス、ヒオウギ、ヒトツバエニシダ、ホップから選ばれる1種以上の植物抽出物を含有することを特徴とする発毛抑制剤。
【請求項2】請求項第1項記載の発毛抑制剤を配合することを特徴とする化粧料組成物。
【請求項3】前記化粧料組成物が除毛剤、脱毛剤、髭剃り前処理料、髭剃り後処理料、髭剃り料、皮膚用化粧料、頭髪用化粧料の何れかである、請求項第2項記載の化粧料組成物。」

(1b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、イチハツ、オノニス、ダイズ、クズ、ニオイイリス、ヒオウギ、ヒトツバエニジダ、ホップから選ばれる1種以上の植物抽出物を含有する発毛抑制剤及びそれを配合する化粧料組成物に関するものである。
【0002】その利用分野は、各種の化粧料組成物、例えば、各種の外用製剤類(動物用に使用する製剤も含む)全般において利用でき、具体的には、アンプル状、カプセル状、丸剤、錠剤状、粉末状、顆粒状、固形状、液状、ゲル状又は気泡状の1)医薬品類、2)医薬部外品類、3)局所用又は全身用の皮膚用化粧品類(例えば、化粧水、乳液、クリーム、軟膏、ローション、オイル、パックなどの基礎化粧料、洗顔料や皮膚洗浄料、除毛剤、脱毛剤、アフターシェーブローション、プレショーブローション、シェービングクリームなど)、4)頭皮・頭髪に適用する薬用又は/及び化粧用の製剤類(例えば、シャンプー剤、リンス剤、トリートメント剤、パーマネント液、染毛料、整髪料、ヘアートニック剤、育毛・養毛料など)、5)その他、液臭・防臭防止剤や衛生用品、衛生綿類、ウエットティシュなどが上げられる。」

(1c)「【0009】「ダイズ:大豆」とは、マメ科(Leguminosae)、ダイズ属(Glycine)の植物:ダイズ「Glycine max(L.)Merrill(=Glycine hirsta Maxim.)」の種子を用いる。」

(1d)「【0015】本発明で使用するイチハツ、オノニス、ダイズ、クズ、ニオイイリス、ヒオウギ、ヒトツバエニシダ、ホップの各種植物抽出物とは、各々の植物体の各種部位(全草、花、頭花、花穂、葉、枝、枝葉、根茎、根皮、根、豆果、種子など)をそのまま或い粉砕後搾取したもの。又は、そのまま或いは粉砕後、溶媒で抽出したものである。
【0016】抽出溶媒としては、水、アルコール類(例えば、メタノール、無水エタノール、エタノールなどの低級アルコール、或いはプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコールなどの多価アルコール)、アセトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、ジオキサン、アセトニトリル、酢酸エチルエステルなどのエステル類、キシレン、ベンゼン、クロロホルムなどの有機溶媒を、単独で或いは2種類以上の混液を任意に組み合わせて使用することができ、又、各々の溶媒抽出物が組み合わされた状態でも使用できる。
【0017】・・・
【0018】尚、製造方法は特に制限されるものはないが、通常、常温?常圧下での溶媒の沸点の範囲であれば良く、抽出後は濾過又はイオン交換樹脂を用い、吸着・脱色・精製して溶液状、ペースト状、ゲル状、粉末状とすれば良い。更に多くの場合は、そのままの状態で利用できるが、必要ならば、その効力に影響のない範囲で更に脱臭、脱色などの精製処理を加えても良く、脱臭・脱色などの精製処理手段としては、活性炭カラムなどを用いれば良く、抽出物質により一般的に適用される通常の手段を任意に選択して行えば良い。
【0019】本発明のイチハツ、オノニス、ダイズ、クズ、ニオイイリス、ヒオウギ、ヒトツバエニシダ、ホップの各植物抽出物は、発毛抑制剤、化粧料組成物へ配合でき、その配合量としては特に規定するものではないが、発毛抑制剤、化粧料組成物の種類、品質、期待される作用の程度によって若干異なり、通常、0.001重量%以上(以下、重量%で表わす)好ましくは3?20%が良い。尚、配合量が0.001%より少ないと効果が充分期待できない。」

(1e)「【0077】
【実施例】以下に、製造例、試験例、処方例を上げて説明するが、本発明がこれらに制約されるものではない。
【0078】(製造例1)イチハツ、オノニス、ダイズ、クズ、ニオイイリス、ヒオウギ、ヒトツバエニジダ、ホップの各植物をそれぞれ100gを精製水(約80℃)にて約5時間加温抽出し、濾過して抽出液(乾燥固形分:約0.05?2.5重量%)を約1.0kg得る。
【0079】(製造例2)イチハツ、オノニス、ダイズ、クズ、ニオイイリス、ヒオウギ、ヒトツバエニジダ、ホップの各植物をそれぞれ100gを50%エタノール溶液に浸漬し、室温にて5昼夜抽出した後、濾過して抽出液(乾燥固形分:約0.05?2.5重量%)を約1.0kg得る。
【0080】(製造例3)イチハツ、オノニス、ダイズ、クズ、ニオイイリス、ヒオウギ、ヒトツバエニジダ、ホップの各植物をそれぞれ100gを70%エタノール溶液又は30%1,3-ブチレングリコール溶液、又は60%プロピレングリコール溶液、又は精製水(約30℃)に浸漬し、室温にて5昼夜抽出した後、濾過して抽出液(乾燥固形分:約0.05?3.0重量%)を約1.0kg得る。
【0081】
【作用】本発明の発毛抑制剤又は、発毛抑制剤を含有する化粧料組成物は、体毛の発毛を抑制する作用を有し、体毛が生えることが好ましくない部位、個所の発毛を抑制し、除毛剤や脱毛剤の使用頻度を少なくさせることができ、更に、除毛剤や脱毛剤などが抱える安全性(肌荒れ、肌の痛みなど)の問題を軽減することができる。
【0082】(試験1)C3Hマウス発毛促進試験
動物背部約8cm^(2)を電気バリカン及び電気シェーバーにて除毛した。次に除毛した背部に試料を1日1回,週5日、20日間塗布を行った。判定は塗布後20日目を画像解析装置にて、除毛した面積に対する毛の再生が認められた面積率(%)を計測し、対照群と比較した。尚、結果を図1に示した。「小川らの試験方法(フレグランスジャーナル,Vol.17,No.5,P.20 29(1989)参照」
【0083】(試験方法)
a.試料
本発明の製造例2で得られた各種植物抽出液を原液を用い、対照として基剤の50%エタノール水溶液のみを用いた。
b.実験動物
8週齢の雄性C3Hマウスを使用した。これらの動物は、室温22±2℃,湿度50±15%,オールフレッシュ換気15回/時,照明9時間/日の環境下で飼育した。動物は固型飼料MF(オリエンタル酵母工業)及び水道水を自由摂取させた。
【0084】(試験結果)図1の通り、本発明のイチハツ、オノニス、ダイズ、クズ、ニオイイリス、ヒオウギ、ヒトツバエニジダ、ホップの植物抽出物には、毛の再生(発毛)を有意に抑制することが認められた。」

(1f)「【0088】(処方例)除毛・脱毛用化粧料組成物の製造
上記の評価結果に従い、以下にその処方例を示すが、各処方例は各製品の製造における常法により製造したもので良く、配合量のみを示した。又、本発明はこれらに限定されるわけではない。
【0089】
(処方例1)除毛クリーム
重量%
1.チオグリコール酸カルシウム 5.0
2.セチルアルコール 6.0
3.ワセリン 15.0
4.流動パラフィン 10.0
5.ポリオキシエチレンオレイルアルコールエーテル 4.0
6.ポリオキシエチレンステアリルアルコールエーテル 2.0
7.香料・防腐剤 適量
8.精製水 100とする残余」

(1g)「【0096】(試験5)使用効果試験
本発明の発毛抑制剤を実際に使用した場合の効果について検討を行った。使用テストは健康な男女10名(15?25歳)をパネラーとし、処方例1の除毛クリームを適量、両腕及び両臑に塗布して除毛した後、そのまま精製水で洗浄しただけと、洗浄後に製造例2の各種植物抽出液を適量塗布し、更に毎日1回、2ヶ月間に渡って、製造例2の各種植物抽出液を適量塗布することにより使用テストを実施した。対照には、除毛クリームで除毛後、精製水で洗浄しただけと比較した。又、評価方法は下記の基準にて行い、結果は表1?2のごとくで表中の数値は人数を表す。尚、使用期間中に両腕及び両臑の異常を訴えた者はなかった。
【0097】「発毛抑制効果」
有 効:除毛後、うぶ毛を若干生じた。
やや有効:除毛後、うぶ毛を若干多く生じた。
無 効:除毛後、うぶ毛又は成長毛が非常に多く生じた。
【0098】・・・
【0099】
【表1】

【0100】・・・
【0101】(試験結果)結果は表1の通り、本発明のイチハツ、オノニス、ダイズ、クズ、ニオイイリス、ヒオウギ、ヒトツバエニジダ、ホップの植物抽出物は、発毛を遅らせることができる発毛抑制効果が認められた。」

(1h)「【図1】



(2)引用出願に記載の発明
先願明細書等の上記(1a)には、ダイズの植物抽出物を含有する発毛抑制剤を配合した皮膚用化粧料組成物が記載されており、上記(1b)、(1g)の記載からみて、先願明細書等には、前記皮膚用化粧料組成物を局所適用することによって発毛を抑制する方法が記載されている。
したがって、引用出願には、次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認められる。

「ダイズの植物抽出物を含有する発毛抑制剤を配合した皮膚用化粧料組成物を局所適用することによる発毛抑制方法。」

4 対比
そこで、以下に本願補正発明と先願発明を対比する。

(1)先願明細書の上記(1g)には、「(試験5)使用効果試験」として、健康な男女10名の両腕及び両臑に製造例2の各種植物抽出液(ダイズの植物抽出物を含む)を適量塗布したことが示されている。
そして、ヒトが哺乳動物であることは自明であり、ダイズの植物抽出物を両腕及び両臑に塗布したのであるから、先願発明の「皮膚用化粧料組成物」は、哺乳動物の皮膚に対して局所適用する局所用組成物といえる。
一方、本願補正発明の「局所活性組成物」も、哺乳動物の皮膚に対して局所適用するものであるから、皮膚に局所適用する局所用組成物といえる。
したがって、先願発明の「皮膚用化粧料組成物を局所適用すること」は、本願補正発明の「哺乳動物の皮膚に対して」局所用組成物を「局所適用すること」に相当する。

(2)先願発明の「ダイズの植物」は、先願明細書等の上記(1c)に、マメ科の植物と説明されているとおり、本願補正発明の「マメ科植物」に相当し、「ダイズの植物抽出物」には、マメ科植物に由来する物質が含まれているといえる。
そうすると、先願発明の「ダイズの植物抽出物を含有する発毛抑制剤」は、本願補正発明の「マメ科植物、ナス科植物、イネ科植物、及びウリ科植物の1種類以上に由来するプロテアーゼ阻害活性を有する1種類以上の化合物」と、「マメ科植物に由来する物質」で一致する。

(3)以上のことから、本願補正発明と先願発明とは、以下の一致点及び一応の相違点1?3を有する。

一致点:「哺乳動物の皮膚に対して、マメ科植物に由来する物質を含む局所用組成物を、局所適用することを含む、方法」

相違点1:本願補正発明は「哺乳動物の毛色素沈着、ならびに毛包及び毛茎の寸法に変化を生じさせる方法」であるのに対し、先願発明は「発毛抑制方法」である点

相違点2:局所用組成物に配合される「マメ科植物に由来する物質」について、本願補正発明では、「マメ科植物」「に由来するプロテアーゼ阻害活性を有する1種類以上の化合物」と特定されているのに対し、先願発明では、「ダイズの植物抽出物を含有する発毛抑制剤」であるとされている点

相違点3:本願補正発明は「有効量の局所活性組成物を局所適用する」のに対し、先願発明は「皮膚用化粧料組成物を局所適用する」とされている点

5 判断
上記一応の相違点1?3について検討する。

(1)一応の相違点1及び相違点3について
一応の相違点1と相違点3は関連するのでまとめて検討する。

ア 先願明細書等の上記(1g)には、「(試験5)使用効果試験」が記載されており、具体的な試験方法として、「使用テストは健康な男女10名(15?25歳)をパネラーとし、処方例1の除毛クリームを適量、両腕及び両臑に塗布して除毛した後、そのまま精製水で洗浄しただけと、洗浄後に製造例2の各種植物抽出液を適量塗布し、更に毎日1回、2ヶ月間に渡って、製造例2の各種植物抽出液を適量塗布することにより使用テストを実施した。」ことが記載されている。
すなわち、処方例1のチオグリコール酸カルシウム(除毛成分)を配合した除毛クリーム(上記(1f)参照)を塗布して、予め適用個所の毛を除去した後、製造例2の各種植物抽出液(ダイズの植物抽出物を含む)を毎日1回、2ヶ月間に渡って適量塗布し、2ヶ月後にその使用効果を確認したものである。
そして、評価方法は下記の基準にて行ったこと、及び表1に、ダイズ抽出物では、有効 3、やや有効 4、無効 3(数値は人数を表す)の結果であったことが示されている(上記(1g)参照)。
「発毛抑制効果」
有 効:除毛後、うぶ毛を若干生じた。
やや有効:除毛後、うぶ毛を若干多く生じた。
無 効:除毛後、うぶ毛又は成長毛が非常に多く生じた。

イ これら先願明細書等の記載から、ダイズの植物抽出物を局所適用することにより、本来、成長毛が生じる皮膚において、除毛後の2ヶ月後であってもうぶ毛が若干生じた程度、あるいはうぶ毛が若干多く生じた程度に状態を変化させたことが示されていると理解できる。
先願明細書等には、他に「(試験1)C3Hマウス発毛促進試験」の結果として、毛の再生(発毛)を有意に抑制することが認められたことも記載されている(上記(1e)、(1h)参照)。
そうしてみると、先願発明の発毛抑制方法は、毛を生やさなくする、あるいは毛の成長を遅らせるなどの「発毛抑制」という用語から発想される効果とともに、生えてくる毛が成長毛ではなくうぶ毛となるように毛の状態を変化させる効果を奏するものであることも記載されているといえる。そして、除毛後2ヶ月後であってもうぶ毛しか生じないことは、毛包の寸法に変化が生じたことに他ならない(下記、周知文献A、B参照)。
よって、先願発明の「発毛抑制方法」は、「哺乳動物の」「毛包」「の寸法に変化を生じさせる方法」に相当する。
そして、効果が発揮される程度の適量を塗布しているのだから、当然に「有効量」適用しているといえる。
また、「皮膚用化粧料組成物」は、「局所組成物」であり、かつ、上記アのとおり、活性を有するから、「局所活性組成物」とも表現できるから、先願発明の「皮膚用化粧料組成物」と本願補正発明の「局所活性組成物」とは、表現上の差異のみであって、実質的な相違点ではない。

したがって、一応の相違点1及び3は、実質的な相違点ではない。

周知文献A:FRAGRANCE JOURNAL,1995年,Vol.23,No.10,p.65?69(平成23年4月12日付け前置報告書の参考文献8)
(A1)「この毛包幹細胞に十分な活性があり細胞数も充分であれば太い健全な次世代毛包が再建されるが,加齢,組織環境の悪化や全身的要因などさまざまな要因により毛包幹細胞の活性低下,細胞減少が起これば,そこに産み出される次世代毛包は小規模なものになり,生産される毛髪も細くならざるを得ない。これが毛包のミニチュア化であり,毳毛への道でもある。」(65頁右欄3?9行)
(A2)「頭皮の組織標本を顕微鏡で観察すると,若年者では長く太い成長期毛包が密に発達しており,その毛球部は皮下脂肪に達し,各毛包は豊かな毛細血管網に包まれている。一方,中高年者で,特に男性の頭頂部では太く長い毛包は減少し,代わって短く細い毛包が出現しており,これが加齢に伴う毛包のミニチュア化で,miniature follicle(以後,ミニ毛包とする)の発生であり,それに伴って毛髪のうぶ毛化(毳毛化)が起こる。ミニ毛包では毛周期の短縮が起こるため,細い短毛が発生する。頭頂部のはげはこのような細短毛が増えた状態であり,組織レベルではミニ毛包が多い状態である。」(68頁右欄2?12行)

周知文献B:フレグランス ジャーナル,1989年,Vol.17,No.5,p.73?79(平成23年4月12日付け前置報告書の参考文献9)
(B1)「このタイプのハゲは病的なハゲ,たとえば円形脱毛症と異なり,皮膚や毛包の病気によるものではない。MPBの初期は,“毛が薄くなる”状態であるが,実際に数えてみると,体表面積あたりの毛の数は同じである。ただ,薄くなるにつれ,毛が細く短くなってうぶ毛化が進んでいく。皮膚生検をとりその組織をみると,一定面積中あたりの毛の数は同じでも,ハゲている部位の毛包は,ミニチュア化しているのがわかる。これらミニチュア毛包は“小さい”という他には,形状学的にもまた,生化学的にも何らの病変も見られないというのが特徴である。」(74頁左欄24?35行)

ウ ところで、本願補正発明の「哺乳動物の毛色素沈着、ならびに毛包及び毛茎の寸法に変化を生じさせる方法」は、既に言及したとおり、「毛色素沈着」、「毛包の寸法」、及び「毛茎の寸法」の少なくとも一つに「変化を生じさせる方法」と解して検討してきたが、本願補正発明は、「毛色素沈着」、「毛包の寸法」、及び「毛茎の寸法」のすべて同時に「変化を生じさせる方法」と解する方が自然であり、既に検討した審判請求人の主張等を考慮しても、すべて同時に変化させる場合を排除しているものではないので、念のため、すべて同時に変化させる方法であると解した場合についても次に検討する。

上記ア、イで述べたとおり、先願明細書等には、ダイズの植物抽出物を局所適用することにより、除毛後2ヶ月後であってもうぶ毛しか生じない程度に生えてくる毛の状態を変化させたことが記載されている。
そして、「うぶ毛」とは、通常の毛より、細く、短く、色の薄い毛であることは自明であり(下記周知文献Cも参照)、うぶ毛しか生じないことは、「毛色素沈着」、「毛包の寸法」、及び「毛茎の寸法」のすべて同時に「変化を生じさせる方法」といえ、上記のとおり、本願補正発明において同時にと解したとしても、一応の相違点1及び相違点3は、実質的な相違点ではない。

周知文献C:南山堂 医学大辞典(豪華版)、1998年1月16日、18版1刷、株式会社南山堂、1157?1158頁、「毳(ぜい)毛」の項目
(C1)「毳(ぜい)毛 ・・・ ((うぶげ)) 細く,短く,色の薄い毛髪の一種である.胎児期の体表面は初め一様に毳毛でおおわれている.胎生後半になると頭髪,眉毛,睫毛(まつげ)などが太い終〔生〕毛terminal hairと置き変わり,出生後はまばらに全身にみられるが,背部,殿部,上腕などには多くみられる.思春期になると腋窩,外陰部なども終生毛に置き変わる.」(1157頁右欄下から2行?1158頁左欄6行)

エ 以上のとおり、一応の相違点1及び相違点3は、実質的な相違点ではない。

(2)一応の相違点2について
ア 先願明細書等には、ダイズの植物抽出物にどのような物質が含まれているかは記載されていないが、発毛抑制剤としての有効成分を含むものである(上記(1a)参照)。
そして、発毛抑制効果を試験した(試験1)及び(試験5)では、いずれも製造例2で得られた各種植物抽出液を用いている(上記(1e)、(1g)参照)。
製造例2には、「イチハツ、オノニス、ダイズ、クズ、ニオイイリス、ヒオウギ、ヒトツバエニジダ、ホップの各植物をそれぞれ100gを50%エタノール溶液に浸漬し、室温にて5昼夜抽出した後、濾過して抽出液(乾燥固形分:約0.05?2.5重量%)を約1.0kg得る。」(上記(1e))のように記載されており、ダイズについては種子を用いることも説明されている(上記(1c)参照)。
つまり、いわゆる大豆を50%エタノール溶液に浸漬し、室温で5昼夜抽出し、ろ過したものを用いている。
さらに、先願明細書等には、そのまま或いは粉砕後、溶媒抽出したものであることや、効力に影響のない範囲で精製処理を加えてもよいことも記載されており(上記(1d)参照)、有効成分を抽出により得て、それを不活性なものとする処理は行わないことも示されているといえる。

イ 一方、本願明細書には、局所活性組成物の具体的な調製方法に関して、実施例2に次のような記載がある。
「【0029】実施例2:豆乳及び豆乳配合物の調製
豆乳を作る一つの方法は、大豆を脱イオン水又は純水に数時間浸けておき、完全に含水した後に小量の水を加えながら大豆をすりつぶす(すりつぶす過程によって豆乳が抽出される)。収集後、豆乳を濾過して一切の残存部分を取り除くことができる。・・・大豆抽出の別の方法は、以下に説明する配合物の活性成分を作り出すことにも利用可能である。例えば、活性成分は大豆のセリンプロテアーゼ阻害活性が保持されるように、また好ましくはタンパク質STIが無障のまま残るように、粉砕した大豆からエタノール/水混合物を用いて抽出し、それに続いて該抽出物からエタノールを取り除く。」
また、豆乳エッセンス配合物を示した表2には、大豆エッセンス34、35として、豆乳のかわりに「エタノール/水混合物を用いた大豆抽出物」を配合した大豆エッセンスが記載されている(段落【0035】参照)。
これらのことから、本願補正発明の局所活性組成物は、エタノール/水混合物を用いて大豆から抽出した成分であってよく、特段の処置は説明されていないことから、このような処理により大豆のセリンプロテアーゼ阻害活性が保持されるような抽出物が得られるものと解される。

ウ そうしてみると、先願発明のダイズの植物抽出物であって、先願明細書等で「(試験1)C3Hマウス発毛促進試験」で毛の再生(発毛)を有意に抑制することや(上記(1e)、(1h)参照)、「(試験5)使用効果試験」で発毛抑制効果(既に検討したとおり、本願補正発明の毛包の寸法に変化を生じさせること等と同じと認める)が確認されている(上記(1g)参照)、前記製造例2の発毛抑制剤としての活性を有する物質を含有するダイズ抽出液には、マメ科植物に由来するプロテアーゼ阻害活性を有する1種類以上の化合物が含まれているものといえる。

エ よって、一応の相違点2は実質的な相違点ではない。

(3)まとめ
したがって、本願補正発明は、先願明細書等に記載された発明と同一であり、しかも、本願補正発明の発明者が上記先願明細書等に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本願補正発明は、特許法第29条の2の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

なお、審判請求人は、平成24年7月20日付けで提出した回答書において、補正案を提示し、補正の機会を希望しているが、次の(I)、(II)の理由で、その要請は受け入れられない。
(I)特許法では、拒絶査定不服審判を請求する場合において、その審判の請求と同時に補正をする機会が定められているところ、既にその補正はされているのであり、それ以上の、補正の機会を与えることは、法律の想定するところではない。
(II)仮に、その補正案を検討しても、(i)「哺乳動物の毛色素沈着および毛包及び毛茎の寸法」の変化を「減少を生じさせる」変化に特定し、「方法」を「美容方法」と特定し、植物を「マメ科植物」に限定したところで、既に検討した先願発明との差異はないし、(ii)「哺乳動物の毛色素沈着の減少が、皮膚のチロシナーゼ及びTRP-1タンパク質の減少によって生じるものである」との特定を付加したところで、既に検討したとおり、うぶ毛は色の薄い毛であるから、毛色素沈着が減少したものであり、毛の色素沈着に最も関連することが知られている作用機序を確認したにすぎず、先願発明との差異が生じるものでもないから、これらを特定する補正があっても、上記先願発明と同一であるとの判断を左右できるものではない。

6 むすび
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成22年12月1日付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成22年7月9日付けの手続補正より補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる(以下、「本願発明」という。)。

「【請求項1】哺乳動物の毛の外観、発毛、毛色素沈着、ならびに毛包及び毛茎の寸法に変化を生じさせる方法であって、
哺乳動物の皮膚に対して、マメ科植物、ナス科植物、イネ科植物、及びウリ科植物の1種類以上に由来するプロテアーゼ阻害活性を有する1種類以上の化合物を含む、有効量の局所活性組成物を局所適用することを含む、方法。」

2 引用出願の記載事項及び引用出願に記載の発明
拒絶査定の理由に引用された引用出願の記載事項及び引用出願に記載の発明は、前記「第2 3 引用出願の記載事項及び引用出願に記載の発明」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記「第2 4 対比」で検討した本願補正発明に、発明を特定するために必要な事項である「哺乳動物の毛色素沈着、ならびに毛包及び毛茎の寸法に変化を生じさせる方法」の変化を生じさせる対象に「毛の外観」及び「発毛」の選択肢を追加したものといえる。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含むものに相当する本願補正発明が、前記「第2 5 判断」に記載したとおり、先願明細書等に記載された発明と同一であり、しかも、本願補正発明の発明者が上記先願明細書等に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、特許法29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、本願発明も同様の理由により特許を受けることができないものである。

また、仮に、本願補正発明について検討したのと同様に、「毛の外観」及び「発毛」も含めてすべての変化を同時に生じさせるものであると解釈しても、先願発明は、発毛を抑制する効果も奏し、うぶ毛となることは毛の外観も変化させるものであって、すべてを同時に変化させるものであるから、本願発明は先願発明と同一であるとの判断を左右し得ない。

第4 むすび
したがって、本願発明は、先願明細書等に記載された発明と同一であり、しかも、本願出願の発明者が上記先願明細書等に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本願発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-05 
結審通知日 2013-02-12 
審決日 2013-02-26 
出願番号 特願2000-227798(P2000-227798)
審決分類 P 1 8・ 161- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川合 理恵  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 ▲高▼岡 裕美
関 美祝
発明の名称 発毛、毛包及び毛茎の寸法、及び毛色素沈着の減少  
代理人 加藤 公延  

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